2003/07/24

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156 参院・法務委員会  

14時15分から約50分間、仲裁法案の質疑。冒頭、長崎事件につき、加害少年の両親に対する調査の件と少年院法改正の件に触れました。仲裁法案では、山田文さんやレビン小林久子さんのご主張を紹介しながら、当事者同席での手続きの重要性を強調しました。


平成十五年七月二十四日(木曜日)

○委員長(魚住裕一郎君) 仲裁法案を議題といたします。
 政府から趣旨説明を聴取いたします。森山法務大臣。

○国務大臣(森山眞弓君) 仲裁法案について、その趣旨を御説明いたします。
 我が国においては、社会の複雑化・多様化、国際化等が一層進展する中で、社会も事前規制型から事後監視型に移行しつつあり、裁判外の紛争解決手段についても、その拡充・活性化が求められております。このうち仲裁につきましては、公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律にその手続が定められておりますが、この法律は、明治二十三年に制定された大変古い法律であり、現代の社会経済の状況に適合していない部分が多くなり、かねて仲裁法制の抜本的な改革が望まれてまいりました。この法律案は、このような状況にかんがみ、仲裁手続の改善を図り、利用しやすく実効的な仲裁制度を構築する見地から、仲裁合意の要件、仲裁手続、仲裁判断の取消し及び執行を許可する裁判その他基本となる事項について、必要な諸事項の整備を図り、国際的な標準にも合った規律とすることを目的とするものであります。
 以下、法律案の内容につきまして、その概要を御説明申し上げます。
 第一に、紛争を仲裁によって解決する旨の仲裁合意につきましては、合意内容の明確化等の観点から、国際的趨勢に合わせて書面によってすべきものとするとともに、昨今の通信手段の発達を踏まえ、電子メール等を利用して仲裁合意を締結することも認めることとしております。
 第二に、仲裁人の選定手続や仲裁人の仲裁を行う権限について、これらをめぐって仲裁手続が停滞するのを抑止するため所要の規定を設け、仲裁手続が円滑に進むよう配慮しております。仲裁手続につきましても、当事者が自主的にルールを定めることを基本としつつ、当事者間に合意が成立しない場合に適用される標準的な手続について、その開始から終了に至るまで、国際的な標準にのっとった内容の規定を置いております。
 第三に、仲裁判断につきましては、仲裁判断書の記載事項を定める等所要の規定を設けるとともに、仲裁判断の取消し事由並びに承認及び執行の拒絶事由に関し、国際的な標準に沿って整備を図ることとしております。あわせて、仲裁判断の取消し及び執行の許可を求める裁判の手続について、現行法では厳格な判決手続によるとされておりますが、迅速で機動的な対応を可能にするため、これを決定手続に変更することとしております。
 以上がこの法律案の趣旨であります。
 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。

○委員長(魚住裕一郎君) 以上で趣旨説明の聴取は終わりました。
 これより質疑に入ります。
 質疑のある方は順次御発言願います。

○江田五月君 仲裁法案の質疑の前に、本日も長崎の幼児殺人事件について若干伺っておきます。最高裁判所の方にお願いをいたします。

 昨日、長崎家庭裁判所で動きがあったようですが、最新の状況を報告してください。

○最高裁判所長官代理者(山崎恒君) 現在係属中の事件でありますので、一般的、外形的なことしか申し上げられませんが、お尋ねの少年につきましては、七月十日に長崎家庭裁判所に送致があり、同日、少年鑑別所送致の観護措置が取られ、七月十六日に審判開始決定がされ、昨日、第一回の審判が開かれ、鑑定を実施することが決定されたと聞いております。

○江田五月君 昨日の第一回の審判に両親が出てきていないという報道がありますが、これは事実ですか。

○最高裁判所長官代理者(山崎恒君) これも現在審理中の事件でございまして、個別の事件の内容につきましては説明を差し控えたいと思いますが、一般的に言いますと、少年保護事件においては、少年の保護者に対する調査を行い、審判期日にも出頭させるのが原則であり、触法少年におきましてもこの点は同様でございます。ただ、この事件では、昨日の審判には保護者は出頭しなかったとのことでございます。

○江田五月君 具体的な、しかも現に進行中の事件ですので、私も質問をややちゅうちょをしながら聞いておるんですが、保護者が来ていなかったということ、これはもうちょっと、何か理由があるかどうかはお分かりでしょうか。

○最高裁判所長官代理者(山崎恒君) 承知しておりません。

○江田五月君 先日の委員会で、私は鴻池大臣の市中引き回しの上、打ち首という暴言について質問いたしました。これは幾ら何でもひどい、加害者の少年の親に刑罰を科すようなことはナンセンスなんですが。

 しかし、この加害者の少年の親が全く姿が分からないというのもいささか奇異な点があると思うんですね。その親のコメントや意思表示が全く分からない。これは、ただ知りたいというだけでなくて、やはりああいう事件の少年の家庭の環境、生育環境などそうしたことを、もちろん専門家の皆さんが十分検討されるということも大切ですし当然だと思いますけれども、社会一般もまたそうしたことを素材にしながらこの問題を深く考えてみるということは必要だと思うんです。

 やっぱりそれは、鴻池大臣の暴言はとんでもないですが、しかしある種の、世間から見て、親はどうしていたんだろうかという、こういう気持ちはやっぱりあるんです。

 例えば、民法の規定でいけば、七百十二条でしたかね、未成年者の不法行為について親が責任を負うと、未成年者に、不法行為、能力がない場合ですか、いずれにしても、そういうことで親が責任を負う場合があって、これは立証責任がむしろ転換されるわけですね。親の方が監督をきっちりしていたということの立証、それは、現実に不法行為が起きていれば監督していたという立証は簡単じゃないですから、大体、損害賠償は親が負担をしなきゃならぬということになるんだろうと思いますけれども。したがって、民事の訴えを被害者側が起こせば親は法廷に出てこざるを得ないと、欠席判決は別として、という姿になるわけで、親が完全に隠れてしまうというわけにはいかない筋のものだろうと思います。

 少年法では、家庭裁判所は調査官に命じて保護者の取調べ、調査を行わせることができるわけで、また保護者に対して呼出し状とか同行状を発することもできるわけで、なぜ昨日、親が来ていないかということは承知していないということなんですが、家庭裁判所が親をそういう意味できっちり調査をしなければ、親が調査に応じないときには同行状、呼出し状までちゃんと出して、それの執行までして調査をしなければ、やはりこういう事件の場合に適切な調査にならないという、それは私はそう思いますが、いかがですか、一般論として。

○最高裁判所長官代理者(山崎恒君) 一般論で申し上げますと、委員御指摘のとおり、保護者に対して調査を行い、審判にも出頭を呼び掛けるために呼出しを行い、それが実現しない場合には同行状を出すという手続がございますので、事案に応じてそういうことも考えられるのではないかと思います。

○江田五月君 今、十六日に審判開始決定があったとおっしゃいましたね。そうすると、それより以前、送致を受けた直後でしょうか、調査官に対する調査命令、これは出ていますか。

○最高裁判所長官代理者(山崎恒君) 具体的な事件のことなのでお答えしかねる部分がありますが、当然出ているものと思われます。通常の手続ですと当然出されているものと思われます。

○江田五月君 当然出ていますよね。出ずに審判開始決定をするわけもないし、また審判期日が開かれるわけもないので。そうすると、調査官としては、やはり親はきちんと調査をするというのが当たり前のことだろうと思って、その点は信頼をしております。

 また、同様に少年法では、家庭裁判所は検証とか押収、捜索、あるいは警察官に対して援助をさせることもできる。その援助は、通常ならば刑事訴訟法に規定する捜査の手法を捜査官、警察官が用いて捜査をする、それによって家庭裁判所の援助にこたえるということが当然起こるわけですね。

 今回の事件で、これらの家庭裁判所が検証とか押収とか捜索とか、あるいは警察官への援助を要請する、こうしたことはありますか、ありませんか。これはお答えにくいでしょうが、質問だけちょっとしてみます。

○最高裁判所長官代理者(山崎恒君) 具体的な審理をどう行うかはその裁判体が考えることですので、やはりお答えはできかねるところでございます。

○江田五月君 そこで、私の問題意識は、警察官に刑事訴訟法に規定する捜査の手法で家庭裁判所の調査に援助を要請した場合に、本件はその刑事訴訟法所定の捜査ができないと。これはやはり、もちろんこの事案でそういう捜査が必要であるかどうか、恐らくもう既にそういう捜査、そういう意味の強制捜査が必要な場面は過ぎているかもしれませんが、一般論としては、やはりきっちり刑事訴訟法所定の捜査をしなければ事案が解明できない、家裁の審判に万全を期することができないという場合があるだろう思っておりまして、そこのところをどう解決していくか、これは大問題だと思っております。

 さてそこで、家庭裁判所の保護処分ですが、保護処分というのは、もちろん保護観察、それから児童自立支援施設又は児童養護施設への送致、そして少年院送致と、三つの選択肢があるわけですが、今回は、残念ながらといいますか、少年院は十四歳以上の少年でなければ処遇することができないというそちらの方でこの選択肢が使えないということになって、保護観察と児童自立支援施設送致の二つしかないということになる。

 しかし、さあ児童自立支援施設送致でいいのか。どうも、私はこれは今、一応確認だけしておきましょう。児童自立支援施設へ送致し、併せて専門的な保護矯正の施策を行うという意味で保護観察に付すると、両方併せて行う、これはできますか、できませんか。

○最高裁判所長官代理者(山崎恒君) 委員御指摘のとおり、保護処分としては、保護観察と児童自立支援施設送致又は児童養護施設送致があるわけでございますが、この保護処分はどれか一つということになりますので、併せてということは難しいということになります。

○江田五月君 どれか一つとどこに書いてありますか。

○最高裁判所長官代理者(山崎恒君) 保護処分としてどれを選択するかということですので、その三つあるうちのどれか一つを処遇選択して行うということで、特に一つというふうに書いてあるわけではございません。

○江田五月君 まあ、私も別に、解釈としてはそうだろうと思います。ですから、それがおかしいという、解釈がおかしいというんじゃないんですけれども、やはり厚生労働省所管の児童自立支援施設に入れていて、そして刑事司法的な意味での専門家の監督もちゃんとそこにかぶせるというようなことが必要な場合というのはあるんじゃないかという気がするんですね。

 児童自立支援施設でなくて、例えばすぐ送致をせずに、調査官が試験観察で一定程度、補導委託先に預けて、そこでかなり専門的な処遇をしながら試験観察で調査官が観察をすると、こういうことは可能ですよね。

○最高裁判所長官代理者(山崎恒君) 可能でございます。

○江田五月君 児童自立支援施設ではどのような、こういう事件の場合、どういうプログラムがあるんですか。

○政府参考人(岩田喜美枝君) 児童自立支援施設では、まず子供一人一人に自立支援計画を立てるわけでございますが、児童相談所、本人、親、こういった者と相談いたしながら計画を策定いたします。そして、その計画にのっとりまして、職員が言わば二十四時間、生活をともにする中で生活指導を行う、あるいは施設の中で教育を行う、あるいは労働を通じた、作業指導と言っておりますけれども、そういったようなことを行う、そういうようなことで一人一人の子供の処遇を行っております。

 また、精神医学的なケアが必要であるというふうに思われるケースにつきましては、児童自立支援施設に精神科医を配置いたしておりますので、この精神科医が中心になりまして、カウンセリングですとか心理的な治療を行うということになっております。

 また、この精神科医だけではなくて、もっと専門的な治療が必要であるといったような場合については、外部の医療機関ですとか専門家と連携しながら個別のケースに当たる、そういったようなことで処遇をいたしております。

○江田五月君 これは、お答えはそういうようなお答えになるんでしょうが、実際問題、一体どの程度の精神科医の配置があるのか、詳しくいろいろお聞きをしなきゃならぬかと思いますけれども、なかなか困難じゃないかなと想像いたします。

 今回、内閣府に少年非行対策のための検討会が設置されたということですが、七月十七日のこの法務委員会で問題提起をした少年院法の改正、これはこの検討会でテーマとして取り上げられておりますか。

○政府参考人(山本信一郎君) 今、委員御指摘の少年非行対策のための検討会でございますけれども、重大な少年事件の続発にかんがみまして、少年非行対策につきまして総合的に検討を行うため、大臣主宰の下に開催をしておるところでございまして、検討対象の範囲につきましては特段の限定を設けることとはしていないところでございます。この検討会は、先週十五日、スタートしたばかりでございまして、今後、現場経験等を有する専門家にも加わっていただきながら多角的に検討を行うこととしております。

 どのような具体的な事項が取り上げられるのか、現段階では申し上げられないわけでございますが、非行少年の処遇の在り方というものが一つの課題として検討されるものであろうという具合には考えております。

○江田五月君 少年院法の改正も検討の課題として取り上げられる可能性はあると、これはよろしいですね。

 厚生労働省に伺いますが、私が問題提起した少年院法の改正、十四歳以上という規定をおおむねとかいうようにして弾力的に少年院で処遇ができるようにするという提案なんですが、これは厚生労働省では、いや、そんなことをしたら厚労省の権限がちっちゃくなるから嫌だとかいうような反応ですかね。どうでしょう。

○政府参考人(岩田喜美枝君) 厚生労働省として方針を確定したわけではございませんが、児童自立支援施設も含めまして私どもが児童福祉法に基づいて取り組んでおりますのは、子供が心身ともに健やかに成長するように自立をいかに支援するかといった、そういった児童福祉の観点から取り組んでおります。したがいまして、今、委員が言われました具体的な構想につきましても、児童福祉といったような観点からも、そういった観点からもやはり検討することは必要ではないかというふうに思っております。

 先ほど内閣府の方から答弁がございましたように、検討会の中に厚生労働省も入っておりますので、そこでの検討の状況も踏まえまして、事柄が事柄でございますので、慎重で、かつ十分な議論をしながら考えていきたいというふうに思っております。

○江田五月君 法務大臣に改めて、先般、答弁はいただいているんですが、改めてもう一度。

 少年院というのは、これは確かに矯正施設、しかし同時に少年保護の施設であって、少年を懲らしめるとかじゃなくて、かなり濃厚といいますか、インテンシブなケアで少年を、道を踏み外したのを何とか元の道へ戻そうといろんな努力をするところですから、ですから厚生労働省の今のような御説明も、あるいはそういう目的も当然、少年院の中で果たせるものであって、十四歳というもうこの年齢でぴしっと切ってしまうというのじゃなくて、もうちょっと弾力的にその辺りが運用できるようにした方が私はいいと思っておるんですが、もう一度、どうお考えになるか、お答えください。

○国務大臣(森山眞弓君) 先日も御答弁いたしまして、そのとき申し上げましたのは、十四歳未満の少年を少年院に収容するという考え方も選択の一つだというふうに申し上げたわけでありまして、それを含めて少年保護全体の在り方について広く勉強してみたいという趣旨を申し上げたわけでございます。

 ただ、この問題を検討いたしますにつきましては、十四歳未満の少年を少年院に収容していわゆる矯正教育を行うことの効果といいましょうか成果、自由を拘束する施設に収容することの情操面への影響も考えなければなりません。

 いろいろな観点から考えていく必要があるというふうに思いますので、関係各方面との連携を図りながら、冷静な議論の上で、かつ真剣に対応していきたいというふうに思っております。

○江田五月君 冷静な議論はもちろん大切です。真剣にひとつ検討してください。

 仲裁法に移ります。

 私は、実は、今から何年前になるのか、裁判官の初任のときに執行判決を書いたことがありまして、私の付いた部の総括裁判官が、とにかく珍しい事件は全部合議と言うんで書いたことがあります。そのときに仲裁手続についてはずっと勉強をして、そして要所要所をずっと判断をして、最後、仲裁判決まで至ったんですが、それからもう何十年もたつので、その当時の知識はもうとっくにどこかへ行きまして、今回改めてまた仲裁を勉強し直しました。ああ懐かしいなと思ったりするんですが。

 今回の仲裁法は、明治二十三年制定の公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律の百十四年ぶりの抜本改革というわけで、なぜこれほど長く仲裁法というのは改正されなかったのか。これはどういうふうにお感じですか。国会の方が改正しなかったのでおまえたちの責任だということになるかもしれませんが、どうですか。

○政府参考人(山崎潮君) 本当に大変遅れたことをまずおわびを申し上げなきゃいかぬと思います。

 これは元々法務省の権限の法律でございますけれども、法務省におきまして、これまでも改正作業着手の検討は何回かされました。しかし、たまたま仲裁の余り利用がなかったということと、それとやはりそれ以上の大きな改正が次から次へ来た、具体的には新民事訴訟法の改正と倒産法の改正、こういうものがメジロ押しになったわけでございます。それ以外、法務省民事局としては商法等の一連の改正も行っております。そういうことから、手が回らなかったというのが正しいところだろうと思います。

 これは元々、昭和六十年にウィーンで成立をいたしましたモデル法、これに準拠しているわけでございますが、その当時、仲裁の担当者は私でございまして、その会議に出たのも私でございまして、少なからず個人的にも責任を大変感じているところでございます。今回、責任が果たせるところまで来たのかなということで、ほっとしております。

○江田五月君 なぜこう時間が掛かったか。私の責任だと言われてもどうも、そうすると私も私の責任だと言わなきゃならぬ、みんなでここで責任を分担し合ってもしようがないんですが。

 やはり、非常に古い手続でいろいろ不備もあった、それがゆえに余り使われなかった、使われないから余計に問題意識が鋭くならなかった、それが悪循環になってずっと置いておかれたということがあるだろうと思うんですね。

 どうも我が国の法律の中でそういうのが時々あって、陪審法なんというのも、戦後、戦争が終わったらすぐにもう一遍復活させるとなっているのにいまだにそのままになっているとかですね。これは余計なことですが。

 仲裁というのは、司法制度改革のかなり重要な柱であるADR、裁判外紛争解決手段、この全体像の中のある重要な位置を占めているものだと思うんですが、もう簡潔に、ADRというのをどういうふうに、今、我が国の紛争解決手続の中でどういう位置付けというふうに認識をし、その中で仲裁というのはどういう位置を占めているのか、その認識を説明してください。

○国務大臣(森山眞弓君) 仲裁や調停等のADRは、厳格な裁判手続と異なりまして、利用者の自主性を生かした解決や簡易迅速な解決など、柔軟な対応が可能であるという点で意義を有する紛争解決手段でございます。司法制度改革審議会意見では、ADRが国民にとって裁判と並ぶ魅力的な選択肢となるよう、多様なADRについて共通的な制度基盤を整備すべきであるというふうにおっしゃっております。

 このうち、特に仲裁につきましては、審議会の意見におきましても、明治二十三年制定の法律がそのまま残されているということは大変遺憾であるというふうにおっしゃっておりまして、国連国際商取引法委員会における検討等の国際的な動向を見ながら仲裁法制を早期に制定すべきものだと指摘されておりまして、この趣旨にのっとって仲裁検討委員会を開催して検討会を急ぎ、今回、仲裁法案を提出したということでございます。

 さらに、審議会の意見では、ADR全般の拡充、活性化を図るために、総合的なADRの制度基盤を整備するために必要な方策を検討すべきであるともされておりまして、現在、ADR検討会におきまして、そのために必要な方策について多種多様なADRのあるべき姿を見据えつつ幅広く御検討いただいているところでございます。

 なお、司法制度改革推進本部事務局では、今月中には、これまでの検討状況を踏まえまして、今後、更に検討を深めるべき論点を整理いたしましてパブリックコメントに付する予定と聞いております。

○江田五月君 民事紛争の解決というのを一体どういうふうに構想するかということで、紛争解決というのは社会にとっても大切なことですから、だから司法、裁判、これでもう公権的に解決をしてしまうというのが、これが裁判というもので。しかし、元々紛争は、民事、私的紛争なんですね。ですから、私的紛争の解決は、やはり当事者の自主的な努力で解決されるのが何といっても一番いいわけです。

 私も民事の裁判、随分やりましたけれども、やっぱり判決で本当に民事の紛争が解決できるかというと、それは解決はしますよ、公権的にもう権力でもってですね。しかし、判決で恐らく回収できる、実質的に回収できる金額なんというのは知れたものでしてね。それよりは、やはり例えば和解で、合意で、長期間掛かって少しずつでもちゃんと払っていくという方がよほど全体としては債権の満足度が高いということが多いわけでして。

 そこで、その私的紛争解決の様々なバリエーションの中で仲裁というものもあるんだろう、あるいはその他のADRもあるんだろうと。そのADR全体の中で仲裁というのは、かなりある意味で伝統的な、ある意味で典型的な姿なのだろうと。そこの部分がしっかり今回でき上がるということは非常に大切なことだと思っております。

 そういう意味で、この法案、まあ国会のいろんな事情で、今日、本当にわずかな時間の審議しかできずに、参考人の意見なども伺うこともできずに審議を終わらなきゃならぬというのは大変つらいことでございますが、ここに、質疑の中で取り上げられた問題以外の問題もいろいろあるということはひとつ是非念頭に置いておいていただきたいと思います。

 さて、附則の三条、四条で、消費者の関係、労働関係、これに特則を設けられましたよね。これは、附則でこういう特則を設けた、これはなぜなんですか。

○政府参考人(山崎潮君) やはり、仲裁が現実に使われる例が非常に少ないという状況を踏まえまして、現在、その附則で二つの特例を設けましたけれども、こういうものを運用してみて、こういうような考え方で本当に大丈夫なのかどうか、また将来的に違う考え方もあり得るのかどうか、そういうことを十分検証した上で、本則的なところに持ち込むなら持ち込むということで将来の検討にゆだねて、最終的な考え方を盛り込もうということから、暫定的な措置というふうにしたわけでございます。

○江田五月君 そうすると、消費者関係、労働関係の特則を運用してみて、そして、なるほどこれがいいなということになったら、それを仲裁法案、法の本則の方に移すという、そういう将来展望があるんですか。

○政府参考人(山崎潮君) これ、やや舌足らずで恐縮でございますが、仲裁法の本則に置くというわけではございませんで、例えば消費者問題でございましたら消費者保護法とか、あるいは労働関係であれば労働関係法規、そういう中で手当てを加えていく、例外を設けていくと、こういうことでございます。

○江田五月君 仲裁法はこれはもう仲裁の一般法ですから、しかし消費者のことや労働関係は、仲裁が、仲裁合意がなされる場合も随分あって、実際に仲裁がそういう場面で使われると。使われるけれども、使われるので、今回、仲裁法案を起草するに当たってそこまで視野に入れなきゃいけない、入れなきゃいけないけれども、仲裁法の本則とは違うという意味で附則にしているということですよね。そうでしょう。

○政府参考人(山崎潮君) そのとおりでございまして、本則の適用と少し違うものということと、それから将来も見直す余地があるということで暫定措置と、こういうことです。

○江田五月君 そうすると、この附則でいろんな経験を積んでいって、そこから出てくるものを今おっしゃるように例えば消費者契約法の中に取り込んでいくということかと思いますが、内閣府の方はそこはどう考えているんですか。

○政府参考人(田口義明君) お答えいたします。
 消費者、事業者間の仲裁につきましては、ただいま御説明のありましたような理由から暫定的措置といたしまして消費者に関する特例が設けられたところでございますが、内閣府といたしましては、今後、今回の新しい仲裁制度の利用状況といたしまして、例えばどのような消費者紛争についてどのような形でこの制度が利用され、またその場合どのような問題が生じ得るのかといったような点を踏まえまして、消費者政策の観点からこの消費者に関する特例の扱いについて対応を検討してまいりたいというふうに考えております。

○江田五月君 消費者の関係については解除という制度と。労働関係については無効という位置付けと。これについてそれぞれいろんな角度から聞きたいところですが、関係各方面の皆さんの検討の結果こういう結論になったということで、それはそれで良しとしたいと思いますが。

 全国の都道府県、市町村に消費者センターがある。この消費者センターが仲裁機関という機能を持つようになれば消費者にとっても仲裁法が随分生きてくると思いますが、これはもちろん都道府県、市町村、地方の機関であるけれども、そういうものが仲裁機関の機能を持ちたいと、こういうことになれば、これは、今のこの附則の運用をずっとこれから内閣府の方は見ていかれるんでしょうから、それはそれで、消費者センターの皆さん、頑張ってくださいという、そういう考え方でよろしいんですか。

○政府参考人(田口義明君) ただいま御指摘のございました消費生活センターにつきましては、都道府県あるいは市町村の条例等に基づいて設置されておりまして、現在、消費者苦情に対します助言でありますとか、消費者、事業者間のあっせん等を行っているところでございます。

 この消費生活センターが消費者からの苦情に対する助言やあっせんに加えまして仲裁を行うことが適当かどうかにつきましては、委員御指摘のとおり、基本的には各自治体が条例等に基づきまして自主的に判断すべき事項というふうに考えてございます。

 いずれにいたしましても、消費者をめぐる紛争の仲裁に関しましては、消費者の一方的な不利益とならないように適切に解決されるということが重要でございます。それと同時に、民間の機関も含めまして、多様な紛争解決機関が今後育っていくということが重要というふうに考えております。

 このような観点から、内閣府といたしましては、今後、この消費者に関する特例の在り方を検討するに際しまして、仲裁法制定後の動向を踏まえながら、どのような仲裁機関が適切なのか、あるいは当該仲裁機関への支援等の問題なども含めまして、今後検討を行ってまいりたいというふうに考えております。

○江田五月君 厚労省はおられますね。ごめんなさい、ちょっと、なるべく答弁を短くしてくださいませんか。

 附則四条の労働に関する特例、これはやはり同じように、労働関係法規の中に将来はきっちり位置付けていくという意味で、これから注意深く見守っていくという態度でよろしいですか。

○政府参考人(青木豊君) 将来の個別労働関係紛争に関する仲裁合意につきましては、労使関係というのが労働者と事業主という継続性を持った関係であるとか、あるいは労使の関係が事実上対等とはなかなか言い難い場面があるということもありまして、そういった特性でありますとか、それから別途、個別の様々な労働紛争に関する処理の仕組みというものがありますので、そういったような在り方、そういったことも十分検討した上で必要な措置を講じていくというふうに考えておるところでございます。

○江田五月君 やはり、仲裁法というのはもう仲裁の一般大原則ですから、その中にいろんなものが、もちろん今、今回は、必要だから、しかし附則で入れているわけですから、厚労省にしても、あるいは内閣府にしても、ひとつよく事態の、仲裁の動向を見極めて、それぞれ本来あるべき場所にきっちり移す、引き取っていただくと言うとちょっと言い方が変ですが、努力をしていただきたいと思います。

 実は、仲裁は、今いろんな仲裁機関ができていますが、弁護士会がかなり仲裁に取り組んでおりまして、私の所属しております岡山弁護士会でも仲裁センターを始めたんですね。もう今から六年ぐらい前でしょうかね。私は、立ち上げのときに手を挙げて仲裁人登録をしまして、そして事件を一件処理をいたしました。交通事故の事案で、これはなかなか重要で、保険会社が普通の交渉のときにはなかなか金額を上げないんですね。だけど、いざ裁判ということになったら、で、弁護士が付くと、ぽんと上がる。仲裁が下がる方へ行くのか上がる方へ行くのかというのは非常に重要なところですが、有り難いことに私が扱った事案というのは、少なくともそれまでの仲裁の事案の、もっとも最後は結局は和解で解決したんですが、それまでの事案の中で一番高い金額で合意ができまして、責めを果たしたと思っておるんですが。

 そのときに、岡山弁護士会では、仲裁の手法として当事者双方同席で手続を進めると、これを大原則にするということでやってまいりました。私ども、裁判所で和解するときには、当事者を交互に交代交代に呼び入れて、そしてそれぞれに、ある意味で名人芸で説得の技術をそれぞれ駆使しながら、だから両方の当事者が一緒にいたんじゃとても言えないことをあれこれしゃべって、合意を作り上げるんですが、やっぱりそれよりも当事者同席のところで、相手方の言い分も仲裁人も聞く、それを相手も聞いているという形でやった方が、お互いの納得も得られやすいし、また将来的には、長い時間を掛けて見ると、結局は手続に対する信頼を確立する道ではないかと。

 そんなことで、例えばレビン小林久子さんとか、あるいは山田文さんとか、こういう皆さんの学問的な努力もあるわけですが、この当事者同席という原則、これはこの仲裁法の中ではどういう評価になるんでしょうか。

○政府参考人(山崎潮君) 仲裁の手続は、第一次的には当事者が合意で定めると、それがなければ仲裁廷が定めると、こういうことになっておりまして、基本的には、私的自治の世界でございますので、お任せをするということになろうかと思います。

 特に、口頭審理を行う場合に両方が一緒に必ず対席するかということは決めてございません。ただ、現実の運用としてはそうならざるを得ないだろうと。それから、仮にばらばらに聞いたときも、やっぱり当事者平等の原則というのはこの法律に規定されておりますので、きちっと平等に扱わなければならない。あるいは、片っ方からもらった資料は必ず相手に、片っ方には見せなきゃいかぬと、こういうこと全部決まっておりますので、そういう意味では、いろんなところで当事者を平等に扱うという手当てがされているということでございます。

○江田五月君 規定の中に、例えば当事者が主張の書面やあるいは証拠を出した場合には、それを相手方にもちゃんと渡せるように手配をしなきゃいけないとか、あるいは仲裁人が片方だけから何か聞いたときに、それが仲裁の判断になるようなことであれば、相手にもちゃんとそのことを言わなきゃいけないとかということはありますから、同席ということを法定はしていないけれども、やはり同席的効果というものを常に念頭に置いて手続進めなさいというのがこの基本にあるんだろうと思います。それはそれでよろしいですね。

○政府参考人(山崎潮君) 明確な規定はございませんが、精神としてはそういう精神だということでございます。

○江田五月君 この仲裁人の資格なんですが、資格について何も規定がないので、例えば行為能力のない人、未成年者も仲裁人になれる、これはそれでいいですよね。

○政府参考人(山崎潮君) 自然人であれば行為能力等問わないと、だれでもいいということになります。

○江田五月君 そうすると、例えば両当事者が合意すればいいんだから、合意の上である人を仲裁人に頼もうと、あの人は五歳の子供だけれども霊感があるから、あの霊感でぱっと判断してもらったらいい結果が出るんじゃないかという、こんなことはいいんですか。

○政府参考人(山崎潮君) まず、だれでもいいと申し上げましたが、五歳の子供で意思能力があればいいということになりますが、天才的な方で意思能力がある方もおられるかもしれません。意思能力がそのまず前提だということで、意思能力があった場合もこれは法に基づく判断をするということでございますので、勘とか霊感とか、これでやるというのではいかぬということになります。

○江田五月君 やはり、そこはしっかり押さえておかないと、やっぱり民事紛争の解決で、民事紛争の解決というのは、やはり主張がそれぞれ述べられて、証拠が出されて、それが裁判のような厳格なものでなくてももちろんいい。しかし、それなりの主張があり証拠があり、そしてルールに基づいてそれについての判断を下すと。そのルールが現に行われている法律であってもいいし、違うルールであってもいいけれども、そういうある種の主張と証拠とルールというものによって結論を得ると。しかも、それはちゃんと理由を説明できるということでなければいけないので、霊感であったり、くじであったり、幾ら当事者合意であって、そして仲裁人が仲裁をするのでも、くじで仲裁したらそれは仲裁じゃなくてくじなので、くじ法じゃないんですよね、仲裁法ですから。そこは、私のような理解でよろしいですね。

○政府参考人(山崎潮君) そのとおりでございまして、当事者が定めた法、法を準拠して判断をしろと、こういうふうに書かれております。

○江田五月君 仲裁地を仲裁判断書に書けということになっておりますが、仲裁地はどこまで書くんですか。どこまでというのは、つまり何丁目何番地までなんですか。もうちょっと大ぐくりでいいんですか。あるいは、仲裁地を書いていなければ無効になるんですか、そうでもないんですか。

○政府参考人(山崎潮君) 仲裁地は、通常は東京とか大阪というふうに書かれると思いますけれども、最小単位は国単位で書いていただきたいということでございまして、そこの場所で施行されている法律、これが適用されていくという関係になりますので、その適用関係をはっきりさせるために書いていただくと、こういうことでございます。

○江田五月君 多分、委員長、時間のことが気になっているんだろうと思いますが、もうこれ本当にこれだけの時間でやるので、もうちょっとだけ、済みません。

 執行決定ですが、これは口頭弁論か審尋かいずれかが必要的だということで、執行決定が出される。執行決定があっても、それだけでは多分、執行できない。やはり執行文が要る。承継執行文が必要なときには承継執行文もちゃんと要る。そして、それで執行ということになる。その執行に対する争い方というのは、通常の民事判決と同じように請求異議も第三者異議もすべてあるという、そういう理解でいいですか。

○政府参考人(山崎潮君) そのとおりでございまして、今までは執行判決と言っていたわけでございますが、今度は決定になりますので、執行決定ということになりまして、口頭弁論かあるいは当事者双方が立ち会うことができる審尋期日、どちらかを経なければならない、こういう手当てになっております。ここで決定が出ましても、執行文の付与が必要になります。執行文の付与についていろいろ争いになれば民事執行法上の手続で行っていく、あるいは執行に対して異議があれば、やっぱり民事執行法上の異議の訴え等を提出すると、こういう関係でございます。

○江田五月君 確定判決と同一の効力ですが、規範力とかいうものはやっぱりないんだろうと思うんですが、この口頭弁論をやったからといって口頭弁論終結時以前の事情について請求異議で主張があったらどうしますか。

○政府参考人(山崎潮君) これは仲裁判断は、判断をするときまでの資料が、事情資料が対象になりますので、一種のそこで基準、標準時的な考え方がございまして、そこの前にある事情についてはやっぱり遮断をされると、こういう関係だろうと思います。

○江田五月君 そのほか、いろいろとまだまだ聞きたいこと山ほどあるんですが、やはりこの仲裁というものはこの私的自治の世界の紛争解決をなるべく私的な自治の世界の中で行えるようにということで、しかしそれについて一定のモデル的な手続を作ると。モデル的な手続は基本的には私的自治の中だけれども、しかし一定の強行的な部分もあると。例えば、管轄は地裁となっているわけですが、これは当事者が仲裁を、この事案については簡裁でと幾ら言ったってそうはいかないというようなこととか、あるいは手続が公平でなきゃならぬこと、内容が公序良俗に反してはいけないことなど、一定の、幾ら私的自治といっても仲裁法によってその私的自治に対して一定の介入がなされる場合というのはあるんだろうと思いますが、そのようなことも含め仲裁というのがこれから大いに活用されていくようになっていくこと、これは大変必要ないいことだと思っております。

 そこで、この仲裁が国民にどんどん利用できるようにするためには、国民の皆さんの仲裁に対する理解もあるいは信頼も深まっていかなきゃならぬし、また国民が利用しやすい信頼できる仲裁機関というのもいろいろできていかなきゃいけない。仲裁というのは本来アドホック、そのときにだれかを仲裁人で選ぶということではあるけれども、しかし、例えば先ほどの弁護士会の仲裁センターであるとか、あるいは建物に関する仲裁の機関であるとか、いろいろ現にあるので、そういうものがこれから豊富になっていかなきゃいけない。

 そういった仲裁制度の国民に対する周知徹底とか、あるいは仲裁機関の支援であるとか、そういうことはこれは推進本部がこれからずっとやるんですか。推進本部というのはどこかで終わりますよね。終わった後は一体だれがやるんですか。推進本部の副本部長であり、同時に、恐らく仲裁法を所管する法務省の大臣である森山法務大臣にお答えください。

○国務大臣(森山眞弓君) 仲裁法が成立いたしますと、法務省がこれを所管するということになるわけでございます。司法制度改革推進本部の設置期限の経過は、法務省といたしましては、この新しい仲裁制度が裁判外の紛争解決手段の重要な一つとして幅広く活用されますように、同法を所管する立場から、その趣旨、内容について広報周知を図っていきたいというふうに思っております。

○江田五月君 終わります。


2003/07/24

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