2002/10/21

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小泉総理の所信表明演説に対する代表質問

民主党 中野 寛成

「小泉内閣は国民を救えない」中野幹事長が代表質問(民主党ニュース)

 21日の衆議院本会議で、民主党の鳩山由紀夫代表に続き、中野寛成幹事長が小泉首相の所信表明演説に対する代表質問に立ち、主に内政問題に絞って首相を追及した。

 中野幹事長は冒頭、首相の所信表明について「この政権はいよいよやる気を失ったとの強い印象を持った」と痛烈に批判。経済再生国会だとされながら、期待された総合デフレ対策も示さず、拉致問題や核開発問題を踏まえた日朝国交正常化交渉についても展望が欠けたままだと指摘した。

 まず竹中金融・経済財政担当相が打ち出した“反省なきペイオフ解禁2年間延期”と“デフレ対策なき不良債権加速化”について、小泉首相が「政策転換ではない」と繰り返し述べていることを取り上げ、「首相にあるまじき危機意識の欠落だ」と痛烈に批判。デフレ退治の具体策が示されなかった点についても、「大胆かつ柔軟な措置を講ずる」といった意味不明の逃げ口上だけでは、政府の方針を理解することは不可能だと指摘し、「雇用や中小企業経営者の不安を断ち切る安全網対策はどこに消えたのか。補正予算を見送るという判断はどこから来たのか、何のための臨時国会なのか」と詰め寄った。

 しかし小泉首相は、「デフレを克服しながら、民間需要主導の持続的な経済成長を実現するために政府と日銀が一体となって総合的な取り組みを行う」「金融システム安定化策、構造改革の加速策、雇用や中小企業対策などのセーフティネット策を含む対応策を今月末に取りまとめる」と、具体性のない答弁に終始した。また、今国会に補正予算を提出する考えがないことを改めて示した。

 失業対策と雇用の確保について中野幹事長は、失業手当給付期間の延長、自治体やハローワークだけに依存しない柔軟な失業対策、職業訓練など再教育を保障する個人を対象とした給付制度の拡充、雇用保険財政の安定化などに取り組むよう、首相に求めた。また、景気浮揚効果のある十分な補正を組むためにも、首相の思いつき的な口約束「国債30兆円枠」そのものの撤廃は避けられないと指摘した。

 加えて中野幹事長は「財源は、国債以外にもある」と指摘。従来型の公共事業を大胆に見直し、それを介護、医療・健康、環境や新エネルギーなど新しい分野への人材育成や投資などに振り替えることで、大きな景気浮揚効果が生まれるとの考えを示した。同時に、NPOをはじめ非営利団体の活動支援による新たな雇用創出策も提案。民主党を始めとする野党が提出しているNPO支援税制法案に賛同し、その成立を急がせるべきだ、と首相に迫った。

 年金改革をめぐって中野幹事長は、小手先の見直しであってはならないと指摘。将来の年金ビジョン、そのための制度改正の方向性を首相に質した。首相は「平成16年度の次期年金改正では幅広い観点から議論する」とするにとどまった。

 また、先の通常国会で健保本人の医療費負担を3割に引き上げ、1兆5000億円もの国民負担増を押しつける改正健康保険法を強行成立させた小泉内閣の姿勢を厳しく糾弾。医療制度の抜本改革について明快な方針を打ち出すよう、首相に迫った。緊急事態法制の整備については、先の通常国会での政府案のずさんさを改めて指摘した。

 大島農水相の前秘書官の斡旋収賄問題について中野幹事長は、国民の政治不信が極まり、首相も「国民の政治への信頼なくして、改革の実現は望めない」と述べていながら、所信表明では「政治とカネ」の問題に対する取り組みが欠落していたことを怒りを込めて批判した。

 最後に中野幹事長は、「民主党はまず、この国の経済再生に取り組むと同時に、崩壊の危機にある日本社会の再生に大胆にチャレンジするものであることをここに宣明する」とし、代表質問を締め括った。


中野寛成君

(はじめに)
 私は、民主党・無所属クラブを代表し、総理の所信表明に対して質問いたしますとともに、若干の所見を表明いたしたいと存じます。とりわけ、私は、内政問題に絞り、小泉内閣の経済無策とその不幸な帰結について問いただします。(拍手)

 さて、私は、小泉総理の所信表明を聞いて、この政権はいよいよやる気を失った、そういう強い印象を持ちました。

 経済再生国会とも言われますときに、期待された総合デフレ対策も示さず、いま一つの焦点である日朝国交正常化交渉についても、事前に解決すべき拉致問題、核開発問題、工作船事件など重大な障害ばかりが目立って、展望が欠けたままであります。手詰まり、空回り、空疎な大音声、あげくの果てに説明なき政策転換、国民はもう聞き飽きました。

 市場は、国民生活や日本経済を学者の実験道具のように扱う姿勢に驚愕しています。竹中大臣が打ち出したのは、反省なきペイオフ解禁二年間延期と、デフレ対策なき不良債権処理加速化であり、明らかな政策転換でありました。

 ところが、首相は、記者団に対して、政策転換ではない、改革路線を確固たる軌道に乗せるものだとかわしています。あるお年寄りの言葉をかりますと、まさに、撤退を転進と言った戦前の大本営発表そのものだということであります。(拍手)

 大本営といえば、小泉総理の不良債権対策など、その最たるものであります。説明責任を回避し続ける小泉総理の姿勢に、さすがに身内の自民党内からも、過ちを改むるにはばかることなかれという声が聞こえるほどであります。このままでは日本経済がつぶされてしまいかねない。国民は、先ほどの答弁にも示されたとおり、総理の危機意識が余りにも欠落していることに驚いております。

 説明なき政策転換のもとで、竹中ショックはさらなるデフレ圧力を生み出し、景気回復の芽を摘み、市場では企業倒産のうわさが飛び交っています。これは、柳澤氏が銀行と企業再生の一体的処理を打ち出した二年前より日本経済がはるかに深刻なデフレに陥っていることを見ない、無視した、タイミングを逸した判断の帰結にほかなりません。

 今日の日本では、不良債権問題と物価の継続的な下落のデフレーションが同居しております。この両方同時に手を打たなければ、不良債権処理の加速化がデフレ圧力をさらに高めるという悪循環に陥ることは火を見るより明らかであります。かのアメリカの大恐慌時代と全く同じ、消費が冷え込み、失業者が急増し、問題企業の連鎖倒産が引き起こされる危機的状況にあります。

 不良債権処理とデフレ対策がパッケージで取り組まれるのでなければなりません。しかし、政府のデフレ対策はいまだ明らかではない。それが竹中ショックの背景だということを総理はよく認識するべきであります。

(経済再生、デフレ対策について)
 しかるに、所信表明では、デフレ退治の具体策は示されず、デフレ不安をそのまま加速するかのようなポーズをとり続けているだけでした。あるのは、総理お得意の逃げ口上、大胆かつ柔軟な措置を講ずるという意味不明の一言だけであり、産業人や国民が注目している補正予算についても、大胆かつ柔軟な措置の一言であります。これでは、政府が何をしようとしているのか理解することは到底不可能です。

 そこで、まずお尋ねいたしたい。
 大手企業の倒産も辞さないとの威勢のいい、しかし、経済政策担当者としては実に無責任な言葉を繰り返した竹中発言のほかに何も示されていないという事態をどう受けとめているのか。とりわけ、雇用や中小企業経営者の不安を断ち切る安全網対策はどこに消えたのか。それでも補正予算を見送るという判断はどこから来たのか。一体、何のための臨時国会なのか。総理の明確な回答を求めます。(拍手)

(一体、何のための改革か)
 無責任ないわゆる竹中ショックで、国民の先行き不安は頂点に達しています。株価下落に続いて、企業倒産の風評被害の続発、個人の消費意欲の低迷、企業の投資意欲の減退、外資の流出、まさに小泉式デフレスパイラルが加速しているのであります。こうした中で、とりわけ中小企業の経営者が路頭に迷う悲劇が生まれており、自殺者も後を絶ちません。これが経済の実態です。

 先般、大阪では、二千万円の融資を申し込んだところ、追い詰められた中小企業者の足元を見て、一千万円の強制出資金を条件に融資を示されたあげく、融資をした信金はつぶれて出資金は返してもらえない、ふいになった、あげくの果てに、その出資金に使ったお金を加えた三千万円の借金だけが残ったという出来事も起こっております。

 あなたがつくり出したデフレスパイラルは、こうした事態を毎日つくり出しているのであります。総理は、これら中小企業者に対して、どんな政策をもって臨もうとしているのでしょうか。

 小泉内閣は、大手ゼネコンなどを救済し、国民や中小企業を切り捨てる政策をとっておりますが、これこそ本末転倒と言わざるを得ません。また、政府の不良債権処理は、大銀行を助けても、中小企業への貸し渋り、貸しはがしを加速するものであり、その哲学や手法に大きな問題があると言わざるを得ません。

 民主党が主張している不良債権処理は、あくまでも、金融機関が本来の姿に戻り、特に地元の中小企業に積極的に融資を行えるようにすることが目的であります。そのため、金融アセスメント法を策定するとともに、中小企業に対する金融上のセーフティーネットを確立することが絶対条件であります。

 また、私たちは、消費者、生活者の生活支援のため、住宅ローン、教育ローンの利子減税、失業者の住宅ローン負担軽減を断行すべきだと考えます。また、個人投資家から完全に信頼を失った証券市場を活性化するため、大胆なキャピタルゲイン課税の軽減を実施すべきだと主張しております。

 さらに、深刻化する失業対策と雇用の場の確保について、政府はもっと真剣に取り組むべきであります。失業手当給付期間の延長、自治体やハローワークだけに依存しない柔軟な失業対策、職業訓練など再教育を保障する個人を対象とした給付制度の拡充、そして雇用保険財政の安定化など、政府としてやるべきことはまさに山積いたしております。

 そもそも、景気浮揚効果のある十分な補正を組むには、総理の思いつき的な口約束、国債三十兆円枠なるものの撤廃が避けられないのではないか。これは、閣内からもその声が上がっているではありませんか。現実を直視せず、みずからの勇ましい言葉に酔いしれている間に、政策転換を認める潔さもあなたは見せようとせず、言葉の上塗りで、どのようにしてこの難局を乗り切ることができると考えているのでしょうか。補正問題に対する総理の姿勢を改めてお尋ねいたします。

 不良債権を一気に処理する案も、公的資金の投入も引当金の引き上げも、すべて、四年前の九八年で出されていた方策でしかありません。政策に何の新味もないのに、経済財政諮問会議で検討いたしますと、議論ばかりで結論は出ない。問題なのは、総理の指導力の欠如にあると言わなければなりません。これから先も、政治責任のない民間人の議論に任せるつもりなのか、総理がみずから責任を負うのか、所見を伺います。(拍手)

 早くも、総合的なデフレ対策を打ち出すと豪語した経済財政諮問会議自体が、先送りを繰り返して迷走しております。十七日の会合で決定するはずが、まとまらず、総理の所信表明にも間に合わないというていたらくであります。これでは、加速化ではなく、遅速化にほかなりません。審議のブレーキは、大胆なデフレ対策にしり込みする財務省に忠実な総理御自身ではなかったのか。いかがでしょうか。何か反論がありましょうか。(拍手)

 小泉総理が威勢よく語るのは、いつも、財務省の枠の中での発言ばかりであります。税制改革も、国債発行枠も、補正予算の編成も、特殊法人の改革も、皆、財務省、金融族そのままではありませんか。みずから族議員にとどまっていては、大胆な改革などできるわけがありません。これでは、改革は加速どころか、日本経済は立ち往生し、野たれ死にすることは火を見るよりも明らかであります。あなたが自民党をぶっ壊す前に日本経済をぶっ壊すということを強く指摘しておきたいと思います。(拍手)

(無駄な経費を大胆に見直し、新しい需要と雇用の創出を)
 財源は、国債以外にもあります。従来型の公共事業を大胆に見直し、これを介護、医療・健康、環境や新エネルギーなど新しい分野への人材育成や投資などに振りかえれば、それだけでも大きな景気浮揚効果が生まれるはずであります。国有財産の売却、特殊法人の改廃、公務員改革によっても財源は出ます。それらの財源を、都市再生、バリアフリーの町づくり、今やオールドタウンと言われるニュータウンのリニューアルや、公立学校の三五%に達する老朽校舎の建てかえなど、これらに振り向ければ、地域のコミュニティー活動の活性化や地元中小企業の活力回復にも結びつくはずであります。今、政府に求められているのは、こうした生活密着型の新しい需要と雇用を掘り起こすことだと私は考えます。

 同時に、NPOを初め非営利団体の活動を促進し、新しい形の雇用をつくり出すべきであります。この際、総理も、民主党を初めとする野党が提出しておりますNPO支援税制法案に賛同し、その成立を急がせるべきだと考えますが、いかがでしょうか。(拍手)

(年金改革について)
 ことしは医療制度の改革、来年は介護制度の見直し、再来年は年金再計算と再設計、課題は山積しております。そうした中、国民の多くは今、将来、年金がもらえなくなるのではないか、失業したときに雇用保険は受け取れないのではないかという不安をますます大きくしております。セーフティーネットをしっかり整備し、その不安を除去しない限り、冷え切った消費や投資を回復することはできません。これが、消費不況を解決する、まさにかぎであります。

 再来年に予定されている年金改革については、現在の少子高齢化傾向をもとに今の公的年金制度で運営していけば、次期改正はまたぞろ給付削減と保険料率アップで対応するしかないと危惧されております。ことし一月に発表された政府の将来推計人口に基づく年金財政試算でも、二〇二五年度には厚生年金保険料が月収の三割を超える高水準になり、年金制度が維持できなくなるとの指摘もあります。

 まさに今、現行制度を前提に、従来から繰り返されております逃げ水年金とやゆされる小手先の見直しを今後も進めるのか、それとも、制度を再設計するような抜本的な改革を目指すのか、問われております。

 そこで伺います。国民の年金不信を解消し、将来に向けて安心できる年金制度にするため、総理はどのような年金制度を構築していこうと考えているのでしょうか。将来の年金ビジョン、そして、そのために必要な制度改正の方向について、総理の明快な答弁を求めます。

 基礎年金の国庫負担引き上げについて、政府は、前回の法改正時に、「平成十六年までの間に、安定した財源を確保し、」「二分の一への引上げを図るものとする。」ことを法律に明記しました。坂口厚生労働大臣は、国庫負担引き上げには二兆五千億円程度の財源が必要であり、消費税引き上げをお願いできるかどうかにかかっており、そのことを明確に国民に示すべきだと、実態を記者会見で述べておられます。財源をどうするかというあいまいな議論をする時期は過ぎています。まさに政治決断が求められている問題だと言わなければなりません。

 私は、基礎年金の国庫負担引き上げの財源として、将来、税方式で対応していくべきだと考えます。年金財源のあり方に対する総理の明確な答弁を求めます。

(医療保険改革について)
 次に、医療制度改革について質問いたします。
 その前に、さきの通常国会において、小泉内閣は、健保本人の医療費負担を三割に引き上げ、一兆五千億円もの国民負担増を押しつける改正健康保険法を強行成立させました。政府・与党は、九七年以来先送りしている医療制度の抜本改革をまたも見送り、患者負担だけを押しつけました。国民の生命と生活に重大な影響を与える法律改正を連立与党の数の暴力で成立させたことは、遺憾のきわみであります。

 さて、健保法の附則に、医療制度改革の検討項目が羅列されております。中でも、医療保険制度のあり方、新しい高齢者医療制度の創設、診療報酬体系の見直しの三点について、総理は、今年度中に具体的内容、手順などを含む基本方針をまとめるとしております。医療制度の抜本改革は、十年来の重要課題であります。その間、何度も厚生大臣を歴任された小泉総理が、結局なし遂げたのは法律附則に項目を並べただけだなどと言われないよう、明快な方針を打ち出していただきたい。しっかりとした決意と答弁を求めます。

(緊急事態法制の整備・沖縄振興について)
 さきの通常国会で、衆議院で継続審議となったいわゆる有事関連法案について伺います。

 民主党は、結党以来、緊急事態法制の必要性を認めて、積極的にその検討を進めてきました。しかし、さきの通常国会では、武力攻撃事態、人権規定、民主的統制と国会の関与、地方公共団体との関係、米軍との関係など多くの問題点が明らかにされ、政府案の余りにもずさんであることが露呈いたしました。政府の答弁も全く要領を得ず、外務省、防衛庁の不祥事も相まって、惨たんたる審議となりました。

 そのいわゆる有事法制について、政府内で今、武力攻撃事態の定義や国民保護法制の見直しを、おくればせながら、つけ焼き刃のように進めているとの報道がありますが、事実でしょうか。本当に国民を守るという姿勢と哲学がその中にあるのでしょうか。また、テロ対策や不審船への対応との関連についても明快な御答弁をいただきたいと存じます。

 また、総理の所信に、沖縄に関する言及が一切なかったことには失望しました。

 ことし八月、民主党は、地元沖縄の人々との共同作業のもと、民主党沖縄ビジョンを発表しました。その特徴は、沖縄の自立に焦点を当てていることであります。

 他方、政府が七月に発表した米軍普天間飛行場の代替施設に関する基本計画案は、環境に最も悪影響を及ぼすと見られる埋立工法による建設や、米軍基地の十五年使用期限問題の結論を事実上先送りしているなど、大きな問題をはらんでおります。今次代替施設案を見直すつもりはないか、改めて政府に伺いたい。

 次に、個人情報保護関連法案について質問いたします。
 私たちは、メディア規制法案の色彩が強いこの法案に反対し、根本的な見直しを求めてまいりました。報道によれば、七月二十九日の与党三党首会談では同法案の修正に合意したと言われております。政府は法案の欠陥を認めて修正する方針であるのか、そうであれば、どのような修正を考えているのか、総理の答弁を求めます。

(企業による不正行為の防止)
 さて、BSE発生を受け、食肉処理された牛肉の買い取りが行われた際、その手続があいまいにされ、業界最大手までもが偽装に手を染め、牛肉業界全体に対する不信が定着してしまったことは周知のとおりです。しかも、買い取り手続が省略された経緯に族議員の暗躍があると報じられています。

 族議員の関与と政官業癒着の自民党的体質は、今日まで、国民の税を食い物にし、財政を破綻させる原因ともなりましたが、今や、ついに国民の命や健康までをも危うくするものとなっております。この現実を総理・総裁の立場からどう受けとめておられるでしょうか。

 食品だけではありません。一部の電力会社による原子力発電の自主点検記録の虚偽報告については、不正、ごまかしの究極ともいうべきものがありました。今回の事件は、事の発端が日本で最も尊敬される電力企業の一つであったこと、また、他の企業にも同様の問題が波及したことから、これまでの原発事故や不祥事に比べ、その社会的インパクトははるかに深刻だったと言えるものであります。

 私たちは、原子力発電の推進は、言うまでもなく、我が国のエネルギー供給の観点からも重要な施策の一つと考えております。しかし、国民の不信感をそのままに、これまでどおり原子力政策を推し進めることは困難であります。だからこそ、政府の抜本的な改善策が求められていると言わなければなりません。

 さて、今回の電力会社の自主点検をめぐる虚偽記録の事件においても、内部告発が大きな役割を果たしました。ところが、原子力安全・保安院による内部情報の取り扱いはまことに不適切なものでありました。保安院は、最初の通報があってから二年間もその情報を留保したのみならず、通報者の氏名や個人情報を電力会社に漏らすということまでしてしまったのであります。これでは、不正を暴くことはできません。このような担当行政の無責任、無神経な対応を総理はどう受けとめておられるでしょうか。また、今後、同様の告発があった場合、どのようにして迅速な処理を行うつもりなのか、いかにして告発者の人権と情報を保護するのでしょうか、その見解をお示し願います。

 さらに、今回の事件を契機として、保安院が原子力推進機関と目されている経済産業省の管轄にあることについて、疑問が提示されております。民主党は、以前から、この保安院を完全に独立させ、内閣府に移動させることを主張し、実際、西暦二〇〇〇年四月に、原子力安全規制委員会設置法案を提出しております。政府としても当然この法案に賛成されるべきだと考えますが、いかがお考えでしょうか。

(大島農水大臣の秘書官の斡旋収賄について)
 公共事業に絡み多額の口きき料を得ていたという疑惑事件がまた発覚しました。

 先ほどの総理及び農水大臣の答弁を聞いて、がっかりいたしました。大島農水大臣は、当時の国対委員長として、国会の中で、あっせん利得収賄処罰の厳格化論議に携わった御本人であります。しかも、鈴木宗男前議員の秘書逮捕に絡んで、議員には秘書に対する監督責任があると主張していた御当人でもあります。それだけに、こうした懲りない面々の後を絶たない事件の発覚に、国民の政治不信はきわまっております。

 総理は、国民の政治への信頼なくして改革の実現は望めないと述べました。しかし、通常国会の最中に四名もの国会議員が政治と金で辞職し、現在行われている統一補欠選挙の最大課題とされているのに、所信表明では、この問題に一言も触れておりません。先ほどの答弁でも、誠意と反省のかけらも全く感じられません。あなたに一貫しているのは、この政治と金の問題で終始他人事を決め込み、一度としてリーダーシップを発揮しようとしたことがないということであります。これでは、総理自身をミスター・モラルハザードと呼ばなくてはなりません。

 この政治と金に係る欠落について、改めて総理の明快な所見を求めます。

(むすびの言葉)
 最後に、長い景気の低迷、絶えることのない政治と金にまつわる政治家とその秘書のあっせん利得、政治不信、そして企業挙げての隠ぺい、不正の発覚の中で、社会の荒廃、社会崩壊の危機が静かに、しかし、急速に忍び寄っております。相次ぐ少年犯罪の発生は、少年刑務所までをもあふれさせております。性犯罪や、想像を絶する凶悪犯罪も続発しています。

 私は、今日の経済問題は、人々が現在に対してせつな的になり、未来に対して希望を抱けなくなっている、この強い危惧の念を抱いております。今、日本は、九〇年代のいわゆる失われた十年に引き続いて、二十一世紀初頭のもう一つの失われた十年を過ごそうとしております。このままでは、社会の崩壊が現実のものとなり、今でさえ年間三万人を超える自殺者がさらに増大し、犯罪の発生率の上昇と検挙率の低下によって社会不安が一気に膨れ上がるときが来るのではないかと恐れております。

 ドイツの元首相シュミット氏の言葉として伝えられるものに、「大改革を断行する者は穏やかに話せ。改革に自信のない者は声高に語れ。」というものがあります。総理の真摯な答弁を求めます。

 民主党は崩壊の危機にある日本社会の再生に大きくチャレンジすることを改めて明らかにして、私の質問を終わります。(拍手)

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 中野議員にお答えいたします。

 雇用や中小企業経営者の安全網対策を含む今後の経済対策と補正予算についてのお尋ねでございます。

 デフレを克服しながら民間需要主導の持続的な経済成長を実現していくためには、政府と日銀が一体となって総合的な取り組みを行う必要があります。

 私は、改革なくして成長なしとの考えのもと、不良債権処理の加速を含む金融システム安定化策、規制改革、都市再生など構造改革の加速策のほか、雇用や中小企業対策などのセーフティーネット策を含む対応策を今月末に取りまとめることとしております。

 対応策において、政府としては、国民に不安を与えることのないよう、雇用や中小企業経営への影響に対しては細心の注意を払い、安全網、いわゆるセーフティーネットには万全を期す考えであります。

 この対応策は、直ちに財政措置を伴うものではないと考えられることから、今国会に補正予算を提出することは考えておりません。

 今臨時国会の意義についてお尋ねであります。
 内政、外交とも課題は山積しております。この臨時国会においては、継続審議となっている案件や、ペイオフに関する制度の整備、構造改革特区や中小企業のセーフティーネット、特殊法人改革などの構造改革の推進のための重要課題について審議していただきたいと考えております。

 中小企業経営者に対する施策、不良債権処理の加速に伴う中小企業金融のセーフティーネット等についてのお尋ねであります。

 不良債権問題は平成十六年度には終結させることとしておりますが、中小企業経営への影響には十分配慮し、やる気と能力のある中小企業が破綻する事態を回避するため、信用補完制度の充実等、実効ある資金供給円滑化のためのセーフティーネット策を今月末を目途に取りまとめることとしております。

 なお、民主党の提案している金融アセスメント法案については、金融機関の融資業務等は、基本的には自主的な経営判断、すなわち市場メカニズムに従って行われるべきであり、何らかの一律の基準に基づいて政府が各金融機関の活動を評価すること等については、慎重に考えるべきものと思います。

 いずれにせよ、中小企業の新規創業、新事業展開を促進することが重要であり、中小企業の果敢な挑戦を後押ししていくように体制を整えていきたいと思います。

 住宅・教育ローンへの税制、キャピタルゲイン課税の見直しについてのお尋ねです。

 住宅・教育ローンの利子減税については、ローンに頼らず生計を立てている者とのバランスの問題等もあり、慎重な検討が必要であると考えております。

 証券税制については、簡素でわかりやすく、貯蓄から投資へといった視点から、十五年度税制改革の一環として、本格的な見直しを既に指示しております。

 なお、失業者などの住宅ローンの負担軽減については、住宅金融公庫における返済期間の延長などの軽減措置について、その周知徹底を図ってまいります。

 失業対策と雇用の場の確保についてでございます。
 政府としては、規制改革の推進を通じたサービス業を中心とした新規産業における雇用の創出を図るほか、しごと情報ネットの運用など、官民による求人、求職の相互結合機能の強化等によるミスマッチの解消などに重点的に取り組んでいるところであります。さらに、今月末に取りまとめる総合的な対応策においても、雇用のセーフティーネット確保のため万全を期す考えです。

 また、雇用保険については、当面する財政破綻を回避し、将来にわたり雇用のセーフティーネットとしての安定的運営を確保するため、給付と負担の両面にわたる見直しを行ってまいります。

 不良債権処理などの政策についてお尋ねがございました。
 日本経済の再生に向け平成十六年度には不良債権問題を終結させるとの私の指示に基づき、現在、金融担当大臣が不良債権処理の加速の具体策についてさまざまな観点から検討を行っており、まずはその報告を待ちたいと思います。

 いずれにせよ、今後、経済財政諮問会議でも議論をしながら、政府として、しっかりとした政策を今月末には取りまとめてまいります。

 私の対応策に御不満があるようで、私がこの対策にブレーキをかけているのではないかという御指摘がございました。

 私は、加速させるための構造改革の努力をしているのであって、そのような御批判は当たらないと思っております。

 総合的な対応策については、十一日及び十七日に開催された経済財政諮問会議においても、集中的な議論が行われました。政府としては、取りまとめに向け、経済財政諮問会議での議論も踏まえ、引き続き精力的に検討を進めてまいります。

 経済対策に関し、従来型の公共事業を見直し、生活密着型の新しい需要と雇用を掘り起こすべきだとの御指摘がありました。

 私は、民間の自由な取引を阻害している規制や肥大化し硬直化した政府組織を改革し、民間の力を発揮できる新しい経済社会の仕組みと簡素で効率的な政府をつくり上げるため、従来型の対策によらず、構造改革に全力で取り組んでおります。

 こういう観点から、総合的な対応策においては、不良債権処理の加速を含む金融システム安定化策、規制改革、都市再生など構造改革の加速策のほか、雇用や中小企業対策のセーフティーネット策を盛り込むこととしており、これにより、デフレを克服しながら民間需要主導の持続的な経済成長の実現を図っていくつもりでございます。

 NPO法人に対する税制上の優遇措置についてのお尋ねであります。
 NPOを初め非営利団体の活動を促進していくことは重要と考えております。NPO法人に対する税制上の支援措置については、NPO法人の活動の実態を見きわめた上で、平成十五年度税制改正の中で検討してまいります。

 年金改革の方向性と基礎年金の国庫負担についてのお尋ねがございました。

 公的年金については、国民の老後生活を確実に保障する役割を持続的に果たしていけるよう、長期的に安定した制度を確立することが不可欠であります。

 このため、平成十六年に行う次期年金改正では、国民に開かれた形で幅広い観点から議論を進め、将来の現役世代の保険料水準が過大にならないような制度づくりに取り組み、国民の年金に対する不安を払拭するとともに、少子化等の進行に柔軟に対応でき、持続的に安定した制度づくりに努めてまいります。

 基礎年金の財源については、平成十二年の年金改正法において、「安定した財源を確保し、国庫負担の割合の二分の一への引上げを図るものとする。」との規定が設けられており、平成十六年に行う次期年金改正においてこれをどのように具体化していくかについて、安定した財源確保の具体的方策と一体として、国民的議論を行いながら幅広く検討してまいりたいと思います。

 医療制度改革の基本方針についてのお尋ねがありました。
 医療保険制度の体系のあり方等の諸課題については、将来とも国民皆保険を堅持し、安定的な運営を図っていくことを基本として、現在、厚生労働省において、たたき台を取りまとめるべく準備を進めているところであり、今後、各方面の御意見も伺いながら、今年度中に基本方針を策定し、医療制度の改革に全力を挙げて取り組んでまいります。

 有事関連三法案及びテロ対策等についてのお尋ねです。
 継続審査となっている有事関連三法案については、国会における議論を通じて幅広い国民の理解と協力が得られるよう努めてまいります。

 今後整備される国民の保護のための法制についても、法案審議の中で、現段階における政府の考え方を可能な限り示してまいりたいと考えます。

 また、国と国民の安全にとって現実の脅威となっているテロや工作船などへの対応については、態勢、装備、関係機関相互の連携のあり方などについて一層の改善と強化を図り、国民の不安を解消してまいりたいと思います。

 普天間飛行場代替施設基本計画の見直しについてです。
 普天間飛行場代替施設の基本計画は、沖縄県及び地元地方公共団体の長にも参画いただいた代替施設協議会の合意を得て決定されたものであります。今後、この決定を踏まえ、沖縄県及び地元地方公共団体と引き続き十分協議を行いながら、計画の着実な推進に向けて、環境影響評価などの所要の手続を進めてまいりたいと考えます。

 個人情報保護関連法案についてのお尋ねです。
 個人情報保護関連法案は、IT社会が進展する中、個人のプライバシー等の侵害を防止し、国民生活を守るための基盤整備として不可欠なものであり、その速やかな成立をお願いしているところでございます。

 提出の法案は、プライバシーの保護と表現、報道の自由を両立させる観点から万全の措置を講じたと考えておりますが、七月二十九日の与党三党首会談合意を踏まえ、その趣旨が徹底されるよう、与党三党において修正を検討していただいております。野党からも法案をよりよいものとする御提案があれば、検討をしてまいりたいと思います。

 牛肉買い取り事業についてのお尋ねでありました。
 消費者の不安を払拭するための牛肉買い取り事業が悪用され、牛肉業界に対する国民の信頼感を揺るがすこととなったことは、まことに遺憾であります。

 反省すべき点は反省し、消費者の視点に立った食の安全の確保のあり方を構築するよう、農林水産大臣に指示をしております。現在、農林水産省において、有識者の意見をいただきながら、国民の信頼回復のための今後の行政のあり方について検討しているところであります。

 原子力安全・保安院の内部告発の取り扱いについてのお尋ねです。
 今回の原子力発電所の不正記録問題について申告のあった案件に関し、原子力安全・保安院の調査や公表の方法等において、反省すべき点があったことは事実だと思います。

 現在、経済産業大臣は、有識者の意見をいただきながら、反省点を踏まえて申告制度の改善を図っているところであります。原子力保安行政の信頼の確保に向けて、早急に改善策を実行に移してまいります。

 企業不正に対する内部告発についてのお尋ねであります。
 内部告発者の保護については、最近の企業不祥事の多くが善意の情報提供により明らかになったことなどにかんがみ、国民生活審議会において審議を行うこととしており、これを踏まえ、告発者の人権と情報の保護のあり方について必要な措置を講じてまいりたいと思います。

 原子力安全・保安院の独立に関するお尋ねです。
 原子力安全規制については、経済産業大臣が一次規制を実施し、原子力安全委員会が客観的、中立的立場から再度安全性を確認するという現在のダブルチェックの体制が最も有効に機能するものと考えます。

 今般の事案が原子力の安全に対する信頼性を損なったことを重く受けとめ、再発防止策として何が必要かについて、総合的に検討してまいります。

 政治と金の問題についてであります。
 さきの通常国会においては、あっせん利得処罰法の改正、入札談合防止法の改正など、精力的に取り組んできたところであります。
 政治と金の問題は、常に政治家が襟を正して当たらなければならない大事な問題だと認識しております。(拍手)


2002/10/21

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