1980/03/28

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91 参議院・地方行政委員会

婦人問題に関する集中審議

参議院クラブを代表して江田五月議員が質問に立ち、母性保護、性教育などの問題をとりあげました。江田議員は、年間六十一万件 (厚生省調ベ)を数える人工妊娠中絶の実情に触れて、家族計画や受胎調節の指導だけでは不充分であると述べるとともに、文部省に対し、性教育見直しの必要を強調し、つめかけたご婦人方や、省庁の方々から「国会でこのような議論ができたのは画期的」「男性議員にはみられなかった大胆な質問」と好評を博しました。


○江田五月君 国連婦人の十年の中間年に当たって、こうして婦人問題に関して予算委員会で集中審議が行われることになりまして非常にうれしいことであると思います。

 婦人問題というのは本当に多岐にわたっておりまして、すでに同僚委員の皆さんからいろんな項目について質問がなされておりますが、私はこうして多岐にわたる問題のうち、多少いままでの方々の論点と違う点、つまり性の問題、これも多岐にわたると思いますが、そのうちの一部分を取り上げて若干の質問をしてみたいと思います。

 もとより男性と女性との間に人間としての違いはないんでありまして、したがって、両性は平等であって差別があってはいけない。これはちゃんと憲法十四条に規定されているとおりです。しかし、同時にこの男性と女性には性の違いがある。その違いは、結局のところ女性は妊娠をする、子供を生む。つまり、女性は母性、母親の性格を持っているんだということ。これが大きく違うところであります。女性は母性という点で保護をされなければならない。母性保護ということが非常に重要、人間としては平等に、そして母性としては保護されるということが必要だと思います。

 妊娠と出産とは女性に対して大変な負担をかける問題でありまして、かつて、この参議院の大先輩であります藤原道子さんという女性の議員の方が、男の人はスイカを十ヵ月間おなかに抱えてぶら下げてみたらいいんだ、そうしたら初めて女性の負担というものがわかるのだというようなことを言われるのを聞いたことがありましたが、私も男ですから想像するだけしかわかりませんけれども、やはり大変なことだと思う。出産した女性がどの程度肉体を、自分の体を傷めているかということは、そういう出産を経験した方のたとえば歯を見ればわかる。歯を非常に傷めて、体を切り刻んで人間社会を未来につなげて行くというそういう仕事をしているわけであります。

 そこで、私は、いまこういう妊娠が不幸に完結されない人工妊娠中絶というのが一体どのくらいあるんだろうかということをまず伺いたいと思います。

○政府委員(大谷藤郎君) 昭和五十三年の統計が一番新しい統計でございますが、人工妊娠中絶件数は総数で六十一万八千四十四件が報告されておりまして、そのうち二十歳未満が一万五千二百三十二件、二十歳から三十九歳までが五十四万三千百八十件、四十歳以上が五万九千六百三十二件となっております。

○江田五月君 年間、厚生省で把握できるだけの中絶の件数が六十一万という大変な数でありますが、私はどうもこれだけの数の妊娠中絶が行われているということにやはり私ども痛みを感じなければいけないんじゃないかと思います。妊娠中絶を制限しろという主張をしているのではありません。優生保護法十四条の制限をいろいろつけろと、要件を厳格にしろという主張をしているのではなくて、中絶に至るような妊娠をなるべく避けるようにやはりみんなが努力をしていかなければいけないんじゃないかと思うのですが、一体、厚生省は、そういう方向で、中絶に至る妊娠を避けるということについてどういうお考えをお持ちなのか、何をしているのか、基本的な考え方だけで結構ですが、お聞かせをいただきたいと思います。

○政府委員(竹内嘉巳君) お答え申し上げます。
 先生先ほどお述べいただきましたように、母性保護という立場から母胎の生命、健康に及ぼす影響というものを考慮いたしましたときに、一般的には特殊な状況に置かれない限り、人工妊娠中絶ということよりもむしろ前向きの立場で、たとえば俗に家族計画と言われておりますような意味での受胎調節あるいはいわゆる避妊という生理的なことについての行政指導などを市町村あるいは保健所等を通じて行っておる、そういう立場でございます。

○江田五月君 避妊が受胎調節、家族計画というその範疇に恐らくいまはとどまっているじゃないかと思うんですが、ところが実際に本当に避妊について十分の知識がいま欠けているところは一体どこかというと、家族計画の範囲の、範疇の外、つまりまだ結婚に至らないあるいは中学校、高校、あるいは最近は結婚年齢が非常に上がっておりますが、結婚に至らないまでの男女の中に避妊の知識が必要なそういう現状になってきているんじゃないか。厚生大臣、その辺の現在の何といいますか、性をめぐる実態というものを一体どういうふうにお考えなのか。中絶というのはただ家族計画の範囲でいいのかどうかということをちょっと伺っておきます。

○政府委員(大谷藤郎君) 確かに先生御指摘のように、私どもの方では結婚されました婦人の方々を中心にやっておりますが、そのほかにも保健所等を通じまして一般的な健康教育という観点から、また文部省等の協力も得まして、できる限りそういった問題についても正しい科学的な知識を普及しようということで努力しているところでございます。

○江田五月君 きれいごとの答弁ではどうもどうしようもないんでありまして、もう少しタブーに挑戦して、しっかりした行政が必要だと思います。

 文部省という答弁の中にちょっと言葉が出ましたので、続いて文部省に聞いてまいりますが、たとえばいま性交渉というものは、婚前交渉というものは避けるべきだという意見と、好きな、愛情がある間は、愛情がある限りは婚前交渉は避ける必要はないのだというのと、どっちがいまの中学生の中で多いと思われますか、文部大臣。

○国務大臣(谷垣專一君) 大変むずかしい御質問でございまして、答えに窮しておるというのが実情でございますが、御指摘のように性的に早熟化の傾向が見られておりますし、また性に関します情報がはんらんをしておる現状でございますので、青少年、学校の生徒等も含めまして次第に解放的になっておる傾向が見られていることは事実であると思います。
 さて、どちらの方がいいかということになりますと……

○江田五月君 いいかじゃなくて多いか。

○国務大臣(谷垣專一君) ちょっと私自体の調査もいたしておりません。あるいは政府委員の方で答弁をさしていただければありがたいと思います。

○江田五月君 結構でございます。
 これは文部省がお出しの資料の中に総理府の調査が出ているのですが、その調査を見ると、婚前交渉について「避けるべき」というのは中学生で二四・三%、高校生で二七%にすぎないのです。「愛情があればよい」というのは中学生で七〇・七%、高校生で六九%に達しているのですね。

 「好きな異性の友達がいるか」という質問、これは名古屋の調査のようですが、小学校五年の男で三二・〇%、六年の男の子で三八・九%、女の子は小学校五年の場合は四三・八%、六年の場合は五七・八%も好きな異性がいるという、そういういまの実態の中で、私はもうそろそろ性教育というものも、男の子は帰ってよろしい、女の子だけ集まりなさいと、そうやって集めて、雄しべが雌しべがという話をし、生理のときにどういう手当てをしますかという、そういう話だけをしていたのじゃだめで、もうこのいまの変わった現実の中で、いまの現実にもっと見合った母性保護の新しい倫理なり新しい道徳なり、これは女性もやっぱり母性をみずから保護しなきゃいけないわけで、そういう男女ともに通ずる新しい倫理を打ち立てていかなきゃいけないときが来ているのじゃないかと思うのですが、文部大臣、いかがですか。

○国務大臣(谷垣專一君) 御指摘のような問題があることは十分に承知をいたしておりますが、これは単にそういうような技術的な問題のもっと根底に道徳の問題あるいは宗教的な問題、あるいは人生観に対しまする問題、あるいは一つの相手に対します人間としての尊重の念、こういうものがやはりなければならない、あるいはそれが確立されていなければならない。いまだその点が十分に確立されない状況のもとに性的な成熟が早められておるところに問題があるだろうと私は考えます。したがいまして、それらの問題を含めながらこれから努力をしていかなければなりませんし、いま申されましたが、かなり私は性的な教育の段階、具体的な段階におきましても雌しべ、雄しべだけでない段階にまでかなり突っ込んだ教育をしておると私は思っております。

○委員長(山内一郎君) 以上で江田君の質疑は終了いたしました。


1980/03/28

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