1996/04/03

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衆院・予算委員会

○江田委員 大蔵大臣、大変御苦労さんでございます。お疲れかと思いますが、よろしくお願いします。

 平成八年度の一般会計予算についての質疑ですが、私は今回で四回目になりまして、今まで全部で三回三時間、四時間日に突入をしているわけですが、今回も住専の問題に限って質問をさせていただきます。

 予算委員会、しばらくとまっておりまして、久しぶりということになってしまいまして、これ自体大変遺憾なことだとは思いますが、しばらく時間があいておったので、議論の原点にちょっと戻って整理をしてみたいと思います。

 景気の今の状況とか国際社会の日本を見る目とか、そういうものにかんがみ、不良債権をきっちり処理をしなければいけない。それも、そんなに時間のゆとりがあるわけでもない。金融秩序をしっかりと維持していく、あるいは回復をしていく、あるいはこれまでの金融秩序の足らざるものはちゃんと再構築をしていく、そのようなことが必要である。これはもう当然私たちも認識をしているわけで、そういう点について、別に政府や与党の皆さんと認識の違いがあるということではないと思うのです。

 しかし、その不良債権の処理の仕方について、やはりやっていいこと、いけないことというのがあるだろうというのが私たちの基本的な考え方です。住専というものも、これももちろん住専のいろいろな個別の事情というものはありますが、しかし、どう言ってみても、住専が預貯金者がいない民間会社であるということ、これはやはり変わりないので、民間会社が経営破綻をした、そのときにどうするかということで、民間会社が経営破綻したときの処理のルールというものがやはりあるのではないか。

 ですから、以前に伺ったときに、たしか銀行局長の答弁だったと思いますが、この政府のスキームは私的整理である、そういうふうにお答えになっておる。私的整理というのは、これは破綻をした民間会社に債権債務の関係を有している皆さんが集まって、そして互譲で合意をつくるんだと。ちゃんと合意でみんながまとまれば、それは私的自治ですから、その中のいろいろな事情をめぐって、ここがおかしいとかあそこがどうだとか、そこまで言わずに、それはそれで、私的整理はだれも文句を言いませんよ。

 しかし、合意がまとまらないときには、これは最後は法律というものがありますよ、裁判所がありますよ。裁判所が入ってきて監督をし、管財人がその破綻をした民間会社に乗り込んでいって、理非曲直を明らかにしながら、透明な手法で、だれにでも説明できる、そういう内容で整理をしていく。そして、嫌でもあきらめるべきものはあきらめさせる、こういう法的処理、これがあるじゃないか。その二つのものがあって、今度のこの政府の案というのは私的整理なんだと。

 私的整理だと、あくまで当事者の互譲による合意だ。しかし、そこに六千八百億円の穴があく。穴があくということは、つまり当事者だけでは合意が完結しない。それをどうするんですか。それを税金で穴埋めするというのが政府案で、私たちは、それはルールに反するじゃないかと。

 法治主義の国、法のもとの平等、あるいは憲法八十九条といったものもある。そういうような日本のルールに反して、私的債務に税金を投入して穴埋めするということが許されるんだったら、国民は皆、一体何をルールだと信頼して経済活動をやっていっていいかわからなくなるじゃないですか。

 そんなことが許されるんだったら、どんどん借りて借りて借りまくって、そして飲めや歌えの大騒ぎをやって、取り立てが来た、ああ、税金で払ってください、なに、一人二人じゃだめなのならみんなで渡れば怖くないと言うのかというようなことになったら、これは大変で、そんなことを許して、やれ景気だ、経済だ、金融秩序だと言っても始まらぬじゃないかというのが私たちの気持ちなんですね。

 ですから私たちは、我が国はそういう法治国家としての、あるいは自己責任の国としての、市場原理の国としてのルールを、この場合でもやはり大切にしなければならぬ。

 そこで、破綻した民間会社の処理、これは合意がまとまらないのなら法的処理ですよというので、二月の下旬に「基本方針」というものをお出しをした。しかし、それだけでは具体的じゃありませんので、さらにもっと具体的やり方はどうなんだ、こういうことになりました。

 二月の下旬に出したときには、法的手続でやるんだけれども、倒産五法というのがあって、いろいろなメニューがありますよね。破産法もありますし、会社更生法もありますし、その他にもあります。いずれにしてもこういうものは管財人というものが任命をされて、裁判所の監督のもとに、管財人が会社に乗り込んでいっていろいろなことを明らかにしながら処理をする。しかし、その管財人が、現行の法律サービスの供給体制でいえばちょっとまだ手薄だろうというので、二月下旬のものでは、これを国家行政組織法三条の行政委員会にして、例えば刑事訴追権まで付与する、つまり特別検察官のような権限まで付与するようなものをアイデアとして想定をしたのです。

 さらに具体的にということになりますと、そこまで手を広げていろいろやっていると大変な作業になって、その間に住専の問題が通り過ぎてしまったら、これはアイデアとしてはよくても、実際の役に立つということにならないことになってしまってはいけない、事は急ぐといったこともあって、そういう行政委員会方式よりも、もっと検討の項目の少ない、ある意味で時間をかけずにさっと構想を立てることができる公社制度、特殊法人、これを管財人にして管財機能を補強しようじゃないかと。

 刑事訴追権とまで言いますと、全体の刑事訴訟体系に大変な検討を加えなければいけないので、そこまで言わずに、告発義務という程度でとにかくおさめて、しかし基本は既存の倒産関係の法律を活用するんだと。その既存の倒産関係の法律としては、いろいろ検討の結果、会社更生法というのがいいという案をお出しをしたわけです。

 ですから私たちは、基本は、民間会社が経営破綻した、そのときにどうするのか、合意ができなかったら法的処理しかありません、そういう市民社会の普通の法律、我が国の基本的な法律を使う、そしてその中では会社更生法がいいと思っておる。しかし管財機能は補強する必要があるからというので、管財機能のところだけを強化をしているわけで、その他の点については別に既存の法律にそんな何も手を加えているわけではないのですね。

 そういうことで、今、法治国家あるいは市場原理、あるいは自己責任、そういうものがしっかり守られる、何だか説明のつかない形で私的整理に税金を投入するということをやらない、そういう案を考えて世に問うているわけでございます。

 もちろん、まだ法案にしていませんし、今予算委員会ですからここに出すという性質のものでもありませんから、これは今作業を進めている最中ですが、何か、きのう及びおとといですか、本委員会で、与党の委員の方々と大蔵大臣とのやりとりの中で、我々の処理策について質問者と答弁者と両方で私たちの批判をされたようです。

 私たちもまだ「具体的方針」という一枚紙を出している段階ですから全部御理解いただくという段階でもないかもしれませんが、しかし、会社更生法というものについて理解をしていただけないやりとりがあったような感じもいたします。

 そこで本日は、そういうきのう、おとといのやりとりでお話しになっていることについての反論も含めて質問をしたいと思いますが、その前に私は、政府案では住専の役員の皆さんに対する責任追及というのが十分できないんじゃないかということ。これは、どう質問してどう説明を聞いても、どうも、なるほど責任追及は完璧だというような理解にまで至らないので、そこのところをひとつもうちょっと詰めておきたいと思います。

 誤解のないように言っておきますが、刑事責任の追及は、これは刑事責任を追及するそういうポジションにいる人たちがやれば、すなわち検察とかあるいは警察とかこういう皆さんがやれば、これは時効にかかっていない限りはちゃんとできるんですよね。ただ、時効の問題というのはありまして、今一九九六年の四月のきょうは三日ですから、五年の時効ということで考えれば、一九九一年の四月の三日以前のものはもうきようで時効にかかる。日々時効で免れる人が出てきているわけですからこれは大変だと思いますが、まあそれはそれで、刑事責任の追及はできる。

 問題は、民事責任の追及だと思うんですね。国民の皆さんも、住専役員、これが大蔵省とか銀行とかいろいろ天下りや出向で来て、そして紹介融資などいいかげんな融資案件をろくろく、ろくろくといいますか担保余力の調査も十分しないで貸し込んでいって、そして住専に穴をあけ、あげくの果て左前になって、さあ大変だというので退職金をもらって退職し、まあ逃げてしまっていると言うと言葉は悪いですけれども、そういう皆さんに対してやはり、退職金も全部返してもらおうじゃないか、役員報酬、もらったものは全部返してもらおうじゃないか、そんなような声もよく聞くわけで、そういう民事責任の追及。

 これは大蔵大臣も、地の果てまで追いかけるとおっしゃったときには、単に刑事責任の追及だけでなくて民事責任の追及のことも当然お考えで言われておると思いますが、もちろんその民事責任の追及のことも含めて徹底してこれは追及をするという、以前のお言葉で言えば地の果てまで追いかける、そのお気持ちはこれは当然変わっておられないですよね。ちょっと確認させてください。

○久保国務大臣 今、少し長いお話がございまして、質問が最後のところだけではなかったように思いますので、私にも少し時間を下さい。

 江田さんがおっしゃいました、今日、不良債権を早期に解決して金融の安定を図らなければならないし、金融システムの新しいあり方というものについて、これを確立をしていかなければならないという考えでは同じ立場だとおっしゃいましたことについては、私もそう思っております。

 そしてまた、そのことのためにお互いに、ここでいろいろな御意見を主張なさいましたことについても、私はそのことをよく承っておりますので、江田さんが会社更生手続による不良債権の処理についての御提案をなさいましたことも承知をいたしております。願わくば、対抗する法案としてこの国会に示されて、論議が深まればなおよかったかなという思いはございます。

 結局、どこで分かれたのかといいますと、不良債権を早期に処理しなければならないという立場に立って、どんな方法でやるかということで意見が分かれたのだと思っております。

 私どもは、会社更生法とか破産による法的処理というようなことについて、法律上の定めがあることを否定しているのではありません。そういうような方法も検討をした上、当事者との協議も重ねて、今、これは民間の問題ではあるけれども、この問題を早期に処理することが日本の経済、金融にとって、国際的責任も含めて極めて重要な段階に至っているというこの共通の認識の上で、私は、この民間の問題を処理することについて、その結果を考えれば、公的な責任を生ずるに至ったものだと考えているのでございます。そのような立場に立って、公的な介入をどこまでどのような形でやるかということも含めて論議をし、当事者の皆さんとも協議をいたしました上、最善の策として今皆様方に御審議をいただいているわけでございます。

 御質問でございました責任の追及ということにつきましては、私は、損害賠償請求権の及ぶものにつきましては徹底的にこれを、預金保険機構と一体となります住専処理機構において、告発を含めてやらなければならないことだと思っておりますし、債権の回収については、前から申し上げておりますように、徹底してその回収に当たることが今度の処理策の重要な任務となっております。

 なお、この深刻な事態に至ります間においてのいろいろなそれぞれの立場における責任も明確にしつつ、その責任は、この処理の進行とともに私は何らかの結論が出されていかなければならないものと考えております。

○江田委員 今、いろいろな経緯の中で公的責任が生じているという理解で公的介入をしなければいけないという言い方でお話しになったんですが、ちょっとそこはまだ、議論するとこれはかなり深い議論になってしまう、公的責任というのは何でしょうかと。

 仮に、この一連の経過の中で、住専の扱いについて大蔵省あるいは農水省、いろいろな官僚の皆さんのやり方がおかしくて、それによって損害賠償責任、国家賠償責任が生じたから、その分を幾ら幾らに算定して、それをこの私的整理の中に一定の金額でもって穴埋めの方法で税金を投入する道で解決をしていくんだというようなことをおっしゃるとすれば、それはちょっと違いますよね。

 そうだとすると、これはだれが一体不法行為者であってどういう不法行為責任があるのか、国家賠償責任があるのか、これを明らかにしないままそういう税金投入となってしまうと、これは税金の言ってみれば私物化みたいなことになりますから、そういうことではないのだろうと思います。まあちょっとそれはわきに置いて、今の損害賠償の関係については、徹底的にということをおっしゃったので意を強うしておりますが、ただ、例えば告発も含めというような言い方をされますが、告発というのは、これは刑事の責任のことですから混同のないようにお願いしたいのです。

 それで、政府の処理案では、この民事の損害賠償請求権の譲渡というものを債権譲渡契約書に一体どういうふうに記載するのか、これは大臣よりもむしろ局長の方かと思いますが、再確認をしておきたいと思います。

 二月九日の本委員会で西村銀行局長は、「当該損害賠償請求権は、譲渡の時点において賠償の金額や具体的内容が特定されている必要はなく、賠償の相手や」、これは損害賠償を請求される人間ということですが、「賠償の相手や不法行為の事実がある程度特定されていれば足りる、」と、三度にわたって文章を読み上げられて答弁をされました。

 法制局長官も、今回の法案で仕組んでおりますスキームの中で、損害賠償請求権の処理の問題でございますが、御承知のとおり、債権の譲渡ということになりますと、債権の譲渡者と譲り受け人の間の合意が要ります。そして、その旨の債務者に対する債権譲渡の通知が要ることは、委員御承知のとおりだと思います。

 したがいまして、債権譲渡、損害賠償債権の譲渡のためには、だれが債務者であるかということは当然ある程度確定していなければいけませんので、その程度のことは判明しておらなければそもそも不法行為債務の譲渡ということはあり得ないわけです。こういう答弁をされました。これはもう大臣もお聞きになっておったとおりですよね。

 二十六日の本委員会で、今度は、西村銀行局長は、
 損害賠償請求権の問題でございますが、これは前回もお答え申し上げましたように、住専処理機構は、住専から損害賠償請求権を譲り受ける際、必ずしも不正の事実等を特定したものに限る必要はなく、住専の保有するその他の損害賠償請求権も含めて包括的に譲り受けることが可能であり、これは譲渡契約の当事者間で有効なものと解されているというふうに政府の中でも十分すり合わせを行いまして対応することにいたしております。なかなかややこしい言い回しですが、そういう答弁をし、これは二月九日の答弁と違っているのか違っていないのか、私は違うと思いますが、

 具体的な契約の記載方法といたしましては、特定できるものについてはできるだけ特定して記載するとともに、その他住専がいつ現在保有する損害賠償請求権を譲渡するというような記載をすることによりまして、網羅的に譲り受ける方法があると私どもは考えております。そういう答弁をされているわけです。

 さて、そこで確認しますが、銀行局長、損害賠償請求権の譲渡は、特定できるものはこれはできるだけ特定して記載をする、さらに特定できないものについても包括的、網羅的な記載の仕方をする。そして、そういう記載がきっちりされていなければ、住専処理特別措置法の第十二条一項で、これは預金保険機構が契約の内容を承認するとかしないとかという権限を持つわけですから、そういう記載がなければ承認できないということになる。これはこう確認してよろしいですか。

○久保国務大臣 江田さん、済みませんが、さっきの公的責任、一言だけ言わせてください。

 私が公的責任と申し上げましたのは、これは不良債権の処理によって預金者の保護、信用秩序の保全ということに関する政治的な公的責任、こういう意味でございます。

○西村政府委員 ただいま江田委員、私の二月九日及び二十六日の答弁につきまして詳細に引用をしていただきましたので、もう一度ここで私が繰り返すことは差し控えさせていただきますが、両日に答弁申し上げました趣旨は、今もそのように理解をいたしております。

○江田委員 もう一度確認しますが、ちょっと聞いていてくださいね。

 確認しますが、特定できるものはちゃんと特定して記載をして、そして、その他特定できないものについても包括的に、つまり記載は、そこで損害賠償請求権の譲渡については、もちろん全然特定できるものが何もなければ別ですが、特定できるものがあればそれはちゃんと特定して記載をする。それはよろしいですね。

○西村政府委員 特定できるものがございましたらそれは特定することが望ましいわけでございますから、そういうふうにした上で、特定できないものにつきましても、先般申し上げましたような方法で承継することができると理解をいたしております。

○江田委員 大蔵大臣、今、前の公的責任を補足をされましたが、そういうある意味の政治的、あるいは公的というのでしょうか、責任があるということはそれで承りますが、私もそうだと思いますが、それは私的債務の穴埋めを税金で補てんすることとは別な話ですよね。ですから、それはちょっと置いておいて、今の話に戻ります。

 わかりました。特定できるものについては契約時に通知をするのですね、そうすると。特定できるものについては、契約書にも書くし、また契約時に、時というのはそれはもちろん何日かの余裕はありますが、ちゃんと損害賠償の債務者に対して通知もすることになる。さらに、特定できないものについては、後日判明した時点で清算法人が通知をする。清算法人が清算結了の登記の後に消滅をした場合には、清算人が生きている限り通知してもらうようにする。通知についてはそういうことになるのですか。

○西村政府委員 債権の譲渡と通知は必ずしも一致をしておるものではないと思いますけれども、特定いたしましたものについては、しかるべき時期に通知がされるものだろうと理解をいたしております。

○江田委員 しかるべき時点に通知がされるべきものであろうという、何かこう頼りない返事のような感じがしますが、やはり譲り渡し人からいいますと、債権譲渡契約をした場合には、ちゃんと債権を譲り渡すことが完結するというところまで行為を行う義務があるわけですよね。債務者にその債権譲渡というものが対抗できなければ、それはやはり債権譲渡としては完結していないのですよね。債権者は通知をする義務を債務者に対して負っているわけですから、しかるべき時点にすることになるであろうというようなことでなくて、やはり通知は、しかるべきじゃなくて、その日なのか翌日なのかそれはわかりませんよ、しかし、通常の債権譲渡の際の通知と同じように適切な時点で通知をすることになる、こうはっきり自信を持ってお答えになって何も困ることはないと思いますが、いかがですか。

○西村政府委員 通知というのは対抗要件であると今も御指摘がございましたが、私もそのように理解をしているところでございます。

 譲渡した権利は対抗要件を備えることが望ましいわけでございますから、そういうことになるものが多いと思いますけれども、すべて一〇〇%対抗要件を備えなければいけないかどうかということにつきましては、その債権の性格によって必ずしもそうでもないものもあるかもしれないということで先はどのような答弁を申し上げたわけでございます。

 原則的には、対抗要件を備えるために通知をするというふうに理解をいたしております。

○江田委員 どうも法律の細かな議論をするとまずいのですけれども、対抗要件というのは第三者に対抗する場合と、それから今の債権譲渡のように債務者に対抗するという場合とちょっと違うので、債権譲渡だけれども債務者にそのことを主張できないような債権譲渡をされたって、そんなもの空手形ですよね、文字どおり。やはり債務者に対して、私は債権者になりましたのであなたは債務を支払ってくださいと言えないような、そんな譲渡を受けたってだめなわけですから、これは通知をしない場合もあるかなどということを言ってもらっては困るのじゃないですか。いかがですか。

○西村政府委員 今、私は第三者に対する対抗の問題について申し上げましたが、確かに先生おっしゃるように、債務者に対する対抗という問題もございます。そういう意味では、債務者に対して通知をする必要がすべての案件についてあろうかと考えております。

○江田委員 法務省の民事局長、お見えですね。今確認したわけですが、そういう確認で、損害賠償請求権の譲渡は完全な形で行われることになって、民事上の責任追及は十分な成果を上げることができるというふうに民事局長はお考えですか、どうでしょう。

○濱崎政府委員 債権の譲渡の方法及びその有効性、あるいは対抗要件の具備の問題につきましては、ただいま大蔵当局からお答えになったとおりであるというふうに私どもも思っております。住専処理機構がその譲り受けた債権をどのように適切に行使されるかということにかかる問題であるというふうに思っております。

○江田委員 譲り受けた債権をどのように適切に行使するか。特定しているものはいいと思うのですが、包括的とか網羅的とかという、全く何が譲り渡されたか、譲り受けたかわからない、これを譲り受けた者が適切に行使するというのは、まあ民事局長はわかっておっしゃっているのだろうと思いますけれども、なかなか至難のわざだと思います。

 法制局長官にも伺っておきたいと思いますが、今の確認で、損害賠償請求権の譲渡は完全な形で行われたことになって、民事上の責任追及、損害賠償請求は十分な成果を上げることができる、そうお考えでしょうか。

○大森(政)政府委員 ただいま法務省及び大蔵省から答弁があったのと全く同意見でございます。同意見といいますのは、債権譲渡の合意とそして対抗要件の具備に関する点については全く同意見であり、私も前回申し上げたのはそういう趣旨でございます。

 それから、そういうことで十分に履行を確保できるかどうかという点につきましては、これはその事情によりケース・バイ・ケースでございまして、極端に言うと、損害賠償義務者が全然無資力ならばそれはいかに取ろうと思っても取れませんし、また債務者の特定や、あるいは不法行為の特定、損害額の特定自体も資料との関係でなかなか難しい面も事実上はあろうかと思いますので、そこまで保証の限りではないと言わざるを得ないと思います。

○江田委員 法制局長官の方はずっと素直というか率直にお答えいただいたと思いますが、第三者つまり債務者に対する対抗要件の具備というところまで含めて同意見だというようなおっしゃり方で、何か言いたいことがあるよというニュアンスを残されたと思っております。

 さて、ここを議論していても仕方ありません。久保大蔵大臣、民事責任の追及も徹底的に行うのだというそのお気持ちはもちろんわかるのですけれども、やはり徹底的に行うについては、熱意だけではできないのですよね。やはりそう行うための権限も必要だし、その仕組みも必要だ。

 私は、この政府の処理策だと責任追及ができない、むしろ免責の体系になってしまうという気がして仕方がないのです。法律的にもどうも疑問があるのですが、法律的には今の説明のようなことを仮に認めるとしても事実上できない。与党の例の追加策というのは、これはまやかしたという評価がどうも定着をしたように思いますが、実は政府の処理策、追加策ではなくて本体そのものがどうもまやかしであるように思うのですね。

 そこで、大蔵大臣にまずお伺いしますが、政府提出の住専処理特別措置法のどこに民事上の責任追及の規定があるでしょうか。

○西村政府委員 民事責任の追及につきましては、先ほど来御議論がございます損害賠償請求権の問題、これは今御議論があったといたしまして、そのほか住専処理機構が回収を迅速かつ的確に行うものであることをその設立時に大蔵大臣が審査することといたしております。これは第五条の第四項第二号でございます。

 そのほか、預金保険機構が悪質な債務者について罰則で担保された財産調査を行ったり、あるいはみずから取り立てを行うというふうにしておるところでございまして、これは第三条第一項第六号、第七号、第十二条の第六号、第七号、第十七条の関連でございます。

○江田委員 これは回収なんですよね。回収の関係ではなくて、損害賠償の責任の追及について何かありますかということを聞いているのですが、追加策の中にはいろいろ書いてあるんですよね。しかし、久保大蔵大臣、この追加策というのは政府はどうかかわっているのですか。政府案ではないのですよね。

○久保国務大臣 国会の審議の内容も十分に受けとめられた上で、与党三党として国民の十分な御理解を得ながら平成八年度の予算案を早期に成立をさせるという立場から、この新たな追加措置をお決めになったものでありまして、与党三党の合意と、関係の銀行の代表等との協議も含めた上でまとめられたもので、政府に対してその内容を報告されております。

 政府としては、この新たな措置として与党三党がお決めになりましたものを重く受けとめて、今後の対策の上で十分に尊重してまいりたい、こういうことを申し上げておりまして、政府案ではございません。

○江田委員 政府提出の法案の中にも、今の損害賠償責任の追及というようなことに関する規定もない。あるいは、今の与党の追加策の中にはありますが、それもどうもその性格がはっきりしない。本当に仕組みとしてそういうものをちゃんと設けるのかどうか、甚だ疑問でございます。

 三月二十九日付の日経産業新聞に、日弁連、日本弁護士連合会の民事介入暴力対策委員会の委員長、田中清隆という弁護士さんがインタビューを受けておいでです。この方は政府案にもそれなりの理解を示しておられる方なんですが、それでも政府の処理策の実務上の課題として、一番最後の方ですが、「住専処理機構が」、これは会社ですか、「住専から譲渡を受ける債権で、額面が決まっているものはよいが、帳簿に記載されない」、あるいは契約書に、今の包括的、網羅的、そんなような格好でしか記載されていないというふうに読んでもいいでしょう、そういう「記載されない取締役や銀行に対する損害賠償請求権などは住専側が自発的に明らかにしない限り譲渡は難しい」、政府案に理解のある弁護士さんもそうおっしゃっている。

 債権譲渡の際に損害賠償請求の対象となる住専の役員とそれから不法行為とを調査をして特定するのは住専の役員なんだ。これは前に、大分前ですが、お答えくださいましたよね。住専の役員なんだ。自分で自分自身に対して、あるいは自分のところの先輩に対して莫大な金額の損害賠償請求をさせるというわけですから、まあ厚生省のエイズのこととかTBSのこととか、自己調査というのはなかなか大変で、それでも自己調査をそういうシステムをつくっていろいろやっているわけですが、自分で自分に対して、あるいは自分の先輩に対して損害賠償、こんなことが本当に可能だ、これは大蔵大臣、本当にそう思われますか。

○久保国務大臣 田中弁護士の今御紹介になりました記事につきまして、私も読ませていただきました。確かに今、江田さんがおっしゃったようなことを申されておりますが、「帳簿に記載されない取締役や銀行に対する損害賠償請求権などは住専側が自発的に明らかにしない限り譲渡は難しい」ということが書かれております。私は、やはりこのことも一つの専門家の御見解だと思っております。住専側に明らかにさせる努力をしなければいけないものだと思っております。

 また、この田中弁護士が最終的にまとめられておりますのは、「住専処理機構で徹底的に不正を洗い出し、将来の組織暴力対策立法の資料にすることまで見据え実行すれば、税金を投入する価値はあると思う」というのがこの田中弁護士の説の最後の取りまとめだ、こういうふうに読ませていただいております。

○江田委員 田中弁護士は政府案を一定限度で評価しておられるということは私も認めているわけで、しかし、損害賠償請求のところはこうおっしゃっているわけですね。これはそれぞれの考え方に長所もあるいは困難な点もいろいろあろうと思いますが、少なくとも私どもの案ですと、これは管財人が住専に乗り込んでいって行うわけですから、住専の役員がみずからに対して損害賠償請求をやるとか、あるいは先輩に対してやるとかじゃなくて、第三者である裁判所の監督を受ける管財人が乗り込んでいってやるわけですから、これは完璧にできるという、この点は一言申し上げておきます。

 先ほどの田中弁護士は、政府案について、さらに続けて「住専が担保不動産に設定しているのは、融資の上限になる極度額を定め債務額が常に変動する根抵当権が大半だが、譲渡の際には債務額を確定する必要があり、債務者の協力が不可欠。場合によっては裁判で確定しなければならず膨大な手間がかかる」、こういうことも言われているわけですが、これはまた専門的なので、銀行局長、こういう指摘はどう思われますか。

○西村政府委員 この法律問題が議論される場合に、私どもは二つの側面、要するに、住専に対する貸し手と住専との関係と、住専とその借り手の関係という二つに分けて考えなければいけないと思いますが、その後者の問題についていろいろと難しい問題があることは私どもも承知をしております。

 しかし、それはどのような手段をとりましても、恐らく新進党の御提案のような方法をとりましても、難しい問題はやはり処理しなければいけないということであろうかと思います。私ども、そういう難しい問題があるということを踏まえた上で、いかにしてそれを実行することが効率的、実効的かということを十分考えてまいりたいと思っております。

○江田委員 今のお答えはどうもお答えになったのかどうか。

 田中弁護士は、根抵当権の場合には、譲渡する際に債務の額を確定する、根抵当権の確定ということが大切で、それをやらないと譲渡できないので、これはなかなか大変ですよということを言っておるわけですね。

 そのほかにもいろいろあって、債権の回収については、政府の案は、これは預金保険機構にいろいろな体制を整備してこれと協力してというのですが、しかし住専処理会社そのものは株式会社です。特別の権限があるわけじゃありません。私どもの案は管財人で、会社更生法の中の、例えば否認権であるとか、あるいは担保権の実行に対する一定の措置であるとか、いろいろな特別の権限があるのですよね。

 それは置いておいて、私が民事上の責任追及、損害賠償請求に対する政府の姿勢にどうも疑問を持つ例を一つ挙げておきたいと思うのです。

 昨年の八月に破綻が明らかになった兵庫銀行。兵庫銀行は、その後新しく設立されたみどり銀行に営業譲渡を行って、一月二十九日にみどり銀行の営業開始。その間、兵庫銀行には預金保険から四千七百三十億円の資金贈与が行われている。大蔵大臣、この兵庫銀行もかなりいろいろ言われているのですよね。乱脈融資の、これはまだうわさなのですけれども、いろいろ言われておって、この兵庫銀行についても民事上、刑事上の責任、これは徹底的に行う、地の果てまでも追いかけていく、こういうお考えはございますか。

○西村政府委員 破綻金融機関につきましては、民事上、刑事上の責任を追及するという考え方に変わりはございません。

 ただ、兵庫銀行の場合には、破綻をいたしましたときの役員は、いわば再建をするために派遣をされましたというような事情もございますので、その点は、破綻の原因をつくった者とそれを立て直すために行った者との責任という点については、若干の考え方の違いがあってしかるべきと考えております。

○江田委員 若干でなくて、大いにそれは違っていてもいいのですけれども。破綻した後にその処理に行った人に責任と言ったって、それは無理なことは当然ですけれども、破綻の原因をつくったときの役員、つまりその前任者、先輩連中、これに対する責任追及というものはやはり必要だろうと思うのですね。まあ、兵庫銀行の場合には長谷川さんという方はお亡くなりになっているので、これはなかなか大変ですが。

 しかし、いずれにしたって、この兵庫銀行からみどり銀行への営業譲渡契約書については、損害賠償請求権の人物の特定も不法行為についての記載もありませんね。「譲渡すべき営業の範囲は、営業譲渡日午前零時における乙」というのは兵庫銀行、「の本営業に属する動産、不動産、債権、債務等(以下「譲渡財産」という。)およびこれに付随する権利義務に及ぶものとする。」というので、損害賠償という言葉さえないというのは、これはどういうことですか。いろいろ兵庫銀行についても、昨年八月、立入検査をされています。その前には二年ごとに検査をしておられますが、そういう検査のときに役員の忠実義務違反に当たるような事例は一切なかった、だからここへ具体的に書いていないんだ、こう理解していいのですか。

○西村政府委員 兵庫銀行の営業譲渡契約書は今御指摘のとおりでございますが、仮に取締役の忠実義務違反の事実があったことが判明いたしました場合には、兵庫銀行から営業譲渡契約によって包括的に権利義務を譲り受けているみどり銀行が損害賠償請求を行うことは可能であると考えております。

○江田委員 私が聞いたのは、去年の八月の立入検査とか、その前の二年ごとの検査とかの結果を見ても、精査をしてみても、取締役に対して民事上の責任を問わなければならぬようなケースは一切なかったからここに、ここにというのはこれは営業譲渡契約書ですが、具体的なことは何も書いていないという、そういう趣旨なんですかということを聞いたのです。

○西村政府委員 通常、損害賠償請求というような問題につきましては、検査に当たりました当局が行うというよりも、承継をいたしました、例えばこの場合でございますとみどり銀行が、事実がございます場合にはそのような手続をとるというようなことをいたしております。これは破綻をいたしました二つの信用組合等についても同様の手続をとっておりますが、現在のところ、みどり銀行がそのような手続を踏んでおるということは聞いてはおりません。

○江田委員 どうもストレートにお答えにならないものですから大変遺憾なんですが、兵庫銀行の場合は、例えば暴力団の組長に貸しておったとか、この暴力団に貸しておったというケースは、これはどうも解消されておるようですから、そのまますぐ損害賠償の対象になるわけじゃないようですが、しかし暴力団に貸しておった。それも一回や二回じゃないのですよね。あるいは、暴力団に貸しておったのと関連するもので、どうもまだ完全に返済されていないものもあるとか、それからそのほかにもかなり、リゾートの関係であるとか、あるいはノンバンクがあって、そのノンバンクが法的処理をされているとか、いっぱいあるのですね。それを今のようなことで御答弁になるようですと、やはり兵庫銀行からみどり銀行へ営業譲渡でという、これも免責の体系になっておるのじゃないか。前の役員全部、この兵庫銀行からみどり銀行へ移した段階で責任を追及できないようにしてしまっているのじゃないかという、そんな気がするのですね。

 兵庫銀行の契約書、それから立入検査の報告書、こういうものは見せてもらえますか。

○西村政府委員 検査の結果については公にはいたさないという前提で行っているということを御理解いただきたいと存じます。

 営業譲渡契約書は、先ほど第二条について委員から御指摘があったように存じます。
 契約書は私的文書でございますので、私どもが今この場で提出をお約束申し上げるということは差し控えさせていただきたいと存じます。

○江田委員 兵庫銀行からみどり銀行へというのは、今度の住専と住専処理会社との関係がどういってんまつをたどるかというのを暗示しているような気がするので、私どもの方でもいずれ十分検討してみたいと思いますが、契約書も出せません、検査報告書も明らかにしません。そして、この抵当証券を買った皆さんが訴訟を起こしているのですが、この皆さんは、代表取締役、頭取に対してもあわせて訴訟を起こしていたりで、国民の中にいろいろな意見があるのですよね。もうちょっとこの姿勢が変わらないと、やはり免責体系になっているという国民の疑問は払拭できないような気がするのですね。

 予算委員会に提出された平成三年ないし平成四年の住専七社に対する第一次立入調査結果や平成七年八月の調査結果を見ますと、問題融資のオンパレード、ほとんどの役員が忠実義務違反に当たる可能性があるというふうに思いますが、銀行局長、これらで出てくる案件に関係していた役員、この人物は、全部これは特定して譲渡契約書に書くべきだと思いますが、いかがですか。

○西村政府委員 営業譲渡の内容、形式あるいは損害賠償請求の仕方等につきましては、当事者のまずお考えになるべき問題かと存じますけれども、そのプロセスにおきましては、先ほど申し上げましたように、例えば預金保険機構がチェックをするというようなプロセスもございますので、適切に行われると信じております。

○江田委員 やはり具体的にこういうケースは、忠実義務違反がかなり濃く疑われるというような場合には、ちゃんと名前を書かなければいけないのじゃないですか、不法行為の概要についても。例えば、前にも問題にしましたが、納税証明書か何かが偽造されている、それをそのままうのみにしていたようなケース、こんなケースはどういうふうにされるのか。今あれはどういうふうにしましたかと聞きたいところですが、ちょっと時間がなくなってしまって。

 大蔵大臣、会社更生法のことで、きのうの答弁で、日住金とかもう一社、清算の方向を住専の方で決めている、したがってこれは会社更生法になじまないというようなお考えを述べられた。違いますかね。そういうふうに新聞に出ているのですけれどもね。

 つまり、当事者の意向というのは会社更生法適用のときに関係があるのかないのか。大蔵大臣は、何か当事者の意向、当事者というのはこの場合つまり住専ですよ、意向が関係があるかのようにお答えになっておるように読めるのですが、そこはちょっとお聞かせください。

○久保国務大臣 会社更生手続をとることについての提案があるが、どのように考えるかという意味の御質問でございました。

 このことにつきましては、会社更生手続をとります場合には、会社の再建、維持の見込みがあることが重要である、そのことについては会社更生法三十八条の問題も存在するということなどを申し上げました。その中で、更生の見込みがあるかどうかの議論として、三月二十六日に上場企業である日住金と第一住金が第二次再建計画を断念し、整理、清算の方向を決めてこれを公表したということを申し上げたのであります。

○江田委員 会社更生法に言う「更生の見込」というのは何であるかという、これは十分議論をしなければならぬ点ですが、私どもは少なくともこの住専の場合には、会社更生法の手続を開始するそのための要件としての更生の見込み、本当に更生できるかどうかというのは、それはやってみなければわからぬ話ですが、会社更生法の手続を開始する要件としての更生の見込みに欠けるところは全くない、これは実務のいろいろな皆さんの話などを総合してもそういうふうに判断をしておるのです。

 それはちょっと置いておいて、もう一つ、政府が金融三法を用意されていますよね。その中の一つに、金融機関の更生手続の特例等に関する法律というのがございまして、これも前にここで取り上げさせていただきました例の金融制度調査会の答申から始まった議論で、金融機関の会社更生手続、それをやったら――ここにおもしろいこと、銀行局からいただいた資料、「破綻処理の迅速化・多様化」、破綻処理の迅速化、そのために更生手続を金融機関にも適用できるように監督官庁が申し立てることができるようにというようなことを書いているんですよね。これは、どうも私どもが言う会社更生法では時間がかかってしょうがないとか言う方もおられるようですが、政府自身が今お出しになる金融三法の中では迅速化に資すると書いてあるんですね。

 会社更生法を金融機関に適用するメリット、これはあるということを当然大蔵省もお考えだと思うんですが、そのほかにもいろいろ政府の方だってこんなこともしているじゃないですか、ああいうこともお考えじゃないですか、それだったら私どもの会社更生法の案について余り誤解、曲解の議論をしていただいては困る、そういう気持ちも非常に強くいたしておるのですが、残念ながら時間になってしまいました。

 十分な議論をさせていただくということで、予算委員会、さらに大幅な予算の議論ということになっておりますので、ひとつぜひまた議論させていただきたいと思います。きょうはこれで終わります。

1996/04/03

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