2001年12月6日 戻るホーム民主党文書目次

国内テロ対策

民主党ネクストキャビネット


はじめに

米国では、同時多発テロ以降も炭疽菌事件が発生し、また、日本国内でも、自衛隊による後方支援活動の開始などにより、テロへの警戒を怠ることはできない。国内テロ対策が危急の課題である。

国内のテロ対策は、多省庁にわたっており、その総合調整は内閣官房により行われている。政府は10月12日に「国内テロ対策等における重点推進事項」を発表しているが、各省庁ごとの対策を集約したものに過ぎない。

テロ対策の強化は、国民の自由に影響を与え、行政の肥大化を招くという側面も内包している。特に、国民への自由については最大限に尊重しつつ、テロによる国民生活の破壊は何としても防ぐ姿勢を示し、具体的なできうる限りの対策をとることが必要である。民主党は、省庁の縦割りを廃し、国民の視点に立った国内テロ対策を提案する。

1.情報収集・分析体制
(関連省庁:内閣官房、外務省、防衛庁、警察庁、法務省・公安調査庁等)

  1. 民主党は、テロ対策において最も大切なのは、情報収集・分析体制の強化と情報の一元化であると考える。わが国におけるこの面での対応は、諸外国と比較しても遅れており、速やかな対応が強く求められる。

  2. 内閣官房による危機管理情報の一元化

    内外の危機管理情報は、警察庁・防衛庁・公安調査庁・外務省などが収集し、内閣情報官をトップとする内閣情報調査室へと伝達する仕組みが構築されている。それらの情報は、内閣情報調査室で分析され、内閣総理大臣、官房長官、危機管理の責任者である内閣危機管理監等、官邸の中枢に伝えられる。内閣官房による危機管理情報の一元管理の体制は整いつつある。

    しかし、同時多発テロの直前、9月6日に在外公館から警察庁にもたらされたテロ情報が内閣情報調査室にもたらされたのは、マスコミ報道後の7日21時であった。省庁の縦割り意識、内閣官房に対する不信感などが存在するため、危険情報の一元化、特に内閣情報調査室の情報の一元化は十分には機能していないのが実態である。

    全ての省庁において重大な危機管理情報を入手した場合、直ちに内閣情報調査室に連絡する義務を各省庁に課す必要がある。その責任は原則として、情報を入手した担当省庁の「局長」とする(在外公館の場合は特命全権大使)。情報の伝達をしない、また遅れたことに対する責任の所在を明確にし、場合によっては、責任者に対する厳格な処分を行うものとする。

  3. 民間の専門家の活用

    想定されるテロの多様化に伴い、求められる情報ソース・分析能力も多岐にわたっていることから、内閣情報調査室および関係省庁は、各分野の民間専門家のリストアップ、各種情報交換、緊急時の連絡体制の整備などを早急に行う。特に、サイバーテロ、核・生物・科学兵器(NBC)テロ、ハイジャック対策などについては、高度の専門的な知識経験等を有する者の知見が必須である。学術・研究機関、民間企業などとの連携を強化すると同時に、関係省庁内部でも積極的にテロ対策・危機管理に関する専門家を養成する。また、専門家の育成には一定の期間が要求されることから、現在のテロからの脅威に即応するためにも、内閣官房などに、一般職の任期付き採用を活用し、外部からの人材の緊急採用を行う。
     
  4. 国民への説明責任

    テロの情報は、国民に深刻な混乱をもたらす可能性がある。危機管理に関する情報発信については、内閣総理大臣、官房長官、あるいは内閣広報官以上のレベルで一元的に管理することとし、各省庁が特定分野の情報を発信する場合も、その判断を仰ぐものとする。

  5. 国際協力推進のための国内態勢の整備

    テロを防ぐためには、情報提供、捜査、監視など様々な面からの国際協力が欠かせない。そのためにも、国際協力推進のための人材育成や体制の強化を図る。

    また、国際協力を受けるための当然の責務として、国連、各国政府、NGO等と連携しつつ、情報提供など海外との協力も積極的に行う必要がある。

  6. 内閣の情報収集機能の強化

    わが国の情報機関は、諸外国と比較して極めて脆弱な機能しか有していない。例えば、わが国の危機管理に関する情報を一元的に集約・分析する内閣情報調査室は、情報要員を150人程度しか抱えておらず、大半は各省庁からの出向者で占められているため、縦割り意識などが情報伝達の妨げとなっている場合もある。

    また、情報収集についても、外務省、防衛庁、警察など、それぞれに担当部局はあるが、その体制、機能は十分とはいえない。法務省所管の公安調査庁(約1,600名 の内、調査官:約1,500名)は、破壊活動防止法に基づく、極左過激派やオウム真理教など暴力主義的破壊活動を行う危険性のある団体についての調査を行うことを任務としているが、広範囲な内外のテロ団体に関する調査を行っているとはいえない。

    国際的なテロ関連情報の収集などのためには、これら既存情報機関の有効活用と同時に、内閣としての本格的な情報収集機能が必要である。公安調査庁、内閣情報調査室の人員を新たな役割のための十分な研修、意識改革の上で活用するなど行政改革に逆行しないかたちで新機関を設置するなど、内閣に本格的な情報(インテリジェンス)機能を付与すべきである。こうした新しい機関が国民の自由や権利を侵害することのないよう、同時に十分なチェック機能を設ける。

  7. 警察庁の機能強化

    戦前の国家警察の弊害から、戦後は警察権力の地方分権が進展し、警察庁は国の警察機関というより、都道府県警察の連絡調整を任務としているという色彩が極めて強い。特に、国内の情報収集においては、警察庁は、各都道府県警察に頼っており、自ら情報収集を行う体制が極めて不十分である。現場の情報収集を担う都道府県警察の情報収集能力には大きな格差がある。

    国際的な情報収集についても、都道府県警が個別に行う活動には限界があり、また、現在の警察庁の体制および人員では、国際テロリストはおろか、犯罪の広域化・多様化・グローバル化にも追いついていない。国際的な情報収集のほとんどは、CIAやFBIなどの海外の治安・捜査機関に頼っているのが実情である。危機管理情報はバーターで取引きされることも多く、我が国警察独自の情報収集体制強化が強く求められる。

    テロ対策のように国全体で、また国際的に取り組むべき治安問題に限って情報収集、捜査の実働部隊を持たせるなど、警察庁の機能の大幅強化(日本版FBI)についても検討を開始する。


2.危機管理体制
(関係省庁:内閣官房等)

  1. 日本版FEMA(危機管理庁)の新設

    危機管理に関する情報は、内閣情報調査室から内閣危機管理監に伝達され、情報の分析および対応が行われている。しかし、危機管理監を中心とした現在の内閣の危機管理体制は脆弱であり、このことが、各省庁から情報が内閣に集約されない一因になっている。特に、サイバーテロ、NBC(核・生物・化学兵器)テロ等に対する対応は、省庁の縦割りの弊害を除去し、一元的に行われる必要があるが、現段階では内閣の指導力が発揮されているとは言えない。テロ発生の危険性を考えると、危機管理体制の確立は緊急の課題である。

    そこで、アメリカのFEMA(連邦緊急事態管理庁)を参考にして、内閣危機管理監の機能を強化し、情報分析および危機管理に関する権限を一元的に行う危機管理庁(日本版FEMA)を創設することを目指す。

    当面は、各省庁の指揮命令系統を見直し、テロが発生した場合に、内閣危機管理監が一元的に指示を行うことができる体制を確認する。

  2. 地方自治体との連携

    テロ発生後の救援活動や情報伝達、交通規制や応急復旧などを円滑にすすめるため、地方公共団体との連携は重要である。米国のFEMAの組織にあるFAST(現地被害調査チーム)を参考に、大規模テロ発生時におけるテロ対策支部の初動態勢を迅速・的確に確立するため、自治体独自の救援体制の構築を促進する。


3.警備・即応体制
(関連省庁:警察庁、防衛庁、海上保安庁、消防庁等)

  1. 警備・即応体制の確認

    自衛隊法の改正により、在日米軍施設と自衛隊施設については自衛隊による警護が認められたが、重要施設については、都道府県警察による警備が行われている。与えられた役割を全うする意味においても、警察は、重要施設の警備状況を完全に把握し、最大限の警備・即応対策を講じるべきである。

    また、実際にテロが起こった場合に、警察と自衛隊との連携が非常に重要となる。自衛隊への治安出動の要請について責任を持つ国家公安委員長は、要請する場合の具体例を、各都道府県警察に対してあらかじめ提示する必要がある。
    治安出動が命じられた場合などを想定した緊急事態法制の整備も早急に行う。

  2. 機動隊の活動

    国内の重要施設は、各都道府県警察に所属する合計8000名の機動隊によって警備されている。それを補うかたちで、管区機動隊4200名が全国に配備されている。都道府県によっては、重要施設が多数あるにも関わらず、十分な機動隊を持ち合わせていないところもあることから、国内テロの発生が懸念される現状において、管区機動隊が果たす役割は極めて大きい。

    もっとも、管区機動隊は、都道府県警察の間で人員移動される流動的な部隊であり、警察庁はその調整を行っているに過ぎない。国内の重要施設の警備状況を把握すべき警察庁は至急、警備が手薄になっている重要施設の警備に、管区機動隊の配備を命じ、施設警護に万全を期すべきである。

    現在、警察庁は、機動隊の銃器対策部隊に充当する1400丁の自動小銃を補正予算で要求している。都道府県警察への自動小銃の配備を迅速に行う。また、現在7部隊(東京、大阪、北海道、千葉、愛知、福岡、神奈川の各都道府県警察)存在するSAT(特殊部隊)についても、国内のあらゆる場所に一時間以内(100km〜150km圏内)で到着できるだけの体制を整える。

  3. シミュレーションの実施

    内閣官房では、ハイジャック、大量殺傷テロについてのマニュアルを策定しているが、そのマニュアルの現場への徹底、実地訓練は十分ではない。テロ事件が実際に起こった場合には、自衛隊、海上保安庁、消防庁、地方自治体などとの協力が必要となる。特に自衛隊の治安出動がなされた場合の警察との連携は極めて重要であり、実地訓練にこれらの省庁との連携を取り入れる。関係省庁、民間機関を含めた定期的なシミュレーションや包括的な実地訓練を行う必要がある。


4.海上警備体制
(関連省庁:海上保安庁、防衛庁、警察庁、水産庁等)

  1. わが国の海上警備を主に担当しているのは、海上保安庁(警備範囲は200海里の排他的経済水域)である。不審船の出没に見られるように、四方を海に囲まれる日本は、海からもテロリストの脅威にさらされており、海上警備は極めて重要である。テロリストの侵入を水際で防止するためにも、また海からの原子力施設などへのテロを防止するためにも、海上の警備に全力を注いでいかなければならない。

    更に、領海侵犯を効果的に取締まるための法的整備を検討する必要がある。

  2. 海上保安庁の対応能力の整備

    先般の海上保安庁法改正をふまえ、海上保安庁では、緊急テロ対策として、高速小型巡視艇を導入するなどの海上警備の強化を行った(総額70億円)。しかし、海上警備の重要性を考えると、海上保安庁の装備はなお不十分であり、更なる装備の充実を図っていく必要がある。

  3. SSTの強化

    海上保安庁には、通称SST(Special Security Team)と呼ばれる特殊警備部隊が存在しており、大阪府泉佐野(第5管区)の特殊警備基地を拠点として、テロや大量密航、シージャックなどに対応している。現体制では、遠隔地での事案に対応していくことは困難であり、重要施設(特に原子力施設)が多く存在する管区にも特殊警備基地を設置し、あらゆる場所でのテロに迅速に対応できる体制を整える必要がある。同時に隊員数の増加についても検討する。

  4. 海上保安庁と海上自衛隊、警察との連携の強化

    海上の治安には、海上保安庁が第一に責任を持つが、それが不可能又は著しく困難となった場合には、海上自衛隊が海上保安庁と共同して対処することとなっている(自衛隊法82条:海上における警備行動)。海上保安庁と海上自衛隊の連携を図るために「不審船に係る共同対処マニュアル」(平成11年12月策定)が存在するが、それに基づく訓練は平成12年に1回実施されたに過ぎない。工作船の進入、海上からのテロ行為を想定し、海上保安庁と海上自衛隊合同で実質的な訓練とシミュレーションを実施する必要がある。

    陸上の治安を担当する警察との連携も欠かせない。この場合、地方公共団体も含めて通常の連携体制を強化する他、海上保安庁の海上交通行政等以外を、国土交通省所管から国家公安委員会の所管に移すなど、治安行政の一元化についても検討する。

  5. 水産庁の機能の一部移転

    外国漁船が、わが国200海里内に不法に侵入するか、もしくは漁業交渉に基づく漁業許可を得ずに侵入している場合には、水産庁が拿捕等の漁船取締りを行っているが、密漁にすら十分には対応できていないのが現状である。こうした中、テロリストが漁業船を装って侵入してきた場合、水産庁で十分な対応を行うことは困難である。すでに工作船には海上保安庁が対応しているが、水産庁との役割分担は必ずしも明確ではない。そこで、水産庁の漁船取締まりを担当する部門(水産庁資源管理部管理課指導監督室)を海上保安庁に移管し、海上警備の一元化を図ることを検討する。


5.原子力施設へのテロ対策
(関連省庁:経済産業省、文部科学省、国土交通省、内閣府原子力委員会・原子力安全委員会、警察庁、海上保安庁等)

  1. アフガニスタンでの米軍の戦闘行為が長期化した場合、在日米軍を無力化するなどの目的で、日本全国に散在している原子力施設がテロの対象となる可能性は否定できない。警備対象の中でも、原子力施設は最重要であると考える。

  2. 原子力関連施設に対する警備の強化

    都道府県警察は、関係省庁からの要請等に応じ、既に原子力施設周辺のパトロールを強化しているが、依然として、各施設の警備態勢には濃淡がある。多くの原子力事業所・発電所を抱えながらも、それに比べて規模が小さく、十分な機動隊を有していない都道府県警察も存在する。

    警察庁は、すべての施設に対して24時間警備を各都道府県警察に命じる(警察法第24条及び第16条2項)と同時に、管区機動隊を応援派遣して人数を調整することで、原子力関連施設の警備に万全を期す。


  3. 警察による一貫した警備体制の構築

    原子力関連施設の外部の警備は警察の担当だが、施設内部のテロ対策については、所管省庁および施設の運営主体に任されているのが現状である。原子力関連施設の所管は、施設によって経済産業省、文部科学省、国土交通省などとなっており、施設内外の一貫した警備体制は構築されていない。

    各施設は、・出入管理の強化、・巡視や常時監視カメラによる監視の強化、・出入り口の施錠確認の徹底、・不測の事態における連絡体制の再確認などを行っているが、多くの場合、施設内部の警備は、民間の警備会社に任されている。

    現在の警備体制では、武装した集団によるテロが発生した場合、警察による外部の警備を突破される可能性は否定できない。そのような場合、施設内部の初期対応が鍵を握るケースも十分に想定されるが、内部の警備責任は不明確である。早急に、原子力施設のテロ対策を、施設内外を問わず警察庁の担当とし、当該施設の協力を得つつ一貫した警備体制を構築する。

  4. 原子力関係施設上空における飛行禁止の徹底

    原子力関係施設上空の航空機の飛行については、昭和44年の運輸省(現国土交通省)通達により、・施設付近の上空飛行はできる限り避けること、・施設付近の上空での最低安全高度以下の飛行許可は行わないとされており、米国同時多発テロ以降その再徹底が図られているが、法的規制はない。早急に航空法第80条に基づく飛行禁止区域の設定、罰則適用の厳密化を行うとともに、50万円以下とされている罰則の強化など法改正も検討する。

    また、ハイジャック機の突入など最悪の事態も想定し、警察、自衛隊の任務のあり方についても検討する。

  5. シミュレーションの実施

    内閣官房は、原子力事故に関するマニュアルを策定済みだが、原子力テロに関するマニュアルは存在しない。そこで、まずは警備を所管する都道府県警察を中心に、米国などでは一般的に行われているテロに対するシミュレーションを行う。そして、上記シミュレーションを踏まえて、警察庁、内閣官房を中心に、専門家のアドバイスを受けて、原子力関連施設に対するテロを想定したマニュアルを早急に作成する。

    また、テロ発生後の対策として、学校や児童など弱者に対する避難の仕方などのマニュアル作り等も必要である。周辺各地域の住民の協力を得て話し合いを重ねた上で、画一的でない各地域ごとに見合った内容のマニュアルを早急に設け、それに基づく定期的な訓練も行っていく。

  6. 「原子力警察(仮称)」の創設

    ハイジャック機による空からの攻撃や海からの攻撃の危険性への対応、また放射能の危険の特殊性、甚大性などを考えると、原子力施設の安全を、現在の警察のみが最終的に守っていくことは難しいといわざるを得ない。他方、経済・産業活動の場でもあるこうした施設を、常時自衛隊が警備する体制もまた、現実的とは思われない。こうした観点から、原子力関連施設への様々な攻撃を想定した専門の警察部隊「原子力警察(仮称)」の創設などについても検討を開始する。


6.ハイジャック等対策
(関連省庁:警察庁、国土交通省、法務省等)

  1. 航空保安体制に関する国の責任の明確化

    航空保安検査については、現在は航空法第86条により各航空事業者の責任で実施されており、国は必要に応じ航空事業者に対して措置すべき旨を命ずることができる。航空機によるテロの被害の重大さを考えると、民間事業者にその責任を負わせるのは適切ではない。航空保安に関しては費用負担等、国の一義的責任において行うものとする。

    また、将来的な課題としては、航空保安を一元的に扱う「航空警察(航空保安庁)(仮称)」の設置なども検討すべきである。

  2. 地上検査体制の強化

    現在、検査機器の購入費用や検査員の人件費については、空港整備特別会計と航空事業者が半額ずつ負担しているが、これらの費用については、国の責任で行う。そこで、検査機器の増設・更新、ならびに必要な空港施設改修や検査員増員のための予算措置を行う。

    具体的な検査機器について検討すると、機内持ち込み手荷物用の装置は、離島を除く国内全空港に配備されているが、チェックカウンターで預ける受託手荷物用のX線検査装置はわずか18空港(全体の約19%)に設置されているのみである。受託手荷物用X線検査装置(約500〜550万円/一台)を国内の全空港に設置する。

    また、X線透視検査装置に反応した荷物を2次的に検査する爆発物探知機(約700万円/一台)についても、同様に国内の全空港に設置する。

    アメリカなど一部の国で導入されている、荷物の中身を立体的に映し出す装置(約2億円/一台)については、費用対効果の面から議論が必要であり、現在使用中の他国の状況を見極めつつ、今後導入の是非を検討していく。

  3. シミュレーションの実施

    10月10日、国土交通省により、通常のハイジャックマニュアルとは別の、「非常事態における飛行禁止措置発動マニュアル」が策定された。すでに確認のための訓練が2回行われたが、その内容は、情報の内部伝達の確認のみにとどまっている。今後、情報伝達手段が断ち切られた場合(例えば、管制塔テロなど)をも想定して、緊急着陸などの定期的なシミュレーションを行う。

  4. 操縦室進入防止策の強化

    同時多発テロ事件以降、航空機の客室側から操縦室への侵入を防止するためのコクピットドアの強化が、航空会社の費用で暫定的に実施されている。ただ、これは内側からかんぬきを取り付けるという、あくまでも臨時の措置であるため、国際民間航空機関(ICAO)の基準設定の動向にあわせて、早急にドアの強化の必要措置を講じる。

    また、全ての航空機に操縦室側から客室側の様子を把握するためのモニターの設置する。


  5. 機内に武装警察官を乗せる航空保安官制度の導入

    アメリカやドイツ、イスラエルには、乗客に紛れて武装警察官を乗せる制度がある。わが国も、こうした「航空保安官制度」の導入を早急に検討する。

  6. 航空自衛隊の任務のあり方

    現在、航空自衛隊の出動は自衛隊法第84条に基づくが、これは海外からの攻撃に対してのみ発令でき、アメリカ同時多発テロ事件に見られるような、国内線を利用したハイジャック等によるテロ攻撃の対処法については、現在、法的な根拠が空白となっている。そのため、法整備も含め、航空自衛隊の任務のあり方について検討すべきである。

  7. ハイジャック容疑者に対する捜査・手配体制の強化

    ハイジャック事件後、迅速に容疑者を特定し捜査・手配することは、事件の究明のみならず、ハイジャックに対する抑止効果としても期待できる。

    そこで、「航空機不法奪取条約(1970年ヘーグ条約)」・「航空機強取等処罰法」及び「民間航空不法行為防止条約(1971年モントリオール条約)」・「航空危険行為等処罰法」等に基づき、ハイジャック容疑者の捜査・手配等についての体制を更に強化する。

  8. 空港、航空関係者の人事管理の徹底

    ハイジャックには、空港、航空関係者が関与するケースも想定される。また、機内手荷物の検査官などが、高い意識をもって作業に従事する体制も同時に必要である。航空、空港など関係各社は、様々な観点から人事管理を徹底する。


7.出入国管理体制
(関連省庁:法務省、外務省等)

  1. 不法入国防止体制強化

    本年5月のいわゆる金正男事件では、重大な不法入国事案について官邸への連絡、関係省庁の連携が必ずしも十分ではなかった。その反省もふまえ、テロ関係者が不法に入国することを水際で防ぐために入国審査、官邸への情報伝達、関係省庁間の連携などの体制を強化する。

    政府は、入国審査、密航監視の強化、特に最新鋭偽変造旅券等鑑識機器の増設を打ち出しているが、全国際空港、全定期国際航路就航港への整備を早急に行う。また、警察等関係機関からの入国データ照会にかなりの日数を要している実態を改め、即日にデータ入力し、対応できる体制を整備する。いずれにしても、熟練した入国審査官の「カン」に頼らざるをえない部分もあり、入国審査官の研修の強化、及び大幅な増員が必要である。

  2. 査証審査機能強化

    政府が推進中の査証WANシステム(査証の機械読み取り及び関係各機関のデータ交換システム)の早期導入等により、査証審査機能強化と関係省庁の連携を強化する。


  3. 不法滞在者取締り強化

    現在、国内には約23万人の不法滞在者がいると推計されている。圧倒的に不足している入管収容施設(現在収容可能人員:2400人)を大幅に拡充すると同時に、入国警備官を大幅増員する。


8.核・生物・化学兵器(NBC)テロ対策
(関連省庁:内閣官房、警察庁、防衛庁、厚生労働省、消防庁、海上保安庁、総務省、経済産業省、
文部科学省等)

  1. 情報集約体制の強化、省庁間及び民間との連携

    関係省庁が多岐にわたる、もしくは即時に主管官庁がはっきりしない場合も想定されるNBCテロについては、他のテロ以上に情報の集約と関係省庁の迅速かつ緊密な連携が重要となる。内閣危機管理監中心の主体的な取り組み、内閣官房への情報集約体制、関係省庁の連携体制のより一層の強化を図る。また、専門的な知識を要する分野が多いため、民間の専門家、研究家との連携も欠かせない。専門家のリスト・アップなどを含め、平時からの連携をはかる。

    また、早急に全国の主要都市において具体的なNBCテロを想定した合同演習を自治体の協力を得て行うことについても、住民に無用な不安を与えないことも考慮しつつ検討する。

    実際にサリン事件で経験した化学テロ、米国で現実の危険となっている生物テロに比べ、核テロリズムに関してはまだまだ切迫した対応が行われていない。政府は、通常の原子力施設防災などと同列の安全対策で十分と考えているようだが、原子力施設へのテロ対策同様、核テロリズムに対しても、あらゆる事態を想定して対応できるような体制を、内閣官房主導でつくる。 

  2. 発生の防止

    情報収集以外に、発生の事前防止がきわめて難しいNBCテロであるが、できうる限りの防止策をとる必要がある。化学兵器となりうる化学剤の管理については、化学兵器禁止法により厳格な管理体制がとられているが、さらなる検証を行う。一方、生物兵器となりうる細菌・ウイルスなどの生物剤については、こうした法体系がまったく整備されていない。生物兵器禁止法の早期抜本改正を行い、その所持についての届出、許可制の導入、取り扱い責任者の明確化、立入検査など保管体制の強化をはかる。

    食品、飲料水への混入などに対処するため関係機関の警戒強化を行い、民間業者へより一層の注意喚起を図る。

    米国での炭疽菌テロにおいて郵便物が使われていることから、不審郵便物への対策を徹底する。各郵便局への対応の徹底、X線検査装置の大幅増強を行う。

    散布などに使用されるおそれのある小型航空機の使用についても警戒を徹底する。
     
  3. 発生検知等体制の強化

    NBCテロの対策において、特に症状の判断が難しく潜伏期間もある生物兵器テロにおいては、発生検知と、その情報伝達が決定的に重要となる。疾病の発生によってその検知が可能となる生物テロについては、疾病発生などの情報を文部科学省所管の大学病院などの情報も含めて「厚生労働省→内閣官房」のラインに情報を一元化する体制を整備する。原子力、化学テロの情報責任は、「発生現場の所管官庁・警察→内閣官房」を基本とする。

    開業医も含めた医師が普段見慣れない病気の診断が可能になるよう、さらなる研修や様々なかたちでの情報提供を行う。インターネットなどにより情報はあふれているが、本当に重要・緊急な情報が確実に日本全国の開業医等も含めた医師に伝達されるよう、末端までの重要情報伝達システムを整備する。確定診断前でも、生物テロと疑われる症例を関係機関に速やかに連絡するよう徹底をはかる。動物の疾病にも注意をはらうよう、獣医師にも同様の措置をとる。また、関係機関の検知機材等の充実をはかる。

    長期的には、生物テロに対処するためだけでなく、絶滅したと思われる病気、希少な感染症についても一定の研究者を確保し、国家としてあらゆる疾病、特に感染症に対処できるよう、アメリカのCDC(疾病管理センター)(職員8500人、予算3000億円)などの機能を参考に、国立感染症研究所(職員400人、予算90億円)の体制・機能を大幅に強化する。

  4. 対処部隊の増強、事件対応防護機材の増強

    警察には、警視庁、大阪府警にNBC捜査部隊(計20数名)が配置されているが、体制として不十分である。中期的な課題としては、警察庁本体に強力なNBCテロ対応の実働部隊を設置することを検討するが、当面は、現存部隊の大幅増強、各都道府県警察へのNBCテロ対応部隊の配備、人員、装備の大幅増強をはかる。

    防衛庁には、自衛隊に化学防護隊(防衛庁長官直轄が約130名、陸自各師団に約540名)が設置されており化学兵器対応は可能だが、生物兵器への対応は不十分である。防衛およびテロ対応への活用の観点からも、生物兵器に対処する体制整備を早急にはかるべきである。厚生労働省及び関係出先機関にも、呼吸器つき防護服など必要な機材を早急に増強する。

  5. テロ現場対応体制の強化

    テロ発生現場の初動対応について、政府は関係機関からなる「現地調整所」の設置を定めているが、これを主体的に設置・運営する官庁が明らかになっていない。臨機応変な対応はあり得るが、「現地調整所」の設置は、原則として発生現場の都道府県警察の責任とする。

  6. 医薬品、治療体制の準備強化

    厚生労働省は、炭疽菌、天然痘などのテロに対応する十分なワクチン、医薬品等の存在を確認し、不足しているものについては準備を開始したとしているが、あらゆる事態を想定して、さらなる充実をはかる。また、新型ワクチンの生産が必要となるような事態も想定し、準備体制の強化をはかる。

    また、国内にはエボラ出血熱など重大な感染症専門の治療体制、施設が未整備である。この機会に、あらゆる事態を想定して、専門施設を整備すべきである。また、根絶したとされてきた天然痘などの発生の際は、指定感染症として迅速かつ的確に一類感染症に準じた対応を行う。 

  7. 国民からの相談および国民への情報提供体制の整備

    国民の不安に応えるためにも、また貴重な発生情報などを見逃さないためにも、国民からの相談体制の整備は重要である。たらい回しを防ぐ意味からも、国民からの危険情報は警察に、健康情報は厚生労働省に一元化する。国民からの問合せ先となりうる自治体や他省庁にもその旨徹底する。

    広報やインターネットなどを通じての病気の情報などはもちろん、テロの発生に際して、不要なパニックを引き起こさないためにも的確な情報提供が重要である。狂牛病に際しての情報混乱の反省をふまえ、内閣官房主体の一元的な情報提供体制を整備する。
     
  8. 模倣犯等対策

    炭疽菌に関連して、すでに模倣犯、悪質ないたずらなどが発生している。実際に本物の化学剤、生物剤を使用されていなくても、電話一本で実際のテロと同様の深刻なパニックや経済的被害をもたらすことも考えられる。現行の威力業務妨害などの処罰でよいのかなど法改正による厳罰化も含め検討する。


9.在留邦人、海外旅行者、在日外国人の安全対策
(関連省庁:外務省、国土交通省、法務省等)

  1. 在外邦人の安全対策強化

    在外邦人及び邦人関係施設がテロの標的になる恐れがあることから、危機管理体制等を再点検し、安全対策や緊急時の連絡、情報収集・提供、救援・支援体制などを抜本的に強化する。

    また、テロ発生後を想定した被害者、家族、救助関係者等への心のケア等を含めた支援対策の強化を進めていく。

  2. 在日外国人の安全確保

    在日外国人の安全確保についても十分な配慮を行う。具体的には、テロと無関係な中東系等の外国人に対して偏見に基づく差別的な対応がなされる恐れがあることから、こうした差別等を未然に防止するためにも、国際理解教育の充実など、多文化共生への理解を促進するための適切な措置を講ずる。


10.テロ資金、マネー・ロンダリング等への対策
(関連省庁:財務省、金融庁、法務省等)

  1. マネー・ロンダリング規制の強化

    憲法の財産権、結社の自由などとの関連、テロリストの定義など困難な問題はあるが、テロリストが関与する資金取引については、犯罪収益であるなしに関わらず、金融機関等に対し金融庁長官への届出義務を課すとともに、これに違反した金融機関には罰則を科すなど組織犯罪対策法の改正とテロ資金供与防止条約の署名を急ぐ。

  2. テロリストに対する資産凍結、資金供与禁止、外国為替規制

    テロ資金の疑いのある銀行口座の凍結、外国為替取引の規制、テロリストへの資金供与者の処罰などの法制化についても早急に検討する。

  3. テロリストが関与する証券取引に対する監視の強化

    捜査当局との緊密な連携のもと、証券取引等監視委員会によるテロリストが関与する証券取引への監視を強化する。


11.サイバーテロ対策
(11月20日、党として「民主党サイバーテロ対策への提言」を発表済み)


2001年12月6日 戻るホーム民主党文書目次