2002/05/20

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平成十四年五月二十日(月曜日)

瓦委員長 次に、中塚一宏君。
中塚委員 自由党の中塚でございます。
 法案の審議に関連をして、瀋陽市の領事館事件のことについて伺いたいと思います。
 といいますのも、外務省のこの「総領事館の対応に関する問題点」というのを拝見しましたときに、「意識面の問題点」というところで、「緊急事態への対応に関する意識の希薄さがある。」ということを外務省みずからもそういうふうに指摘をしているわけですね。
 先週ですか、官房長官から、武力攻撃事態対処法に言う武力攻撃事態ということについて見解が発表されたわけですけれども、そういった中にも、「ある国が我が国への攻撃のため部隊の充足を高めるべく予備役の招集や軍の要員の禁足、非常呼集を行っているとみられること」というふうなことがありまして、やはり、在外公館というのは、この武力攻撃事態というものを認定するに当たって、非常に重要な目とか、そういった用途というのを持つはずだと思うんですね。
 そういう意味においても、今回の事件、まさにこの有事法制三法案を審議しているときにこういう事件が起こって、そしてあのようなことになってしまったという、非常に残念だし、ああいう事件、事態が起こっているときにこういう法案を審議して、果たしてこれが仮に成立したとしても本当にちゃんとワークするのかなというふうにも思わざるを得ない部分というのがあるわけです。
 そして、外務大臣にお伺いしますが、この領事館への侵入事件、ジュネーブ条約違反ということはもうたびたびおっしゃっておられますが、ウィーン条約違反であるということをおっしゃっていますけれども、主権の侵害ということについての御認識というのはおありでしょうか。
    〔委員長退席、金子(一)委員長代理着席〕
川口国務大臣 ジュネーブ条約とおっしゃったのはウィーン条約のおつもりでおっしゃられたんだと思いますけれども、ウィーン条約でこれは、在外公館、領事機関の不可侵ということが三十一条に決められておりまして、その不可侵権の違反である、そういう認識でございます。
 それで、主権というのが何かということですけれども、これは、例えば領土、領空、領海、それに主権が及んでいるということで考えますと、厳密により詳しく申し上げますと、あの総領事館のあるところ、あそこの主権は中国にあるわけでございまして、その部分について、領事館があってそこが不可侵であるという、日本側が不可侵権を持っている、それを侵されてはいけない、そういうことでございますので、日本の主権が侵されたという認識は持っておりません。
中塚委員 最近の国際法上の学説ではそういうふうな言い方もあるようですけれども、かつては、やはり在外公館といえば主権の及ぶ範囲だというふうに言われていたわけですね。
 そして、その侵入というものを阻止しなかったということについて伺いますが、その領事館前で何か騒ぎが起こっているというふうな認識であったということがこの報告書の中にも書かれています。ただ、そうであったとしても、領事館には領事館の警備員というものがいるわけですよね。ですから、武装警察官が領事館の敷地内に立ち入ったその時点において、やはりそれは退去してくれというふうに言うべきではなかったのか、そして、騒ぎを起こしている人を中に入れて、それは領事館内の警備員なりなんなりが身元を詮議するべきではなかったのかというふうに思うんですが、いかがでしょうか。
川口国務大臣 瀋陽の総領事館には警備員が二名おりました。この二名とも中国人でございますけれども、たまたま、その事件が起こりましたときには、一人は公用で外に行っておりまして、一人しか残っていなかったわけです。後でビデオを見ましたら、その一人は二人の人が中に入っていったのを追いかけていきまして、結果としてゼロになってしまった、そういうことでございました。
 それから、騒ぎを聞きつけて副領事が一人、査証担当の副領事が出てまいりまして、門のところに行きまして、その後は皆様がビデオでごらんのとおりでございますけれども、彼が出ていったときにはもう武装警官も三名の女性も門扉のところまで下がっていて、直ちにその人たちが中に入っていたということには気がつかなかった、そういうことでございました。
中塚委員 次に伺いますけれども、もう事件が起こってかなり日がたっている、もう二週間ぐらいたっているわけなんですが、今、日中間で交渉をされているということなんですけれども、この交渉というものが何をテーマに行われているのか、そして、どうしてここまで交渉に時間がかかっているのか、そのことについて、いかがでしょうか。
川口国務大臣 この件につきましては、国際法上、人道上の問題があるわけでございまして、私ども日本政府といたしましては、この二つの観点から、冷静かつ毅然と中国側と協議をしているという状況に今ございまして、特に人道上の問題を最優先に考えているわけでございます。これは、中国側と今お話をしている最中のことでございますので、その具体的なことについては、まことに恐縮ですけれども、お答えをするのは差し控えさせていただきたいと思います。
中塚委員 交渉というのは、やはりこっちから何かの話をしなきゃいけないわけですね。単に頼んでいるだけだったら、それは交渉でも何でもなくて、お願いをしているということであって、交渉をするということは、例えば、その中には大使の召還であるとかあるいはODAの見直しの問題であるとか、いろいろなことが含まれてしかるべきだし、もう当然だというふうに思うわけです。
 冷静かつ毅然とというふうに言われるわけですけれども、その交渉の中で、そのような条件といいますか、こちら側から何か積極的に主張していることというのはあるんでしょうか。
川口国務大臣 先ほど申しましたように、国際法上の問題、人道上の問題があるわけでございまして、我が国政府としては、人道上の問題を最優先に話し合っておりますけれども、もちろん国際法上の問題も重要でございますので、それも話し合っているわけでございます。
中塚委員 不退転の決意で臨むとかあるいは冷静かつ毅然とという言葉が出るわけですけれども、では、今度は、どういうふうになればこの事態は収束をすることになるんでしょうか。どういうふうな事態になったら、これから日中両国は手を携えてこれから先のことについてもどんどんと友好関係を発展させていこうということになるんでしょうか。
川口国務大臣 中国と日本は友好国であると考えております。日中の友好関係を大局的に損なわないような形で、人道上の問題、国際法上の問題、そういった点をただいま冷静かつ毅然として中国側と協議をいたしておりますので、どういう形になったら日本側はそれでいいのかということについては、これも、恐縮でございますけれども、お答えを差し控えさせていただきたいと思います。
中塚委員 では、必要最低限、どういうふうになればいいというふうに外務大臣はお考えですか。その五人が第三国に対して出国をするとかいうこと、政府の幹部が昨日テレビなんかでも発言をされているわけなんですが、外務大臣としては、どういう形になれば人道上の問題も解決をする、そしてまた国際条約上の問題も解決するというふうにお考えなんでしょうか。
川口国務大臣 これは本会議でも申し上げさせていただきましたけれども、人道上の問題につきましては、何人であっても、いかなる場合でも、みずからが迫害を受けるおそれのある国、地域に送還されてはならないという要請が満たされるということが重要であると考えております。
 先ほど申しましたように、国際法上の問題、人道上の問題について今話し合いをしている最中でございますので、これ以上のことは差し控えさせていただきたいと思います。
中塚委員 それでは、もう一つ伺いますけれども、日本にある某国の大使館で同様の事態が起こった場合、日本の官憲、機動隊というものについては、これはやはり大使館、領事館の中まで侵入することがあり得るというふうにお考えでしょうか。
川口国務大臣 在外公館は不可侵権を持っているわけでございますので、同意を与えられた場合は、その場合にはそういうことがあり得るかと思いますけれども、それがなければ入らないということでございます。それから、ウィーン条約によれば、火事等の場合については同意があったとみなされるというふうな規定もございます。
中塚委員 交渉中ということですから、詳しいお答えはいただけなかったわけですけれども、ここまで時間がかかっているということ自体、本当に冷静は冷静なんでしょう。冷静だから時間がかかっているんだと思いますよ。けれども、本当に毅然とした態度がとれているのかどうかというのは、本当に疑問に思います。
 私は、この問題はやはり二つあるというふうに思いまして、そういう点で、まず第一点目の緊急事態に対する心構えの問題ということですね。広い意味では防衛ということにもつながっていく問題だというふうに思います。
 そしてもう一つは、やはり自由を求めて日本の領事館に駆け込んできた人というのがいたわけですね。日本国憲法には、前文で、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようとしている国際社会において名誉ある地位を占めたいということを書いてあるわけじゃないですか。だから、そういう日本国憲法の前文の精神をも踏みにじる行為であるというふうに言わざるを得ないというふうに思います。一刻も早く、本当に毅然と対応をされているのかどうかわかりませんが、事態を収拾する、とにかく、何といっても原状回復ということが最優先だろうというふうに思います。
 次に、この法律について伺っていきたいというふうに思いますが、武力攻撃事態というふうなことで、どういう事態が武力攻撃事態なのかということについては、多分に政策判断というふうな観点があるんだろうというふうに思います。ただ、政策判断であったとしても、それにはおのずと限度というか類型というものがなければいけないわけであって、同様の趣旨の法案として周辺事態法というのがあるというふうに思うんですね。
 この周辺事態法あるいは武力攻撃事態法、そして昨年はテロ特措法というのが審議をされましたが、おのおの、やはり我が国の安全保障の基本方針というか、その大原則というのを定めないままに議論をしてしまっているので、本当に木に竹を接いだような形になってしまっているというふうに思います。
 政府の解釈では、個別的自衛権は行使するけれども集団的自衛権は行使をしないということになっているわけですね。つまり、自分の国は自分で守るということはもう宣言しているわけですね。それで、それを宣言しているということであるならば、本来はこの武力攻撃事態法というのをもっと早目に整備しなければいけなかったわけなんですよ、この法案かどうかは別にして。
 ただ、これよりも前に周辺事態法というのができてしまっていて、これも本当に、政府の方からすれば、集団的自衛権の行使ではないというふうに言われるのかもしれないけれども、もう集団的自衛権行使ぎりぎりのものだろうというふうに言わざるを得ない部分があるというふうに思います。
 その周辺事態法について伺いますが、周辺事態法では、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」ということを周辺事態というふうに言っているわけですね。ここで、「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える」と言う以上、これはやはり、日本の自衛権あるいは自衛権に関すること、自衛に関する事態であるというふうに考えるのが極めて普通だと思うんですけれども、防衛庁長官、いかがでしょう。
中谷国務大臣 周辺事態の定義の問題でございますが、これは、委員会の質疑の途中でこれが修正になったわけでありますが、この「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等」とは、これは平成十一年の四月二十六日に統一見解が出されておりまして、これは周辺事態を例示的に丁寧に説明したものであり、周辺事態の定義ではないと。周辺事態の定義とは、あくまでも、我が国周辺の地域における我が国の安全と平和に重要な影響を与える事態でありまして、我が国に対する武力攻撃に直接関連づけて定義をされているわけではございません。
 そして、この「そのまま放置すれば」という言葉でありますが、これも、我が国に対する武力攻撃に至るおそれがあるとしておりまして、そのときの状況が直ちに武力攻撃につながると言っているわけではない、そのまま放置すればということで、好転する場合もございます。
 したがいまして、基本的に、周辺事態というのは、努力によって我が国の武力攻撃事態にならないように対処をする、後方支援をするということでございまして、周辺事態が武力攻撃と直接関連していないことは明らかでありまして、武力攻撃の発生を含む自衛権発動の三要件を満たした場合にのみ行使できる自衛権の問題とは言えず、このような御指摘は当たらないものだと考えております。
中塚委員 だっと今御説明があって、武力攻撃事態に至る至らないというお話がありましたが、周辺事態というのは、我が国の平和と安全に関係のある事態であることは間違いないわけですね。我が国の平和と安全に重要な影響を与える事態であって、我が国の周りで起こる事態ということですね。その事態のときに米軍が活動するのを後方地域で支援するということが趣旨だということだと思うんですが、この米軍に対して支援ができる周辺事態というのは、我が国の平和と安全に関係をすることでなくてはいけないわけでしょう。そこはどうなんですか。
中谷国務大臣 我が国の平和と安全に重要な影響を与える事態ということであります。一方の武力攻撃事態というのは、武力攻撃が予測をされるおそれのあるということでありまして、武力攻撃がありそうだということでございますが、この「重要な影響を与えるという事態」につきましては、これは、まだどうなるかわからない、影響を与えるという意味だと私は思っております。
中塚委員 だから、どういう事態を周辺事態と認定するのかというのは、それは政策判断の問題だと思うんですよ。政策判断の問題だと思うんですが、我が国の平和と安全に重要な影響を与えるということが書いてある以上、米軍が自分の関心で行動をしているときというのは含まれないわけですよね。そこはどうなんですか。
中谷国務大臣 あくまで、我が国として、我が国の平和と安全に重要な影響を与える事態であります。
中塚委員 ということになりますと、やはりこれは我が国に関連する問題ですよね。我が国の平和と安全に重要な影響を与えるかもしれない事態なんだから、我が国の自衛とももちろん密接に関係をする事態であるから米軍の活動に対して支援をするんでしょう。違うんですか。
中谷国務大臣 「影響を与える」という言葉のニュアンスでありますが、私は、予測があるというまだ前の段階で、割と今後の推移に応じて事態が変わってくるという意味があるというふうに考えます。
中塚委員 さて、それで、今回の武力攻撃事態法というのは、まさに、「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保」ということが書かれているわけですから、自衛権あるいは自衛ということにかかわる問題ということでよろしいわけですね。いかがなんでしょうか。
中谷国務大臣 武力攻撃事態というのは、まさに、我が国の自衛権にかかわる問題であると認識しております。
中塚委員 武力攻撃事態が自衛権にかかわる問題であって、あと、周辺事態というのは、武力攻撃ではなくても平和と安全にはかかわる事態だということですね。
 ということになりますと、やはり二つの事態というのはかなり重なるところがあるはずなんですね。さっきも申し上げましたが、極東において、米軍が米軍自身の関心によって行動しているときに、日本の平和と安全に関係がない行動を米軍がしているときに、それを後方支援するということはあり得ないわけでしょう。あり得ないわけですね。それで、日米安全保障条約というのは、日本の安全、極東の平和のための条約であるということですね。ということは、米軍自身の関心の行動に自衛隊がつき合わないということは、周辺事態というのはほとんど武力攻撃事態と重なり得るということなんじゃないですか。
中谷国務大臣 それは、米国の政策判断によりまして、この周辺の地域において行動することがあろうかというふうに考えます。しかしながら、それにすべて日本が支援をするというのではなくて、周辺事態というのは我が国の平和と安全に重要な影響を与える事態であると認定をして、その範囲において活動をするわけでございます。
中塚委員 政府は、周辺事態法の米軍への支援の根拠というのは自衛権ではないというふうにお考えになっているわけですね。そもそもテロ特措法にしたって自衛権の問題ではないということですから、周辺事態法についても、これは自衛権の問題ではないということなんでしょうか。それとも、自衛権の問題であって、米軍を支援するのは自衛権の問題だということなんでしょうか。それとも、そうではないというふうな解釈なんでしょうか。
中谷国務大臣 通常、自衛権というのは武力の行使を国として可能にするという権利だと思いますが、この周辺事態安全確保法においても、この二条二項において、周辺事態における「対応措置の実施は、」「武力の行使に当たるものであってはならない。」とされておりまして、自衛権の発動ではございません。
中塚委員 そういう解釈をされているわけですけれども、昨年のテロ特措法のときにも申し上げましたし、この周辺事態法でも同じことだと思うんですが、後方地域支援といっても、やはりこれは自衛権の行使ということになると。ただ、そこで日本の平和と安全ということで限定をすることによって、我々としては、これは個別的自衛権の問題ではないかというふうに考えているわけです。
 当時、連立政権があって、集団的自衛権を行使できないという政府解釈のもとで、やはりこれは個別的自衛権の延長線上の問題として考えないとこういった事態に対して自衛隊が米軍を支援することはできないというふうに考えて、この修正もお願いをしたという経緯があるわけですね。
 そして、今回、武力攻撃事態法が提出されたわけですけれども、おそれということまで含まれるということになっています。このおそれを含むということで防衛出動命令が下令し得るということになっているわけなんですけれども、これは、要は、米軍に依存をしなくても自衛隊だけで対処ができるという法的根拠ができたということではないんですか。どうでしょう。
中谷国務大臣 これは、当然、アメリカと情勢等を話し合いながら実施をいたしますけれども、あくまでも、このおそれのある場合につきましては、我が国として、我が国の防衛の見地で、そのようなおそれのある状況であるというふうに認定をするわけでございますので、基本的に、米軍の事情とか米国政府の事情とは関係なくて、我が国政府として、我が国の防衛の見地から見て判断をする事態でございます。
中塚委員 いや、ですから、今回、法案に、武力攻撃事態ということについて、おそれという概念を盛り込んだわけですね。おそれということを盛り込んだということで、これで防衛出動命令も下令し得るわけですね。
 では、そのおそれとか予測というのは政策判断の問題であるとしても、我が国周辺で何かが起こったときに、その政策判断は別にして、おそれということをもって防衛出動命令が下令できるというふうな法律を今度つくるわけですね。そうですよね。
 そうなりますと、これは、米軍に依存しなくても、自衛隊だけでこういう周辺事態にも対処できるということになっていくんじゃないんですか。つまり、周辺事態というのはほとんどが武力攻撃事態に含まれることになるんじゃないですか。
中谷国務大臣 今の自衛隊法は昭和二十九年にできましたけれども、もともと、その七十六条によりまして、おそれのある事態の場合に出動できることになっておりましたので、この法律と直接関係があるわけではございません。
中塚委員 それでは次に伺いますが、おそれとか予測とかいう事態が含まれているわけですけれども、その段階から米軍と共同行動というのはとれるんですか。
中谷国務大臣 米国と共同対処をするというのは武力攻撃が発生した以降でございますが、その以前の対処につきましては、今後米側と協議をいたしまして、その支援のあり方については整備をしていくということになっております。
中塚委員 おそれあるいは予測という時点での共同行動ということについては、これはいわゆる皆さん方がおっしゃるところの後方支援ということだけなのか、それとももっと突っ込んだ共同行動というものがとれるということなのか、そこはどうなんでしょう。
中谷国務大臣 ガイドラインに基づきますと、我が国に対する武力攻撃のおそれや、予測の事態、おそれの事態といった、我が国に対する武力攻撃が差し迫っている場合には、「日米両国政府は、事態の拡大を抑制するための措置をとるとともに、日本の防衛のために必要な準備を行う。」ということとなります。
 この準備のための措置とは、具体的には、日米両国において情報交換及び政策協議を強化するとともに、日米間の共同の調整メカニズムの運用を早期に開始いたします。日本は、来援基盤を構築し、維持します。また、日米両国政府は、情勢の変化に応じて、情報収集及び警戒監視を強化するとともに、日本に対する武力攻撃に発展し得る行為に対応するための準備を行います。さらに、「日米両国政府は、事態の拡大を抑制するため、外交上のものを含むあらゆる努力を払う。」ということといたしております。
 この予測及びおそれの事態において、我が国に対する武力攻撃はまだ発生をしておりませんので、これに自衛隊及び米軍が武力の行使をもって共同で対処することはあり得ないわけでございます。
中塚委員 官房長官、周辺事態法というのは自衛権の問題ではないというふうにずっと答弁をされてきている。皆さんの言われる後方地域支援しかしないというふうに言ってきたわけですけれども、おそれ自体でも自衛権は行使はできるわけですよね。
 そういう意味で、やはり今までの安全保障の考え方というのが整合性がないというふうに言わざるを得ない、その辺をやはり交通整理するべきではないかというふうに思うんですが、いかがでしょう。
福田国務大臣 おそれの段階で自衛権を発動できるというお話でございますけれども、それはできないんです、おそれの段階では。
 それは、自衛権を発動するのは、自衛権発動のための三要素というのがございますね。あれが満たされないといけないということになっております。
中塚委員 周辺事態法で米軍を後方地域支援するということは書いてあるのに、今度の武力事態対処法では、米軍との支援関係とか共同対処ということについての規定がないわけですね、別に整備をするということになっていますけれども。
 自分の国は自分で守るという点でいけば、本来、この武力攻撃事態対処法案というのは我が国だけのことをしっかりと整備するべきであって、それとは別に、やはり米軍との協力関係というものをきちんとつくっていく必要があるはずだというふうに思うわけです。
 というのも、やはり周辺事態法、武力攻撃事態法というのが、すごくこの事態の区別というのがつきにくいし、わかりにくいし、周辺事態が武力攻撃事態へと発展することもあるというふうにおっしゃいますし、また、周辺事態と武力攻撃事態というものが併存することもあるというふうにおっしゃるわけですけれども、なかなか日本人にもわかりにくいし、そうなると周辺のアジアの国の人たちにもわかりにくいだろうし、ひいては、ひょっとしたら米軍の人だってわからないかもわからないわけですね。それもひとえに、そういう今までの安全保障の基本政策というものが、基本方針というものが打ち立てられていないということが一番大きな問題であるというふうに思います。
 そういった意味において、安全保障の基本方針というものをしっかりと整備することによって、周辺事態法というのはもう武力攻撃事態法の中に吸収をすることができるようになるのじゃないかというふうに思うわけですが、そこは防衛庁長官、いかがでしょうか。
    〔金子(一)委員長代理退席、委員長着席〕
中谷国務大臣 先ほども定義のところでお話ししたとおり、周辺事態というのは、我が国に対する武力攻撃に直接関連づけて定義されているわけではなくて、我が国に対する武力攻撃の発生を含む自衛権の三要件を満たした場合にのみ行使できるとされる自衛権の問題ではございません。
 この周辺事態と武力攻撃事態は、それぞれ別個の法律の判断に基づくものでありまして、周辺事態が起こっているときに同時に我が国に対する武力攻撃が発生した場合には、状況によっては両者の事態が併存することはあり得ると考えられるわけでございますが、周辺事態である場合に必ず武力攻撃事態が起きるわけではないと考えておりますし、両者が併存する場合においても、自衛権の発動としての武力の行使は、あくまで武力攻撃が発生した事態において自衛権発動の三要件を満たした場合にのみ行うことができるものでありまして、周辺事態に対応して我が国が武力を行使することができないというのは当然でございます。
中塚委員 周辺事態において我が国は武力を行使することができないというふうにおっしゃったわけですけれども、後方地域支援というものが自衛権の行使に当たらない、武力行使ではないというふうに言い続けているその解釈自体が、安全保障の方針自体がおかしいんじゃないかということ、そのことを申し上げているわけなんですね。
 それで、私どもとしては、自衛権というのは、個別とか集団とかいうふうに分けるのではなくて、自衛権は自衛権であって、ただそのかわりに、それは抑制的に使うべきであるというふうに考えているわけです。だからそこで、直接攻撃かあるいはそれに至るおそれが高い事態に限ってそういった自衛権を行使するべきであるというふうに考えておりまして、日本が直接攻撃をされた場合とか、あるいはそのおそれが極めて高い場合には、同盟国である米軍と、それはみっちりと共同対処をするべきなんだろうというふうに思うわけですね。そういう考え方について、防衛庁長官はいかがでしょうか。
中谷国務大臣 それでは集団的自衛権になってしまうわけでありまして、我が国の場合には、憲法の解釈で自衛権の発動というのは、急迫不正の侵害がある、またほかに手段がない場合、また必要最小限であるということで自衛権の発動といたしておりまして、個別自衛権でのみ対応するということになっておるわけでございます。
中塚委員 その考え方が、周辺事態法と武力攻撃事態法と、余りにもややこしくし過ぎているんだろうというふうに思うわけです。
 他国を侵略しないのは、それは当たり前の話ですよ。自衛隊が海外に出ていくというのは、私どもは、国連決議があった場合だけに限るべきだというふうに考えているわけですね。それは、自衛権の問題ではない、国連決議によって出ていくんだということで、日本の主権の問題ではなく国連平和活動に参加するんだというふうに考えているわけですね。
 だから、集団的自衛権を認めろというふうに言っても、そのことによって海外へ出ていけとか、戦争に行くんだとか、そういうことを言っているんではなく、個別、集団を分けないで、我が国を防衛するときのためには同盟国である米軍とともにしっかりと協調行動をとるべきではないかということを申し上げているわけです。
 防衛庁長官はまさに自衛官として活動されていたわけですし、私も日米関係は大変重要だというふうに思います。そういった中にあって、やはり戦時に同盟国との間でしっかりとした協力関係というのができない。これは周辺事態法ですとか、これは武力攻撃事態法ですとか、これは予測です、おそれですみたいなことを話し合っている暇だってないと思うんですよ。
 だから、もっとしっかりとした安全保障の基本方針というものを打ち立てておくべきではないのかということ、そのことをお話をしているわけですが、いかがでしょうか。
中谷国務大臣 おっしゃっている趣旨はよくわかります。これも憲法の解釈の問題でありまして、できる点、できない点、いろいろと議論があるわけでございますが、政府の見解といたしましては、従来の国会でお答えした見解でございますが、やはりだれが読んでも、できる点、できない点が整理できるように、また、よりしっかりとしたものになるように、今後さらに憲法に対する議論を深めていくべきだというふうに考えます。
中塚委員 そのややこしい日本政府の考え方の延長線上に、最後に外務大臣に一つ伺いますが、戦時におけるACSAの問題というのがあるというふうに思うわけです。これにしても、やはり日本がこの独特のというかへんてこな自衛権の解釈をとっているがためにややこしい話になるわけですが、戦時ACSAについての御見解というのはいかがでしょうか。
川口国務大臣 米軍の行動の円滑化に関する法制の整備に関しまして、その内容としては、この法律に規定されていますように、米軍が日米安保条約に従って武力攻撃事態を排除するために必要な行動が円滑かつ効果的に行われるために実施する物品、役務、施設等の提供というのがあるわけでございまして、この具体的なあり方につきましては、政府全体の問題として、関係省庁間で協議の上、米側とも協議をしていくことになると考えます。
中塚委員 これから協議していくということはわかるんですけれども、今私が申し上げたような自衛権の問題というのをクリアしないと、この協定というのは改定をしていく過程においてますます話がややこしい、もう木に竹にさらに今度は木を接ぐような結果になるんではないかということを申し上げまして、私の質問を終わります。


2002/05/20

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