2003/05/08

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156 参院・法務委員会

衆議院で修正された心神喪失者等医療観察法案と民主党提出の裁判所法、検察庁法、精神保健福祉法の各改正案の質疑です。私が11時前から90分間、質問。

わが国の精神医療の現状は、長期入院が異常に多いこと、スタッフが非常に不足していること、地域ケアが弱体であること、社会的偏見が根強いことなど、多くの問題を抱えており、早急に抜本的改革が必要です。これが与野党を通じた共通認識だということを、まず確認した上で、池田小学校事件についての小泉首相発言から質問を始め、法律上の細かな問題点まで、幅広く質問。予定した項目の半分を少し過ぎたところで、時間切れ。次回も続けます。


平成十五年五月八日(木曜日)

○江田五月君
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案、内閣で提出をされまして、衆議院で修正をされて、いよいよ参議院の法務委員会での質疑が始まったというところでございます。是非、参議院の方でも、厚生労働委員会の皆さんにもこれは関心を持っていただき、また審議に関与もしていただきたいと思っておりますが、私たち民主党も、この法案がテーマとしている課題については、これは重要な課題であると、こう受け止めております。

 池田小学校の事件が起きて、そしてまあ、そうですね、小泉首相が反応されたと。この反応は、後で更に聞いてまいりますが、ある意味でいえば、小泉首相の、率直な国民のこういう問題に対する気持ちを受けたと、受け止めたと。しかし、一方でいえば、非常に短慮で、日本における精神障害者の皆さん方に大変な心配を与えたということもあったと思います。

 しかし、いずれにしても、犯罪行為を行った者、しかし責任能力の問題で刑事責任を問えない、そういう事態に対する我が国のこれまでの対応が、社会の確信にしっかり支えられたものではなかったということは、やっぱりそれは言えるんだろうというので、これは何かしなきゃいけないということで、私ども民主党の中でも、司法と精神医療の連携に関するプロジェクトチームというのを作りました。今日、今、傍聴席にお見えの朝日俊弘参議院議員が座長で、私が座長代理で、衆議院の方の水島広子議員が事務局長で、平岡秀夫議員が事務局長代理で、私と平岡さんは法律家、朝日さんと水島さんは精神科医という、こういうチームで検討してまいりました。

 私どもは、私どもの考え方を、政府の案に対する別案といいますか、対案というよりは、ちょっと位相が違っていますから対案というわけにいかないかもしれませんが、別の案として、鑑定をしっかりさせると、これは起訴前の手続でもあるいは公判中でも。それからもう一つは、精神保健福祉法による措置入院の制度をしっかりさせるというようなものを出したと。

 私たちはこれが一番今の状況を改善するのにいいと確信をしておりますが、しかしこの問題が大変な事態であるということは、これは分かっておりまして、私自身も我々の案を作るプロセスも経ながら、同時に与党の皆さんの議論、そして政府の中での議論、あるいは政府が出してきた法案、これも最大限皆さんの考えていることを皆さんの立場に立って理解をしようとしながら、どうやったら今の状況を改善できるかということで考えてまいりました。

 そして、衆議院で修正がなされた。修正で良くなった点が率直に言うと私はあると思います。しかし、同時によく分からぬなという点もあると思います。最終的に私どもはこの修正案には賛成をすることはできないと、むしろ全体の法の制度が非常に、木に竹を接いだことになっていて、どうしてもうまく整合性が取れていないと。あちらを立てればこちらが立たず、ここを修正したらあちらがおかしくなりというようなことがあって、これは大変苦労されたなという、御同情しますが、しかし同情している場合じゃないので。しかし、率直に言って、この間のある意味で政治のイニシアチブで一定の合意を作ろうといういろんな努力をしてきたということは、私は、今日は塩崎さん、漆原さんお見えですが、大変御努力は多としたいと、率直にこれはそう思っております。ただ、批判するところは批判をさせていただかなきゃならぬと。

 この立法過程を後ほどずっと検証していくと、結構これは面白い立法過程だったんじゃないかなと、だったと言って、まだ現在進行形ですから過去形で言っちゃいけませんが、という気はするんですけどね。しかし、この批判をするべきところは批判をいたします。
 附則の三条の精神医療等の水準の向上、それから四条の五年後の見直し規定、これは一定の評価ができると率直に思っております。しかし、法案の、先ほど申し上げました木に竹を接ぐという本質部分の重大な問題点は変わっていない。

 私どもは実は、医療の関係でいえば、つい昨日まで大変な過ちを繰り返した経験があるわけで、言うまでもなくハンセン病問題ですよね、らい予防法というものが本当にもうついこの間まで残ってしまった。これによって必要がない人に対して強制的に入院をさせて社会から隔離をするということをやってしまっていたわけで、本法案の成立、施行でまた同じ過ちを繰り返すことになるのではないかという指摘もある。

 これは現実に、今、精神医療の世界で大変な長期入院というものがあります。昨日も私は説明を受けたんですが、若干減ってはきているとはいうものの、平成十一年で見ると十年以上の入院が二八・九%、五年から十年が一四・一%という、精神障害による入院患者の入院期間別分布というものを見ますと。そして、世界の動向の中で日本が一体どういう位置にあるか、こういうものをずっと見ますと、やっぱり日本ではまだまだ精神病棟に入れられたらもうずっと出られないという、そういう、そこまで言うと言い過ぎだとしても、それに近い現実がある。そんな中で、この今回の法案を成立、施行ということになりますと、やはり必要もないのに長期隔離をする、そういう事態が出現をするのではないかという、そういう疑念をぬぐうことができない。

 私たち民主党は、現行の措置入院制度の改善や鑑定の適正化など、繰り返すようですが、これで今の状況を改善をしていこうという、そういう別案を出しておりますが、私は民主党案の提出者、これ衆議院の方じゃなくて参議院の方でもちゃんと提出をいたしました、その提出者ですので、民主党案への質問はできない。佐々木知子委員が先ほど質問し掛けてくださったので、是非とも次回に質問していただきたいと、私どもの考え方も是非聞いていただいて、皆さんの御理解も深めていただきたいと思っておりますが。

 いずれにしても、政府原案と修正案の質問を通じて少しでもあるべき姿に向けて前進できればいいと、こういう気持ちで努力をしたいと思っております。前触れが長くなってしまいましたが。

 まず、修正案提出者に確認をしておきたいんですが、本法案修正後のものが参議院に送付をされてきておりますが、この賛否については意見は分かれると思います。それはお許しください。しかし、共通認識も十分あると思っておりまして、我が国の精神医療の現状が、長期入院が異常に多い、スタッフが非常に不足している、地域のケアが弱体である、あるいは社会的偏見がなお根強い、こういう重大な問題を抱えている、これを早急に抜本的に改革が必要だと、こういう共通認識はこれは共有しているんじゃないかと思いますが、塩崎議員と漆原議員、順次お答えください。

○衆議院議員(塩崎恭久君) 江田先生がやや長めの前置きをされましたので、私も先ほど佐々木先生のときに言えなかったんですが、委員長のお許しをいただきまして、久しぶりにこの参議院法務委員会にお邪魔をさせていただいて一緒に議論をできること、大変うれしく思っております。私も大体、こちらの法務委員会に所属をさせていただいて……

○江田五月君 答弁は余り長めでないように。

○衆議院議員(塩崎恭久君) 先生方の胸をかりたということを覚えております。

 今お話がございましたように、江田先生、今の精神科医療の問題についての認識をということでございます。

 おっしゃるとおりで、私ども自民党の中で、先ほど佐々木議員も言いましたけれども、この問題をスタートする前に実は持永小委員会というのがございまして、ここでもう既に先ほどの司法、触法に、触法精神障害者の精神科医療の問題と扱いについて議論をしておりました。たまたま池田小学校の事件が、言ってみれば後ろから押すような格好でスピードアップはいたしましたけれども、私どももこの問題は、元々根っことして、今お話がありましたように大変在院日数が長い。例えば、私も見て改めてびっくりしましたけれども、平均、精神病床の平均在院日数は日本、これ九六年段階でちょっと古いわけでありますけれども、三百三十日。例えば、デンマークなどは七・一と、一週間。こういう差が三けたと一けたと、こんなふうにあるわけであります。

 したがって、我々自民党の中で議論するときもこのような触法精神障害者の問題だけでいいのかと、やっぱり精神科医療全般をやらなきゃいけないんじゃないかという議論もありました。しかし、取りあえずやっぱりこの触法精神障害者の扱いについては、一弾目のロケットとしていこうじゃないかと。しかし、この二弾目に点火をしないのではいけない。やっぱりこれを確実にやっていくということが私たちのこれからの課題でありましょうし、それなくしては本当の問題解決にはならない。それは民主党の提案者の皆様方の考えと私は変わらないんじゃないかと思っております。

○衆議院議員(漆原良夫君) 短めに答弁させてもらいますが、基本的には先生おっしゃった同じ考えでございます。今この時期、ちょうどこういう議論が盛り上がってきているわけでございますけれども、今回の時期を逃すことなく、今まで余り議論、どちらかというとされてこなかった、こういう問題にきちっと対処をしていきたいというふうに思っております。
 以上です。

○江田五月君 政府の方にも同じ趣旨の御質問をしておきます。この長期入院が異常に多かったりスタッフが非常に不足していたり、あるいは地域のケアが弱体、社会的偏見がなお根強い、こうした今の日本の精神医療を取り巻く状況は非常に悪くて、これを改善をしなきゃならぬ。佐々木委員が先ほど言われた司法精神医療の未熟といいますか、そういう問題もあるでしょう。こういう問題意識、これは法務大臣、それから厚生労働副大臣、共有していただけるんでしょうか、どうでしょうか。

○国務大臣(森山眞弓君) おっしゃるように、この分野については我が国は残念ながら少々後れを取っているというふうな私も認識しております。この機会にその精神医療全体についてレベルアップをし、内容も充実していかなければいけないということを基本的に考えております。

○副大臣(木村義雄君) 我が省といたしましても、せんだって対策本部を設けまして、省を挙げてこの問題に取り組んでいく決意でございます。

○江田五月君 塩崎議員、触法精神障害者の問題と言われて、そこをとにかく突破口にしてそこから二弾目に発火していかせたいと。

 ただ、今回の政府案、修正後のものですが、触法精神障害者と、その言葉はいいか悪いかは別として、これも内容については、それもその言葉が何を意味しているかということはもう皆さんお分かりですからあえて使いますが、触法精神障害者全体を扱ってないんですよね。対象行為という一定の重大触法事案だけしか扱ってない。で、それについて特別の医療措置、医療措置というのかどうか、設けると。しかし、犯した犯罪行為が重大であるということと医療上の必要ということは必ずしもイコールじゃない。その辺りのことがどうにも気になるんですが、それは次でまた聞くこととして。

 修正案の中の附則三条、四条、これは評価するので、そこで提案をしておきます。

 まだ法案、もちろんここで審議をしている最中ですから、私どもはこのまま成立させるわけにいかないと思っておりますが、皆さんはこれで成立させようということですから皆さんのお考えを聞くんですが、五年後の見直し規定というものを置いているんで、この五年間、この法案ができて施行されたら、詳細にひとつどういう事態になっているかというチェックをすると。もし認識が一致したら必要な改正をきっちり加える、あわせて、我が国の精神医療抜本改革にも早急に取り組む、これ私たちの共通課題としたいと。

 塩崎議員、漆原議員に聞くんですが、何をチェックするかというと、今ちょっと申し上げたとおり、触法行為のうち対象行為と対象行為でないものとがあるわけですよ。対象行為については、これは起訴される場合と起訴猶予になる場合があって、起訴される場合に、責任能力ないとか、あるいは限定責任能力だとかいうことで判決が出る。その後に今度、これを受けて本法案による審判の申立てがあって、入院命令、通院命令ということになる。これは対象行為の場合にはすべてその道をたどると。それから、対象行為じゃない場合には、自傷他害のおそれがあれば措置入院になる、自傷他害のおそれがなければ何にもない、通常の医療の世界、完全に通常の医療の世界ということになりますよね。
 この法案による制度ができて、これが施行されていって、一つは対象行為について一体どのような経過をたどっていったか、それから対象行為でないものについて、今の措置入院あるいは措置入院もしない、そういうものが一体どういうふうに変わったか、あるいは変わらなかったか、改善されたかされないかというようなことを含め、詳細にチェックをして、認識が一致したらまた一緒に改革に取り組むと、そういう提案を、これは塩崎さん、漆原さんにここでしておきたいと思いますが、いかがですか。

○衆議院議員(塩崎恭久君) 江田先生おっしゃるように、五年後の見直しの中で吟味すべき点はたくさんあると思っております。

 最大の目的、この法律の目的は社会復帰を図っていくということが最大の目的であって、御懸念の点は、例えば社会防衛目的のような形で入院を続けられるんじゃないかとか、そういうことが一番の問題でもあり、また十分な医療が行われないがゆえにそのままずるずるいってしまうというようなことでありますから、今、先生がおっしゃったような問題点を踏まえながら、様々な点、いわゆるこの社会的な入院も含めて、それから入院から今度は通院になっても社会復帰ができない、その体制もできてないというようなことでは今回の作った法律は意味がないわけですから、そういうところを含め、今、先生の御指摘の点は見直しを一緒にやっていきたいなというふうに思っております。

○衆議院議員(漆原良夫君) 今回の修正の一番大きな部分は、社会復帰の観点からどうあるべきかという、ここを中心に修正さしてもらったわけなんですが、我々としても、そのような観点から、政府の対応を見て、場合によっては、必要があれば適切な措置を、対応をしていきたいというふうに考えております。

○江田五月君 今までのところはどちらかというと前置きでございまして、その部分で前向きな答弁をいただいたと思っております。つまり、日本の精神医療の世界が非常に水準が低い。これは精神医療の世界というよりも精神医療を取り巻く社会全体の理解も含めて水準が低いので、そういうものを本当に必死になって底上げをしなきゃならぬと。これは与党だ野党だということではないので一緒に私ども努力をしていきたいと、そういう、私どももそういう気持ちでいるということを、だからといって法案に賛成ということじゃないんですよ、これは批判はきっちりさせていただくけれども、そういう気持ちでいるということを申し上げておきたいと思います。

 余談ですが、昨日ちょっと厚生労働省の人に聞いたら、例えばイタリアのトリエステの事案というのを、私ども前から耳にはしていたんですが、やっぱり地域に一杯スタッフがいて、またイタリアという国で、あそこはとりわけ精神医療にもう精一杯力を込めてやったと、これによって単科の精神医療施設は入院施設、入院の病床がないというところまで変わってきているというんですね。総合病院の中には若干あるようですけれども、やればそこまでできると。もっとも、イタリア全土がそうなっているというわけじゃないようですけれども。しかし、これは北欧の国々だっていろんな経験があるわけですし、我が国が今の状態でいいわけじゃないということを冒頭確認をさせていただきます。

 さて、更にまだ前段階、前触れのいろんな質問をしなきゃいけない。本法案提出の経緯についてこれは触れておかなきゃならぬ。

 これは法務大臣に伺いますが、まず本法案提出の大きなきっかけとなったのが一昨年六月の大阪・池田小学校の児童殺傷事件であったと。大変悲惨な事件ですね。本当に言葉もないという事件でございます。まだ恐らくいまだにいろんなストレスも残っているだろうし、社会的にもその地域の皆さんのいろんな思いもまだまだ残っているんじゃないかと思って心が痛みます。その事件直後に、ここですよね、問題は。小泉首相は、容疑者を精神障害者と決め付けて刑法の見直しを検討するように山崎幹事長に指示をされたと。

 この法案の提出のきっかけとなったのが池田小学校事件。そして、小泉首相は刑法の見直しを山崎幹事長に指示をされたと。この二つは、これ間違いありませんよね、法務大臣。

○国務大臣(森山眞弓君) お尋ねの件につきましては、昨年十二月十一日の参議院本会議における本法案質疑の際にもお答えいたしましたところでございますが、心神喪失等の状態で重大な他害行為が行われる事案につきましては、被害者に深刻な被害が生ずるだけではなく、精神障害を有する人がその病状のために加害者となるという点でも極めて不幸なことでございます。そこで、精神障害に起因する事件の被害者を可能な限り減らして、また、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が精神障害に起因するこのような不幸な事態を繰り返さないようにするための対策が必要であるということから、御指摘の総理の御発言もそのような趣旨であったものと理解いたしております。

 このような総理の御発言や、この事件をきっかけとする国民各層からの御意見、与党プロジェクトチームによる調査検討結果等も踏まえまして、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対する適切な措置を確保するためにこの法案を提出させていただいたものでございます。

○江田五月君 昨年十二月には、私が本会議で質問させていただいて答弁はいただきましたが、本会議ですから、質問もしっ放し、答弁も答弁しっ放しという、それではどうもお互いに隔靴掻痒ということだろうと思うんですが、今日はもう少しやり取りで聞いてみたいと思うんですが。

 今のお答えは非常に言葉を選んでおられると思うんですけれども、小泉首相の発言は、精神障害を負っている者が犯罪行為に及んだ、その対応が十分なものでないのでこれを見直すようにという趣旨であったというふうに言われた。ということは、小泉首相のその対応、話が、これが本法案提出のきっかけになったと、そのことまでは、これはお認めになるんですか。

○国務大臣(森山眞弓君) いや、この問題はかねて大変重要な課題だというふうに考えておりまして、実はその一年ぐらい前から、特に具体的には厚生労働省の担当者と法務省の関係の者とが時々御相談をしているというような状況でございました。できるだけ早く方向を見いだして適切な、必要なら法改正も、新しい法律も作ってということを目標に勉強していたわけでございますが、その間に池田小学校事件が起こったわけでございまして、それが非常に世間の注目を浴びましたものですから、多くの方がいろんな意見をお寄せいただきまして、総理ももちろんそのような事件を踏まえて感想を述べられたことは確かでございますけれども、この池田小学校事件があったからそれが直接の動機であるというふうには言えないかと思います、非常に重大なきっかけではありましたが。

○江田五月君 池田小学校事件ともう一つは小泉首相の指示と二つあるんですが、今、池田小学校の事件は重大な出来事であったがきっかけではないとおっしゃった。ううん、ううんと、こうちょっと首をひねるところですが、じゃ、小泉首相の指示はどうなんですか。質問は分かりますか。

○国務大臣(森山眞弓君) 小泉首相の発言といたしましては、その当日あるいは翌日でしょうか、NHKで報道された記録がございますが、これには、非常に痛ましい事件であったと、本当にかわいい小学校一年生、二年生の子供たちが大変ひどい目に遭ってさぞ恐ろしかったことであろうと、親御さんの気持ちを思うと何とも言えない痛ましい事件だということをまずおっしゃいまして、そして精神的に問題がある人の医療法と犯罪を犯した刑法、なかなか難しい問題がありますねということを言われております。そして、今、山崎幹事長にも今日、電話で相談したんだけれども、政府と党が両方ともこういう問題に対して、法的に不備なところがあると同時に、医療の点においても刑法の点においてもまだまだ今後対応しなければならない問題が出ているということを話したということを言っておられまして、専門家の意見も十分に聞いて、今後どうしたらいいかということを研究していかなければいけないというような発言であったようでございます。

○江田五月君 小泉首相の発言は、したがって池田小学校は痛ましい事件であると。それはそうですよね。しかし、すぐにそれについて精神障害の問題ということにして、そして更に続いて、その法律上、医療上、そして刑法という言葉が出てくるわけですよね。そこが問題だと。

 いずれにしても、きっかけかきっかけじゃないかというのは、ある意味で、どういうか、言葉の問題みたいなところがありますからそれ以上いろいろ言ってみても始まりませんが、そういう指示があって、これがきっかけになってこの法案提出ということになったということだと思いますが、森山法務大臣御自身は、小泉首相からこの件で何か指示はあったんですか。

○国務大臣(森山眞弓君) 特に私に向かって直接そのような御指示はございませんでした。

○江田五月君 これは、山崎幹事長に指示をしたということなんで、修正案提出者に聞いても分からないですかね。──分からないね。じゃ、いいです。

 この小泉首相の指示がいかにいい加減で軽率な発言であったかというのは、これは後に証明されたわけで、まず第一に刑法の見直し、これは全くピント外れで、だれも一顧だにしていないんですが。

 確認だけしておきたいんですが、刑法の見直しということになると、ある意味では国民の中に、刑法で犯罪を犯した者として刑事罰を加えることによって責任を取っていただこうという場合には責任能力が要るんだと、その責任能力というのは是非善悪の分別能力で、精神喪失の場合はこれがない、耗弱の場合は限定的だという、そういう責任能力論というものをもうやめてしまえという、そういう声もなくはないんですが、これはあれでしょう、そういうような刑法の見直しというのは別に、全く考える余地はないでしょう。

 法務大臣、専門的みたいに聞こえるけれども、そうじゃないんで、人に刑罰を加えるときにはその人に、その人を非難できると、つまりいいか悪いかが判断できないような精神状態の人には、それはやったことが悪くても刑罰というわけにはいかないよという、そういう刑法理論ですが、これを見直そうなんということはありませんよね、法務大臣。

○国務大臣(森山眞弓君) 御指摘の総理の御発言も具体的に刑法の見直しを指示されたというものではございませんで、一般論として、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が精神障害に起因するこのような不幸な事態を繰り返さないようにするための対策が必要であるという御趣旨であったと思います。

 そして、この法律案は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきまして、国の責任において必要な医療を統一的に確保し、不幸な事態を繰り返さないようにすることによってその社会復帰を図ることが肝要であるとの考えに基づきまして、適切な処遇を決定するための審判手続等を定めるとともに、その医療を確保するための機関、制度等を整備するものでございまして、このように対象者の早期の社会復帰を図るための適切な体制を整備するということは、長期的にはむしろ差別とか偏見をなくしていくのに役に立つのではないかというふうに思っております。

○江田五月君 すれ違い答弁だったと思うんですけれども、国民のある意味で素人の直観的判断というものも非常に重要で、それをそんなものは素人の言いぐさだというふうにけっ飛ばしてしまうわけにもいかない。しかし、やっぱりある種の専門性というのが重要だということもあって、刑法理論というのは長い長い人類の犯罪と刑罰についてのいろんな歴史的経験を踏まえて今日にたどり着いているわけで、その中で、構成要件該当、違法、有責というこの刑法理論の構築というものはでき上がってきていて、有責なんということはもうどうでもよろしいんだと、現に悪いことをしているんだからすぐ刑罰だという、そういう話じゃないという、そこのところは、やはりもちはもち屋といいますかね、余り床屋談義で軽々しく扱っていただくことはできないものだということを確認をしておきたいと思います。

 さらに、この事件の容疑者、現在、被告人ですが、捜査中の精神鑑定の結果、犯行時には心神喪失でも心神耗弱でもない、責任能力があるという結論が得られて、通常の公判請求がなされて現在公判中で、さらにまた心神喪失者の再犯のケースでもないわけですよね、この池田小学校の事件というのは。容疑者、被告人は、かつて精神障害者を装って検察官を言わばだまして罪を免れたと言われている。とすれば、この池田小学校の事件から、これは悲惨だ、悲惨だというところから精神医療、精神障害というところへもってきてずっと論理を展開をされた小泉首相の発言というのは、全くピント外れ、軽率と言わざるを得ないんです。そうじゃなくて、今のように、精神障害者を装って罪を免れた、そういうことがきっかけになっていろんなことをやったとすれば、民主党案にある起訴前の精神鑑定の適正化こそが適切な対応策と、この池田小学校事件についてはですね、となると思うんですが。

 要するに、池田小学校児童殺傷事件の容疑者、被告人は本法案の対象者ではないと。言い換えれば、本法案は池田小学校の児童殺傷事件の対策にはなっていない。これは法務大臣、それでよろしいんですか。

○国務大臣(森山眞弓君) 池田小学校事件、御指摘の事件でございますが、これは現在、責任能力が認められるということで起訴されたと承知しております。

 この事件につきましては、現在、公判係属中でございますので、この点を含めて最終的には裁判所によって判断されるべきものであるというふうに考えますので、お尋ねの点について法務大臣として答弁することは適当ではないと考えます。

○江田五月君 裁判所の判断と言うけれども、法務大臣は検察官の起訴というものを信頼はしておられるんじゃないんですかね。個々の事件について検察官を法務大臣は指揮できない、検事総長を通じてだけ指揮できるということではあるけれども、しかし検事総長が一番トップに立って全体の検察官を指揮監督してやっている、そのことについては信頼をしておられるんだと思うんですが。

 池田小学校事件の起きる前に本法案による制度ができていたら、これは池田小学校事件は何か対策、どういうふうに、もし池田小学校事件が、できる前にこの法案が、この制度ができていたら、どういうふうにこの制度で池田小学校事件を扱えるんですか。

○委員長(魚住裕一郎君) どなたが答弁になりますか。

○政府参考人(樋渡利秋君) この法案が当時できていたとしましても、この事件が精神障害により心神喪失で無罪とならない以上はこの法案が適用される場面は出てこないということだろうと思います。

○江田五月君 まあいいです。とにかく池田小学校事件は全然違うんですよ。

 更に重要なのは、この小泉首相のいい加減で軽率な発言、これが精神障害者の皆さんに対する社会的偏見を非常に助長したこと、やっぱり精神障害者というのは危ないという、そういう。そうじゃないんです。もっともっと精神障害、別に、人間いろんな病気を抱えているわけで、精神障害の方もおられれば、いろんな障害を持っている人は一杯いるし、病気の場合もあるし、病気でない障害の場合もあるし、いろいろいる。それぞれ皆社会を構成している一人一人であって、そういう皆さんがそれぞれに、社会の中で自分の隣にはいろんな人がいるんだという、そういう状況があることが本当に健全な社会だと思うんですけれども、そういう目から見ると、小泉首相のこのいい加減な発言で精神障害者に対する社会的偏見を助長したと。

 まさか小泉首相は今でもこの件について偏見を持ち続けているんではないんでしょうね。小泉首相も、本法案と池田小学校事件は直接結び付くものではないと、これは今はちゃんと理解をされているんでしょうね。ちょっと法務大臣に小泉首相の理解を聞いても分からぬかもしれませんが、そんなお話されたことないですか。どうでしょう。

○国務大臣(森山眞弓君) 先ほどもちょっと申し上げましたとおり、元々、総理は、特定の事件を対象として、特にそれの関係で発言されたものではないと私は理解しております。

 池田小学校事件のあったことは大きなショックであったことは確かでございますけれども、これをきっかけにいたしまして一般論として、精神障害に起因する事件の被害者を可能な限り減らして、そして心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が精神障害に起因する不幸な事態を繰り返さないように、そのための対策が必要であるという趣旨を述べられたのだというふうに私は理解しております。

○江田五月君 森山法務大臣は大変お優しいですから小泉首相の発言をそういうふうにお受け取りになるのかもしれないけれども、社会はそうは受け取っていない。小泉首相は、やはり精神障害者は危ないという、そういう偏見を持っているというふうに受け取っていますよ。私はやっぱりこれは、小泉首相はこの軽率な発言を撤回して謝罪をすべきだと思いますよ。まあここでそのやり取りをしてもしようがないので。

 修正案の内容についてちょっと塩崎議員あるいは漆原議員にお尋ねをしますが、入院等の決定について、いわゆる再犯のおそれに代わって、なかなか長い言い方、対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療行為を受けさせる必要があると認める場合ですか、一息ではとても読めない、こういう要件に修正されたわけですが、これは、これによって政府原案と比べて、より限定されて範囲が狭くなったと衆議院で答弁されているんですが、これはそうなんですか。

○衆議院議員(塩崎恭久君) 政府案のこの要件の議論の中で、例えば入院等の決定を受けた者に対して言わば危険人物としてのレッテルを張ってしまうんではないかとか、あるいは円滑な社会復帰を妨げるとなる現実的かつ具体的なおそれがあると認められる者のみならず、漠然とした、先ほど申し上げたように、危険性があるという人までがどうも入ってしまうんじゃないかとか、それから特定の具体的な犯罪行為とか、それが行われる時期の予測といった不可能な予測を強いるものではないかという、様々なことがあったわけですね、批判が。

 今お話があったように、範囲の話でありますから、今の、申し上げたように、漠としたものまで含まれるんじゃないかということの批判も含めて、ここのところをもう少し厳密に書くことによって、厳密というか限定的に要件を表現することによって、その本人の精神障害を改善するために医療の必要性が中心的な要件であるということを明確にすることによって、その範囲を狭め、なおかつ、このような医療の必要性の内容を限定して、精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰できるよう配慮することが必要と認められる者だけが制度の対象だということで、例えば家族でちゃんと見れる人がいて、通院もできます、服薬もできます、あるいは何らかの事態が、病状が悪くなったときにもきちっとした対応はできますという人たちの場合には必ずしもこの対象にはならないことがあり得るということで、限定的にしていったということでございます。

○江田五月君 修正案の提出者、漆原議員も来られていますが、これはお二人それぞれ聞かなくてもいいですよね。同じでいいですよね。

○衆議院議員(漆原良夫君) はい。

○江田五月君 まず、「これに伴って」の「これ」は、これは何ですか、「これ」っていうのは。

○衆議院議員(塩崎恭久君) これは精神障害が改善をするということであります。

○江田五月君 そうですよね。精神障害に伴って同様の行為を行う、そういうことがなく社会に復帰するというんじゃなくて、改善に伴って同様の行為を行うことなく復帰する、それを促進すると。ということで、それはいいんですよね。

 そうすると、原案は、再び対象行為を行うおそれがというのを問題にして、再び対象行為と、再び行うおそれがある行為は対象行為に限定をされている。ところが修正案は、同様の行為と。同様の行為というのは、これは何であるかと、対象行為じゃないのか対象行為なのか。ここはどうなんですか。

○衆議院議員(塩崎恭久君) これはもう対象行為で結構だと思います。

○江田五月君 ここが答弁、衆議院でちょっとはっきりしていなかったんじゃないかという気がするんですが、同様というのは対象行為、類似行為で、もっと幅が広がるんではないかと。原案の場合は対象行為とかなり限定されているけれども、広がるんではないかという、そういうことが指摘をされていましたが、確認をしておきます。これは、同様の行為というのは対象行為だと。もう一度、よろしいですね。

○衆議院議員(塩崎恭久君) 結構でございます。

○江田五月君 将来の予測ということが問題になりまして、おそれというんだから将来のことで、将来のことは、いやそれは分かるんだとか分からぬのだとかいろいろありましたが、将来のことじゃなくて現在の状況についてということに要件を書き直したんだという、そういう趣旨でよろしいんですか、そこは。

○衆議院議員(塩崎恭久君) 基本的にはそうでございますが、言わば漠然とした危険性が感じられるような場合であっても、例えば対象行為を行った際と同様の症状が発生、再発する具体的、現実的な可能性もないような場合には、やっぱりこの社会復帰、それが社会復帰の妨げとなることはないので、この要件には当たらないということでこの制度の対象にはならないということでありますけれども、しかしそうはいいながら、このような症状が再発する可能性があるような場合にはやっぱり同様の行為を行う具体的、現実的な可能性が認められるということでありますので、そのような行為が行われることは本人の社会復帰の結局妨げになってしまうということでありますので、その社会復帰を促すという、促進するというためにはこの法律による手厚い医療の対象とすべきではないかというふうに考えられるということではないかと思います。

○江田五月君 何かこれ、禅問答みたいになっちゃうんですけれどもね。おそれというと、これはやっぱり将来そうしたことが予測されるという話で、何かおそれとか予測とか別のところで議論ありましたけれども、その話じゃなくて、おそれはあくまで将来についての見通し、予測。しかし、修正したことによって、現在、今の状態からすると社会復帰を促していくためには一定の医療行為が必要だという状態が現在存在しているということを書いたんだというように、したがって現在の状態がそういう医療行為がもう必要ないということなら、それは別にこの要件には当たらないんで、だけれども、あくまで現在の状態についての判断なんだというように言いたいんじゃないかなと僕は善意に解釈したんですが、そうじゃないんですか。

○衆議院議員(塩崎恭久君) 措置の入院の際の自傷他害の判断というのがございます。このときももちろん現在、今をもちろん見ているわけでありますが、じゃ全然先を見ないのかといえば、またそれは、そんなことは多分なくて、精神科の先生が現在を見てそのおそれがあるかどうかということを判断されているわけですが、今回、前の場合には、言わば再び対象行為を行うおそれがあるというのが言ってみれば要件になってしまっているわけですが、今回我々が直すのは、やっぱり社会復帰をするために、この制度に基づく医療をきちっと受けることが社会復帰につながるのかどうかということを判断するということにおいて今の病状を判断をするということで、それが先のことを含めて先ほどの措置の判断と同じような形でやっぱり行われるというのは、多分おっしゃっていることは余り違っていない判断じゃないかなと思うんですけれどもね。

○江田五月君 いや、よく分からぬですが、措置入院については自傷他害のおそれで、これはあくまでおそれですから、やはり将来何かが起こることがどれほど予見できるかという話であって、しかし今回この修正によって、そういう将来を予見してどうという、どうするという話じゃなくて、現在の状態を見るんだと、こういうことなんですが、しかし、さはさりながら、やっぱりそうあれこれ言ってみたって、措置入院の場合の自傷他害のおそれの、いわゆるおそれというそういう将来の予見、これが本法案による制度の場合にも、言葉をいろいろ尽くしてみても、やっぱりそういう将来の予想、予測という要素があるんだということにするんですか、そうしないんですか。

○衆議院議員(塩崎恭久君) 具体的、現実的にやっぱり可能性が認められるということであれば、やっぱりこの医療の、今回のこの制度による医療を適用しようという判断をするということでございます。

○江田五月君 可能性が認められればこの医療が必要だという判断をすると。その可能性ですよね。それは、可能性というのはやっぱり将来の予測。可能性は、そうでしょうね、将来の予測でしょうね。その予測は一体本当にできるのかというのが正に議論の焦点だったわけですよね。これはまたちょっと、僕も少し頭を整理してもう一遍、今のお答えをよくもう一遍読み返してみてきっちり議論をしてみたいと思いますが。

 どうもやはり、修正案によってそこが何か修正をされたように言いながら、実はやっぱりされていないんじゃないかというような気もするんですね。重大でない他害行為を行った患者の措置入院については自傷他害のおそれというものが残る。しかし、重大な他害行為を行った患者については、再犯のおそれはもうこれで要件から消えて医療上の必要ということが要件となると。つまり、重大な他害行為を行った患者の入院要件は措置入院よりも医療保護入院の要件により近くなるわけですね。これは、重大であったら医療保護入院に近い、重大でない他害行為だったら措置入院という、医療保護よりもむしろおそれに焦点を合わせて決める。これ整合性あるんですかね、矛盾じゃないんですかね。いかがですか。

○衆議院議員(塩崎恭久君) 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が、精神障害を有していることに加えて重大な他害行為を犯したという、言ってみれば二重のハンディキャップを背負っているわけでありまして、そしてこのような者が有する精神障害というのは一般的には手厚い専門的な医療の必要性が高いと考えられ、そしてまた仮にそのような精神障害改善されないままで、再びそのために同様の行為が行われることになれば本人の社会復帰の重大な障害となるということから、やはりこのような医療を確保することが必要不可欠だというのが今回の考えであるわけであります。

 そこで、そのような者について国の責任において手厚い専門的な医療を今回やろうと、また退院後の継続的な医療を確保するという仕組みを整備するということでありますが、修正案で、入院、そういう退院後の継続的な医療を確保するための仕組みを整備するということ等によって円滑な社会復帰を促進することが特に必要であると考えることから、このような者を本制度による処遇の対象とすることとして、このような必要性が認められる者について、その精神障害の特性に応じて社会復帰を促進するための必要な医療を行うこととしたということでありまして、やや禅問答的なところで恐縮でありますが。

○江田五月君 いや、分からぬですね、全然。いや、何か言葉が一杯右の耳から入ってきましたけれども、左の耳に全部抜けて後に何も残っていない、何言われたのか。

 つまり、重大な他害行為の場合にはもう医療の必要だと、重大でない他害行為は再犯のおそれを防止するんだというのは整合性がないんじゃないですかということを言っているわけです。今日ここで、それじゃ答弁にならないといって、私も、これちょっと理事さん、委員長に掛け合って速記止めてとやってほしいとも思うけれども、まあそれやるよりはまだ何回かずっと質疑繰り返した方がいいでしょうからそこまでやりませんけれども、本当にそういう事態だと思いますよ。答弁はっきり分からない──何か答えます。

○衆議院議員(塩崎恭久君) 失礼しました。ちょっと質問を取り違えておりまして、今の自傷他害のおそれが今の政府案、元の政府案で必要で、今回、重大な触法行為の場合には再犯のおそれが不要となっているのは矛盾じゃないかという御質問ですね。

 精神保健福祉法において、その者が精神障害者であることに加えて自傷他害のおそれがあると認められることが措置入院の要件と今なっているわけでありますけれども、これは、単に精神障害者であるというだけで直ちに強制的に入院をさせることは適当でなくて、やっぱり自傷他害のおそれがあるということに、これが、この場合に限って行うという趣旨だと思うんです。

 修正案においては、精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認められる場合であることを要件としていますけれども、これはすべての精神障害者を対象とするわけではなくて、精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく、いつもの長い文章で恐縮ですが、社会に復帰できるように配慮することが必要な者に対象を限定するためのものであって、このような意味で、言ってみれば両者はその趣旨を共通にしておりまして、両者の間に矛盾があるというのは必ずしも当たらないんではないのかなというふうに思っております。

○江田五月君 必ずしも当たらないのではないのかなとおっしゃるけれども、私はやっぱり当たるのではないのかなと思うんですが。

 そうじゃなくて、これやっぱり木に竹接いでいるんですよ。いろんな制度がごちゃ混ぜになっているんです。そうじゃなくて、やはり医療の必要と社会復帰の促進というその二つの目的できっちり統一して全体を作り直すという、私たち民主党案というのはそういう思いで精神保健福祉法を改正して措置入院制度の改善を図るということにしたわけで、この方がいいと思いますが、どうです、率直に言ってその方がいいんじゃないですか。

○衆議院議員(塩崎恭久君) 民主党の案を拝見いたしまして、改めてこの間、朝日先生から説明がございましたけれども、魅力的なものがあって、しかし両者が必ずしも相矛盾しているものではなくて、本当は言ってみれば合体をしてもいいのかなというものがたくさんお互いにあるんじゃないかなというふうに私は思っております。

○江田五月君 私は両者は矛盾していると思うんですが、合体論もいいですけれども。まあ、次行きます。

 これ通告にないんでちょっと恐縮なんですが、これまで議論になっていることですからお分かりと思うんですが、裁判官と精神保健審判員の合議制についてですが、十三条で、裁判官は評議において法律に関する学識経験に基づき意見を述べる、精神保健審判員は評議において精神障害者の医療に関する学識経験に基づきその意見を述べる、こう修正をされたこの趣旨、これは、ちょっと簡単に説明してください。

○衆議院議員(塩崎恭久君) 元々、先ほど佐々木議員からもお話があったように、自民党の中で、こういう新たな合議体というのができてきて、一体それは司法なのか、裁判なのか、随分議論をいたしました。

 結局、当初の政府案のような形で出てきたわけでありますが、やっぱり引き続きその役割についての認識が定着しなくて、皆さん非常に一体何だということでありましたので、基本的にまず医療、医学の観点から審判員の方が判断をし、なおかつ裁判官は、医療の意見を聞きながらではありますけれども、その他の生活環境であるとかあるいは人権の問題であるとか、そういった形で入院を強制するという形になりますので、そういった知見を明確にするということで、役割をはっきりした上で合議体の中で審判をしていくということを明確化したわけであります。

○江田五月君 これですね、ここのところの議論を、私は、修正前のいろんな議論の中に、先ほど申し上げた民主党の方のプロジェクトチームで参加をしていて、直接皆さんと協議をした場にはいなかったんですが、ここは書き分けるのは難しいだろうと思って、これは無理じゃないかと言っておったら、何かこういう文章が出てきたんでびっくりしたんですけれどもね。びっくりしたんですが、法律に関する学識経験に基づく意見と医療に関する学識経験に基づく意見というふうに分けますが、その間におっこっちゃうところはないんですか。質問がよく分からなければ……。

○衆議院議員(塩崎恭久君) おっこっちゃうというのはどういう意味でしょうか。

○江田五月君 つまり、法律に基づく、法律に関する学識経験に基づく意見にもなかなか入りにくいし、医療に関する学識経験に基づく意見にもなかなか入りにくいという、そういう意見はないんですかね。

 じゃ、逆の聞き方、もうちょっと答えやすいように聞きましょう。重なる部分というのはありませんか。法律に基づく学識経験、法律に関する学識経験に基づく意見とも言えるが、医療に関する学識経験に基づく意見とも言えるという、そういう重なる部分というのはないですか。

○衆議院議員(漆原良夫君) この役割分担は、裁判官はこの判断しかやっちゃいかぬよ、それからお医者さんはこの判断しかやっちゃいかぬよという趣旨じゃなくて、要するに前の政府案でしたら、だれが何、どんな判断をするか分からぬじゃないかという強い批判がありました。したがって、主に裁判官は法律の判断を中心に行う、お医者さんは医学の判断を中心に行う、重なり合う部分は当然私は重なり合う部分の判断、両方とも行ってよろしいんじゃないかというふうに考えております。

○江田五月君 例えば生活環境について、こういう環境があるからこういう処遇が必要だという、そういう意見を言うときに、生活環境を前提にする判断というのは法律の素養に基づく意見なのか、医療の素養に基づく意見なのか、重なるんだろうと。

 それは、やっぱり人間関係、どういうふうに、その対象者を取り巻く家庭関係にしても社会関係にしても、どうなっているかというのは、ある意味で精神医療の場合には大切なやっぱり医療上の判断の基にもなる。しかし同時に、処遇をどうするかという話になれば、やっぱりこれは法律上の判断にもなる。人権なんかだってそういう部分もありますよね。だから、これは今、正に漆原さんおっしゃるように、主としてという意味なら分かるので、非常に難しい書き分けをされたなと御同情申し上げるんですが、本当にしかし、しかしそれで本当にいいのかという問題はやっぱり残るんじゃないかという気がいたしますよ。

 つまり、裁判官も評議において、医療の問題ですからといって、そこは医療のことですからあなた黙ってくださいというわけにもやっぱりいかぬだろう。逆に、精神保健審判員が何か言う場合に、裁判官の方が、そこは法律に基づく学識経験がなきゃいけないんですから黙っていてくださいというわけにもいかぬだろうと思うんですが、それはどうですか。

○衆議院議員(漆原良夫君) 佐々木知子先生の話にもありましたが、裁判官というのはなかなか医学的な知識がないわけでありますから、しかし今回の合議においては、審判においては法律的な素養のほかに医学的な見解も必要なわけで、だからこそお医者さんと裁判官が一緒にやるということにしたわけでございまして、そこのところは、裁判官はこれだけやる、これだけのことしかやっちゃいかぬ、お医者さんはこれだけのことしかやっちゃいかぬという仕切り分けじゃなくて、先ほど申しました、主に裁判官は法的な判断、お医者さんは医学的な判断、それをお互いが総合的に協議、検討していって一つの結論を出していく。

 お医者さんの判断であっても裁判所から見たら矛盾があるのか、例えば鑑定の結果について矛盾があるのかないかという観点の私は判断はできると思うんですね。そういう判断は、裁判官が疑問を投げ掛けてお医者さんに聞くこともできる。そういう協議の中で一つのものができ上がっていくんじゃないかというふうに考えております。

○江田五月君 ここをもう少しぎりぎり詰めていくと、裁判官が判断をする事項について、非常にややこしい場合にこれを合議にしますよね。この裁判官と精神保健審判員との合議じゃない裁判官の判断する部分について合議体でやるという手続を作っていますよね。その合議体の判断というのはどういう、合議体が判断する対象というのは一体何であるのかと。

 ここで言うところの法律に関する学識経験に基づく意見、この部分が今の特別に作る合議体の判断の対象になるんですか。それはそうでもないんですか。別のことなんですか。四十一条の合議です。

○政府参考人(樋渡利秋君) 法案第四十一条に規定する三名の職業裁判官により構成される合議体は、不起訴処分をされた対象者について対象行為を行ったと認められるか否かを審理することとしておりまして、これとは関係のない対象者の生活環境について判断することはないということでございます。

 対象行為の存否について必要があると認めるときに三名の職業裁判官により構成される合議体において審理を行うこととした理由は、本制度の対象行為には殺人、放火等、刑事事件であれば法定合議事件に当たるものも含まれている上、本制度の対象となる事件の中には事実認定に困難が伴うものもあり得ないわけではなく、また本制度による処遇の要否等の決定過程においても対象行為の存否について適正な事実認定が行われることは、当該対象者に本制度による適切な処遇を付与する前提としてはもとより、本制度に対する国民の信頼を維持する上でも重要であると考えるからでございます。

 他方、対象者の生活環境につきましては、本制度による処遇の要否、内容を決定するに当たっての重要な考慮要素であるところ、本制度による処遇の要否等を決定する権限を有するとは、裁判官と医師である精神保健審判員により構成される合議体でありますことから、この合議体が対象者の生活環境についても考慮することとしているものでございます。

○江田五月君 どうも法律家というのは、こういう議論になったら小さく小さく、隅っこ隅っこへ入る習癖があって、これ、もう法律おたくで、私は余り、もうそろそろそんなことはやめたいと思うんですが、しかしやっぱりちょっと聞いておきたくなっちゃうんですね、ついつい。

 今の四十一条の一項で、合議を行うのは前条一項一号の事由に該当するか否かであるから、したがって前条一項一号というのは対象行為を行ったと認められない場合に当たるかどうかという合議だということで、先ほどの法律に関する学識経験に基づく意見の場合とは違う話だということなんですが、しかしこの対象行為を行ったと認められるかどうかというのは構成要件該当だけですか。

 もう一遍質問する。

 対象行為を行ったと認められるには、構成要件の該当もあるけれども、違法も有責もあって、有責の場合の精神障害、つまり心神喪失、心神耗弱というのは除くとしても、例えばその事案が誤想防衛で行われていたとか、あるいは、いやいやあれはやっぱり正当行為だったとか、いろいろあるじゃないですか。そういうものについては、これは合議にできないんですか。

○政府参考人(樋渡利秋君) それは、犯罪行為があったかどうかということを認定する合議でございますから、当然その合議の中で意見は述べることになるだろうと思います。

○江田五月君 そうやっていくとだんだん面白い議論になってくるんですよ。対象行為を行ったということが要件の一つにあるわけですよね。これはもう当然あるわけで、ところが対象行為を行ったと言葉では簡単に言えるけれども、実際、その具体的事案になってくると、もう千差万別、ありとあらゆる思いも付かない、事実は小説より奇なりというものが出てきまして、まあやめておきますかね。なかなかここは、さっきの法律に関する学識経験に基づく意見と医療に関する学識経験に基づく意見と二つにぱっと分けていることと、今の対象行為については合議でやれるんだよという辺りの整合性というのをぎりぎり詰めていくとなかなか大変だということだけ指摘をしておきます。

 まだあれですよね、何回もこれ、質疑をやるんですから、今日、これだけペーパーあるんですけれども、途中でやめますので。

 この裁判官と精神保健審判員の合議体の評決は、十四条で、両者の意見の一致したところによると。一致しない場合はどうするか。これは面白いんですよね。塩崎議員御自身が昨年六月、衆議院の法務委員会で質問されたんですよね。そして、刑事局長が答弁で、意見不一致の場合は一致した範囲で決定すると。大きいところへいくんじゃなくて小さいところで、つまり通院と入院と意見が分かれれば通院という、そういうことなんですが。

 これも、一致した範囲と言うけれども、どうなんでしょう、これは私、医学の専門でないので、それこそ朝日さん辺りに聞かなきゃ分からぬのですけれども、入院適用症状と通院適用症状は、片一方は大きくて片一方は小さくて、この範囲で一致しているなんて、そういう話なんだろうかと。やっぱり、これは入院だとかこれは通院だとかというのはあるんじゃないだろうか。

 そうでしょう。だって、入院だったらいろんな複雑な人間関係の中に置かれないわけですから、ある意味では医療行為としては簡単と言うと変だけれども、通院の場合は途中で電車にも乗らなきゃならぬとかいろんな人間関係の中に置かれるわけですから、それは医療上の必要というのはより高度になるというような見方だってあるんじゃないかと。何か、広い、狭いで一致した範囲なんて、そんな何か、どういうか、素人判断みたいなことでいいのかという気がするんですが、これはだれが答えるんですかね。法務省ですかね。刑事局長。

○政府参考人(樋渡利秋君) 確かに、医療上、入院させるべきか通院させるべきか、その治療の方法は違ってくることがあるのかもしれませんが、そういうことを踏まえまして、裁判官と精神科医である審判員との間で協議を十分に尽くしていただいて、一致をしていただくように努めてくれるものと思っております。

○江田五月君 一致した範囲で決定という言い方じゃやっぱりいけないんだと思いますよ。もっともっと本当に必死になって、一人の人間のその運命を決するわけですから、裁判というのはそういうもんなんですよ。もっと必死になってそこは合議をしないと、いや片っ方が入院、片っ方は通院で、まあ通院で一致なんてね、そんなものじゃない。あえてそこは言っておきたいと思います。

 それから、もう一つ。起訴されて無罪になりました。その無罪の理由は心神喪失あるいは心神耗弱でした。そうすると、この判決というものは心神喪失又は心神耗弱で、耗弱は無罪じゃないけれども、次の、この法案による申立てを受けた処遇事件の係属する裁判所を覊束、拘束するんですか、しないんですか。

○政府参考人(樋渡利秋君) 本法案におきましては、不起訴処分とされたものに──いや、失礼しました、無罪の場合でございますね。

○江田五月君 はい。

○政府参考人(樋渡利秋君) 本法案におきましては、心神喪失者等であると、等といいますか、無罪でございますから心神喪失者で、無罪になった、その刑事の確定裁判を受けた者につきましては、当該確定裁判における判断を尊重することとしておりまして、本制度の審判において改めて対象行為の存否及び心神喪失者等であるか否かの確認を行うことは、行うとはしておりません。

○江田五月君 これ、昨日ちょっと聞いたら、なかなかややこしい説明されて、三十三条の一項の申立てに二種類あって、「公訴を提起しない処分をしたとき」と「確定裁判があったとき」という二つがあって、そして、それは四十条ですよね、四十条の一項の一号は「対象行為を行ったと認められない場合」、何かかなりややこしい説明で、要するに確定裁判があって、そして申し立てられた場合には確定裁判で、確定裁判の判断は処遇事件の係属する裁判所を拘束するという、裏から裏から読んだらそうなるんだという、そういう説明があったんですが、あったんですが、あれでしょう、心神喪失者だといって無罪になっても、なっても、犯罪行為に全くかかわっていない、しかし心神喪失でもあった、こういう人については、これはこの法案による入院なり通院なりの処分はできないでしょう。

○政府参考人(樋渡利秋君) 裁判の実際におきまして、これ、委員に私が言うのもおかしいかもしれませんが、その事実行為のあったことを認定せずにいきなり心神喪失だといって無罪にすることはないだろうというふうに思うわけでありまして、こういう事実があったということにおいて次は責任能力を考えていくと。で、心神喪失であるがゆえに無罪ということになろうかと思いますから、そういうようなことは、委員御指摘のようなことはないというふうに思っております。

○江田五月君 一般的にはそうであることは、それはそうですよ。そうでなきゃそれはおかしいんですけれども、少なくとも頭の体操では十分あるし、現実にも、現実にも事実関係は非常に厄介だと。それを審理するためにはとにかくもう証人も一杯いて何年も何年も掛かる。しかし、そこじゃなくて責任能力のところで、これはないじゃないか、責任能力。で、無罪にすると。

 仮に、弁護人が、もう何年も何年も引きずるよりは、これは責任能力でもうないんだから、だから無罪の判決してくれと。裁判所もそう思って、検察官も、うん、それはそうかなということでいろいろやって、責任能力の点で、これは責任能力ありません、無罪ですという、そういう例えば弁護活動をやったら、その弁護士はこれは弁護士倫理に反しますかね。

○政府参考人(樋渡利秋君) 弁護士倫理に反するかどうかはさておきまして、裁判の本質にかかわることでございまして、論理的にも、その構成要件に該当する行為がないのに心神喪失だといって無罪にする裁判官は恐らく一人もいらっしゃらないだろうというふうに思うわけでありまして、そういうような過程で、心神喪失により責任能力なしとして無罪というものになったものの、この裁判の確定力のこともございますから、これをまたあえてひっくり返して審理をし直すということにも、いささか適当ではないのかという考え方を持っておるわけでございます。

○江田五月君 刑事局長は検察官の御出身ですから検察官がきっちり見ておられるケースで判断されるんで、ここで問題となっているのはそういう場合だけだという判断ならそれも一つの判断ですけれども、しかし構成要件該当かどうかというんだって、そんなに言うほどぴしっと決まるわけじゃないんですよ、一番周辺の微妙なところというのがありましてね。

 まして、違法かどうか。つまり、例えばこれはちょっと正当防衛じゃないかなんというような、その正当防衛、明らかに正当防衛だという仮に殺人の行為があっても、仮に殺人の行為があっても明らかに正当防衛だということがはっきりしているときに、殺人の行為があるのかないのか、いや、これは傷害致死だけれども正当防衛だか、あるいは殺人だけれども正当防衛なのか、そこの殺人か傷害致死かのところをぐじゅぐじゅ争っているよりは、さっさと正当防衛で無罪にしてくださいよ、じゃ、そうしましょうよというのは、これは私は被告人の利益にもなるし、別に構わないと。

 まあいいんです。それは何を言いたいかというと、そういうような確定判決があって、最終的に、これは心神喪失で、したがって無罪だと。しかし、構成要件該当、違法性、有責の辺り、その他の要件についてはきっちりした審理をしていなかった、そういうものがあって、そしてそれについて本件の審判が申し立てられたと。そのときに、前に付いた弁護士じゃない、弁護人じゃない新たな付添人が、いや、心神喪失ではあるけれども、これは実際には例えば正当防衛なんだというようなことを言えないのかという、どうしてそれを拘束できるんですか、前の判断が。だって、前がその判断していなかったら拘束のしようもないじゃないですか。

○政府参考人(樋渡利秋君) 済みません、また繰り返しで申し訳ないんでございますが、今まで申し上げましたとおりの過程で裁判が行われるというふうに信じておりまして、刑事訴訟法におきましては厳格かつ慎重な手続の下で事実認定が行われる仕組みとされており、そのような手続におきまして一定の事実を認定した裁判が確定した場合には、そのような判断内容は尊重されるべきであろうと考えられます上、刑事裁判がいったん確定するといわゆる確定力が生ずることとされておりまして、これを覆すことは法的安定性を損ねることから、無罪等の裁判が確定したものについて更に本制度の審判において当該裁判により認定された事実を争うことができるとすることは適当ではないというふうに考えております。

○江田五月君 そこまでは私も同じように思います。それは尊重しなきゃならぬし、前の裁判で確定した事実を後から争ってもそれは適当じゃない、それは確かにそうです。確定力もある、それもそうです。

 だけれども、前の判決でどういう理由でそういう結論になっているかということはやっぱりよく見ていただかないと、それはいろんな判決あるわけですからね。前の判決の中で、例えば事実はともあれ、責任能力がないから無罪だというようなことに仮になっておれば、それはやっぱり、いや、これはもう責任能力の点で無罪になっているから、あとはもう事実のところは全くアンタッチャブルだと、そこは聖域だなどということは言わないでほしいと思いますね。それがあるから、前の判決が後のこの処遇申立てを受けた裁判所を拘束するというような書き方にはなっていない。そうではなくて逆に、精神保健審判員と裁判官とがいて、その裁判官が判断する部分について、つまり事実の存否について合議でやる場合には、その合議の決定がその次を拘束するという、拘束でしたよね、たしか。たしかそのような趣旨の、どこだったっけ、ありましたよね、そんな規定が。という規定になっているので、そこの規定ぶりが違うということはやっぱりお認めになったらいかがかと思いますよ。

 時間がもうほとんどありませんが、最高裁にも来ていただいておるんですが、本法案の手続面での質問をちょっとします。

 まず、基本的なことで、この審判の手続は、これは刑事手続なのか民事手続なのか、それともどちらでもないのか、これを答えてください。

○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 法律の定立論ですので本来、法務省が答えるべきかもしれませんけれども、私どもといたしましては、民事でも刑事の手続でもなく、いわゆる非訟事件に当たるのではないかというふうに考えております。

○江田五月君 非訟事件で最高裁の方に余りややこしいことを聞きたくもないんですけれども、この事務分配というのはどういうふうに、もう何か考えておられますか。こういうことでこういう審判というものが申し立てられる場合ができてくるよと、これからはと。そうすると、その申立ては例えばどこの訟廷の事務の受付で受け付けるのか、その受付の受付簿でしたか、にどういうふうに記載になって、その部ごとの配てんは一体どうするのか。そういうことはもう検討されていますか、まだされていませんか。

○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) これは、法案が通った後に、各裁判所において、いわゆる裁判官が、どの裁判官が担当するかという事務分配の問題でございますので、裁判官会議で決定するということになります。ですから、私どもとして検討するしないというよりは、各庁の問題であろうかと思っております。

○江田五月君 まあまあ、そういうことでしょうが、しかし通常はやっぱり最高裁として、事務総局としてこれはこういうふうにしなさいというようなある種のお達しが届くんじゃないかなと思いますけれども。

 ちっちゃな裁判所だったら裁判官会議で民事も刑事も両方やるのでいいんですけれども、東京地裁なんというのは、裁判官会議は年一回で、民事の部会と刑事の部会で、あと裁判官会議のそれぞれの部会をやっているわけですよね。そのときのどっちの部会で扱うかというのは年一回の裁判官会議で決めると。この法案が施行になって、その直前に年一回の裁判官会議があったりしたら、これは困ってしまいますよね。などというおたく質問はまあやめておきましょう。

 しかし、本当に、これ民事か、えっ、答えるの。

○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 東京地裁は民事と刑事と分かれて裁判官会議を行っているという御認識のようですけれども……

○江田五月君 部会、部会。

○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 部会ですか。ただ、裁判官会議ですので……

○江田五月君 年一回ある。

○最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) 最終的に、裁判官会議は民刑合同で、そこで事務分配の規定を定めているわけです。

○江田五月君 したがって、聞いたのは、この法案の施行になる直前に裁判官会議やったら、あと一年間ないじゃないですか、どうするんだということを聞いたんですが、いいです。

 つまり、そういう具体的な実務的ないろんな問題が、何か刑事事件か民事事件かその中間というかどっちでもない非訟事件ですというような答えでは、なかなか難しいんじゃないかなという気がいたします。

 むしろ、これは私は、これ、民事事件と言われても困るんで、やはり刑事事件の部類に入る新しい手続だという整理はしなければ仕方がないんだと思いますが、なぜそういうことを多少考えるかというと、最大の問題はやっぱり手続、適正手続の保障ですよね。

 刑事手続でなければ適正手続の保障という憲法の規定は働かないわけではないんで、それは不利益ないろんな処分をする場合に憲法三十一条の法定の手続の保障というのは刑事手続と違っても確保されると、これは当然だと思いますが、本手続、この心神喪失者等医療観察法に基づく手続は、これは憲法三十一条の保障はあるんですか、ないんですか。これはだれでしょう。刑事局長。

○政府参考人(樋渡利秋君) 本法案によります処遇制度は、刑罰に代わる制裁を科すことを目的とするものではなく、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者であって不起訴処分となり又は無罪等の裁判が確定した者に対し継続的かつ適切な医療を行い、また医療を確保するために必要な観察等を行うことによりその者の社会復帰を促進するための制度でございます。

 したがいまして、このような本制度の目的や対象行為を行ったことの要件の趣旨等にかんがみますと、対象行為を行ったか否かの確認手続を含め、本制度による処遇の要否、内容の決定手続は刑事訴訟手続と同様なものでなければならないという理由はなく、裁判所が適切な処遇を迅速に決定し、医療が必要と判断される者に対しましてはできる限り速やかに本制度による医療を行うことが重要であること等にかんがみますと、刑事訴訟手続より柔軟で十分な資料に基づいて適切な処遇を決定することができる審判手続によることが最も適当であると考えられます。

 このため、本制度におきましては、対象行為の存否の確認を含め、裁判所による審判手続により対象者の処遇の要否、内容を決定することとしたものでございまして、御指摘のような適正手続、もちろん適正手続でございますけれども、例えば伝聞法則等の諸法則を適用するかどうかといったような、これは不適用、適用されませんが、そういうものを含めた本法案の仕組みが憲法三十一条の趣旨に反するものとは考えられないというふうに考えております。

○江田五月君 時間ですが、私は、憲法三十一条に反すると言っていないんで、刑事手続と同じ法則を全部適用しろとも言っていないんで、本手続には憲法三十一条の適用はあるんですかということを聞いているんで、これは、あるというのが普通の考え方だと思いますけれども、あとは次回に譲ります。
 終わります。


2003/05/08

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