2002/05/07

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平成十四年五月七日(火曜日)

瓦委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出、安全保障会議設置法の一部を改正する法律案、武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案及び自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律案の各案を一括して議題といたします。
 これより質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。衛藤征士郎君。
衛藤委員 自由民主党の衛藤征士郎であります。
 今回上程されております、いわゆる有事関連三法案につきまして、自由民主党を代表いたしまして、総理並びに各閣僚に質問をいたします。
 昭和五十二年、福田内閣、このときから有事法制の研究が始まりました。既に二十五年たったわけであります。福田内閣は、有事法制の研究結果を国会に報告いたしました。次の三点が指摘されております。第一点は、自衛隊の行動にかかわる法制、第二点は、国民の保護にかかわる法制、第三点は、米軍の行動にかかわる法制、この三点が指摘されたわけであります。
 今次、小泉内閣におきましては、いわゆる有事関連三法律案を提案されましたが、まさに福田内閣のときに指摘されたこの研究報告の三点と近似しておるわけでございます。
 また、自衛隊が、自衛隊法を創立、昭和二十九年でありますから、約五十年たちました。この間、我が国国会における安保論議といいますと、自衛隊の行動が実力行使に当たるかどうか、あるいは自衛隊の行動が集団的自衛権の行使に抵触するかどうか等々の議論が大半を占めてきた、このように言っても過言ではないと思います。
 今次、小泉内閣は、歴代の各政権がなし得なかった積年の課題である外国からの武力攻撃に対する対処の仕方等々、いわゆる有事関連三法律案を提案したわけであります。そういう意味で、私は、小泉内閣と小泉首相に対し、最大の敬意とまた最大の信頼を寄するものであります。こういう立場に立って、私は、以下の点についてお尋ねをいたしたいと思っております。
 第一点でありますが、国家の緊急事態に対する対処は独立国として当然の責務でありまして、これに対処する態勢は、平素から国の備えとして当然に整備すべきものと認識しておりますが、総理は、緊急事態への対処のあり方についていかようにお考えでございますか、まずお尋ねをいたします。
小泉内閣総理大臣 武力攻撃を想定するということは、国民にとって非常に、できれば避けたい事態だと思います。しかし、いついかなるときに国家の緊急事態が発生するかわからない。そういう事態に対して、起こってからどうやろうかと対策を練るのではなく、ふだんからいわゆる一朝事がある場合に対して、いわゆる有事に対して、冷静に考え、しかるべき対応をとるということは、政治の要諦であり、国家として最も必要な仕事ではないかと思っております。
 今回、そういう緊急事態に対して、多くの国民の理解を得つつ、国会議員の皆さんから十分な議論をいただき、どのような態勢をとったらいいかということで、今回この法案を提出して御審議をいただくわけでございますが、私としては、この問題について、なぜこのときに出すのかという批判が一部にありますが、むしろ、今までなぜこういう準備なり法案を提出してこなかったのかということにこたえる責務があると思いましたから、今回私は提出して、国会議員並びに国民の方々の十分な関心と議論を持って、有事に備える態勢を独立国の日本としても備える必要があるということで提案したということを御理解いただきたいと思います。
衛藤委員 また一方では、既に冷戦が終結したにもかかわらず、なぜ今このときに武力攻撃事態に対処するための法制を整備する必要があるのか、こういう素朴な国民の声もございます。
 これらの法案を整備する必要性を国民にどのように御説明されるのか、総理にお尋ねをいたします。
小泉内閣総理大臣 今、最初に答弁したとおりでありまして、泥縄式という言葉があります。泥棒を捕らえてから、縄はどこにあるんだあるんだと探したってしようがない。それではいけない。やはり治にいて乱を忘れずというのは、昔から、国家の責任ある立場に立てば、あるいは各独立国の立場としては、平和なときに乱を考えて、その乱を未然に防ぐためにはどうしたらいいか、乱が起きた場合にどういう備えがあればいいかということの方が、むしろ私は当然ではないかと思うのであります。そういう点から、いわばもう冷戦で武力攻撃を受ける事態やおそれはないんだと考えることの方がどうかしているんじゃないかと。
 現にテロなんというのは、昨年九月十一日起こったあの事件、だれも予測し得なかったことですから、今予測し得ないから何もしなくていいんだではなくて、予測し得ないことに予測すべきだというのが、むしろ私は当然ではないかと思うのでありまして、いわば平和のときに、乱が起こった場合、緊急事態が発生した場合にどう考えておくかということの議論をしっかりとしようということが今回の法案でもありますので、そういう点をじっくりと議論してみたいと思います。
衛藤委員 ただいま総理の御答弁にございましたように、昨年十二月の不審船事案の発生等を考慮すれば、武力攻撃事態よりも、大規模テロであるとか不審船事案に対処する法制を急ぐべきではないかという、そのような国民の声がたくさんございます。また、戦後我が国に、二十一回にわたりまして外国の不審船が我が国の近海を周回しておる現実があります。総理はこのような国民の声に対してどのようにお答えされますか、お尋ねを申し上げたいと思います。
小泉内閣総理大臣 昨年九月のテロ事件にしても、あるいは武装不審船事案にしても、こういう事態を想像し得ない、普通の平和な事態においてはだれも予測し得ないことだったと思います。しかし、現実に起こった。こういう点についても、私どもとしては、このような予測し得ない事態が起こったときには、国民の生命、安全を守るためにどういう態勢をとったらいいか、どういう対応をすればいいのか、あるいはその活動に当たる機関がどのような装備をしておけばいいのかということも十分議論する必要があると思っております。
衛藤委員 有事におきましては、国民の生命財産の保護が極めて重要な課題でございます。しかしながら、武力攻撃事態対処法案におきましては、国民の生命、身体及び財産を保護するためのいわゆる国民保護法制が先送りされています。このことにつきまして、総理のお考えを承りたいと思います。
福田国務大臣 今回提案されております三法案、これは武力攻撃事態への対処を中心に国全体としての基本的な危機管理体制の整備を図る、こういうものでございまして、国民の保護などのための法整備についても、この法案に示された枠組みのもとで整備の方針、項目を示しながら包括的に実施していく、こういうことになっております。
 国民の保護のための法制の整備につきましては、関係機関の意見のほか、国民的議論の動向を踏まえながら、十分な国民の理解を得られるような仕組みをつくる必要があるというように考えておりまして、政府といたしましても、こういう法制の重要性にかんがみまして、今後、法案の定める二年という目標期間内に法案の取りまとめに全力で取り組んでいきたい、このように考えておるところでございます。
衛藤委員 有事におきましては、国民の理解と協力が不可欠であることは論をまたないわけでありますが、武力攻撃事態対処法案第八条におきまして国民が行うよう努めることとされておる必要な協力としては、具体的にいかなる内容を想定しておられるのか、お尋ねをいたします。
福田国務大臣 武力攻撃事態におきましては、国、地方公共団体、また指定公共機関とか、そういう団体が対処措置を実施する際には、国及び国民の安全の確保ということを目的として国民の方々にも御協力をいただけるもの、こういうように理解をいたしております。
 この規定は法的に拘束するものではございませんけれども、国民の方々に、それぞれの置かれた状況の中で、避難や被災民の保護等に関してできる限りの協力をお願いしたい、このように考えておるところでございます。
衛藤委員 私どもの憲法第十二条には、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」と。また、憲法第十三条には、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」このように明記されておるわけであります。
 この観点からいたしましても、自衛隊法一部改正案における処罰の問題がございますが、武力攻撃事態における国民の人権の保障に関する重要問題であります。本法で新たに設ける罰則の考え方につきまして、憲法第十二条、憲法第十三条を踏まえて、いかようにお考えであるか、お答えをお願い申し上げたいと思います。
中谷国務大臣 今回の自衛隊法の改正の罰則につきましては、国民の人権保障に配慮しつつ、武力攻撃事態における自衛隊の任務遂行を確保するための必要最小限のものに限定をいたしております。
 例えば、物資の保管命令は、自衛隊の任務を遂行する上に必要とされる物資を確保するために必要なものでありますけれども、これに関する罰則は、この保管命令に違反して保管物資を隠匿、毀棄または搬出するという悪質な行為を行った場合に限り、科すようにいたしております。
 このように、この罰則につきましては、自衛隊の円滑な任務の遂行を積極的に妨害するような悪質な行為に科するなど、公共の福祉を確保するための必要最小限のものであるという内容にいたしております。
衛藤委員 次に、地方公共団体との関係についてお尋ねいたします。
 有事におきましては地方公共団体の協力が不可欠でありますが、法案では、内閣総理大臣が地方公共団体の長に対して指示やいわゆる代執行することができるとなっております。もし都道府県知事が防衛庁長官等の要請を拒否した場合の対応はいかになされるのか、防衛庁長官にお尋ねをいたします。
中谷国務大臣 自衛隊法の百三条に規定をいたしておりますけれども、この防衛出動時という国家の緊急事態におきまして我が国を防衛するために行われるものでありまして、この処分が適切になされない場合には、自衛隊の任務遂行に大変大きな支障が生じて、ひいては国家の存亡にもかかわることとなるおそれがありますので、このような事態においては、当然のことながら、都道府県知事の協力を得られるものだというふうに考えております。
 この百三条の一項規定によりまして、自衛隊の行動に係る地域、これは総理大臣の承認を得て指定をされるものでありますけれども、この地域においては、事態に照らし緊急を要すると認められるときは防衛庁長官等がみずから措置できるというふうになっております。
 また、拒否した場合でございますけれども、防衛出動という国家の緊急時において知事の協力が得られるものと考えておりますが、どうしても協力が得られない場合につきましては、法定の受託事務について地方自治法に定める手続に従いまして、内閣総理大臣が是正の指示及び代執行の措置をとることとなるものが考えられます。
 その他のものにつきましては、この法律の議論等を通じて行うということになろうかと思います。
衛藤委員 防衛庁長官にお尋ねいたします。
 防衛出動との関連でありますが、武力攻撃事態対処法案の対処基本方針に防衛出動待機命令や予備自衛官の招集についてまで記載することになりました。これらにつきましても国会の承認が必要となったわけでありますが、自衛隊の円滑な行動の確保の観点から問題はないのか、防衛庁長官にお尋ねをいたします。
中谷国務大臣 これまで、防衛出動や予備自衛官の招集命令等につきましては国会承認が必要でございませんでした。しかし、今回、これを国会承認に係るようにいたしましたのは、やはりこういった事前の準備措置等をすることも我が国の防衛の強固な意思を内外に示すものでありますし、また、立法府と行政府が統一的な意思決定のもとでこれらの措置を実施するために、今回の法律では国会承認を求めることといたしたわけでございます。
 この国会承認は事後の承認であることから、これらの措置について国会の承認を得ることとされていなかったこれまでの法制と比べて自衛隊の円滑な行動の確保の観点から問題があるかというふうに聞かれれば、このような手続が行われるということでかえってこの根拠が明確になったということで、我々としては支障がないというふうに考えております。
衛藤委員 続きまして、防衛庁長官にお尋ねいたしますが、防御施設構築の措置に関してお尋ねいたします。
 今回の自衛隊法の一部改正案では、事態が緊迫し、防衛出動が発せられることが予測される場合に、防衛庁長官は防御施設構築の措置を命ずることができるというふうに、新たな自衛隊の行動が追加されました。
 なぜ新たにこうした行動が追加されたのか、お尋ねをいたしたいと思います。
中谷国務大臣 これは、現時点におきましては、防衛出動がかかってから自衛隊が出動して準備をするわけでありますけれども、しかし、現実的に考えますと、この防御施設を構築するには相当な時間がかかる、また、脅威や武力攻撃の形態が非常に多様化をいたしておりまして、防衛出動がかかってから行うのでは間に合わないという場合も想定されるために、事態が緊迫をしてきて防衛出動が発せられることが予想される状況になりましたら、閣議また国会での承認等もいただきながら、この防御陣地を構築するというふうにいたしたわけでございます。
衛藤委員 また防衛庁長官にお尋ねいたします。
 本法律案は、旧来型の脅威しか念頭に置いておらず、時代おくれではないかという指摘もございます。武力攻撃事態としてどのような事態を防衛庁長官は念頭に置いておられるか、お尋ねをしておきたいと思います。
中谷国務大臣 ある事態が武力攻撃に至るかどうかということにつきましては、国際情勢とかそのときの状況で判断をするわけでありまして、どのような事態が武力攻撃に当たるかというのは、その規模とか形態の面で特に限定はなくて、あらゆる事態を考える必要がございます。
 現法制につきましては、テロとか不審船等につきましては、警察機関や海上保安庁機関もございまして、治安出動の形態で、防衛出動に至る前の段階の措置でありますけれども、そういう措置を実施したとしても、テロや不審船の事態がさらに拡大悪化をして武力攻撃に至るということもございます。この武力攻撃に至る段階の措置というものがなされていないという点で、テロ、不審船の対応等を行う場合でも、対処し切れない場合がある場合に、武力攻撃事態として、国家として、最悪、極限状態の態勢をとって対処できるわけでございまして、いわば防衛の根幹、基本をつくるという観点で、国の安全保障のいわば基本の構え、これをきちんと整備した上でそういうテロとか不審船等にも対処できるように、国全体の安全保障の体系を考える上での中核になる体制を整えるという点で非常に必要である、重要であるというふうに認識をいたしております。
衛藤委員 本法律案が適用される武力攻撃事態には、武力攻撃が予測されるに至った事態が含められておりますが、これによりまして事態の範囲が拡大してしまうのではないかという懸念もございます。武力攻撃が予測されるに至った事態を武力攻撃事態に含めた理由は何か、官房長官にお尋ねをいたしたいと思います。
福田国務大臣 我が国に対する外部からの武力攻撃に対しまして、武力攻撃を有効に排除するとともに、国民の生命、身体及び財産を保護するというために万全の措置が講じられなければならない、これはもう当然のことでございます。
 このような見地から、本法案は、我が国への武力攻撃が発生する可能性が高いと客観的に判断される予測の段階から、国民の被害を防止するための警報の発令、避難の指示などの措置を講ずるとか、また武力攻撃が現実に発生した場合に自衛隊がとる措置の準備を開始する、こういうようなことができるようにしているものでございます。
衛藤委員 国民の保護法制が未整備の状態でありますが、こういう状態のときにもし外部からの武力攻撃が、その事態が発生した場合には自衛隊はどのように対応するのか、防衛庁長官にお尋ねをしておきたいと思います。
中谷国務大臣 この法案が未整備の段階において武力攻撃が発生した場合ということでございますけれども、当然のことながら、自衛隊は、武力攻撃の排除に全力を挙げるわけでございます。この際、現行の自衛隊法の第九十二条の規定がございまして、国民の避難等の措置を行い、国民の生命、身体及び財産の保護等に可能な限り努めるということでございます。
 この対処によりまして、速やかに国民の皆様方が安全な地域に避難できるように努めるのは当然のことでありますが、政府といたしましては、武力攻撃事態における国民の生命、身体、財産の保護に関して万全を期していく必要があることから、国民の皆様方の御理解をいただきながら、今回早期に必要な法整備を行うということといたしておりまして、防衛庁といたしましても、できる限りの協力を行う所存でございます。
衛藤委員 防衛庁長官にお尋ねいたしますが、周辺事態と武力攻撃事態が併存しておる状況下で、周辺事態安全確保法に基づきまして支援可能な米軍の範囲はどうなるのか、また自衛隊の活動範囲はどうなるのか、この点についてお尋ねをしておきたいと思います。
中谷国務大臣 周辺事態というのは、我が国周辺地域におきまして、我が国の安全に重大な影響を及ぼすことのある事態ということでございます。その際、米軍が行動する場合に、法律で定められました、武力の行使に至らない範囲で、また集団的自衛権にならない範囲で後方支援を行うという内容でありまして、その際は、周辺事態が我が国有事にならないように全力で努力をするわけであります。
 武力攻撃事態というのは、我が国に対する武力攻撃が発生する、または予測される事態でありまして、その事態がともに併存をするという事態も考えられるわけでございます。
 この際、米軍等の支援に関しては、我が国としましては、個別的自衛権の行使として自衛のための必要最小限度の武力を行使することができるとともに、我が国を防衛するために行動している米軍に対する我が国の支援については、その支援が米軍の武力行使と一体化をすることであっても、我が国の自衛権発動の三要件に合致する限り、憲法との関係で問題が生じることはない、また日米安全保障条約との関係で問題が生じるというものではないわけでございます。
衛藤委員 ただいま長官は、外部からの武力攻撃に対しては、我が国防衛のために共同対処している米軍に対し武力の行使と一体化していると見られる支援をやったとしても、こうした必要な対米支援というものは憲法上もあるいは条約上も何ら問題はない、こういうことでございますか。もう一度お尋ねしておきたいと思います。
中谷国務大臣 このような我が国及び米国による我が国防衛のための共同対処行動としての武力行使は、国連憲章第五十一条との関係でも問題がございませんし、この米軍の武力行使と一体化するものであっても、我が国の自衛権発動の三要件に合致する限り、憲法との関係で問題が生じることはないというふうに考えております。
衛藤委員 ただいま指摘されている外部からの武力攻撃事態が発生した場合に、日米で共同する対処の武力行使というものが国際連合憲章第五十一条に許されているところの自衛権の行使、今長官がおっしゃったいわゆる個別的自衛権の行使にこれは何ら抵触するものではないし、また国連憲章第五十一条には、「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。」こういう規定があるわけであります。
 しかるに、この規定からいたしますと、外部からの我が国に対する武力攻撃事態が発生したときに、日米が共同して対処するこの武力行使というものは、この国連憲章に言う、五十一条に言うところの自衛権の行使、個別的自衛権、集団的自衛権の行使に抵触するものではない、結果的にはそういうことになるんではないかと私は思うのです。ここはポイントだと思うのですが、防衛庁長官のお考えを承っておきたいと思います。
中谷国務大臣 国連憲章五十一条に、個別的及び集団的自衛権が書かれております。我が国に対して外部からの武力攻撃が発生した場合においては、自衛権発動の三要件に該当する場合には、我が国は個別的自衛権の行使として自衛のための必要最小限の武力を行使することができますし、また、この武力攻撃を排除し、我が国を防衛するために行動している米軍に対する我が国の支援については、この支援が米軍の武力行使と一体化するものであっても、我が国の自衛権発動の三要件に合致する限り、憲法の関係で問題が生じることはない、また日米安保条約との関係で問題が生じるものではない、また広く国連の憲章に基づいて国際的にも何ら問題が生ずるものではないということでございます。
衛藤委員 私は、あえてここで確認しておきたいのですが、外部からの武力攻撃に対して自衛権を行使することは認められておる、これは当然でございます。また、今指摘ありましたように、国連憲章第五十一条の関連で我が国も個別的または集団的自衛権の権利を持っておる、これも間違いないと思います。また、自衛権と言われるものは、今大臣御指摘されたとおり、三つの要件が必要とされておるわけでありまして、第一点は、我が国に対するせっぱ詰まった、急迫不正の侵害がある場合、もう一点は、これを排除するために他の適当な手段がないとき、もう一点は、必要最小限度の実力行使にとどめなければならない。この三つの要件が満たされておれば、我が国は自衛権を行使できるわけであります。これは間違いないと思います。
 そこで、自衛権というものは、国民の生命財産を守るために行使されるものであって、憲法によって禁止されている国際紛争を解決する手段としての武力行使には当たらない、こういうことであります。これは、あえてここで申し上げておきたいわけであります。
 憲法第九条には、御案内のとおり、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」こうなっておるわけであります。また、御案内のとおりでありますが、自衛権を行使した国は、国連憲章第五十一条に基づきまして、国際連合安保理事会に報告することが義務づけられておることも、そのとおりでございます。
 世界の国々を見ますと、どの国といえども、武力攻撃に対処する法律を持っておるわけでありまして、むしろ、我が国が今まで外部からの武力攻撃に対する法律を持っていなかったということは、極めて、私どもの国会の責任であるし、また我々の努力不足でもあった、その責めを問われても仕方がない、私はこのように思うわけであります。
 さて、次にお尋ねを申し上げますが、米軍との関係でございます。
 福田内閣の研究報告の中の一点に、米軍の行動にかかわる法制を整備すべきである、このように二十五年前に指摘を受けたわけであります。今回も、この米軍の行動についての明確な、いろいろの法制の整備がここに出ていないわけでありますが、今後の米軍についてどのような法制の整備を行っていくか、お尋ねをしておきたいと思います。
川口国務大臣 今国会におきまして、米軍の行動に関する法案は御提出をしていないわけでございますけれども、今後、武力攻撃事態対処法案に規定をしておりますとおり、日米安保条約に従いまして武力攻撃を排除するために必要な行動を実施する米軍に対しまして、物品、役務、施設の提供あるいはその他の措置を実施するために必要な法制整備を行うことを検討いたします。
 その際には、米軍の行動は、我が国に対する武力攻撃を排除し、我が国及び国民の安全を守るためのものでございますので、それを考慮しつつ、米軍が自衛隊と同様に円滑な行動を行えるように、これに対する支援を検討する必要がございます。
 また、法制整備に当たりまして、我が国の支援は、日米安保条約の目的の枠内及び憲法の範囲内で行うこと、また国連憲章を初めとする国際法に従って行うことといった考え方に基づきまして検討をしていくことといたしております。
衛藤委員 いわゆる駐留軍はその国の国内法が適用されない、このようになっておるわけでありますが、この場をかりまして、あえて、なぜ駐留軍は国内法が適用されないのか、これは問題はないのか。
 さらには、大臣にお尋ねをいたしますが、米軍に対する支援について、具体的にどのような支援をするということを法で明記しておかなければならないのか、お尋ねをしておきたいと思います。
川口国務大臣 まず、米軍につきましてでございますけれども、米軍は、我が国に対する武力攻撃が発生した場合に、我が国を防衛することを主たる目的の一つといたしまして、我が国との合意に基づきまして駐留をしているわけでございます。
 一般国際法上、駐留を認められた外国軍隊には、特別の取り決めがない限り接受国の法令は適用をされませんが、接受国の法令を尊重しなければならないということは、この軍隊を派遣している国の一般国際法上の義務でございます。このことは我が国に駐留をいたしております米軍についても同様でございまして、このような考え方に基づきまして、日米地位協定十六条におきまして我が国の法令の尊重義務が定められているわけでございます。
 それから、今後の検討課題の、どういう分野でということでございますけれども、対米支援、あるいは日本政府が米軍へ陣地として使用される施設・区域をより迅速に提供ができるような、あるいは緊急通行についても今後検討していく必要があるということでございます。
衛藤委員 近隣の諸国におきましては、このいわゆる有事関連三法案につきまして、一部懸念をしているという、表明をしている国もあります。これらの国の理解を得るために、政府として近隣諸国に対してどのように説明をされるのか、官房長官にお尋ねをしたいと思います。
福田国務大臣 武力攻撃事態に対処するための法制は、外部からの武力攻撃に備えまして、我が国の独立と主権、国民の安全を確保するためのものでございまして、主権国家として当然整備すべきものでございます。
 武力攻撃事態対処法案等につきましては、諸外国でも関心を持っているというように承知はしておりますが、政府といたしましては、このような本件の法制の基本的な考え方や法制の全体像について各国に随時説明をしていく、今までもしてまいったのでありますけれども、また今後も必要に応じて説明をしてまいりたいと考えておるところでございます。
衛藤委員 本法律案では武力攻撃事態としてどのような事態を念頭に置いておるのかということは、いろいろの事態があるということはお答えいただきましたが、昨年九月十一日の米国における同時多発テロというものは、世界じゅうに新たなテロの脅威を印象づけました。仮にこのような事態が我が国において発生した場合、これは武力攻撃事態となるのか、武力攻撃事態対処法案はこのような事態にまで対応することを想定して上程されておるのか、お尋ねをしたいと思います。これは、官房長官また防衛庁長官にもお尋ねをいたしたいと思います。
 防衛庁長官、先にどうぞ。
中谷国務大臣 昨年の九月十一日の米国の同時多発テロにつきましては、米国はこれをみずからに対する武力攻撃であると認識をいたしておりますし、また、国際社会においてもこれが武力攻撃に該当することについては広く認められているわけでございます。
 今回定めます法案の武力攻撃事態ということにつきましては、我が国に対する武力攻撃の事態である限り、規模とか態様の面で特に限定をすることはなく、およそあらゆる事態を含むものでございます。
 この事態が該当するかどうかということにつきましては、その時々の国際情勢や個別具体的な状況を踏まえて判断すべきものでございますが、米国の同時多発テロについて先ほどの状況であったということを踏まえましたら、仮に同様のテロ攻撃が日本で発生した場合に、本法案に言う武力攻撃事態に該当するかどうかと言われれば、該当する場合もあり得るというふうに考えるわけでございます。
衛藤委員 次に、事態対処法制についてお尋ねをしたいのでありますが、武力攻撃事態対処法案におきましては、事態対処法制の整備の目標期間を二年としております。国家の緊急事態への対処態勢というものは早急に整備されてしかるべきものだ、このように考えておりますが、それぞれ担当の大臣から、大臣のお考えまた決意を承っておきたいのであります。
 なぜならば、目標期間を二年というのは、御案内のとおり、私ども、衆議院の任期になるわけであります。当然私ども、選任されたこの任期中に、課題であるところのこの有事関連三法案の法律案の整備をすべき、こういうことでありましょう。
 それぞれの担当大臣から承りたいと思いますが、まず国土交通大臣、お尋ねをいたします。また、具体的にこうこうこういうような問題もちゃんと整備すべきだというお考えがあれば、お尋ねをしておきたいと思います。
扇国務大臣 冒頭に衛藤議員からおっしゃいました、今日まで戦後五十七年間、よくぞこういう法案がなくて平和に過ごさせていただけたということ、私は感謝しながらもなお我々は反省するとおっしゃったことに感銘を受けて、私も今回は何としても、この武力攻撃事態対処法案に対しては、法整備というものを含めて、少なくとも事態対処の法案の中には輸送でありますとかあるいは船舶または航空機等々、国土交通省にかかわる法案、少なくとも私は十二法案にかかわっております。
 そういう意味では、国土交通省としては大変重要な事態法案であり、なおかつこれを国民の生命財産の保護のために何としても全閣僚の協力のもとにという中では、特に国土交通省として強力にこの法整備を含めて前進をさせ、国民の安全、安心を図るために一層の努力をしていきたいと思っております。
衛藤委員 ありがとうございました。
 片山総務大臣にもお尋ねいたします。
片山国務大臣 事態対処法制というんでしょうか、国民保護法制、私は大変重要な法制だと思いますので、二年という目標年限は定められておりますけれども、できるだけ早く対応したらいいと思いますね。ただ、大変幅広いのと、いろいろな法制との整理が要りますから、時間がかかると思いますが、内閣官房を中心に、私どもも積極的に参画して、いい法制にしたい。
 私どもの方でいえば、消防の関係ですね、救助を含めて、あるいは国と地方団体の連絡調整、あるいは通信、そういうことについてしっかりした対応をいたしたいと思っております。
衛藤委員 川口外務大臣にもお尋ねをしておきたいと思います。
川口国務大臣 期間内に国民の多くの皆様の御理解が得られるような法制をつくるべく全力で取り組んでまいります。
衛藤委員 では、村井仁大臣、危機管理担当大臣にお尋ねをいたします。
村井国務大臣 防災問題はちょっと別にいたしまして、とりわけて治安維持という観点から申し上げさせていただきますと、武力攻撃事態ということになりましても、いわゆる通常の市民といいましょうか国民の安全を確保し、治安を維持する、この任務はやはり警察においてきちんとしなければならない対応だろうと思っております。その関連でさらなる法整備が必要であれば、それまた国会におきましていろいろ御議論をちょうだいしながら進めるべき問題だろうと存じます。
衛藤委員 二年以内ということでありますが、私は、それを前倒ししてでも、できるだけ速やかに法整備をしておく必要があると思うのであります。
 今、各大臣から決意が語られましたが、それを集約される、総括される官房長官のお考えを承っておきたいと思います。
福田国務大臣 ただいま各閣僚から決意が述べられましたけれども、国家の緊急事態につきましては、外部からの武力攻撃のほか、大規模テロとか武装不審船事案とか、そういうような事案を含めまして、さまざまな事態に対して全体としてすき間なく対応するということが必要でございます。
 武力攻撃事態に対処するための事態対処法制につきましては、国全体としての危機管理体制の整備を図る上で極めて重要と考えておりまして、法案の定める目標期間内に、国民的な議論の動向を踏まえながら、多くの国民の御理解を得られる法制の整備に全力で取り組んでまいりたいと思っております。
 そしてまた、できるだけ早くという御指摘でございますけれども、これは、ただいま申し上げましたように、国民的な理解を深めていただくということが極めて大事な法制だろうというように思っておりますので、ある程度の期間は必要なんではなかろうかと思います。しかしながら、二年という期間の中でもって準備を進めていくという考えをいたしております。
 また、これもいろいろ指摘をされる問題でございますけれども、武力攻撃事態以外の国家の緊急事態につきましては、これまで警察とか海上保安関係法、自衛隊法、災害対策基本法などによって体制を整えてきているところでございますけれども、今後ともこれを一層改善強化するための措置を講じてまいりたいと考えております。
衛藤委員 国民の協力についてお尋ねしたいわけでありますが、災害対策基本法にうたわれておるいわゆる緊急時における国民の協力あるいは責務、今次における、この武力攻撃事態対処法案における協力、片や災害対策基本法の中には、協力の責務がうたわれておると思います。我が国のいわゆる武力攻撃事態発生のこの事態における国民の協力、それは責務というよりも協力になっておるわけであります。なぜこのように協力ということにしたのか、これをお尋ねしておきたいと思います。
福田国務大臣 武力攻撃事態におきましては、国、地方公共団体また指定公共機関等が対処措置を実施する際には、国及び国民の安全の確保のために国民の方々にも御協力いただけるものという期待をいたしておるところでございます。
 この規定は、法的に拘束するものではございませんけれども、国民の方々に、それぞれの置かれた状況の中で、避難や被災者の保護等に関してできる限りの協力をいただきたい、こういうような考え方をしているわけでございます。
衛藤委員 この法律案には、武力攻撃事態発生のときには、国のとるべき責任と義務、また地方自治体がとるべき責任と義務、また指定公共機関がとらなきゃならない責任、義務がうたわれておるんですね。私は、もっと明確に国民の協力について、責務についてもしっかりうたい上げておく必要があるのではないか、こういう感じがするんです。
 なぜならば、私のところに国民の皆さんから電話がかかってきまして、いざというときには私たちは自衛隊が守ってくれる、あるいは海上保安庁の皆さんがしっかり守ってくれる、国が守ってくれる、当事者の立場といいますか、そういうものを全く感じさせないような発言が多々あります。
 今次、この法律案に明確にこの国民の協力にしろうたい上げたことは、私は、一歩前進だったと思うんですが、もう少しその辺のところを明確にしていいのじゃないか、このように考えておりますが、官房長官のお考えをお尋ねします。
福田国務大臣 この法案の第八条に国民の協力ということについての規定を盛り込んでいるわけでございますけれども、このような基本理念を踏まえるとともに、国及び国民の安全を確保することの重要性にかんがみまして、武力攻撃事態において国や地方公共団体等が対処措置を実施する際は、国民は必要な協力をするよう努めるものとするとの基本的な考え方、これを明らかにしておるわけでございます。この規定によりまして、国民が法的に拘束されるものではございません。
 国民につきましては、国民の生命、身体及び財産に危険が及ぶ武力攻撃事態において、過重な役割を課すことは困難であるというように考えられるものでありますので、国民の責務を今回の法案に規定することは適切でない、このように考えた次第でございます。
衛藤委員 いずれにいたしましても、みずからの国はみずからが守るというその責務というものは極めて大事である、このように申し上げておきたいと思います。
 最後に、総理にお尋ねをいたします。
 緊急事態に的確に対処するためには迅速な意思決定が極めて大事でありますが、今回の法案の提出に当たりまして、総理の決意をお尋ねしておきたいと思います。
小泉内閣総理大臣 いかに緊急事態に迅速に対応するかということでありますけれども、今回提出した法案においては、安全保障会議の機能を強化する、そして対処基本方針の迅速な策定を図るとともに、対策本部長たる内閣総理大臣に総合調整権を付与することにより、対処措置の的確かつ迅速な実施を図ることとしております。
 政府としては、これらの法案の成立に向けて全力を挙げたいと思っておりますし、法案に定める制度の運用についての研究等を平素から怠りなく進める、そして国民が安心して暮らせる国づくりに真剣に取り組んでまいりたいと思います。
衛藤委員 このたびのいわゆる有事三法律案は、日本国憲法の保障する国民の自由と権利を尊重して、もしこれに制限が加えられる場合には必要最小限とすることが明記されております。また、その手続というものは公正かつ適正に行わなきゃならないことが明記をされております。
 一方、日米安保条約に基づきましてアメリカ合衆国と緊密に協力をしつつ、国際連合を初めとする国際社会の理解並びに国際社会の協調的行動が得られるようにしなければならないことがこれまた明記されております。
 また、外部からの我が国に対する武力攻撃に対処する国と地方公共団体の責任と義務、及び指定された指定公共機関の責任と義務、また外部からの武力攻撃に対しての国民の立場からする国民の協力の必要、またこうした国、地方自治体、指定公共機関、国民、相互に連携協力をして武力攻撃事態に対するこの対処に万全の措置が講じられなきゃならない、こういうことが明記されておるわけでございます。
 私は、以上の観点から、このたびの小泉内閣の提案による有事関連三法律案、一つは、武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案、自衛隊法一部改正案、そして安全保障会議設置法の一部改正案、この三法律案に対して全面的に賛成し、またこの法律案の速やかなる審議と可決成立を強く求めまして、私の質問を終わります。
 ありがとうございました。


2002/05/07

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