2001/05/29

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151 参院・法務委員会

刑法改正案の審議で、私は45分間時間を与えられました。初めの20分ほどは、法案の条文につき細かな質問。残りの25分間は、ハンセン病判決への政府声明を取り上げました。

政府声明は、政府が訴訟の一方当事者として、主張したい言い分を述べたに過ぎないということです。従って、相手にも違った言い分があることを認めざるを得ません。それなら、政府声明は「牛刀を持って、」の類。国が訴訟当事者となった場合に、国を代表するのは、法務大臣ですから、その見解として表明すれば十分。


○江田五月君 おはようございます。
 きょうの議題である刑法の一部を改正する法律案、つまり支払い用カード電磁的記録に関する罪、これを創設するというものについて、これは私ども民主党・新緑風会としても賛成の法案でございます。きょうは四十五分、時間をいただいておりますので、この刑法改正も質疑をいたしますが、後半ではハンセン病訴訟についての内閣総理大臣談話と政府声明についての質問をさせていただきたいと思っております。

 まず、このカード犯罪についての刑法改正案ですが、これは今、石渡理事からも御質問ございましたが、保護法益ということになるとどういうことになりますか。

○政府参考人(古田佑紀君) クレジットカード等が現在、有価証券あるいは通貨に準ずるような支払い手段としての社会的機能を持っているわけでございまして、そういう支払い手段としてのクレジットカード等に対するその社会的信用というのが保護法益であると考えております。

○江田五月君 クレジットカードに対する社会的信頼、つまり、もう少しそれを社会的信頼というのを細かく言うと、クレジットカードの真正、真正というのは偽造されていない、作成名義者がちゃんと作成しているものだと、これが保護法益ということになりますか。

○政府参考人(古田佑紀君) 具体的なところまで申し上げますと、要するにクレジットカードが真正なものであるということに対する信頼ということでございます。

○江田五月君 そこで、この百六十三条の二から五までいろんな概念が入り組んでおりまして、ぱっと見たんじゃなかなかわかりにくいことになっておると思うんですが、なぜこうなるのか。

 つまり、百六十三条の二の一項と二項、この規定は、二項の方は「前項の電磁的記録」という「前項の」で何を読み込むかですが、恐らく一項と二項はともにカードと一体となった電磁的記録、これが犯罪のいわば対象ですね。それから、同条の、つまり百六十三条の二の三項と百六十三条の三、これは電磁的記録というよりもカードそのもの。さらに、百六十三条の四、これは有形物ではない情報そのもの、これがそれぞれ対象となっていると。もっとも百六十三条の四の三項は「器械又は原料」ですから、これはもう有形物。

 こういうふうにそれぞれ違っていると、こう理解していいんですか。よければ、なぜそういうふうに違えているのか、これを御説明ください。

○政府参考人(古田佑紀君) まず、百六十三条の二の第一項が、これが電磁的記録を中心に構成されておりますのは、この種のカードが今や電磁的記録部分が不可欠の要素として、それによっていろんな財産上の事務処理が迅速的確に行われることを確保するというところに至っているわけでございまして、こういうふうなクレジットカード等の信用性を確保する上で最もポイントになります点が、それを構成している電磁的記録をターゲットとするいろんな不正行為を、これをきちっと犯罪化するということにあるという考えから、一項につきましては、これは特に不正作出ということでございますので、そのターゲットである電磁的記録を中心に構成されているわけでございます。

 その一方で、三項の譲り渡しにつきましては、これは当然、カードと一体となった状態での行為ということとなりますから、不正に作出されたそういう電磁的記録が載っているカード、それを譲り渡すということが一般的な類型でございますので、そういう形で構成されたということでございます。

 そのほか、情報とかそういうものも、一種無形のものも譲り渡し等について含む場合もございますが、これは委員御案内のとおり電磁情報ですべて記録されているわけで、それの伝達、譲渡の手段というのは、もちろんフロッピー等の媒体で行われることもありますし、あるいは電子メールとかそういうふうな情報ということで送られる場合もある。そういうふうなことをいろいろ考えまして、こういう表現にしたということでございます。

○江田五月君 なかなか頭がこんがらかってよくわからないんですが、行為の態様としては、典型的な場合でいえば、例えばクレジットカードを使って買い物をするお店がある、そのクレジットカードの読み取り機器か何かにチップとか何かを仕掛けて、そしてぱっと読み取ったときに、そこにある電磁的記録をこちらへとっちゃうと。これが百六十三条の四の情報の取得、そしてそれの提供とか保管とかと。

 だから、ここは、読み取って取得をする、あるいはそれをどこかへ渡す、あるいは保管しておく、その電磁的記録そのもの、これがこの犯罪の目的物というか対象になると。今度、それを持ってきてカードにそれを移す、そして不正作出する。だから、その不正作出されるときの対象というのは電磁的記録そのものだけれども、しかし電磁的記録がカードに化体されることによっていろいろ使われる形になるので、カードと一体になった不正電磁的記録と、不正作出というのはそういうものだというふうに規定される。

 さらに、そのカードを貸したり輸入したりあるいは所持したりというので、そこは今度はカードでとらえて、実際の行為が、目に見える行為が犯罪の形として規定されると。

 そんな理解で、ちょっとどうも頭が余り働かなくて、自分なりにずっと今の動きを考えてみたんですが、そんなふうに考えていいんですか。

○政府参考人(古田佑紀君) 御指摘のとおりでございます。
 やはり、電磁的情報という無形のものもかなり念頭に置いた規定にならざるを得ないということでこういうふうなことになったということを御理解いただきたいと思います。

○江田五月君 難しい類型であることはよくわかりますが、それでも、司法制度改革審議会でもわかりやすい法律にしようなんて言っているわけですから、素人がすっと読んでもそれなりに頭へ入る書き方をいろいろ工夫する必要があろうかと思います。

 さて、もうちょっと条文に即して。
 百六十三条の四、これは同条の二の不正作出罪の準備に着目して、準備罪として規定をされておる。そして、この準備罪と百六十三条の五を見ますと、今度は百六十三条の二の不正作出の未遂罪が処罰をされるということになっている。そうすると、準備罪の既遂と不正作出の実行の着手と、それはどういう関係になりますか。準備罪が成立した時点で、もう同条二の方の実行の着手はあったことになるのか、まだないのか。じゃ、あるとすれば、不正作出の方の実行の着手というのはどんなことを考えておられるのか。

○政府参考人(古田佑紀君) 百六十三条の四の準備罪は、これは例えば先ほど委員が御指摘になった電磁情報をとるという行為で、CATの中にICチップを埋め込んでそこに情報をため込むと、その時点で準備罪としては既遂になるわけでございます。

 ところで、その不正作出の方は、これは実行の着手は、現にそういうふうにして取得した情報をカードと一体となっておりますストライク部分にいわば記録していくという作業になっていくわけでございます。したがいまして、その間には当然違いがあるわけで、準備罪が既遂になったからといって直ちに不正作出の実行の着手があるわけではございません。

○江田五月君 次に、ちょっと実態の問題について伺いますが、今月発表されたカード犯罪総合対策委員会報告書によりますと、これはクレジットカード業界の調査ということですが、平成十二年のカード不正使用被害額というのは三百八億円ですね。そのうち、偽造カードによる被害と思われるものは全体の四五・四%の百四十億円。

 一方、警察庁の資料によりますと、同じく平成十二年、クレジットカード犯罪の検挙した事案の被害額、これが五億八千万円余りで、この被害がすべて偽造カードによるものだと仮にしても、被害額から見た検挙率はわずかに四・二%。検挙件数ということで見たら、偽造カードの構成比は二三・四%ですから、実際には被害額から見た検挙率というのは一%に満たないのかもしれないという、そんな感じになるんですかね。

○政府参考人(五十嵐忠行君) 警察庁で把握しているクレジットカード犯罪の平成十二年の認知件数でございますけれども、これは三千六百二十二件、検挙件数は二千八百三十三件、警察に届け出のあった被害額は五億八千五百十八万円という状況にあります。また、社団法人日本クレジット産業協会の調べによる平成十二年のクレジットカードの不正使用に係る被害額でございますけれども、三百八億七千万円、うち百四十億二千万円が偽造カードに係るものであると承知しております。

 それで、この日本クレジット産業協会の調べによる被害額のうち、偽造カードに係るものに対する警察の届け出のあった被害額、これは割合を百分比で占めますと大体四・二%になるわけですが、警察で把握している被害額というのは検挙ではございませんで、警察に被害届が出されたクレジットカード犯罪に係るものに限られておりまして、しかも偽造カードの不正使用に係るもの以外に盗んだカードの不正使用等に係るものも含むという状況にありますことから、警察で検挙したクレジットカード犯罪のうち偽造カードに係るものの被害額の総額ということになりますと、その割合はさらに低くなるという状況にあります。

 いずれにいたしましても、警察で検挙した事件に係る被害額の総額というのは、日本クレジット産業協会の調べによる被害額のうちに占める割合は非常に低いものとなっているという状況でございます。

○江田五月君 今回のこのカード犯罪が、カードの不正使用が、不正作出、使用、これが犯罪ということに規定されますとどのくらい検挙率というのが上がるか、なかなか難しい話なんですが、例えば今、業界の調べの三百八億、不正使用の被害額があって、そのうちの百四十億が偽造カードだと。そうすると四五・四%ですね。一方で、検挙件数から見たら、二千八百三十三件のうち六百六十件が偽造カードだと。そうするとこれは二三・四%だと。

 したがって、これができれば、この法律ができれば、この二千八百三十三の検挙中、偽造カードによるものが二三・四から四五・四に上がるというぐらいにはならなきゃいけないんでしょうか、どうなんでしょうか。そういう数字の比較というのは成り立たないんですか、成り立つんですか。

○政府参考人(五十嵐忠行君) 非常に難しい質問で答えにくいんですが、御案内のように、刑法の一部を改正する法律にあっては、従来対処することが困難であった偽造カード作成のためのスキミング行為とか、あるいは偽造カードを所持する、この行為自体が犯罪となるということで取り締まりが可能になるというふうに認識しております。

 今回の法改正で、先ほど先生言われました、検挙率がどれぐらい上がるかということなんですが、これは非常にいろんな要素がありまして簡単にはいかないというような感じがいたします。

 例えば、認知自体も、全体からいいますと認知がどれぐらいだという、要するに偽造被害の、偽造カードの使用自体の被害額が減ってくれば、それは全体に当然影響するわけでありまして、例えばそこのところが、ICカードでだんだん被害が減ってくるというようなこともありますし、また、こういう法律をつくったときに、要するに業界のインフラですね、インフラがどれぐらい整備されるか、あるいはどれくらい被害届が出されるかというようなこと、いろんな要素を加味しないとわかりませんので、その辺は答弁は非常に難しいわけであります。

 警察庁といたしましては、都道府県警察に対しまして必要な指導教養を徹底いたしまして、この法律が施行になれば、この法律を積極的に活用してカード犯罪に適切に対処してまいりたい、このように考えております。

○江田五月君 数字というのはなかなか、前提に何を入れるかで変わってきますし、こういうものを犯罪だと規定して、その取り締まりの体制をつくることによってまた前提が変わるでしょうから、確かに難しいと思いますが、いずれにせよ頑張っていただきたいと思います。

 そこで、法務大臣に伺いたいんですが、世の中がどんどん変わっていって、こういう支払い用カード電磁記録に関する罪なんというのは、昔、刑法をつくるときにはこれはもう到底想像もつかなかった。今はカードというものにちゃんと記録される。そういう電磁的記録に着目して、したがってカードですから、実際動いているのが目に見えるわけですが、犯罪の類型としてはもっと進む可能性がある。

 報告書の二十二ページ、二十三ページにも書いてありますが、インターネット上でのクレジットカードがかかわる犯罪には今後どう対処するのか、あるいはカードがかかわらないインターネットや携帯電話などのモバイル端末の不正利用、これも将来想定されるわけで、細かな技術的なことは結構ですから、ひとつそういうものに対してどう今後対処されるか、今回そこまでいかなかったことの理由も含めて、法務大臣からお答えください。

○国務大臣(森山眞弓君) 確かに、刑法制定当時は想像もつかなかったようなことが次々に起こりまして、今回も改正をお願いしているわけでございますが、インターネットを用いた商取引における代金決済システムにおいては、本人に成り済まして商取引行為に直接及びますと、通常、詐欺あるいは電子計算機使用詐欺等によって対応が可能でございます。

 今回の法改正は、現段階においてあえてそのような行為の前段階的な行為を広く一般的に処罰するまでの必要性は今のところ乏しいかということでこのようになっているわけでございますが、これからITはもう日進月歩、次々と、今も想像つかないようなことが、あした、あさって起こるかもしれません。そのような新しい事態に対しては、また適切に対応していかなければならないと思っております。

○江田五月君 十分そこも視野に入れて対処していただきたいと、これは強く要望しておきます。

 さて、次に、ハンセン病訴訟について伺います。

 法務大臣にも、何度も患者の皆さんあるいは我々、お願いをいたしまして、生の声も聞いていただきました。法務大臣にもよく御理解をいただいて、政府として小泉総理の決断で控訴断念となったと。本当にこれはもう心からお礼を申し上げなきゃならぬと、敬意を心から表させていただいております。

 実は、私の選挙区には長島愛生園と邑久光明園という二つの国立ハンセン病療養所がございます。二十四年前、国会議員になったときから私は一貫してこのハンセン病問題と取り組んでまいりました。この問題は私の政治活動の原点といいますか、ライフワークでもあるわけで、そうしたこともあって、ことし四月五日に超党派の国会議員百一名、今はもう百九十名ぐらいになっているかと思うんですが、によって設立されたハンセン病問題の最終解決を進める国会議員懇談会の会長も、半分祭り上げられてですが、務めております。

 五月十一日、熊本地裁の画期的な判決、政府の行政責任、国会の立法不作為責任、これが厳しく指弾をされました。私なんかはこの問題に長くかかわって、らい予防法の存在、それのひどさ、これもよく知っていたわけで、最も重い立法不作為責任を問われている。政府声明などを見ますと、国会議員には故意はないと。私なんか、あるいは故意があったかもしれないなどと思って、故意があったら責任を問われる、過失だったら責任を問われないというのも変だなと思ったりするわけですが、いずれにしても深く反省して、元患者の皆さん、あるいは今の患者の皆さんもおられますが、本当に心からおわびを申し上げます。

 それだけに、小泉総理の控訴をしないという今回の決断は本当にありがたい、感動をしたと言ってもいいかと思います。この上は、もう一刻も早く元患者及び患者の皆さんへの政府と国会の、政府の方は小泉総理が総理大臣談話で行われましたが、国会の謝罪、あるいは人権と名誉の回復、差別と偏見の除去、十分な賠償と生活の保障と福祉の増進。既に亡くなられた方々、どうしますか、こんな本当に牛乳瓶の小さいような骨つぼに入った遺骨が、各園の慰霊塔の裏に恐らく二万三千幾つあるんですね。この皆さん、ふるさとへ帰れないので、亡くなって煙にならなきゃふるさとへ帰れない、煙だけは帰れて遺骨は帰れない。そんな状態をどう一体なくしていくのか、解決していくのか、大変な課題ですが、みんなで汗を流し、知恵を絞り、最終解決をしなきゃならぬ。そのため必要不可欠な国会の決議が、どうも今、自民党の執行部の皆さんの執拗な抵抗でまだ実現の見通しが立っていない。こういうことで、本当に残念だと思っております。

 まず、それは前提ですけれども、これは本当に急がないと。実は、私、一九八二年に参議院の本会議で、今の二つの園がある長島というところに橋をかけましょうと、長島架橋というんですが、これを主張したんです。私は、前回、六年間参議院におりまして、小会派だったものですから、本会議の演壇に立てたのはその一回だけで、わずか十分だけ。その中で、その長島架橋のことを言ったんですが、そのときに長島にいる患者の皆さんは千七百人ぐらいだった。今は千人ぐらいになっているんですね。この間七百人ぐらい減ってきて、平均年齢今七十四歳を超えているわけですから、これからどんどんお亡くなりになるわけですから、そのことも考えたら急がなきゃならぬと思っております。

 さてそこで、五月二十五日の政府声明なんですが、控訴断念という極めて異例の判断をしたと、こういう控訴断念という言い方をされています。

 ところが、同じ日の総理大臣談話、これも閣議決定をされているものだそうですが、あえて控訴を行わない旨の決定をしたと。断念という表現はありません。この点に関して、小泉総理は、本当は実は控訴をしたかったんだけれども断の念と、残念ながら念を断じたと、諸般の事情から控訴をあきらめるという意味、そういう意味の控訴断念という言葉を実はあえて使わずに、この際、積極的に控訴をせずに、この問題の早期かつ全面的な解決を目指していくという、そういう意欲のあらわれ、意思のあらわれ、これが小泉総理の談話では断念という言葉が使われない、使っていない、そういう意味なのだと、こういうことを論ずる方もおられます。田原総一朗さんがテレビとかあるいは週刊誌でもそんなことを書いておられますが、私もそう思いたいんですが、小泉総理の真意はどうであるか、きのう総理のお考えを聞いてきてくださるようにお願いしておいたと思いますが、上野官房副長官、いかがですか。

○内閣官房副長官(上野公成君) まず、今回の判決の評価でございますけれども、この判決につきましては、ハンセン病問題の重要性を改めて国民に明らかにし、その解決を促した点において高く評価できるものだというふうに考えております。

 しかしながら、同じこの判決の中に、国政のあり方にかかわる幾つかの重大な法律上の問題点があります。本来であれば、政府としては控訴の手続をとって、これらの問題について上級審の判断を仰ぐことをせざるを得ない、こういうところでございます。

 しかし、この訴訟につきましては、この熊本のほかに、熊本でもまだほかにも幾つかあると思いますけれども、東京それから岡山などで多数の訴訟が提起されております。また、訴訟を全然起こしておられない患者、元患者の方が数千人おられるということでございますし、患者さんそれから元患者さんは相当既に高齢になっておりますので、こういったことを総合的に考えますと、できるだけ早期に全面的解決を図るということが最も必要なことであるという判断をいたしまして、本判決には国家賠償法、民法の解釈の根幹に係る問題点があることを明らかにした政府声明を発表した上で控訴は行わないということにしたところでございます。

 小泉総理の談話の中には、「控訴は行わず、」ということでございますけれども、その前に「政府の立場を明らかにする政府声明を発表し、本判決についての控訴は行わず、」と、こういうことでございます。

 その政府声明の中には、これは問題点を政府声明で明らかにするということが趣旨でございますので、こちらの方は「控訴断念」と。本来は問題があるわけですけれども、非常に大きな大局的な見地に立ってそういう決断を行ったと、それがそういう言葉になっているわけでございまして、そういう両方の違いについて御理解をいただきたいと思います。

○江田五月君 詳細な答弁をいただきましたが、どうもよくわかりません。

 小泉総理の総理大臣談話は、ずばっずばっと書いていっているんですね。そして、何段かの言葉の後に、今回の判決はいろいろ問題はあるがというのが出てくるわけで、判決の中の、やれ、あそこがどうだ、ここがどうだ、曲がった、ゆがんだとかいうのは、まあ小泉総理の言葉で言えば些事構うべからずで、そして大局というのは、やっぱりこういう判決が出て国民に物すごい訴える力があって、私も長く裁判というのは見てきましたが、これほど国民にアピールの力の強い、これほど国民から「うわっ」と感動を持って迎えられた判決を今まで見たことがないですね。

 ですから、これは判決を下すというのも一つの国家を動かしていく営みですから、そのときの理由の小さな、法律があっち向いた、こっち向いたということよりも、この判決が持っているそういうアピール力というものを大切にしながらこの問題を最終解決していこうという、そういう意欲のあらわれだと、それはなぜそう言えないんですか。
 短く。

○内閣官房副長官(上野公成君) 総理の談話の方では、今、江田委員が御指摘のとおりでございますけれども、しかしこの問題点をそのままにしておくということは、今後いろいろなところで問題が残るんじゃないかということで、政府声明というものを発表することによってこの判決を確定させたということでございますので、御理解いただきたいと思っています。

○江田五月君 私が言いたいのは、総理のそういう気持ちを大切に皆さんしようと思うなら、政府声明で断念という、何かいじましい、そういう言い方をするなということを言いたいわけです。まあいいです。

 それで、この政府声明の位置づけなんですが、政府声明では確かに、まあ断念という言葉にあらわれる気持ちなのかどうか、「国家賠償法、民法の解釈の根幹にかかわる法律上の問題点があることを当事者である政府の立場として明らかにする」と、こう書いてあるので、「当事者である政府」という「当事者」というのは、これは民事訴訟をやっているわけですから、原告と被告という当事者がいる、その被告という訴訟の一方当事者としての政府の立場だと、そういう理解、そういう意味でこの「当事者」という言葉は書いているんですよね。

○内閣官房副長官(上野公成君) 訴訟の一方の当事者である、そういう立場からでございます。

○江田五月君 私は、だから訴訟をやって、その訴訟の立場、国が訴えられたわけですから、訴えられた当事者である国を代表して法務大臣が訴訟行為をやられる。それは訴訟ですから、裁判所に受け入れられることもある、受け入れられないこともある。それでもいろんな主張をして、そのための立証活動をされる。そういう立場で言っていること、それはやっぱり法務大臣がおやりになることであって、政府という、閣議決定をするというのは、確かに国が訴えられているその被告の立場ではあるけれども、もっとやっぱり大きな、閣議決定というものは、そういう国民の中でいろんな国家機関があれこれ動いていることをもう少し超えて大きく、政府、閣議、閣僚、内閣、これは考えていただきたいのに、なぜ一体こういう、単に訴訟の一方当事者が、こう言いたいんです、次にまた立法不作為とか除斥期間とかが話題になるような、論点になるような訴訟があったら国はこんなことを言うんです、その立場だけは留保しておきますなんということを、こんなことをなぜ一体政府声明にしてしまったのか。
 これはどちらに伺うか、副長官の方ですかね。

○内閣官房副長官(上野公成君) 江田委員御承知のように、政府声明というものは法的な拘束力はないわけでありますけれども、やはりこれは閣議において全閣僚の合意で決定されているものでありますから、全閣僚でこういう形で問題のあるところを声明という形にしたと。法的な拘束力はありませんけれども、これは余り、何回かしか、ほんの二、三回しか出したことはありませんので、大変政府としては重い意思表明であるというふうに思っております。

○江田五月君 全閣僚に徹底といったって、別に政府声明で、政府声明というのは国民に対してメッセージを発するわけでしょう。しかも、訴訟における国を代表する立場にいる人は法務大臣ですから、法務大臣が一人わかっておればいいんで、法務大臣声明ならまだわかるけれども、何で政府声明までするのか。何かよっぽど判決がどうも嫌でたまらない、判決のあの力を何とか減殺しておきたいと、そんな往生際の悪い気持ちがこんなところへあらわれたのかなと、未練がましいなと思ったりしますが、そんなことはないんですか。もう本当に、これはこういう論点がありますよということを言っているだけで、それ以上の趣旨ではないんでしょうね。

○内閣官房副長官(上野公成君) こういう問題点があるということを言っているだけで、今おっしゃったとおりでありまして、これはこれから全面的な解決に向かって政府として最大限努力していくのは当然でありますし、これは患者さんと厚生労働省の方で話し合いももうすぐ始まると思いますので、そういうことじゃなくて、非常に前向きであるということを御理解いただきたいと思います。

○江田五月君 ぜひそうお願いします。未練などないんだと、往生際はいいんだということで頑張ってください。

 政府声明で幾つかの問題があるんだということですが、二つ挙げていらっしゃるんですが、問題点としては、これは法務大臣あるいは訟務の関係ですかね、幾つ問題点があるんですか。

○政府参考人(都築弘君) お答えいたします。
 本件につきましては、立法の不作為の問題、それから厚生大臣の法的責任の問題、それから除斥、そして損害の認定、このあたりが大きな問題点と承知しております。

○江田五月君 四つ、当事者として被告として訴訟の中で言うとするならば今の四つがあるけれども、あとの二つは、この事件に特有の論点だからあえていろいろ言わずに、今の立法不作為関係と除斥期間の問題、これはほかの事件でもいろいろ出てくるだろうからここへ挙げられたと、そういうふうな説明を聞いたんですが、それでよろしいですか。

○政府参考人(都築弘君) 先生御指摘の二点の問題につきましては、事実認定にもかかわる問題でございますので、法的な問題ということで立法不作為の問題と除斥の問題を提示したわけでございます。

○江田五月君 どんどん行きます。
 二十五日の政府声明ですが、前日、官房長官が談話を発表していらっしゃる。その中では、司法が国会議員の活動をここまで言うのは三権分立の趣旨に反するというような言い方があったけれども、翌日の政府声明ではその言い方が消えましたね。もし三権分立に反すると、裁判所が国会についてそんなことを言うのは三権分立に反するというなら、私は、じゃ政府が国会のことについて、国会の見解も聞かずにいろいろありがたくも言ってくれることはこれも三権分立に反するんじゃないかと言いたくなったんですが、まあ政府声明の方で消えましたから、それは飛ばしましょう。

 最高裁判例に反するというんですが、最高裁の判決は、ある一定の場合という、つまり憲法に一義的に違反しているのを、あえてそれに反するような立法をするごとき容易に想定しがたいような例外的な場合と、こういう書き方になっていて、つまり「ごとき」の前は例示ですよね。例示があって「ごとき」があって一般則がある。ところが、政府声明はその例示のところだけ取り出して限ると。一般則の方はいわば無視して、そしてこの判決が一般則の方に当たると、もう本当に委曲を尽くして書いてあるのにわざわざ最高裁判例を狭く限って、そしてその一般則の方に当たると言っているものを狭く限ったところよりはみ出しているから判例違反だと、こういう論理になっていると私は思います。

 これは被告の主張とは違うかもしれませんが、原告だったらそういう主張をされるでしょう。したがって、政府声明は単に被告だったらこう言いたいということを言っただけだということですから、今、私が言ったようなそういう論理もあると。もし政府が、今度原告の立場に立って言うときにはそういう論理も展開できると、そう思われませんか。

○政府参考人(都築弘君) 今御指摘のように、その点についてはいろんな見解があるわけでございますので、本来ならば上訴審の判断を仰ぐべきものではないかと考えたわけでございます。

 ところで、今の御指摘の点でございますが、やはりこれは国会と司法との関係、つまり国会議員の立法不作為についてどのような場合に法的義務があるのかという問題でございますので、その判決に掲示してあります部分は非常に意義のあるものと当事者としては考えております。

○江田五月君 これは、最高裁の判決はたしか選挙の関係のことでしたですよね。ですから、もともと選挙の関係のことはかなり国会に裁量権があって、定数の格差だって、あれほど開いていたって、最高裁は国会、それはよろしいというような、そういう大変国会に高い裁量権が認められているケースについての判断であって、本件は、らい予防法という大変な人権侵害立法がずっと残っていたということについての国会の裁量権のことですから、おのずと、もとになっている事案自体も違うということだと思います。

 それからもう一つ、除斥期間の関係ですが、政府声明では、判決は民法の規定に反すると、こう言い切っているけれども、これもやっぱり当事者としての主張であって、不法行為における損害、あるいは不法行為のとき、これはいつなのかというのはいろんな議論がありますね。この判決は、らい予防法というものがあって、それによって患者、元患者の皆さんがらい予防法に基づく患者という地位に置かれて、そしてそのらい予防法というものがつくり出した社会的な偏見、差別の中に置かれていたと。そのことが損害で、その損害というのは、ずっとらい予防法が続いている間ずっと起こって、そして、らい予防法が廃止されたときになって初めて損害の全体像がわかるから、しかもその損害というのは日々発生するというよりも、むしろそういう地位に置かれたということだから、らい予防法が廃止されたときが不法行為が終わったときで、そこからもし除斥期間にしても時効にしても始まるなら始まると考えるというそういう判決でして、それもそれで、被告が防御するときに言いたい言い方はあるかもしれないけれども、また別にそういう論理もあると、これもよろしいですよね、そういう論理もあるんだということは。だから、もし国が逆の立場に立って、そういう主張をした方が国に有利のときには国はそういう主張をするだろうと。だろうまでは言えないかもしれませんが、そういう理解でよろしいですよね。

○政府参考人(都築弘君) 御指摘のように、いろんな考えがあると思います。ただ、従来の判例あるいは裁判例からいいますと、継続的不法行為における不法行為のときというのは、やはり今御指摘にありましたように、日々発生すると、このように解するべきではないかと考えております。

○江田五月君 そこで、法務大臣、控訴断念という、断念という言葉というか、控訴しないという法務省内部の意思決定をされたときに、これは二十四日の持ち回りでしょうかね、緊急閣議の前でしょうかね、前かどうかということと、それからそのときには当然、厚生労働省と国会と、これはもう意見を聞いているわけですから、その意見に対する回答、照会に対する回答、これは文書で来ていると思うんですが、文書で来ているかどうか、その二点。

○国務大臣(森山眞弓君) 控訴しないということは、五月二十三日の夕方、官邸で厚生労働大臣の御意見を伺い、また総理の御判断をいただきまして、そのときに決めたものでございます。厚生労働省からの今おっしゃった控訴できない旨の回報書というか、答えですが、それは二十四日に文書で受領いたしました。

 それから、法務省といたしまして、法務大臣の控訴はしないということの決裁は五月二十五日に行いました。それから、衆議院事務局からは、五月十七日に回答はしないという旨の事務連絡がございまして、また参議院の事務局からは、五月十八日に回答を留保するという決定があったと事務連絡がございました。

 そのような経緯で最終的な結論に至ったわけでございます。

○江田五月君 そうすると、今の中で、文書として厚生労働省の文書、五月二十四日のものですか、それからあと国会、衆参五月十七、十八日あたりの、これは文書をお出しいただけますか。

○国務大臣(森山眞弓君) はい。いただいた文書でございますので、そのコピーはお目にかけられるかと存じますが。

○江田五月君 じゃ、後でひとつよろしくお願いします。

 それから、最後の質問ですが、法務大臣に伺います。
 まだ岡山地裁と東京地裁、もちろん熊本地裁でも裁判が残っておりますが、もう大きな方向で一歩踏み出したわけですから、訴訟をずっと続けていくという、そういう必要もないかと思います。しかし、これは話し合いをしてみなければ、やっぱりちゃんとした最終解決にならずに訴訟をやらなきゃいけないということになるかもしれませんが、願わくは、訴訟を続けて訴訟でそういうところの最後の解決まで行かなきゃいけないなんということのないようにひとつ、これはぜひ御努力をお願いしたいんですが、それでもまだ多少、もう日程が決まったところがあって訴訟が若干行われるかと思うんですが、そういうときに、ひとつぜひ内閣総理大臣談話を踏まえて、「政府として深く反省し、率直におわびを申し上げるとともに、多くの苦しみと無念の中で亡くなられた方々に哀悼の念をささげる」という、そういう心でもって残った訴訟にぜひ取り組んでいただきたい。間違っても今後の裁判の中で原告や証人の皆さんの心を傷つけるようなことのないようにしていただきたいと思いますが、大臣、この点はお約束いただけるでしょうか。

○国務大臣(森山眞弓君) 総理大臣談話の趣旨を踏まえた訴訟対応がされると考えます。

 具体的な対応につきましては、立法作業その他の諸施策の進行も踏まえまして検討してまいりたいと思います。

○江田五月君 終わります。


2001/05/29

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