2001年5月31日

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介護保険導入後1年 介護保険に対する民主党「10の提言」解説

民主党「介護保険をより良くするワーキングチーム」

1. 保険料と利用者負担の低所得者対策 
〜低所得者も安心して各サービスを利用できる制度の整備・運用を〜


介護保険制度上、低所得者に対して、保険料の段階化や高額介護費による月額利用料の上限設定など、一定の制度的配慮が既になされている。しかし、保険外での自己負担の問題などもあり、特に徴収の基準で市町村民税が世帯非課税である第二段階や、第一段階で生活保護を受けていない層では、保険料が過重な負担となって生活を圧迫している現実がある。また、中低所得層においては1割の自己負担が経済的理由によるサービス利用抑制の要因となっている。

これらの問題に対処するため、独自の減免措置を行っている保険者(市町村)も少なくないが、中には安易に一般財源により補填しているケースがある。一方で、逆に何も対処していない保険者もあり、どちらも問題である。地方の自主性を尊重する必要はあるが、保険のルールに外れるものや、不作為によって国民の権利を侵害するとみなされるようなことについては、国として積極的に指導すべきところである。また、現在の制度では、所得や資産の把握ができないことから、減免の内容が中途半端な面もある。

根本的には、年金など高齢者の所得保障などとの関わりで総合的に対処すべき部分ではあるが、これには時間がかかり、現に困っている高齢者はその議論を待てない。2005年の制度見直しまでの経過措置として、すぐに実施可能な施策として、次のことを検討、実施すべきである。

財政的な裏づけは、その趣旨から、生活保護などの施策に準じて国の責任で行う。

1)神戸方式 〜申告による減免の実施(保険料)〜

神戸市では、保険料の減免対象者の条件を定め、申請に基づいて個別に資産等について調査を行い、必要に応じて減免を行っている。このような「神戸方式」のように、介護保険制度の中で可能な低所得者対策を、すべての保険者(市町村等)で実施するように徹底する。減免の額や対象者の詳細な範囲等については、各保険者に任せる。

2)貸付制度の創設(保険料、利用料と保険外負担)

収入がなくても資産がある高齢者や、介護保険料の減免では対応できない保険外負担を考慮し、介護保険料、利用料の自己負担分等を低利又は無利子で貸し付け、本人の死亡時に相続人が返済する制度を創設する。現在の生活福祉貸付制度では、貸付期間が原則として1年以内となっており、現実には利用が困難であることから、別に制度が必要となる。
資産がある高齢者人にとっては、リバースモゲージ的な利用も可能。

3)社会福祉法人の特例措置の拡大(利用料)

利用料の減免制度は、現在は社会福祉法人である事業者にしか認められておらず、手続きが複雑なことなどもあってあまり利用されていない。この制度を、医療法人やNPO、民間事業者も活用できることとし、併せて手続きも簡素化して使いやすいものに改める。

低所得者対策は、社会的な公正性を確保し、人生の最後での尊厳を守るために必要な施策である。また、低所得者の利用料軽減は、重度になる前のサービス利用を促進し、在宅で介護を受ける期間を延ばすと予想されるため、トータルな社会的コストとしては高くつかない。


2. 質の伴った介護サービス基盤整備の推進

「ゴールドプラン」、「新ゴールドプラン」、「ゴールドプラン21」と、介護基盤の整備が進められてきており、グループホーム、ユニット型の「個室」特別養護老人ホーム、ケアが受けられる高齢者住宅、デイサービスセンター等、国民のニーズに合った施設が少しずつ増えてはいる。しかし、まだまだ需要に応えられるだけの数が提供されていない。サービス量が足りないために希望するサービスを受けられなかったり、施設の入所待ちとなる状況が発生している。そして、希望しても施設をすぐに入れないことから、まだ在宅で過ごせても、万一を考えて早めに施設に入った方が安全だという心理により、施設志向が高まるという悪循環にもなっている。

また、本来ならグループホームや特別養護老人ホームでゆったりとした介護を受けるのが妥当な高齢者が、施設が無いために、病院から、治療の必要が無くても退院できない「社会的入院」もなかなか減らず、社会的なコスト増大の要因となっている。更に、利用者が施設を選ぶのではなく、施設が処遇のしやすい利用者を選ぶ「逆選択」という介護保険の理念と本末転倒した事態も起きている。

グループホームや特別養護老人ホームなどの介護保険施設を作ったり、ホームヘルプサービスやリハビリサービスの提供量を増やす介護保険の基盤整備を行う方が、従来型の大型公共事業よりも、雇用創出効果が高いことが、各種の研究調査により明らかになっている。

よって、従来型の公共事業よりも、雇用創出効果が高く、しかも切迫したニーズがあり必要性が明確な介護保険基盤の整備へ大胆に予算をシフトし、必要な介護サービスを必要な時に受けることができるという介護保険の理念の実現を図るべく、「ゴールドプラン21」を前倒し、上乗せして実施すべきである。

1)質の高い痴呆性高齢者向けグループホームの大幅な増設

ゴールドプラン21では、2004年度までに3,400ヶ所、約25,000人分を目的としている。しかし、160万人と推定される痴呆性高齢者にとっては64人に一人しか利用できず、少なすぎる。2005年度までに全国に10,000ヶ所(中学校区に1つ)、2010年度までに25,000ヶ所(小学校区に1つ)、20万人に目標を上方修正する。併せて、グループホームの計画数を「か所」でなく、入居できる人数で表記すべきである。そうすれば、他の介護保険施設の定員に比べて、いかにグループホームの定員が少ないかが一目瞭然になる。

ただし、グループホームは小規模なために、良い処遇がしやすい反面、運営方法によっては密室になり、虐待などの温床になる危険性がある。実際、グループホームへの理解ができておらず、痴呆性老人の処遇がきちんとできない質の悪いグループホームが問題化して、県と厚生労働省が指導に入っている。このようなことにならないよう、管理者や職員への研修等を十分行うようにすることや、事業者の情報公開、地域との交流などが担保されるよう、行政の監査、指導や地域住民が関わってゆくことが重要になる。

また、現在はグループホームの介護報酬に夜勤が見込まれていないため、良心的なグループホームにおいて必要があって夜勤体制を取ると、職員の処遇を低く抑えないと採算が取れないという問題が出ている。これを放置すれば、それを理由に「夜間の体制が不十分でも仕方が無い」「入居者の安全のために部屋のカギを閉めています」ということにもなりかねない。今後、中度や重度の痴呆性高齢者がグループホームでターミナルまで過ごすケースも増えてくる。

グループホームの増設と併せて、きちんとした体制で運営できるよう、介護報酬を早急に引き上げるべきである。

2) 「個室・ユニット型」特別養護老人ホームの増設

特別養護老人ホームが足りないからと言って、これまでのような、プライバシーも守れない4人部屋の施設を建てるのは良くない。21世紀においては、「たとえ障害があっても、『施設』ではなく、『住宅』に住む権利がある」という理念のもと、特別養護老人ホームを「高齢者ケア付き住宅」に改革していかねばならない。そのためには、まずは特別養護老人ホームの完全個室化が急務である。

国会でも「特別養護老人ホームを個室化すべき」という議論は10年以上前からなされてきた。しかし、「特別養護老人ホームが足りないので、質よりも量が先決」と言われ、個室化の推進は遅々として進まなかった。全室個室に整備しようとした法人に対して、止めるように指導されたこともある。

介護サービスの基盤整備は、従来型の公共事業よりも経済波及効果や継続的な雇用効果が期待できる。また、必要性も明確である。これから建設される施設が今後50年使われることを考えると、質をきちんと確保することが、有効な投資を行うためにも求められる

新築の介護保険施設は、「完全個室」「ユニット型」を義務付けるべきである。また、新設のみならず、既存の特別養護老人ホームについても、「特別養護老人ホーム個室化戦略」を策定し、計画的に個室への改築を誘導・推進すべきである。その際、廊下幅などの施設基準を緩和して、住宅らしい設計がしやすくすることも考えなければならない。

住環境が要介護高齢者にとって非常に重要であることから、国際的にも「施設から在宅」への転換が急速に進んでいる。これからは日本の介護保険施設も、高齢者の「住居」「住宅」に限りなく近いグレードに住環境を引き上げる必要がある。
具体的に言えば、「住まい型老人ホーム」とも言うべき、個室で7−9人のユニットに分かれたサイズに区切られた介護保険施設を新築する。現状では、施設基準で居室の定員は4人以下となっているが、個室を原則とするように改正し、希望すれば必ず個室を選択できるようにする。

個室の住まい型特別養護老人ホームについては、在宅介護との費用負担の公平性を考えると、入居者は家賃などのいわゆるホテルコストも自己負担することになるが、それを支払えない低所得者が個室の特別養護老人ホームから排除されてはならない。低所得者は4人部屋、中高所得者は個室という住み分けにならぬよう、誰でも個室に住む権利があることを明確にし、低所得者には住宅補助や家賃手当てというような具体的な配慮をすることが不可欠である。これは、現在のグループホームでも同じである。

3) 宅老所への介護保険からの給付

宅老所が全国各地に増えており、500ヶ所を超えようとしている。宅老所は、従来の大規模な施設とは異なる家庭的なケアと身近で利用しやすいという理由などから、利用者からは好評である。

宅老所は民家を改造したデイサービスが基本であるが、ショートステイやグループホームのような入居が可能なところもある。しかし、グループホームの基準には届かないものが多く、全国の宅老所の多くが介護保険から一切給付を受けられないか、デイサービスの部分だけしか給付を受けていない。

よって、介護保険から宅老所に給付をするために、「民家改造型デイサービス」、「民家改造型グループホーム」という制度を創設し、宅老所の普及を促進する。具体的には、従来のデイサービスやグループホームの基準よりもゆるやかな基準で、市町村の判断により、介護保険の対象事業として認め、介護報酬を給付する。更に、民家の宅老所への改築に対する助成の実施や、宅老所を運営する法人が社会福祉法人となれるようにすることが必要である。

4) ショートステイの個室化

特別養護老人ホームの個室化の議論は、ショートステイにおいては、なお更である。
ショートステイを利用して症状が悪化する痴呆性高齢者が多い。これは、ショートステイが家庭とあまりにも違う環境であるため、高齢者がその環境の急激な変化についていけないことが大きな要因の一つである。そこで、家庭的なショートステイの居住環境、つまり個室で家庭的な居住環境のショートステイとすることが重要である。


3. 介護報酬の見直しの前倒し
  〜ケアマネージャー、グループホーム、ホームヘルパーなど〜


グループホーム、家事援助、ケアマネージャーの介護サービス計画作成に対する現在の介護報酬は低すぎる。ケアマネージャーの受け持ち利用者数の適正化やグループホームでの夜勤態勢の確保など、適正な事業執行を行うためにも、また介護関係職の労働環境を適正化するためにも、2年後の見直しを待たずに、早急に介護報酬を見直すことが必要である。

ケアマネージャーの働きによって、利用者の生活の質(QOL)は大きく変わる。ところが、現状では多くのケアマネージャーが、過剰な数のケースを抱えて十分な対応ができず苦しんでいる。厚生労働省の想定では、一人のケアマネージャーが50人の要介護高齢者のケアプランを担当できるとしているが、この数では、きちんと継続的に訪問して対象者の状態を把握し、本人や家族にサービスの説明を行うことは困難である。民主党が大津市や仙台市で行った公聴会においても、ケアマネージャーから、「家庭崩壊しそう」「家事援助のホームヘルパーを派遣して欲しい」という悲痛な声が聞かれた。ケアマネージャーが適正な業務を行えるよう、早急に介護報酬の引き上げを図らないと、介護保険全体の質の低下につながる。

また、グループホームでは、夜間も各入居者の見守りが必要なため、夜勤の体制が必須となる。この現状に対応するために、介護報酬を現状の月25.3万円(要介護度3)から引き上げ、夜勤を義務付けする。

また、グループホームの自己負担は平均で月12〜14万円と推定され、現状では特別養護老人ホームの自己負担6−7万円のほぼ倍であり、比較的裕福な高齢者がグループホームを利用する傾向になっている。似たような症状の痴呆性高齢者が利用するにもかかわらず自己負担が倍も違うのは不公平である。自己負担を含めた利用条件を介護保険施設と同等にするべきである。

食事の準備や掃除を始めとする、家事援助のサービスそのものについては、要支援や要介護の高齢者にとって非常に重要かつ必要なサービスであると考える。にもかかわらず、家事援助に対する介護報酬は低く、ホームヘルパーも介護サービス事業者も苦しんでいる。

適正な事業を確保するためにも、また介護関係職の「やる気」の昂揚、職の定着の意味でも、全体の保険料をアップさせない範囲で介護報酬を引き上げ、ケアマネージャーやホームヘルパーの待遇を改善することが急務である。

介護報酬を引き上げると保険料もアップするのではないかという危惧がある。しかし、ケアマネージャーがしっかり機能することにより、より多くの高齢者が重度化を未然に防ぎ、施設の利用を防ぐことができる。さらに、グループホームの利用によっても痴呆症の進行が遅くなることがわかっている。よって、ケアマネージャーやグループホームの介護報酬の引き上げは、一概に社会全体の介護費用を引き上げるものではない。


4. ケアマネージャーの充実

「介護保険の要(かなめ)」と言われるケアマネージャーだが、「ケアマネージャー殺人事件」も発生し、その信頼が低下している。能力のばらつきも大きく、また業務が集中して多忙なことから、現状では期待された役割を十分に果たせておらず、またケアマネージャー自体も相当な負担を負っている。

朝日新聞が行った全国ケアマネージャー調査では、月平均のケアプラン作成数50件以上の人が24%、業務をこなすうえでの問題点として事務量の多さをあげている人が63%などとなっており、ケアマネを辞めたいと思ったことがある人は61%に上っている
介護報酬の引き上げなどにより、ケアマネージャーの業務量の適正化と事業者からの独立性を高めるとともに、現職のケアマネージャーへの研修教育制度を確立し、ケアマネージャーや介護スタッフの研修受講を積極的に支援する制度を設け、人材養成と全体のレベルの底上げを早急に図る。


5. 痴呆施策の強化
 〜痴呆専門スタッフの育成と要介護認定の適正化〜


  • 痴呆ケア人材養成学校・コースを各都道府県に

    21世紀最大の介護のテーマは痴呆である。グループホームも2004年度までに3400ヶ所の整備が計画されているが、前述のようにそれでは足りず、もっと増やすためには、それに見合う痴呆ケアスタッフの人材の育成が必要である。

    国も高齢者痴呆介護研究・研修センターを全国3ヵ所につくり、取り組んでいるが、痴呆介護についての研究と、医師も含めた各職種における痴呆介護への正しい理解と対処ができる人材の養成を、より一層進めるべきである。

    また、グループホームは小規模であるがゆえに、従来の施設以上に、痴呆ケアのプロとしての介護職員の研修が必要である。現在、グループホームの管理者だけに研修が義務付けられているが、グループホームの介護スタッフの研修も努力規定ではなく、義務付けし、財政的な裏付けをつけるべきである。また、介護保険の要(かなめ)となるべきケアマネージャーの痴呆に対する理解のバラツキも大きく、充実した研修が求められる。

    そこで、痴呆ケアやケアマネージャーの人材養成学校やコースを各都道府県につくる。たとえば、学生数が減っている高校・大学の空き教室を使って、痴呆ケア人材養成コースをつくる。併せて、現に業務を行っている者の受講を促すための方策について配慮する。

  • 痴呆性高齢者の要介護認定の適正化

    痴呆性高齢者の要介護認定については、当初よりは改善されてきたと思われるが、依然訪問調査を行う人の痴呆に対する理解などによって、要介護判定の結果が異なることがある。また、痴呆性高齢者の要介護認定が軽く出がちである。これに対して、厚生労働省はソフトの見直しを計画しており、その見直しに2―3年かかると言うが、それでは遅すぎる。高齢者や家族は待ちきれない。1次判定ソフトが改善されるまでの期間についても、痴呆性高齢者の要介護認定の適正化が必要である。

    具体的には、二次判定における要介護度の変更事例を示すだけではなく、例えば山口県玖珂郡医師会が出している「元気な痴呆・問題行動例の一次判定補正基準」のような、判定の現場で使いやすい基準を早急に示すとともに、訪問調査員に対する研修を繰り返し行ってゆく。

  • 「痴呆年」の実施

    人材を集め、質を向上させるためには、国民的な理解が欠かせない。寝たきり問題への理解はかなり深まり、寝たきり予防は進んできている。しかし、痴呆についてはまだ一般の理解が不十分である。そこで、「痴呆年」を制定し、1年間を通じて痴呆について啓蒙する。それによって、痴呆の予防や痴呆の介護方法などについて国民全体が学べる環境を構築する。

    ちなみに、スウェーデンでは1994年を「痴呆年」と定め、痴呆ついての啓蒙活動を行い、大きな成果をあげた。


6. 身体拘束ゼロ作戦の徹底
 〜「身体拘束ゼロ3ヵ年計画」の策定を〜


  • 実態調査と実施の徹底

    身体拘束ゼロ作戦も、身体拘束をなくすための素晴らしいマニュアル(冊子)が作成され、全国の介護保険施設に配布されている。しかし、これからが本番である。施策の進捗状況と効果を検証するためにも、早急に精神病院や障害者施設なども含めて、実態調査を行うべきである。実態調査なくして、身体拘束がなくせるはずがない。さらに、「身体拘束ゼロ3ヵ年戦略」を策定し、3年間という達成年次を決めて身体拘束ゼロの徹底をはかるべきである。また、介護保険施設のみならず、精神病院や障害者の施設などにも拡大して、「身体拘束ゼロ作戦」を断行すべきである。

    このためには、施設に対する指導監査を厳しく行い、身体拘束が放置されている悪質な施設に対しては、保険指定の取り消しを行うといった厳しい姿勢で臨むべきである。

    また、現場や家族の意識改革が不可欠である。そのため、すべての介護保険施設に、「身体拘束をすると介護保険の指定が取り消されます」と書いた「身体拘束ゼロ作戦」の啓蒙のポスターを掲示し、家族や現場の意識改革を行う必要がある。

  • 指導監査結果等の情報を利用者に提供

    利用予定者が、身体拘束をはじめとする施設の処遇状況について判断できるように、指導監査における調査結果内容のうち、利用者個人のプライバシーに関わる部分を除いて公表する。よりきめの細かいものはオンブズマン等に期待することも考えられるが、この取り組みには地方によって差が大きい。既に制度として定着して、毎年行われることになっている指導監査の内容を公表することで、全国的な施設の質の向上に役立つ。


7. サービスの質を確保・担保するための施策の充実

入居施設やグループホームでは、それが密室化することなどにより、不正や人権侵害が行われやすい環境になることもある。それを未然に防ぐために、第三者評価を含めた各事業者における情報公開の徹底と、監督官庁による抜き打ち監査を含めた適切な監査とその結果の積極的な公開が求められる。

また、家庭という密室でも、特に一人暮らしの場合など、ケアマネージャーやホームヘルパーによる犯罪も発生している。研修での倫理面の教育と併せて、担当の高齢者に複数の人間が関わり牽制するなど、犯罪を発生させにくいシステムについて検討し、普及させる必要がある。


8. 介護労働者の実態調査と労働条件の改善

介護職は、訪問介護の家事援助も含めて、本来個々の利用者の状態に合わせた、精神的なケアも含めた高度なサービスを提供するものだが、医療職に比べてその専門性が軽視されてきた面がある。

「介護は人なり」と言われ、よいサービスのためには優れた人材の育成が欠かせない。しかし、労働条件が悪く、人材の使い捨てになっている。現場の職員にヒアリングをしても、その悪い労働条件から、そのまま勤め続ける自信が持てないという人も多い。

介護保険開始後、特別養護老人ホームでは、収入が増えて人件費比率が低下する現象が起きている。これは、非常勤職員が増えているためと推測される。ホームヘルパーも、雇用が不安定な登録ヘルパーが多く、プロとしての継続的な仕事がしづらい環境になっている。グループホームでは、宿直という名目で実質的には夜勤を行っているなどの現状もある。

職員が定着しないのでは、いくら研修を充実しても費用対効果が悪くなり、結局国としても損失となることから、現場の実態を調査し,職員の専門性確保のための施策の推進と、労働条件の改善を図る必要がある。


9. 介護保険制度見直しの場に現場と利用者の生の声を

今までの介護保険に関する審議会には利用者やその家族、ホームヘルパー、ケアマネージャーの代表が委員として入っていなかった。2年後の介護報酬見直しに向けて、審議会などが設置される予定になっている。その委員として現場(ケアマネージャー、ホームヘルパー、施設職員等)、利用者(65歳以上の利用者と65歳以下の特定疾病の利用者)と介護家族の代表を加える。

また、今後障害者への介護保険適用を睨んで、障害当事者の代表も議論に参加できるように委員として加える。


10. NPO法人が提供する介護サービスを非課税に

介護サービスの提供者として、市民の活力を引き出すNPO法人の力は大きなものになっている。しかし、NPO法人は財政基盤的にも脆弱なものが多く、社会福祉法人と公正な競争を行い、介護サービスの普及を促すためにも、NPO法人の介護サービス事業を非課税にすることが必要である。


私たちが目指す高齢社会での介護の姿

 最後に、提言の実行により実現を目指す高齢社会での介護の姿を示す。
 頼れるケアマネージャーのコーディネートにより、多様な在宅サービスを利用して、望めば自宅で住み続けることができる。

自宅以外での生活を希望する、あるいは自宅で生活ができない場合には、待たずに、自分の希望する介護保険施設やグループホームを選んで入居できる。

 さらに、自宅以外で生活する場合にも、雑居部屋ではなく、「住まい」と呼べるような個室・ユニット型特別養護老人ホームやグループホームで尊厳を持って暮らせる社会。老人保健施設や病院もそれぞれ、リハビリテーションの場、治療の場という本来の役割を担える社会。

 以上のことが、貧富の差や地域の差なく、権利として保証される社会。
 これは夢物語ではない。「10の提言」をすみやかに実行することにより可能である。


メモ 主な所要費用

◎ 低所得者の保険料減免

神戸市の例

  減免内容
   所得120万円以下を対象に、第二段階を第一段階に
   所得60万円以下を第一段階の半分に減免する(2001年10月から)

  対象者数 高齢者人口25万人中5000人とが対象と想定。12年度実績は約2500人。

全国で考えた場合、対象者が2%として、高齢者人口2500万人中、50万人が対象。
そのうち1割が60万円以下の所得とすると、

 3000円/月×(0.75-0.25)×12月×5万人=9億円
 3000円/月×(0.75-0.5)×12月×45万人=40.5億円

合計で約50億円

 保険財政の公費は50%なので、公費負担分は25億円

高齢者の保険料への反映は、高齢者一人当たりで

 500,000万円÷2500万人×0.17= 34円(市町村によって変わる)


◎ 介護基盤整備

グループホームの設置数増加:
入居者一人当たりの施設設置費用は、特養と変わらないので、トータルの費用としては増加しない。

新設特養:1施設を建設するために必要な費用は現状と大きく変わらない。
既存特養改築:2001年5月で約4600施設存在。個室化を意識して作られているものや、もともと立替時期に入っているものもあるので、個室化の必要によって4000施設を建て替えること、改築に必要な国費が1施設5億円として、5億円×4000=2兆円

2001年5月31日

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