1978/09/14

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84 参議院・決算委員会

少年の保護処分の処遇の問題について


○江田五月君 少年の保護処分の処遇の問題について多少伺っておきたいと思います。
 御存じのとおり、保護処分というのは、少年法では保護観察とあとは少年送致。少年送致が初等少年院送致、中等少年院送致、特別少年院送致、医療少年院送致と分かれて、さらにいろいろの少年院もそれぞれ特性を持ったものが数多く設置されておりますから、その限りではかなり少年の特性に応じた処遇ができていないわけではなかろうと思いますが、それにしても、やはりこれだけでは処遇が非常に画一化されているというような難点があって、そのため多様な少年保護の実務的な要請にこたえられないといううらみがいままであったかと思うのです。

 そういうこともあって、家庭裁判所の方で、在宅の試験観察の制度とか、あるいは補導委託の制度とかが相当大幅に実施されてきた。これは少年法との整合性を合わせるために、審判の必要上、経過を観察するんだというようにして理屈はつけておりましたが、その実態としては、いわば家庭裁判所サイドの実務家の現実の必要から生まれた一つの保護処分の創造なんだというようなことも言われていたことは御承知のとおりです。

 ところが、こういった保護処分の多様化というのが必要だというのが、少年法改正の議論と絡んで、改正に賛成の立場からあるいは反対の立場から、いずれにしてももっと多様化していかなきゃならぬという議論がいろいろ行われておりましたが、最近かなり多様化してきたようなごとを聞くわけであります。いままで聞いているところでは、従来相当前からありました交通に関して短期の処遇を行う少年院、これが一部地域のみであったものが相当広範囲に設置されたと。それから、あとはやはり交通について、短期で解除をする保護観察の制度を取り入れるようになった。それと交通でなくて、一般の非行少年について短期の処遇課程を持つ少年院を大幅に設置したというようなことを聞いておりますが、ほかに、いま申し上げたような処遇の多様化というような点で何か工夫がございましょうか。

○説明員(石原一彦君) 十分私どもの方の時代に合った変転につきまして御理解あるお話を承りまして、感謝申し上げるところでございますが、矯正に関する限りにおきましては、ただいま御指摘の点をこれから充実していきたい、かように考えております。

 そのほか特につけ加えますと、私どもが念願いたしましたのは、先ほど整合性というお言葉がございますが、やはり次代を担う青少年の健全なる育成につきましての国民的関心はきわめて高いと思われるのでありまして、その点は家庭裁判所に事件が集中されるということから、家庭裁判所との連絡調整、特に十分御意見を聞いて処遇をいたすという点を、一つ全般の運営の改善をめぐる指標といたしております。それと、とにもかくにも保護機関にお渡しして、保護で十分な社会適応性をつけていただくということから、保護との連絡の有機的連携を図るという点に重点を置いております。

 それから、さらに少年がたくさん入っておりましたときにはいろいろな御批判も受けましたが、少年の処遇につきましては、画一的な集団処遇であってはならないのでございまして、いわゆる処遇の個別化を図らなければならないという点につき、私どもも保護の機関とも協力をいたしまして、それを十分にいたしたい。

 最後に、先ほど申し上げましたように、国民的関心が高い少年の問題でございますので、関係機関あるいは社会一般の方々の御理解を得た少年矯正を実施するという点、以上大きなところだけ四つ申し上げましたが、その点を重点に置いているところでございます。

○江田五月君 そうしますと、いろいろ連絡をやっていくというようなことはこれは当然なことでありますけれども、処遇の実際の問題としては、新しくできた、先ほど言った交通短期保護観察、それから交通の短期少年院、これは短期少年院という少年院が別にあるわけじゃありませんが、そういう言葉で言わしてもらいますが、それと一般の短期の少年院、この三つの制度ですが、こうしたものは、保護処分の実施、処遇の実際の中で、いずれも相互に有機的な関連がなければならないわけでありますし、さらにまた、私は、この短期の収容保護が非常に意味があると思いますが、一般によく短期の収容、特に成人の場合には、短期懲役刑は害こそあっても益は何にもないのだというようなことも言われるわけでありまして、そういうことも考えますと、こうした三つの制度を新たに設けるについては相当綿密な準備なりあるいは検討なりが必要であったんではなかろうか、いろんな関係者の意見も聞くべきものであったろうと思われますけれども、どういうような機関が一体どの程度の期間検討をされた結果こういうものが採用になったのかということをお知らせください。

○説明員(石原一彦君) 少年院の運営につきましては、昭和二十四年に少年法ができまして以来、矯正当局初め保護も同様でございますが、関係機関において常に改善に努力をしてきたところでございます。特に御承知のとおり、少年は可塑性に富む点がございますし、時代の背景、時代の変転というものを受けやすい立場にございます。したがいまして、少年矯正あるいは少年保護というものは時代の推移にのっとった処遇でなければならないということでございます。ところが、遺憾ながら過剰収容時代が昭和三十年代にございましたが、そのときに悪風感染あるいは犯罪学校化しているという悪い評判が立ちました。現実にさような欠陥が出た点もございますが、その後特に少年矯正におきましては、その改善に努力を重ねてきたところでございます。

 もう申すまでもなく、いわゆる刑事政策の進展といいますのは、少年矯正に対する新しい施策を取り入れていって、それが成功した場合に順次成人に押し及ぼしていくという形になるわけでございますが、この短期の処遇につきましては、先人が数庁におきまして実施をいたしてまいりました。その効果が非常に高かったのでございます。さらに最近の少年の傾向を見ておりますと、私どもの犯罪白書等にも書かれておりますように、少年で、昔はいわば欠損家庭というようなところから少年犯罪が多かったのでありますが、一応の中流家庭と見られるところで犯罪が出ている、非行が出ているという傾向がございます。それから、特に高等学校がそうでございますが、いま高等学校が義務教育化いたしまして、相当数の方々が義務教育と同様な形で高等学校に子弟を入学さしているという傾向がございます。そうしたときに、これまでのように長い期間入れていく少年矯正では時代の要請に合わないのではないかということが出てまいったのでありまして、そのために、先ほど申し上げましたように、数庁でもっていわゆる短期処遇等を実施いたしまして非常に成果を上げていったということがございました。

 そうしている間に、家庭局あるいは家庭裁判所、それから保護ともいろいろ今後どうするかということを話し合っておりました。さらに少年法改正が論議されまして、その中におきまして少年矯正についてもいろいろな御要望が出たわけでございまして、その御要望を一言で申し上げますと、やはり長期に、長く入れておくというのは必ずしも少年のためによくないのではないか、やはり少年は規範意識の低いために起こった犯罪あるいは享楽的動機に基づいた犯罪があるのだけれども、これについては短期間の収容、処遇によって規範意識を回復する、遵法意識がつけられるということがあるのではないか。まさに前から先人がやっておりましたその効果と一致したわけでございまして、その後いろいろと家庭局あるいは保護等等、あるいは検察、警察等関係機関の御意見を伺いました結果、通達ではございますが、矯正局長通達をもちまして、短期処遇を拡大していく、そして効果を上げていこうということで実施いたしました。

 幸いに家庭裁判所の御協力あるいは保護の御協力等も得まして、現在までのところは大きな効果を上げていると信じております。

 もとよりそこでの御心配は、短期に入れておいて果たしてよくなるのかという点がございますが、先ほど申し上げましたように、少年に可塑性があるものですから、審判の段階においては短期に入れてもいい。ところが入れてみていろいろやってみたところが、とても短期間――いわば六カ月入れるということで、五カ月程度で仮退院するわけでございますが、それでは十分でないという場合には、家庭裁判所の御意見も承りまして、長期の少年院の方の処遇に移すということも考えているわけでございます。

○江田五月君 いまの矯正局長通達は、これはいつお出しになったものですか。

○説明員(石原一彦君) 五十一年の十二月に一応試行通達を出しまして、昨年の五月二十五日付をもって、これを本通達に直し、六月一日から短期処遇というのを正式に実施しているというのが現状でございます。

○江田五月君 保護観察の方も同じですか。

○説明員(高田治君) 短期処遇を実施する少年院からの仮退院の問題は保護局所管でございますので、最高裁判所並びに矯正局と綿密な……

○江田五月君 いや、そうじゃなくて、交通短期保護観察に関する通達も同じでしょうかという質問です。

○説明員(高田治君) 失礼いたしました。
 交通短期保護観察につきましては昭和五十二年三月二十四日付保護局長通達を出しております。

○江田五月君 ちょっといまの保護観察だけ聞きますが、短期の保護観察が、この五十二年三月二十四日の保護局長の通達によるものは、三カ月経過してその間に再犯がないという場合には解除可能ということでしたと思いますが、その前に、一般の保護観察じゃなくて、短期に六カ月程度経過して三カ月程度良好な状態の場合は解除していいという通達がたしか出ていると思いますが、これはいつ出ていましたかね。

○説明員(高田治君) 当初は昭和四十年に保護局長の通達が出たのが始まりでございます。その後、昭和四十九年六月二十二日に保護局長の通達が出ております。同じく六カ月程度で成績良好な場合に保護観察を解除するという考え方はすでに昭和四十年の通達に出ておりましたわけでございまして、それが、昭和四十九年の仮釈放及び保護観察等に関する規則が制定された機会に新たに通達が出まして、昭和四十年の通達と同趣旨の通達が出たわけでございます。昭和四十九年四月一日でございます。

 しかし、昭和五十一年春ごろから最高裁、家庭局と綿密な御協議をいただきまして、従来六カ月程度で保護観察を解除していたやり方とは別に、現在の大量の少年の交通事犯を見ますと、さらにもっと短縮した三カ月ないし四カ月程度で保護観察を実施して処遇効果を上げる交通少年がいるのではないかという発想に基づきまして、従来の通達とは別に、三カ月ないし四カ月程度の短期の保護観察で解除するという通達を出しております。

○江田五月君 昭和四十年に短期の保護観察に関するこれを実施することを可能にするような通達が出されているのに、実際問題としてはその通達に従った短期の保護観察というのはそれほどなされていなかった。多少の庁で試行的に行ったものはあると思いますけれども、全国的にはなされていなかった。

 ところが、今度新しいものをお出しになって、これはどの程度全国規模で広がっているのかという点が一つと、それから、前に、同じようなもので全国的に必ずしも広がらなかったことについてどういう反省の上で今回のものをお出しになったのか、その積み重ねがやっぱりなければ、ただ新しくやればというだけではいかぬのじゃないかと思いますが、そういった点をお伺いしたいと思います。

○説明員(高田治君) 従来の六カ月程度の保護観察期間で保護観察を解除するという通達が実効を上げたかどうかということでございますが、聞くところによりますと、その間家庭裁判所の決定になった保護観察対象者の質といいますか非行性といいますか、それが非常にまちまちであったということから早期に解除できなかったということもあるということに聞き及んでおります。それで昭和五十二年四月一日からの交通短期保護観察というのはそれとは別でございまして、より短期の保護観察を実施することによって処遇効果を上げる事案があるという前提に立って実施していくわけでございます。もちろんその間私どもの経験としましては、特に昭和四十七年当時、千葉保護観察所で千葉家庭裁判所の大変な御指導と御協力をいただきまして実施した実績がございまして、今度新たな通達の実施につきましても、その四十七年当時からの千葉保護観察所の経験を非常に参考にしまして実施に踏み切った、こういう経緯でございます。

○江田五月君 矯正局長に伺いますが、いまの短期の少年院の制度の導入についていろいろ関係官庁の御意見を伺ったということがありましたけれども、それだけでなくて、たとえば学者であるとか、あるいは少年の教育関係者であるとか、あるいは精神医学の関係であるとか、そうしたような矯正にいろんな関係で携わっている方々以外の人の意見というのをどの程度聴取されているのかということ、これをちょっと伺っておきたいと思います。

○説明員(石原一彦君) この点につきましては、あるいは十分ではないという御批判があるかもしれません。と申しますのは、私どもといたしましても矯正に御理解のあるいわゆる委員会、それから私どもに講義に来てくださる方等々以外の方の御意見も聞きましたが、いかんせん日本全国にわたります上に、相当数の方々がおられまして、たとえば公聴会を全部開いた上というような点にはならなかったのでございます。したがいまして、委員会その他の方々、これは少年保護部会のほかに矯正保護審議会等もございまして、そこに御列席されている方の御意見は承りました。そのほかは矯正研修所及びその支所に講義等においでになっていただく方から御意見を承ったのでございます。

 と申しますのは、私、よく言うんでございますが、好事門を出ず、悪事千里を走るということでございまして、三十年代の過剰拘禁当時における少年院の処遇の悪さ、これのみが非常に喧伝されて、いいことをやってもなかなか世間の方にお認め願えないという点がございました。そういう点もございまして、率直に御意見を伺うという、何といいますか、すそ野を広げた矯正のPR等々が十分に行われていなかったきらいがございますので、直接そうしたことに御関心を持っておられる方とも接触が少なかった。しかしながら、これを実施いたしましてから、少年院の御見学あるいは御視察等をいたしていただくようになりまして、先般も実は参議院の法務委員会の方々がおいでくださったのですが、やはり実態を見ていただいて、現在のいい処遇というものを御理解願いたいということで努力いたしてまいりました結果、われわれが直接、いままで接触のなかった方々からも御激励あるいはいい御批判をいただきまして、そうした御意見を謙虚に取り入れて、今後とも少年矯正の充実に資していきたい、かように考えます。

○江田五月君 いまおっしゃっている点、まことにごもっともなんですが、やはり少年の保護矯正というのは、社会一般の理解というものがどうしても土台に必要なわけで、ああ保護観察になった、えらいことだと、少年送致で大変だというようにすぐ受け取られてしまうということがあってはなかなか矯正の実が上がるものじゃない。そうすると、こうしたせっかく一つのいい制度をやられようとするときに、たとえばこの機会に家庭のお母さん方の理解をもっと深めてもらうような、あるいは学校の理解を深めてもらうようなことのためにも、そうした人の意見をずっと聴取した上で、一つの制度をつくるということがなされたらよかったなというふうに、まあこれは感想なんですが、思います。

 それと、もう二十五分でこれだけのことを聞くのはとうてい無理で、いろんな質問をはしょることになりますが、最後に、やはりそれにしても少年保護というのはどうしても官の側では無理なんだという意見があるんですね。先ほどの話じゃありませんけれども、ちょっと豚を飼ったらすぐ経理がどうとか、違法性がどうとかいうふうな議論になってしまう、そういう枠組みの中で少年保護をやるということはやっぱり非常にむずかしいんだという声も一部にはあるわけで、これにも十分耳を傾けなきゃならぬという気はするわけです。

 ですから、先ほどの豚の話だって、余り後ろ向きの答弁じゃなくて、刑務所の方はよく知りませんけれども、事、少年院に関する限りは豚を飼っているところでやっぱりそれなりの効果を上げているんじゃないでしょうか。そうした配慮をもっとしていかなきゃいかぬだろう、だからそれに多少違法の疑いがあるなら法的な手当てを十分するということを考えるべきであって、後ろ向きになっちゃいけないんじゃないかという気がするんですけれども、そういう意味で、こういう画一化されたいままでの処遇から非常に多様化の方向へ進まれたことをさらに進めて、心の通った本当に個別的な処遇をもっと進めていただきたいということと、それから大臣に伺っておきますが、そういうような状況で、いま保護の現場というのは本当に真剣に、ある意味では非常な犠牲を払って職員の方々が保護に当たられているわけでして、せんだってもある少年院に伺ったところ、マスコミの方が来ていろいろ取材をされた。

 非常にいい、高等学校とどこが違うんですかという質問があって、高等学校の先生ならまた帰ってこいよと少年に言えるけれども、ここではまた帰ってこいよとは言えないんだという、そういう話を伺ったんですが、そうした社会の裏方さんとしてやっていらっしゃる矯正の方々に対して、もっと、妙なところで挙げ足取られるんじゃなくて、十分な予算措置もする、あるいは心を通わせるという姿勢が必要なんじゃないかと思いますので、その点についての御見解を伺っておきたいと思います。

○国務大臣(瀬戸山三男君) ありがたい御意見をいただきまして厚くお礼を申し上げます。
 おっしゃるように、少年の保護更生といいますか、これは画一的であってはならないと思います。少年は何といっても未熟といいますか、社会機関等に対する未熟、そういう点から非行に走るわけでございますから、やっぱり愛情を持って成熟をさせる、心身ともに成熟をさせる、こういう意味でいかなければ、ただ懲罰的だけでは間に合わない、かように考えます。仰せのとおりに、われわれもいろんな御意見を承って、また効果的な方法に全力を挙げたい、かように考えております。

○江田五月君 終わります。


1978/09/14

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