2015年9月18日

戻るホーム2015目次前へ次へ


防衛大臣中谷元君 問責決議案 趣旨説明(案)

民主党・新緑風会 大野元裕


 私は、民主党・新緑風会を代表して、ただいま議題となりました中谷元国務大臣問責決議案について、提案理由の説明を行います。
 まず、決議案の案文を朗読いたします。
    本院は、防衛大臣中谷元君を問責する。
 右決議する。
本決議案を提案する理由を申し上げる前に一言申し上げます。

 本日16時半ころ、鴻池安保特別委員長の不信任動議が同委員会において否決された直後、委員外の与党議員が突然委員長を取り囲み、それに端を発して議事が騒然といたしました。与党委員は、その際に安保法制が採決に付され、可決されたなどと称しているようですが、我々野党議員の評決権は奪われ、無効な採決が行われたに過ぎません。
 野党議員が委員長を取り囲む場合と異なり、与党の院外議員が委員長席を取り囲むことによって、野党議員は委員長が何を話し、何をしようとしていたのかまったく推量不可能となりました。
 委員長は国会法48条で議事整理権を有していますが、委員の評決権を奪う権利はありません。したがって、野党議員が表決権を行使できなかった今回の採決は、当然無効であります。
 また、議長は委員長から委員会でいかなることが起きていたかを報告される立場にあり、上述のような瑕疵のある評決が行われた疑義があることから、案の法案採決のためにセットされた本会議も同様に無効となります。
 言論をちからで封殺し、民主主義を圧殺したならば、それは自民党内だけにとどめていただきたい。国民に対する説明責任を放棄し、マスコミに圧力をかけて言論を封殺してきた与党は、今回、丸裸の暴力により、国民により選ばれた国会議員の評決権行使の権利すら奪ったのです。
 そして、今回問責を受ける中谷国務大臣の発言や行動は、このような暴政・圧政の自公政権の行動の延長線上にあるのではないでしょうか。

 
本決議案提案の第一の理由は、安全保障法制を担当する中谷大臣が、恣意的、便宜的に憲法を解釈し、憲法擁護義務と法的安定性を蔑ろにした法案を策定し、国会に提出した点であります。
安倍政権は昨年7月1日、戦後70年間、憲法のもとで培われてきた憲法解釈を変更する閣議決定を行いました。国民への説明も、国会審議も疎かにした憲法解釈の閣議決定は受け入れ難く、民主党は撤回を求めました。
しかし、安倍政権はこの閣議決定に対する批判を無視し、中谷大臣は、閣議決定に基づく法案の策定を進めました。政府が与党協議を経て、安保法制を国会に提出したのは、通常国会の会期が十分に残されていない5月15日のことでした。政府案は、自衛隊法、周辺事態法、PKO法、武力攻撃事態法等の重要な法律の改正10本を束ねたものと他国軍隊への後方支援に関する恒久法とを合わせて11本でした。本来なら、それぞれの法案が一国会では審議が終わらないほど慎重な審議を要する内容ですが、それらを一つにまとめた形式にしたことは、論点を掘り下げにくくし、国民への説明責任を当初から放棄する無責任な手段だと言わざるを得ません。
中谷大臣の憲法観は、衆議院特別委員会の質疑で明白になりました。集団的自衛権の行使を認める閣議決定について問われ、「現在の憲法をいかにこの法案に適用させていけばいいのかという議論を踏まえて閣議決定を行った」と答弁したのです。これは単なる言い間違い、表現の間違いの域を超えており、政府を拘束するもので且つ国民との約束であるはずの憲法を蔑ろにした発言であり、決して見過すことはできません。
 
 第二の理由は、法案担当大臣であるにもかかわらず、国会審議の場において、大臣として法案に関するまともな説明をほとんど行えず、支離滅裂で、それどころか法案すら理解していなかったことです。
 
  これは日本の安全保障と未来、そして国民と自衛官の命に対する冒涜しており、中谷大臣は、大臣としての資質を欠いていると言わざるを得ません。中谷大臣の答弁はほぼ毎日、二転三転し、この法案が万が一成立すれば将来に亘り重要となるにもかかわらず、立法者の意思すら明確に示せていません。それどころか、質問者がいかに平易な質問を行っても、答弁に困ると、直接関係のない新三要件の説明を延々と朗読し、質問時間の浪費を続ける中谷大臣の答弁は、丁寧な説明をと繰り返す総理や政府の言葉とは真逆にあり、国民の理解を得る態度どころか、かえって国民を惑わせ続けました。こででは、日本の未来に影響を与える重要な法案を国民に説明する能力を欠くか、その責務を放棄したと言わざるを得ません。

 このようなていたらくのあげく、時の政権の裁量に全て委ねて欲しいをくりかえしても、国民が納得できるはずもありません。また中谷大臣が幾度も繰り返した「法理上はできても、政策的な判断でやらない」という発言は、中谷大臣が未来永劫大臣の職にあられる事にはないわけですから、条文上定めなければ歯止めにならないはずであります。ところが、ご本人には未来の予知能力がおありになるのか、その非を認めようとすらしていません。
更には、法案の基本的な部分に答えることすらできず、たとえば法理上はできるがやらないという策源地攻撃について、ご本人の答弁であるにもかかわらず、法理上はできても能力を欠くのでできないのか、それともやらないのか、と問われると、答えは二転三転、迷走を繰り返し、未だに答えは霧の中です。このような答弁の繰り返しは、衆議院より短い時間の審議で、且つ野党の質問時間は更に短かったにもかかわらず、111回も審議が止まるという結果に大きく寄与することとなったのです。

 さて、政府の言う存立危機事態の新三要件の立法事実、認定要件についての具体例はわずかに3件しかありません。ホルムズ海峡への機雷敷設の事例は、数多くの衆参の審議を通じた批判を受けて、どうも取り下げられたようです。お母さんと子どもを乗せた米艦防護の事例については、7月1日の閣議決定を受けた記者会見において、総理がパネルを示し、したり顔でご説明され、多くの国民はこのようにかわいそうな事例が存立危機事態認定の典型と思い込まされたのではないでしょうか。
ところが、我が国はこれまで、公海や外国において邦人が危機に瀕しても、一度も自衛権を主張したことはありません。つまり、一般に民間の船舶に乗船する邦人が第三国から攻撃されても、自衛権の行使にはならないのです。その一方で、邦人が乗船していない米艦艇が第三国から攻撃を受け、自衛隊がこれを助ければ、それはフルスペックの集団的自衛権行使になります。この両方を足したのが、米艦に乗船する邦人のケースですが、なぜこの二つを足すと限定的な集団的自衛権行使の要件になるのかは、論理破綻としか言いようがありません。そこで中谷大臣にこの点を尋ねると、大臣は迷走答弁を繰り返したあげく、退避する必ずしも必要ではないと白旗を揚げられたのです。集団的自衛権行使をしたいばかりに、国民の情に訴え、法的要件をあやふやにするとはあまりに姑息であり、担当大臣が行うことではありません。
 イージス艦防護について総理は、日本に向かう弾道ミサイル防衛を行うイージス艦が情報にレーダーの照準を合わせる場合には、どうしても巡航ミサイルからの攻撃に脆弱になるので、自衛隊による防衛が不可欠としていました。ところが、中谷大臣に問いただすと、日本に向かう弾道ミサイル防衛のシステムに組み込まれていれば、弾道ミサイル防衛を行わないイージス艦への攻撃が存立危機事態の認定要件になるばかりか、空母や補給艦などの横須賀の部隊丸ごとにまでケースが拡大することが明らかになりました。さらには、空中給油機や空母艦載の戦闘爆撃機や輸送艦など、その拡大には際限がありません。これでは、自衛隊を米軍の下請けにするのみならず、具体的な事例の裏に隠された意図を勘ぐらざるを得ません。
 このように、答弁が不安定、不明瞭、矛盾だらけ、総理や他の各両党と整合性がなく、また衆議院における答弁が虚偽である等、中谷大臣の答弁は、法案提出大臣としての資質に欠けるとしか言いようがありません。また、わずかに三件しかない新三要件の認定要件の具体例がすべて崩れて立法事実がなくなってしまったのに、安全法制担当大臣として、安全保障環境が変わっているので限定的集団的自衛権行使が必要などと言うのは、欺瞞の主張に過ぎません。

 
 第三の理由は、情報管理とシビリアンコントロールの問題です。衆議院の審議では、野党が自衛隊のイラク派遣についての行動史の公開を求めましたが、黒塗りばかりの資料を出すなど、その提出を拒み続けました。そして、衆議院での強行採決を行ったあと、ようやくその提出に至りました。過去の活動がどうであったか、その実態を検証せずに、どうしてこの安保法制の議論ができますか。何か隠しているのか、後ろめたいことがあるのかと疑われても仕方がありません。
参議院の審議では、野党から防衛省内部で安保法制について検討したことを裏付ける資料が提示されましたが、その場では大臣は資料が真に防衛省で作成されたものかを判断できず、その真偽を精査するのに長い時間を要しました。中谷大臣は、安保法制について内部で検討するように指示を出していたことを後で思い出されたようですが、どのような検討をしたか把握もせず、放置していたのでは、何のための文民大臣か分かりません。さきの防衛省設置法で、シビリアン・コントロールとは政治家による自衛隊の統制であると繰り返された中谷大臣の言葉は、あまりに空々しく聞こえます。またこのことは、政権公約で記したにもかかわらず、高村自民党副総裁に拠れば、自衛隊と警察の百年戦争に火をつけるからと領海警備法の制定を見送った経緯がしめすように、それは、日本の領土領海防衛をないがしろにしても、官僚に押しきられる自民党政権の体質なのかもしれません。
 また、統合幕僚長が訪米し、米軍と会談した際の議事録が提出されましたが、この件についても大臣が確認に要するのに時間がかかり、審議の進行を妨げました。まだ法案の内容すら固まっていない時期に、米側にこの夏までに安保法制が成立するだろうという見込みを伝えるとは、国会軽視も甚だしく、大臣の監督責任が問われます。
そもそも、内部資料がこのように外部に出てくること自体、情報管理に問題があります。もっとも、防衛省や自衛隊で良心を持った人たちが、本来は公開すべき情報が隠されていることを憂い、止むに止まない思いで内部告発をしているのだとすれば、聞く耳を持たない大臣の責任は重大です。国民に安全保障政策について理解してもらうために情報開示すべき情報と、防衛戦略上漏洩してはならない機密情報との区別の判断がつかなければ、組織を統率することはできません。
 
 第四の理由は、政府案には武装漁民による離島への上陸等、武力攻撃には至らない我が国領域の侵害を含む、いわゆるグレーゾーン事態への対応が欠落している点であります。民主党は、最も蓋然性の高い「近く」の事態、しかも喫緊の課題への対応こそ優先なければいけないと考えます。我が国の領土、領海、領空をしっかり守るという観点から、警察と自衛隊が省庁の壁を超えて連携するには、権限や連絡調整について法律で定めないことが重要です。民主党は昨年の臨時国会に続き、今国会では衆議院と参議院に「領域警備法案」を国会提出しました。
 中谷大臣は、かつて領域防衛の法制について検討すべきであると表明していたにもかかわらず、政府に入るとそれを運用改善にとどめ、法制化を否定しています。日本から遠くの紛争地域での後方支援のことばかり考えて、尖閣諸島に代表されるような島しょ部のように、国民が喫緊の課題と考える事態にすら対処しない看板倒れの安全法制を掲げながら、「切れ目のない安全保障法制」などという偽りを言い続ける大臣を、いかにして信用すれば良いのでしょうか。
 そもそもこのような看板倒れの本末転倒の安全保障法制が提出された背景には、威勢が良いだけで、セキュリティ・ジレンマのなんたるかもわからないように見える自民党の安全保障に対する考え方があるのではないでしょうか。自民党政権は、冷戦以降、大きく変わった安全保障環境を放置し、その対応を怠ってきました。民主党政権はこれに対し、冷戦事態の遺物である基盤的防衛力構想を改め、島嶼部や防空識別権への対応等、現代の要請に応えるための動的防衛力構想を柱とする防衛大綱を定めました。その後政権についた安倍政権は、あろうことかこの大綱を停止し、1年に亘り我が国に安全保障の骨格がない状態を放置しました。そのあげく、新たに出された防衛の対抗の柱となった統合機動防衛力は、看板だけは代えたものの、中身は民主党動的防衛力のコピーという有様でした。事実、現在においても米軍は、自民党の統合機動防衛力を民主党政権時代の動的防衛力と同じ呼称で呼んでいます。

 このように、自己中心的で看板倒れの安全保障政策は、今に到っても継続しています。昨日の本会議においても、与党の安保法制に対し民主党は対案を出さないという言われなき批判がありました。我々は、我が国の領土と領海を適切に守るための領域警備法を昨年11月17日に提出させていただき、今日で10ヶ月になります。この喫緊の課題に対応する領域警備法は、与党が安保法制を提出する約半年前に世に問うたものであり、我々は10ヶ月間、与党からの対案を待ち続けています。政府与党が自衛隊を米軍の下請けにし、リスクと共に遠くにばかり気を取られているのではなく、領海領土を守る気概があるのならば、どうぞ、今からでも遅くはないので、選挙公約にもお書きになって守られていない領海警備法を提出してはいかがでしょうか。口ばかりではなく、まずはご自分で対案を出されてから、民主党を批判されるのが筋であります。

 
 第五の理由は、自衛官の生命を預かる大臣として、海外に派遣される隊員のリスクについての認識が極めて甘く、自衛官を守る責任を放棄していることです。中谷大臣は委員会審議で、政府案により海外で活動する自衛隊員のリスク、危険性が高まることをなかなか認めようとしませんでした。正確にリスクを求めることが彼らの安全確保につながるのです。それどころか後方支援を行う自衛隊員への安全配慮義務については、明文で貫徹されているとの答弁は虚偽であることが明らかになりました。
大臣は、今でも自衛隊員は国際支援や災害現場で懸命に働き、危険と隣合せの任務を全うしている、危険を回避するための安全確保対策を強めると繰り返し答弁されました。しかし、実際に派遣される自衛隊員を待ち受けているリスクを回避する義務すら理解せず、いかにして部隊に派遣命令を出すのですか。

 中谷大臣、私は一人の私人として、あなたの率直で優しい人柄が大好きで、党こそ異なれ、様々な機会にあなたとご一緒できることを大変嬉しく思ってきた一人です。しかしながら、今回の安保法制議論を通じて私が最も残念であったのは、新たな法律が自衛官を犯罪人にしてしまう可能性があるのに、自衛隊員を守るという重大な責任を放棄してしまったことです。月曜日に私が行わさせていただいた質問では、PKOで派遣される自衛官が武器使用をする際に、刑法35条に基づき、違法性が阻却されるかを尋ねました。PKO法改正により治安維持任務を新たに付与されることとなる自衛隊は、国連が掲げるミッションへの不偏性に基づき武器使用を行う可能性があります。この不偏性が新たなPKO法に書かれていないために、この原則に則り、武器使用を行う自衛隊員は、国内法で有罪となる可能性があります。懸命に任務を果たす自衛官は、法律の瑕疵により罪人となる可能性を受け入れさせられることになるのでしょうか。自衛隊は法律に基づき行動する部隊であり、きちんとした法律を制定してからその任務を果たさせることが、政治家に課された責任です。
 自衛隊員の違法性を判断するのは、お得意の政府による総合判断ではなく、最終的には司法です。法律に書いていないのに司法が違法性を阻却することをいかに担保するかを質しても明確には答えられませんでしたね。当然です。なぜならば、政府は本件について内閣法制局に審査すら依頼していなかったのです。そうであれば、元自衛官として、大臣として自衛官を守る為に身を挺して法を見直して頂きたいとお願いしたにもかかわらず、良心への訴えをあなたは無視されました。あなたは大臣としてただ一人自衛官を守れる立場のかたです。自衛官に対し、命をかけろと命令を下す立場のかたです。私が尊敬する先輩ではありますが、自衛官の命を守らない、そして自衛官が政府の不作為で犯罪者になることから守らないならば、大臣でいる資格はないと言わざるを得ません。

 
 以上が中谷大臣を不信任とする理由でございます。国民への責任、自衛官への責任をないがしろにした大臣の責任を問わなければならない議員は、与党の中にも数多くおられると理解しています。同僚議員皆様、あなたがたの良心に訴え、この問責決議案へのご賛同をお願い申し上げ、私の趣旨説明を終わります。

2015年9月18日 9月17日 防衛大臣中谷元君 問責決議案

戻るホーム2015目次前へ次へ