関連法律の抜粋・解説

戻る目次前へ次へ


各ページのはみだしアドバイスに関連する法律的解説をここにまとめた。とりあげているのは「公職選挙法」と「政治資金規制法」のほんの一部である。

「してはいけないこと」を熟知することは「してもいいこと」を知ることにもなるので、おおいに研究し活動に役立ててほしい。



「選挙運動」という用語について
、公職選挙法は明確な定義を規定しておらず、判例を参考にして合理的に解決する他はない。参考までに最高裁(大審院)判例をあげておく。

『選挙運動とは、一定の議員選挙につき、一定の議員候補者を当選せしむべく、投票を得もしくは得しむるにつき、直接又は間接に必要且有利なる周旋勧誘もしくは誘導その他諸般の行為をなすことを汎称するもの』

この定義で「間接に必要且有利な」行為の意味する範囲を広く解釈すると、立候補準備行為その他選挙に関する一切の行為がすべて該当してしまうことになり、不当な制限となる。一般的には次のような行為は「選挙運動」には該当せず、従って「事前運動」に該当しないとされている。

(1)立候補準備行為
 (1)
 (2)
 (3)
政党の公認を求める行為
いわゆる瀬踏み行為
候補者選考会・推せん会の開催行為

上記のような候補者及びその支持者のグループ内での活動や手続行為は、投票依頼の為選挙人に働きかける行為ではないものとして「選挙運動」には該当しない。ただし、(2)や(3)でも、その時期や方法等により内実が投票依頼の為、選挙人に働きかけるものであるときは「選挙運動」となる。

(2)選挙運動の準備行為
 (1)
 (2)
 (3)
 (4)
 (5)
運動費用の調達
運動員となることの内交渉
運動員間の任務割振り
事務所・個人演説会場の借入れの内交渉
看板の作製、ポスターの印刷、選挙用ハガキの文案・印刷の手配、ハガキによる推せん依頼の内交渉、選挙公報や政見放送等の原稿を作成する行為

(3)政治活動
政党その他の政治団体の行う演説会・座談会等その他の政治活動は本来自由に行いうるものである(選挙期間中は特に街頭における活動についてきびしく規制される)。ただし「○○君をこの次もよろしく」等、投票依頼と受けとられるような言葉が用いられるときは選挙運動とみなされる場合がある。

(4)社交的行為
以上のように、結局は、投票依頼と認められるような行為があるが否かが、「選挙運動」となるか、ひいては「事前運動」禁止違反になるか否かの大きなポイントである。従って表現のしかたは慎重に、言葉の用い方に注意していらざる誤解を受けないよう工夫することが必要である。特に、選挙運動期間に先行して出される文書類については「投票依頼」にあたるような文書・表現にならないよう十分にチェックしておくことが重要である。

労働組合やその他の団体の内部的な推せん決議及びその通知自体は別段問題はないのに、「投票依頼」と受けとられるわずかの文書の為に「選挙運動」とされることもあるので、支持団体にもこの旨をあらかじめ周知してもらう努力もしておくべきだろう。

《署名運動の禁止》
「何人も、選挙に開し、投票を得もしくは得しめ又は得しめない目的をもって、選挙人に対し署名運動をすることができない」(138条の2)

これは、戸別訪問の禁止等の脱法行為として署名運動がなされるおそれが少くないとして昭和27年に新設された。名目の如何を問わないので、後援会への加入を進めるためであっても、「選挙に関し」、「投票を得る目的」による場合と認められるときは該当する。実際に署名したことまでは要件ではないので、署名を求める行為だけて該当することになる。用紙が白紙であり、候補者の名は明記されておらなくても、「選挙に関し」「投票を得る目的」をもって行ったと認められれば、署名運動にあたるとの高裁判例がある。

ただし「選挙に関し」「投票を得る目的」については具体的事例で判断される他ないのであり、その選挙で争点となっている、例えば学校給食の問題に関する署名運動が直ちに違反にあたるとは限らない。

また、「選挙人」とは当該選挙区の選挙人(有権者)のことであるから、別の選挙区の有権者に対する署名活動は違法にはあたらない。



政治資金規制法の8条に「政治団体は届出がなされた後でなければ、政治活動(選挙運動を含む)のために、いかなる名義をもってするを問わず、寄附を受け、又は支出することはできない」と規定されている。

「政治団体」とは同法の定義では「特定の公職の候補者を推せんし、支持し、又は反対すること」を、「本来の目的とする団体」及び「その主たる活動として組織的かつ継続的に行う団体」と挙げられているので、選挙運動を推進しようとする団体や後援団体は、その名称の如何を問わず、ここでの「政治団体」に該当する。従って同法に基づき選挙管理委員会に届出を済まさなければ、寄附を受けることはもちろん、支出することもできない。

政治資金規制法には以上を前提として様々な寄附の制限規定があるが、匿名寄附の禁止、外国人からの寄附の禁止、1つの政治団体に対して1人年間150万円を超える寄附の禁止など、特に注意を要する。



「公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者は当該選挙区内にあるものに対し、いかなる名義をもってするを問わず、寄附をしてはならない」(199条の2)

昭和50年の公職選挙法改正前は「当該選挙に関して」する寄附のみが禁止されていたが、実際には日常の地盤培養行為として様々な名義や名目による寄附が行われたので、現行法は厳しい禁止規定をおいた。

候補者本人のみならず、候補者が役職員をしている会社や団体、候補者の名前が表示されている団体についても同じく、いかなる名義をもってするを問わず寄附は禁止されている。候補者の親族に対するものは例外として許されるが、従来慣行として行われているお中元やお歳暮、入学祝、お祭りの寄附も違反となる。(もっとも香典返しや出産祝のお返しなど「社会慣習上定着したお返し」の性格をもつものは寄附にあたらない。)

また、後援会がする寄附については、選挙前の一定期間(任期満了の日前90日目から投票日まで、あるいはその選挙を行う事由が生じた旨の告示があった日の翌日から投票日まで)「いかなる名義をもってするを問わず」寄附は禁止されている。(199条の5)



「何人も選挙運動に関し、いかなる名義をもってするを問わず、飲食物を提供することはできない」(139条)。

「飲食物」とは料理、酒、ジュースなど何ら加工を要せずそのまま飲食できるものとされており、「湯茶及びこれに伴い通常用いられる程度の菓子」は除かれている。まんじゅう、せんべい、みかんなどは許されるが茶椀酒は禁止される。「何人も」であるから、候補者の側から出しても、後援者の側から持ち込んて提供しても違反となる。各個人個人が持ち込み、それぞれ自分が消費するのであれば「提供」にあたらない。

ただし公選法は選挙運動期間中、選挙運動員や労務提供者に対して提供する弁当については、一定基準内で1日15人分(45食分)に告示日から投票日前日までの日数を乗じた数の範囲内て認めている。

なお、この飲食物提供の禁止は、立候補届出後だけでなく、届出前の「選挙運動」に関しても適用されるとの最高裁判例がある。



選挙運動員や選挙運動のために使用する労務者に対し支給することができる報酬・実費弁償額については、公選法施行令128条の2、公選法施行規則29条の2に定められた基準にしたがって、選挙管理委員会が定めることになっている(197条の2)。

この基準によると、(1)選挙運動に従事する者1人につき、交通費、宿泊1泊2食12,000円まて、弁当料1食1000円まで(1日3,000円以内)、茶菓子1日500円までの実費弁償、(2)選挙運動の為に使用する事務員及び車上運動員(いわゆるうぐいす嬢)に対する1日10,000円以内の報酬、(3)選挙運動の為に使用する労務者に対する1日10,000円以内(超勤手当5割以内)の報酬、(4)労務者1人につき、交通費、宿泊費1泊(食事含まず)10,000円以内の実費弁償が認められている。

なお、(2)の報酬を支給することのできる者の数は選挙の種類により制限されており、各1日につき、都道府県議会議員選挙と指定都市の議会議員選挙の場合は12人、指定都市以外の市・区の議会議員選挙の場合は9人、町村議会議員選挙ては7人の範囲内であり、この雇用については予め選管に届け出なければならない(届出用紙は立候補届けの書類の中に含まれている)。

なお、未成年者は選挙運動のために労務を提供することはさしつかえないが、選挙運動をすることは一切禁止されている。満20才以上の者は学生ても選挙運動をして何らさしつかえはない。



戸別訪問とは、候補者または運動員が投票を得るため、あるいは他候補に得させないようにするため、「連続して2以上の住居について訪問」し、依頼することである。一戸だけを訪問しても戸別訪問にはならないが、「連続して」という意義はかなり幅広い解釈がなされているので注意しなければならない。

「2人の有権者宅を日時を異にして訪問する場合も含む」との判例もある。また、演説会の開催を知らせる為の訪問も、「選挙運動のため」であれば戸別訪問にあたる。また、訪問の相手方が不在であっても、あるいは面会を拒絶されても、または口頭で投票依頼をしない場合でも、投票依頼の目的をもって訪れ面会を求めるだけで戸別訪問となるので、相当成立要件が緩いものと考えなければならない。ただし、投票依頼の目的でなく、ポスター掲示の承諾を得るなどのために訪問することは該当しない。



ポスターを他人の住居や塀、商店、会社、工場などに貼ろうとするときは、居住者(居住者がいなければ管理者、双方いないときは所有者)の承諾を得なければならない。橋や電柱、公営住宅等に関しても同じてある。国、地方公共団体や国鉄が所有又は管理している施設には貼れない。

承諾を得ないで貼ったポスターは、居住者等が勝手にはがしてさしつかえない。また、他の候補者が適法に貼ったポスターをキズつけたり、はがしたり、そのポスターの上にポスターを貼ることは選挙の自由妨害にあたり許されない。

注意を要するのは、選挙運動用(候補者カー)でない自動車にポスタ−を貼ったまま走行すると、頒布・回覧の禁止(142条9項、146条)に違反することである。



《各地方選挙の選挙運動期間》

●都道府県知事 
●都道府県議会 
●政令指定都市の長 
●政令指定都市の議会 
●一般の市・区の長 
●一般の市・区の議会 
●町村の長と議会 
 
17日間
9日間
14日間
9日間
7日間
7日間
5日間
 


おもな選挙犯罪として、以下の犯罪を挙げておく。
(1)買収罪(221〜223条)、(2)おとり罪(当選を失わせる目的をもって他の候補者と意思を通じ、誘導・挑発して買収等の選挙犯罪を犯させた等の場合)(224条の2)、(3)選挙の自由妨害(文書図画の毀棄や偽計、詐術等不正の方法で妨害する等)(225〜230条)、(4)虚偽事項公表罪(235条)、(5)政見放送又は選挙公報の不正利用罪(235条の3)、(6)その他投票に関する不正の罪等。

なお、いわゆる形式犯と呼ばれる選挙運動違反の内、最も注意を要するのは、事前運動、戸別訪問、飲食物提供、文書図画制限違反、脱法文書頒布等てあろう。

特に事前運動、文書図画制限違反、脱法文書頒布等については、その犯罪にあたるか否かの構成要件に微妙な事案が多く、警告を受けたような場合、できれば専門家の助言を得るのが望ましい。

なお、文書図画が違法であるとされた場合でも、撤去を命ずることができるのは選挙管理委員会であって(147条)、警察官には撤去を命ずる権限はない。警察官が掲示者又は責任者の承諾なく差押えることができるのは、刑事訴訟法によって許される令状等による強制捜査の時だけである。

警察署が公選法違反の容疑で聞込み捜査に動いたり、事情聴取を求めてきたりした場合は、弁護士と相談の上、何が問題とされているか明確にした上で対処すればよい。



街頭演説は演説者がその場にとどまり、かつ選挙管理委員会から交付された一定の標旗を掲げていなければできない(164条5項1号)。従って、走っている車上から演説するなど、いれゆる「流し演説」はできない。また午後8時から翌朝の8時までの間は禁止される(164条の6)など様々な制限が設けられている。

街頭では「自動車を連れ、又は隊伍を組んて往来するなどによって気勢を張る行為」(140条)にわたらない限り、演説を盛り上げる様々な工夫が望ましい。

街頭演説の場所については、公選法上次の3つの場所で演説することを禁止している。(166条)。(1)国、地方公共団体もしくは国鉄の所有・管理する建物、(2)電車など公衆の交通機関内及び鉄道地内等(駅前広場など一般人の自由に通行しうる場所は含まれない)、(3)病院等内。

いわゆる陣取り合戦について格別の規定はない。ただ「長時間にわたり、同一の場所にとどまってすることのないように努力しなければならない」(164条の6、3項)と定められているから、この趣旨をくんで、適宜話し合いで解決していくことになる。



当選御礼についても公選法は厳しい制限を加えている。(1)戸別訪問、(2)自筆の信書及び祝辞、見舞などへの答礼のための信書を除くほかの文書、図画の配布・掲示、(3)新聞・雑誌の利用、(4)放送設備の利用、(5)当選祝賀会その他の集会を開くこと、など(178条)は何人についても禁止されている。

「何人も」であるから当選した候補者名ではもちろん、どの運動員の名においても禁止されている。なお、この禁止は選挙の期日後とくに時間的制限がないことに注意。電話の利用については何ら制限はされていない。


本文で紹介した「地方選挙の手引」はおもに“公職選挙法”が中心の手引書だが、政治団体や政治家のおカネについては「政治資金規制法解説」(自治省選挙部編・地方財務協会発行)にくわしくのっている。

また、「地方選挙における、政党・政治団体の政治活動の手引」(自治省選挙部編・第一法規出版発行)も手に入れておくとよいだろう。


関連法律の抜粋・解説

戻る目次前へ次へ