2003年7月17日

戻るホームイラク目次


156 参議院・外交防衛委員会−(4)

イラク復興支援特別措置法案について
質問者=広野ただし(自由)、大田昌秀(社民)


平成十五年七月十七日(木曜日)

○広野ただし君 国会改革連絡会(自由党・無所属の会)の広野ただしです。
 今回のこのイラク戦争で、国連の役割といいますか、なかなか頼りにならないといいますか、その国連の欠陥ということを非常に大きく言われているわけなんですけれども、しかし、国連は私はなかなか、十分ではないけれども、人道支援等でなかなかのことをやっていると、こういうふうに評価をいたしております。
 実際、この国連の緊急統一アピールというのを今年の三月二十八日に既に出して人道支援等のことを言っております。そしてまた、六月の二十三日、先月ですが、それの改訂版というものを出して、全体的には二千五百億円ぐらいですか、あるいは二千五、六百億円になるかもしれませんが、国連関係機関の人道支援あるいは復興支援についての、経済復興支援についての、あるいは教育ですとか等々についての緊急統一アピールというのを出しているわけです。それに対して、全体的には、今年の四月から十二月まで二億六千万ドル足りないと、大体三百億円ぐらい足りないということであります。この人道支援あるいは経済復興支援、なかなかやはり大変なことで、これに対して日本も大体八千六百万ドルですか、約百億円支援をコミットしているということです。
 これを詳細に見ますと、なかなかいいことをやっていまして、ユニセフ、国連児童基金、あるいはUNDP、あるいはWHO、世界保健機関ですね、あるいはWFP、これが大宗を占めるわけですが、世界食糧計画、ここが十五億ドルですか、ですから、千七、八百億円はここの協力、食糧援助等になるわけですけれども、そういうものをやっているわけですね。
 日本はそれに対して、国連経由で、国連関係機関経由で八千万ドルですか、それとNGO経由、これはジャパン・プラットフォームですとかピースウィンズ・ジャパンですとか医療プロジェクトですとか、そういう等、そういうものに対して協力支援の資金のコミットをしていると、こういうことです。
 そしてまた、ユニセフに対しては、これはイラク初等教育再生計画、私はこれは非常に大切なことだと思っております。総理が言うような米百俵の精神。こういう子供たちが、日本でも敗戦国のときには子供たちが浮浪者となってそこいらに走り回っておったと。そういうものをしっかりと教育をする、学校の修復ですとかあるいは教員の研修ですとか、やるべきこと、教材の支援ですとか、そういうものはもうやるべきことは一杯あるわけで、それは現にユニセフを支援してやっていると。アフガンのときも黒柳徹子さんがユニセフ親善大使として行かれたし、またアグネス・チャンが日本のユニセフ日本大使というような形で頑張っておられるということなんですね。
 こういうイラクへの人道支援あるいは経済復興支援というものでは評価されないというふうに政府はお思いなのかどうか、その点についてまず官房長官に伺います。
○国務大臣(福田康夫君) これからこの法案に基づいて我が国がいろいろ活動をするわけでありますが、その前にも、今現在、我が国はイラクに対してどういうことをすべきかと。法律なくして何ができるのかということはいろんなことを考えておるわけでありまして、そういう中でもう既に、今、委員も御指摘ありましたけれども、活動も含めて資金援助又は物資の援助とかいうようなことをしてきておるわけでございます。そういうことが余計なことだと、要らないんだということではないんじゃないでしょうか。
 私は、私と申しますか、政府としては、ほかにもそういう困った国があって、そして支援をするということは我が国もし、また国際社会もそういうことはしておるわけですね。そういう観点から、我が国として国際的に何らかのお役に立つようなことをするということが、ひいてはその地域の安定とか、それがまた平和につながってくるということであれば、積極的にそういう活動をすべきであるというのは基本的な考え方であります。
 我が国は、やはり世界が安定し、平和でないと我が国の存亡も危うくなるということもあります。ですから、そういう紛争の種、平和安定を乱すような要因というものはこれは一つ一つ丁寧につぶしていかなければいけない。そのためのいろいろな活動が、これはもう本当に山ほど世界じゅうにあるんだろうと思います。
 そういう中において、イラクにおいて非常に緊迫した状況の中で我が国のニーズ、我が国の、何というんですか、その支援を必要としているという、そういうニーズ、それが数多くあるんだろうというふうに思っております。
 このことは、何度も調査団も行っておりますし、そういう調査団、先般の与党調査団でも、ニーズは幾らでもあると、こういう報告をしておりますけれども、私はそれは現実はそういうことだと思います。
 私どもは、政府としてやれることはやっていくと。やれないことをやれと言ったってこれは無理な話ですけれども、やれることはやるんだと、こういう考え方でもってこれからも積極的な関与をすべきであるというふうに考えております。
○広野ただし君 そこで、陸上自衛隊をイラクに派遣をするということではなくて、この人道支援ですとか経済復興支援に限定をしてイラクに協力をすると、そういう考え方はないんですか。
○国務大臣(福田康夫君) 人道復興支援もいいんです。また、イラクで今求められているのは平和と安定を確保しなければいけないという、そういうためにほかの国々もいろいろな活動をしているわけですね。そういうことであるならば、そういう国に対する支援ということもあってもいいのではないかというように考えます。
 人道復興支援は、これは自衛隊だけでない、民間の方もこれもできるわけですね。しかし、自衛隊が活動することによって、その活動する規模もまた違うだろうし、また、困難な仕事も自衛隊だからできるということもあるわけです。そういう経験は、今までPKOで何度も経験をしているわけであります。極めて優秀なる国際平和協力活動をしてきた自衛隊が出ていくということは、正にこういうときではないかというように考えております。
○広野ただし君 先ほどからいろいろと議論がありました。陸上自衛隊を出すために非常にすき間のような、迷路のようなところを法律を作っているというふうにしか見えないんですよね。例えば、戦闘地域の問題がありましたでしょう。非戦闘地域に出しますと、戦闘行為はしないんですと、国の交戦権は発動しないんだ、国際紛争の解決には使わないんだと。正にこれは憲法のあれでやっているわけですが、戦闘行為といっても、やっぱりそれは、いざ現地に行くとどういうことが起こるか分からない、それを全部正当防衛論の範囲でやるんだと、こういうことをおっしゃっているわけですね。そういう誠にすき間を、迷路のようなすき間を縫った法律をここで作るということになっているんですよ。
 ですから、そういうことをやるよりは、本当に人道支援と経済復興支援、そういうものに限ってやることによって日本のイラクに対する協力というものは大いにやれるんではないかと私は思うんです。実際、今、例えば、二億何千万、何億ドルですか、二億何千億ドル足りないと、こう国連はアピールを、緊急アピール出しているわけですね。そういうことについて各国に話をして、どうやってその不足分を補うかというような話ですとか、それはユニセフですとか本当にユネスコですとか、これは文化財の保護ですとかそういうこともあるわけで、そういうことにやるべきことは一杯あるんではないかと、こう思うんです。官房長官、いかがでしょうか。
○国務大臣(福田康夫君) 今、迷路のような仕組みでこの活動をするのではないかというそういう御発言ございましたけれども、これ別に迷路は、もし迷路と言うんであれば、この迷路は今に限ったことじゃないんです。もう国際平和協力活動もそういう仕組みの中でやっているんです。先般のテロ対策特別措置法もそうなんですね。今回もそうなんです。基本的な枠組みはそういう枠組みなんです。迷路じゃなくて、迷路の道を作っているんじゃなくて枠組みを作っているということでございまして、これは幾多の経験を経て、そして今回もそういう枠組みの中で実行は可能であろうという判断をしているわけでございます。
 それから、人道復興支援だけやればいいのではないかという、その方が安全だというお話でございますけれども、これ……
○広野ただし君 安全とは言っていません。
○国務大臣(福田康夫君) ああ、そうですか。
○広野ただし君 それで十分評価できるじゃないかと言っているんです。
○国務大臣(福田康夫君) 人道復興支援もすべて安全というわけではないんだろうというように思います。ですから、今回の法律では安全に十分配慮するということになっておりますから、危険というものと抱き合わせで考えることはないんだろうと思います。万が一ということはありますけれども、万が一のときにはどうするかということも法案できちんと書いてございますし、人道復興支援がすべて安全と、だから何もなしで丸腰で行ってもいいんだと、こういう話ではないんだろうというふうに思っております。
○広野ただし君 例えば、医療協力でも自衛隊の医務官を出すということだってあるわけですね。ですから、何も丸腰で行けとかそういうことを言っているわけではないんで、要するに、イラクに対する協力の仕方は非常に多岐にわたるし、そういう面で今度の政府の案は、まずアメリカからの、英米からの要請にこたえて、まず陸上自衛隊を出すんだと、それがまずあって、そのためにイラク特措法というものを作ると、こういうことになっているんじゃないかと思うんですね。
 イラク国民の立場に立ってこのイラクをどうしたら最も復興するだろうかと、そういう考え方じゃなくて、まず英米に対する協力と、こういうものがあって陸上自衛隊派遣ありと、このことから出ているんではないかと、こう思うんですが、官房長官、いかがですか。
○国務大臣(福田康夫君) そういう取られ方をしたくないんですね、実際そうじゃないんですから。それは、もしそういうようにおっしゃるんだったらば、それは誤解であるというようにまず申し上げておきます。我が国は我が国が存続するために何をなすべきかということなんですよ、要するに。そのことが一番大事なんだろうというふうに思います。
 我が国は経済的にも世界第二位という、そういう立場にございますね。その国が国際社会の中では何も、例えば国際社会が困難に直面したというときに傍観をしているという国であっていいのかどうか。少なくとも、その紛争に飛び込むということはしないけれども、その復興とかそれから人道的なことについてはこれは十分にやっていこうと、そういうことによって国際社会との調和というものを考えていかなければいけないと。これが日本の、我が国の立場であるというふうに思っておりますので、自衛隊まずありき、米英ありきということではないということです。
 ただ、米英は情報もありますし、また今回はイラクにおいて中心的な立場で今活動しているわけですから、情報交換も当然するだろうし、協議もするだろうし、そういうことはあり得ますけれども、それをもって米英のためにと言うのは、これは言い過ぎではないかというように思っております。
○広野ただし君 やはり日本は敗戦の経験があり、敗戦の歴史の教訓を生かして私はやっていくということじゃないかと思うんですね。
 ですから、これは人道支援と経済復興支援、これはもう大変な協力にやっぱりなるんですね。何も陸上自衛隊を出して、アメリカ、イギリス等に協力をして、治安あるいは安全のための協力をしなければならないと、こういうことはないんじゃないかと。十分日本の、例えば極東裁判なんかを取りましても、これは本当に占領軍が正に裁いた、国際法に基づいてやっているんじゃなくて戦勝国が裁いたと、こういうことだって今言われているわけですね。ですから、占領軍に協力をするということになりますと、これはやはりイラク国民から大変な反発を買う。私たちはやはり日本のこの歴史を考えますと、イラク国民の立場に立って協力をしていくということが根本であって、何かまず陸上自衛隊を出して治安のために協力をすると、そうしないと経済第二位の、世界第二の経済大国としてメンツが立たぬとか、そんなことではないと思うんですね。
 十分人道支援と経済復興に協力をすることによって私は日本の国際貢献というのは大いに評価されるんではないかと思いますが、官房長官、いかがですか。
○国務大臣(福田康夫君) 確かに人道支援、復興支援ということで済ますという、それは考え方としてないわけじゃないと思いますよ。しかし、我が国としては我が国の持てる力を十分に発揮するのが我が国としての取るべき道だと、こういうことです。そういう意味においては、国際平和協力活動において十分なる経験を有している自衛隊がこの際活躍するのが一番適していることじゃないかなというように考えているんです。見解の相違ですかね、私どもはそう思っております。
○広野ただし君 見解の相違じゃありません。
 日本のそういう陸上自衛隊を出す場合は、国連の要請を受けて、国連の旗の下に出ていくと。しかも、明確な役割を持たせて、そして国際的なスタンダードの下に、国際標準の装備の下に出ていくということでないと、何かすき間を縫ったような、もう迷路のようなところの任務を陸上自衛隊に与えてやっていくというのは、私はもう本当に心配でたまりませんし、それがまた現実から極めて遊離した議論をやっているんだと思うんですね。
 この日本の戦時中のことを回顧して、「失敗の本質」という本がありますね。日本の参謀本部は具体論から非常に離れて、そしてまず陸海、これがもう縦割りで正に縄張争いをしています。そういう縄張争いの中でもう一つ現実から離れて精神論が先行して、そして何回も何回も失敗を繰り返すというのが日本の戦時中の反省に立った失敗の本質ということでありますけれども、そういうものに全く学ばないで架空の現実から誠に離れた論をもってイラクのところに陸上自衛隊を出す、そして非戦闘地域だからと、こういうような話を、先ほどから伺っていますと、ずっとやっておられるわけですね。
 現実は、非戦闘地域がいつ何どき戦闘地域になるか分かりませんし、実際今のテロもアザー・ザン・ウオーで正に新しい形態の戦争なわけですから、そういうことではなくて、組織的かどうかということを見極めてやるんですよ、ですから国際紛争に当たりませんよと、こういう論法をずっとやっておられるわけですね。持っていくものは軽装備のものであって、ですから武力行使には当たりませんというようなことを言って、現実と全く懸け離れた、現実ではどういうことが起こるか分からないんですよ。そういうことをずっと言っておられるというふうに私は受け止めておりますが、官房長官、どうでしょうか。
○国務大臣(石破茂君) 私の御説明の仕方が悪いのだと思いますが、軽装備だから武力紛争に当たらないということは一度も申し上げておりません。
 それは、武器の使用と武力の行使という定義は、武器がどの程度であるかということと本質的に連関をするものではございません。私の言い方が間違っていたら訂正をさせていただきますが、軽装備なので武力紛争に当たらないという答弁は一度もしたことはございません。
 それから、迷路のようなという御指摘でございますが、これはもう本当に何度も同じ答弁をして恐縮ですが、非戦闘地域でなければいけないという、そういうような法的な担保がきちんと必要であるということを申し上げているだけのことでございまして、それは何も迷路に入っているわけではございません。これは、官房長官からお答えがございましたように、本法に、この法律に特有のものではございません。PKO法におきましてもテロ特措法におきましても、この法律は同じ構成を基本的に持っている部分がございます。
 また、「失敗の本質」の御指摘がございました。それは、確かに戦前は、帝国陸軍は、世界有数のと言うのか最強のと言うのか、ソビエト連邦を仮想敵国としておりましたし、帝国海軍は世界一の海軍国のアメリカを仮想敵国としておったわけで、それと、もちろんソ連は一番最後に参戦をしてくるわけですが、仮想敵国がそもそも陸軍と海軍で違うなぞという、そんなばかなことはあり得ない話でございまして、それでやったわけですからああいう悲惨な結果になるという点も失敗の本質の一つでございます。
 それはもう、陸海空いろんな自衛隊が現実から遊離した議論をしているということはございません。私どもは法治国家でございますから、憲法に従って、憲法に外れないように法律を作り、これでどうやって作戦を展開をするのか、どうやって任務を達成し、どうやって隊員が安全に任務を遂行できるかということは、それぞれの観点からかんかんがくがくの議論をしておるわけでございまして、現実に遊離したことをする、そのようなことは私ども防衛庁、自衛隊におきましてはいたしておらないわけでございます。
○広野ただし君 それは、石破長官は、現実から遊離していないと、こうおっしゃいますが、実際、陸上自衛隊がイラクに入っていって、炎天下の世界で、しかもサソリは出てくる、いろんなところで、いや、実際、ゴラン高原へ私も行きましたけれども、サソリとの戦いなんですよ、実際ね。そういうこともあるわけです。
 ですから、そういう中で、戦闘地域じゃないところへ出します、そして向こう、イラクの例えば攻撃を受けた、そういう場合は組織的なものか組織的じゃないものかを見極めてと、こういうことでしょう。しかも、やる範囲は正当防衛論の範囲なんですね。それを上回って反撃に出ますと、これは武力の行使に当たるわけでしょう。ですから私は迷路だと言っているんで、相手はどういうことをやってくるか分からないのが現実なんですよ。でしょう。ですから、その現実に対応できないんですよ。それは正に、例えばガダルカナル島で全く精神論だけでやっているのと、あの参謀本部と現場とが物すごく違うのと一緒だと私は言っているんですよ。
 ですから、それは本当に、現実から離れた何か法理論の迷路みたいなところに合わせた枠組み、枠組み法だとおっしゃいますけれども、これはPKO法はそういう性格があると思います。周辺事態法もそういうところがあると思います。ところが、このテロ特措法と今回のイラク特措法は正に時限立法でしょう。軸足がしっかりしていないんですよ。だからこそ枠組み法なんというものじゃないんですね。
 だから、私たちは、この間自民党の中からも出ましたけれども、きちっとした基本法に基づいて、私たちからいいますと、国連中心主義なんですから、国連中心主義をきちっと入れた安全保障基本法、私どもは提出しております、これは集団自衛権というものもきちっと明確に入れたものでありますけれども。そういう国連中心主義のものを掲げてやるんならいいですよ。
 ですから、UNの旗の下にやっていくと。日本の旗の下にやりますと、やはり私は国権の発動という点が非常に出てくるんじゃないか。例えば国権の発動たる武力の威嚇、ちゃんとした装備で出ていくと武力の威嚇に取られるおそれがあるわけでしょう、国権の発動たる。そこで、憲法の違反を逃れるために軽装備で出ていくというようなことをやっているとしか思えないんですよ、これは。
 全く、そういうことで無原則な法律であるということをまず申し述べたいと思います。そのことについては特に答弁を求めませんが。──じゃ、まあちょっとどうぞ。
○国務大臣(石破茂君) それは、申し訳ありませんが、答弁要らないという御指摘ですが、お許しください。それは誤解です。それは違います。
 まず、特措法と枠組み法というのは別に関係あるお話ではございません。仮に恒久法にいたしたとしても枠組み法ということはあり得ることでございます。これは、何ができるかというメニューを示しまして、それで実態に何が合っているのかということをチョイスする、それで基本計画というような仕組みになるわけでございますが、何も枠組み法と特別措置法というのはそのままイコールというわけではございません。その点は恐らく誤解ではないかというふうに思っております。
 それから、国権の発動ということなのかどうなのかという御指摘でございますが、これは、そもそも戦争というものは違法なのでございます。もう戦争というのは違法というふうに国連憲章でもそのように定められておることでございまして、国権の発動たる戦争ということにしてはならないというのは、これは当然のことでございます。それは、国権の発動としての戦争というふうな一つのフレーズでこれは読むべきものだというふうに思っております。
 したがいまして、私どもがあれこれあれこれいじりまして、先ほどの装備のお話もそうでございますが、それは国権の発動としての戦争とか武力による威嚇とかそういうことに触れないように軽装備でというようなことは一切考えたことはございません。そういう偽装的な行為でこの法律を作っておるつもりは全くございません。それは、日本国憲法の精神からいたしまして、趣旨からいたしまして、これは自分を守るための、ある意味の自己保存的な権利として、正当防衛、緊急避難、危害許容要件として正当行為として行う。これは日本国憲法の趣旨からしてそれがぎりぎり一杯でございます。
 委員御指摘のように、それでは国連旗の下で、UNとしてやればいいではないかということですが、今回のように一四八三という決議がございますけれども、国連PKOの要件を満たさない場合は、それでは諸外国は、まさしく戦争が、戦闘が終わったばっかりで、暑くて、インフラは破壊をされておって、お医者さんもいなくて、でも秩序を回復しなきゃいけないということで各国が軍隊を送っている。でも、日本はそれには参加しません。
 やっぱり、文民の活動、NGOの活動、喜ばれるような活動というのは、地域的には可能なのかもしれませんが、基本的にはだれかがしんどい目して、つらい目して秩序の回復をしないと、それは実は実を結ばないのではないか。私どもは、憲法の範囲内でそれを法に基づいて行いたい、それを行っている米英軍を可能なことがあれば支援をするということも許されるのではないかと考えております。
○広野ただし君 陸上自衛隊を海外に派遣をするということは、やはり普通の装備で出しますと、これはしかも国連の旗の下でなければ、これは相手国に対する国権の、武力の威嚇というふうに受け止められるおそれがあるわけですよ。ですから、逃れるためにやっているわけでしょう。
 ですから、もう誠にいびつな形で、国際的な標準じゃない装備の下に出して、これは武力の威嚇にもなりません、武力行使にもなりません、非戦闘地域に出すんですと、こういう論法をやっておるわけで、これはもう非現実的なことをやっておることで、昔の参謀本部と同じような間違いを犯すおそれがあるという指摘にとどめて、私も時間がありますから、何回もそこのところをやるわけにはいきません。また別の機会にお話をしていただきたいと思います。
 ところで、この間の別の委員会でも私お話をしたんですが、スリランカでタミールのトラとその仏教徒の戦いがあって、これがある程度収まってきて、スリランカの復興支援会議、これは日本も非常に貢献をして、明石さんも何回もスリランカに入られて、ここのところは私は非常によかったと思っております。
 まして、スリランカは、この間も申し上げましたけれども、ジャヤワルダナさんが日本が敗戦になりましたときに賠償請求権を放棄した最初の国なんですね。ですから、それに対して日本はしっかりと、またある意味で恩返しをすると、こういうことは非常に大切で、スリランカがタミールのトラとの紛争がある程度収まってきて、そのことについてやっていく。これは本当に大切なことだと思うんですね。
 ジャヤワルダナさんの言葉は、憎しみは憎しみによってやまず愛によってやむ、平和は愛によって訪れると、こういう仏陀の言葉を引いて言っておられるわけで、その方が最初の、スリランカ初代大統領になった人なわけですね。ですから、例えば、イラク国民の立場に立てば、私はいろんな協力の仕方があると思うんです。
 そこで、まずイラクに対する日本の債権、これが最大の債権国だと、ロシアに次いでですかね、というふうに言われておりますが、ここのところについてちょっと全体どうなっているか、外務大臣にお伺いします。
○国務大臣(川口順子君) パリ・クラブの債権国の会合というのが、パリ・クラブ会合が七月の十日に行われましたけれども、そのときにプレスリリースがございまして、その中で公表されております債権額は全体で二百十億ドル、そして日本が約、そのうち四十一億ドル、これはパリ・クラブ債権国で最大であるということでございます。
○広野ただし君 大体、全体的に二兆五千億からというところで、日本が五千億円ぐらい債権がある。さらに、延滞金等の金利を入れると八千億円ぐらいになるんだというふうに、現在算定中だとは思いますけれども、そういうことだと思うんですね。
 そういうときに、パリ・クラブというのは確かに横並び的なことがあるんですが、私はイラク国民の立場に立てば、これはやはり復興に対して何らかの債権なり賠償なりというものに対して特別の配慮をしていくと。そういうものを日本が最初に言い出しますと、これは私は日本が昔、敗戦から立ち直るときでもそういうことがあるわけで、大いにイラク国民から感謝される道というのはあるんだと思うんですね。
 ですから、横並び論で債権放棄をしますと、これは各国から言われますからとか、各国の出方を見てやらなければならないとか、こういうことはまず考えないで、本当にイラク国民にとって将来イラクの発展のためにはどうしたらいいんだということを考えてこのパリ・クラブに臨んでいくという考え方が必要なんではないかと思いますが、官房長官と外務大臣の見解を伺います。
○国務大臣(川口順子君) 今、債権の放棄というふうにおっしゃいましたけれども、今の時点でパリ・クラブの会合でもそれが決まったわけではございません。
 この間のパリ・クラブでは、二〇〇四年末まではイラクがパリ・クラブ債権国に支払を再開する状況になるということは期待しないという認識が共有されたというふうになっておりまして、今年の五月にあったG8の財務大臣会合でも同じ認識が持たれたというふうに承知をしています。
 それで、今後の処理、これは広野委員がおっしゃるような考え方もあるかと思いますが、政府として考えていますのは、この債権問題の処理というのは、今後、パリ・クラブの会合等の国際的な枠組みの中で議論をしていくことになるわけでして、その際に、イラクの本格的な政権への展望、債務の全体像、中長期的な経済状況、石油収入の見通し、こういった点を考慮して、返済能力等も踏まえて検討していきたいと、そういうことであります。
○広野ただし君 やはり日本のイラクに対する支援とか、イラクに対する貢献というものは、日本の考え方の下にやるということが大事なことで、今日、同僚議員からも相当そういう話があったと思うんです。
 ですから、各国政府が治安あるいは安全維持のために協力をする、英米からもそういう協力が内々にあるんでしょう、協力依頼があるんでしょう。そういうことから、それにだけくっ付いていくと、もう正に金魚のふんのようにくっ付いていくということではなくて、やはり日本は人道支援と経済復興というものに力を入れて、あるいはユニセフのような教育の点、児童の教育のところに、将来のことを考えて、それこそ小泉総理の米百俵の精神ですよね、それを世界的に持ち込んでやるんだとか、あるいは、日本の敗戦の経験に照らして債権の一部放棄ですとか、そういうことによってイラクに対して協力をするとか、日本独自の貢献の仕方というのは必ずあると思うんですね。
 それを、単なる横並び論でやっていますと、結局だれからも感謝されないと、こういうことになるんではないかと、こう思います。官房長官の見解を伺いまして、終わりたいと思います。
○国務大臣(福田康夫君) 我が国は我が国としてできることをしていくということで、決して他国と横並びではないと思います。
 その我が国の活動が国際社会からも理解され、そしてイラクの支援に本当に役に立つという、そういう、イラク国民が考えてくれるようなそういう支援を今後していくべきだというように考えております。
○広野ただし君 口ではそういうふうにおっしゃっていますが、結局は、この法律は正に迷路のようなすき間を縫った法律を作って、もう危なくてしようがないんですよ。
 そして、これでもってまたどんな事態が起こるか分からない。これは本当に、日本の自衛隊に犠牲が出たり被害が出たり、あるいは誤解の下に、イラク国民に被害を与えたり、イラク国民に犠牲を与えたりと、そういうときの責任は正に政府にあるんだということをお話ししまして、終わりたいと思います。

○大田昌秀君 官房長官、そのほかの政府の皆さん、長時間にわたって大変御苦労さまです。お疲れでしょうが、最後ですから、ひとつ御辛抱いただきたいと思います。
 去る六月三十日付けの新聞記事によりますと、石破防衛庁長官は、
  わが国の人道復興支援活動や安全確保支援活動は「海外において武力の行使は行わない」という憲法の趣旨を制度的に担保するため、非戦闘地域に限定して行われるものである。加えて非戦闘地域の中でも治安が比較的良好な地域を予定しているが、治安が今なお万全ではなく、危険に遭遇する可能性は全く排除されるものではない。武器の携行・使用が一定の要件の下に認められ、他国の部隊やイラクの住民に依存することなく自己完結的に活動できる自衛隊のみが国際社会から与えられた責任を果たすことができるのである。
と述べておられます。
 そして、先ほどの他の委員の質問に対し、長官は、エネルギーの九七%ですか、それを中東地域から入れているので国益上も自衛隊を派遣することが大事だという趣旨のことをおっしゃったわけですが、国内には、自衛隊の派遣がむしろ国益に反することであると、つまりこれまで長年にわたって営々と中東諸国の間で培ってきた日本への信頼感というものが逆に損なわれるおそれがあるという意見もあるわけなんですが、改めて、簡潔でよろしゅうございますけれども、自衛隊の派遣が日本の国益にどう結び付くかということについて御説明いただけたらと思います。
 防衛庁長官、お願いいたします。
○国務大臣(石破茂君) 今、まさしく委員がおっしゃっていただいたとおりなのでございますが、本当に戦闘が終わったばかりで、非常に暑く、水も出ず、電気も来ず、衛生状態も悪く、治安も良くないと。しかし、そこで、例えば水が必要である、電力が必要である、インフラの応急的な整備が必要である、それができる組織は自衛隊しかないと私は思っております。衣食住も自分で賄うことができます。そして、訓練、法律によって与えられる権限、装備によって一般の人であれば回避できない危険も回避できるという自衛隊でございます。
 石油の話をいたしました。それは私からお答えすることではないのかもしれませんが、イラクの安定、中東の安定ということは我が国の国益にこれは死活的に重要なものであると、私はそのように考えておるところでございます。
○大田昌秀君 この質問は通告してありませんで恐縮ですが、大変重要だと思われますのでお許しいただきたいと思います。
 先ほども同僚委員から御紹介がありましたけれども、恐らくすべての国会議員の方々に送られてきたと思いますが、新潟県の加茂市長の小池清彦氏から「イラク特措法案を廃案とすることを求める要望書」というのが私のところにも送られてきておりますが、その中でこういうことが言われております。「イラクは、全土において、前線も後方もありません。イラク全土がいまだ戦場なのであります。 このような地域へ自衛隊を派遣することは、明確な海外派兵であり、明らかに憲法第九条に違反する行為であります。イラク特措法が定めるような海外派兵さえも、憲法第九条の下で許されるとするならば、憲法第九条の下でできないことは、ほとんど何もないということになります。」と。
 さらに、この要請書の末尾の方で、「防衛政策の中核である防衛力整備をおろそかにして、海外派兵のことばかり考えることは、大きな誤りであります。国土が侵略されたとき、現在の自衛隊の防衛力は、独力でどの程度まで祖国を防衛することができるのですか。極めて不十分な防衛力ではありませんか。この程度の防衛努力しかできない国が、イラク派兵に狂奔するなど、「生兵法大怪我のもと」であります。今こそ日本は、海外派兵重視の防衛政策から防衛力整備重視の防衛政策に転換すべき時であります。名刀は鍛えぬいて、されどしっかりと鞘の中に収めておくのが剣の道であり、兵法の極意であります。」。
 これは単なる一市民の言葉ではなくて、以前に防衛庁で教育訓練局長をしていた方の言葉でございますので、軽視したりあるいは無視したりすることはできないと私は考えます。と申しますのは、すぐれて日本の安全保障政策そのものにじかにかかわっているからでありますが、このような見解というのは元防衛庁の官房長官をしておられた竹岡勝美さんも似たような見解を、懸念を示しておられるわけですが、この点について、もしこの説が間違っているとすれば、これまでの防衛庁における教育訓練そのものが問われるわけでございますので、その点についてどうお考えですか。
○国務大臣(石破茂君) この小池さんは、先ほども御答弁申し上げましたが、かつて防衛庁に籍を置かれた方ではありますけれども、今は加茂市の市民によって市長に御就任の方であります。ですから、これはかつてそうであった方がということについてのコメントは差し控えるべきだと思いますし、教育訓練局長をしておられたときもこのような説を展開しておられたのかどうか私は存じません。教育訓練局長をなさっておられたときもこのような考え方、つまり、この方が御退職なられましたのは平成四年のことでございます。平成四年でございますからもう十年以上前のことに相なりますが、そのころどのような説を展開しておられたのか、私詳細には承知をしておりませんので、そのことに対しますコメントはお許しをいただきたいと存じます。
 その上で、これを拝読いたしましたところで思いますのは、この法律そのものが憲法九条に違反をするというような、あたかも違反するというような書き方ですが、何度も御答弁を申し上げておりますように、いかにして憲法九条に合致した法律にするかということで細心の注意を払っておる法律でございます。これは、非戦闘地域という概念もそうでございますし、近傍で戦闘が行われている、若しくは予測される場合の対応もそうでございます。これはもういかにして九条と合致した法律にするかということで作っておりますわけで、これでは憲法九条をないがしろにするものではないかという御指摘は全く当たらないと考えます。
 そして、イラク全体が戦闘地域ではないかということですが、仮にもしそれがイラク全体が戦闘地域であるとするならば、憲法に言うがところの武力行使に当たるとするならば、それはそんなところで自衛隊は活動はできないのです。実際に自衛官たちが行き、そして、シビリアンコントロールの本旨として、総理の御承認の下に防衛庁長官が実施区域を定める。そのときに全土が戦闘地域であるとすれば、そんなところで活動ができるわけはない、その仕組みを担保しておるのがこの法律でございまして、御批判は当たらないものと考えます。
 そしてまた、大田先生が御指摘の一番の最後の、防衛力整備をおろそかにして海外派兵のことばかり考えている、大きな誤りだということですが、この方が御在任中はそんなことがあったのかもしれません。私は存じませんけれども。今、そのようなことは一切いたしておりません。
 それは、独力でどの程度まで祖国防衛できるか。私どもは、確かに国土の防衛のために防衛力整備を行っております。しかし、同時に日米安全保障体制というものも基軸といたしておるわけでございまして、独力でどこまでできるかということも重要でございましょうけれども、例えば北朝鮮に対する打撃力の行使のように、日米安全保障体制をどうやって効果的に運用するか。それによって周辺事態法もあるわけでございまして、このような御指摘には私はやや違和感を覚えざるを得ません。
○大田昌秀君 次に、米英の対イラク戦争に対する我が国の支援の正当性に関連してお伺いいたします。
 既に、先ほど来他の委員からも御指摘がありましたけれども、去る七月九日、ラムズフェルド米国防長官は、米上院軍事委員会の公聴会でイラクの大量破壊兵器について新たな証拠を持っていなかったなどと証言しています。同長官は対イラク攻撃について、米英軍が行動を起こしたのはイラクによる大量破壊兵器開発の追求を示す劇的かつ新たな証拠を見付けたからではなく、同時テロの経験を通して既存の証拠を新たな視点から、新たな観点から見直したのだと開戦の理由を説明したと報じられています。
 この点と関連して、去る七月十一日付の読売新聞は、イラク戦争の実質的終結から二か月以上も経過した現在も米英両軍は大量破壊兵器を発見できていない、このためイラク戦争は差し迫った脅威に対する攻撃だったとする米政権の主張そのものを改めて問題にする声も強まっているとコメントしています。ちなみに、米政府は七月八日、イラクのニジェールからのウラン購入計画も偽情報だったと釈明したばかりです。
 このような米英軍の対イラク戦争は戦争の大義と申しますか、口実と申しますか、それが当初のテロへの先制攻撃から大量破壊兵器の廃棄、フセイン政権の打倒、自由と民主主義の普遍化といった具合に変わってきたように思われます。
 元々、アメリカの良識派の人々の間では、当初から対イラク戦争には何らの大義もないと主張する人たちも少なからずおりました。アメリカ上院のロバート・C・バイド議員は、人口の過半数が十五歳以下の子供たちで占めている国に対して武力攻撃を行うことには何らの大義もないということを主張していたわけでございます。
 そこで、外務大臣にお伺いしますが、政府が米英軍の対イラク攻撃を公然と支持する旨明言されたのは、今挙げました大義名分のうち、特にどの点を根拠にされて支持に踏み切ったのでしょうか。関連して、その判断は今でも間違っていなかったとお考えですか。もしそうだとしたら、その根拠を簡潔に御説明ください。
○国務大臣(川口順子君) まず、二つの御質問のうちの二番目の方、判断は今も間違っていなかったかと考えているかということのお答えの方が簡単ですので、そちらを先にお答えをします。判断は間違っていないというふうに今でも政府としては考えております。
 それで、その理由というのが、最初に、いかなる理由によって武力行使を支援したかというのと同じ理由ですので、それを次に申し上げさせていただきたいというふうに思います。
 まず、これは何回も繰り返していることでありますけれども、イラクには多くの大量破壊兵器に関する疑惑がある。これは、例えばUNSCOM、UNMOVICという査察団が入ってずっと査察を行っておりますけれども、イラクは幾つかの、二十九ございますけれども、疑惑について、自分で持っているという申請をしているわけですね。例を挙げますと、例えば生物化学兵器用の特殊弾頭は七十五発保有をしている。それから、化学剤、マスタード、サリン、タブン、これらについては三千八百六十トン、VXは三・九トン、炭疽菌は八千四百リットル等々ということをイラクは申告をしています。それから、それに加えて、クルドあるいはイランに対して使ったということも事実であるわけです。
 それで、国連の査察団、UNSCOM、UNMOVICがずっと入って、それを廃棄をするのに立ち会ったりしているわけですけれども、それについて、幾つかの点について非常に疑惑が残っているということを言っています。例えば、VX三・九トンということが、生産をしたということはイラクが自己申告をしていますけれども、そのうち一・五トン、イラクは廃棄をしたということを、これは自己申告、検証がないわけですが、しています。イラクの申告に従ったとしても、引き続き二・四トン以上が未確認である。しかも、一・五トンを廃棄をしたという申告については検証はできていないわけです。それから、炭疽菌についていいますと、イラクは八千四百リットル作ったということを自己申告をしているわけです。そして、廃棄を八千四百リットル以上したというふうにイラクは言っていますけれども、これの裏付けがなく、これはUNSCOMの報告によりますと、申告の裏付けがなく、かつ申告量の三倍は生産をしたと考えているということで言っております。そして、UNMOVICは、これは武力行使の直前の段階での話ですけれども、約一万リットルの炭疽菌が廃棄されずに残っていると考えられるということを言っています。これはたくさんあと挙げられますけれども、一部だけ申し上げるとそういうことであります。
 ということで、大量破壊兵器について、いまだ持っているか、あるいは隠匿をしたか、あるいはそれについて査察団が分からないところで廃棄をしたか、どっちにしてもそういうことであるわけで、したがってイラクが全く持っていない、あるいは全部廃棄をしたという状況ではなかったということであります。
 それで、そういった査察への非協力を始めとして、イラクが関連安保理の決議に重大なる違反を継続的に犯していた、これは一四四一によって国際社会が一致して決定をしているわけですね。ここはもう全会一致ですから、疑いの余地なく決定をしているということであります。
 そして、度重なる国際社会のイラクに対する慫慂にもかかわらず、そして一四四一で自分が潔白であるということをイラクは証明をする最後の機会を与えられたわけですが、この機会もイラクは使おうとしなかったということがございまして、また一四四一は、それについて虚偽の報告をしたり、あるいは報告を省略したり、そういうことをした場合にはこれは更なる違反を構成するということも一四四一は決定をしているわけです。
 そういったことの後、イラクに対して武力行使なしには大量破壊兵器の脅威を除去し得ないという状況に至って、この大量破壊兵器の脅威というのは我が国にとっても、国際社会全体にとってもこれは大きな脅威であるわけでして、我が国としては国益に照らして、同盟国である米国等の関連安保理決議に基づく行動を支持したということであります。
 この判断について、引き続き、間違っていなかったというふうに政府としては考えております。
○大田昌秀君 同じく外務大臣にお伺いします。
 ただいま申し上げましたように、米英軍の対イラク戦争の大義それ自体の正当性が疑われているだけでなくて、日本政府が武力行使の正当性の根拠とした国連安保理決議についての解釈にも疑問があります。
 ちなみに、ブッシュ大統領は、イラクへの武力攻撃に先立ち、去る三月十七日の米国民向けの演説で、決議第一四四一によってあたかも武力行使が容認されているかのような発言をされています。しかし、それには疑問があります。
 そこで、お伺いしますが、去る三月二十日、米英軍が安保理決議第六七八、第六八七、第一一四一を根拠にしてイラクに対する武力行使をやったわけでございますが、それらの国連決議のどういう文言が武力攻撃を求めて、認めているか、簡潔に御説明いただきたいと思います。
○国務大臣(川口順子君) おっしゃったように、六七八、六八七、一四四一ということであります。
 六七八というのは、イラクに対して一九九〇年に武力容認行使決議をしたということでございます。イラクに対してその必要な措置を取るということができる。六八七については、これは停戦の決議であります。ちょっと私、今、手元に、どういう文言がという御質問ですが、文言は持っておりませんので、後で総政局長の方から御説明をいたしますけれども、六八七はそういう意味で武力、停戦決議。その一四四一によって、簡単に言ってしまえば、一四四一によって六八七に違反をしているということが決定をされた。そして、その六八七の根拠が崩れたわけですので、六七八、この文言は、あらゆる必要な手段を取る権限を加盟国に対して与えているということでありまして、そこに戻って武力行使が行われたということであります。
○大田昌秀君 あらゆる手段を取るという文言があるとおっしゃるわけですが、武力攻撃を容認するという文言がありますか、具体的に。
○政府参考人(西田恒夫君) お答えをいたします。
 今、大臣からお答えをいたしましたように、一四四一、これはイラクに対して最後の機会を与えたわけでございますが、それから累次の国連の監視団等の報告の結果としましても、イラクが十全な協力をできなかったということが明らかになったということで、元々六八七でもって停戦の条件となっております大量破壊兵器の廃棄等についてのイラク側の約束ができていないということでございますから、六七八でそもそも想定をしておりましたすべての措置を取るということ、これは武力行使を含んでいるという理解でございますが、それが発動されたということでございます。
○大田昌秀君 すべての行動を取るということは、じかに武力行使という文言は使われていないけれども、そのように解釈するという意味でございますか。
○政府参考人(西田恒夫君) お答えをいたします。
 御案内のように、国連憲章は第七章の下におきまして、四十一条、四十二条等々でもって国際社会の平和と安定のために国連が加盟国に対してしかるべき措置を取ると。それには要するに武力行使も含んでいるという仕組みになっているということは御案内のとおりでございますが、遺憾ながら、今の時点においてはいわゆる国連憲章がそのままの形で想定をしておりました国連軍というものはできておりません。
 したがいまして、そのような状況を踏まえまして、これまでの間、国連及びその加盟国は、その間どういう形で平和と安定を守るのかということでるる苦労してまいってきたわけでございますが、そのような蓄積の中で、今申し上げました必要な措置を加盟国に取ることを要請するという形でもって武力行使を含むという国際慣行ができ上がってきたという理解でございます。
○大田昌秀君 国連憲章の第四十一条では、国連憲章等国際法に違反する行為をした国に対する非軍事的措置を定め、その措置でも十分でないと国連安保理が判断した場合は、第四十二条で軍事的措置、つまり武力行使を取ることができると規定しています。
 そこで伺いますが、今回のイラク攻撃に当たって、この第四十二条の措置についての決議はなされたのですか。もし決議がなされていないとすれば、今回のイラク攻撃は国連決議なしの武力行使となり、国連憲章第四十二条違反になるのではありませんか。また、国連憲章第二条四項には、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対しても武力の威嚇又は武力の行使をしてはならないと規定されています。
 国連決議なしの今回の攻撃はこの条項にも違反するのではないかと思われますが、この件について御認識をお伺いします。
○政府参考人(西田恒夫君) お答えをいたします。
 若干重なるところもあろうかと思いますが、先ほど御説明しましたように、この四十一条、四十二条で想定しております、特にいわゆる国連軍というものはできていないという状況でございますが、御指摘のとおり、国連憲章は、そもそも第二条四項におきまして、すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使をいかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも慎まなければならないと規定をしておりますが、他方、御案内のとおり、自衛権の行使に当たる場合、それから安保理の所要の決定がある場合はそれを認めると、例外となっているという組立てになっているところでございます。
 今回の米英を中心とします武力行使につきましては、我が国政府としましては、これは関連安保理決議、それは大臣からお答えをしたとおりでございますが、それに合致をしておりまして、国連憲章第二条四項に反するものではないという立場でございます。
 他方、今御指摘のように、では四十二条と、あるいは四十一条と今回のいわゆる安保理決議との関係はいかがかと御質問であろうかというふうに理解をいたしましたけれども、御指摘のとおり、今回のやつは具体的に四十一条あるいは四十二条によるそういうような当初想定されていた強制措置にはなっておりませんが、他方、国連憲章第七章の下で、国際の平和と安全を維持するために関連の安保理決議に基づき武力行使を含めた形で対処するという形で、それぞれ先ほど申し上げました六七八、六八七、それから一四四一、すべてこの憲章第七章というものをあえて明確に言及する形でその位置付けというものを明確にしているというふうに理解をいたしております。
○大田昌秀君 次に、官房長官にお願いいたします。
 国際法が御専門の東京大学の大沼保昭教授は、現在、イギリスのケンブリッジ大学で客員研究員をなさっておられるようですが、去る七月十三日付け朝日新聞への投稿記事の中で、米英によるイラク攻撃が国際法違反であることについては世界じゅうの専門家の間で広い一致が見られたことであり、イラク攻撃を支持した国の政策担当者にしても、その正当性が法的に説得力のある議論でないことは十分意識していたと思うという趣旨のことを述べておられます。
 周知のとおり、日本では一部に現在のアメリカの強大な軍事的指導力を重視して、あるいは日米安保条約を根拠にして、ひいては北朝鮮の脅威論を唱えて、アメリカに付いていくしかないとか、国益を図る立場からアメリカを支援するほかはないなどと言って、アメリカ主導のバスに乗り遅れるなといった具合に、国際法違反の疑いがあってもアメリカの近代兵器によるイラク攻撃を支持したわけであります。
 マスコミ報道によると、政府は千人ほどの自衛隊をいまだ戦闘が続いている米英軍占領下の危険なイラクへ派遣しようとしているようですが、このような政府の対応については国民の間にも随分と反対する声が強まってきております。
 ちなみに、七月四日にTBSが七万人の視聴者を対象にした調査によると、自衛隊のイラク派遣に賛成する者が二三%、反対が七七%に上っています。また、米英が示したイラク攻撃の理由を信じる者が一五%、信じないという者が八五%に及んでいます。
 この点と関連して、大沼教授は、米軍の軍事的強大さに幻惑され、バスに乗り遅れるなといって半世紀前にナチス・ドイツに付いていったことが日本を破局に導いたのではなかったかと我々の注意を喚起しておられますが、私も同感であります。
 このような考え方について官房長官はどのようにお考えになるのか、御見解をお聞かせください。
○国務大臣(福田康夫君) 今回の一連のことについていろんな論評がありますね。その朝日新聞のこの記事も承知をいたしております。
 しかし、政府は、今回の米英等によるイラクに対する武力行使、これは国際の平和と安全を回復するという、これはもう明確な目的のために、武力行使を認める国連憲章第七章の下で採択された決議六七八、それから六八七、一四四一を含む関連安保理決議に合致して国連憲章にのっとったものだ、こういう考え方をいたしております。
 大量破壊兵器の脅威というものは、これはもう国際社会全体の問題でございまして、我が国を取り巻くアジア地域ともこれは全く無縁な話ではないんです。武力行使なしに大量破壊兵器の脅威を除去し得ないという状況がありましたものですから、我が国としては国益に照らして主体的に判断をして、そして同盟国である米国などの行動を支持したと、こういう経緯がございまして、米国追随であると、こういう御指摘は、これは妥当なものでないというのが私どもの考え方でございます。バスに決して乗り遅れるとかそういったようなことでない、あくまでも国際社会の中で我が国がどうあるべきかということを考えた結果の判断であるということを申し上げたいと思います。
 いずれにしましても、この法案は、安保理決議一四八三を踏まえて国際協調の下で我が国としてイラクの国家再建に貢献をすると、そういうためのものでございます。
○大田昌秀君 今、国内では、戦後日本が平和を、安全と平和を維持することができたのは日米安保条約があるおかげだという説と、いや違うと、平和憲法があったからこそ今日まで平和を維持できたんだという見解が分かれておりますけれども、外務大臣はその二つの見解のうち、どちらを支持なさいますか。
○国務大臣(川口順子君) なぜAかBかという問題提起になるのか、私としてはよく理解をできないところでございまして、両方相まって我が国の今日の状況を作り出したというふうに思います。
○大田昌秀君 去る九日の連合審査のときに、官房長官は、憲法第九条二項で禁止されている交戦権とは相手国の占領、そこにおける占領行政等が含まれるという従来の政府見解は今も変わりはないと答弁なさいました。
 この政府見解と今回の自衛隊のイラク派遣との関連について、官房長官は、我が国はイラクに武力行使していない非交戦国であり、かつ我が国が米英軍の指揮下に入るわけではないから、自衛隊を今回派遣しても、そのことが我が国が交戦権を行使することにはならないとおっしゃいました。
 そこで、改めて確認させていただきたいのは、我が国がイラクに自衛隊を派遣して復興支援や安全確保支援活動をさせる根拠として、国連決議一四八三の内容はいかなるものであったかということであります。
 つまり、この決議は人道復興支援の内容と受け取られがちですが、厳密には国連及び加盟国がイラクへの経済制裁を解除する旨の点が重要視されていると私は考えます。イラクに派遣された自衛隊が、水にしろ燃料にしろ米英軍の後方支援に当たるということになれば、米英占領軍への支援だと当然受け取られますから、そうなりますと、こちらが占領軍とは関係がないと言っても、イラクでゲリラ戦を展開している旧イラク兵士たちからは自衛隊も占領軍同様と見られるおそれがありますけれども、つまり、そうなりますと、非交戦国であった我が国が自衛隊の占領軍支援によって結果的には交戦当事国になるおそれさえあります。
 イラク戦争では停戦協定や和平協定が、先ほど来お話がありましたようにまだ協定されたわけではなく、したがって戦争はまだ終わっているとは言えません。そのようなところへ自衛隊を投入することは非常に危険だと思いますが、その点について、その危険の、防衛庁長官も先ほど来危険なところには派遣しないんだということをおっしゃっていますが、結果的に危険になるおそれというのは多分にあると思いますが、その点どういうふうにお考えでしょうか。
○国務大臣(石破茂君) 先生御指摘のように、憲法九条の、我が国は、「国の交戦権は、これを認めない。」ということになっております。その中に占領行政を含むということになっております。私ども日本の国が占領行政を行うわけではございません。したがいまして、憲法九条に触れるものではないというのが政府の立場でございます。そのような立場に立ちようがないということであります。
 さて、それで、それと危険がどう結び付くのかということでございます。
 これは憲法九条とは離れたお話だというふうに整理をしませんと、これは議論が錯綜いたしますので、便宜分けさせて議論をさせていただきたいと思いますが、アメリカと一緒にやっている、あるいはイギリスと一緒にやっておる、したがってねらわれやすいではないかということが、それは事実としてあるのかないのかということでございます。
 それは私ども、今までアメリカと一緒に活動したこともございません、イギリスと一緒に活動したこともございません。これは憲法論、非戦闘地域でやらなければいけないということとは別個に、どういう形で内閣総理大臣あるいは防衛庁長官の安全配慮義務をきちんと果たすかという問題だと私は思っております。その地域において自衛隊が活動いたしますことが、持っておる権限あるいは武器でもって、一般の方々にとってということではなくて、自衛隊員、自衛官にとっての安全を確保するに足るものであるのかどうか。その場合のいろんな考慮要素の中の一つに、どういう地域でどのような活動をするか、そのときにおいて勘案される事項であると思います。
○大田昌秀君 外務大臣にお伺いします。
 去る七月十三日、イラクではイラク人による統治に向けたイラク統治評議会が設置されました。先ほど他の委員からも御質問がありましたけれども、イラクの現状は依然として米軍の占領下にあって、米軍は評議会の決定を覆すことができる拒否権を要求しているようですが、これは戦後沖縄における高等弁務官制に似ています。高等弁務官はオールマイティーと言われるほど最高の権限を持っておりまして、三権の長を罷免することも勝手にできたわけです。ですから、被占領下の人々が主体性を発揮することなどは到底占領下ではできないと考えます。
 それだけに、統治評議会の前途は極めて多難だと思われますが、政府は統治評議会の役割及び成り行きについてどのような見通しを持っておられますか。また、統治評議会は具体的にどのような権限を持ち得るとお考えなのか、お聞かせください。
○政府参考人(安藤裕康君) イラク統治評議会でございますけれども、まず最後の方に御質問のありました権限でございますけれども、私ども承知しておりますところでは、各省庁の大臣の指名、予算の承認、憲法プロセス発足の支援、あるいは外交使節の長の任命といったような権限があるというふうに承知しておりますけれども、現在、その詳細については確認をしているところでございます。
 それから、CPA、いわゆる連合暫定施政当局との関係でございますけれども、これについてもまだつまびらかではございませんので、同じように確認をしているところでございますので、確たることは申し上げられない段階でございます。
 それから、今後の見通しでございますけれども、このイラク統治評議会の発足を受けましてイラク国内の治安の回復及び復興が一層進展することを期待しておりますし、また、安保理決議一四八三に基づく政治プロセスが早期に推進されることを希望しておりますけれども、いずれにいたしましても、同評議会が具体的にいかなる役割を果たすことになるのか、そういうことについて日本政府としても引き続き情報収集をしていきたいというふうに考えております。
○大田昌秀君 イラク占領を続ける約十五万近い米軍の駐留費用は毎月三十九億ドル、日本円にして約四千六百億円に上り、アフガニスタンの現状の月額七億ドルに比べて五倍に及びます。事前の見通しの倍近くなっていると報道されております。しかも、フランクス前米中央軍司令官によりますと、大規模戦闘は終結したが戦闘自体が終わったわけではないとして、米軍の駐留は今後二年になるか四年になるか分からないと述べて、イラク駐留が長期化する見通しを語っています。そのため、米軍は支援諸国からの派兵規模を拡大したいともくろんでいるようです。日本からの自衛隊の派遣を米軍が歓迎するのもこうした事情が絡んでいるとも報じられています。
 そこで、外務大臣にお伺いしますが、政府は、米軍を支援するため、自衛隊の派遣に加えて米軍のイラク駐留経費も支援するおつもりですか。もしそうだとすれば、財政面でどれくらいの負担を見積もっておられるか、御説明ください。
○国務大臣(川口順子君) 駐留経費を負担することは考えておりません。
○大田昌秀君 官房長官にお伺いしますが、国に準じるものというのは一体どういう、具体的にどういうものですか。
○国務大臣(石破茂君) 例えて言えば、組織性、国際性、継続性等々から考えまして、例えばフセインの政権の再興を企図したバース党の残党が組織的、計画的に継続性を持って行動しているような場合は、国に準ずるものというふうに評価をされることがございます。
○大田昌秀君 本法案では、国連安保理決議第一四八三号を踏まえ、人道復興支援活動及び安全確保支援活動を行うとして自衛隊を派遣することになっていますが、そこで官房長官にお伺いします。
 自衛隊はこれまでPKOとかテロ対策特別措置法によって海外派遣されていますが、本法案によるイラクへの派遣がこれまでの海外派遣と基本的に違う点はどういうことなのか。先ほどもお話が若干ありましたが、改めて分かりやすく御説明いただきたいと思います。
○国務大臣(福田康夫君) これまでの国際平和協力活動との違いと、こういうことになりますね。
 基本的には私は違わないんだろうと思います。それは、この法律に書いてございますように、憲法との関係とかそれから武力の行使の問題とか、そういうことについてほかの法律の考え方と変わっておりません。ですから、その観点からは同じものであるというふうに思います。要するに、憲法の範囲内で我が国として国際平和に貢献するということでございます。趣旨も変わっておらないところでございます。
 PKO法と違うところはあるのかということになりますれば、これは安全確保支援活動、これがPKO法では規定をされていないということでありまして、それが、国連決議一四八三に基づいて、今回この法律ができれば活動するということになるわけでございます。
○大田昌秀君 ありがとうございました。
 終わります。
    ─────────────
○委員長(松村龍二君) この際、委員の異動について御報告いたします。
 本日、山口那津男君が委員を辞任され、その補欠として遠山清彦君が選任されました。
 本日の質疑はこの程度にとどめ、本日はこれにて散会いたします。
   午後五時五十分散会


2003/07/17

戻るホームイラク目次