1985/05/22

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102 衆議院・文教委員会

著作権法の一部を改正する法律案 参考人質疑


○江田委員 社会民主連合の江田五月でございます。四人の参考人の皆さん、本当にありがとうございます。

 大山参考人から、ユーザーの保護というとかく我々忘れがちになるポイントをお出しいただきまして、本当に啓発されたわけですが、それにもかかわらず多少聞いてみたいなと思うことがあります。

 大山参考人は、幾つかの点でユーザーの保護に落ち度があるので、この今回の著作権法の改正反対に近いという御意見ですが、今回の著作権法の改正というのは、今ソフトウェアについて権利性が判例などで出てはきているのですが明確でない。そこで、立法をきちんとして明確にしておいて若干の必要な手当てだけをしておく、その程度のものだろうと思うのですね。

 このユーザーの保護というのは、ソフトウェアに限らず何にでも今時に重要な課題になっておる。権利というものが同時に責任を伴う、義務を伴うのだという形で、例えば、不法行為の一類型としての製造物責任であるとか、あるいはまた契約法をさらに発展させて不完全履行とか積極的債権侵害とか、いろいろな法理でユーザーの保護を図ろう、あるいはメーカー側の競争の態様をいろいろ規制することによって、独占禁止とか品質の表示とか、そういう形でのユーザーの保護、あるいは最近の社会経済の発展に即応して例えば情報公開とかプライバシーの保護とか、いろいろあると思うのです。そういうものを全部今回の著作権法の改正で入れてしまえというわけには恐らくいかないだろうし、あるいはまた、そういうものを全部含んだプログラム法とさっきお話しになりましたが、プログラム基本法というのですかコンピューターソフトウェア基本法というのですか、そういうものがいいのか、それとも今の製造物責任とか情報公開とがそれぞれの法理ことにどんどん発展させていくのがいいのか、これもこれからの課題だと思います。

 いずれにしても、ユーザー保護がいま一歩であるということと今回の著作権法の改正がけしからぬということとすぐ結びつくことでないような気がちょっとするものですから、もう少し先ほどの話を敷衍して説明いただきたいと思います。

○大山参考人 お答えいたします。
 ユーザー保護と著作権という御質問なんでございますが、先ほど申し上げましたように、ユーザー保護という立場に限って言えば著作権はもともとなじまないものであるというふうに私は考えております。なぜならば、文化庁のいろいろなものを拝見しますと、これはそもそも権利者の保護を目的としているからユーザーの保護は考えない、そのように私には理解できるわけでございます。ですから、そういう点で、ユーザー保護という立場に限定していけば著作権法はどだい無理であると考えて賛成しかねるということでございます。

○江田委員 この著作権法改正案は、確かにユーザーを保護するための立法ではないのであって、しかし、コンピューターソフトウェアの権利性がはっきりすることが、コンピューターソフトという一つの分野における流通を円滑にしたり、秩序あるものにしたり、妙な競争が起きるのを防いでいったりということには役に立って、その反射的効果としてユーザーの保護ということも多少関係するかもしもぬけれども、このもの自体は確かにユーザー保護ではない。しかし、ユーザー保護の法律でない法律は全部反対だということになると、これは論理的にどうなるのかよくわからないのですが、紋谷先生に今の点を、ユーザー保護と著作権という大山参考人の御意見に私は先ほど申し上げたような疑問がどうもあるのですけれども、どういうふうにお考えになりますか、お聞かせください。

○紋谷参考人 お答えします。
 元来、ユーザー保護ということだけを取り出してみると、御質問のとおり、これはユーザー保護法というようなものをつくってやらざるを得ない。著作権の今回の改正は、プログラムというものが出てきた、これをどのように位置づけたらいいかということが中心でございます。したがいまして、先ほど私が申しましたとおり、その点においてユーザー保護で取引の安全、迅速というものを考えていくならば、これは業法の問題であって著作権法になじまないということが言える。

 それでは、著作権法というのは本来ユーザー保護を考えないのかというと必ずしもそうではない。元来、一つには著作権でいくということ自体がユーザー保護になっているというか、絶対的な権利でないという点で別個の開発を自由にしている。そういうことと、さらには、弱者保護という言い方の方がベターかもしれませんが、今言った絶対的権利でないという点で弱者保護のものにもなっているし、さらに裁定制度というようなものを設けなかった、これはユーザーに対するロイヤリティーの支払いを高くしなくていいという意味合いにおいてできるということなんです。そして、そういうものに対する弊害は、先ほど申しましたように独禁法や何かの活用によってやっていくべきなんで、著作権法の今回の立法においてはそこまで入る必要性はないし、また入ってはいけない問題ではないかと考えております。

○江田委員 それから、話はちょっと違うのですが、先ほどの大山参考人のお話の中に、著作権であるとか、あるいは恐らく特許権なども頭に入れてのお話かと思いますけれども、この権利の帰属を元請の方でなくて下請の方にどんどん移している、それはなぜかというと、権利者となると責任が生じてくるのでそれを回避するためにやるのだという御指摘がございましたね。大山参考人のその御指摘が一体正しいのかどうか、どうも伺って、なるほどという感じと、ああ本当にそうかな、むしろ例えば税法上の問題とか投下した資本や技術に見合うといいますか対応する権利関係の帰属ということにしようということであるのか、何か必ずしも責任逃れということではないのじゃないかという感じがちょっとしたもので、これは一番そのあたりにお詳しいといいますと三次参考人でしょうか。お答えいただけますか。

○三次参考人 プログラムの開発には、規模、内容さまざまでございますが、最近パーソナルコンピューターでございますとか、それからもう少し大型になりますがオフィスコンピューターでございますとかといったところにつきましては、さまざまな既製のソフトウェア製品を取りそろえて仕事を進めていくということが業界の実態となっております。その際のプログラムの開発につきましては、私どもメーカーサイドからスペックを提示してつくっていただくという形がそもそもでございましたが、その場合は権利帰属が発注者側にございまして、発注者の責任で販売するということでございます。ソフトハウス側につきましては契約に対しまして一定金額をお支払いするということでございます。そういう形態でございますと、でき上がったものが成功すれば百あるいは千売れるかもしれない。メーカー側の企画が悪ければ一本も売れない。そういうことになりましても、すべてのリスクはメーカーがかぶるという形でございます。ただ、昨今そういうビジネスがだんだんふえておりますので、すべての権利をメーカー側には譲りたくない、例えばロイヤリティー収入等を期待したいということで、一部あるいはすべての権利をソフトハウス側で持って自己の商売にしたいというケースが出てきております。これはむしろ積極的な御主張でございまして、メーカー側の責任回避ということには当たらないというように私は理解しております。権利の持ち分等はケース・バイ・ケースでさまざまでございますが、今後そういう形はふえると思います。

 いずれにいたしましても、メーカー側の一方的な押しつけで仕事をいたすわけではございませんので、ソフトハウス側の実力がついてまいりますと、自主的な営業品目として扱われるそういう分野が伸びるのじゃないか、そういうふうに理解しております。

○江田委員 ありがとうございました。


1985/05/22

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