2002/05/30

戻るホーム目次


有事法制について
枝野幸男議員「今週の発言」Vol.66 2002/05/30より

有事法制について、国会での議論が進んでいます。私も特別委員会の一員として論戦に参加しています。

しかし、残念ながら与野党問わず、また、メディア等もふくめて有事法制を作ることに賛成か否か?の論点と作るとしたらその内容は適切か?の論点とが混乱し、議論がすれ違っているのが実態です。

そもそも第一の論点については、前提となる現行法の見方について重大な事実誤認があります。「有事法制を急げ」と言う人も、「有事法制には反対だ」と言う人もこれまで有事法制が存在していなかったという認識を前提にしていることです。

しかし、現行の自衛隊法には1954(昭和29)年以来、「防衛出動を命ぜられた自衛隊は、我が国を防衛するため、必要な武力を行使することができる。(88条1項)」との規定があります。この規定一つで、戦闘行為の現場における自衛隊のほとんどの行動が合法化されるというのが政府見解です。しかも、この規定に関する制約は「国際の法規及び慣例によるべき場合にあってはこれを遵守し、かつ、事態に応じ合理的に必要と判断される限度をこえてはならない」という88条2項の規定があるのみです。つまり、有事における自衛隊の行動を正当化する規定は、これまでも存在をしてきており、しかも法律上はほとんど無条件になんでもできることになっているのです。

「すでに有事法制はある」のですから、推進派には、現行法の解釈にもとづいたきわめて具体的な細かい議論が必要なはずですし、今回の政府案に絶対反対をするならば「現行法で十分である」と言うか、または、自衛隊法88条の廃止を言わなければ論理矛盾になります。

私は、自衛隊による専守防衛を認める立場から万一の場合における自衛隊の行動を円滑にすると同時に、「有事にもできないこと」についてきちんとしばりをかけるため、より具体的な法整備は必要であると考えます。なんでもできかねないあいまいな規定の現行法のままでは万が一のときに現場の判断で超法規的措置がとられて過度の人権侵害が起きたり、逆に法律の解釈をめぐって自衛隊の行動が過度に萎縮したり制限されるなどの深刻な問題が生じかねないと思います。

しかし残念ながら、政府案はこうした視点を欠き、重要だけれども実体のない項目だけ並べてその具体的中身は先送りしたものとなっています。「積極推進派」の方がいうような、これがないと自衛隊が動けないとか、「絶対反対派」の方が批判するような「戦争協力法」や「国家総動員法」といった「立派」なものではないのです。正直言って、賛否の判断のしようがないほど中身の乏しい法案なのです。

一番問題なのは、避難・救助など国民の安全を守るための法制が先送りされていることです。自衛隊による専守防衛の究極の目的は、国民の生命・財産を守ることのはずです。ここが先送りされたことは、この法案の決定的な欠陥であると言わざるをえません。

その他にも、米軍の動きに関する規定が先送りされている点、武力攻撃事態の定義が広すぎる点、現実的な危険性がより高く警察や海上保安庁との役割分担・協力関係を具体的に定めておくべき大規模テロや不審船などへの規定がない点、協力を求める公共機関を法律で明確に定めていない点など政府案には問題が多すぎます。

上記のような理由からこのままの法案にはまったく賛成できず、本質に目を向けない表層的な修正協議もすすめるべきではないと考えています。国会での議論は、前提の相違からすれ違いが多く、閣僚答弁も、矛盾や抽象論だらけです。十分に時間をかけて審議し、事実認識などについて国民的な共通理解を得ることが最優先だと考えます。今後とも国民の生命、財産を第一に考え、人権の侵害にきちんと歯止めをかけるあるべき緊急事態の法整備に、国会そして党内で取り組んでいきます。


2002/05/30

戻るホーム目次