2000/02/16 参議院憲法調査会で述べた意見 戻るホーム憲法目次

2月16日、参議院憲法調査会で私が述べた意見を、全文掲載します。

  1.  私は、民主党としてこの調査会のすすめ方につき何を期待し、どう取り組もうとしているかについて、若干の意見を申し述べます。

  2.  まず、これまでともすれば賛否の激突となって冷静な議論が行われにくかった憲法論議が、こうして国会で行われることになったことを評価いたします。憲法も決して不磨の大典ではなく、時代の変化に伴ってそのあり方が議論されることは、何も不思議なことでも憂うべきことでもありません。振り返ってみれば、憲法を議論するといえば、はじめから現憲法を民族の恥辱とみなして、これを改めることこそ政治の要諦と主張したり、逆にはじめから時代を逆転させる反動の動きとみなして論難したり、真っ向からの不毛な対立が横行していました。私たちは、このいずれの立場もとりません。はじめから憲法改正をめざすことを前提とするのでなく、しかし絶対に改正をしてはならないという前提をおくのでもなく、憲法とこれをとりまくあらゆる問題を、真正面から議論の対象としていきたいと思います。

  3.  従って私たちは、いわゆる「論憲」の立場に立ちます。これは、憲法論議を避けたり先送りしたり、消極的な姿勢をとろうとするものではありません。逆に、21世紀を目前にして、世界も日本も大きな変容を遂げていますから、またこれからもさらに一層の大変化を経験することが避けられない時代ですから、むしろ積極的に、21世紀の「この国のかたち」はいかなるものであるべきかにつき、議論したいと思っています。

  4.  憲法は「国のかたち」そのものです。確かに古諺に言うとおり、チェスの駒と盤だけではチェスは成り立ちません。チェスのルールがあって初めてチェスに成るのです。同様に、国民と領土と主権といった部品がそろっただけでは国は成り立ちません。その国のかたちの基本を定めるルール、即ち国の基本法があって初めて、国が成り立つのです。しかもこの基本法は、国民の側から国家主権に対してたがをはめるものでなければ、そして主権と国民の間の社会契約の性格をもつものでなければ、近代憲法と言えません。そこで私たちは、21世紀のこの国のかたちをどのようなものと構想するかを議論し、その合意を得ることができれば、これが自ら21世紀の憲法を示すことになると考えます。これが現在の憲法と同じものであれば、もち論それでよし。違っていれば、新しいこの国のかたちを実現するために憲法を書きかえることもありうるわけです。

  5.  私たちは又、現在の憲法が基本的原則としている3つのこと、つまり平和主義、民主主義、基本的人権は、これからもこの国のかたちの原則であり続けると思っています。ですからその意味では、現在の憲法の3原則は変える必要はないし、逆に変えてはならないものと思っています。

  6.  現憲法は、わが国が戦争に敗れて占領されていた時代に制定されました。占領下ですから、憲法制定過程に占領権力からの介入があったことは、誰も否定できません。しかし、敗戦と占領ということ自体が、大日本帝国憲法を基本法とする当時のわが国のかたちが引き起こした歴史の展開の帰結であり、制定過程というなら、これらの歴史全体を観察しなければなりません。占領権力の介入は、こうした民主主義、平和主義、基本的人権といった世界の憲法史の流れにその淵源を有しているのであり、第2次世界大戦終了直後という時代における国際社会とわが国の約束という側面もあります。従って、憲法制定過程をわが国の側からだけ見て、しかも1つ1つのでき事を断片的にとらえて論ずるのは、妥当ではありません。そのうえ現憲法は、帝国議会の審議を経て成立し、その後半世紀にわたって、この国のかたちを規定する基本法として、国民に受け入れられ、機能してきているのであって、制定過程に問題があるから憲法は書き改めなければならないというのは、木を見て森を見ない議論であり、私たちのとらないところです。

  7.  21世紀のこの国のかたちを論ずるには、私たちはまず、この憲法と共に歩んだ半世紀、およびこの憲法成立までの歩みをふり返ってみなければなりません。その中で、この憲法の3原則を初めとする諸規範がいかに実現されてきたか、あるいはいかに実現されていないか、規範が変容を受けてきたかといったことを総括してみなければなりません。そのうえで21世紀の展望を議論しなければなりません。

  8.  そこで私たちは、衆議院では憲法制定過程をまず調査するというように聞いていることもあり、参議院では、わが国の各界の知識人、碩学の皆さんから、「20世紀の総括と21世紀の展望」といった大所高所のご意見を伺うことから、調査を始めるのが妥当だと考えます。

  9.  なお、憲法を論ずるということは、国会として画期的な試みであり、国の基本法の議論にふさわしい進め方をしなければなりません。言うまでもありませんが、そのためには、議論のすすめ方が党利党略に流されたり、十分な討議を欠いた強引なものになってはなりません。憲法論議にふさわしい歴史と社会に対する深い洞察に基づいた、幅と奥行きのある、叡知に富んだ議論の展開となりますよう、賢明なる会長、幹事および委員のみなさんのご努力を心からお願いいたします。

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