2004/04/08-2

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159 参院・法務委員会

 ・ 出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案(閣法第61号) 
 ・ 難民等の保護に関する法律案(参第14号) 

午後から、私が45分間、政府案につき質問しました。

政府案と民主党案の最大の違いは、難民認定業務を、現行どおり法務省入管局が行うか、分離して内閣府外局の難民認定委員会に移管するかですが、その根底には、難民についての基本的な考え方の違いがあります。そこで、すべての場面で違いが出てきます。民主党は、日本が難民条約を批准したことを重視し、難民の庇護を国際社会の共通の責務と捉えています


平成十六年四月八日(木曜日)  午後一時三十一分開会

○委員長(山本保君) ただいまから法務委員会を再開いたします。
 休憩前に引き続き、出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案及び難民等の保護に関する法律案を一括して議題といたします。
 質疑のある方は順次御発言願います。

○江田五月君 午前中は、私どもの提出をいたしました難民等の保護に関する法律案について、あちらの大臣席で答弁をさせていただきました。午後からは、出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案について、こちらの席で質問をさせていただきます。

 さて、午前中、千葉委員の質問で冒頭に、昨日の福岡地裁の判決についてお触れになりました。しかし、これは質問ではなかったので、私の方でちょっと質問をしてみたいと思います。

 この判決は、これはもう新聞等で大きく報道されているところなので大臣も御存じと思いますが、小泉首相の靖国神社の参拝を違憲とした判決でございます。新聞の報道によると、小泉首相は、記者から尋ねられて、なぜ違憲なのか分かりませんという言葉を十六回も繰り返されたということなんですが、また、福田官房長官は、国の考え方と異なる考えが示されたのは遺憾だと、そんなことを述べられたということで、私は、この靖国神社への総理大臣の参拝、これについていろんな意見がある、これはここで今議論しようと思わないんです。

 そうではなくて、法務大臣は、日本は法治国家でありまして、法の支配を行政面で貫徹をさせるための最高の責任者であると思っておるんですが、日本という国の法的な成り立ち、これはもうここで私が言うまでもないんですけれども、憲法があるわけですよね。憲法に国の機関の行為が適合しているかどうか、合憲性、これは裁判所が判断をすると。もちろん、裁判所以外も判断するんですが、憲法の八十一条では、違憲審査権は最高裁判所が最終の裁判所として判断をするんだということが書いてある。最終の判断をするんだということは、つまり、最高裁判所を頂点とする司法機関の判断がこの最終的な判断で、その司法機関の中で最高裁が最終の判断である、判断者であると、そういう意味でありまして、しかも憲法は、九十八条、最高法規である、九十九条は内閣総理大臣といえども憲法を守る義務があると、こういうことになっているわけでありまして、下級裁判所の判断といえども、やはり司法機関の憲法判断、これは権威を持った判断と言わざるを得ない。その司法機関が、小泉首相の靖国神社の参拝は公的な行為であって、そして憲法二十条に違反をするということを言ったわけですから、これは分からぬでは済まぬと思うんですね。

 分からぬを十六回繰り返されるという総理大臣のこの判決についての対応について、法の支配、法治国家の責任者、行政の部門でですね、であられる法務大臣としてはこれはどういうお考えをお持ちになるか、この点を聞いておきたい。

○国務大臣(野沢太三君) 私もあの判決を見て大変驚いたんですが、この判決をよく見ますと、これは内容的には国の勝訴ということになっておりますね、損害賠償に当たらないということでありますから。

 御指摘の点について、国側としては、この本件参拝が、総理が私人として、公人でなくて私人としての立場で行ったものであるとずっと一貫して主張しておられるわけです。その主張が認められなかったことが遺憾であると私は思いますが、総理自身もそこを称して分からないという表現をお使いになったのではないかと、かように考えております。

○江田五月君 分からないじゃないんで、総理が判断するんじゃないんです。憲法に適合しているかどうかは裁判所が判断する。裁判所が判断したものを総理が分からぬと言っちゃいけないんです。それは自分はちょっと考え違うとか言うのはいいですよ。だけれども、やっぱり裁判所の判断は裁判所の判断としてそういうものが出されているという、判断するのは裁判所だということは総理も認めなかったら、日本は法治国家じゃなくなってしまう、憲法の下で動く国家じゃなくなってしまうんじゃないかと。そこのところを法務大臣としては遺憾にお思いにならないかということを聞いているんです。

○国務大臣(野沢太三君) 同種の訴訟がほかにも出ていると伺っておりますが、それらの各裁判所の判断ではこの点については触れておられないのが大部分であると思います。その点についてあえて今回の裁判所が踏み込んだ判断をなさったと、その辺のところが御理解がいま一つということかもしれませんが、この辺の詳細は総理御自身の御判断を伺わないと、私からこれ以上のコメントはちょっと差し控えたいと思いますが。

○江田五月君 確かに、国が勝訴です。国を勝訴させる判断をするにつき、小泉首相の行動の違憲性というものをあえて示さなきゃ、についての判断をあえて示さなきゃその論理は導かれないかというと、そんなことはないんで、そこのところをあえて示したというのは裁判所のある意味では思いがこもっている、ある意味ではこもり過ぎていると、それはいろいろ言えるでしょう。

 それから、そこの部分というのは、したがって、傍論、傍論というのは、ボールをむちゃくちゃ投げる暴論じゃなくて、傍らの論ですから、それが持っているいわゆる法的な守備範囲の広さと、あるいは限界というものもあるんで、ですからそれは、これが出たからすぐどうというのもまた、金科玉条として鬼の首でも取ったように言うのもちょっと違うんですけれども、しかし、やっぱりこの司法の判断が、こういう日本のような司法、日本のような法治国家の仕組みの中で一定の司法の判断が出ているという、法的な意味じゃなくて社会的な重さ、これはやはり総理大臣としては考えていただかなきゃならないんであって、今、法務大臣、これは是非、小泉総理に聞いてもらわなきゃ分からぬということですから、私ども、どこかの段階、どこかの場でこのことについては是非お聞きをしたいと思いますので、どうぞ法務大臣からもその旨よろしく総理にお伝えをいただきたいと思います。

 次へ参ります。
 入管関係のことでございますが、まず、午前中にもいろんな質問ありましたが、法務大臣に、我が国における、あるいは今後の我が国の在り方における外国人というものの意味、これをまず冒頭聞いておきたいと。

 ちょっと禅問答風になってしまうんですけれども、そうじゃなくて、今後の日本というのは少子高齢化というようなそういう傾向もありますし、国際化という一つの世界全体の流れもありますし、そんな中で、日本というのは、この国にずっと生まれ育って、いわゆる日本民族の血統であるというようなことで人をいろいろ区別する、そういう国ではもうこれからはやっていけないと。外国人がいろんな形で、日本の国籍を取って日本人として一緒に暮らしていくという、これももっともっと盛んになってくるでしょうし、外国人というステータスのままで日本というこの地域に一緒に居住をして、一緒に地域社会を作っていく、一緒に国民経済を動かしていく、そういう担い手になっていただくようなこともあるでしょうし、そういう意味で、いわゆる血統的な日本民族だけで作る国ではなくなってくるんですよ、嫌でもそうなってくるんですよと。

 それに対して、私たちはむしろ積極的に、前向きに、そういういろんな人が一緒にここで暮らす、岩井委員に言わせればダイバーシティー、これが大切だと思うんですけれども、その辺の法務大臣の、法務省のトップとしてというよりも、むしろ閣僚の一人として見識を伺います。

○国務大臣(野沢太三君) 大変、私にとっても一番聞いてほしいところを聞いていただいたという思いでございます。

 元々、日本の民族というのはどこから来たかと、またどんなルーツで人種的にあるいは文化的にあるいは民族的に成り立っているかということは、私自身も実は大変これまで関心を持って取り組んできた事柄でございます。そして、余り昔のことを言っても始まりませんが、少なくとも明治以来の日本の発展過程というものを見てみますと、やはり一国鎖国の社会、経済では成り立たないということの中から開国へ進みまして、そしてさらに、それが平和という裏打ちがなければ暮らしていけないという昭和のあの前時代の大きな反省と教訓、この中から平和主義ということに裏打ちされた日本の国の成り立ちと、もちろんそれに伴う経済や文化の国際化ということもあったわけでございますが、今この時点で考えてみますと、国連という大きな組織がありまして、その一員として、また経済的には世界じゅうからエネルギーや資源をちょうだいし、そしてまた、ODAその他では逆に世界のために貢献できるような立場にもなっている。大変その意味で、一口にして言えば、もう国際化抜きにしては、外国人の皆様ともう本当にいい意味でのお付き合いを重ねること、更に深めること、更にこれを発展させること抜きには日本の社会は成り立たないと、こういう気持ちであるわけでございます。

 それに対しまして、現代の日本の国の法体系、特に私ども所管しております司法の世界、あるいはこの今議論しております入管のこの法案含めて、今までは相当な機能を果たしていたと思いますが、これからの時代に果たしてこのままでいいかどうかという点について大きな反省の下に今見直しを行いまして、できる限りの国際化を図り、そしてまた外国人との共生の社会を作っていくべくお願いをいたしておるところでございます。

 その意味で、今後とも一定のルールの中でお互いの存在を認め合いながら、かつ、平和という前提、安全という条件、これらを守りながらの経済活動であり社会活動であり、共生の時代を作るのが私どものこれは役割ではないかと、かように考えておりまして御審議をいただいておるところでございます。

 また、各論につきましては、議論の進展に従いましてお話をしてまいりたいと思います。

○江田五月君 是非そういう理解でやっていただきたいと思います。

 私は、一九六九年から七一年まで、ですからもう三十年以上前ですが、イギリスで、国民の税金で派遣されたんですけれども、行政法の勉強をさせてもらいまして、そのときに告知、聴聞の権利というのを勉強したんですが、ナチュラルジャスティスというのの一原則なんですが、イギリスのような国でも判決がありまして、判例が、これでは、外国人をディポーテーション、追い出すときに告知、聴聞なんてそんな、外国人にそんな権利なんというのはないんだ、生かすも殺すも自由だと言わんばかりのそういう判決が、イギリスでさえかなり古い時代にはあった。しかし、もう今は恐らくイギリスでも当然違っているだろうと思いますし、やはりそこはさっきの岩井先生の話ともぶつかるんですけれども、外国人だってやっぱりそれはもう世界のいわゆる法のルール、法の手続のある適正さについての準則、基準、こんなものはちゃんと満たした手続でなければ外国人に対しても何もやっちゃいかぬという、そこまで来ていると思うんですね。

 ですから、更に日本はこれから外国人に対して開かれていかなきゃならぬと。共生のできる、そういう出入国管理行政にしていただきたいと。

 さて、出入国管理の問題と難民。この難民については、これまたもう一つ別の要素があって、国際社会が難民条約を作って日本もそれに入って、そして過酷な国際情勢の中で定住といいますか安住できる地を失って日本に庇護を求めてくる、各国に庇護を求めてくる、そういう難民についてはこれを温かく受け入れて、人間としての、どういいますか、生存をちゃんとどこの国も保障していこうじゃないかと、そういうことだと思うんですが、その点の理解はそれでいいんですかね。

○国務大臣(野沢太三君) 残念ながら、今の国際社会の実情を見ますと、せっかく東西対立というような対立軸がなくなったところが、逆にそこから宗教とかあるいは民族とかあるいは部族、地域の利害とか様々な問題が出てきた中で難民という残念な事態が発生しておる。このためにこそ正に国連が機能せねばなりませんし、それを構成しております主要な国である日本も前向きな取組をしていかなければならないことだと考えておるわけでございます。

 どこで出た難民の方であろうとも、その方々のためにお役に立つということであれば、これを温かく迎えるというのがまずは原則でなければならないと思いますが、あわせて、しかしその国の実情、成り立ち、そして過去のやはり経緯も含め、やっぱり実現可能な限度というものも一つ存在するだろうと思いますので、この辺の調和を図りながら、それぞれの立場の難民の方々の御要望、人権を配慮しながら、かつ、これまで暮らしてまいりました日本の秩序あるいは治安の問題等も併せ考えながら適切な答えを求めていかなければならない。これからの課題として、大きなこれはテーマと受け止めておるところでございます。

○江田五月君 残念ながら、国際社会の中には難民というのを生み出すような地域もあるし、またそれが出てくる理由もあるし、この国際社会は難しい課題をいまだに抱えているわけですよね。

 日本はとにかく世界じゅうに経済の網の目を張って、世界のどんな片隅に行っても日本がそこで経済活動しているというような、それだけの、ある意味で世界に、世界を舞台として活動し、世界の恩恵を受けながら今のこの経済力を作り出してきているわけで、ところが、経済力との比でいうと、日本の難民数というのは世界百五十か国のうちで百三十六番目だというような、これはUNHCRの資料ですよね、対人口比では百二十五位、対面積比でいえば日本は結構面積小さいから九十位とちょっと上がりますけれども、これだけの経済活動をやって世界に恩があるのに、その世界が苦しんでいるのに対して百三十六番目の国だというのは、幾ら何でもちょっと寂しい。いろんな理由はあるでしょう。いろんな理由はあるけれども、そのいろんな理由によってこれが合理化されるということはないと思いますが。

 さてそこで、私どもは入管行政と難民行政は分離をした方がいいというので対案を提案しておるんですが、この分離というものは、どういいますか、事の性質上、全くそれはもう考えられないものだという、そういうお考えで国はいるのか、それとも分離というのは、制度の合理的な設計からすると分離じゃなくて一元化しておく方がいいという制度上のメリット、デメリットからの判断なのか、そこはどうですか。

○国務大臣(野沢太三君) 出入国管理と難民の世話をする難民認定行政が分離しているか、あるいは一元的かと、こういうことでございますが、もう委員先刻御承知のとおり、我が法務省は人権擁護の問題も取り扱っておりますし、入国管理もやっており、かつまた難民の問題についても取り扱っている。それに伴います様々な経験、実績、情報、これらを併せ持つ形で進めておるわけでございまして、それぞれの仕事が別々に独立して行われるということになりますと、なかなかその調和を取ることが逆に難しくなってしまうんじゃないかなと、こういう思いもございまして、今回は私どもはここは法務省の中で一元的に行うことが合理的な理由があると、こう考えたわけでございます。

○江田五月君 ですから、何か論理必然的に、もう国家の成り立ちから当然に難民と入管とは一つのところでやらなきゃならぬという、そういうものじゃなくて、制度の合理的な設計からいってこういうものがいいという判断だったんだと、そう今伺った、伺っておきます。

 私どもはそれは合理的でないと思うんで、私どもは、難民だけじゃありません、すべて人権行政を法務省が担当するということ自体に対して批判を持っておりまして、以前のあの中央省庁の一括法でしたかね、あの法律のときにも私たちはそこは違うという対案を、修正案だったか、出しておるわけですが、そこはちょっと根本的な違いですのでこれはしようがないとしておきましょう。

 さて、仮滞在、これについてはもう六か月要件とか直接入国要件とか千葉委員が質問されました。仮、これはどうして仮でなきゃいかぬのですか。

○政府参考人(増田暢也君) 仮滞在許可制度につきまして、仮といたしましたのは、この許可は、難民認定申請中の不法残留者などにつきまして難民かどうかの結果が確定するまでの間、我が国に在留を暫定的に認める性質のものであるために仮という用語を用いたものでございます。

 なお、この仮滞在許可は入管法に定める在留資格ではございませんが、この許可を受けた難民認定申請者は我が国の在留資格制度の例外として合法的に在留できることとなるものです。

○江田五月君 だから、やっぱり仮という言葉があるのは不法滞在者だと、だから本当はもう出さなきゃいけないんだけれども、まあ難民申請しているということがあるから仮に置いていてやろうという、そういう意味合いなんですよね。だけれども、元々難民申請してくる人がそんなに、パスポートを持ってビザ持って来れるわけないじゃないですか。難民申請する人たち、難民の庇護を求めて日本にやってくる者は、入国のところがイレギュラーなことはあるとしても、それはそんな不法入国、不法滞在なんて言わずに、難民申請者だということで温かく受け入れてやるということをなぜ一体考えられぬのか。どうしてもそこに不法だという観念がこびりついて離れないというのは、一体どういう頭の構造になっているのかを、もしできればお聞かせください。

○政府参考人(増田暢也君) まず、前提として御理解をいただきたいのですが、それは、我が国で難民認定申請している人は我が国に入ってくるときに不法で入ってきているのが大半なのかということでございますけれども、平成十一年から平成十五年までの間ですが、パーセントで申しますと、難民認定申請者の中で合法で入国した者、平成十一年以後、八七・七%、八六・六%、八四・四%、八五・六%、昨年が七七・七%と。つまり、およそ百人のうち七十人台から八十人台までは合法的に我が国に入ってきた人がその後我が国にいて難民認定申請をしていると、これが実情でございます。もちろん、逆に言えば、十数%から二〇%強、毎年不法で入ってきた方で難民認定申請をする方もおられるわけですが。

 問題の仮滞在許可というのは、その一〇%台から二〇%強、不法で入ってきた人について、本来は不法入国者あるいは不法残留者になったから退去強制をしなければいけないが、しかし難民認定申請にかんがみ、その結論が出るまで一定の要件を満たす人は在留、我が国に在留することを合法的に認めましょうと、こういう制度であるわけでございます。

○江田五月君 制度はそういう制度であることはそうなんですが。

 もう一つ、どうもこれも気になるんですね。仮滞在を許可しない場合に逃亡のおそれというのがありますね。逃亡というのは、今おっしゃるような、これはどうなんですか、八割からが合法的に入ってくるというんだったら、逃亡って何から何に逃亡するんですかね。それが一つ。

 それからもう一つ、おそれというの、これは刑訴法の六十条で、いわゆる勾留の要件として逃亡に関する規定がありますが、この規定とここのおそれと、これは刑訴法の方はたしか逃亡すると疑うに足る相当な理由でしたかね、これはどういう関係になるんですか。

○政府参考人(増田暢也君) 先ほど申し上げました入国時に合法的に入ってきた人については、そもそも正規滞在者ですからこの仮滞在許可の問題は起きませんので、逃亡のおそれがあるとかないとかも検討の対象にはなりません。

 そこで、お尋ねの逃亡するおそれにつきましてですが、これは入国管理当局が入手した情報、あるいは関係人からの通報、その他諸般の状況から判断いたしまして、仮滞在を許可するとその人が逃亡するおそれが高いと認められる場合をいうものと考えております。したがいまして、逃亡についての抽象的なおそれでは足りず、具体的な根拠に基づいて逃亡の蓋然性が認められることが必要であると考えておりまして、結局は個々の事案ごとに、本人の身上あるいは経歴やその置かれた状況等、諸般の事情を総合的に考慮して判断することとなります。

 そして、刑事訴訟法の六十条での逃亡すると疑うに足りる相当の理由との意味が同一であるかどうかとのお尋ねであったかと思うのですが、刑事訴訟法の解釈につきましては、直接入国管理局としては言及する立場にございませんのでそこは御容赦いただきたいのですが、仮滞在許可と刑事訴訟法の勾留は、その制度の目的も内容も異なります。したがって、この両者の意味の異同を単純に論ずることができるのかちょっと疑問には思うのですが、一般に公刊物などに載っている刑事訴訟法六十条の通説的な解釈などを前提としますと、逃亡するおそれの程度という点は両者それほど違いはないのではないかというふうに考えます。

○江田五月君 今の御答弁の最初に、八割の人は合法的に入ってきているから仮滞在ということは考えられないから、当然逃亡もないと。したがって、やっぱり二割の人が不法入国、不法滞在の人について仮滞在というのが問題になるわけですよね。何か語るに落ちるという感じもするんですが。

 仮滞在が不許可の場合であっても、仮放免の許可というのは可能なんですよね。これはもう簡単に答えてください。

○政府参考人(増田暢也君) 可能でございます。

○江田五月君 次に、異議申立てについて聞きます。

 異議申立てをUNHCRなんかは第三者機関にすべきだという、そういうことを言っておるんですけれども、これは大臣、第三者機関になぜできないのか。それから、今度の難民審査参与員制度、これは第三者性というものを持った制度というふうに考えておられるのか、違うのか。

○国務大臣(野沢太三君) 今回の改正の中で非常に大事な点は、今のこの第三者機関による審査を導入したと、ここが非常に大事ですが、それがいわゆる本当に第三者としての機能の、果たすかどうかと、こういうお尋ねであろうかと思いますが、やはり不認定処分を客観的なものにするためにもこの機関の機能というものは大変大事なものでございまして、今回の改正におきましてこれを我が法務省の中に置きましたのは、今までの迅速性あるいは簡易な扱い、さらには統一的な扱い、いろいろ考えまして法務大臣のところでの所管と、こういうことにしたわけでございます。

 それから、公正さや透明性が確保できるかどうかと、こういう点もございますが、それにつきましては、人選の過程でそういった公正中立を十分確保できる専門家、経歴の方々をお招きし御就任いただくということの中で、この結果を尊重して取扱いを決めていこう、これで十分な効果が得られるものと考えたわけでございます。

○江田五月君 ちょっと最初のところですね、結構重要なことをおっしゃったような気がするんですが、第三者機関としてこの難民審査参与員制度を設けたと、こういうお答えのようにも聞こえたんですが、そうお答えになったんですか。

○国務大臣(野沢太三君) あくまで参与員ということで、中における諮問機関ということでございます。

○江田五月君 UNHCRからの、第三者機関で異議申立てを審査すべきだと、この要請はどういう、この要請にこたえたんですか、こたえなかったんですか、半分こたえたんですか。

○国務大臣(野沢太三君) この要請にこたえる方向で、当面この措置を取ったものでございます。

○江田五月君 なるほどね。これは私は別に批判的な立場で言っているんじゃなくて、よく、本当はよく分からないから聞いておるんですけれども、そういうことであるならば、そういう運営に是非していただきたいと思いますね。

 やはり判断は、独立した判断を是非保障してほしいし、それから大臣の立場というよりもむしろもっと客観的な専門的な立場で判断をするようにしていただきたいし、その人がその行政に対して客観的なチェックをするという、そのためには資料などもかなり幅広く収集をしていくということも必要であろうと思いますし、また、その意見については大臣はちゃんとこれを尊重していくことが必要だと思いますが、以上のようなことについて、これはお約束いただけるでしょうか。

○国務大臣(野沢太三君) 先生方のこの御意見、十分尊重し、またその客観性を期待しているところでございます。

○江田五月君 大変勇気付けられる御答弁だと思っておりますが、これは我々の方も厳しくこれから、厳しくといいますか温かくといいますか、見ていかなければいかぬと思っております。

 さて、この異議申立てというのは、一体どのくらい件数がありますか。

○政府参考人(増田暢也君) 平成十一年以降の数字で答えさせていただきますが、年間、百五十八件、六十一件、百七十七件、二百二十四件、そして昨年が二百二十六件でございます。

○江田五月君 二けたのこともあるけれども大体百から二百件というぐらいで、これをどのくらいな審査員、参与員で審査しようとされているんですか。

○政府参考人(増田暢也君) 参与員の数について、まだ最終的に確定しているわけではございませんので、おおよそこちらが考えていることということで御理解いただきたいと思いますが、異議申立て件数などを考慮して全体で十数名程度を考えております。

○江田五月君 どういう人を選びますか。

○政府参考人(増田暢也君) 参与員をお願いする方々をどういう分野からお願いするかということでございますけれども、これは難民認定手続におきましては、その難民認定の基礎となる証拠が海外にあって収集が難しく、限られた証拠を的確に評価して適正な事実認定を実現する必要がございますし、あるいは海外情勢を審査や判断に正確に反映させる必要もございます。あるいはまた、条約などを適切に解釈する必要などもございますので、それらにかんがみまして、一つは事実認定の経験豊富な法曹実務家を考えておりますし、さらに地域情勢や国際問題に明るい元外交官とか、あるいは商社などに勤務されて海外勤務の経験をなさった方であるとか、あるいはマスコミの仕事で海外特派員経験のある方であるとか、その他、国際政治学者や国連関係機関に勤務なさった経験のある人なども考えております。さらに、条約や法律に明るい方ということで言えば、国際法、外国法あるいは行政法等の分野の法律専門家などからも選任することを考えております。

○江田五月君 法曹実務家、これもいろんな人いますから、弁護士であればだれでもいいというわけでもないでしょうが、今おっしゃったような目的に合致する人、これを選ばれようというんでしょう。

 外交官とか商社の在外勤務経験者が本当に外国の実情をどの程度知っているかというのはなかなか大変ですが、こういうときに、例えばUNHCRやあるいは日弁連、こういうところからの推薦というようなことをお考えになる余地はないんですかね。

○政府参考人(増田暢也君) まず、法曹実務家となりますと弁護士さんが入ってくるでしょうから、そうすると、その弁護士の中でどなたにお願いするかというときに、日弁連に推薦をお願いする、あるいは御助言をいただくということは前向きに考えたいと思います。

 それから、国連機関に勤務なさった中で適当な人がいるかどうかということで、言わば公正中立な方を御推薦いただけるのであれば、UNHCRからの推薦なり御助言をいただくことについても検討したいと考えております。

○江田五月君 参与員の審査ですが、これは一人でやるんですか、何人かチームになるんですか。そのチームでやる場合は、個別なんですか、それとも合議的な仕組みでやるんですか。

○政府参考人(増田暢也君) 審議の方法その他についてでございますけれども、この辺は詳細は今後法務省令で定めることになりますが、難民審査参与員は意見を述べるために必要な情報を共有してお互いに意見交換を行う機会を持っていただくと。参与員は案件一件につき複数を考えているわけですが、複数の参与員から一個の結論を出す、出していただくということを目的とするのではなくて、意見提出に当たっては、個別に意見が提出できることも可能とするようなそういった制度を考えております。もちろん、その意見交換を通じて参与員の意見が一致した場合は、そのまま一個の結論、意見を法務大臣に答申していただくことも別に妨げはないというようなことを考えております。

○江田五月君 参与員の、どの事件にどういう参与員を充ててとか、あるいは参与員にいろんな資料を調達をして用意をしてとか、あるいは審尋をやられるということなんですが、その審尋の手続を担当するとかそういうような事務は、事務局はどこが担当されるんですか。

○政府参考人(増田暢也君) 今お尋ねの資料の提供その他、詳細については法務省令で定める予定にしておりますが、難民審査参与員への資料提供あるいは資料収集等については、地方入国管理局に所属する異議申立てを担当する調査官等が行うことを検討しております。

○江田五月君 これ、やはり参与員に立派な人を選んでも、事務方が全部役所の頭でかちかちじゃこれどうにもならないんで、そこのところは事務局を別個全く別に作るというのも難しいでしょうが、私どものように、難民認定事務を別の組織でやるということになれば、当然事務局はこれ全く別になるのでそういう問題はないんですが、その辺が私の言う制度の矛盾というところなんですけれども、いやしくも第三者機関制というもの、これに障害となるようなそういう事務局の構成ではいけないと思います。

 ほかにも異議申立ての関係、今の参与員制度のことをちょっと聞きたいこともあるんですけれども、時間の方がだんだん迫ってきておりまして、精神障害の点についてかなりの改革をされたということで、これは今、今回の改革の一つの目玉のように言っておられますが、精神障害についての入国審査案件、事案、これは一体どのくらいあるものか。それから、精神障害の常況にあると入管で審査ができるのかどうか。今まではできなかったが今後はこういう体制でやるからできるんだという、そういうことがあるのかどうか。これはいかがですか。

○政府参考人(増田暢也君) まず、精神障害者に対する審査案件の有無でございますけれども、統計上、この精神障害者を単独の項目として統計を取り出した平成九年以降、精神障害者を理由として上陸を拒否した人はおりません。

 それから、その体制でございますが、精神障害者でその程度が重いとかどうとかいうことについては、医師の診断、入管法の規定によって医師の診断、入管法九条二項でございますけれども、医師の診断によって判断することになります。例えばの話、成田空港であれ、あるいは関西空港であれ、近傍の病院に精神障害について御診察いただく指定医の方がおられます。したがって、これは必要があると判断した場合は、その人を指定医のところまで連れていって、上陸を認めていい人なのかどうかについて診断をいただいて、その結果を受けて結論を出すということになります。

○江田五月君 ゼロだということで、そして入管の窓口、窓口といいますか入管のチェックをしているブースで、一見して、あ、これは精神障害の常況なんていうのは簡単に分かるものじゃないんだし、入ってから精神障害、重篤な障害を発症するというようなケースだってあるわけだし、何か日本は精神障害は入れないんだという、これもどうもちょっとかたくななような気もするんですが、その辺は精神障害者に対する医療というところにゆだねて、入管のところでチェックをするというのは、私はこれはもうやめてしまってはどうかと思うんですが、やめることのできない理由があるんですかね。

○政府参考人(増田暢也君) 現在の入管法の五条一項二号は、精神障害者の場合はもう一律上陸拒否ということにしているわけです。

 この精神障害者の入国を認めますと、その障害に起因して種々の影響を我が国に及ぼすことがあるということにかんがみ、入国を認めないこととしたもので、例えば精神障害者が自身を傷付けあるいは他人に害を及ぼすおそれがあると認められる場合、都道府県知事による入院措置の制度が設けられておりまして、そのような入院措置が必要な者の入国を無制限に認めることは、我が国社会に財政上の負担など種々の負担を生じさせるおそれがあると考えられるほかに、事理弁識能力を欠く常況にある方は、財産行為など適切に行う判断能力に欠け、自己の行う行為について十分な責任を取ることができないことから、適切な随伴者がいない場合には取引の安全を害するおそれもあると考えられるわけで、そういったことから、今回の法改正におきましては、上陸拒否事由から精神障害者全面削除はやはりいたしかねるということで改正案を考えたものでございます。

○江田五月君 いや、そんなことを言うけれども、平成九年から今日までゼロなんでしょう。取引の安定が害されるとか、財政負担が大変とか、都道府県知事の措置入院がどうとかというような大げさなことじゃないんで、しかも、精神障害を負って、日本に入って来てから精神障害を患う場合にはこれは日本でちゃんと医療を責任持つわけですから、精神障害を負って入ってきたそういう人たちに日本の医療を施したからといって罰は当たらぬと思うんですがね、国際社会に対して、などなどいろいろ言いたいことありますが、時間になりました。終わります。


2004/04/08

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