2002年3月28日

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緊急事態法制に対する民主党の基本方針

民 主 党


1 緊急事態法制の扱う対象

 私たちが直面する緊急事態には様々なものが考えられるが、今回、法整備について検討する対象は、以下のとおりとする。これらはいずれも「通常の対応措置では国民の生命・身体、財産を守ることが困難な場合であって、国全体として特に緊急かつ強力な対応が必要な場合である」という意味で共通しており、一括して検討できる部分が多いからである。

1)天災・人災を問わず大規模な被害が生じ又は生じるおそれのある災害の場合

2)大規模テロ等通常の警察力では対応が困難な治安上の重大事態の場合

3)外部から武力攻撃を受ける恐れが高い場合

4)外部から武力攻撃を受けた場合

2 緊急事態法制の必要性と目的

 いかなる緊急事態においても、国及び地方公共団体には、国民・住民の生命・身体、財産を守るため、最善を尽くす責務がある。しかし、緊急事態におけるルールがあらかじめ明確になっていなければ、超法規的措置によって民主主義そのものが危機にさらされ、また、国民の人権が侵害される事態に陥るおそれがある。こうした認識から、民主党は、結党大会において承認された基本政策において、「シビリアン・コントロールや基本的人権を侵害しないことを原則としながら、有事・危機に際して超法規的措置をとることのないよう関連法制の整備を早急に進める。」とし、更に99年の「民主党安全保障基本政策」でもこれを決定している。

 この党大会決定などに基づき、緊急事態法制の整備が必要であるとの認識のもと検討を進めるが、法整備にあたっては、以下の緊急事態法制の趣旨・目的を明確にすべきである。

1)国及び地方公共団体は、緊急事態における国民・住民の生命・身体、財産を守るため、最善を尽くす責務を負う。

2)緊急事態においてもあってはならない基本的人権の侵害を防止する。

3)緊急事態においても民主的統制を確保する。

3 基本理念として明記すべき人権関連規定

 基本的人権に関する基本理念は、平常時・緊急事態を問わず守られるべきものとして、憲法上保障されている。しかしながら、緊急事態における公権力の発動においては、それに伴って結果的に人権侵害にいたる危険性が高いことから、法整備にあたって、これらの理念を逸脱しない具体的なしくみを法律に組み込むべきである。

参考:基本的人権の制約に関する憲法の基本理念】
1)いかなる事態にあっても、内心(思想・良心・信仰)の自由は絶対不可侵である。

2)その他の精神的自由権に対する制約は、より重大な人権を守るための必要最小限の範囲にとどめなければならない。

3)精神的自由権のうち、特に表現の自由については、原則として事前に制約してはならない。例外的に、事前抑制が可能な場合も、その内容を問題にする制約は許されない。いかなる事態においても、検閲は認められない。

4)経済的自由権に対する制約は、合理的な政策目的実現のために合理性のある範囲でなければならない。

5)一部の者の経済的自由権について特別の制限を課すには、当該特別の制限により生じる損失、損害を補償しなければならない。

4 基本的理念として明記すべき民主的統制

 緊急事態においては、通常の民主的手続きを踏まえたのでは、対応が遅れるおそれが高い。したがって、より迅速な対応を可能とする手続きを用意する必要があることは否定できない。

 他方で、緊急事態において、通常とるべき民主的手続きを省略する制度を認めると、その制度の悪用によって、民主主義そのものが危機に直面する事態もありうる。また、基本的人権を確保する見地からも、緊急事態であるからこそ民主的統制がより重要であるとも言える。

 したがって、緊急事態における民主的統制手続きにおいては、以下の原則が確保されるべきであり、法整備にあたっては、これらの原則を踏まえるべきである。

1)緊急事態にあっても、自衛隊を含む行政各部の行動や、人権制約を伴う公権力の行使は、あらかじめ具体的に決められた法律に基づかなければならない。

2)具体的事態に対応するため法律に定められた権限を発動する決定は、原則として閣議においてなされるものであるが、防衛出動など特に強力な有形力行使を伴う場合など重要な決定に際しては、原則として事前の国会による承認を要する。例外として事前承認を要しない場合は、必要最小限にとどまるべきであり、この場合も、事後的に国会の承認を要するものとし、承認を得られない場合はその効力を失うものとする。

3)上記2)の決定は、原則として閣議において解除されるものであるが、国会の議決によっても解除しうるものとする。

4)上記2)の国会承認及び上記3)の議決のために必要な情報は、開示されなければならない。

5 国民・住民の生命・身体、財産を守るための体制整備

 緊急事態における国等の究極の役割は、国民・住民の生命・身体、財産を保護することにある。したがって、緊急事態法制の整備は、国民・住民の生命・身体、財産に対する被害の防止、軽減や被害者の救護など、国民生活の保護を直接の目的とした事項を優先して進めるべきである。

 また、こうした活動はもちろんのこと、自衛隊や警察等による公権力の行使にあたっても、国民・住民の自発的・継続的協力がなければ、十分な効果をあげることができない。したがって、これらの協力をより効果的にするための国等の支援に関する法整備を公権力行使の規定とともに進める必要がある。

6 国民への情報提供

 緊急事態における情報過疎は、国民の不安を増大させるだけでなく、被害の増大を招く恐れもあると同時に、民主的統制の実効性を失わせる。したがって、政府は国民の生命・身体、財産の安全に十分配慮した上で、できる限り国民に情報を提供すべきである。特に、公権力の行使に伴って生じた人権の制約に係る事実関係ついては、その全容を公開すべきである。

7 全体としての法体系

 緊急事態法制の法体系をどのように組み立てるのかは、必ずしも唯一の正解があるものではない。しかし、いかなる法・ルールも目的や基本理念を明確にした上でなければ、矛盾なく組み立てることができない。 したがって、私たちは、今回ここに、上記「2」〜「6」の目的・基本理念を明確にし、これらの目的・理念に基づいて具体的法制の検討を行う。 また、緊急事態に関しては、これに適切に対処すること以上に、緊急事態に陥ること自体を事前に防止することがより重要であることは当然である。したがって、民主党は、すでに99年、安全保障基本政策においていわゆる予防外交の重要性を確認しているところであるが、これをさら具体化するとともに、自然災害の予知、テロの予防、災害に強い街作りなど、国民・住民の生命・身体、財産を守るための日常的な対策についても、具体化を急ぐ。

2002年3月28日

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