福田康夫官房長官の談話 ホーム日誌総目次日誌に戻る

ハンセン病問題について

平成13年5月23日

 今回の判決では、「らい予防法」廃止に至るまでの国会及び政府の法的責任が厳しく指摘された。
 政府は、ハンセン病患者・元患者の苦しみと我が国の社会の対応についてのこれまでの長い歴史を振り返りつつ、国としてこの判決にどう対応すべきか様々な観点から検討を加えてきた。

 我が国においてかつて採られたハンセン病患者に対する施設入所政策が、多くの患者の人権に対する大きな制限、制約となったこと、また、一般社会において極めて厳しい偏見、差別が存在してきた事実を深刻に受け止め、患者・元患者が強いられてきた苦痛と苦難に対し、政府として深く反省し、お詫びを申し上げるとともに、多くの苦しみと無念の中で亡くなられた方々に哀悼の念を捧げるものである。

 本判決は、ハンセン病問題の重要性を改めて国民に明らかにし、その解決を促した点において高く評価できるものであるが、他方で本判決には、別記に示すような国政の基本的なあり方にかかわるいくつかの重大な法律上の問題点があり、本来であれば、政府としては、控訴の手続きをとり、これらの問題点について上級審の判断を仰ぐこととせざるを得ないところである。

 しかしながら、ハンセン病訴訟は、本件以外にも東京・岡山など多数の訴訟が提起されており、また、全国には数千人に及ぶ訴訟を提起されていない患者・元患者の方々がおられる。さらに患者・元患者の方々はすでに高齢であり、ハンセン病問題はできる限り早期に、そして全面的な解決を図ることが必要である。

 このような状況を踏まえ、政府としては、極めて異例の判断として、本判決の法律上の問題点についての政府の立場を明らかにした上で、政府声明を発表し、本判決についての控訴は行わず、本件原告の方々のみならず、また各地の訴訟への参加・不参加を問わず、全国の患者・元患者の方々全員を対象とした、以下のような統一的な対応を行うことにより、ハンセン病問題の早期かつ全面的な解決を図ることとした。

  1. 今回の判決の認容額を基準として、訴訟への参加・不参加を問わず、全国の患者・元患者全員を対象とした新たな損失補償を立法措置により講じることとし、このための検討を早急に開始する。

  2. 名誉回復及び福祉増進のために可能な限りの措置を講じる。

     具体的には、患者・元患者から要望のある退所者給与金(年金)の創設、ハンセン病資料館の充実、名誉回復のための啓発事業などの施策の実現について早急に検討を進める。

  3. 患者・元患者の抱えているさまざまな問題について話し合い、問題の解決を図るための患者・元患者と政府との間の協議の場を設ける。

(別記)

本判決の主な法律上の問題点

  1.  国会議員の責任は、国民全体への政治的責任にとどまり、国会議員が個別の国民の権利に関する法的責任を負うのは、故意に憲法に違反し国民の権利を侵害する場合に限られる(最高裁判例)。これに対して、本判決は、故意がない国会議員の不作為に対して法的責任を広く認めている。このような判断は、司法がそのチェック機能を超えて国会議員の活動を過度に制約することとなり、三権分立の趣旨に反するので、認めることはできない。

  2.  民法の規定では、20年以上前の権利は消滅すると定められている(除斥期間)が、本判決では、結果的に40年の間にわたる損害賠償を認めるものとなっている。この点については、患者・元患者の苦しみを十分汲み取って考えなければならないものであるが、そのような結論を認めれば、民法の規定に反し、国民の権利義務関係の混乱を生じさせるなど影響があまりにも大きく、法律論としてはこれをゆるがせにすることはできない。

2001年5月23日 ホーム日誌総目次日誌に戻る