1999/11/25

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参院・法務委員会  

○江田五月君 本日は閣法が一本、それからその閣法に対するこれらの修正議決をされたものが本院に来ているわけですが、それと衆法が一本、さらに参法が一本、三本の法律案ということになるわけですが、主として閣法及び修正部分について質問をいたします。

 私たち民主党は、政府提出のこの無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律案に対し、衆議院での審議の中で九項目修正項目を提起いたしました。与党三党との間で五項目の修正で合意をして、与党三党と民主党の共同提案による修正案に賛成をし、これが衆議院で可決をしてこちらへ来たということになっているわけで、ここに至る経緯をかいつまんで申し上げておきます。

 ことしの三月の参議院の予算委員会で、私は当時の野中官房長官に主として二つの質問をいたしました。

 その一つは、活動が再開されて地域住民とのトラブルが起きているオウム真理教に対して、政府として直ちに対策を講じるべきではないかということでございます。御承知のとおり、オウムがしょうけつをきわめたといいますか、大荒れに荒れた当時に関係省庁連絡会議を持ちまして、これはもう本当に各省庁、すべてではもちろんありませんけれども、網羅的に連絡をとっていただいて、学校教育の面あるいは薬物使用の面、消防の面、警察はもちろん道路使用その他、もうすべての観点からオウムに対処をしていったわけです。今回、私の問題提起があってというほどまでうぬぼれちゃいけませんが、後の関係省庁連絡会議の再発足につながったと思っております。

 もう一つ、現行の破防法にかわって、個人の刑事責任を追及する刑法体系とは別の犯罪組織の団体活動を規制できるアメリカのRICO法のような法体系を考えるべきではないかという問題提起をいたしました。これはじっくりと慎重に腰を落ちつけて検討しなけりゃならぬ課題で、拙速はいけません。そんなわけで、まだ実現はしていない。

 そして同時に、民主党としては、石井一現副代表を委員長とするオウム真理教及びカルト対策特別委員会をつくって現地の視察とかあるいは法案の作成の検討とか、こういうものを開始いたしました。八月には、当時の野中官房長官や当時の衆議院法務委員長であられた杉浦正健さんとも何度もお会いして、政治の責任として超党派の議員立法でオウム対策法と被害者救済法をつくれないかと話し合ってきたわけです。その後、与党の方では政府とのやりとりなどもいろいろあって、この臨時国会に二法案を一つは閣法、一つは衆法ですが、提出された。私たち民主党も団体規制法案の骨子を発表した。そこで、やはりこれは憲法で定められた基本的人権を制約する法案でありますので、与党三党と民主党の間で修正の協議が真剣に行われ、合意がなされたという、こういう経過でございます。

 何としても政治の責任を果たさなきゃならぬ、まだこれはいろいろ詰めなきゃならぬ問題点いろいろありますが、その第一歩にはなったのではないかと思っておりますが、法務大臣、この間の経緯をごらんになって、感想をひとつまず聞いておきたいと思います。

○国務大臣(臼井日出男君) この問題につきましては、委員御指摘のとおり、政府といたしましてもオウム真理教問題関連対策関係省庁連絡会議というものを設けまして、総合的な立場から検討をさせていただいてきたところでございます。

 その後、オウム真理教の活動は一時縮小化の傾向もございました。そうした関係で、九年九月に一時廃止をしたわけでございますが、委員御指摘のとおり、その後も動きについては監視を続けてまいってきておりまして、本年十一月一日に、現在の立法化の問題もございまして、オウム真理教対策関係連絡会議を再発足というふうな形で、その重要性というものを確認いたしておりますし、また同八日にはオウム真理教等社会復帰対策調整担当者会議というのを開きまして、また関係省庁における検討も再び始めております。

 今、委員御指摘のとおり、この問題はオウム真理教の団体ばかりではなくて加入をしている信徒の問題でもございます。また、いろいろ話も出ておりますように、周辺に居住している住民の安全の問題、そういうものも持っておりまして、大変広範な問題でもございますので、政府といたしましても、各省庁の連絡というものをしっかり密にとりまして今後とも対処いたしてまいりたいと思います。

○江田五月君 先ほど、同僚委員といいますか自民党の委員の方の御質問の中に、平成八年七月十一日ですか、公安調査庁がオウム真理教について解散指定の請求をした、それに対して公安審査委員会がその棄却の決定をした。これがそもそも間違いの始まりだという御指摘があったわけですが、私は、準司法機関の判断に対して政治が物を言うときにこれはそう軽々に言う話ではないだろう。むしろ逆に、これまで過去を振り返って反省してみるとすれば、やはりこれは坂本事件に反省はさかのぼらなきゃならぬのじゃないか。

 坂本事件の捜査のあり方は主として警察の方あるいは国家公安委員会の方に聞いた方がいいのかもしれませんが、法務大臣は我が国の法秩序のあり方全体についてやはり関心を持っておられると思いますし、それは法務大臣の守備範囲に入っていると思うので。

 細かな捜査の個々のことは結構ですが、私は、やはり坂本事件のときにもっと早く、警察がだめなら検察も捜査できるわけですよ、検察官、検察庁にも捜査の権限は当然あるわけで、ちゃんと腰を上げていれば、そうするとオウムというのに監視の目がきっちり行き届く。各都道府県警が、全部自分のところ自分のところというので広域の捜査の体制を持っていなかったなんということがあって、神奈川県で起きていることと山梨県で起きていることとの間の関連性なんというのは全然捜査の方は関心を、全然と言うとおかしいかもしれませんが、持っていなかった。そんなことがあってああいう巨大施設が膨れ上がっていって、そこでサリンをつくるというようなことが行われたわけです。

 そこの反省がまず最初になきゃならぬと思いますが、法務大臣、いかがですか。

○国務大臣(臼井日出男君) 今御指摘のとおり、坂本弁護士殺害事件につきましては、当時私どもの調査が至っておらなかったということは御指摘のとおりでございまして、今振り返ってみるとそのことは極めて残念なことでございます。今後そうした状況の結果というものを踏まえましてしっかりと調査をしていく、そうしたことの大いなる参考になろうかと思っておりまして、今後とも心して運営してまいりたいと思います。

○江田五月君 これは、私も一番端っこの方ですが弁護士の資格は持っておりまして、弁護士が自分が弁護士としてかかわった事件の関係でその弁護士だけではなくて奥さんや子供まで殺されてしまうという、法治国家にあるまじき大変な事件だったわけです。それが何か随分後まで、放置をされていなかったのかは知りませんが、解明されなかったということはやはり重要なことで、後々我々は繰り返し繰り返し反省をしなきゃならぬことであろうと思います。

 そしてもう一つ、公安調査庁の請求が公安審によって棄却されたことについて、これをどう思われるかです。
 結局、公安調査庁が破防法の解散指定の要件、将来の危険というこの要件を立証できなかったということなんだと思いますが、これは、法務大臣、公安調査庁がだらしなかったからなのか、それともその時点では公安審査委員会が要求するような将来の危険というのは実態として本当に立証できないということになっていたからなのか、どちらだと思われますか。

○国務大臣(臼井日出男君) 今御指摘のとおり、あの時点ではオウム真理教の活動自体が縮小傾向にあったということもございます。私は、あの時点で公安審査委員会が棄却の決定をするということは、今、委員御指摘のとおり、破防法そのもの自体が将来に対する明らかなおそれということで極めて厳しい要件を課しているということから、やむを得なかったものと考えております。

○江田五月君 私は、当時、当時は村山内閣だったんですが、政治あるいは行政がなし得ることはすべてやはり国民のために国民に責任を負う立場でやらなきゃいけない。もし、破防法が憲法違反ならば、それは村山内閣としてはこの法律を廃止する手だてを講じなきゃいけない、もし憲法違反でないとするんだったらやはりそれの適用も考えなきゃならぬということは申し上げました。

 そして、適用の申請があった。しかし、後、準司法機関、独立行政機関である公安審査委員会の審査について、これは政治や行政の側から、ちょっとそこは足りないかも知らぬけれども何とか目をつぶってやってくれよというようなことを言っちゃいけない、これは厳に抑制しなきゃならぬことで、その抑制がなされたということもあるでしょう。神様ではないから、その結論が絶対真実であったか真理であったかどうか、それはわかりません。だけれども、やっぱり準司法機関として棄却の決定を下したことは皆尊重をしなきゃいけないことだと思っておりますが、法務大臣のそういうお答えを聞いて一安心をしております。

 団体規制法案について、政府案と私たち民主党の考え方との違いが大体三つあるだろう。一つは対象団体の限定の点、二つが実効性の点、三つが時限立法。その三つです。

 立法が特定の団体に的を絞って手だてを講じるというのは、確かに余り推奨される、褒められたことではないかもしれません。しかし、今の状況のもとで、やはりオウムのこの状況を考えると、これは政治の責任として何か一致しなきゃいけない。そこで、オウムに限定をする、その限定をしっかりさせる、そしてオウムを押さえ込む、終息させる、これについては実効性のある手だてを講ずる。しかし、これは非常に基本的人権の観点から悩みのある方法なので、目的を達成したらそういうものがいつまでも法秩序の中に残るようなことがないようにさっと終わりにする。その三つのことを考えた。修正項目の中でさらに適正手続の保障も盛り込んだ。

 実効性ということについては、政府案が既にリストラ対象となっている破防法と公安調査庁を使うことにこだわっていたんですね。これに対して私たちは、実効性ということで言うならば地域に密着をし根を張っている警察、これを都道府県知事の要請により国家公安委員会の主導のもとに使う、そして解散指定も盛り込むということで実効性を上げようとしたわけですが、破防法、公安調査庁を使うことにこだわっていた政府や自民党の皆さんも、しかし現実に公安調査庁はその実力はちょっとないんじゃないか、やっぱり警察が実際の行動の中核になっていかなきゃいけないんじゃないかということで両方を組み合わせる仕掛けの合意をおつくりになった。私たちは、この政府の調整をされて仕上がった仕組みそれ自体は、それは一つの考え方かなということでその点は認めるということにしたわけです。結果として修正の合意五項目、目的規定、対象団体の限定、適正手続、そして時限立法と、ずばりといきませんでしたが、見直しなどについて相当の修正が実現したと思っております。

 さて、そこで修正の合意の内容に沿って幾つかの確認の質問をしておきます。
 まず第一条の「目的」の規定、当初の政府案は、「もって公共の安全の確保に寄与することを目的とする。」となっていたものを、「もって国民の生活の平穏を含む公共の安全の確保に寄与することを目的とする。」、こう修正いたしました。

 この法律は第二条で、「国民の基本的人権に重大な関係を有するもの」だと。また、第三条にも書いてあるように、「思想、信教、集会、結社、表現及び学問の自由並びに勤労者の団結し、及び団体行動をする権利その他日本国憲法の保障する国民の自由と権利を、不当に制限するようなことがあってはならない。」、そういう制約を持った法律だ、これはこの法案自体がこの中に書いてあるわけです。すなわち、この法案は憲法で保障された基本的人権を制約する、そういう法律だと。

 そこで、憲法の規定する基本的人権を制約する、下手をしたら憲法違反になるぎりぎりのところの法律なので、基本的人権の制約がこれで憲法違反じゃないんだということをもう少し詰めておきたいと思います。

 法務大臣にまず、第一条の目的規定の中に「国民の生活の平穏を含む」という修正が加えられたこと、このことと憲法との関係をどういうふうにお考えになるかお聞かせください。

○国務大臣(臼井日出男君) 本法案は、過去に無差別大量殺人行為を行った団体について、その活動状況を明らかにし、また当該行為の再発を防止するために必要な観察処分または再発防止処分という措置を定めて、もって公共の安全の確保に寄与することを目的といたしているものでございます。

 そして、その処分は、その危険性の程度を把握し、またはその増大を防止するために列挙された必要な措置の中から、準司法的機関である公安審査委員会が具体的な事案における必要性に応じて合理性の認められる限りにおいて選択するものであり、団体側から意見を聞いた上で証拠書類等に基づいて中立公正な手続により行われるということになっております。

 このように、いずれの処分も本法案の目的を達するために必要かつ合理的な限度にとどまるものでございます。
 委員御指摘をいただきました、住民の不安を取り除くという点につきましては、ただいま申し上げました本法案の目的の一部をなすものでございまして、衆議院において本法案第一条の、「公共の安全の確保に寄与することを目的とする。」の前に「国民の生活の平穏を含む」を加えるとの修正がなされたのもその趣旨をより明確にするものでございまして、意義あるものと考えております。

○江田五月君 法律家の細々した理屈の話といえばそうなのかもしれませんが、やはりこれは違憲にならないかなるかという重要なところなのでより詰めておきたいんです。
 オウムが過去にあれほどひどいことをした、その危険は今もある、したがってオウムの結社の自由は制約をするんだと、それだけだと私はこれはまだ違憲の疑いをぬぐえないという気がするんですよ。過去にああいう危険があった、またそういうおそれ、危険が増大することがあり得る。抽象的なんですね、これはまだ。その程度の抽象的な危険だけで、あとはもう公共の福祉でぐっと押さえ込んでいいんですというのではこれはまだ危ない。

 そうじゃなくて、公共の福祉というのをどうとらえるかなんですが、これは法律上の議論がいろいろありまして、公共というものがあって、それの福祉のために、このにしきの御旗があれば、あとは幾らでも基本的人権の制約はできるんだと。そうじゃなくて、基本的人権というのもいろいろある。人権が衝突する場合だってある。オウムにも人権があるでしょう。しかし同時に、オウム以外の人にも人権がある。その人権を調節するためにこういう程度のことが必要だという、これが公共の福祉だという考え方もあるわけです。

 私は、オウムがまたかつてのような大量無差別殺人を行う危険が現実に感ぜられるほどにあるかというと、ちょっとそれはわかりません、将来は。しかし、今の段階でそこまでなっていると言うのはちょっと言い過ぎじゃないか。

 しかし、さはさりながらオウムの活動の活性化によって地域の皆さんに大変な不安を与えている。地域の皆さんは、これは本当に誇張じゃなくて夜も寝られないという。ですから、二十四時間監視体制をつくってオウムの一日の出入りなどについても目を光らせている。何かちょっと質問をする、オウム側の対応が悪い、そうすると、これはそこで大変鋭い摩擦が起きる。下手をすると地域住民の皆さんが頭にかっときて何かをやるということだってあるかもしれません。あるいは地方自治体の首長さん方が住民票の移動も拒否するとか、あるいは子供が学校に来てもらっちゃ困るとか。居住移転の自由というのは憲法上保障された権利なんです。学問を受ける、これももちろん憲法上保障された権利なんです。それさえオウム関係者に拒否するという自治体の首長さん方が出てくる。

 さてそういうときに、これは一方でオウムの人権もあるけれども、他方で住民なりあるいは自治体なりの憲法秩序というものが揺らいでいるわけです。そこでどうするかということがあってこういう法律が出てくるんで、そこに初めてこの法律の合憲性というのが出てくるんじゃないか。ですから、オウムが何かやっている、だけれども、地域の皆さんは皆安心している、首長さん方も別にいらいらしていない、そういう状況のもとでこの法律を出すのだと、これは違憲のおそれがあるというように思います。そういう意味を込めて「国民の生活の平穏を含む」ということをあえて入れたんだと思いますが、いかがですか。

○国務大臣(臼井日出男君) 今、委員がお話しのとおりだと私は思います。
 まさに私が先ほど申し上げましたように、この条文の「公共の安全の確保に寄与することを目的とする。」という前に、修正をいただきまして、「国民の生活の平穏を含む」、こういうふうに書き込むことができたということはそういう意味で大変意義がある、こういうふうに申し上げた次第でございます。

○江田五月君 地域住民の皆さんに対して、あるいは首長さん方に対して、いら立つ気持ちはよくわかる。それはそうです、あれだけのオウムですから。あなた方がそうやっていら立っていろんな活動をされる、そのことが悪いんじゃないんだと。これはやっぱり謝罪もしないで活動を再開させるオウムが悪いんだと。そしてもっと突っ込めば、そのオウムについて、住民の皆さんに安心していただけるようなちゃんとした手だてを講じていない政治というものが責任を感じなきゃいけないんだと。

 そういう意味で、今回、政治が一歩前へ踏み出した。したがって、この法案ができればもうこれでちゃんと政治の側あるいは行政の側がオウムについてはきっちりと風通しをよくする、中をちゃんとだれにもわかるようにする、もし変なことが起きれば再発防止処分をする、したがって地域の皆さん安心してください、二十四時間監視体制なんかもうどうぞそんなに、あとは公安庁、警察に任せてください、首長さん方、住民票の受け付けを拒むようなことはもうどうぞしないでください、子供たちも学校へ受け入れてください、そういうことが言えなきゃいけないと思いますが、法務大臣、そう言えますか。

○国務大臣(臼井日出男君) 今、委員お話しのとおり、この法案によって私どもは基本的に団体としてのオウムに対する第一策は成った、こういうふうに思っています。
 あとは、オウムの信者の個人の皆さん方が団体を脱退された、そうした方々に対する対処、そうしたこと等についてまさに国としてしっかりと対応していくということが求められていると思います。

○江田五月君 修正案の提出者である北村さんにも同じ質問をしておきたいと思います。
 閣法のままだとまだまだ憲法上いろんな疑問があった、そこを修正で辛うじて合憲だと言えるものに直したんだ。したがって、この法律の適用に当たっては、「国民の生活の平穏」、その限度を超えてオウムにどんどん入り込んでこれを規制するというようなことがあるとややこしい問題が出てくるという、微妙なところだと思いますが、修正案提出者としてどういう覚悟で修正案をお出しになったかお聞かせください。

○衆議院議員(北村哲男君) まさに江田議員が御指摘のとおりだと思うんですが、私たちは、オウムに限定するという趣旨では五つの修正項目を出しました。それは先ほど江田議員も御指摘されたとおりでございます。

 今話題になっております住民の平穏という問題につきましては、確かにオウムそのものを見て今危険かどうかというのははっきりしません。しかし、はっきりしていることは、その存在が地域の住民に非常に不安を与えているということで、現実に首長が違法行為まで行わざるを得ない、住民登録の拒否なんかの、そういう事態を巻き起こしている。そういうことを避けることが大きな目的であるということで、単に原案であれば「公共の安全」ということで締めくくってありますけれども、「公共の安全」というのはオウムの危険性に対して公共の安全を保つためにというそういう対置の構造でありますけれども、今回の場合は、特に住民の不安、そしてそこに起こる無法状態というか違法状態、そういうものを避けるのも大きな目的であるということで、目的規定に「国民の生活の平穏」ということを、大きい意味では「公共の安全」という中に入りますけれども、それをあえて加えたというのが目的におけるその限定であります。

○江田五月君 この法律がオウムにだけ限定される、少なくとも過去をさかのぼって見るとこの法律が適用できる団体はオウムしかない、これはもう既に何度も確認済みだ、そう理解してよろしいですね。

 さて、将来ですが、この法律を適用しなきゃならぬ団体が将来出てくる、それにも備えているんだというふうにお考えですか、それともそこは必ずしもそういう備えではないんだということでしょうか、法務大臣。

○国務大臣(臼井日出男君) もちろん、本法案は法文上ではその対象はオウム真理教のみに限られるわけではございません。無差別大量殺人行為とは、政治的目的を持って「不特定かつ多数の者を殺害し、又はその実行に着手してこれを遂げないもの」を言うわけでございまして、本法案の対象となる団体の範囲はこのような無差別大量殺人行為を行った団体として極めて限定されておるわけでございまして、将来、恐らくはもうそうした団体があらわれないだろう、またあらわれてほしくない、このように思っております。

○江田五月君 あらわれないだろう、あらわれてほしくない。もう一つ、あらわさせない、その決意が要るんだろうと。

 私が坂本事件の反省は繰り返ししなきゃいけないと言うのはそこでして、いろんな殺人行為が起きる、それがいつの間にか観察処分しなきゃならぬような団体に成長してしまう、そんなこともあっては困るからこれをつくったと。それは法律ですから抽象的な法規範の定立であって、そういう適用の可能性をゼロにするということはこれは言えません。言えませんけれども、やっぱりそこは行政担当者として、もちろん法務大臣は警察じゃないから法務大臣の全責任というわけにいきませんが、覚悟を持って当たっていただきたい。

 将来、このオウム以外にこんなものが適用されなきゃならぬような団体が生ずることは、これはもう何としても防ぐという決意をしていただいたものと思います。

 修正項目の第三、第四、これは適正手続に関するものですが、それと別に、適正な運用について三点ほど確認しておきたいと思います。

 五条の一項五号、八条一項八号、ここにバスケットクローズがございます。このバスケットクローズの意味ですが、当然のことと思いますが、それぞれ前各号に例示してあるものと同程度の危険性でなきゃならぬ。バスケットクローズですから読み方によって、抽象的ですから広がる可能性、心配、これは心配をするなと言ってもする方が当たり前の話でして。

 そこで、これは前に掲げてあるのと同程度でなきゃならぬ、そういうふうに解釈しなきゃならぬということでよろしいですか。

○国務大臣(臼井日出男君) 委員御指摘のとおりでございまして、一号から四号までは典型的なもの、そして五号はそれらと同種、類似のものということでいわゆるバスケットクローズ、こういうことにいたしたわけであります。

○江田五月君 それともう一つ、八条の再発防止処分に移行する要件、「報告がされず、若しくは虚偽の報告がされた場合、又は」立ち入り「が拒まれ、妨げられ、若しくは忌避された場合」と全部受動態で書かれている。これは読み方によっては、公安庁なり警察なりが、妨げられたんだ、忌避されたんだと思ってしまえばそれで当たるというふうにも読めないわけじゃないと思いますが、これは受け身で書いた理由は特にありますか。やはり妨げるとか忌避するとかそういう行為があって初めてこの要件が満たされるということになるんでしょうか。どちらでしょうか。

○国務大臣(臼井日出男君) 今御指摘の本法第八条後段では、御指摘のように、不報告、立入検査拒否等について、「報告がされず」、また「立入検査が拒まれ」などの表現を用いております。

 これは、一般的に立入検査については団体の構成員ではない者によっても立入検査妨害行為を行うことが可能でございまして、このような場合も含めて規定をしておく必要があるということから、不報告などの場合もあわせ、報告、立入検査等を主語として表現したものでございまして、もとより立入検査拒否等の成立に必要な主観的、客観的な要素の一部を不要とするものではございません。

○江田五月君 もう一つ、その今の「妨げられ」、「拒まれ」といったところですが、団体側が取り消し訴訟を起こした、これは拒否とか忌避には当たらないですよね、法務大臣。

○国務大臣(臼井日出男君) そのとおりでございます。

○江田五月君 最後の修正項目が時限立法の関係ですが、施行の日から五年ごとに廃止を含めて見直すと。これは、オウム真理教というものがもうなくなってしまわなかったら廃止できないのか、それとも、先ほどからるる言っているとおり、オウム真理教という宗教が純粋に、公共の危険あるいは住民の不安、そういうものを感ぜさせることなく純粋に信仰活動だけをやるというところになったときに、それでもなおオウム真理教の信仰活動があるからということでこの法律を残しておくということになるのか。

 私は、それではいけない、それではこの法律は違憲状態として残ることになると思いますが、純粋な信仰活動が残っているだけだという状態になったときには、これはもう廃止をしなきゃならぬという理解をしなきゃいけないと思いますが、いかがですか。

○国務大臣(臼井日出男君) 今、委員から御指摘をいただきました廃止の問題でございますが、衆議院における本法案の修正により、廃止を含む見直しに関する規定が附則に設けられました。これは大切なことだと思っております。

 本法案が成立をいたしまして施行されました後は、その施行の日から起算して五年ごとに、この法律に基づく規制処分の実効性、規制対象団体の危険な要素等の消長、この法律の施行状況、いわゆるテロ対策等について検討が加えられ、その結果に基づいて、その廃止の可否も含めて見直しについて国会において十分な御論議がなされるものと考えております。

 私ども政府といたしましては、その御論議に資するため、この法律による一年ごとの報告等につきまして積極的に対応してまいる所存でございまして、国会による適切な御判断がなされるものと考えております。

○江田五月君 修正案提出者に伺います。
 今の廃止のことは私が今申し上げたような趣旨だ、そういう意味で修正をしたんだということでよろしいですか。

○衆議院議員(北村哲男君) そのとおりでございます。

○江田五月君 時間がないのでどんどん飛ばして進んでおります。
 さて、残念ながら、やはりこういう法システムをつくってこれでオウムについてはちゃんと透明度を増して、何かおかしなことがあったら防止処分をして押さえ込むから国民の皆さん安心してくださいと。安心してくださいと言うには、やはり法務省とか警察庁に対する国民の信頼というものがあって初めて言えるんだろうと思うんです。ところが、今どうも法務省についても警察庁についても国民の信頼が傷ついているのではないか。

 警察について、警察庁長官をきょう、まだお見えでないのでお見えになってから聞きますが、法務省、本日の新聞報道によると、これは後で同僚委員から質問があるかと思いますので私は触れるだけにしておきたいと思いますが、公安調査庁が市民運動を破壊団体扱いしている、そういう新聞報道があるんですが、大変これは重要なこと、私もこの点は問題に思っているということをまずもって申し上げておきたいと思います。

 きょうはそれじゃなくて、もうちょっと古い話なんですが、ことしの九月下旬に法務省の人権擁護局の上席補佐官が日本新聞協会を訪れた、そして人権擁護推進審議会のヒアリングへの出席を求めた。その際、事もあろうに、行政命令によって人権侵害する記事を差しとめることも視野に入れて検討したいと。これは、人権擁護関係の諮問をして、諮問が二つに分かれていて、最初の諮問、啓発、教育、これは既にもう答申が出ました。その後の人権擁護機関をどういうふうなあり方にするかというそういう諮問ですが、一カ月以上たって法務省は説明の内容が不適切であったと認めて謝罪をして、一連の発言を撤回したということです。

 これは上席補佐官、しかも人権擁護局、人権擁護推進審議会へのヒアリングを求めて、日本新聞協会に対して行政命令によって人権侵害する記事を差しとめる、行政命令によって記事の事前差しとめをすることを視野に含めると。明らかに憲法が禁止する事前検閲です。検閲はこれを許さないというふうに、もう全然何の留保条件もなしに検閲はもうだめなんだと憲法がしっかり書いている。そのことが頭から抜けて、たまたまそのときちょっと体のぐあいが悪くてとか、ちょっとそれでは弁解にならないと思うんですが、法務大臣、これをどうお考えになりますか。

○国務大臣(臼井日出男君) 一カ月以上たってという御指摘がございました。この流れにつきましては、私ちょっと資料を持っておりませんので後ほどまた参考人の方から答えさせていただきたいと思いますが、お尋ねの件につきまして、人権救済の充実強化について審議をいたしております人権擁護推進審議会が実施するヒアリングに関しまして、人権擁護局の職員が新聞協会に出席の依頼に参りました際、行政命令による差しとめに言及したのは事実でございます。先方から被害者救済との関係でどのようなことが問題となるのかというお尋ねがあったのに対し、全くの可能性として言及したものでございまして、法務省としてそのような手段を具体的に検討していきたいという趣旨で申し上げたものではないと聞いておりますが、事例としても不適切なものであり、既に担当課長が新聞協会に事情を説明し担当者の発言を撤回したものと承知をいたしております。私といたしましても、こうした考えは持っておりません。

○江田五月君 法務省がそのような考えをちょっと持っているとしたらこれは大問題で、何をか言わんやですが、可能性の一つとしてあるんだということであってもいけない。憲法二十一条はどう書いているかというと、「検閲は、これをしてはならない。」と。もう何もないんです。条件も何もないんです。よく練られた検閲だったらよろしいとか秘密にやるんならよろしいとか、そんなことは何もないんです、「検閲は、これをしてはならない。」と書いてあるんですから。可能性として言っただけでもこの可能性はないんです。憲法に書いてあることに違反しても可能性としてはあるんだというようなことはあっていいんですか、行政として。

○国務大臣(臼井日出男君) 今、委員御指摘のとおり、そういうことはあってはならないと思います。

○江田五月君 私は、これはやはり明白な憲法違反の発言を職務上行ったと。それは一人の上席補佐官、名前もわかっておりますが、武士の情けで名前は言いません。しかし、やっぱり法務省の憲法感覚、人権感覚について国民の信頼を裏切る、そういうことがあって、それでこの人権侵害のおそれの強い制度を活用させてくれというんではやっぱりちょっと困る。

 これは法務大臣の人事権に属することなのでそれ以上はちょっと申し上げにくいですが、少なくともこの上席補佐官、人権擁護推進審議会の事務局の役を果たしているというんですね、トップじゃないようですけれども、これはやっぱり人権擁護推進審議会の事務局からは外れるべきだと思いますが、法務大臣はどのような厳正な対応をされますか。

○国務大臣(臼井日出男君) いずれにいたしましても、大変不適切また不用意な発言だったと、こういうふうに考えておりまして、上司からも厳しく注意と指導をしたというふうに聞いております。

○江田五月君 ぜひひとつそれは考えていただかないと、人権の関係でいろんな運動をしている全国の人々がじっと見ているんです。ほんの小さなことであっても、それはやっぱりみんな本当に必死の思いで見ています。何だ、法務省はとなったら、いや法務省に人権擁護のことなんかむしろ言うもおろかというような感じを国民に与えたら大変です。現に今与えているかもしれないんです。よく考えていただきたいと思います。

 あと、警察庁長官にいろいろ伺いたいことがあるんですが、まだお見えにならないので、あとはひとつ角田委員から質疑を続けさせていただきたいと思います。
 終わります。


1999/11/25

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