1987/07/29

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109 参議院・文教委員会


○江田委員 私はこんな話を聞いたことがあるのです。世の中が悪くなるについては三種類の人間が責任あるというのですね。その一人は教師。教師がどんな問題を持っているかというのは今まだいろいろ議論がありますけれども、その教師の一番頂点に立つ大学教授を含む大学、これがいろいろな問題を抱えていることは事実で、これを何とかしたいということもみんな共通しているわけです。ただ何が問題かという認識とかこれをどう何とかするかの方法とかは議論がいろいろあるわけで、そこで大いに議論をしなければならぬと思うのです。二番目に世の中が悪くなるについて責任のある人は宗教家。これはきょうはさておき、三番目に、本当は最も重要な責任があるのかもしれませんが、政治家というのが出てきますわ。

 教師と宗教家と政治家、これが世の中を悪くするというわけですが、きょうロッキード事件の判決が出ました。伊藤宏被告に執行猶予四年がついた以外は控訴棄却、したがって我々の同僚議員である田中角榮元首相は懲役四年、追徴金五億円ですかの実刑が高裁でも言い渡されたわけです。

 第一審の判決では、このロッキード事件、田中角榮元首相の行為について、国民の公務の公正に対する信頼は甚だしく失われた、社会に及ぼした病理的影響の大きさははかり知れない、こう糾弾されたわけで、今大学を云々する前に、まず世の中を一番悪くしている政治家がこういう問題について一体どう新たな決意で事を正していくかをやらなければならぬ。国民を教育するとかなんとか言う前に、まず腕より始めよということですが、きょうのこの判決は文部大臣も当然お聞きになっていると思いますが、教育に対して一番重要な責任を負っている大臣としてどういうふうにお考えになるか、まずお聞かせください。

○塩川国務大臣 私は、どんな判決であったか詳しく聞いておりませんけれども、テレビを見ておりまして、今おっしゃるようなことでございましたが、直ちに田中被告側はこれを上告するということを言っております。最高裁へ上告されるのだと思うのですが、結局そういうことを見ますと、やはり上告されたその結果を見なければこの問題については言えないと思うのです。

 しかし、政治家の倫理問題としていろいろと世間から言われていることがございますが、それはそれとして、私たちは世間の声というものを謙虚に受けとめる必要があるとは思っております。しかし、このロッキード問題と我々個人というものは、自分さえしっかりしておればそういうことはかかわり合いのないことでございますので、まず政治家一人一人が自分の責任の重大さを自覚して、信託にこたえる気持ちをしっかり持つことが大事だと思っております。

○江田委員 政治家一人一人ももちろんですけれども、国民から見ますと大学もいろいろ問題がある。しかし、大学もやはり、大学人一人一人の問題だとは言えない、いろいろな仕組みの問題や何かで、もっと大学しっかりしてほしいというのは国民の声。同時に国会も、政治家一人一人というふうにしてしまうのではなくて、やはり国会として政治倫理を正していくということについて何かしてくれないと、大学のことをいろいろ言う前に、まず国会がこんなことでいいのかということだと思うのですよ。上告をされたとするならば上告審を見なければわからぬわけですが、一体なぜ政治家は、起訴されて、まだ上告審がありますからと言って平気でおれるのか。普通の公務員は起訴されたらそれで休職になるじゃないか。国会というのはいいですね、こう国民は思うわけでしょう。今文部大臣は、この政治倫理についてもう少し世間の声を謙虚に聞くべしという話はあったわけですけれども、政治家個人個人の問題とされるのではなくて、やはり内閣の中でもあるいは自民党の超有力政治家の一人としてでも、これを契機に、大学に対していろいろなことを言う立場を確立するためにも、国会みずから襟を正そうじゃないかという発言をされるべきではありませんか。

○塩川国務大臣 国会みずからということは江田五月先生も含んでの話になってまいりますので、もちろん塩川正十郎も含んでの話でございますので、これは政治家全部の責任であろうと思います。

○江田委員 きょうはこの事件に余り深入りするときではありません。しかし私は、もちろん私も含めてですが、こういう国会の状況で大学のことを云々するのはどうも何かおこがましいといいますか心がちょっと痛みますね。そのことをまず冒頭申し上げて、中身に入っていきたいと思います。

 これまで戦後、大学について政治の場で議論をされたことは過去三回、今回で四回あると私は思います。時にはそれは、国会の正式の法案の審議ということにはならなかった、しかし時には法案の審議もあった。

 戦後、昭和二十六年には国立大学管理法案というものが出されましたね。この中には国立大学審議会という制度の規定が含まれている。国会に提案されて審議も行われておりますが、廃案になった。昭和三十七年には、これは国会にまで出されませんでしたが、国立大学運営法案、いわゆる大学管理法案というものが大いに議論になった。ちなみに、私は当時大学生で、学生自治会の委員長で、ちょっとやり過ぎて首になったわけで、したがって大学管理法というこの分野のことはいろいろ思いがございます。そして三番目に、昭和四十四年、大学紛争が非常に吹き荒れて、紛争処理といいますか、押さえつけるという目的で、大学の運営に関する臨時措置法が内閣提出で出されまして成立しました。成立はしたけれども、そのときの国会は大荒れに荒れた、これだけじゃないが、いろいろな課題があって荒れたわけですね。そして今回が四度目ということになると思うのですが、こうやっていろいろな議論があった中で、一貫して常に議論になっていたのは、やはり大学の自治、学問の自由ということだった。反対する側は、学問の自由、それに基礎を置く大学の自治、これを侵すことになるじゃないか、推進する側は、いやいやそんなことはありません、こういう議論だったのです。

 最初にまず確認をしておきたいのですが、今回もこの学問の自由、大学の自治、これは最大限に尊重していくという立場は変わらないんだろうと思いますが、大臣いかがですか。

○塩川国務大臣 先ほども申しましたように、学問の自由それを保障するためには大学の自治が必要であるということ、これは当然でございます。

 ただ私は、先ほども申し上げましたように、それはあくまでも大学人といいましょうか、その大学人が国民の理解を得られるということが大事なのであって、先ほどお話に出ましたような大学管理法をつくらなければならないような異常な状態にならぬようにしなければならぬ、それを前提にするということが学問の自由と学園の自治が保障されていくんだということ、これは改めて私からも申し上げたいと思うのです。

○江田委員 例えば、あの大学の運営に関する臨時措置法のときには、これは言い方によれば学生の暴走によって大学の自治もへったくれもなくなってしまった、大学の自治を回復するために横から突っかい棒をするんだ、そういう言い方があるいはあるのかもしれませんが、さあ、そうであるかどうか議論のあるところだと思いますが、きょうはそれに入りません。

 今度は、今出されております大学審議会法案、学校教育法及び私学法等の一部改正法、これは大学がどうも自治、自治と言うような状況じゃない、大学の自治がいささか危ないから、大学が自治を口にするのはいささかおこがましいというような状態になっているから、だから多少大学の自治を侵すような、大学の自治に抵触するようなことがあってもあえて文部省側が乗り込んでいってこれを直してやろう、そういう親切なお心でございますか。

○塩川国務大臣 全くすかたんなことでございまして、そうじゃございませんで、そういう異常な事態がない限り学問の自由、大学の自治というものは尊重していかなければならぬということであります。

○江田委員 確認しておきますが、今回のこの法改正は、少なくとも提出された内閣の、そして文部大臣のお考えとしては、学問の自由、大学の自治に全く抵触するものではない、こうお考えになっておられる、これでいいのですか。

○塩川国務大臣 その精神を尊重しながらやっていくんだということ、間違いありません。

○江田委員 精神を尊重するというのはよくわからないのですがね。その精神を尊重するためにも若干手荒なことをしなければならぬ、そういうことなのか、それともこの法律は大学の自治は全然侵害するようなことはない、そういう法律じゃないというお考えなのか、どちらなのか。

○塩川国務大臣 絶対だとか全然だとかいうことをおっしゃるから――いろいろ表現あると思うのですが、それは言っていることはよくわかっておると思うのですから、その程度でひとつ理解していただいたら……

○江田委員 何か非常に政治家的というのですか、あうんの呼吸というのですか、ちょっとそれではやはり困ると思うのですね。大学関係者が心配しておるので、それは杞憂だということなのか、それともああいう言い方だとやはり我々の心配も当たっているのではないかというふうに大学関係者が思ったままでいいのか、ここをはっきりさせておかれた方がいい。はっきりさせても、なお、それじゃこういう場合に大学の自治を侵害することになるじゃないかとかいろいろ議論が出てくるわけですから、少なくとも冒頭の大臣の答弁としては、大学の自治を侵すようなものではないということははっきりされたらどうですか。

○塩川国務大臣 私はそれははっきり言っておるはずでございまして、ただし、そういう異常事態を起こすようなこととか、あるいは国民がだれが考えても非常識であるというようなことがない限り、それはやはり学問の自由と大学の自治というものは認めて、これを尊重して十分守っていかなければならぬ、また守るのが文部省の責任でもあると思うのですよ。だから、そういう事態がない限り、学問の自由並びに大学の自治というものは保障していくべきだ、私はこう思っております。

○江田委員 その限りではわかるのですが、文部省は、異常事態がない限り学問の自由、大学の自治は最大限尊重し守っていく、それはそうです。私が聞いているのは、文部省はというよりも、この法律は、この学校教育法改正法案は大学の自治とこの点でちょっと抵触しますが、しかしこういう事態ですから仕方がないのですということなのか、それともそういうことは全然ないのですということなのかということです。

○塩川国務大臣 法案で見る限り、私が言った自由と自治は保障しておると思います。

○江田委員 何かどうも、どこかやましいところがあるというような答弁に聞こえるのですけれども、それでは、今反対をしているあるいは危惧を持っている皆さん方が、なるほどということにちょっとならぬ。ならぬにはならぬ理由があるのかもしれませんけれども、しかし、いずれにしても大学の自治というものは民主主義体制の一つの基本的な価値ですから、これは民主主義体制でない体制では容易に崩される、しかし、我々の民主主義体制のもとではこれはしっかりした一つの価値として守っていかなければならぬものですから、この点はひとつ万遺漏なきようにお願いをいたしておきます。

 ところで、これまでの三回の大学に関する政治の場での議論の成果というもが今回のこの大学改革ということに引き継がれておるのかどうか、要約して簡単にで結構ですから、こういうことがありましてこういうふうにこれまでの経験を引き継いでおりますということがあれば、お答えください。

○阿部(充)政府委員 先生から、昭和二十六年以来のいろいろなケースについてのお話がございました。
 確かに、お話にございましたように二十六年の国立大学管理法案、それから三十七年は、提案されませんでしたけれども、国立大学の運営法案というものが用意されたということがございましたし、御指摘の紛争時の臨時措置法もあるわけでございます。もちろん、こういったたぐいの従来の経緯というのは我々の念頭に十分入っておるわけでございます。

 ただ、こういったたぐいの事柄というのは、大学の管理運営についていろいろ異常な事態等がありました時点において、その問題について正面からどう対応するかというところが基本になって、この問題が議論されたということであろうと思いますが、今回私どもが考えております大学改革というのは、大学を国際的にも高い水準のものに高度化をしていきたいとか、あるいは大学教育、学部教育の内容についても社会のニーズに合うようにできるだけ改善をし充実をしていきたいとか、あるいは大学の運営等につきましても、大学における教育・研究が生き生きと行われるような仕組みというのをどうすればいいのかといったような、総合的な観点から大学の改革というものを考えておるわけでございますので、そういう意味では、先生お挙げになりました従来のケースとは視点が違うと申しますか、次元が違う問題に対応しておると思うわけでありまして、そういう意味からは、従来の、この部分がこうで、これがこうでというたぐいのものではないのではなかろうか、そう理解しておるわけでございます。

○江田委員 例えば昭和二十六年の国立大学管理法案というのを見ましたら、これはなかなかおもしろいですね。第四条で「委員」というのがありまして、二十人の委員で国立大学審議会を組織するんだそうですが、この法律の中身、第二項では「国立大学の学長が互選した者 六人」「日本学術会議がその会員のうちから推薦した者 四人」「学識経験のある者について両議院の同意を得た者十人」こう委員についてなかなか細かな規定があるんですね。その推薦の方法とか学術会議の会員の地位を失った場合の退職であるとか、まあそんなこともずっと細かく規定してある。委員の任期も規定してあります。会長、副会長もあります、先ほどかなりもめておりましたが。免職のこととか権限のこととか会議の招集のこととか、あるいは議事の仕方、だれが議長になるとか過半数とかいうような話、報酬、費用弁償、そういうことまでずっと書いてありますが、こういうような細かな規定は、これを置くとどうも国会がもめてしようがないから今度はそういうことをやめたんだ、こういうふうに、前の経験を生かされたと邪推をしたくなるのですが、これはどうなんですか。こういうようなことを今回はなぜ決めないんですか。

○阿部(充)政府委員 昭和二十六年でございますか、国立大学管理法案というのは、言うならば、国立大学を設置をし管理をしているという立場での設置者である文部大臣の権限にかかわる事柄についてのこういう審議会をつくろうといった考え方であったわけでございます。ですから、この国立大学管理法案で言っております国立大学審議会の例えば「権限」を見ましても、国立大学についての法令、例えば国立学校設置法をどうするかというようなたぐいのことでありますとか、あるいは予算をどうするか、あるいは学部・学科の設置だとか学生定員をどうするかとか、そういうたぐいの、国立大学のまさに管理者としての大学自体あるいは文部省が行うべきことについての御審議をいただく機関、こういうような特別の機関という位置であったわけでございます。そういう意味では管理機関の一種であったかというような感じがするわけでございますけれども、今回お願いをしております大学審議会法案は、こういった国立大学の設置、管理について直接かかわるというような性格のものでは全くなくて、一般的に大学政策についての御議論をいただき、文部大臣に対して答申あるいは勧告等をいただく、そういう機関ということで位置づけておりますので、そういう意味では一般の審議会と性格的に同じようなもの、そういうふうに考えております。

 そういう観点から、ごく基本的な事項を法律に定めるにとどめまして、あとは先ほど御答弁申し上げましたように政令に中身はゆだねるということで、政令で細かい審議事項等あるいは任期等は決めることに――審議事項というのは、失礼いたしました。任期とかその他の内部組織とか、そういうたぐいのことを決めるということにいたしておりますので、そういう意味で、機関としての性格が違うということから、格別この二十六年の法律案を見てどうこうしたということではございません。むしろ、先生の御指摘をいただいてもう一度勉強のし直しをしたというのが実態でございます。

○江田委員 今の失礼しましたという部分ですが、これははっきり取り消されますね。

○阿部(充)政府委員 審議事項を政令でということは、取り消させていただきます。また、私の言い間違いでございました。

○江田委員 その上でですが、どうもやはりちょっと素直に納得しかねるのです。管理者として管理の方法などについての審議であるから、任期であるとか手続であるとか委員の資格であるとか招集であるとか議事であるとか、そういうことを法律で決める、そうでないものは政令にゆだねるというのが――今いろいろな資料が手元に十分ないから、あの場合はどうだ、この場合はどうだといろいろ申し上げるほどこちらも材料を持っていません、正直言って。ですが、どうなんですか、最近はむしろ立法技術として、こういうような細かなものまで、細かなというか、本当は民主主義というのは手続ですから、手続が一番重要なんですから、その部分をきちんと、もし国会を大事に考えるなら、国会の中でそういうものを審議をして法律で決めておくことが必要だと思いますが、立法技術として全体的に変わってきているのじゃありませんか。

○阿部(充)政府委員 先ほども申し上げましたけれども、今回のものは、文部大臣の諮問に応じて一般的に大学政策についての御議論をいただく審議会でございますので、他の審議会の場合と同じようなたぐいの規定の仕方をさしていただいたという点では、おっしゃるように立法技術的な問題もあるわけでございます。

 ただ、さきの国立大学審議会という昭和二十六、七年当時のこととの比較でお話がございましたので、性格が違うところがあるということを申し上げたわけでございます。

○江田委員 性格が違うことはこれはわかり切っているわけで、押し問答をしても仕方がないのですが、昭和四十四年の場合ですけれども、これは先ほども言いましたように大変に大学が荒れている時期であって、病理現象、急性症状の時代であったかと思いますけれども、まずこの前提として、大学の紛争処理、こういうものは今度のこの大学審議会では扱うのですか。

○阿部(充)政府委員 先ほど来お答え申し上げておりますように、大学審議会は大学についての基本的な事項について審議をするということでございまして、そういう範囲の中に形式的に言えば入り得るかと思っておりますけれども、ただ、私どもが現在問題意識を持ってこの審議会をつくりたいと考えておりますのは、先ほどお話し申し上げましたような、大学の改革をしていきたいということを中心に考えておるわけでございます。そういう意味で、将来大学の紛争処理というようなことが一般的な大問題になるという事態が仮に出てきた場合にはあるいはそういうこともあり得るかとも思いますけれども、現段階でそういうたぐいのものを対象にしてこの審議会で審議をするということを予定しておるわけではございません。

○江田委員 もっと前向きのことを考えているんであって、そういう紛争処理とかいうような後ろ向きのことは考えていない、今はそういうような事態にはない、将来そんな事態が――それは世の中のことですからわからぬけれども、またまたああいうふうな大変なことになるとは思っていない、そんなことを予測しているわけでもない、こういうことですね。基本的事項について審議をするというわけですが、その基本的事項には紛争処理の方法などが予定をされているとかいうようなことはない、こう伺っておきたいと思うのですが、しかしやはり心配になるんですね。

 大学の運営に関する臨時措置法、これは「その施行の日から五年以内に廃止するものとする。」こうなっているんで、これはもう廃止になっているわけですか。

○阿部(充)政府委員 先生御承知の上でお聞きいただいているんだと思いますけれども、大学の運営に関する臨時措置法でございますが、これは法律を制定いたしました際に、その附則におきまして「施行の日から五年以内に廃止するものとする。」こういう規定があるわけでございまして、法律の題名どおりいわば臨時的な措置として設けられたものでございます。そして、昭和四十九年八月に施行の日から五年という期間が経過をいたしましていわゆる廃止の時期になったわけでございますが、その時点におきまして、政府として、その期限到来に伴いまして、それでは具体にどういう法律的措置をするかということについて種々議論を重ねてきたわけでございますけれども、遺憾ながら結論を得るに至らないというような状況で今日に至っておるわけでございまして、今後の諸般の情勢を見ながら引き続き検討すべき課題である、こういうふうに認識をいたしておるわけでございます。

○江田委員 「廃止するものとする。」というのですから当然廃止になっているはずのものだと思いますが、いまだに生きている。生きているけれども、これは何という名前でしたかね、審議会がありますね。文部大臣が学長に対していろいろなことを勧告をしたりする場合には特定の審議会の議を経てやるということでしたかね。その審議会のメンバーは任命をされておらない、したがって審議会が動きようがない、したがってこの法律による一番強力な文部大臣の勧告権限というのは行使のしようがない、こう理解してよろしいですか。

○阿部(充)政府委員 「廃止するものとする。」という規定になっておりまして、しかしながら廃止をされていないということになっております関係上、法律そのものは存続をしておるわけでございますが、ただ事柄の性格上、あるいは最近の諸般の情勢から見まして、臨時大学問題審議会の委員の任命は行っておりませんし、必要な予算措置も行ってはおらないというのが最近の状況でございますので、そういう意味で、問題が起こりました場合に直ちにこれが動き出すというふうな仕組みには現状ではその体制はないということでございます。

○江田委員 現状ではその体制にないし、しかも、先ほどのお考えでしたら、予測し得る将来そうしたことが必要になるような事態というのは全然考えていない、こういうことですね。だって、大学審議会の方は、基本的事項というけれども、そういうことは審議内容として考えていない、そういうことなら、この大学の運営に関する臨時措置法は、大学審議会の方にこういうものがまた引き継がれていくんじゃないかというようなことがもし無用の心配だとするならば、さっさと「廃止するものとする。」というこの廃止法というものを準備されたらいかがですか。

○阿部(充)政府委員 この法律につきまして、その期限が到来した時点から政府部内でもいろいろ検討してきたということは先ほど申し上げたとおりでございますが、ただ、現実に私どもが先生にお答え申し上げましたのは、全体的に紛争問題について基本的に議論をしなければならないというような現在の情勢ではないということを申し上げたわけでございまして、今後ともそんなことはないとか絶対に心配がないとか、そういうことを申し上げたつもりはないわけでございます。

 今回、現実のこの法案につきましても、この法律の期限が到来しました時点以降これを廃止していいのかどうかということについていろいろ議論があり、あるいは廃止をした場合に廃止のしっ放しではなくてこれにかわるべき法的措置を何らか講じた方がいいのではないかというような、いろいろな議論がずっとございました。それについての結論を得ないままに今日に至っているということでございます。
 大学の現状は、確かにそういう問題が一般化するような状況には全くないことは事実でございますけれども、なお今日でも幾つかの大学において、紛争法に言う紛争というような定義に該当することまでいかなくてもいろいろな騒ぎ等は起こっておるわけでございますので、そういったこと等も踏まえまして、これを直ちに廃止してしまうのはいかがであろうか。しかし、それにしても、それではどう対応すべきかという重要な問題につきまして、この新しくお願いします大学審議会で議論をしていただくということよりは、むしろ政府の段階で、従来からの課題の引き続きとして、我々の中に課題として持っていこうというような対応で現在おるところでございます。

○江田委員 何かあっちへ行ったりこっちへ行ったりという答弁のように聞こえるのですけれども、この大学の運営に関する臨時措置法が発動されなければならぬような事態というのは、先のことはわかりませんから、将来絶対そういうことはないんだというようなことはだれも言えません。言えませんが、しかし、この法律をつくるときには五年間、とにかく異常事態だから、急性症状の病気のときだから、だから五年間この法律で何とかということだったわけでしょう。それが終わったら、これはけじめとして、「廃止するものとする。」というのですから、それを廃止しなければいかぬと思うのです。もし、いや、廃止してもいいのですが、だけれども何かまた起こるかもしれませんからというふうにしてこのことがはっきりしないのだったら、やはり紛争処理といったことも今度の大学審議会でやるのじゃないか。前向き前向きと言うが、後ろ向きのこともやるのじゃないか、そういう心配が出てまいります。

 なぜ一体これが廃止できないのか。「廃止するものとする。」というのですから、廃止をする法律を出す義務がどこかにあると思うのです。これは閣法ですから、やはり内閣にあるのじゃないか。

○阿部(充)政府委員 この法律はもちろん政府提案で行われたわけでございますので、「廃止するものとする。」ということについて何らかの措置をするというのは政府側の責任であろうと思います。そういう観点から、我々といたしましても、この問題については鋭意毎年考えてきたということでございますが、先ほど来お答えしておりますように、廃止をするというときにどういう廃止の仕方をするかということでございまして、その場合に、ただ廃止をすればいいという御意見もあるかと思いますが、なおまた紛争の芽というのは全くゼロではないといたしました場合には、どういう形でもってさらに法的手当てが必要かどうかというような議論等もいろいろあって、まだ結論を得ていないということでございまして、そういう意味でもうしばらく時肝をかしていただいて検討したい、こう思っておるところでございます。

○江田委員 廃止をする場合にどういう手だてが必要かといった議論は大学審議会の審議事項には入らない、さっきの答弁はそう聞いていいのですか。

○阿部(充)政府委員 先ほど来お答えしておりますように、これを大学改革に伴ういろいろな課題の中でまず一つ重要な事項として大学審議会で審議をしていただくというふうには考えていない、こういうことを先ほど来申し上げておるわけでございます。

○江田委員 これはやはりけじめでして、国会が五年たったら廃止するのだと言っているのだから、それは後でまた何かが必要であるかどうかは別として、そういうときには廃止をきちんとするということをやっていかなければならぬと思いますよ。そういうけじめをつけずにずるずる、ずるずると責任逃れで言を左右にというようなことは余り好ましくない、いい影響を与えないと私は思いますね。まだ今もいろいろ小さな紛争があれこれあるからというふうにおっしゃいますけれども、果たして一体大学というところが全く何の紛争もなしに、そういった政治的な議論もなしに平穏無事に過ぎていくのがいいのか、それとも多少の議論がありながら、まあ自分がやったから言うわけじゃありませんけれども、多少のもめごともありながらいく方が本当の社会人が育っていくのか、そのあたり私はもっと大きな目から見ないと、管理者にすればきちっと管理できているのが一番いいということになるけれども、やはり教育です

から、歴史に対する責任があるわけですから、歴史に対する責任というのは、余りそのときの平穏無事だけで過ごしていってはいかぬと思います。

 これは私の意見ですが、大臣どうですか、どういう感想をお持ちですか。

○塩川国務大臣 この法律の処理は、こういうものこそまさに国会の問題だと思うのです。国会は法律を制定しあるいは廃止をする、それは国会の機能の一つではなかろうかと思っております。

○江田委員 私がちょっと聞きたかったのは、大臣の政治家としての見識、つまり大学というのは全く平穏無事で、するするするっとトコロテンのように、今そういう議論があるのですよ、ちょっと余りにも学生が小物過ぎるじゃないかと。御存じでしょう。だから、多少は大学紛争みたいな、余りそれがめちゃくちゃになって勉強もできないのも困るけれども、時にはつばを飛ばしながら大いに議論をする、暴力はいけませんけれども、多少は、おい、何だというようなことが、国会でもちょっとは――国会は余りよくないのかもしらぬけれども、あっていいのじゃないかということについて、文部大臣としての大らかな心意気を示したらいかがかと思って聞いたのです。

○塩川国務大臣 学生がやっておることで、エネルギーの発散であるというそういうことで、また若さのことから、国を憂いあるいは世界の平和を憂い、そういうことでやっておるということには私ども理解はいたしますが、しかし往々にいたしまして、外部の勢力なり特定のイデオロギーが持ち込まれて気違いざたを起こす、これは私は慎むべきだ、こう思います。

○江田委員 話を変えまして、臨教審の第二次答申では「我が国の高等教育の在り方を基本的に審議し、大学に必要な助言や援助を提供し、文部大臣に対する勧告権をもつ恒常的な機関として「ユニバーシティ・カウンシル」を創設する。」これをこのまま受けて大学審議会というものをつくろうということですか。

○阿部(充)政府委員 基本的な意見、考え方としては、臨教審の御提案になったものとかなり一致したことをこちらに法案として提案をさせていただいていると思っておりますが、ただ内容的には、例えば今先生のお話の中で助言、援助というようなことがございましたが、これは私どもは、臨教審の御趣旨がどういうことであるかというところまで全部を知るわけにはまいりませんけれども、審議会ということの性格上、助言、援助というのは、個々の大学に対して審議会が直接助言、援助するというようなことはあり得ないことでございますので、そういう観点からいえば、審議会が文部大臣に対する答申その他の形で審議会としての意見を表明されたということが、結果的に大学等を改革していくための助言なり援助なりになっていくというような趣旨として理解をしておるわけでございまして、そういう意味で、法律上助言、援助というような機能を規定していないというようなことはございます。

○江田委員 そうすると、臨教審答申の「高等教育の在り方を基本的に審議しこれが、高等教育の諸課題に対応し、積極的に改革を推進するため、高等教育の基本的なあり方を調査審議するというところであらわされている、そして「文部大臣に対する勧告権をもつ恒常的な機関」、これはそのとおりですね。それで、真ん中にあります「大学に必要な助言や援助を提供する」この部分は、大学審議会は受けていない。そうすると、臨教審答申のつまみ食いじゃありませんか。

○阿部(充)政府委員 助言、援助を受けていないということではなくて、助言、援助ということを機能として法律上書き込むことをしなかったということでございます。それは先ほどお答えいたしましたように、この大学審議会の答申、勧告、そういうたぐいのもので、大学審議会として大学をこういうふうに持っていくべきだということを言われる、そういう提言が結果的に各大学の運営等に対する助言なり援助なりになるということであって、それを改めて規定することはないということ。もう一つは、個々の大学に対して発言をするような疑いを持たれてもいけないから、そこの部分は法律上書かないということをしたわけでございまして、そういう意味では趣旨は受け取っているつもりでございますけれども、法律上の条文の整理の仕方としてそういう仕方をさせていただいた、こういうわけでございます。

○江田委員 審議会であろうがあるいは審議会の勧告を受けた文部大臣であろうが、個々の大学に対して直接に助言、援助をするというのは、これは頭の中にあるのですかないのですか。

○阿部(充)政府委員 この審議会の設置と離れた問題としてお答えさせていただければ、文部大臣には各大学等の機関に対して助言をしたり援助をしたりという権限が基本的にございますので、それに基づいて個々の大学に文部大臣として助言をし、援助をするということはあり得ることでございます。ただこの審議会がするということはあり得ないことだ、こういうことでございます。

○江田委員 臨教審答申のユニバーシティ・カウンシルというのは、個々の大学に対していろいろ助言、援助、そういう言葉で頭に浮かぶさまざまな活動について割に重要な位置を置いているのかなと読めるのですが、それは例えば第三節のBですか、「ユニバーシティ・カウンシルは、答申を行うほか、自ら大学に関する調査研究、大学に関する必要を情報の収集や提供を行いこその他いろいろ書いてありますわ。「大学制度の基本に関する事項ならびに大学の計画的整備と見直し、専門分野に応じた人材の養成計画、大学教育の内容、方法等の検討、大学評価システムの開発」、そういった臨教審答申に出されているユニバーシティ・カウンシルのある種の活動は、この大学審議会はそのまま受けているわけではない。それでいいのですか。

○阿部(充)政府委員 先ほどからのお答えの繰り返しになるかと思いますけれども、ユニバーシティ・カウンシルについての提言というものは、個別の大学への助言、援助ということを考えているわけではないと私どもは理解をしておるわけでございまして、そういうふうに読んでおるわけでございます。

 また、そのほかの点では、例えばみずから調査研究をする、情報の収集等もする、こういうことにつきましては審議会の機能として当然あり得ることでございますので、そういう意味では、これも法律上の規定として置く必要はないという考え方で思料しておるわけでございます。そういう意味で、この臨教審の提言のその趣旨を受け継いで今度の法案をつくっているということでございまして、いわゆるつまみ食いをしたというふうには考えておらないわけでございます。

○江田委員 今の答弁のあたりは議事録を見ながらもう一遍細かく検討してさらに詰めたいところですが、同僚委員に後でやっていただくことにいたしまして、次へ行きたいと思います。

 この大学審議会関係の法改正については、先ほどのお話ですと、臨教審の答申をいただいて今度の法案によって大学審議会が生まれるまでに時間の経過がどうしてもあるわけですが、その間、いろいろ重要な答申をいただきながら大学改革を待っているということはできないので、そこで関係者に集まってもらって議論をした、それが大学改革に関する研究協議協力者会議である、こういうお話でしたね。この大学改革協議会といいましょうか、これはいつできて、そして何をするためにできておるのですか。

○阿部(充)政府委員 大学改革協議会でございますけれども、昨年の四月に臨時教育審議会の第二次答申が出まして、各般の改革の課題が提言されたわけでございますが、そういうこと等を契機といたしまして、同じく昨年の四月に、主として大学関係者その他の学識経験のある方々にお集まりいただきまして、まずはいろいろな問題についての議論をしておいていただこうということで議論をしていただく、もう一つは、当面できるだけ速やかに実施した方がいいと思われるような問題についての御意見等も伺いたいというようなことで、昨年の四月からこれを始めたわけでございます。

○江田委員 これまで九回議論をされた。きょうも会議を開いておるということですね。そして、この中で大学審議会のこと、あるいは大学院のこと、設置基準のこと、これまで議論をされておる。そうした議論というものは、それが一つの成果であるのだからこれは大学審議会に引き継がれていく、こういうことでしたね。よろしいですか、それで。確認だけ。

○阿部(充)政府委員 大学審議会というのは、やはり臨教審で提案されているような、あるいは我々いろいろ考えておりますような大学改革というものについての個別の具体的な詰めをやっていただくというのがねらいでございますけれども、その際にやはり関係者のコンセンサスをつくりながらやっていこうというような気持ちもあるわけでございます。そういったような意味から、まず国公私立の大学等の関係者を中心に、いろいろな課題についてこの改革協議会で議論をしていただいたわけでございます。ただ、これは、組織的には大学審議会につながるものではございませんので、大学審議会のプレの状態のようなものという実質はありましたにしても、この議論の結果がそのまま大学審議会に引き継がれて、という言葉が適当かどうかちょっと自信がございませんが、ただ、これこれのメンバーで集まっていただいてこんな議論がありましたということは一つの成果として大学審議会が発足したときにはお伝えをして、一つの重要な参考資料としていただこう、こういうつもりは持っておるわけでございます。

○江田委員 大学改革協議会は大学審議会が発足した後も残るのですか。

○阿部(充)政府委員 大学改革協議会につきましては、大学審議会が発足の時点では解消したいと思っております。

○江田委員 この大学改革協議会の人選ですが、議論はありますがそれなりの人選であるという感じもしますが、これはどういう基準でお選びになったのですか。例えば大学人をどう入れるとか、国立、公立と私立の比率とか、地方の大学、大都市の大学、あるいは年齢、あるいは大学人でない人の場合にはどういう基準とか、男女の比率とか、いろいろあると思いますが、どういう考えで人選をされましたか。

○阿部(充)政府委員 一般に、こういう非公式の機関あるいは非公式に限らずこういう機関の人選の場合には、いろいろなことを念頭には置いておりますけれども、それを明確な基準という形でつくって、これに当てはまるか当てはまらないかという形で人選をしていくということではないケースがしばしばあると思うわけでございまして、今回の大学改革に関する研究協議会につきましても、先生のお話にも出てまいりましたけれども、国公私立の大学関係者というものをやはりまず考えていかなければならない。大学というのはまた、大学の教育面ばかりでなくてやはり学術研究面というものもある、主として研究面についての配慮ということもある程度は考えていかなければならない。あるいはもちろんそれ以外にも、例えば現に臨時教育審議会でいろいろ議論されている最中でございましたので、臨時教育審議会との関係者のつながりという面からも、そういう関係の方にもお入りいただこうかとかそういったようなこと、それからもちろん女性の方にも若干は入っていただきたいということでお願いをしたというようなこともございます。もちろんその女性の方の場合には民間の研究者であるというような特殊性も持っておられるというようなことでございまして、いろいろな方向から考えて大体こういうメンバーということにいたしたわけでございます。

○江田委員 女性は民間の研究者がいいと。その今お入りいただいている方が民間の研究者であるという意味ですか、女性は民間の研究者がいいということを言ったのですか、どっちだったのですか。

○阿部(充)政府委員 女性の方にもお入りいただきたいということで、たまたま民間の研究者の中に立派な方がおられたので、その方を選んだということだと考えております。民間の研究者でなければいけないとかそんなようなことを考えているわけではございません。

○江田委員 十八人中女性が一人というのは、これはどういうことですか。高等教育はどうも女性になじまないという感じが出ているのですか。そんなことはないと思うのですがね。十八人もいるのに女性一人というのはどうですか。

○阿部(充)政府委員 男女の比率というものを、男女の数の割合でというわけにもまいりません。また、大学の関係者等となりますと、例えば現在の研究協議の協力者の場合には、大学団体の代表のような方を選んだということもございますので、そういう役職等も念頭に置きながら選んでまいりますと、どうしても男性の方が多くなってくるという傾向があることは事実でございます、女性は一人でいいと思って決めたとかいうことではないということで御理解をいただきたいと思います。

○江田委員 この大学改革協議会は大学審議会の先取りじゃないかという感じがしますね。どうですか、そうじゃないですか。

○阿部(充)政府委員 大学関係者等を中心に大学問題について御議論をいただくということでございますから、そういう意味では趣旨としては同じような趣旨だと思っております。もちろん、ですから大学審議会ができた際にはこれは取りやめようということで考えておるわけでございます。

○江田委員 同じようなことだと。あえて大学審議会の先取りだということを否定されない。そうしますと、どうも国会関係者としては、こちらに法律をお出しになりながら、それより先に行政ベースでどんどん事が進むというのは、余りうれしいことではないということもあると思うのですがね。それはそれでおいておいても、もしそういうことならば、この大学改革協議会の議論が、手続的にというわけじゃないけれども、ここでの議論の成果が大学審議会にちゃんと引き継がれていかなければいけないと思うのです。ところで、引き継がれるということであるならば、この大学改革協議会の議事録やなんかはちゃんととっておられるのでしょうね。

○阿部(充)政府委員 先ほどもお答えいたしましたように、組織的にも別のものでございますから、組織的に引き継がれるということではないというふうにさっき申し上げたつもりでございます。ただ、こういう別の組織であるけれども、そこで議論されたことというのはやはり大学人を中心に議論された大事な一つの成果でございますから、これは重要な参考資料として、新しい審議会が発足した場合にはそこにお渡しをするということにしたいと思っておりまして、そういうことで、できれば大学審議会が発足という時点までには、何らかの格好で、今までの議事の中身をある程度まとめたものにして大学審議会の方にお渡しをするということは考えたいと思っております。

○江田委員 私が今聞いたのは、議事録をおつくりになっているのでしょうねと聞いたのですが、その点のお答えはどうなるのですか。

○阿部(充)政府委員 正確な意味での議事録ということではございませんけれども、毎回の議論の要旨のようなものはもちろんまとめております。

○江田委員 大学審議会法、この学校教育法等の一部改正法、これについてはこの大学改革協議会で議論を経たわけですね。

○阿部(充)政府委員 もちろん、せっかくこういう協議会をやっておるわけでございますから、臨教審の答申の示唆を受けまして、文部省として大学審議会を設けたいということで、事を取り進めるに当たりましては、状況を御説明し、御了解をいただいているわけでございます。

○江田委員 そのときの議事録はないとおっしゃるのですが、だけれども、議事録というものではないが要旨を書いたようなものはあるとおっしゃるわけで、それを提出していただけますか。

○阿部(充)政府委員 法案の大綱をその場で御説明を申し上げて、ああ、わかりましたということでございますから、それ以上格別のものはないわけでございます。

○江田委員 法案の大綱を説明して、皆がああ、そうですか、それだけですか。議論というものはしないのですか。なかなかいい人選で、あれだけの人が集まって、ああ、そうですかじゃないだろうという気がしますが、どうなんですか。

○阿部(充)政府委員 もちろん、この協議会におきましては、それまで出されました臨教審の答申等についてはその都度御説明を申し上げてきております。それで、これに基づく仕組みのものだということで御了解をいただいているということでございますので、委員の先生方はもちろん臨教審答申を十分読んで勉強されておりますから、格別の御議論はなかったと記憶しています。

○江田委員 それならそれでもまあいいけれども、そういう要点の記録というものはお出し願えますか。

○阿部(充)政府委員 部内の会議で、そういう非公式の会議での議論でございますし、中身はごく簡単なことでございます。そういうたぐいのものでございますので、特別にお出しするということは考えておりません。

○江田委員 部内であるから特別に出すことは考えてない。だけれども、この協議会は、大学審議会ができるまで待てないからここでいろいろ大学の問題について議論をした。それじゃ、そこでの議論の成果というのはどうやって大学審議会に引き継いでいくのですか。だれが報告書をつくって大学審議会に引き継ぐのですか。だれが報告するのですか。

○阿部(充)政府委員 先ほどお答えしたとおり、大学審議会の発足の前にこの改革協議会は解散をするということを予定いたしておりますので、その時点では、それまでの論議のまとめを改革協議会でやっていただきまして、それを文書として、メモのような形で大学審議会にお伝えをする、こういうことを考えているわけでございます。

○江田委員 いろいろ皆さんから言わせれば雑音かもしれませんけれども、今の臨教審でもいろいろ聞こえてくるんです。委員でこれだけ言っているのに、文部省の方の事務局はそれをきちんと文書にしてない。あれだけ言ってもまだ一行も書いてないなんて私は怒ったのよ、というとだれが言ったかわかってしまうかもしれませんが、そんなこともあるんですよ。私は、やはりそういうところはもっとオープンにしていかないと、かのソ連でさえ最近は公開制なんて言っているわけですから、もっともっとオープンにされたらどうなんです。

○阿部(充)政府委員 先ほど来申し上げておりますように、私的ないわば非公式の会合でございますから、だれがどう言った、だれがどう言ったという形での取りまとめもいたしておりませんし、皆さんの間で議論をしながら、大体こんなことであろうというような方向に逐次まとまりつつあるという状況でございまして、いずれまとまりました段階では、メモの形にして大学審議会にこれを引き継ぐということで考えておるわけでございます。

○江田委員 では、少なくとも、この報告書というものは、できた段階では要求すれば我々にも開示をしていただけますね。

○阿部(充)政府委員 改革協議会のまとめができましたならば、それについては隠すつもりももちろんないわけでございますので、必要に応じてお配り等はさせていただきます。

○江田委員 報告書は隠す必要はない、その前の要領筆記は隠す必要があると。私は基本的な姿勢として、大学にいろいろな問題があるということはみんなが認めているわけです。賛成している人だけじゃないので、この法案に反対をしている、あるいはいろいろな危惧を持っている人も、大学にいろいろな問題があるんだということは認めているわけで、みんなで大いにひとつ議論をする、いやいや、みんなで議論することになったら私は恥ずかしくて物が言えないとかいう人は、これは本当に切実に思っていないということなんです。そうじゃなくて、だれの前でも大いに自分が思っていることを議論していく、そういう議論を喚起していく。そういう議論の大きな渦の中心かへりか知りませんが、渦の中の一つとしてこうした大学改革協議会というものがある、そういう姿勢は非常に大切なことだ。文部省が大学を変えてやるとかいうことじゃなくて、みんなでいい大学をつくっていこうということでしょう。それならば、関係者みんなの、それこそ百家争鳴、いろいろな議論をもっともっと信頼したらどうなんですか。国民の議論というものをもっと信頼されたらどうですか。

○阿部(充)政府委員 関係者の中で大いに議論をしていただくために、今回の大学審議会みたいなものも、文部省だけですべてを片づけていくのではなくて、こういう審議会をつくって議論をしていただきたいと思っておるわけでございます。そういう意味では、改革協議会のまとめにつきましても、先ほどある時点でまとまったものについてはお配りをさせていただく、あるいは公表させていただくというふうに申し上げているわけでございまして、そういう節目節目でそれぞれのまとまりについて発表して、またそれについての御議論をいただくというようなことは考えていくべきことであろうと思っております。

○江田委員 どうも本当はおわかりだと思うのです。心の中ではそうだなというお気持ちをお持ちになっていると思うのですけれどもね。本当に大らかに、オープンにみんなで議論しよう、そうすると必ずいい結論が出てくる。時には必ずしもそういうことにならぬこともありますが、長い歴史を見ていくと、時に多少間違いが起きても、時に失敗しても、みんなで議論をしながらみんなで結論を探していこうという姿勢の方が結局はいいところに落ちついてくるわけで、それが民主主義というものでしょう。それを我々は皆基本的に信頼しているからこうしてやっているわけでしょう。ぜひひとつこれはもっと大らかな、オープンな議論にしていただきたいと思いますね。

 大学審議会というものは、今まだ議論の最中ですから、人選をどうするということになると、いや、認めた上での話だということになるのかもしれませんが、二十人、この大学改革協議会のような人がすぐ引き継ぐことはないというお答えになるのでしょうが、概略、大学改革協議会のような構成になるのですか、もっと違うのですか。人じゃありませんよ、今の国公私の大学人の比率であるとか、あるいは年齢構成であるとか、男女の比率であるとかその他ですがね。

○阿部(充)政府委員 先ほど申し上げましたように、具体の人選を進めていくことは今後の課題でございますので、その際に、事前に非常に明快な基準をつくってそれに合わなければだめだというような仕組みで選考していくのは大変難しいわけでございますので、どういう分野から何人とかいうことは申し上げかねるわけでございます。先ほど大臣からもお答えいたしましたように、大学の問題を議論するわけでございますから、国公私立の大学の関係者等の方々を中心に、広くいろいろな方々にお入りをいただくという方向で物は考えていかなければならないと思っておりますし、もちろん女性の委員の方にお入りいただくというようなことも、具体の人選の問題になりますと今ここで確約というわけにはいきませんけれども、心得て対応すべき事柄であろう、こう思っておるわけでございます。

○江田委員 世の中の半分は女性ですから、大学といえども世の中の半分は女性だということが通用しないわけではないのですから、女性が一人というのはいかにもおかしいので、これはもうちょっとバランスのとれた男女比にしたらどうかと思いますが、どうですか。

○阿部(充)政府委員 具体の人選をどう行っていくかにかかってくるわけでございますけれども、女性の問題というのは十分念頭に置いて対応させていただきたいと思っております。

○江田委員 任命権者は大臣だというので、女性のことについてやはり大臣からも一言。

○塩川国務大臣 やはり常識に沿ったことでやっていきたいと思っております。

○江田委員 入学試験の問題、これは大学の問題の「基本的事項」だと思いますが、この審議会では扱うのですか、扱わないのですか。

○阿部(充)政府委員 御指摘がありましたように、入学者選抜制度の基本をどうするかというたぐいの問題は、当然大学の「基本的事項」にかかってくると思います。

 ただ、現実の問題といたしまして、現在取りかかっております入試改革の問題、これにつきましては臨教審の第一次答申で指摘が出まして、その第一次答申の中で、国公私の関係者その他による協議会等をつくってやれという御指摘があって、それでまずその組織が動いて対応いたしておりますので、当面の問題はそちらの方で対応していただこう、こう考えておりますが、ただ、事柄としてはもちろん「基本的事項」に入ることでございますので、将来ここの審議会でやっていただくということもあり得ないことではないと思っております。

○江田委員 第二次答申、第三次答申の中に具体的に大学に関する問題としていろいろなものが出ておりますが、そういうことだけに限定されているという趣旨ではなくて、第一次答申の方で出ていることもあるし、あるいは「基本的事項」というのですから答申に書いてないこともあるし、ということになるのですか。

○阿部(充)政府委員 もちろんそのとおりでございまして、「大学に関する基本的事項」というのには、答申に触れられていないことも入り得ることだろうと思っております。もちろんそういう点を御議論いただくことも差し支えないわけでございます。

○江田委員 今回のこの法案に関して、私たちのところにも本当にいろいろな方からいろいろな意見が寄せられますが、とりわけいろいろな危惧をお持ちの方々が寄せられる意見というのは、地方大学の方々が多いのですね。この審議会が目指す方向が貫徹していくと地方の国公立大学がつぶされてしまうのじゃないか、そういう危惧を地方大学の皆さんが抱いていらっしゃるわけです。今文部省の方は、そんなことはないのだということですが、これはどうですか、地方大学の皆さんはどういう理由で地方大学がつぶされるのじゃないかという危惧を持っておられると認識されていますか。皆さんのあれじゃないのです。地方大学の皆さんが持っている危惧をどう認識されているかということをお聞きしたい。

○阿部(充)政府委員 日本全体の大学をよくしていくというのが大学改革のねらいでございまして、地方大学を切り捨てればいいというようなたぐいのものでは全くない。むしろ、いろいろな面での活性化、生き生きとした教育・研究を進めてほしいというあたりのところになってくれば、地方大学に大いに頑張っていただかなければならないという事柄の方が多いのかもしれません。

 そういった意味からいきまして、地方大学の方々がどういう御心配をされておられるのか、地方大学切り捨てだなどというようなことが言われていることもあるやに聞いておりますけれども、それはどういう、何からそんな誤解をしておられるのか、私どもには理解ができないところでございます。

○江田委員 地方の皆さん、地方の大学の皆さんが心配していることが誤解であるかどうかは別として、こういうような理由で心配をしているということがまるきり理解できないというのじゃ話にならぬわけです。

 例えば、地方の大学というのは、いろいろその地方地方の特殊な研究をやっていらっしゃる、そして地方文化あるいは地域の教育文化の水準、民度の発展に大いに寄与しているのだ。しかし、それはやはり何といっても国の財政的な負担の上に立って行われている。ところが、大学審議会ということで、やれ国際化、やれ科学技術、そういうふうにして最先端というようなことでそちらにずっと財政の傾斜配分をされていくと、地方のそういうどこどこ県の何々というような、これはローカリズムですから、国際化ということになるとちょっと国際化じゃない、あるいは高度なハイテクということになるとちょっとそうでもない、そういうものはどんどん削られて、結局はそれは地方大学にしわ寄せということになるのではないか、そういう心配なんだと私は思うのですが、そういうような心配と理解をできませんか。

○阿部(充)政府委員 今回の大学改革というのは、それは国際化の問題等もいろいろございますし、あるいは大学院の充実等の高度化の問題等もございます。学部の段階につきましては、特に社会のニーズ等に十分こたえて、社会や経済の発展等を踏まえて大学の教育・研究を進めるべきだというあたりのところも大きなねらいになっているわけでございますので、御指摘のような教育・研究を行っておられる地方の大学というのは、それは非常に大事な大学であると私ども思うわけでございます。そういう意味で、それを切り捨ててというようなことを念頭に考えているわけでは全くないわけでございます。そういう点が、臨教審の答申なり各方面で議論されていることについてあるいは誤解をしておられて、国際化がどうかわかりませんけれども、例えば国際化といえば自分の大学に無縁のことだという受け取り方をされている、あるいは自分の大学がやっていることは何も書いてないと思っておられるというような、大変な誤解があるように思うわけでございます。

 私ども考えておりますのは、非常に臨教審絡みの言葉で言えば、大学については高度化と個性化と活性化といいますか、そういったたぐいのことが大事だと思っております。高度化というのは大学院についての充実を図っていく。日本の大学院というのは世界各国に比べまして余りにも規模も小さい、数も少ない、いろいろな面でおくれているではないかという問題等がございますし、また個性化の問題というのは、まさに先ほど先生が指摘されたように、各大学がそれぞれの個性を持って、特に学部レベルの教育等については、地域のニーズ等に密接に結びつきながら教育・研究が行われるというような方向にぜひ持っていくべきだというのがねらいなわけでございます。そういう意味で、地方大学についても十分配慮しながらいろいろな議論等は進め、それに基づく施策も進めていかなければならない、このように考えているところでございます。

○江田委員 お答えとしてはそういうことになるのだろうと思いますけれども、現に地方の大学で、それぞれ厳しい財政状況、乏しい環境の中で大学を支え、学問研究をやっていらっしゃる、教育をやっていらっしゃる皆さんからすると、いろいろな思いがあるのです、科研費の配分の仕方だってどうも東大東大といくじゃないかというようなこととか、コンピューターがどうした、けれどもやはり大型計算機センターということになるとすぐ東大で、地方のコンピューターは何とまあみすぼらしくて、そういう思いが地方の皆さんにあるということは、やはり十分知っておかれる心要があると思うのです。地方の皆さんの誤解だというふうにおっしゃるなら、もっと地方の大学の皆さんと十分お話をされてみたらどうですか。

○阿部(充)政府委員 地方大学というのがどういうことを指しておられるのかあれでございますけれども、私どもとしては、例えば国立大学の関係でいえば国立大学協会という組織で、地方の大学についてもむしろ地方大学の学長、先生方の方がはるかに多いという組織の中で、各種の委員会等へも出ていろいろ話し合いをしているわけでございまして、そういう意味でのお話し合いといいますか各大学の御要望等は、そういう機会においてもあるいはそれ以外の場面においてもいろいろ伺って対応してきているつもりでございます。今後ともそういうお話は機会あるごとに十分承ってまいりたいと思っております。

○江田委員 私は、確かに大学に今いろいろな問題がある、さあ一体何が問題かというのを実はもっともっと議論したかったのであります。文部大臣が問題だとお考えのことと私が問題だと考えていることと同じなのか、違うのかというようなことを本当は議論しなければいけないのですけれども、ちょっとその時間がありません。

 問題はいっぱいあるけれども、それでは大学人は皆手をこまねいて現状に安座をしてじっとしておるのかというとそうでもないので、いろいろな改革の提案もあれば議論もあるわけです。そういう大学人みずからのいろいろな提案、議論、こういうものが大きく渦になっていくのでなければ、幾ら大学審議会というものができて、そこですばらしい人が集まって、すばらしい頭脳で、すばらしい答申をつくり、勧告をし、すばらしい文部大臣がすばらしいことをやってみたって、やはり大学は大学で残ってしまう。そうじゃありませんか。

 戦後四回、大学のことが政治の場で議論になる。大学の問題、例えば大学紛争のときにもあれだけ議論になって、これで大学というものが変わっていくだろうとみんなが期待した。しかし大学は依然としてそのままずるずると続いてしまった。戦後政治の総決算などと言う人もいますけれども、そうじゃなくて戦後改革の完成ということを大学についてやらなければいけない。それがきちんとできていない。それはやはり、私は、選ばれたお偉方が密室で議論をするところから始まるのではなくて、関係者がみんな集まってちょうちょう発止の議論、百家争鳴の議論、そういうことをやっていく中から初めて生まれてくるのだと思うのですね。そのあたりのことをぜひ十分理解していただきたいし、そのあたりの理解を十分していただくならば、大学審議会というものをつくるよりも、もっともっと改革の方法としていい方法があるのじゃないかと思うのです。

 もう時間もなくなりましたが、最後に学問の自由ということについて、ちょっと文部大臣の感覚というのを伺ってみたいのです。

 私は、学問というのはなかなかすてきなものだ、おもしろいものだと思う、国際化あるいは科学技術、したがって何か時代の先端に、やれエレクトロニクス、やれバイオ、やれ英語教育がどうとか、こういうことも問題ですけれども、やはり、あの大学であんなくだらぬことをやって、世間の役にも立たずに、社会から見たら何と大学は象牙の塔よ、何と沈滞していることよ、そういうようなことを言われるかもしれないが、しかし余り軽々に時代の要請、社会の要請を大学にすぐ持っていくというようなことがあると、大学の命を奪ってしまうというところが私はあるような気がするのです。

 例えば浩宮様が、私の留学先でありますオックスフォード大学でテムズ川の水上交通、十八世紀を中心として、こういうテーマで研究をされた。いいですね、これは。テムズ川の十八世紀の水上交通が、今の社会と何の関係があるんだ、何か学者というのは――浩宮様が学者という意味ではないのですが、何とおかしなことをやっているんだ、そんなようなことをもし言われて、そんな研究は社会の役に立たない、時代におくれている、やめてしまえというようなことをばっと言うと、それはそうじゃないので、こういうところから思いもかけない発見をするのですね。中世のあるいは十八世紀の都市計画というのはこんなことを考えていたのだなとか、そうした思いもかけぬ未知の分野との遭遇から何かのときめきを得る、何かの新しい発見をする。これはほかの人が言うんじゃないのです。その研究者が自分の意欲で、自分の意志で、自分の情熱でやっていく、その研究者の研究者としての意欲や情熱というものがいつも沸き起こっておれば、それはそれで大学としては十分機能しているのだ、こういう理解を学問というものに持たなければ、すぐに社会の要請というふうにやってくると、とんでもない間違いを犯す。学問の自由というのはそういう基本的な学問に対するセンスというものが大切だと思うのですが、最後に、文部大臣のそういう点についてのセンスをお聞かせいただいて、質問を終わります。

○塩川国務大臣 これは明治以来百何年、文部省の大臣はずっとおっしゃられるようなことを言ってきたのです。そのとおりであります。ですから私も所信表明の中にもたび重ねて言っておることでありまして、今日、この問題は別に新しい問題でも何でもない、基本問題であるということでございます。

○江田委員 終わります。


1987/07/29

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