民主党 参議院議員 江田五月著 国会議員わかる政治への提言 ホーム目次
第1章 国会議員の実像

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政治資金と選挙資金

 昭和五十八年の衆議院選挙の際は、私の選挙区、岡山一区でさえも「二当一落」という言葉がささやかれた。千葉県など与党同士がしのぎをけずった千葉県のある選挙区では、「五当四落」だったという。選挙に五億円かければ当選、四億なら落選。驚くべき金権選挙だ。

 だが、公職選挙法で定められる法定選挙費用(最高額)は、はるかに少ない額だ。たとえば五十八年の衆議院選挙の場合、

            公示の日におけるその選挙区内の
               選挙人名簿登録者数
法定制限額=人数割額(28円)×――――――――――+固定額(1070万)
              その選挙区内の議員定数

という方法で計算され、ちなみに私の岡山一区の場合は1447万4000円だった(最高は千葉四区の約2084万円、最低は兵庫五区の約1300万円)。

 これらの数字と「二当一落」とのはなはだしい落差が、有権者の政治不信を生む一つの原因になっている。保守系候補なら、会議費と郵送費だけで1500万円ぐらいはかかってしまうだろう。そのくらいのことは、その道のプロでなくても容易に想像がつく。

 ところが、この法定選挙費用は、実は奇妙なことだが守られていることになっている。「何をバカな……」と怒られそうだが、理屈のうえでは本当の話なのである。各陣営ともこの限度内で選挙戦を戦ったことにしようと全力をつくしている。なぜなら、法定選挙費用をオーバーすると、その候補者の当選は無効になるから――。

 たとえば、法定選挙費用は「選挙運動のための支出」に限られるから、選挙運動外の支出は選挙費用でない。別の言い方をすれば、法定選挙費用の範囲に入るものだけを選挙費用と計算し、その他は選挙費用でないとしてしまうのだ。「ナニ?」と思われる方は、もう一度ユックリ読んで欲しい。限りない支出のうち、法定選挙費用と認められるものだけを選挙費用とし、その他は選挙費用とは別の支出とする。いかにも「口舌の徒」にふさわしい理屈だ。

 事前の、とりわけ候補者自身ではなくその政治団体が、日常的政治活動として支出した金が、金権選挙の土壌を作る。

 前項で述べた慶弔費の他、各種会費、広告費、寄付金等、名目は異なるが企業でいうなら交際費に当たる支出が問題だ。これらは、選挙費用とは別に、政治資金規正法による報告の対象となるが、その真偽をチェックする仕組みはどこにもない。政治資金の収支報告書は、形式的につじつまが合っていれば事務的に受理される仕組みになっている。

 「なんとルーズな!」というお叱りも当然だ。原稿を書いたりして得た、わずかなアルバイト収入を申告し忘れて、給与外所得があるじやないかと税務署に呼び出されたサラリーマンの話などを聞くと、「非課税の特典」を与えられた政治資金の収入源と使途を、もっと具体的かつ詳細に報告するのが、国会議員の義務だと思う。


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