2000/11/16

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参院・法務委員会

10時から法務委員会。昼の休憩を挟んで4時過ぎまで少年法の質疑で、私は11時前から80分間、質問しました。与党案が、家庭裁判所の審判実務などあまり踏まえず、誤解も含む世間の声に押されて、周到な検討なく立案されたことが、ある程度浮き彫りにできたと思います。


○江田五月君 おはようございます。
 少年法改正案について質問をさせていただきます。

 実はさっき、小川敏夫さんに、裁判官出身ですので聞いてみたんですが、少年審判を裁判官としてやった経験はないということで、そうすると、私は恐らく国会議員の中で少年審判を裁判官としてやった経験を持っている唯一の議員かなと思ったりいたします。

 保岡大臣、質問通告していませんが、裁判官はやられたことがありますが、少年審判をおやりになったことはありますか。

○国務大臣(保岡興治君) ございません。

○江田五月君 そんなことで、私自身、千葉家庭裁判所で三年間勤務をした当時、すべて家裁ではありませんが、家裁事件、特に少年事件には相当情熱を傾けて、まだ若きころですがやったことがありまして、その他、その経験というだけでなくて、少年のことについては随分心も痛め、いろいろ発言もしてまいりました。そういうことをずっと思い出しながら、どうも少年法改正案については思いの方が先行しまして、なかなかいい質問の組み立てができなくて困っているところでございます。

 この間の経過をずっと振り返りながら、私、実は毎晩自分のインターネットのホームページにその日の活動日誌を書き込んでおるんですが、これを今プリントアウトしてずっと読み返していたんです。

 九月二十二日に、求めているのは厳罰化じゃないんだという、そういう皆さんの集会がございまして、行きました。私どもの考え方も率直に申し上げて、若干きつい言葉が飛び交ったりして、批判もされたかなと思ったりしました。その日の夜、これは一緒に出た方もおられますが、テレビに出演をしていろいろ申し上げたりしました。

 そうしましたら、ある家庭裁判所調査官の方からメールが来まして、ショックを受けた、大変失望させられたというようなことがあって、その方にメールで返事を書いたんですが、そこに書いてあるのをちょっと読んでみますと、「私は何とかして、少年法の理念や家裁の役割を、最大限守りたいと思っています。戦後日本が、他の先進国のような少年犯罪の激増に見舞われなかったのは、やはり少年法と家裁が頑張ってきたからだと思うからです。そして今の不憫な少年たちの最後の理解者は、家裁関係者だと信ずるからです。」。これは後で聞きます。「しかし今、状況は非常に厳しくなっています。社会もずい分変化し、複雑になりました。少年たちに、法律の穴を突き、反逆する傾向さえ見られます。「少年保護」に理解の深い人々がもっと増えれば、心配ないのかもしれませんが、残念ながら、少年法も家裁も、国民の確信に支えられているとは言えなくなっています。関係者の議論だけで満足しているわけには行きません。」と。そんなことも考えながら、私たちなりにこの少年法の改正にも取り組んでまいりました。

 きのうもこの参考の本を読んでおりまして、団藤重光先生、森田宗一元家裁判事の「新版少年法第二版」と言うんですが、これを見ていましたら、はあと思ったんですが、「新版のはしがき」のところでこういうのもあるんですね。これなんかはもう少年保護関係者がいわばいつも手元に置いていなければ審判できないという、そういう重要な本だと思っておるんです。

 「執筆を進めてゆくあいだに、解釈論ではいかんともすることのできない法の不備とおもわれる箇所にしばしば出会った。かような場合には、一応の解釈論と運用の指針を示すと同時に、不備の点を指摘しておいた。近時、少年法の改正の問題が大きくクローズ・アップされて来たが、その骨組みを動かすような根本的な改正については十分に慎重な考慮を要するけれども、個々の規定について整備の必要があることはあきらかだとおもう。」と、昭和四十二年、一九六七年に団藤先生、森田さんが書かれております。改正にみんなで知恵を絞るという、それは今私たちも必要なことだと思っております。

 そこで、何を改正しなきゃならぬか。すればいいという話じゃないので、何か世間ではとにかくやれやれ、すればいいんだというそんな感じもちょっとあるんですが、それは何をすればいいという話じゃない。これは私たちも与党の皆さんと立場は共通していると思います。三点あると。被害者保護、それから事実認定能力、そして今の少年の現状に対して、年齢問題も含めこれでいいのかという対応、その三点がある、私どももそう思っております。

 そこで、通告の順序と全然順序が変わってしまうんですが、お許しいただきたいんですが、まず被害者保護、これはこの少年法が被害者保護の点で欠けているところがあるというのはもう疑いないことだろうと思います。与党案は被害者の保護に関して前向きの取り組みをされておる、この点は私は全く賛成でございまして、一つこの点だけ今回成立をさせてもいいかなと、そんなふうにさえ思うようなところでございますが、しかしこれだけでは多分足りないんだろうという気もいたします。

 例えば先日、被害者保護法というくくりで刑事訴訟法を改正した。そのときに、弁償ができるように、弁償についての約束ができたときにそれを公判調書に書き込めば債務名義になるというような改正もしましたよね。しかし、今回はそういうものはない、その他もろもろ。

 そこで、この被害者配慮の改正、これには全く賛成をするのですが、さらにこれ以上に何か必要なことを考えておいでなのか、おいででないのか、提案者に伺います。

○衆議院議員(杉浦正健君) 答弁いたす前に、江田先生が感懐をお述べになりましたが、私もあえてそうさせていただければ、私どももそういう思いで臨んでおると思います。

 私は付添人として十回に満たないぐらい少年審判にかかわっただけなんですが、あのころはよかったという思いがございます。家裁調査官の方のメールを御紹介いただきましたが、その後半に少年たちが変わってきたという引用がありました。まさに私どもは、変わりつつある少年、その背景にある社会状況、そういった状況の中でどう対処したらいいかというところから出発してこのような改正の議論をスタートさせたんだと、こう思っております。

 一例だけ申し上げますと、今の少年法においては家裁の裁量の範囲が非常に大きいと思うんです。それは今まではよかったんでしょう。いい時代だったと言えば言えたかもしれませんが、必要的逆送というようなのを入れましたのも、そういう裁量の大きい家裁の運用の中で、やっぱり社会情勢の変化に応じてもう少し裁量の中に社会の状況とか民意の動向とか、そういうものを取り入れられるような仕組みを入れた方がいいのではないかというような心情がございまして入れたわけでございまして、根本的な構造の変更とは思っていないわけですが、提案させていただいているところであります。

 被害者への配慮についても、私どもはこの少年法の改正の範囲内で可能な限り被害者に対する配慮を加えようということで、これは被害者の会の方々、多くの方々からいろんな御意見を賜りました。そういった皆様方の思いを反映させようということで、廃案になりました政府原案には少年審判の結果等を通知する制度しかなかったわけでありますが、そういった被害者に対する配慮を求める声の高まりを踏まえまして、もちろん少年の健全育成に対する配慮との調和を図りながらですが、被害者等の申し出による意見聴取とか被害者等による記録の閲覧、謄写の制度を取り入れたものでございます。

 少年法としてはこれが限度かもしれませんが、しかし被害者に対応する問題としてはこれで十分だとは毛頭考えておりません。精神的支援、経済的支援など多岐の分野にわたっておりますので、今後、広く政府においても、また我々においても検討していくべき課題だというふうに思っております。

○江田五月君 誤解があってはいけませんが、ただいま紹介したのは調査官の方から来たメールを紹介したのではなくて、私が答えに書いたものを紹介したので……

○衆議院議員(杉浦正健君) それは失礼いたしました。

○江田五月君 それと、古い話で、最近は違っているのかもしれませんが、私は現場を多少知っている人間として、家庭局長もお見えですけれども、今の家裁の体制の皆さん方で家庭裁判所の審判の調書に示談ができてそれを書き加えれば債務名義になるとするのはちょっと危ないなという危惧を持っておりますが、先ほど言ったのはそういう提案をするという意味ではありませんので、そこは誤解のないようにしていただきたいと思います。

 保岡大臣、被害者保護について今回議員立法でこういう提案をされましたが、これで十分と思われますか。さらに被害者保護を、前回の被害者保護法制がございますが、もっと進めなきゃならぬとお思いですか。どちらでしょうか。

○国務大臣(保岡興治君) 犯罪被害者の保護の問題については、これはいろいろ多岐にわたる分野に関係する問題で、政府としても、関係省庁にいろいろかかわる幅広い問題なだけに、これを密接な連携のもとにさらに強化していく方向で努力すべきものだと思います。それが最近非常に高まってきた被害者の保護に関する国民の関心にこたえるゆえんであり、また刑事政策上も非常にその点が重要なテーマになってきていると存ずるところでございます。

○江田五月君 被害者の保護については、私たち民主党は犯罪被害者基本法案というものをつくりました。既に国会に提出し、廃案になりましたが、また新たに提出の用意を今しているところです。

 これはいろんな手続の中で被害者のことを十分考える、被害者の声を反映させる、それだけじゃ足りないので、やっぱり犯罪被害者の本当の救済というものは心の問題、これを抜きに考えられない。PTSD、ポスト・トラウマティック何とやらということも今議論されていて、加害者と対話をさせながらとかいろんなことが今言われているわけですが、犯罪被害者基本法、これを今後制定するお考えはありますか、どうですか。私どもと一緒に知恵を絞ろうじゃないですか。提案者の方々、いかがですか。

○衆議院議員(杉浦正健君) 民主党の北村先生外三名の犯罪被害者基本法案は拝見いたしました。先生方の御努力に対して敬意を表する次第であります。

 私ども自民党の方ではまだこういう検討をいたしておりませんが、しかしいずれかの時期にはこういった検討が必要であろうと思っておるところでございます。

 ただ、犯罪被害者、不測の被害をこうむった方なんですが、不測の被害をこうむった方というと、台風だとか地震とか犯罪以外の不測の被害をこうむる国民もおられるわけで、例えば経済的支援ということになりますと、地震なんかは阪神・淡路のときにああいう支援をいたしましたが、そういう問題も含めて幅広い見地からの、お互い被害をこうむった場合助け合うという点からの検討が必要だと思います。

 今、警察庁の方で例の犯罪被害者、長い名前ですが、法の改正を検討しておるようですが、あの補償法は要するに通り魔だとか加害者を特定できない人たちに対する救済を主として考えてできておるわけでありまして、あの改正だけでは経済的補償には届かない犯罪被害者が多いと思います。

 広い角度から、精神的ケアの面につきましても検討する必要があると思うんです。ざっと法案を拝見させていただいて、その方向といいますか理念と申しますか、それには大いに賛意を表するわけですが、実際、法律として基本法を制定するについてはまだまだ検討すべき問題点が多々あるだろうというふうに思っております。

 この間、奥様を殺されました弁護士の岡村先生ですか、お話をお伺いしたときに、岡村先生の心配の一つは、犯人は無期懲役になったんですが、無期懲役は出所してきますが、そうした場合にまたねらわれるんじゃないかと、あの公判廷の様子から見ると。それに対する措置もないんじゃないかと。自分の命が惜しいとかいうことではなくて、そういった面も含めて幅広にお互い検討すべきことではないかというふうに思っております。

○江田五月君 岡村弁護士のことですよね。今、犯罪のことのほかにも災害のこともあるじゃないかというようなお話でしたが、いずれのときにかというようなことではないだろう。やはりこれは私たちの社会の質の問題なんですよね。犯罪はない方がいい。もちろん災害もない方がいい。だけれども、犯罪がない方がいいからといって、どうやって犯罪を抑え込んでいくのか、とことん抑え込むといったらどこまでいくのか。

 そうじゃないんですよ。犯罪も起きるんです。例えば精神障害の人たち、それは精神障害の人たちをどこかへ閉じ込めてしまっておけばその方が社会は安心だと。そうじゃないんです。そうじゃなくて、精神障害の人たちもみんな一緒に社会をつくろうと。そういうようにしてみんなでここで生まれてきたんだから。しかし、もうどうしようもないというときには、それは隔離ということもあるでしょう。しかし、なるべくみんなで一緒に社会をつくっていこうと。その結果、いろんな不測の事態が起きたときにはみんなで助け合おうと。そういう不測の事態で被害に遭った人たちは社会からちゃんと手当てを受けていくという、そういう権利があるんだと。これが今国連なんかでも大きな流れになっているわけで、私はこれは私たちの日本社会の質の問題、もっと質の高い寛容な社会をつくろうじゃないかということだと思うので、ぜひとも前向きに犯罪被害者基本法のことは考えてほしい。保岡大臣、いかがですか。

○国務大臣(保岡興治君) 今、杉浦提案者からもお話しになったように、さらに被害者保護を今後強化するのにどういう努力が必要かということを考えたら、すぐに今お話にも出てまいりました犯罪被害者等給付金制度の拡充強化、これは今警察庁で鋭意検討しているところと聞いております。

 それにまた、法務省では出所情報、加害者が施設から出てきた場合、お礼参りその他のそういったまた再び犯罪につながるような、被害者に大変迷惑のかかるような、そういうことを防ぐ出所情報、これは少年については多少特別な配慮を要するものと考えていますが、そういうことや、あるいはこれもお話に出てまいりました心理的ないろんな心のケアの問題なども少し考えなきゃいけないだろうというふうに思います。

 そういった施策をさらに強化していく幾つかの柱がありますが、非常に多岐にわたる分野を、そのように個々の問題について具体的にできるだけの努力をその問題の特質に応じて最大限政策の具体化をしていくということがまずは大事だと思います。しかし、基本法みたいなものでどういう理念やどういう施策の遂行についての裏づけをするかということについては、やはりそういう基本法が役に立つという部分もあれば、例えばその際に刑事手続上の別な要素の配慮、これは杉浦提案者がお話しになったようなことや、他の損害を受けた方々に対する補償との均衡とか、そういったことなどもありますので、基本法を、民主党も提案されているし、また今、杉浦提案者のお話だと与党でもそういうことを考える可能性もあるような示唆をするようなお話もありましたが、その検討自体は非常に意義あることだと思います。ただ、検討するに際しては、問題によっては慎重な検討を要することがあるだろうという認識を持っております。

○江田五月君 大臣がここでやりますと答えるとやらなきゃならぬことになるから、なかなか答弁は大変だと思います。お察しをしますが、繰り返すようですが、社会の質の問題なので、犯罪にしてもその他のことにしても、私たちの社会はいろんな問題を抱えた社会なんです。それはそういうものなんです。それをみんなで引き受けていくという度量がないといけないということです。

 これはちょっと言葉じりをとらえるみたいで申しわけないんですが、保岡大臣が本会議で答弁をされている言葉の中に、少年非行の芽を摘み取るという言い方があったんですね。私に言わせたら、摘み取っちゃいけないんだという思いがあります。本会議で、「おっしゃるとおり、いじめが非行に結びつかないように、家庭や学校、地域などが連携して非行の芽のうちにそれを摘むという、保護者などの相談を受ける窓口、その他の工夫がいろいろ大切なことだ」と、まあ言葉じりですからいいんですけれども、摘むというのじゃなくて、とにかくそういういろんなものを大切に抱えながら、温かい社会、みんなが本当に思いやることができる、気持ちを通わせることができる、そういう社会をつくっていくという発想が大切だろうと思います。

 犯罪被害者のことは、個別の施策の根本に犯罪被害者はそういうことを社会に求める権利があるんだと、これが今国連でも樹立された一つの考え方であって、そのことを大切にしようじゃないか、こういうことを申し上げているわけで、摘み取るという発想で、とにかくずっとなくしていくという発想ですととんでもない差別社会になってしまうと。言葉じりのことはもういいので、私の言っていることはおわかりいただけていると思っております。

 さて、犯罪被害者のこと、これが一つ。もう一つは事実認定、ここでどうも今の少年法はちょっと弱いということがありまして、家庭局長、その事実認定のところで弱いのでというようなことも含め、今の少年保護体制について裁判所側からこんなことをしてもらえたらいいなと思っておるということを三点挙げておられますよね。あれを簡単にでいいですからちょっと挙げてみてください。

○最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 御説明申し上げます。
 事実認定の問題につきましては、大方の事件においてはそう問題なくこれまで運用上の努力でやってきているというふうに認識しているわけでございますけれども、しかしながら非行事実を激しく争うような事件におきましてはいろんな面で困難にぶつかっているというのが現状でございます。

 今、委員から御指摘のあった三点ということで申し上げますと、まず第一は、裁判所内部においてその多量の証拠でありますとかあるいは証言等についての多角的な吟味を行う必要があるんじゃないか、こういったことでございまして、それに対応するものとして裁定合議制の導入をお願いしたいというのが裁判官の意向でございます。

 第二の点でございますが、これは裁判所内部というよりはむしろ少年の述べていることについての多角的な吟味の場を設けることが必要だろうということでございまして、少年の弁解等について、少年の立場からの資料を収集することはもとよりでございますけれども、その少年の立場とは違う立場から吟味する必要もあるだろうと。こういった観点からは、裁判官が一人二役を兼ねることはなかなか難しい面があるものですから、検察官に審判の協力者として関与いただくことを考えてはどうだろうかというのが第二の点でございます。

 第三の点は、事案が難しくなってきた場合には観護措置期間に非常に苦労があるということでございまして、現在四週間ということでございますけれども、証拠調べを行うような必要がある場合におきましては四週間以内に適切な事実認定の審理を行うことは難しいという状況にあるわけでございまして、そういった面での観護措置期間の延長をお願いしたいと。

 以上三点が家裁の裁判官の大多数の要望であるというふうに申し上げてよいかと考えておる次第でございます。

○江田五月君 その三点についてそれぞれに問題点を検討していきたいと思っておりますが、私どもは、事実認定は確かに今の少年法は弱いところがあると。もちろん事実認定の困難に逢着する事件というのは全体の事件からいうと本当にもうわずかなことですけれども、その点は何か考えなきゃならぬというので、私たちの考え方は対審構造というメニューをここへもう一つ用意をしたらどうなんだろうかということでございます。これは後ほど。

 そして三つ目、これは今の少年の変化。変化といっても、人間が他の動物よりも著しく早産で生まれてきて、そしてずっと長い年月をかけてだんだん個体に育っていくという、そのことは何も変わっていませんね。人間のDNAが何か変わったとかいう、そんな話は聞いたことがないので、変化の面と変わっていない面と、そこはよく見なきゃいけないと思いますが、いろんな変化があることは確かです。

 しかし、少年が変わってきた変わってきたといって、我々大人の方は何の変化もないんだ、大人は依然として立派な大人で、少年が最近ひどいから何とかしてやろうという、それもちょっと違うのかなと。ひょっとしたら少年の変化というのは大人の社会が反映をしているので、保岡大臣も少年非行は社会の鏡だと答弁でもおっしゃっておられますが、むしろ私たちは今の少年のいろんな問題行動の前にたじろがなきゃいけないかもしれない、私たち自身がむしろ考え込まなきゃいけないのかもしれない、そういうことだと思いますが、それはそれで置いておいて。

 私たちの方は、成人年齢というものを十八歳まで引き下げて、十八歳以上は大人の仲間だと。選挙権もあるいは民法上のいろんな権利も、もちろん刑法上の権利も義務も十八歳からはもう大人と、これもそういう法案を用意しております。そのほか、刑事処罰可能年齢の十四歳への引き下げ、あるいは命を奪った犯罪についての取り扱い、こうしたことについて与党の方が提案をしておられまして、それについても我々なりの検討を進めてまいりました。

 現代社会の重要課題の一つである少年問題。しかし、決め手となると我々も悩みました。処方せんを見つけることはなかなか難しい。しかし、悩んでじっとしているわけにもいかないというので、今申し上げたような提案をしながら、与党案についての修正、これもまとめました。そして、昨日、少年法改正案について与党の提案者の方々あるいは参議院の方々と私ども修正協議をさせていただきました。

 少年のことですから、政党が違うから、政局がどうなるか、選挙がすぐそこ、ここはひとつ選挙のことを考え、そんなことじゃなくて、幅の広い合意を国会の中でどんなに苦労があってもつくろうという努力を私たちもしたいと思っていますので、ぜひ修正協議には真剣に対応していただきたいと思っております。

 私たちの修正案の概略は、十四歳への引き下げ、これについては後でもっと申し上げますが、引き下げて刑事処分、十四、十五の少年も刑事処分の道を開くが、しかしその場合には刑事裁判の当事者としての能力が十四、十五は足りないので、必要的弁護ということが要るのではないか。さらにまた、十四、十五については刑の執行も教育に配慮した執行にすべきであって、何か少年院と刑務所とがわけがわからないようになるというのは困るのではないかと、そんなようなことで修正。

 それから、十六歳以上の少年については、故意の犯罪行為で死亡の結果が生じたと、これは先ほど麻生さんは大変重大なことなんだと。確かに重大なことではあります。しかし、犯罪としての悪質性ということで見ると、故意の犯罪行為の結果、人の死に至った場合というのはさまざまなものがある。一発ぽんと殴って当たりどころが悪くて結果として死んでしまった。殴ることについては故意ですから、暴行の故意で傷害をさせるつもりもない、ただ殴る暴行の故意。しかし、それで結果として死んでしまったら、これは傷害致死に当たるんですね、この与党案では。あるいは、絶対殺すと大変強い決意を持って犯罪行為に入念に取り組んで行為に及んだ、しかし幸い死ぬところまで行かなかった、そうするとこれは当たらないんですね、与党案では。

 それはそうじゃありませんか。いかがですか。

○衆議院議員(麻生太郎君) それを判断されるのが裁判所だと思っていますので。同じ殺人の条件の中においても、故意の場合も未必の故意の場合も、いろいろな場合があるとは思いますけれども、それを判断するのは裁判所なのであって、この裁量の中に幅広く認められているのであって、明らかに故意に殺そうという意識を持って殺した場合とそうじゃない場合と、同じ殺人でもその裁量の範囲というのは、これはいろんな形で、裁判所がその段階で保護観察処分にするのか少年院送りにするのか、もしくはいわゆる刑務所に送るのかいろいろ、少年刑務所に送る等々の判断は最終的には一つ一つの条件が全部違いますので、それに基づいて判断を裁判所がする裁量はこの法律の中でも同じように与えられていると思っております。

○江田五月君 今のお答えは、部分的にここは重要なことを言ったなというところがございます。それを大切にしたいと思いますが、故意がなくて殺人ということはないんですよ、故意がない場合の人が死んだ結果というのは傷害致死とかいうことになるので。

 ですから、私が聞いたのは、与党案は、故意で殺人行為に及んだけれども死ななかった、この場合は入りませんねということを聞いたんですが、いかがですか。

○衆議院議員(杉浦正健君) その場合は原則逆送のカテゴリーには入らないことは明らかでございます。

○江田五月君 ですから、まさにそれは麻生さんおっしゃるとおりで、個別のケースがそれぞれあるから、だからやっぱり個別に判断をしながら裁判所の裁量で最適の処遇を判断していかなきゃならぬというのはもう基本の基本だと思いますね。
 それはそれでいいですね、麻生さん。

○衆議院議員(麻生太郎君) 結構です。

○江田五月君 そういうことで、私どもただいま申し上げましたような修正案を用意しております。

 さてそこで、実は私もきのうの夜いろいろ質問を考え、私のところの政策秘書もいろいろ徹夜で考えて、朝、政策秘書と打ち合わせをすると、政策秘書の方の質問項目が七十二項目ありまして、到底この八十分では足りないと思うんですが、もっともっと質問をしなきゃいかぬと思っておりますが、まあ前へ進めます。

 審判のやり方について改正をされるということですね。私どももこれはこれでいいかなとも思いますが、今の二十二条一項「審判は、懇切を旨として、なごやかに、これを行わなければならない。」ということを変えて「自己の非行について内省を促すものとしなければならない。」と。もちろん「懇切を旨として、なごやかに、」は当然。

 これは、なぜこういうことを加えなければならぬとお考えになったんですか。

○衆議院議員(谷垣禎一君) 「審判は、懇切を旨として、なごやかに、これを行わなければならない。」と、こういう規定がございますのは、少年審判の手続というものが少年を保護して教育する場である、こういう考え方から「懇切を旨として、なごやかに、」という規定が入っておりまして、そして少年の年齢や性格に即して、わかりやすく、少年あるいは保護者の信頼を得られるような雰囲気のもとで審判を行えと、こういう趣旨だろうと思うんです。

 しかし、少年の保護をしながら健全育成を図っていくということが少年法の目的であるとしても、少年に真摯な反省を促していく必要があることは否定できない。したがって、そういう必要性のある場合には毅然とした態度で臨むことはやはり必要な場合がある。むしろ当然のことだろうと思うんですね。しかしながら、二十二条の現行規定の文言ではこの点が必ずしも明らかになっていない場合があるのではなかろうかと。

 非行のある少年にとって審判は健全育成を図るための教育の場であるということを明らかにする趣旨からこういう規定を入れさせていただいたということでございます。

○江田五月君 ということは、現在の少年審判の場が自己の非行について内省を促すものになっていないという判断でこういう規定が要るというふうにお考えになったわけですか。

○衆議院議員(谷垣禎一君) 審判のありようというのはいろいろだろうと思います。
 ただ、私どもは、今回の全体の改正の中で、教育あるいは少年の健全育成、保護を図っていく場合にも、場合によっては規範に直面させ、あるいは自分の行った事実に直面をし、そして被害者の感情等に思いをはせる、こういうようなことがやはり必要であろうと。今の少年全体の傾向を見ますと、家庭教育あるいは学校教育、社会の秩序の中で規範というものが必ずしも内在化していないというところに一つ問題があるのではなかろうかと。

 したがって、保護ということを前提としながらも、この法律の上にその内省と、内省ということを通じて自分の犯した行為あるいは規範、こういうものに直面させる機会が必要ではないかと、こういう考えで設けたわけでございます。

○江田五月君 私が聞いたのは、今の審判でそういうことが行われていないという認識のもとにこういう改正をやられようと考えたのかということです。

○衆議院議員(谷垣禎一君) 今までの規定自体、和やかに行う、懇切を旨とするという規定の中にこういう真摯な内省を旨とするということが含まれていないとは思っておりません。今までの審判の中にも、当然今までの規定の上でもそういうことが行われてきたのであろうと思います。

 しかし、先ほど江田委員がおっしゃいましたけれども、私も少年審判の場というのはほとんど経験がございませんので、個々がどうであったかということを聞かれますと、個々の運営の中身については詳細に申し上げる知識は持ち合わせておりませんが、全体の少年の傾向を見ますとこういうことが必要であろうという判断で入れたわけでございます。

○江田五月君 家庭局長、どうですか、今現実に家裁の審判で自己の非行について内省を促す、そんなことはやっていないんですか。

○最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 家庭裁判所の審判の具体的場面におきましては、これは個々のケースはあろうかと思いますけれども、基本的には、裁判官といたしましては、少年自身が自分の犯したことについて十分内省を深めて、そして立ち直りのきっかけを与えるような教育的な働きかけを行っているのが一般であろうと承知しておるところでございます。

○江田五月君 それはもう当然なんだと思いますね。
 国家の刑罰権の発動の一つの態様として、一方では刑事裁判というものがある、しかし他方で保護手続というものがある。虞犯がありますけれども、虞犯は例外として、非行事実が認定できなかったらそういう刑罰権を国家は持つことができないわけですから、そういう刑罰権というものが背景にある手続で、そこへ子供が立たされる、そうすると、どうしてもそれはもう手続の性格上厳しいもの、いかめしいもの、たじろぐもの、そういうものにならざるを得ない。

 しかし、それではいけないというので、この団藤、森田氏の御本によると、「「懇切を旨として、なごやかに」とは、少年審判の有する性格の一面をとくに強調して表現したものである。」と。そういう特別の強調が必要だからあえてこう書いてあるわけで、内省を促すとかというようなことはもう当たり前なんです。

 審判のやり方、ここにいろいろなことが書いてありますが、「事案の内容や少年の心情に応じて工夫する必要があることはいうまでもない。人違いの有無、年齢の確認、事案の内容等について聴く場合にも、ケース・ワークにおける面接の技術、人と人との微妙な出会いの心理を深く心得ねばならない。」云々ということで、これはそのとおりだと思います。

 あるいは、「その場合、審判に当たる裁判官の人柄と心構え、その誠意と余裕のある態度が、重要な要素となる」と、こういうことを書いて、審判に当たる者は本当に気をつけなきゃならぬということを書きながら、同時に、「したがって、まず少年が自己の非行と今までの生活態度について反省し、とくに反規範的な行為や行状に対する社会的責任を自覚したうえ、将来どのような態度をとって環境に対処し自己を律してゆくべきかを、深く自己洞察するようにし向けることが肝要である。」と。これは書いてあるだけではなくて現実に行われていることだと私は思います。

 そこで、ではなぜ与党案はこういうものを入れたか。それは、私に言わせれば、善解するんです、皆さんの心をおもんぱかって言っているので、間違っているかどうか聞きたいんですが、社会がそう思っていない部分があるから、何か少年保護とか言って少年審判というのはまあ子供を大切に大切にとやっているように社会が思っている向きがあって、それは誤解ですよということを社会に対してメッセージとして政治から発信するためにあえてこういうことを書いた、要は家裁はそういうことをやっているんだということを世間の人に知っていただくために書いたんだと私は善解しておるんですが、いかがですか。

○衆議院議員(谷垣禎一君) 善解していただいて大変ありがたいと思うんですが、内省を求めるとかいうのは当たり前のことで、ここに書いてあるのは別な面を強調しなければいけないからだと、こういうふうに江田先生はおっしゃいましたけれども、私どもは当然のことであっても法律に規定することに意味がないとは考えておりませんし、またもう一つ、これはあるいは私個人の考え方になるかもしれませんが、やはり内省とかそういう面が少し弱くなっている社会風潮が私はあると思います。裁判所自体の運営がどうかということとは別に、いろいろな問題について内省をするということが少し希薄になっているのではないかというふうに私は感じることがございますので、こういう規定を加えていくということは無意味なことだとは考えておりません。

○江田五月君 だから、私も無意味だと言っていないので、実際に家庭裁判所ではそういう運営をしている。家庭裁判所の審判の運営を変えろという意味じゃなくて、それはもちろん家裁の中だっていろいろな裁判官がいますから、それはさまざまのものがあるでしょう。こういう審判はどうかなということもそれはあるかもしれませんが、そこへ何かを言っているんじゃなくて、むしろ世間に対してこの少年保護というものについての納得を得るために、もう一度、少年保護というのをみんなで大切にしてくださいね、こういうことで行きますからということを言うために、世間の納得を得るためにこういうことを入れたんじゃないんですかと。助け船です。

○衆議院議員(谷垣禎一君) 助け船を出していただいてありがとうございます。
 ただ、これはやはり法律でございますから、世間一般に向けられているだけではなくて、もちろん裁判官にも向けられている。だから、私は、先ほどから繰り返し申し上げておりますように、当然のことを書き加えた、今までの法の中にこういう精神がなかったとは思わない、当然前提とされていたんだろうと思いますが、当然のことを書き加えた、こういうふうに考えております。

○江田五月君 押し問答してもしようがないので。
 当然のことならなぜ書き加える必要があるのか。私に言わせれば、当然なことだけれども書き加える必要があった、それは社会が少年審判というものについて誤解をしている面があるからということだろうと思うんですが、よろしい。

 総じて今度の改正案について私がやっぱり疑問なのは、今のことでも、明らかでないのか、私は明らかだと思いますが、皆さん方は、少年審判、少年保護の現場のことを、こう言ったら申しわけないけれども、十分踏まえて出されているというよりも、むしろ世の中が少年審判について持っているイメージ、それに何かある意味では引きずられたのじゃないか。もっと善解でいい言い方で言えば、世間が少年審判に持っているイメージを変えていただこうと、そういうことでお出しになっている。

 だから、例えばさっきの原則逆送の話でも、麻生さんは、家裁がケースごとに裁量で判断するということはそのとおりでいいんだと。現に今そうやっているわけで、現に今逆送のケースももちろんたくさんあるわけです。しかし、世間から見ると、人を殺したのに家裁はただ少年を守って守って、でも世間は恐ろしい少年がいっぱいその辺にうろうろしてもう怖くてしようがないというふうに見ている面が一部ですけれどもあるので、それについてそうじゃないということを言わなきゃいけないからああいうことを書いたというように、それでもちょっと善解をし切れない面があるから私たちはさらに修正しろと言っているんです。

 さて、それは置いて、冒頭ちょっと申し上げましたが、私は戦後、今日までの少年法と家裁による少年保護、これはもちろんいろんな問題を抱えながらではありますが、総体としては、全体としては合格点じゃないのかなと、やっていることは。世間に支えられていないという面があるからこれは何かしなきゃいけないんですが、世界じゅうの、特にいわゆる先進国、先進工業国で、もう至るところで少年の暴走が見られているわけです。

 アメリカなどというのは、銃社会ということもあって大変な事件が次々起きて、そしてアメリカでもいろんな努力をする。重罰化、それが功を奏したのか奏しないのか。重罰化にしなかったら犯罪はもっとふえていたんじゃないかとこの間麻生さんもお答えになったりしていましたが、その点もまた議論しなきゃならぬかもしれませんが、大変です。学校の中に制服を着たお巡りさんが入ってこなきゃいけないというような事態も起きている。スクールポリス、それも一つの対応かもしれません。

 そのように、もう世界じゅうの先進国でいわば少年の暴走というのが起きているが、日本は、大人の方もそうですが、比較的治安良好で、大人では暴力団や麻薬や銃やいろいろありますが、少年の方は、そうはいっても我が国の少年犯罪の現状というのは世界のそういう国々と比べたら平穏に推移をしている、多少の増減はあっても。これはやっぱり家裁関係者、少年保護関係者の大変な努力があったからで、この皆さんには我々は拍手を送ってあげなきゃいけないと思いますが、いかがですか。

○衆議院議員(杉浦正健君) 江田先生のおっしゃった家裁の裁判官、調査官等の皆さんの努力を我々は評価していないわけではありません。ただ、ここ近時の少年の変化、その背景には、親の問題もありますし社会の変化もありますが、凶悪な年少少年による犯罪が続発している、そういうものに対する対応がし切れていないんじゃないかという面があるんじゃないかと思うんです、システムとして。

 自民党少年法小委員会ではもう随分長い間多くの議員が参加して議論をいたしました。先ほどの谷垣先生に対する御質問にもあるわけですが、そういったたくさんの議員の方々の気持ちの中に広くあったのは、最近の家裁は少年に対して処分が甘過ぎるんじゃないかという認識があったのは間違いないところであります。

 和やか云々の改正、二十二条の改正に落ちついたんですが、一番最初は第一条を改正すべしと、理念を。健全育成と同時に、少年にルールを守れ、規範意識を持てというのを加えろという議論からスタートいたしました。議論した結果、少年の健全育成の中にはルールを守れという意味も入っているであろうという議論が大勢を占めまして、一条の修正はしないことになったんですが、それならば、それはそれとして、ではここの二十二条を変えようというふうに移っていった。三党協議でもいろいろ議論したところでありますが、そういう流れがあったことは事実でございます。

 そういう議論の中で、家裁の現状については私ども具体的にどういう審理をされているか詳細な知識は持ち合わせておりませんが、少なくとも家裁を中心とする少年に対する司法システムに少し少年に甘過ぎるところがあるんじゃないのという多くの議員の感覚から議論が始まってこういう結果になっていったということは御認識いただいてよろしいかと思います。

○江田五月君 冒頭申し上げましたように、私が家裁で審判を担当していたのは一九七二年から七五年の一時期なんですが、一生懸命やりましたが、今考えてみたら本当に赤面の至りのような気もする、自分の至らなさばかりが思い出されるんです。あるとき調査官に、少年があの裁判官は嫌いだと言っていましたよと、こうちょろっと言われたことがありまして、今でも思い出すんですが、調査官の少年とのコミュニケーション能力と私のそれとの格段の違い、そしてそれを何とか若い裁判官に悟らせようという調査官の思いやり、そんなことを思い出すんです。もう一遍、家裁で審判をやりたいなと思ったりもしますが。

 何が一番少年審判で大切かというと、やっぱり内省を促すのにお説教だけじゃなかなかうまくいかない、少年たちの心のひだに分け入る、自分自身の心の中ものぞかせる、そういう刑事事件とは全く異なる営みなんですね。

 成人の刑事事件は心のひだだとかそんなことは余計なことなんで、余りそんなことをやってほしくない。罪を償えばいいんだろう、罰を受ければ、もうそれ以上何か言われる筋合いのものじゃないと。いわばそれがある種の基本的人権の保障でして、だから罪刑法定主義とか予測可能性のこととか法的安定性とか言うわけですが、少年の場合はそうじゃないところがあるので、ある意味では非常に危険な営みを、しかし非常に重要な営みを少年保護というものはやるので、だから刑事司法よりももっともっと奥が深い、そのことをみんなやってきたわけです。

 さて、そういうことをやる一番重要な立場にいるのは家裁の中でだれかというと、調査官なんですね。調査官を本当に大切にしてきたかどうかということなんですが、これは伺いますが、八条の調査、これは家庭裁判所調査官によるものですかどうですか、あるいはそういうふうにしておられますかどうですか。まず、刑事局長、法の解釈ですから。

○政府参考人(古田佑紀君) 八条の定めておりますことは、家庭裁判所は審判に付すべき少年があると思料するときは事件について調査しなければならない、二項で、家庭裁判所調査官に命じて少年等について必要な調査を行わせることができると。したがいまして、法文上は、原則は裁判所がするというのが一項の趣旨なんだろうと思われるわけです。それを、八条二項に書いてありますような少年、保護者または参考人の取り調べその他の調査を調査官にさせることができるという、法律上はそういう仕組みになっています。

 ただ、その運用の問題といたしまして、調査官の役割とかそういうふうなことから、調査官を考慮して家庭裁判所は適切に運用されるということを恐らく法は期待しているものと思われるわけです。

 実際の運用の問題につきましては、これはちょっと私どもの方では必ずしもよく把握できませんので、最高裁の方からお聞き取りいただければと思います。

○最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 今お尋ねの第八条の調査ということについては、その趣旨は刑事局長が説明されたとおりだと思いますが、要保護性に関するいわゆる社会調査という分野につきましては、事柄の性質上、そのための調査を行う専門職である家裁調査官が置かれておりますので、多くのケースにおいては家裁調査官に調査を命じまして、その調査官が少年、保護者等の面接を通じてその少年の持っている問題、環境の持っている問題等の調査を行っているというのが現状だろうと承知しているところでございます。

○江田五月君 多くのケースにおいてはというお話ですが、確かに八条一項では裁判所が調査をしなきゃならぬ、二項では家裁調査官にそれを命ずることができると。しかし、現実に少年保護事件の核心部分というのは、今の少年とのコミュニケーション、あるいは社会的な環境の整備その他いろいろ、これはやっぱりその専門職である家裁調査官に行わせると。

 多くの事件とおっしゃいましたが、もちろん鑑別所も調査をしますね。そっちもあることを踏まえてですが、家裁調査官による調査をしない事件というのはあるんですか。

○最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 非行事実の存否について問題がある、こういった場合については調査官の調査をしないで済ませることがもちろんあるわけでございますが、ただその少年の処遇を選択する必要がある、要保護性を判断する必要がある、こういった事案については調査命令を行うのが通常だろうと思うわけでございまして、私が申し上げている趣旨は、個々の事案についての裁判官の判断に係るものでございますから、必ず行っているというふうに申し上げることはいかがなものだろうかという趣旨でございます。

○江田五月君 家庭局長はそれぞれの個々の裁判官の独立ということがあるから物が言いにくいというのはよくわかります。それはよくわかるので、ここでどこまで家庭局長に答弁を求めるかというのは私としても難しいところなんですが、それをわかりながら聞くんですけれども、今の非行事実に問題がある、争いがある、しかしその非行事実が要保護性につながっている面もありますよね。これは強くあるので、非行事実についても調査官は調査をしますよね。なぜこういう非行、犯罪を犯したの、あなたこれ本当にこうやったの、そのときどんな気持ちだったのなどというところから心に分け入っていくわけですからね。

 だから、私は、現実には明らかに年齢超過とか、あるいは罪となるべき事実が書いてないとか、あるいは十四歳未満だとか、十四歳未満の場合は多少いろいろあるかと思いますが、という本当に例外的な場合を除いて、現実には全国の家庭裁判所で調査命令を出して調査をしておる。私自身の経験でいっても、もう一週間後には年齢超過になるという場合でも、とにかくそれでも家裁で何かをやるということはしなきゃいけないというので、もうとにかく調査命令を出して、調査官にただ記録だけでも見て家裁調査官的判断を示してくれと。

 家裁調査官は調査したら処遇意見を出すことになっていますね、規則でしたかで。それはもうある種の必要的調査ぐらいの運用をされているんじゃないかと思いますが、いかがですか。

○最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 実際の基本的運用は委員今御指摘のとおりだと承知しております。

○江田五月君 さてそこで、今度の改正案二十条二項ただし書きの調査ですが、これはどうもよくわからないところがあるんです。今までの御説明ですと、八条の調査がすべてにかかってきて、そしてその八条の調査と別に二十条二項ただし書きの調査があるわけではないという、これはそういう解釈でよろしいですか、提案者。

○衆議院議員(谷垣禎一君) それで結構だと思います。

○江田五月君 そうすると、二十条二項ただし書きあるいは二十条二項の原則逆送と言われる、原則とまでいうような運用を考えているわけではないよという声も与党側から聞こえてきて、それならもっと表現の仕方があるんじゃないのという気もするんですが。

 いずれにしても、この逆送については、これは先ほどからいろいろ家庭局長とのやりとりでおわかりのとおり、特殊な例外を除いて調査はちゃんとやるんですね、そのことを提案者としては予定されているんですね。これはいかがですか。

○衆議院議員(谷垣禎一君) それで結構だと思います。
 先ほどの御議論の中にあるように、具体的には裁判官の裁量になると思いますけれども、原則として調査が行われるということを予定しておる、こういうことでございます。

○江田五月君 だめ押しの確認ですが、その調査は家庭裁判所調査官の調査ですね。

○衆議院議員(谷垣禎一君) はい、先ほどから御議論がいろいろございますが、そうでございます。

○江田五月君 その原則、例外、これは余り詰めてもしようがないんですが、原則逆送ということにしたんだとおっしゃるので、原則、例外というのは数の比較でいくんですか。

 わかりますか。つまり、その範疇に入る事件のうちで逆送になったのが何%で逆送じゃない保護処分になったのが何%だからこれは原則ということが守られているとかなんとか、そういう判断をされるんですか。

○衆議院議員(谷垣禎一君) 私どもは必ずしも数で考えているわけではありません。この規定はやはり死という重い結果を生んだ場合どうなるのかということの原則をはっきり示したということで、この運用の結果、数字がどうなってくるかというのはまた別のことでございます。

○江田五月君 そうですよね。家裁の裁判官が裁量で決めていくときにこういうことを大切にしてくださいねと、そういう趣旨だと理解をしたいと思います。

 さて、時間がだんだんなくなってまいりましたが、いっぱい聞くことがあるのでどれを聞こうかと思っておるんですが、先ほど家庭局長は事案複雑、証拠も多岐にわたってなど、子供ですからあっちへ行ってちょろちょろ、こっちへ行ってちょろちょろ、しかも大勢でいろいろ夜の夜中に走り回って大変だと、これはどうしても合議で三人でやらせてもらわなきゃとても手が回らぬと、こういうことだというふうにおっしゃったんですが、私はこれは聞きようによっては、裁判官は何を言っているんだというようにも思うんですよ。証拠がたくさんあって、事実もたくさんあって、あっちのスーパーマーケット、こっちの自動販売機、やれ向こうの学校へ忍び込んでなどといっぱいあって、だから裁判官三人で分担するんですか。合議制というのは分担制なんですか。

○最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 合議は分担ではございませんで、その記録あるいは証人を調べた場合の証言の内容、これにつきまして三人の裁判官がそれぞれの経験を踏まえて、英知を集めて、その内容についての吟味を重ねていって心証を形成していく、こういうものと承知しております。

○江田五月君 そうなんですよね。一人一人の裁判官が事件全体についてちゃんと審理をして自分の判断を持たなきゃいけない。それを寄せ集めて、そしてお互いに議論し合って、なるほどこれはこうだね、こうだねと。その議論をするときに、自分の持っている結論をそのまま墨守するんじゃなくて、お互いに影響し合いながら結論をつくっていくというのが合議で、事案が複雑だから、たくさんあるから、あっちへ行っていっぱいやってきているから、だから三人でやらせてほしいというのは裁判官としての覚悟が問われるんじゃありませんか。

○最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 合議を必要とするということで裁判官がいろいろ申し上げている趣旨は、たくさんの事案があるから合議にしてほしいということではございません。

 例えば一つの事実関係につきましても、今、委員から御指摘がありましたとおり、少年については共犯事件が大変多うございまして、その共犯者の証言が相当複雑に錯綜する場合が少なくないわけでございます。そういった意味において、一つの事実をめぐって提出されている、あるいは得られた証言等、これを多角的な角度から吟味する必要がある、こういったところから合議の必要性が言われているものでございます。

 裁判官一人一人はもちろん自分の裁判官としての経験を踏まえて、精魂込めて事実認定に当たるわけでございますが、やはりその面についての客観性をより高めていく必要がある、それがひいては少年の納得につながるでありましょうし、国民の理解にもつながるだろう、信頼確保にもつながるだろう、こう考えておる次第でございます。

○江田五月君 頭から合議制を否定しているわけじゃないけれども、いろいろ裁判官はこう思っているんだということを家庭局長の方から聞くと、何か私どもが裁判官をやっていたときと随分少年も変わったかもしらぬけれども、裁判官も変わったな、どういう覚悟で裁判をやろうとしているんだと、そういう一喝を食らわさなきゃならぬなという、そんな思いもするんですよ、本当に。やっぱり真剣にそこのところは考えていただきたいと思います。

 さて、検察官関与なんですが、検察官関与によって今の少年審判の基本的な構造、基本的な思想、これが変わるわけではない、そういう御説明で、それはそれでそうだと私は思います。思いますが、それなら余計困るんじゃないかと。つまり、刑事訴訟の一つの概念で嫌疑というのがありますよね、サスピション。最初に事件を認知する、そこから始まって警察段階で捜査がなされて次第に嫌疑がだんだん固まっていく、それを検察官が引き受けて、さらに法曹資格者の目から見てきっちりと嫌疑を固めて、そして普通ならそこで起訴するか起訴しないかの判断を検察官が加えて、起訴状一本主義で、嫌疑は裁判所へ移るんじゃありません、その段階は起訴状一本主義で何もない、白地の裁判官のところへ持っていって裁判をしてくれと、そして検察官と弁護人とがちょうちょうはっしをやって裁判官の心証をつくっていく。

 しかし、家庭裁判所はそうじゃない。そうじゃなくて、その嫌疑を一件記録ごと家裁へ持ってきて、そして裁判官がそれを読んで嫌疑を、いわば家庭裁判所の裁判官がしっかり頭の中にたたき込んで審判に臨むという構造なんです。その嫌疑をずっとここまで固めて持ち運んできたのは、その主導をしたのが検察官で、その人が事実認定の手助けのためにその審判構造の中に入ると、少年はどう思いますか。わかりますか。

○衆議院議員(谷垣禎一君) 江田先生がおっしゃるのは、起訴状一本主義で区切れていない、予断排除の原則もない中でこういう構造をとるのは問題ではないかという御指摘なんだろうと思います。

 ただ、少年審判というのは、江田先生にイロハのイみたいなことで非常に申し上げにくいんですが、やはり保護ということで、職権主義的な構造をとって、そこで裁判官が保護をし健全育成を図っていこうという仕組みですから、なかなかそこは欧米法で言っているような当事者主義のような構造にはなりにくいんだろうと思いますね。
 それで、そういう基本的な仕組みの中で、これも何度も申し上げていることでございますけれども、裁判官だけではなかなかやりにくい場合がある。例えば、事実を少年に明らかにしていかなきゃならない場合に、余り裁判官ががんがん言うと少年との意思の疎通も途切れてしまうというようなこともあり、そこではやはり検察官に関与していただく必要があるんではないか。こういうことでつくられているわけですので、なかなかそこは、当事者主義構造をとったときのようにきれいに、きれいといいますか、そちら側にぽんと移れるわけではない中でこういう仕組みを設けたということだろうと思います。

○江田五月君 これはもっともっと議論をしたいところですが、本当に時間がなくなりました。
 十四歳にまで刑事処分可能年齢を引き下げるという話なんですが、私たちもそれはそれなりにある種の理由があるかなというふうにも思っておるんですが、ただ一つ、なぜ刑法は十四歳で少年法は十六歳となっておるか。同じ刑罰と言っているのに基準が二つあって法の中で分裂しているじゃないかというダブルスタンダード、そういうお考えについては、私は一つは行為時のことを言っているんだと思う。行動したとき、犯罪を犯したとき十四歳。もう一つは送致時ですから、送致をされてその後審判というか刑事裁判を受ける、そのときのことを言っているので、そこの違いというのがやっぱりあるんだろうと。

 つまり、十四歳というのは刑事責任年齢ですから、いい悪いはわかる。是非善悪弁別能力というんでしたか、そういう能力、いい悪いぐらいはもう十四歳になったらわかるよという話です。それより小さい子供はやっぱり十分わからないので、それはそれで別の措置の仕方をしなきゃならぬというので、児童相談所、児童自立支援施設というようなものがいろいろございます。家庭裁判所だって、都道府県知事やなんかから持ってこなきゃいけないとか、いろんなことがありますが、十四歳以上はそういうこと。

 十六歳以上というのは、是非善悪弁別能力じゃなくて、刑事裁判の中で自分がこういうことを言えばこういうふうにそれが報いとして返ってくる、報いである場合もプラスになる場合もそれはありますが、そういう当事者として自分自身の裁判の中での行動がどういうことになっていくかという判断をする能力、当事者能力、その違い、それが行為時と送致時の違いということで出ているんじゃないかと。

 したがって、十四、十五というのは、これはやっぱり刑事裁判を受ける、その場合はもちろん無罪をかち取る権利もあるんですよ、そういう刑事裁判の当事者となる能力が限定的にしかないよと、だからこういうことになっているので、今十四歳までそれを引き下げると、十四、十五のそういう刑事裁判を受ける当事者としての能力は、ではこの立法したときと今とで変わって、今はもうそういう能力があることになったと判断されるんですか、そうじゃないんですかと、そういう問題に突き当たるんです。
 私たちはそういうことも考えて、十四、十五の場合は送致以後の段階でこれは必要的弁護にした方がいいと。そうでなかったら、例えば略式の説明なんか受けたって、十四、十五の子供に略式の説明をして、おまえこれでいいだろうなんて言ったら、自分のいいですと言ったことがどういう結果になるかなどというのは判断させられないですよということを言っているんですが、いかがですか。

○衆議院議員(谷垣禎一君) 刑法四十一条の刑事責任能力というのはもう先生の今おっしゃったとおりだと思うんですね。

 そこで、現行少年法の二十条ただし書きで十六歳を基準時としていることの意味、先生は今当事者能力という観点からではないかとおっしゃったんですね。私これができたとき一体どういう理由でできたのかというのをちょっと調べてみたんですが、当時の政府の提案理由書にも具体的には書かれていない。当時の議論も余り記録に残っていないので、当時どういう議論だったのかよくわからないんですが、私、考えてみますと、当事者能力というのもあるいはあるのかもしれませんが、というよりも、結局この年齢にはどういう処遇をしたらいいのか、教育的な処遇、保護的な処遇が必要なのか、それとも刑事罰というか刑事過程にした方がいいのかという、どういう処分をした方がよいのかということが主眼であったのではないかと、これは私の推測を交えた議論でございます。

○江田五月君 おっしゃるとおり、これは立法過程の中ではなかなかわからない。ただ、私は、これはたしか衆議院段階で刑事局長がお答えでしたかね、いろいろ調べたけれどもわからないと。いろいろ文献を調べてもわからなかったからわからないと言うのもどうも情けない話だなと。自分で考えればいいじゃないかという気がしますよね。どうも最近の教育というのはそういうふうになってしまった、私なども含めてですけれども、という気がしますが、置いておきます。

 私たち民主党は、少年法に対する社会的要請に最も的確にこたえる方策というのは、一つは家庭裁判所の充実強化、もう一つは少年問題に対する地域的ネットワークの構築なんだと、こう思っております。

 きのう、補導委託先、二十五条の二項でしたかね、補導委託先の数というのはどうなっているんですかと。平成十一年で全国で三百幾らでしたかね、十年ほど前も大体そんなものだと。では二十年前は、三十年前はと聞いたら、わかりませんと言うんです。補導委託先をどの程度全国の家庭裁判所が持っているかということさえきっちり把握をしていないというようなことで地域的ネットワークの構築なんということが言えるんだろうかと。

 家庭裁判所というのは司法的機能と同時に社会的機能を持つ、これもこの本に書いてあるんですよ。そういう社会的機能を持った裁判所だというのは非常に重要なことです。ですから、例えば愛知の五千万円恐喝のあの事件でも、家庭裁判所へ何かおかしいんだといって飛び込んだら、家庭裁判所がその相談を受けつけて、そしていろんなことができるような、家事の方では家裁相談窓口がありますが、少年の方にもそのくらいの窓口をつくるとか、そういうようなことをちゃんとやらなきゃいけないんじゃないかと思います。

 いずれにしても、もう山ほど質問があるのでまだまだやりたいんですが、そういうことを含めながら、法改正はただそうしたすべてのことのほんの一歩にすぎない、ほんの一つのことにしかすぎない。その他のこともすべて与党の皆さんとも力を合わせてやりたいということを申し上げ、そして同時に、その一歩を踏み出す少年法改正について大きな合意をこの立法府の中でつくっていただくよう私たちも努力をしますので、皆さんも努力していただきたい。

 その要請はそれでよろしいですね。それを最後に伺って、質問を終わります。

○衆議院議員(麻生太郎君) 結構だと思います。

○江田五月君 大臣、いかがですか。

○国務大臣(保岡興治君) 少年法改正は今度は議員立法で出されたわけでございますが、今後さらに問題をいろいろな角度から検討し、時代の流れや変化、そういったものがさらに明確になって、そういったことを踏まえた将来の改正の可能性というものもあり得る、そういう場合には法務省としても適切に対応したいと存じます。

○江田五月君 終わります。

○委員長(日笠勝之君) 午前の質疑はこの程度にとどめ、午後一時三十分まで休憩いたします。
   午後零時十六分休憩


2000/11/16

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