2002/05/20

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平成十四年五月二十日(月曜日)

瓦委員長 次に、中野寛成君。
中野(寛)委員 白熱した議論の後に静かに語り始めるのはなかなか難しいのでありますが、あえて冷静に御質問申し上げたいと思います。
 特に私は、一種の感慨を持ってこの有事法制の審議に臨ませていただきました。栗栖統幕議長の問題、先般石破君が触れておられましたけれども、あれが起こりました後、私どもが所属をした民社党としては、有事法制の必要性を、その間、常に唱え続けてまいりました。また同時に、その後、官房長官の御尊父であられる福田首相が、ちょうど二十五年前、一九七七年から有事法制の研究開始を命ぜられました。私も昨年暮れに二十五年の表彰をいただきましたので、ある意味では、その間、いつ有事法制は提起されるのかということを常に要望しながら今日を迎えたわけであります。
 よって、期待が大き過ぎなのかもしれません。せっかく二十五年間研究したその成果をここに今、世に問い国会に問うとするならば、単なるプログラム法ではなくて、きちっと整理されたものが出されてしかるべきではないか。何か、日ごろ勉強をしないで、試験日が迫ってきたので一夜漬けで勉強した受験生のような、そんな印象を受けないでもない。学生時代から私の親友でもあった久間君がここに座っているので、この前から、久間君も絡んでやったとすれば、これはキュウマしのぎか、こんな印象も持ちながら、せっかくの今回の法制というものを期待しておっただけに、この一夜漬けのキュウマしのぎでは何ともやるせない気持ちを実は持っているのが実態であります。
 なぜ今有事法制が必要なのか、こう問われたときに、私は、政府としてはもっと真正面から答えてほしい、こう思います。
 冷戦下において、我が国に対する具体的脅威として旧ソ連が存在をしておりました。米ソ両国の核抑止力の働きなど、一定の秩序のもとで我が国の平和と安全が保たれてきた。しかし、その冷戦終結後は、地域紛争、難民、不法侵入者、環境破壊、大量破壊兵器の拡散などが国家の安全保障上の重大な問題、課題として浮上しております。さらに、同時多発テロに見られるような秩序なき脅威に対しては、みずからの国は自分で守るという厳格な国家及び国民の意思が欠かせないものとなっております。とりわけ、国民の協力、決して参加という意味で申し上げているのではありません、国民の理解と協力、これはまさに欠かせないものであります。
 こうした国際情勢の変化があったにもかかわらず、なぜこれまで有事法制の整備が放置されてきたのかというのは、やはり国会情勢もあったでありましょうし、国民の意識の変化を待つ時間も必要であったかもしれません。しかし、なぜ今といったときに、小泉総理のように、いやいや、今までなかったのが不自然だったんですよという一言で片づけてしまったのでは、なかったのに今まで平和だったじゃないかというそれに対する反論しか戻ってこない。むしろ、そのような国際情勢の変化の中で、冷戦終結後、より一層この有事法制というものが必要になってきたのだ、すなわち今こそ整備すべき時期を迎えたのだという正面切っての前向きの政府の姿勢と答弁というのが必要ではないかというふうに思うのですが、いかがお考えでしょうか。
福田国務大臣 国家の緊急事態に対する対処、これは独立国家として当然の、最も重要な責務でございます。政府としては、昨年の米国の同時多発テロ、また武装不審船事案なども踏まえまして、いかなる事態にもすき間なく対応できるような、安全な国づくりを進めていきたいと考えているところでございます。
 その取り組みの一環として、武力攻撃事態という、国及び国民の安全にとって最も緊急かつ重大な事態が生じた場合における対処を中心に、国全体としての基本的な危機管理体制の整備を図る、そして武力攻撃事態対処関連三法案を提出させていただいた、こういうような経緯でございます。
 平和なときにこそこういうような体制の整備を進めておくことは重要でございまして、その意味で、いわゆる有事法制は国家存立の基本として当然整備されていなければならなかったものでございます。
 では、なぜならなかったのかという御質問もあったように思いますけれども、それはやはり、そういうものの必要性を感じながらしなかったという、そのことではないかと思います。
 では、なぜ今できるか。それはやはり、その必要性を国民の皆さんも多く感じられるようになったし、またそれが、国際情勢から見て、このことを持ち出しても当然のことじゃないかというような国際的な理解、そういうものも深まった結果ではないかというように思っております。ほかにもいろいろ理由はございますけれども、かいつまんで申し上げれば、そういうようなことになるかと思います。
中野(寛)委員 今我々国会で議論をしておりますのは、言うならば、我々が理解をすればいいというのではなくて、この議論を国民の皆さんがお聞きになり、またごらんになり、そしてそうだねと大方の国民の皆さんが理解していただけるように、ある意味ではその一助として議論をしているという意味で、これからもより一層前向きの正面切った説明をしていただきたいというふうに思います。
 さて、きょうは私、質問原稿をそっくりそのまま、先週金曜日の朝、政府サイドにお渡しいたしました。実は、私は立派な有事法制をこの機会につくっていきたい、そういう気持ちでおります。よって、質問の順番は変わるかもしれませんけれども、私の質問の意図は前もっておわかりいただいているのではないかというふうに思うのであります。
 そこで、中谷長官に、きょう私の質問の中で防衛庁長官への質問がほとんどないんですが、むしろ基本的な姿勢をきょうはお伺いしたいと思うんです。
 中谷長官は先月韓国を訪問されました。日韓防衛首脳会談も二十日に行われて、韓国側の理解を得る目的で、有事法制についての説明もされた。その際の韓国側の反応がどういうものであったか。これは一部の報道でしか知らないのですが、そこには、韓国側から、武力攻撃事態対処関連三法案について説明したところ、今までそういうたぐいの有事法制はなかったんですか、それじゃ今まで自衛隊はどうやって行動していたんですかと問われて恥ずかしい思いをしたと、防衛庁長官でしょうか、おっしゃったと報道されているわけであります。自衛権があるのに有事法制がないということで非常に驚かれたとされているわけでありますが、ある意味では当然だと思います。
 韓国にはこういうことわざがあるそうですね。刀を持っている人がいるとき、怖いのはその刀ではなく、その刀を持っている人の心だ。自衛隊が怖いのではなくて、自衛隊を持っている日本の国の意思、これが問われている。そして、その意思を表明するのが、ある意味では憲法や基本法や有事法制なのではないかと思うんです。
 そういう意味で、国連憲章もまた、「平和に対する脅威の防止及び除去と侵略行為その他の平和の破壊の鎮圧とのため有効な集団的措置をとること」、これは一つの武力行使につながりましょう。そして一方では、「平和を破壊するに至る虞のある国際的の紛争又は事態の調整又は解決を平和的手段によつて且つ正義及び国際法の原則に従つて実現すること。」と、こう両様書いてあります。言うならば対話と抑止ということにもなりましょうか。
 すなわち、法の支配、法治国家である限り、そして民主主義国家である限り、自国を防衛する法制は、自衛隊が存在するならば、その自衛隊とともにその法制が存在しなければなりません。そのことをより一層政府としては明確に内外に宣言をされるべき、また声明されるべきだと思いますが、いかがでしょうか。韓国へ行かれたときの感想を含めて、防衛庁長官にお尋ねします。
中谷国務大臣 韓国は、かつて朝鮮戦争がございまして、いわゆる国の存亡の危機を経験した国でもありますし、またイスラエルもそうでありますけれども、そういった危機認識が高い国におきましては、国の第一の仕事が国の防衛、危機管理でありまして、非常に国民の一人一人、また国の政府のそういう意識も極めて高いものだというふうに感じたのが率直なことでございます。
 やはり、国の独立といいますと、国民の権利や財産、生命に対して、国際社会の中で国がそれを保障して、国家の主権として主張をして守っていくかけがえのないものでありまして、国がなくなるということは、国民が難民になったり、非常に悲惨な思いで、みずからの主張ができなくなるわけでありまして、そういう意味で、改めて国家というものは大変大切なものであるということを認識いたしておりますが、これは中野先生御指摘のとおり、政府が認定すればいいものではなくて、やはり国民の皆様方お一人お一人が、自分たちの国は自分たちで守るんだという認識が必要でございます。
 そういう観点でいいますと、有事法制といいますのは国家存立の基本でございまして、自分たちの国は自分たちで守る、また政府としてもその責任を果たしていくということでございますが、これも法律に基づいて行わなければ秩序はできません。
 民主的な諸外国では既にこのような体制が整っておりますので、我が国におきましても法律においてその際の行動を担保するということは極めて重要でございまして、今回この法案を提出いたしましたので、私といたしましては、よく慎重に議論をしていただいた上で速やかに成立をしていただきますようにお願いをする次第でございます。
中野(寛)委員 日本で今日まであった有事法というのは自衛隊法だけだとよく言われますね。その自衛隊法そのものも、実は有事と平時だけあって、緊急事態対処というのが抜けているとよく言われるんですね。
 私は、こういう機会に本当は自衛隊法も、諸外国の例にも倣いながら、しっかりと整った自衛隊法というものを整備するときではないか。いろいろ、国際情勢だけではなくて国内の情勢や国会情勢、国民の意識なども考えて、かなり自衛隊法そのものも積み重ねがあったりパッチワークがあったり変形したりしている。先ほど首藤議員が言われましたが、わかりにくい自衛隊法になっていることも事実なんです。こういう有事法体系をきちっと整備しようとするときに、自衛隊法そのものも一から考え直す、組み立て直すという姿勢が本当は必要だったのではないかというふうに思うのです。
 また、国がなくなるということの意味について付言をされました。国がなくなるという、どういうことでしょう。国破れて山河ありという言葉はあるけれども、これからの戦争で日本という国がなくなるという事態は想定しにくいと思います。
 しかし、もっと広義に解釈いたしますと、これは外務省の問題にもなりますが、今回の瀋陽の事件などは、日本の国がなくなった一つのケースではないかと私は憂慮しております。そういう問題なんだということをしっかりと踏まえなければいけないのだと思います。国の主権が侵された。
 その後いろいろな具体的事例があって、我が党の調査団も行っていろいろやっておりますが、私自身の個人的な気持ちからすれば、中国が何と言おうと、日本の外務省が何と言おうと、そこに平行線をたどるときがあったら、私は外務省の言うことをうそでも信じたいとさえ思います。しかし、信じられるようにしてください。今日までの経緯を見、あのビデオの画面も見て、余りにも情けない。私は、そのことは一言申し上げておきたいと思います。
 さて、総務大臣の時間の御都合を聞いております。そこで、午前中、あと十分しかありませんけれども、その間に、順番を変えまして、総務大臣に関する御質問をいたします。
 これは官房長官と総務大臣にお聞きいたしますが、最も重大で深刻な事態である有事に際して法律の規定がない状態を解消するという意味で、基本的には有事法制は整備すべきであります。この法案は、あらゆる意味で不十分であると私は思います。すなわち、国民の生命財産を守るという意思がほとんど読み取れない。各国における有事法制というのは、戦争の惨禍からどのように国民を守るかがその主題となっており、国民の防護を考えていない有事立法などはどの国にも存在しません。
 有事の際、国民が主体となって相互の連絡や物資の配給、避難、消防などの防護活動を行う非軍事の民間防衛というのは、国民がみずからの生命と財産を守るために、国際法で認められた権利であります。ユニホームに対する扱いと民間人に対する扱いは、国際法規上もおのずからそのために区別されているわけであります。有事法制で民間防衛が規定されないということは、国民が国際法上の保護を受けられないことを意味するわけであります。
 有事法制を考えるときに、真っ先にこの民間防衛、国民をどう守るか、または避難をしてもらうか、これが先に来ない有事法制というのは、目的を抜きにして手段だけ考えている、今回の三法はまさにそうではないかと言わざるを得ないわけであります。
 また、その民間防衛の仕組みをつくることは、実は総務大臣、一番おわかりだろうと思いますが、この前から答弁が一番しっかりしているから私はそう感じるんだけれども、これの組み立ては大変ですぞ。なまじっかなことでは、法体制を整えただけではできない。地方自治体の協力体制をどうつくる、国民がどう参加する、どう訓練するの。大変な問題を抱えています。だから後送りになったのかもしれませんが、しかし、そんなことでは私は困ると思います。
 そしてまた、首相の代執行の件まで書かれています。私はびっくりしましたね、代執行という事態が生まれることはあるのかと。極めて非現実的ではないんでしょうか。すなわち、県の状態を全く知らない、国の出先機関も限られた数しかない、いわゆる手足のない状況で、国がどのような代執行を行うことができるんでしょうか。国民をどう避難させ、どう守ることができるんでしょうか。国民にどう生活の保障ができるのでしょうか。
 そして、私は、この欠陥を含んだままこの法律を通してしまったら、二年後までにと言われている、あとの充足する法体系も変なことになってしまいませんか。あとの法体系まで、ここで法律を決めると縛ってしまうんでしょう。
 そして、県によって拒否する知事が出てきたり、また、やることが県によってばらばらで、あの県へ行ったら安心だ、この県へ行ったら守ってもらえない、こんな区別があっていいんでしょうか。
 また、警察との関係というのは、先ほどからも聞いておりましたが、この前のテロ特措法で懲りたか何か知らぬが、ほとんど全部先送りという状況なんですね。
 こういうことについて一番明快な答弁をなさっている総務大臣に、ひとつぱりっとしたところを見せてもらいたい。二年待ってくれと言わずに、いや、二年待ってもらうけれども、その間にこれとこれはきちっとやるよ、こういう心づもりでいるよ、もうちょっと国民を安心させる答弁ができませんか。
片山国務大臣 今、中野委員からいろいろの御指摘、御教示を受けまして、私も同感するところが多々ありますけれども、基本的には国民保護法制が中心であることは、皆さんの認識が一致していると思いますね。
 ただ、これは、大変広範多岐にわたっていろいろな整理が要ると思いますね。それから、国民の皆さんが、五十年以上も平和な状態が続いていますから、イメージにないんですよね、有事だとか緊急事態が。この辺は意識を高めてもらう、そういう意味で熟してもらうということが、私は、同時に要るんではなかろうかと。
 そういうことのために、本来あった方がいいんですけれども、国民保護法制、二年間の猶予期間というのか、準備期間というのか、熟成期間を私は置いたんだろうと思いますし、国民保護法制がしっかりしないと有事法制は完結ということになりませんから、内閣官房を中心に、我々も協力してしっかりしたものをぜひつくりたい、こう考えております。
 地方団体は、もう釈迦に説法ですけれども、まさに地域の住民の生命、身体、財産を守る、地域の安全を確保するというのが一番大きい仕事ですから、この中では主要な役割を担わなければなりません。私は、その覚悟はそれぞれの首長さんや議会にもあると思いますね。ただしかし、ありますけれども、やはり、いろいろな調整は対策本部でやっても、どうしても間に合わないとか、うまくいかないとかということがあると思いますね。そのときのために、今の指示権だとか代執行の措置がとられているわけでありまして、これはせんだっても申し上げましたが、いわばなかなか抜かない伝家の宝刀ですね。しかし、その担保があることで全体がうまく進むのではなかろうか。
 基本的には、対策本部の総合調整で私は処置すべきだ、指示や代執行という穏やかならざる措置は、本当にどうしてもという場合以外はとるべきでない、こういうふうに考えておりまして、今後とも、内閣の中では、地方団体のサイドに立った、代弁の立場としていろいろなことを申し上げていって、いい個別法制というんでしょうか、国民保護法制をつくってまいりたい、こういうふうに考えております。
中野(寛)委員 よっぽどのことがなければ代執行というのはないと。僕は、よほどのことがあっても代執行なんというのは、それこそ代執行そのものが中途半端ですよ。実効性がないんですよ。むしろ、こういうのはちょっと横に置いておいてくれと、総務大臣、言った方がいいんじゃないですか。それで、地方は地方できちっとやるよ、しかし、国防は国の権限でやるんだから、それに対しては地方はこういう覚悟で協力をするよと。この中途半端な部分をなくしておいた方がいいんじゃないですか。どうですか。あとちょっとだけ時間があるので、総務大臣に最後の質問にしておきますが。
片山国務大臣 こういう緊急事態はやはり、指揮命令系統、意思決定とその伝達は一元的でスピードが速い方がいいと思いますね。そういう意味では、私は、この代執行、指示、代執行の意味は十分あると思いますけれども、できるだけそこに至るまでの総合調整で効果を発揮していくことが、地方分権の時代、地方自治尊重の時代ですから、その方が正しいんじゃなかろうか、両方の考え方は大変あると思いますけれども、真ん中が正しいんじゃなかろうか、こう考えております。
中野(寛)委員 きょうは問題提起だけにしておきます。この問題は本当に真剣に考えなければ、地方分権がこの有事のときに生かされるのか、地方分権というのは成り立つのかということも含め、国民みんなをどう守っていくかという深刻な時点に照らして考えると、この代執行の問題一つにしたって、よほど真剣に考えておく必要があるのではないかというふうに思っております。
 あと一分午前中の時間がありますが、中途半端ですので、午後また気分を変えて質問し直します。
瓦委員長 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。
    午前十一時五十九分休憩
     ――――◇―――――
    午後一時三分開議
瓦委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質疑を続行いたします。中野寛成君。
中野(寛)委員 午前に続き質問させていただきます。
 安全保障政策の基本は、言うまでもなく対話と抑止ということだと思います。対話なくして抑止だけでは国は守れませんし、また、抑止力なくして対話だけでは国は守れないと思うのであります。
 そういう意味で、この有事法制を整備するということは、有事という国の非常事態に際して、すきのない防衛体制を保持していることを内外に示す、そして、他国からの侵略の意図をくじくところにあるわけであります。すなわち、自衛隊という力を有していながら、その力を有効に行使できないということは、力の空白地帯をつくるも同然であると思うからであります。有事法制があってこそ自衛隊の円滑な活動が担保され、抑止の効果を発揮されることになりましょう。
 こうした意味で、有事法制は戦争抑止法と言っても過言ではないだろうと思います。すきをつくらないということが大切であります。
 このことについての考え方をお聞きするときに、あわせて、私は、昨今の情勢の中で一つの例として挙げられるのが、瀋陽総領事館の問題だと言わざるを得ません。まさに、あのビデオを見る限り、中国の日本国の主権を侵害している主権侵害は明々白々であります。
 一方、日本側もすきだらけであります。そして、後の対応の仕方も、また、そのミスを糊塗することにきゅうきゅうとして、大変情けない思いがいたします。
 また一方、我が民主党の調査団の調査、その調査結果に基づく幾つかの事実を明らかにしたことに対して、それを総理は自虐趣味的と言い、そしてまた官房長官は中国側の拡声器の役割を果たしているのではないか、こういう言い方を新聞紙上等では見るわけであります。もしそれが事実だとしたら、何と情けない感情論かと思うのであります。
 まず、すきをつくらないこと、そのことが何よりも大切であります。我々は、あくまでも日本国の主権を守る側であります。野党といえども与党といえども、それは同じ立場であります。そして同時に、あの今回のケースでいうと、五人の皆さんの人権をしっかりと守らなければいけないということだと思うのであります。
 私は、そういう意味で、私ども民主党の調査団の行為も決して、日本側の欠陥をあげつらうために、または中国の拡声器となろうとするために行ったわけではない。日本側のそのすきとなっている、不備となっているところ、そして国際的な信用を失わないようにするためにいかにあるべきかということを前向き、建設的に提起する、そういう気持ちで調査もし、提言もしているところであります。
 そういう意味で、政府の皆さんの最近の総理を初めとする民主党に対する軽率な発言は、私は、大変次元が低くて情けない、そういう気持ちでこの国が守れるか、そういう気持ちでいっぱいであります。官房長官の御所見をお聞きしたいと思います。
福田国務大臣 今回、瀋陽であのようなことが起こりました。あのこと自身については、テレビで全世界に報道されたというようなことで、人道上の見地からの問題もございました。しかし、あのビデオで見る限りは、いろいろな問題もあるということが判明いたした次第でございまして、私は、ああいうときに、まさにあの事態というのは危機管理の一つだというように思いますので、その辺に対する日ごろの配慮、また訓練、心構え、いろいろなことが欠けていたかもしれない、このことは政府としても大いに反省をしなければいけない、そういうようにも思っております。
 この事実関係については、今、中国とも交渉と申しますか、話し合いを続け、事実の解明ということを続けているわけでございます。
 そういうさなかで民主党の皆さんが現地に赴かれたということは、大変お忙しいところにもかかわらずわざわざ行かれて、真実を究明しようというその姿勢について、私は、大変高く評価をしなければいけない、すべきものだというように考えております。
 そういうことで、これからこの事実の解明ということ、それともう一つは人道上の問題の解決、このことに鋭意努力をしなければいけない。また、中国と何らかの妥協点を、妥協と申しますか、その人道上の解決についての妥協を図らなければいけないというように考えております。
 いずれにしても、我が国は我が国としての立場というものがありますから、この我が国の立場というものはしっかりと主張し続けなければいけない問題だと考えております。今回のことにつきましては多くの反省がありますので、今後、このようなことが発生しないようないろいろな工夫、そして対応の仕方等々について検討してまいりたいというように思っております。
中野(寛)委員 民主党の調査団のことにつきましても、官房長官として評価をする旨の御発言がありました。一応、私の質問の中ではここにとどめておきたいと思います。
 同時に、防衛庁長官への質問が少な過ぎるので、ひとつ防衛庁長官に、私、先ほど、有事法制は戦争抑止法である、そういう精神で臨まなければいけないということを申し上げました。防衛庁長官の心構えをお聞きしたいと思います。
 それから、先ほど私は、こういう機会にこそ自衛隊法、例えば有事と、そして百条でしたか、その他の雑則の中に何か災害対策などいろいろと平時の対策を書き並べておりますけれども、本当は緊急事態の状況も含めて自衛隊法をきちっと一から整理し直すという気持ちが防衛庁から出てきてもいいのではないかとさえ思うのですが、そのことについても、せっかくの機会ですからお聞かせいただければと思います。
中谷国務大臣 国の緊急事態に対する備えというものは、独立国家として当然なされなければならない最も重要な責務でありまして、政府といたしましても、いかなる事態においてもすき間なく対応できる安全な国づくりを進めていくということは当然のことでございます。
 こういった武力攻撃事態というのは、国家の存亡にかかわる事態でありまして、極限の、最大級の国家の危機であります。それに対する備えをするということは、いわゆる基本の構えでありまして、例えば書道においても楷書が基本の構え、また剣道においてもその基本の構えがありますが、これをしっかりしておくといろいろな応用的な事態に対処できるわけでありまして、まさにこの事態をきちんと整備をしておくということが肝要であるというふうに思います。そして、その備えをしていくということが抑止になるわけでありまして、そういうしっかりとした国なら侵略することもなかなか難しいということで、相手国に対する抑止的な意味も当然のことながらあると思います。
 また、自衛隊法の問題につきましては、自衛隊法ができましたのが昭和二十九年でございます。ほぼ半世紀を経まして、世の中の事態、また自衛隊に対する国民の認識、役割、変化している面もございます。防衛庁といたしましては、現在、在り方検討会議を部内で設けまして、新しい時代に備えた国の防衛のあり方、また自衛隊の役割等を検討いたしておりまして、この事態において自衛隊がどうあるべきかという点につきましては、この際、検討をする必要もございますし、各界の幅広い御意見を得まして、国の危機管理の一環として自衛隊のあり方等を検討してまいりたいというふうに思っております。
中野(寛)委員 さて、次に進みますが、この瀋陽の問題でも、いざ何かが起こったときのマニュアルというのはあるんだろうと思うんですね。マニュアルが言うなら有事法制なんですね。そして、それに基づいてやはりしっかりとした心構えを持ち、訓練をしておかなければいけない。一事が万事と言いますが、日本の国の全体の姿があの瀋陽にあらわれたと私は思っておりまして、中国の主権侵害の問題とは別に、我が国側の反省点としてしっかり踏まえて、今後の対策を講じていただきたいと思っております。
 さて、次に、また基本的な問題をお聞きしたいと思います。
 今、自衛隊法について触れましたが、日本の安全保障に関する法的枠組みというのは、自衛隊法、国連平和維持活動協力法、いわゆるPKO法、そして周辺事態法、テロ対策特措法と、個々の事態に対応して法律が制定されてまいりました。このように新法を積み重ねる方法では、法体系の変化に従って自衛隊における指揮系統も任務も変わってくる、武器の使用規定まで変わってしまい、我が国を防衛する自衛隊の活動が混乱するばかりではないかと心配するのであります。いや、もうそこはきちっと整理して防衛庁長官は考えていますよ、頭の中では整理されていますよと言うかもしれませんが、国民みんなでこれを理解していくことが必要なのであります。そういう意味では、何か古い温泉旅館が増築を重ねて迷路だらけの廊下をつくったような、そんな印象さえ思い起こすのであります。
 本来であれば、有事の対応は総括して憲法に定めるべきものでありますが、他の国から見ても、フランス、ドイツ、韓国、フィリピンなど、合理的な有事法制を整備していると思います。いずれの国も、憲法に大統領または国家元首の非常事態権限が明記されており、その権限の行使について、現実として起こり得る事態に即して、個別の法律の中で具体的に規定をいたしております。
 我が国も、憲法上にこのような規定を設け、総理大臣が安全保障に関する最終的な責任を負えるようにすることが理想的な形でありますけれども、しかし、現実、現在の日本では、まだ憲法の改正は非常に困難であります。そこで、憲法と既存法の溝を埋める、安全保障基本法ともいうべきものを制定することが現実的であろうと思います。そして、その基本法の中で、総理大臣が安全保障について最高の責任と権限を有することを明記する、緊急事態に際して、総理、閣僚、地方公共団体の責任と権限、国民の権利と義務を明確化し、日米協力、国連協力のあり方を規定すべきであろうと思うのであります。
 ところが、今回は、理念や基本方針と最低限の枠組みだけを示して、関係法令の制定は先送りされております。しかも、先ほど申し上げた民間防衛のように、国民がまず、自分たちはどうなるの、どうしてくれるのという、そのことに対する答えさえも先送りしてしまっているわけであります。いわゆるプログラム法となっておりますが、テロ、不審船対策等を含めて、あらゆる事態に対応できる包括的な基本法とならずに、プログラム法としてしか提出できなかった理由について、官房長官のお答えをいただきたいと思います。
福田国務大臣 ただいま委員からも御指摘ありましたとおり、この武力攻撃事態対処法案は、我が国に対する武力攻撃が発生した場合の対処に係る基本理念、国、地方公共団体等の責務、対処の際の基本方針の策定、対策本部の設置などを定めることによりまして、国全体としての基本的な危機管理体制の整備を図るものでございます。したがいまして、この法案は単なるプログラム法ということではないというように考えております。
 また、法案では、国民の保護のための法制などの今後整備すべき法制の検討内容等を明示しております。これらの整備に当たりましては、関係機関の意見や国民的な議論の動向を踏まえながら、十分な国民の理解を得られるような仕組みをつくる必要があると考えておりまして、法案では、法制整備の目標期間を二年以内として定めてございます。この期間内に法案の取りまとめに全力で取り組んでまいりたいというように考えております。
中野(寛)委員 これから二年かかってどういうのができるのかわかりませんけれども、何か今回のものは基本的な枠組みですから、そして、これとこれはと例示をしながら、二年以内にとなっているわけですね。しかし、肝心かなめのが抜けている。骨格しかないというか、何か骨組み、骸骨みたいなものですな。これから二年間かけてその骸骨に肉づけしていくんでしょう。間違えると、その骨がゆがんでいますと、これは肉づけしたら神経痛を起こしますな。そしてまた、肉づけの仕方によっては私みたいな醜い肥満体が生まれるかもしれませんね。そこで余り笑ってはいけない。また一方、栄養失調の法案になっても、これは実効が上がらぬということになるわけですね。
 そういう意味で、私は改めて申し上げますが、この有事法制が、その将来像を明確にしておくということが極めて重要ですし、特に国民の生命と財産の保護、権利義務、これにかかわる部分については、具体的な内容を盛り込んだ上で国民の判断を仰ぐということでなければ、なかなか国民には理解しがたいということになるんではないんでしょうか。全体像を示すということは極めて重要だと思います。
 先ほどは、午前中には総務大臣にも民間防衛のことについてお聞きをいたしました。いわゆる民間防衛といいますと、民間人が協力をしていかに防衛をなすか、こういうふうにさえ錯覚されることもあるのであります。
 民間人をどう守るか、いかに的確に避難をしてもらうか、国民をいかにして巻き込まないようにするか。それがなければ、その戦場となったところが、あの阪神・淡路大震災の悪夢を思い起こすのですが、あのようになってしまう。最悪の場合は、場合によっては、あの第二次世界大戦最後の沖縄の状況というものを思い起こす。そして、結果として自衛隊は、または国は、国民を守ってくれない、自分たちのために国民を犠牲にするという気持ちにならざるを得ないわけであります。
 その国民感情、正直な素直な国民の気持ちをしっかりと踏まえた手続、手順というものが必要だと思うのでありますが、改めてその御所見をお聞きしたいと思います。
福田国務大臣 まさに国民の生命財産を守る、こういうことは極めて大事なことであり、この法案の大きな部分でございます。有事体制における自衛隊の活動というものも当然ございますけれども、それとあわせて、国民、民間防衛と申しますか、民間をいかにして守るかということは、この法案の中で強くうたっておるところでございます。
 ちょっと説明させていただきますけれども、国民の保護のための法制は、武力攻撃事態から国民の生命、身体及び財産を保護し、武力攻撃が国民生活及び国民経済に与える影響を最小限とするため、国、都道府県及び市町村の具体的な役割分担、指定公共機関の役割、対処措置の実施を推進するための体制等について定めることとなると考えております。
 国民の保護のための具体的な措置につきましては、まず、避難に関する措置として、警報の発令、避難の指示、避難の誘導、避難地の確保等について定めていくこととなると考えております。また、被害を最小にするための措置として、交通手段や重要通信の確保、生活関連重要施設の安全確保、消火、傷病者の緊急搬送及び医療、衛生状態の保持、生活必需物資の確保、仮設住宅の設置、ライフラインの応急復旧等のさまざまな措置について規定するとともに、死傷者の取り扱い等、国際人道法の的確な実施のための措置について定めていくこととなると考えております。さらに、被害の復旧に関する措置としては、学校、病院等の生活関連施設の復旧、道路、橋梁、港湾、鉄道等の復旧等につきまして必要な措置を定めるとともに、財政上の措置について定めることとなると考えております。
 第二次大戦もそうでありましたけれども、その後の大きな戦争において民間人が戦争に巻き込まれて被害者になる、こういうウエートがますます大きくなってくるということは考えられます。そういう意味から考えても、この民間防衛ということはきちんと整備しなければいけない。そして、その細則についてはこれからの法体系の中で整備をしていこう、こういうように考えております。また、これは国民との関連において、国民の理解を得なければいけない、そういう意味においては、国民との議論ということも必要だろうというように考えておりまして、その仕組み等も考えていきたいと考えておるところでございます。
中野(寛)委員 今、官房長官が、現在出されております法案の一部をお読みになりました。そして、それだけきちっと意識しているよということを御説明になったと思います。
 しかし、その具体的な内容、法案、そういうものがどこまで、どれだけ整備されていくか、国民はむしろ先にそれを見定めたい、そういう気持ちを強く持っていると思うのであります。そういう視点から、私どもは、今回のこの法案がやはり少々、少々ではない、大変拙速だったなというふうに実は残念に思っているわけであります。
 そこで、その防衛の仕方、また国民をいかに守るかということについての形であります。現象でありますが、二十一世紀の脅威というのは随分と変わってきたと思います。
 冷戦構造時代、ソビエトを仮想敵国として、そう明示はしませんでしたが、そういう気持ちでいろいろなことを想定されてきた。しかし、それは明らかに、その戦争の方法も変わっておりますし、内容も変わっている、国際情勢も変わっております。すなわち、冷戦後は、通常戦争の比重が減って、弾道ミサイルとミサイル防衛に象徴される高度科学戦と、テロ事件、すなわちゲリラであるとかサイバーテロであるとか、非対称な手段を使った戦いの両極端に分化していくと考えられます。
 特に、今後多発すると思われますテロ等の非対称戦は、宣戦の布告もない、何が兵器として使われるかもわからない、日常生活の場がある日突然戦場となる、前線と後方地域の区別もない、だれが何の目的で攻撃するかもわからないというような特性を持っており、抑止をすることは大変に難しいと考えなければいけません。
 このように、新しい形の戦争を封じ込める方策というものがまだ何ら見えてこない。有事法制整備の中心課題として、本来これが取り上げられておかなければいけないのではないか。先般、武力攻撃事態についてということで、その概念が説明をされました。何かこの概念も、旧態依然とした戦争の形態を考えておられるのかなとしか思えない。
 例えば、先般、九・一一テロ、あの場合に、武力攻撃の予測はされておったのではありませんか。しかし、それがいつどういう形で行われるかというおそれが具体的にわからなかったということなのではありませんか。
 言うならば、相手国がミサイルに燃料を注入したとかしないとか、それが具体論として、一つの例として挙げられておりますけれども、もっと手前で、九・一一のあのニューヨークのテロだって、あれは、国際常識的にいえば、ああいう何かが起こるという予測はあった、しかし具体的なことがおそれとしてわからなかったということなのではないのかというふうに私は思うのであります。まして、この武力攻撃のおそれとか予測をだれが調査し、判断し、認定するんでしょうか。
 先般テレビを見ておりましたら、防衛庁長官が、来年には偵察衛星も打ち上げるのでとおっしゃっていましたが、それだけで足りますかね。ある意味では、日本独自の情報機関を持たなければ、それに対するおそれだとか予測というのはわからないのではないんですか。これはアメリカに頼むんですか。もしかしたら、我々は知らないけれども、日本にはそれだけ整備された情報機関がもう既にあるんですか。その予定があるんですか。
 その新しい二十一世紀の脅威を踏まえた対応の仕方についてお尋ねをしたいと思います。
    〔委員長退席、金子(一)委員長代理着席〕
福田国務大臣 我が国として、外交ルートその他、軍事的なこともそうでしょうけれども、あらゆるルートの情報を収集するということに努めておるわけでございます。
 もちろん、国際情勢がさらに緊迫するような状況になれば、それに応じてさらにということもあろうかと思いますけれども、十分かと言われれば、決して、十分というように言い切る自信はございません。ございませんけれども、そういう、十分にと言えるようにこれから努力をしていかなければいけない部分は多いかと思います。それは今後の努力目標、目標というように考えていかなければいけないことと考えております。
 また、そういう機関を設置するかどうかという御質問もございましたけれども、今、この緊急事態対処という意味におきましては、事態対処委員会というものを安全保障会議の中に下部機構としてつくって、これはそういう事態の分析、情報収集、分析等を常時行う、こういうことで今回この法案も提出させていただいたということでございまして、そういうことを通して万全な体制を、また国民から安心し、そして信頼できるような体制の構築に向けて今後努力をしてまいらなければいけないと思っております。
中野(寛)委員 具体的に、または極めて抽象的な御答弁なのでそれを何と評価していいのかわかりませんけれども、しかしながら、有事法制とはそれほど多岐にわたり大変難しい、しかしないわけにはいかぬというもの。同時に、これはある意味ではもろ刃のやいばでもあるわけですから、国民の皆さんが十分納得できる説明がつかないといけないということをぜひ心がけていただきたいと思います。
 質問、次に行きます。
 さて、外務大臣にお尋ねをしたいと思いますが、この有事法制というのはいざというときのことですが、やはりいろいろな国際環境を私たちは見てみなければいけないと思います。そこで、国際環境として一つ、まず中国の動きについてお尋ねをしたいと思います。
 多国間安全保障も含む地域的な国際地域協力に積極的な姿勢を中国は示しております。WTO加盟を契機に国際社会への経済面での本格的参入を図ることにより、中国を戦略的競争者と表現した米国に対しては挑発的アプローチを避け、協調関係を維持しようとする意図が見受けられます。しかし、経済発展に伴い経済成長率を上回って増強を続けている中国の軍事力増強を見逃してはなりません。
 中国は、米国のハイテク戦争に対抗し得る装備の開発、配置を目指しており、新型ミサイルの開発、配備を急いでいるようであります。
 中国の二〇〇二年度予算における国防費は、前年度比一七・六%増の約千六百八十億元、約二兆六千四百億円となっております。十四年連続で一〇%以上の増加。中国の国防費は総額が発表されるだけで、その内容は明らかにされておりませんが、軍事目的に実際に支出された額の一部にすぎないとも見られております。兵器の購入、開発費は全く別の予算から支出されているとの見方もあります。中国の国防予算の総額は、実際には発表されている数字の三倍程度と推測をされ、我が国の国防費を超えていることは確実だとも見られております。まして、日中間の人件費の比率は十対一とも言われているわけでありまして、同じ金額でもその人件費の効果というものは十対一の意味を持つわけであります。
 このような中国の国防費の増大と軍事力強化は、台湾海峡情勢、東南アジアの安全保障に対する重大な脅威となり得ると考えられます。また、今後の西部大開発の成否によっては、国民の不満、関心を外に向けるという政策も予測されないわけではありません。そのときに日本がどのような状況に置かれるか。私は、実際に中国が日本に対して侵略してくるとは思っておりませんが、しかしながら、国内をまとめたり、外交の道具としていろいろな方法をとるであろうことは予測にかたくありません。
 これらのことを考えて、外務省としてはどのように考えられているか、お聞かせをいただきたいと思います。
川口国務大臣 中国の軍事予算につきまして、数字は今委員がおっしゃられたようなことだと思いますけれども、このほかに、委員も示唆なさっていらっしゃいますように、中国の軍事関係予算には発表された国防予算以外の不透明な部分もあるわけでございまして、我が国といたしましては、近年の国防予算の伸び率自体が高水準で推移をしている、一〇%を超えていること及び海空両軍を中心にしまして装備が質的に向上している、近代化が進められているということに注目をいたしております。
 いずれにいたしましても、我が国といたしましては、国防予算を含めました中国の国防政策について透明性を向上させること、軍事力強化に対しての周辺国あるいは地域の反応への配慮を促すということでございまして、従来から、多国間、二国間の場で働きかけているところでございまして、今後ともそうした働きかけを続けていきたいと思います。
中野(寛)委員 中国に対する弱腰外交というのは、今回の事件を例に出すまでもなく、これまでたびたび指摘されていることであります。むしろ、対等の関係をしっかりと保っていく、そのためにはかなり高度な外交戦略と政治姿勢が必要であります。これを忘れて、今外務大臣がおっしゃられた、これは外務省にも前もってこの原稿をお渡ししてあるので、もう少し私は前向きのしっかりした御答弁が得られるかと期待をいたしておりましたが、時間もありませんから、本当に、外務省、しっかりしてください、それだけ言って、もう一つ質問します。
 ASEANを中心とする一連の多国間枠組み協議の中で、ASEAN地域フォーラム、いわゆるARFへの北朝鮮の参加、域内紛争調停方式としてのASEANトロイカの設置及びASEANプラス3、日中韓、その協議の恒常化などが図られておりますが、中でも北朝鮮がARFへの参加を認められたことで、ARFは、東アジア、東南アジア地域のすべての国が参加する最も包括的な多国間枠組みとなりました。しかし、参加国の増大から、実質的な問題解決の場というよりも、米国のNMDやTMDに中ロが反発するなど、外交的プロパガンダの場所として利用される場ともなっております。
 ARFは、第一段階の信頼醸成から第二段階の予防外交へと進むべき時期にあるものの、今、実質的かつ具体的な成果を求めるのは厳しい状況になっていると思います。予防外交について議論を評価するとした去年のARFからほぼ一年が経過した現在、我が国の予防外交へのスタンスとその進め方、先ほど対話と抑止と申しましたが、まさに対話の柱の一つであります。
 そしてまた、先般、小泉総理も、アジア、オセアニアなど、またベトナム、豪州と数カ国に我が国の立場を説明しに行ったということでありますが、各国の反応などについてお聞かせをいただきたいと思います。
    〔金子(一)委員長代理退席、委員長着席〕
川口国務大臣 ASEAN地域フォーラムにおける予防外交の議論についてのお尋ねでございますけれども、委員がおっしゃられましたように、ここでは、一九九五年の第二回の閣僚会合におきまして、今後の活動の方向性としまして、信頼醸成の促進、予防外交の進展、紛争へのアプローチの充実といった三つの段階に沿って漸進的に取り組んでいくということで意見が一致をしたわけでございます。
 それ以降、一段階、委員がおっしゃられましたように、二段階目である予防外交につきましての、そこでどう取り組むかということについての議論が行われておりまして、おっしゃったように、二〇〇一年の七月の第八回の閣僚会合におきまして、この点についての概念と原則についてのペーパーが採択をされたわけでございます。ということは、ARFにおける予防外交の基本的な考え方が示されたということで、今後は、この基本的な考え方を具体的な取り組みに広げていく段階にあるということでございます。
 予防外交はますます重要になってきていると考えておりまして、ARFが将来的にも予防外交の分野で重要な役割を果たすことができるように、また、そういう枠組みとして発展することが重要だと考えておりまして、我が国も、このペーパーづくりの段階ではリーダーシップを発揮しまして、貢献をしてきたわけでございます。
 ことしの七月末に次の閣僚会合がございますので、その場も含めまして、今後ともARFの作業に積極的に参加をしていきたいと考えております。
 それからもう一点、総理が訪韓、訪中、それからASEANに連休のときに行かれたときに、これについてどういう話し合いがあったかということですが、武力攻撃事態対処法案等についての特段の議論は行われなかったと承知をいたしております。
中野(寛)委員 もう一つ、我々としていろいろな判断をするときに欠かせないのが米国の存在であります。同盟国米国の変化というのは、クリントン大統領からブッシュ大統領になられて大きな変化を遂げたと私は考えております。
 実は、田中外務大臣の当時に、その変化について私なりに三つの特色があると思うがといって例示をしてお尋ねをいたしましたが、外交に変化はないという御答弁であったことは大変残念だったことを思い起こします。もっと外務省として注意深くあっていただきたいと思います。
 米国の政治イデオロギーとして、いわゆる今のブッシュ政権、保守主義とは、経済的には自由競争、社会的には伝統的規範や倫理、対外的には孤立主義と言うべきか、国益至上主義と言った方がいいでしょう。一方、リベラリズムとは、経済的には福祉等への政府支出、社会的には個人の自由裁量権の保護、対外的には国際主義を重視する立場を指すものと思われております。前クリントン政権のリベラリズムからブッシュ政権の保守主義にかわったことによって、米国の基本的な対外的立場は、国際主義から国益至上主義に変化したものというふうに私は思います。テロ以前のブッシュ政権は、米ソ間のABM制限条約、CTBT、京都議定書など、既存の対外取り決めや国際協定からの一方的離脱の姿勢が目立っております。
 このような米国の行動は、ちょっと一回で言いにくいのですが、ユニラテラリズムとされ、欧州などからしばしば懸念が表明されてまいりました。自国の都合のみを重視して対外コミットメントに対処しようとするこのユニラテラリズムの概念は、いわゆる孤立主義もしくは国益至上主義の延長線上に位置するものと言わざるを得ません。
 一方、同時多発テロによって微妙な変化が見えてまいりました。いわゆる国際協調を前面に据えるようになってまいりましたけれども、しかしながら、例えば対印パ経済制裁を解除するに当たって、制裁継続は米国の国益にそぐわないとの理由を挙げました。安全保障上の必要があればこれまでの経済通商政策を変えるのにちゅうちょしない。ブッシュ政権にとって重要なのは、外交か内政か、経済か安保かといった選択ではなくて、国益こそがこれらを決する概念になっているように思えてなりません。
 そこで、この同時多発テロ後顕著となったアメリカの国益重視の政策が我が国の有事法制整備に何らかの影響を与えたのではないか、そしてそれは、あのテロ対策特措法から始まって一連の日本の安保政策または外交政策につながっているのではないかというふうにも思いますし、この際、日米同盟における米国の国益と我が国の国益とはどのように絡むのか、一致するのかしないのか、どこが一致し、どこが矛盾をするのか、これらについては冷静に判断をし、対応をしていくことは、我が国が国際社会において主体性を持った国であるかどうかの評価にもつながっていくと思いますが、どのようにお考えでしょうか。
川口国務大臣 アメリカの政権が、クリントン政権からブッシュ政権にかわって、民主党から共和党にかわってどのように外交政策が変わったか、あるいは物の考え方が変わったかということについては、非常にこれは難しい御質問で、非常にきれいに色分けができる話でもないだろうと思います。民主党、共和党、党派は違ってもかなり共通した部分がありますし、民主党の中でもかなり共和党に近いところもあればという、非常に細かい色分けが必要だろうと私は思います。
 したがいまして、ブッシュ政権がいかなる理念を持った政権であるかというのも、一概に言うのは難しいと思いますけれども、私は、日本はアメリカとかなり共通な原則といいますか、考え方を共有していると思っております。例えば自由主義ですとか、市場経済を信じる国であるとか、民主主義ですとか、自由ですとか、人権ですとか、そういった言葉が並ぶわけでございますけれども、そういった意味で、アメリカも日本も、今の世界のあり方を守っていくということに共通の国益を持っていると考えております。
 お尋ねの、有事法制の整備にアメリカの政策が何らかの影響を与えたかということでございますけれども、日本とアメリカは、常に同盟国としてさまざまなことに、政治面から経済面、文化面、頻繁に協議をしながら、コミュニケーションを持ちながらやっているわけで、安全保障ももちろんでございますし、率直に議論をしてきている国でございます。
 他方で、小泉総理がおっしゃっていらっしゃいますように、この有事法制というのは、我が国の基本といいますか、いついかなるときに発生するかもわからない国家の緊急事態に対しては、ふだんから冷静に考えて、いざというときに対応がとれるということになっていなければいけないということで、独立国としての日本が主体的に考え、備える必要があるというふうに考えている法制でございまして、こういう考え方で武力攻撃事態対処法案を今ここで御議論をいただいているわけでございます。
 したがいまして、これは我が国が主体的に考えたものでございまして、別に、アメリカから言われてやったという話ではないということだと思っております。
中野(寛)委員 その認識をしっかりと持ち続けて行動していただきたいと私は思います。
 そして今回の有事法制で、日米関係でいうならば、例えば、米軍との関係について今回の法制ではまだ整理がされていない。しかし、日本の有事のときに、日本を守るために、米軍の存在は大変重要な意味を持っているわけであります。
 そのときに、例えば、米軍が実施する日米安保条約に従って武力攻撃を排除するために必要な行動が円滑かつ効果的に実施されるようにしなければならないとされてはいるのですが、その具体的内容には一切触れられておりません。すなわち、日米安保条約にも、日本有事における米軍の行動については何ら具体的な規定はありません。日米安保条約第六条に基づく日米地位協定が米軍の地位を規定しておりますが、ここにも、有事における米軍の行動については具体的な規定はなされておりません。
 NATOにおいては、有事の際の米軍の行動に関する有事協定というべきものがあるとされております。しかし、これは秘密協定でありますので公開されていませんが、漏れ聞くところによりますと、NATOの有事協定は、日米ガイドラインに記載されているのとほぼ同様な内容を規定しているとされております。その違いは、日米ガイドラインは署名のない単なる指針です。NATOとの有事協定は、これは秘密協定とはいえ、署名のある国際約束であります。
 このようなことがきちっと整理をされなければ、日米安保条約第五条に基づく有事の際の米軍に対する支援の方法も具体的にはわからない。日本の有事における日本国内における米軍の行動にかかわる規定も整備されていない。その協定も、むしろ、これから日米間の交渉でまとめていかなければいけない。これは並大抵のことではないと想定されます。
 これらのこと、いわゆる肝心かなめのことで、しかし難しいというものを全部先送りしているというのが今回の法案なのではないか、こう思うのであります。米軍の行動規定にしても、本来は特別の協定がなければ接受国の規制を受けないんでしょう。それで、結局、紳士協定みたいに、守られるものと信じますと防衛庁長官みたいなことを言わなきゃいけないんでしょう。それで本当に国民は安心して任せられるのでしょうかということを実は考えるのです。
 また、もう一つ、時間がありませんからまとめて、ちょっと別次元のことを言いますが、例えば、今回、国会承認というのが入っております、事前、ケースによって事後。同時に、アメリカがベトナム戦争のときに、苦い思いをして米国議会が戦争権限法というのをつくりました。これによりますと、政府がその気でやっておっても、途中でもう必要ないのにと国会が判断すればそれを終わらせる権限をアメリカは国会に与えました。今回、それは日本のこの有事法制にはありません。
 事ほどさように、多くの問題があります。よって、最後にまとめていきますが、まず五つ申し上げたいと思います。
 第一に、本法案の目的において、武力攻撃事態への対処のみならず、大規模テロや武装工作員、武装不審船などの新たな脅威を含む緊急事態への対処を明確にすること。第二に、対処基本方針及び対処措置において、武力攻撃事態のみならず緊急事態等、あらゆる事態に対応ができるようにすること。第三に、国会の関与をさらに厳密に規定し、少なくとも国会の決議で自衛隊の撤収を命令できるようにすること。これは初動の段階の話ではありません。第四に、国と地方公共団体の関係において、地方公共団体の責任と権限を明らかにし、国民の権利と義務を明確にする具体的な枠組みを構築すること。第五に、米軍との関係において、日米安保条約第五条に基づく日本有事における米軍支援と米軍の行動を規定する措置を講ずること。
 これらのこと五点が、少なくとも私の考えるところによると欠落をしている、もしくは、この際にきちっとしておかなければ、この法律をつくっていいのかどうかの判断の基準が整わないということになると思うのでありますが、最後にまとめて官房長官の御所見をお願いします。
福田国務大臣 幾つか御指摘がございました。
 まず、大規模テロなどの緊急事態への対処、また対処基本方針及び対処措置の武力攻撃事態を含むあらゆる事態に対応可能とすることということにつきまして、テロや不審船など武力攻撃事態以外の緊急事態につきましては、これまで関係法等におきまして体制を整えてまいりましたが、今後とも、これを一層改善強化するというための措置を講ずることとしております。法案の第二十四条に、政府がこれに取り組むことを明らかにいたしておるところでございます。
 次に、国会の関与の厳格化、それから自衛隊の撤収とかいったような国会との関係についてでありますけれども、これは、武力攻撃事態においては行政府と立法府の統一的な意思決定のもとでこれに対処する必要があると認識しておりますので、法案においては、現行自衛隊法で国会承認の対象とされていない防衛出動待機命令等につきまして国会の承認を得ることとするというような、適切な国会の関与ということを規定し、また仕組みとしておるわけでございます。
 また、地方自治体の責任と権限の明確化、国民の権利義務を明確化する具体的な枠組みにつきましては、これは先ほども御説明申し上げましたが、国民の保護のための法制の整備については、国民の自由と権利を尊重するということ、また、法案に定められた枠組みのもと、関係機関の意見や国民的議論の動向を踏まえながら取り組むことといたしたいと考えております。
 また最後に、米軍支援と米軍の行動を規定する措置の確保ということでございますけれども、これは、米軍の行動の円滑化のための法制についても、法案に定められた枠組みのもとに、国連憲章を初めとする国際法に従い、また、日米安全保障条約の目的の枠内でその整備に取り組む、このようにしておるところでございます。
 政府といたしましては、最善の法案を提出したものというようには考えておりますけれども、国会審議を通じて、各党会派や広く国民の理解を得るための最大限の努力を続けまして、この三法案の早期成立に努めたい、また、さまざまな態様の緊急事態への対応について必要な取り組みを迅速にこれから進めてまいりたいと考えております。
中野(寛)委員 最後に、今、私ちょっとだめ押しをしたんです、国会の関与の仕方については。例えば、有事が続いている、途中で、もう行き過ぎ、もしくは長くなって、事態はもう実質上終わっているのではないかという判断をしたときに、もういいかげんにしなさいといってとめる権限を国会に与える必要があるということを申し上げている。これはむしろ、政府側から出しにくければ、国会での議論の中で、その項目を各党間協議で入れるという交渉があってもいいと思います。これは委員長に、またその検討を要請しておきたいと思います。
 また、米軍の行動規定の問題など、大変抽象的に、ある意味では何でも抽象的に触れられているんです。あるけれども抽象的。実効が上がるのかないのか、実態は違う、さっぱりわからない。こういう事態で、官房長官が今の最後のまとめの御答弁もありましたが、言葉はある、しかし具体的な内容はまだない。これからそれらの具体的な内容について、また同僚議員とともに詰めてまいりたいと思います。
 ありがとうございました。
瓦委員長 次に、伊藤忠治君。
伊藤(忠)委員 民主党の伊藤忠治でございます。
 私は、安保委員会だとか外務委員会は久しぶりといいますか、昔はレギュラーでございましたが、したがいまして、官房長官とは結構あれなんですが、防衛庁長官とは初めてでございまして、ひとつよろしくお願いいたします。
 それで、私もこの法案を一読いたしまして思いますのは、私にとって二度目の有事体験だとあえて言わせていただきます。
 私は戦前生まれでございまして、調べてみました。閣僚の皆さん、総理を含めまして十八人おみえになります。この中で、戦前派の閣僚は十名いらっしゃいます。ですから、私が戦前の体験をもとにしてお話をしても、御理解いただける部分も多いんじゃないかと思っております。
 戦前の体験といいますのは、私、子供時代でしたが、軍国主義体制でございました。現在は民主主義国家でございます。その民主主義体制のもとで、これからの有事法制をどうするかという国会審議に今参画をしているわけでございますから、感慨ひとしおであります。
 そういう点から考えますと、我が国は戦後歴史の大きな節目に立っている、こう思います。大きなことを言うようですが、政治家一人一人の歴史観、国家観、憲法観がそういう意味では問われているときではないのかな、こう思います。余り党派は関係ありません。私はそう思っているわけです。有事法制化に対するスタンスも、そのことによって大きく左右されるということになるんではないでしょうか。その場合、戦争を体験した者と戦後の人たちとは、戦争状態といいますか、戦時について、有事についての実感の差異が、これは当然出てまいります。
 私たちにしてみれば、どうしても、ああいう経験がありますから、二度とあのような国にはしたくないという思いが非常に強く働きます。これもせんないことでございます。ところが、皆さん御承知のとおり、戦前派は総人口の三〇%に減少いたしました。戦争を知らない世代が、十人中七人なんですね。だから、私たちが余り戦時中のことを言いますと、ああ古くさい、昔のことだというふうに聞き流される。そういう状況に、日本の社会も世代が交代しつつあります。だから、かえって戦前は有事とはどういうものであったのかと、その軍国主義時代の歴史を語り継ぐ使命が、いろいろな角度はありますが、むしろ私たち戦前派の使命ではないのかな、こんなふうに思うわけでございます。
 官房長官は戦前派でございましたか。防衛庁長官は戦後派でございましたか。私が申し上げたような気持ちについて、基本的なスタンス、これについてどういう感想をお持ちなのか、ちょっと冒頭にお聞かせください。
福田国務大臣 私は昭和十一年生まれでございまして、例の二・二六事件の年でございます。あのときが契機というようにも言われておりますけれども、いろいろな段階を追ってそこに到達したということでございます。
 しかし、あの戦争を経験して、私も子供でございましたけれども、民間人の一人として経験したわけでありますけれども、もちろん実戦をしたわけじゃございませんけれども経験はしている、そういう立場で、私はああいうような状況というものを二度と見たくないという、その思いである、これは委員と全く同じ気持ちだというように思っております。
 そういう意味で、今後この日本がああいうような悲惨な目に遭うとかいうようなことを私どもは期待しているわけでもないし、また、そういうことがあっていいというふうに思っているわけじゃないし、できるならばそういうことがない方がいいということを本当に心底から思っている、そのことにおいては、これまた考え方は共有できるところではないかと思います。
 しかし、今回お示ししているいわゆる有事法というものにつきましては、これは、もし何かあったときに我が国を、また国民をどのようにして自分たちの手で守るかという極めて基本的なところをこの法案でもってお示しをしているというところでございまして、およそ独立国家としてそのような法制がないということの方がむしろおかしいのではないか。
 そういうことがありますと、すぐ戦争をするんではないかといったような、そういう懸念というものをお持ちかもしれませんけれども、決してそういうことではないし、また、そういうことができないような仕組みになっているということも事実でございますね。現行の憲法のもとでもって、専守防衛でしか自衛隊を動かすことができないということでございますので、昔の、何でもできるという時代と全く違うんだ、そしてまた、昔と比べれば今は民主国家、これだけ民主主義が定着して、そして多くの国民が非常に多くの情報を毎日すぐ入手できる。こういう時代において、中央政府がそのような、この法制ができて、そして戦争をするとか、そういうふうなことを許されるかどうか。そして、国会の機能が、その前に、これをするかどうかということについて決定するということは手続を経るわけでございますから、国会が機能しなくなることがあるのかどうか。
 そういうことも考え合わせれば、この法案が、決して心配されるようなものでない、むしろこの法制を持つことは、我が国が我が国の手で、自分で守るんだ、そういう考え方を我が国国民が持つと同時に、諸外国に対してもそのような意思表示をするということが、むしろ抑止力というような形でもって、無益な戦争をしかけてくる、武力攻撃をしかけてくるという国が、これが未然に防げるのではないか、こういうようなことを考えて今回お出しをしているわけでございますので、御理解をいただきたいと思っております。
伊藤(忠)委員 何か官房長官に演説の場を与えたみたいなものですが、いや、実は私が申し上げたのは、一面的に私は言っているんじゃないんです。
 だから、戦前だって一般の国民は――軍部の皆さんは知りませんし、為政者の皆さんは侵略戦争をやりましたよね。はっきり言って日本は、攻められたというのはもう終戦間際ですから、それまでは外国へ攻めていったわけでしょう。だから、そのときの犠牲者の数よりも、もちろん兵隊も随分死にましたよ、民間人も死んでいます。そのときの数よりも、あの本土決戦で沖縄で戦った終戦間際の、そういう死者の方が多いじゃないですか、比較しますと。
 だから、国民は、国の政策が侵略戦争なのか、あるいは専守防衛でやっているのか、そのことは関係なく、例えばこの狭い日本の本土が戦場になった場合には大変なことになりますよというのも、有事の想定としてやはり議論が必要なんでしょうね。
 ですから、そのことを私は言いたいわけですよ。だから、戦前のような侵略戦争に突っ走るというんだったら、これは、あなた、国会議員も命をかけて、それぞれ判断しなきゃいかぬじゃないでしょうか。私はそういう極端なことを言っているんじゃないんです。
 だから、沖縄だって、兵隊さんが守ってくれるんだと信じてやったんじゃないでしょうか、本土決戦に向けて。ところが、実際に戦場を見たら、私は数字を持ってまいりました。軍人軍属の死者が九万四千百三十六人、住民の亡くなったのは九万四千人、合計で十八万八千百三十六人と厚生省が言っておりますね。これが史料なんです。こういう犠牲が出るんです。アメリカに原爆を落とされたんです。だから、アメリカとは、私はアメリカ文化で育っていますから、アメリカの文化は大好き。ところが、今の一国支配がだんだん強まってくるアメリカの政治は余り好きじゃありませんね、正直私は申し上げますが。だから、そのように、私たちは子供の時代に大変な爆弾の中をくぐり抜けて、どうにか生き延びて今日あるわけです。
 東京大空襲は皆さん御承知のとおり、時間がありませんから余り触れるわけにはいきませんが、大変な数、亡くなっているんですよ。三月九日の日の大空襲、B29が何と一日に百五十機飛んできたんです。実際に焼かれた数は四〇%、家屋が焼かれているんです。その一日で亡くなった死者が七万二千人、焼け出された都民が百万人なんですよ。これぐらい大空襲を受けて、日本の国は参ったというふうにならざるを得なかったんです。大変な犠牲を払ったんですね。
 だから、戦争というものは一たん起こって拡大をすれば、好むと好まざるとにかかわらず国民はそういう中に置かれるということだけはお互い頭に置いて、それを起こさないためにどうするかというのは難しいわけです。このために知恵を絞るのはいいじゃないですか。ところが、物すごくそれは難しいから、どういうふうにやればできるのかなという問題点を私も提起をいたしたいと思っております。
 私の生まれたところは県都でございまして、藤堂高虎、三十八万石の小さな町でございますが、城下町でした。平和な町ですけれども、これもこれから恐らく警報関係が出ますので、そのとき触れたいと思いますが、空襲警報発令といったときには遅かった。B29がもう爆弾を落としていったわけですよ。
 私は至近弾を受けました。一キロの爆弾を落とされますと、ちょうどこの予算委員会の半分ぐらいの穴があきますよ。余り近いときに直撃食らったりしたら音はわかりません。至近弾ですから、爆弾が落ちてくる音がようわかりました。それで一挙に吹き飛ばされまして、防空ごうへ走っている暇はなかったんです。シェルターみたいな立派なものじゃありませんからね。吹っ飛んだ。父親は徴用にとられるわ、母親は国防婦人会にとられるわ、子供五人がだんごになってそこで縮こまってどうにか助かった。燃え盛ってくる中を逃げるんですが、目の前で爆風で、少し前まで遊んでいた同級生が三人死にました。今でも私はその状況を覚えています。そういう状況なんですね。戦争の状況というのは、そういうことなんです。
 それが終わってからどうなったか。田舎町ですら、とにかく焼夷弾が続けざまにその後落とされまして、いっぱい焼死体が出ました。どうしたか。警察の方が全部焼死体を川っぺりに積みまして、これをだびに付すまではそのまま積んであるわけですね。私は住むところがありませんから、その横の防空ごうで一週間寝起きしました。こういう体験を経ているわけです。
 だから、結論で言いたいのは、非戦闘員も大変な犠牲をこうむるんだということですね。これは太平洋戦争の話です。第二次世界大戦はもっと犠牲者が多いんですが、そういう経験を経まして、日本は戦争が終わり、民主主義国家になって今日たどり着いているわけです。ですから、戦前の経験者というのは、そういう思いをみんなどうしたって持っていると思うんです。
 問題は、自力で日本は経済が復興したと言われていますが、経済の面では、なるほど大目に見てそうかわかりませんが、やはりアメリカの核の傘で日本の経済は復興を遂げたんです。これはそのとおりです。(発言する者あり)同調されて、残念ながらと、それはそういう思いだと思いますが。だから、朝鮮戦争があり、冷戦時代があり、安保体制のもとで日本はどうにか平和的に来られたんです。で、半世紀来ました。
 問題なのは、平和外交を基本に、国連中心の、世界各国、特にアジア諸国との信頼関係を築いてきて、やっとここへ来たと思うわけであります。そういう中でさらに、まあ有事の話の前提条件は、平和外交なり信頼関係をアジアあるいは世界各国、国連を中心にしてこれからも築いていかないといけないと思うんですが、そのためには、私ども残念に思っておるんですが、小泉さんが靖国神社に物すごくこだわられると思うんです。靖国神社にこだわって参拝をされますと、これはのどに刺さったとげのように関係諸国から批判が出ます。
 私は常々思っておるんですが、ああいうことをやるよりもその前に日本の国立墓地をなぜつくれないんだろうかなと。国立墓地をつくればもっと整理ができていくんじゃないかなと私は心を痛めているわけですが、この問題について官房長官のお考えがあれば聞かせていただいて、早急にそういう積極的な施策については完成のために進めていただきたい、こう思うんですが、いかがでございましょうか。
福田国務大臣 現在、私のもとで開催されております懇談会がございます。何人もわだかまりなく戦没者等に追悼の誠をささげ平和を祈念することのできる記念碑など、国の施設のあり方について、御指摘のような施設も含めて幅広い御議論をいただいております。これまでに五回ほど会合を開催しておりまして、現状の整理を行った後に、論点整理のための自由討議を行っている、こういう段階でございます。
 政府といたしましては、この懇談会の意見も踏まえて対応を検討してまいりたいというように考えているところでございます。
伊藤(忠)委員 いずれにしても検討を急いでいただいて、こういう過去の問題を引きずって将来に走るということはよくありませんので、ぜひとも対等な関係でやっていけるように、この施策については早急にひとつ解決を図っていただきたいと強く要望いたしたいと思います。
 いずれにしましても、冷戦が崩壊をいたしまして、今度は地域紛争や民族紛争が多発をするという時代になりました。その中で、アメリカの突出した軍事力というんですか、どうしてもこれは国益を考えておりますから、一国支配の傾向を強めていると思うんです。その米国の世界戦略、軍事戦略も、エリアからゾーンに見直す必要が出まして、対日政策も、日米安保を基本に据えながら、ここのところ大きく変わってきている、変化をしてきているんじゃないか、こんなふうに私は思います。それは、事実関係で気づくわけですが。
 日米安保の共同宣言が一九九六年の四月の十七日に結ばれまして、これはクリントン政権と橋本内閣の宣言でございますが、さらに一年後の九月の二十三日に、新ガイドラインと言われます日米防衛協力のための指針が結ばれまして、宣言されまして、それから二年置きまして、九九年五月の二十八日に周辺事態法がつくられました。これは御承知のとおりであります。それで、九九年の六月二日に、いわゆるACSA、物品役務相互提供協定が日米間で結ばれているわけであります。そして、二〇〇二年の今回の有事立法化であります。
 このように経過を見ていきますと、日米軍事共同行動の展開というのは、新ガイドラインを下敷きにして、周辺事態法、次いで武力攻撃事態法案は、一体的な関係にあると判断できると思うんです。言い方によっては、これはセットだと思うんですね。ガイドラインの中身を読みますと、我が国の法律としては、周辺事態法と今回の武力攻撃事態法とは、法律は分かれておりますが、根っこはガイドラインにありますから、結局これはセットである。
 それで、今回我が国としては、これまでの議論で余り出ていなかったと思いますが、トータルとしての、つまり、有事法制化を意識されながら今回この法案が提案をされてきたように私は判断をするわけでありますが、この点、官房長官、どうでありますか。
福田国務大臣 ただいまの御質問は、武力攻撃事態、今回の法律と、それから周辺事態との関係でございますか。そのことについて申し上げますが、武力攻撃事態と周辺事態とは、それぞれ別個の法律上の判断に基づくものでございます。我が国に対する武力攻撃事態が発生しているときに、状況によっては両者が併存することもあり得るというように考えています。
 周辺事態への対応としての米軍の支援は周辺事態安全確保法によりまして、また、武力攻撃事態への対応としての米軍支援は今後整備されます新たな米軍支援法制に基づいてそれぞれ実施されることになりますけれども、新たな法制の整備に際しましては、当該法制に基づく支援対象となる米軍の行動の目的等を適切に規定することによりまして、当該法制と周辺事態安全確保法のおのおのに基づいて、対米支援を含めまして行い得るようにすることは十分可能であると考えております。
 なお、いかなる支援も、もちろん憲法の範囲内において行われるものであります。
伊藤(忠)委員 官房長官の答弁はすれ違っているわけですよ。私が聞いたのは、新ガイドラインが大もとですねと。そこで決めたことを日本として国内法で整備をする必要が生じたわけでありまして、第一段階でやったのが周辺事態法であって、第二段階は今回の武力攻撃事態法なんですねという質問なんで、そうかどうかをお聞かせいただければいいわけで、同僚議員が指摘をしましたように、武力攻撃事態法の米軍との関係は、これは抜けているわけですからね。その辺は横に置くとしましても、新ガイドラインが大もとなんですねというこのことをお聞きしておるんですから、そうですか、そうでありませんかということをお答えいただければいいんです。
中谷国務大臣 当時の日米防衛協力のための指針というのは、冷戦が終わりまして、冷戦後の日米安保、世界が東西の両陣営の二つに分かれて戦う時代は終わって、それぞれの新しい世界秩序の中でいかに日米安保があるべきかという点で、平素からの日米安保の考え方、またそういった周辺事態における日米安保のあり方、また我が国が武力攻撃を受けた際の日米安保の考え方、それをガイドラインとしてまとめたものでございまして、一つの指針を示したものであるというふうに認識をいたしております。
伊藤(忠)委員 実際はそこから始まっていると私は思うんです。なかなか公の席上でそのことを政府の皆さんが公言をされるというのは非常に難しい問題でもあろうと思いますから次に移りますが、実際、そういう脈絡なんですよ。
 なぜかといいますと、このガイドラインを読みますと微妙に違いますものね。後でまた言います。つまり、海上の話、陸上の話とそれからミサイルの話は違っていますものね、新ガイドラインの表現は。明らかに違いますよ。だから、そういう点では、言うならば、こういうことをやらないかぬなということが、基本構想というものがはっきりしていまして、ここではきちっとそういうことを踏まえた上で結ばれているんですね。何か抽象的に言われているという文面じゃありません。
 ですから、そういう意味では非常に系統的に来ているんですよ。私はそう考えたものですからこういう質問をしておりますので、その点はひとつそのように踏まえていただきたいと思います。
 そこで、次に具体的な質問をいたしますが、基本計画が閣議で決定される前にはまず安全保障会議が開かれますが、この安全保障会議の前段になるんですか、専門委員会が開かれまして、ここで情報収集ももちろんやられるということであります。それで、それの検討と答申がなされまして、閣議決定に持ち込まれまして、対処措置が開始をされる。こういう手順になっているわけですが、問題は、これは日米安保条約第五条に基づいて新ガイドラインに規定されているわけですが、安全保障協議委員会、SCC、最高決定機関、その下に防衛協力小委員会、SDC、これは両国の軍人と官僚がそれぞれ構成員になっています。それから、その下に共同計画検討委員会というのがございまして、BPCというのですか、軍人だけで構成されております。これらは常設機関であるのかそうでないのかということを、まず一点お伺いします。
中谷国務大臣 そのガイドライン等によりまして、包括的なメカニズムと調整メカニズムの二つが設けられまして、先生の御指摘は、包括的なメカニズムの中で、我が国に対する武力攻撃に際しての共同作戦計画及び周辺事態に際しての相互協力計画についての検討を初めとする日米共同作業を実施するために、自衛隊及び米軍のみならず日米両国の政府その他の関係機関の関与を得て日米両政府に構築をされております。
 SCCというのが日米両国の防衛、外務の首脳から成りまして、これは2プラス2ですね。これは年に一、二度定期的に行われております。それから、防衛協力小委員会、SDCというのも両国の外務、防衛の局長級の関係者などから成るものでございまして、これも年に数回開催をされております。それから、自衛隊及び米軍の関係者から成る共同計画検討委員会、BPC、これもこの小委員会のもとに、先ほど言いました二つの計画を進めたりする協議の場でございまして、これも年に数回開会をされておりまして、おっしゃるように常設をされて、事務局等はございませんけれども、その必要性に応じて開催をされている会合でございます。
伊藤(忠)委員 そうしますと、これは常設機関なんですね。わかりました。
 そこで、日ごろから軍事問題を中心にした日米共同作戦のさまざまなことが議論を常設機関としてなされていると。すると、この法案に出ていたかと思うんですが、日米共同調整所というのは、これはこのスキームとは違うんですか。その辺をちょっとお答えください。
中谷国務大臣 それは、もう一つの調整メカニズムのことでございまして、ガイドラインにおきまして、我が国に対する武力攻撃及び周辺事態に際しておのおのの活動に関する調整を行うため、両国の関係機関の関与を得て平素から構築するとされておりまして、平成十二年九月に構築をされました。
 この調整メカニズムには、それぞれの外務、防衛当局の局長級の代表から成って日米地位協定の実施に関する事項についての政策的調整を行う日米合同委員会、並びに、局長級の代表から成って日米合同委員会の権限に属さない事項について政策的な調整を行う日米政策委員会、そして、課長級の代表から成る合同調整グループ、そして、制服組の代表から成り自衛隊と米軍の活動について調整を行う日米共同調整所から構成をされております。この中の機関でございます。
伊藤(忠)委員 わかりました。
 これは非常に包括的なことをやりますし、それから、この共同調整所というのは、具体的なことについて日米で協議を日ごろからやる、こういうふうに理解をしてよろしゅうございますね。わかりました。
 次に、具体的な話になりますが、この委員会の審議で五月九日ですか、官房長官の答弁としてあったんですが、相手国がミサイル攻撃の場合、着手の段階で我が国が反撃する場合は、これは専守防衛と認定をする、個別自衛権の行使の範囲である、こういう趣旨の発言がありました。
 つまり、その答弁の心は、手をこまねいていればやられてしまう、だから、先制攻撃もやむを得ないという論理に通ずると思うんですが、そういう理解でよろしゅうございますか。
福田国務大臣 それは先制攻撃は、個別の自衛権としても認められないことでありまして、そういう意味ではございません。
 相手の日本を攻撃する意図が明示されているとか、そのときの国際情勢、もろもろの情勢を判断して、その上でどの時点が武力攻撃の発生の時点かというのは、その個々の状況によって違うと思いますけれども、理論というか理屈で言えば、ミサイルが日本に着弾したという以前においても、攻撃の発生ということが認められるということがあり得るということであります。
伊藤(忠)委員 ようわからぬわけですが、それは論理的にはあり得るけれども、実際そういうことをやれば、これは我が国の専守防衛の方針に反する、こういう意味なんでしょうか。その辺、ちょっとわかりませんので。
福田国務大臣 ですから、今申し上げましたように、その相手の意図が明示されるとか、国際情勢とか、その国と外交がどういう形になっているかとかいったような、いろいろな情勢を判断した上で判定、認定すべきものだと考えます。(発言する者あり)
伊藤(忠)委員 ちょっと発言がありますように、これは緊急というか、ゆっくりしておれないと思うんですよね。
 例えば、着手の段階というのは、もちろんミサイルのことですから、精度はその国の技術水準にかかわりますので、飛んでからどちらへ着地するのか、それはわかりませんよ。しかし、どんとこれは打ち出されてくるなというのは、もう確実にそれは着手だという話に、ある意味ではなるじゃないですか。
 問題は、それは我が国が察知できる探査の能力があるかないかという話はまた別ですよ。そのように判断を、着手という段階で反撃する場合もあるというふうな趣旨の発言でしたから、これは実際にそういうことになると、日本の自衛隊ができるのかな、できなければアメリカ軍に頼むのかなと率直な疑問を私は持っているわけで、ちょっとそのあたり整理してお答えください。
福田国務大臣 武力攻撃事態の認定というのは、国際情勢、相手国の意図、軍事的行動などを総合的に勘案するということですね。そして、我が国自身が主体的に判断する、こういうことになります。
 弾道ミサイル攻撃について、例えばその発生を未然に回避するための不断の外交努力に加えて、攻撃の発生を事前に察知するための情報収集とか、警戒、監視の強化ということが重要でございまして、米国からの情報提供も極めて有益であるというか、それの情報も必要であろうかと考えております、今現在のことでいえば。武力攻撃事態の認定にかかわる我が国の判断は、あくまでも、先ほど申しましたように、我が国の主体的に行うことでございます。
伊藤(忠)委員 何か執拗に言うようですが、そうしますと、この着手の段階で我が国が反撃する場合は専守防衛の範囲だという趣旨の九日の官房長官の答弁は、これはあったことになるんですか、なかったことになるんですか。これはどういうふうに理解をすればいいんでしょう。
 具体的に出られたものですから、新聞にも書かれました。私もここで聞いていまして、あれ、こういう見解があるのかなと思って、非常にそういう意味では、具体的なケースに対する具体的な答弁でございましたから私は質問しておるんです。その点、はっきりしてくださいよ。いわゆる認定の抽象的な判断を聞いているんじゃありません。
福田国務大臣 私は、武力攻撃がどの時点から発生したかということについてお話ししているつもりでございます。
伊藤(忠)委員 武力攻撃とは、着手の段階から武力攻撃とみなすということなんでしょう。そうしますと、相手が着手した段階から武力攻撃という認定をすれば、我が国としてはその態勢をつくらなきゃいかぬじゃないですか。その後、そういう準備態勢に入るわけですね。これは、おそれというんですか、おそれじゃなくて武力攻撃そのものでしょう。すると、その態勢に入るわけですよ。
 だから、問題は、そこで議論になりましたのは、どこへ飛んでいくかはともかくとして、ミサイルのことなんだから、すぐそれは火を噴いてばあっと発射されるわけですよ。そのときに対して万全を期さなきゃいかぬという議論があって着手の段階というものが出てきたものですから、私は率直に質問しておるんですが、それはそういうことでいいんですね。着手の段階で武力攻撃と認定をするということなんですね。
福田国務大臣 ですから、先ほど来申し上げているのは、着手をしたときに、相手の、何で着手をしたのかというその理由があるわけですね。それは、相手が日本を攻撃するぞという明示があるということであれば非常にわかりやすいということは言えますね。そういうことであれば、これから攻撃するといって、攻撃のためのミサイルに燃料を注入するとかその他の準備を始めるとかいうことであれば、それは着手というように考えていいのではないかと思います。日本に対する武力攻撃への着手という意味であります。
伊藤(忠)委員 そうしますと、着手と認定をして武力攻撃というふうに認定をした、そこまではいいわけですね。そうすると、さらにそのままじっとしていれば飛んできますよ、ミサイルが、そのままにしておけば。どうするんですか。そのときには、こちらの反撃というのか、対応措置が要るじゃないですか。そのときは我が国はどうするんですか。着手の段階で武力攻撃と認定するわけですから。
中谷国務大臣 まず、着手のときの、憲法でどう考えるかということでございますが、これは、我が国に対して急迫不正の侵害があって、その侵害の手段として我が国の国土に対してミサイル攻撃等による攻撃が行われた場合に、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするというふうにはどうしても考えられないのではないかと思います。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐために、万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、例えばミサイル基地等による攻撃を、防御するためにほかに手段がないと認められる限り、ミサイルの基地をたたくということは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものであるというふうに考えます。
 どういう手段があるかということにつきましては、現在、技術的には研究をいたしております。米国も、MD、いわゆるミサイル防衛ということで、ロシアなどに協議をして技術的に開発研究をいたしておる最中でございますが、我が国の場合はまだ研究の途上でありまして、これを開発して配備するという決定には至っておりませんけれども、研究はしている最中であります。
 なお、テポドン級のミサイル等につきましては、米国自身もまだ技術的にそれを撃ち落とすレベルに達していない、まだ途上であるというふうに認識しております。
伊藤(忠)委員 やはりこれはおかしいですね。結局、ミサイルに着手して、こちらが武力攻撃だと認定して、それで間髪入れず相手の方が飛んでくるわけですよ。それに対してこちらが、官房長官の言う言葉じりをとらえるわけじゃありませんが、検討しておる暇はないわけで、そのときにはどんといかにゃいかぬわけだよ、これ。それは、先制攻撃というのは専守防衛からしたら禁止されていると言いながら、防衛庁長官が言われるのは、来たらこちらはやはりやらにゃいかぬと言うんでしょう。ただ、技術的に、TMDとかなんとかという話があって、それは今後研究しますけれども、考え方としてはそういうことなんだと言われるから、実際に研究している間にそういう事態が起こった場合には、自衛隊には技術がなければアメリカに頼むのかどうするのかということを考えなきゃ、日本はやはりまぐれにでも当たるかわかりませんぜ。百発百中で当たるミサイルを持っている国ならそれは大変ですけれども、そうでない国だったら、たまには当たるかわかりませんよ。
 だから、それは、時差の関係なんですが、事実上は先制攻撃になるんじゃないですかということを僕は一番初めに聞いたわけですよ。そうしたら、それは、いや、我が国としてはそういう考え方はとらないと、実態で話していったら、防衛庁長官の言うような、一緒のことになるじゃないですか。
 では、どうするんですか、これは、そういう事態になったら。具体的に説明してくださいよ。でないと、抽象的な議論では、なかなかこれは通り過ごせないですよね。僕はそう思うんです。そのときには、自衛隊はそういう足の長いミサイルは持ってないでしょう。そうしたら、米軍に頼むんですか、これは。持っているんですか。持ってないでしょう。持てないことになっておるじゃないですか。だから、それは、持つようになるのか、持てないから米軍に頼むのか、その辺はきちっとしてくれないとだめですよ。
中谷国務大臣 これは、我が国に武力攻撃が発生した場合、着手ですから、我が国はこれに即応して行動しつつ、米国と適切な協力のもとに、防衛力の総合的、有効的な運用によって、極力早期にこれを排除するというふうにいたしておりまして、先ほどお話があったガイドラインにおきましては、日米の役割分担を含む対処のあり方を記述いたしておりまして、各種の作戦につきましては、先生のお話にありましたメカニズムに沿って、米軍は自衛隊の行う作戦を支援するとともに、打撃力の使用も含めて、自衛隊の能力を補完するための作戦を実施するというふうにされておりまして、このような場合には、日米安保体制の枠組みに基づく日米共同対処ということがまず考慮をされるべきであるというふうに考えております。
伊藤(忠)委員 早い話が、通訳をしますと、そういう場合は、これはやはりアメリカに頼むというふうに私は理解をいたしました。
 次、行きます。自衛隊法百三条の物資の収用業務従事命令。これは違反をした場合が書いてなかったと思うんです。やはり違反のケースは出てくると思うんですね、自衛隊法の業務命令違反です。その場合には、もちろん、結果的に違反のやむなきに至ったというケースは、意外と安全性の確保が問題になってそういうケースが生まれると思うんですが、これは罰則はありましたっけ、災害救助法はたしか罰則規定があったんですが、この法案にはなかったと思うんですが、どうでしたか、その辺。
中谷国務大臣 この法案には罰則規定はございません。
伊藤(忠)委員 災害救助法にあって、この緊急の事態のときに罰則規定がないというのは、どうもこれはバランスを欠いているのじゃないかというのが、一点目の私の意見でございます。
 二点目は、災害救助法とのバランスをとらなきゃいけない。災害救助法では、懲役六カ月、五万円以下の罰金になっていまして、自衛隊の方は、これは、出動待機命令発出後逃亡した場合には、七日以上のケースで逃亡した、来なかった場合ですが、懲役最高三年、あるいは、現場で上官に反抗したような場合は最高七年、こういう自衛隊としての処罰規定がございます。
 戦前のことを言うとよくないんですが、戦前は、敵前逃亡すると銃殺刑、軍法会議にかけられて死刑というようなケースもあったわけです。僕は子供のころに聞いていました。その後調べましたけれども、非常にこれは厳しいんですね。
 だから、今の自衛隊にそういうことを、僕はそんなこと言ってないでしょう、そんなことは言ってないんですが、災害救助法では民間人が懲役六カ月、五万円以下の罰金という処罰規定が設けられておりながら、有事法制の本法には罰則規定がないというのはいかがなものなんでしょうか、こういうことでございます。
中谷国務大臣 まず最初の、業務従事命令についてでございますけれども、これは自衛隊法百三条の第二項でございます。
 この二項につきましては、地域を指定するわけでございますが、一項地域はどちらかというと戦闘行為が行われる状況が高い場所で、自衛隊が行動する場所でありますが、二項地域というのはいわゆる後方支援的なことをする地域で、まだ通常の市民生活とか業務も生きている状況が高いわけでありまして、そのようなときに医療とか土木建築工事、または輸送を業とする者に業務従事命令をかけて自衛隊の任務遂行に協力していただくという観点でございます。
 これは、当該業者の専門的な知識や経験、能力を用いて能動的かつ主体的に行っていただくことが必要なものでありまして、また、当該業者が通常行っている業務をそのまま行っていただくということを基本としているものでありますので、我が国が武力攻撃を受けているような事態においては自発的かつ積極的に協力していただけるものだと期待をいたしております。
 罰則を設けなかったのは、罰則をもって強制的に業務に従事をしていただいたとしても、十分な命令の効果が期待できずに、また積極的な協力の意思のない方が業務に従事する場合には、かえって自衛隊の任務遂行に支障を及ぼしかねないということにもなると考えるからでございます。
 それから、昔の刑法との関係でございますが、敵前逃亡した場合にどのような手続で処罰されるかということでございます。
 それにつきましては、自衛隊法百二十三条第一項の規定によりまして、「正当な理由がなくて職務の場所を離れ三日を過ぎた者又は職務の場所につくように命ぜられた日から正当な理由がなくて三日を過ぎてなお職務の場所につかない者」につきましては、「七年以下の懲役又は禁こに処する。」ことになっております。
伊藤(忠)委員 次に移ります。
 二条六号と二十二条の一項に関連しますが、警報発令と避難指示なんです。
 時間がだんだん迫ってまいりましたのでもう簡潔に聞きますが、戦前は防空法で細かく決められておりました。だから、灯火管制だとか防空監視だとか、あるいは防空ごうを、細かく、どこに建設するかというものを全部決められていたわけです。これは防空体制をつくりました当時の法律がございますが、本当に細かく決められております。だから、私はこれを一口に要約して言うんですが、灯火管制だとか、あるいは防空ごうといったって、普通の爆弾を想定して防空ごうをつくるというようなことの時代じゃありません。ミサイルを想定したらシェルターだと思うんです。そういうものをそれぞれのところにつくっていく方針を当然決めることになると思うんですが、随分お金がかかります。抽象的な表現ですが、そういうお考えでこのように明示されているのかどうか、この点をお伺いいたします。
福田国務大臣 政府といたしましては、国民の保護のための法制の整備は極めて重要な課題であると考えておりまして、この法案に基づきまして、警報発令、救助、応急復旧等の必要な諸措置に関する法制を整備するということにしております。避難のための施設や食料、物資の備蓄等につきましては、今後の国民の保護のための法制の整備に当たって検討していかなければならないものと考えております。
伊藤(忠)委員 官房長官はなかなか具体的な答弁はなされないと思うんですね。一貫されていまして、抽象的に、二年間の間でつくるということで皆やられているんですが、それでは本当に困るわけで、同じく二条の六号で、生活関連物資の価格安定、配分という表現になっているんです。
 だから、私は非常に辛口で申し上げますが、これは旧内務省が大体考えていた、羅列しておりました項目とどうも流れが似ていますし、これは三矢計画そのものをある意味では丸写しみたいな感じがするんですよね。非常にこれはわかりにくい。
 例えば、生活関連物資の価格安定といいますけれども、統制経済を考えているんでしょうか。今は自由主義経済じゃないでしょうか。(発言する者あり)統制しなきゃやれないという声がございますが、それは一定期間やるのかどうするのか。統制経済にしようと思ったら、関連法案を、これは特例措置でもって、言うなら特別措置法でもってストップをかけるのか、全部切りかえるのか。何かそういうふうな法律の制定を含めて、しかもそれが法体系としてどうなのか、立法政策上どうなのかということを考えないと、ただこれだけが羅列されてきて、この法案が通った、そうしたら、後は自由にやらせていただくわというのじゃ、これは閣僚の皆さんというよりも官僚の世界ですよ。
 僕は、官僚の世界は自由にやれると思うのです。大体内務官僚がつくったのというのは、戦前のこれを見ましても大変だと思います。何センチまで決まっていますよ、防空ごうの広さは、一人当たり。大変なところまで決めているわけで、だから、農水省がこの危急存亡のときに食糧確保のためにどうやればいいのかということをあの三矢計画のときに検討したというのをうちのある同僚議員が本会議で言っていましたよ。
 どういう発想が出てきたか。今ゴルフ場は全国に千五百カ所ぐらい。それで、そのゴルフ場を全部ストップして芋畑にかえるというわけ。そして、芋を生産して国民に食べてもらう食糧にするというのは、この発想は戦前の発想ですよ。何とまあおくれている発想かなと僕は思いましたけれども。我々はゴルフ大好きですから絶対反対でっせ。ゴルフ場をつぶすの絶対反対。命をかけて私反対しますよ、そんなの。
 だから、そういうこっけいな冗談話が出るようなことが当時は真剣に考えられていたということがわかりまして、いや笑ったんですが、笑っちゃおれないと思うんです。だから、そういうふうなことを、もっと方向性、ああ具体的な中身はこうだなとイメージできるようなものを出さないと、めくら判押せというのと一緒じゃないでしょうか。僕はそう思うんです。
 続いて申し上げます。
 指定公共機関の話なんですよ。日本銀行の話が同僚議員から出ておりました。代執行の話は、これも同僚議員から指摘はなさいました。もう一点私は申し上げたいんですが、だから、それは臨時にそういういろいろな規制法案、運用を一定の期間ストップするようなものをつくるのか、そうでなければ、法律そのものを根本から組みかえるのかという質問をさせていただくのは、こういう理由によるからです。
 日本銀行の人事は、戦前はこれはもう国家統制のもとにつくられておりましたから、公定歩合も政府の認可事項、政府に相談してうんと言ってもらわなきゃできなかったわけです。これは大蔵大臣の監督のもとにあったんです。
 戦後の日本銀行は、これは政府から独立をするというので、独立性と自主性が一番大事、このことが据えられておりますから、人事も国会同意人事なんですよ。こういうものを全部否定してやっていくことになるのか。日本銀行法というのはそのままにしておいてどういう方法でこの有事体制をつくられようとしておるのか、このことを明らかにしていただきたいと思います。
 もう一点、NHKになります。NHKは国営通信みたいなものですから、国がかなり注文を出すと思います。
 大正十五年に設立されました。国家管理、統制のもとに、原稿の事前提出とチェック、これは中身も全部事前の検閲を受けないと放送はできなかったわけであります。それで、当時の工務局長をやられておりました、あの世界柔道で有名な松前重義さん、この人はこういう戦争は反対だというので、東条英機さんの前に出て私はこの大東亜戦争は反対ですと言った。そうしたら東条さんが烈火のごとく怒って、君みたいな非国民は戦場へ行けというので、二等兵でもって前線に送られました。戦後、帰ってきて初代逓信院総裁になられました。
 この松前さんという方は、無装荷ケーブルの世界で唯一の発明者でございます。だから、日本の搬送ケーブル、搬送通信というのは、画期的に先進的に進んだわけでございます。そういう工学博士の、工学博士も何も関係ないですな、戦争中は。戦争に反対だと言ったら、君はけしからぬというので結局そういう目に遭われたんですが、戦後は名誉回復されて、よかったと私は思っておりますけれども。
 そのようなNHKの使命がありますが、これは、日本銀行と同じように、法律そのものを組みかえていくのか、それとも臨時措置でもってこれをどのようにやるのか、この点は最低でも言ってもらわないと、めくら判を押せということに等しいわけです。
 それから、通信の場合、サイバーテロがありますよ。これは怖いです、皆さん。今、これはIT戦略会議で検討されるということを私は聞いておりますが、こんなのは、私はインターネットおたくじゃありませんから詳しいことは知りませんが、パソコンがあったら、優秀な人間だったら、インターネットの網というのはクモの巣ですから幾らでも侵入できますが、どうですか、皆さん。LANだったら入り口で阻止せないけませんが、これは大変な、やり方によっては防ぎようがないというようなことですから。
 そういうものも、本来ならば柱に据わらないかぬわけでしょう。ところが、肝心のところが抜けておって、どうでもいいと言ったら怒られますが、並べてある、列記しているだけだというんじゃ、大変これは、私は、検討をするには、それこそ超法規的な権限を総理大臣に与えるのかなと思いますよ。
 これは与党さんの方からも指摘が出ていました、総理大臣に非常大権を与えるということも考えていいじゃないかと。それぐらい、すっきり系統的に考えたら、そういう発言がやはり出ますよね、有事法制というのはそういう一面がありますから。しかし、憲法上そのことは可能なんでしょうかねということだって大議論になるわけです。
 ですから、そういう議論にまで発展をいたしますので、この点だけは、臨時にストップをかけて、言うならば戦時ですから、そのようにやっていくのか、それとも今の法律を全部変えるのか、その点はどうなんですか。
福田国務大臣 いろいろなお話ございましたので落ちのないようにしたいと思いますけれども、武力攻撃事態におきまして、最初に御指摘あったのは、生活関連物資などが不足したり、それらの価格が高騰するというようなことも想定されるのでありますけれども、このため、国民生活及び国民経済に及ぼす影響を最小となるようにするために、法案の第二条第六号は、対処措置として、「生活関連物資等の価格安定、配分その他の措置」を定めているものでございまして、これは、例えて言うなれば、生活関連物資等の標準価格の決定、割り当てまたは配給などが想定されるわけであります。
 いずれにしましても、その具体的な内容につきましては、現行法との関連も勘案しながら、この法制整備の過程で検討することになっております。
 この法制整備、今後、国民との関連においていろいろ整備していかなければいけないということでありますけれども、この法制整備に関しては、第二十一条に基本方針というものがございます。この基本方針にのっとって行われるわけでございますし、また、この法律そのものが超法規とかそういうようなことにならないようにするための法制だというように考えておりますので、御懸念のことはないようにしなければいけないし、また、そのように努めてまいる所存でございます。
 また、日銀がどうするのかといったようなお話がございました。これは、一つの例として申し上げれば、武力攻撃事態が国民経済に及ぼす影響を最小とするために、日本銀行が例えば通貨の円滑な供給の確保などの役割を担うということも想定されております。これも、具体的には法制整備の中で明らかにするということになっております。
 また、日本放送協会のことについてお話ございました。特に人事等については、これは日本放送協会の方で考えることでありまして、そのことにこの法制で触れることはないものであります。特に、報道の自由というものは、言論の自由それから報道の規制ということは、制限をするということは全く考えていないところでございます。
伊藤(忠)委員 念押しで結構ですが、代執行は指定公共機関に対してやられるわけですよね。この代執行というのは、言うことを聞かなければ、あんたどきなさい、国がやりましょう、直接指導いたします、かわってやりますということになるわけですが、この点はどうですか。
福田国務大臣 この法案におきましては、国民の保護のため緊急を要する場合など特に必要がある場合に、別に法律で定めるところによりまして、内閣総理大臣がみずから、または関係大臣を指揮し、地方公共団体や指定公共機関が実施すべき対処措置を実施することができる、このようにしております。具体的にどの機関がどのような対処措置について代執行などを行うことになるかにつきましては、今後、国民の保護のための法制等の整備に当たって検討してまいります。
 指定公共機関に対しましては、代執行を行う場面は極めて限られたものと想定しておりますけれども、武力攻撃事態という状況下におきましては、万全の措置を講ずるためにこうした仕組みが必要であるというように考えております。
伊藤(忠)委員 教育問題についてお伺いします。
 教育は触れられていないんです、この法案の中に。ずっと私見ましたけれども、ないんですね。教育は一番大事じゃないですか、そういう意味では。一生懸命になって行政が、自治体が一体になってやっていても、育ってくる人たちがあちらを向いていたら、これはあんた、どうにもならぬでしょう。だから同僚議員もかなり教育には時間をとって言っていたんですよ。だから、空間の話じゃないんです、私が言いたいのは。人づくりは、人間をどう育てていくかということの一番重要な話でしょう。教育は何で入っていないんですか。まずそれから大臣にお聞きします。なぜ教育は入っていないんですか。これは別枠ですか。
福田国務大臣 今回、武力攻撃事態というものに対処する、その基本方針また具体的な方策をここでお示ししているわけでございまして、お話の教育ということになりますと、こういうものに対する考え方をどうするか、こういう考え方になるんでしょうか。そういうことであれば、これは不断の努力と申しますか、その理念、考え方、自分の国は自分で守るんだといったようなこととか、一致協力してやらなきゃいけないこともあるんだといったようなことを教育の中にどうやって取り込んでいくかということになろうかと思うのであります。
 今回の法案につきましては教育ということは特に触れておりませんけれども、これはあくまでも武力攻撃事態、それに対してどういう対処をするかということでございまして、これは今後また考えなければいけないものかとも考えます。
伊藤(忠)委員 何か、教育は考えていないんだと言われれば、ああ、それは外してやっていくのかなという気もこちらはしますけれども、普通、常識で考えたら、やはり教育は関連するよなと思いますよね。どうです、文部大臣。
遠山国務大臣 この法律は、日本の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保を目的とするということでございまして、なかんずく子供はむしろこの法律によって守られるべき最も大切な存在であると考えております。
 教育につきましては、子供たちに、基本法の理念に基づきまして、国際社会に生きる民主的、平和的な国家社会の形成者として必要な資質を育成していくことは極めて重要なことと考えております。そのために、現在でも、小学校、中学校、高等学校を通じまして、世界平和の必要性や日本国憲法の平和主義の原則などについて指導することとしておりますし、また同時に、子供たちが我が国の防衛を含みます安全保障の問題などについて理解をし、国際平和と人類の福祉に寄与する日本の役割について考えることができるよう指導することとしているところでございます。このことは現在もこれからも、しっかりと教えていく必要があると思っております。
伊藤(忠)委員 お聞きしましたが、ただ私は、そんな程度で済むのかなということをどうも危惧いたします。指導要領は十年ごとに改訂しますよね。教科書改訂とこれは関連していますよね。その間は文部省の通達でずうっとやってきた。
 だから、言うならば、全体の方針がそのように決まりますと、法律は変えないけれども、指導要領、これに関連させる通達でもってやはりじりじりとやっていかないと、態勢を築こうというんですから、何か、私のところは関係ない、安全保障はどうだという一般的な勉強だけでいいんだというようなことで済むのかなと、私は逆に心配をいたします。答弁は結構ですが、私はそのように思います。そうのうてんきではおれない、私はこのようにどうも思えるわけであります。
 最後になりますが、現憲法には、国家の戦争状態というか緊急事態に対処できる明文規定が存在しないというか、その部分は確かにありません。だから、憲法を変えてやるかどうかというのは議論がありますが、一貫性からいうならば、やはり集団的な自衛権というのは国連のもとで扱われるのが僕は正しいと思いますよ。そういうことが整理されていない、憲法上は。というなら、現憲法はやはり検討する必要があるんじゃないかと思ったりいたします。
 それで、周辺をどう守るかというのは自衛隊の役目でしょう、沿岸警備なりいろいろな点は。国内の治安は、これは警察ですよね。ですから、専守防衛は自衛隊、国内は警察、集団的自衛権を発揮するという外の話は、これは国連機能強化等、国連軍創設とも関連をしていくんですが、未来は。そのように本来は整理をすべきであろうと、乱暴な言い方ですが、私はそう思っているわけです。いずれにしても、明文規定がありません。それは、我が国の軍国主義の歴史、侵略戦争の歴史の反省から生まれた民主憲法であったからそういう規定がないんだ、私はこのように理解をいたします。
 民主憲法の三本柱は、言うまでもありません、一つは戦争放棄であり、二つは主権在民であり、三つは基本的人権の確立だと思うんです。有事法制は、だから、その範囲の中で、専守防衛、まあ個別自衛権というんでしょうか、専守防衛と、それから基本的な人権擁護、この範囲内で立法化しなければならないという一つの苦労ですね。私はそうだと思うわけです。
 一方、日米安保条約が存在をしていまして、アメリカの軍事戦略と、日米軍事同盟というのは、やはり世界戦略とどうしてもこれはかかわってまいります。現状は皆さん御承知のとおりでありまして、だから、小泉さんが沖縄に行かれましても、ほとんど日本の基地が集中している沖縄の県民の切実な気持ちがわかっていながらも、十五年以内には返還してくれということが、小泉さん、なかなか言えない。本来小泉さんは、あらゆる改革を進めると言う人ですから、本当にその勇気があるならば、あそこで、沖縄の基地は十五年以内に返還するよう私は強く言いますと本当は言ってほしかったんですが、だんだん小泉さんの改革のトーンも弱くなってまいりました。
 それは、アメリカにしてみれば、沖縄はまさにキーストーンであります。沖縄を失うということは、世界戦略そのものにとって大変な打撃を受けるわけですから、そういう日本の気持ちというか要求は、アメリカはなかなか聞き入れることができないという状況で、大変これは苦労するんでありましょうが、日本の気持ちというのはきちっとアメリカに言わなければいけないだろう、このように私は思います。
 そして、ここまで言いますと自民党の諸君にやじられるかわかりませんが、艦隊を海に浮かべて本土に上陸するなんということは、実際の話、考えられぬと思うんです。ミサイルだと思うんです、私は。テロだと思うんです。冷戦後に多発しておるようなそういう不測の事態にどう対応するかという我々の体制というものを考えていくということがより大事なんではないか、このように思っております。
 だから、この法案は、私が述べましたとおり、現行法制の体系の根幹にかかわる問題が全く抽象的でありまして、オーバーに言えば白紙の状態でもあります。だから、有事だといって超法規的な行動は許さない、基本的人権を侵害するものであってはならぬというのが民主党の方針なんです。
 だから、その方針に照らしてみますと、とてもじゃないがこのざる法に賛成だというわけにいきませんから、もし自民党の皆さんがここはこういうふうに言うんだというんだったら、やはりきちっと、それはもっと詳細に法案をつくり直してやってもらわないといかぬ、こんなふうに思います。
 以上です。


2002/05/20

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