2015年7月28日

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7月27日 参議院本会議代表質問(安保法制) 参議院議員 北澤俊美


参議院本会議代表質問(安保法制)

平成27年7月27日
民主党・新緑風会)
参議院議員 北澤俊美

 民主党・新緑風会を代表し、ただいま議題となりました内閣提出の安全保障関連法案について、安倍総理に質問いたします。

 憲法違反の法律案。立憲主義を理解しない総理。
この二つの組み合わせが、今回の安全保障法制です。したがって、国民はNOと言っているのです。世代を超えて、おかしいと思っているのです。学生や若いお母さん達が不安と怒りを胸に、街に繰り出しているのです。

 今回、政府は昭和34年の最高裁 砂川判決で集団的自衛権が認められていたという珍説を作り出しました。しかし、圧倒的多数の憲法学者が、本法案の集団的自衛権は憲法違反だと断じています。国民もすぐさま、政府説明のマヤカシに気付きました。

 私の半世紀に近い政治生活の中で、そんな話は聞いたことがありません。岸信介、田中角栄、大平正芳、中曽根康弘、竹下登、橋本龍太郎、小泉純一郎など、自民党政権のほとんどの総理が「集団的自衛権は憲法上行使できない」と述べてきました。砂川判決が集団的自衛権を認めていたのなら、歴代総理は憲法違反の発言を繰り返していたことになります。

 昨年2月12日の衆議院予算委で、安倍総理は解釈変更による集団的自衛権の行使容認についてこう述べました。
「最高の責任者は私だ。政府答弁に私が責任を持って、その上で私たちは選挙で国民の審判を受ける」。
勘違いも甚だしい。為政者が好き勝手に出来ないための一線を画すために憲法があるのです。選挙で勝っても、憲法違反は正当化できません。それが立憲主義です。

 次に総理は、選挙で勝ったことに解釈改憲の正当性を求めようとします。でも、昨年11月21日、衆議院を解散した日の会見であなたは何と言いましたか。
「この解散は、『アベノミクス解散』であります。アベノミクスを前に進めるのか、それとも止めてしまうのか。それを問う選挙であります」。 これがあなたの発言です。
しかも、自民党の選挙公約は姑息にも閣議決定の引用でごまかし、「集団的自衛権」という言葉を使いませんでした。争点隠し以外のなにものでもありません。これで集団的自衛権も選挙で認められたと強弁するあなたは、「眼中人なし」です。ご認識を伺います。

 国民の理解が深まるどころか、疑問と懸念が募るのを見た総理は開き直ります。かつての日米安保改定やPKO法案審議の際も反対が多かったことを挙げ、「今では十分に国民的理解を得ている。法案が実施される中で理解が広がる」と述べました。

 「安保法案に対して今は国民の理解を得られなくてもいい、とにかく法案を通して既成事実化すれば、国民は後から付いてくる」と言わんがばかりの発言です。あなたに未来の民意を独占する資格はありません。総理のご見解があれば伺います。

 憲法違反の指摘が増えてくると、総理は「自衛隊を創設したときは個別的自衛権すら憲法違反と批判する意見が主流だったが、今は多くの人が信任している」と言うようになりました。しかし、当時と今回を同列に論じるのは詭弁です。
当時はまだ憲法制定から日が浅く、憲法解釈は十分に定まっていませんでした。これに対し、集団的自衛権行使が憲法上できないことは、戦後の歴史を通じて半世紀以上、国内的にも国際的にも評価が固まっています。
何よりも、国家に先天的に付与された自然権的権利である「個別的自衛権」に対して、「集団的自衛権」は他国との同盟等の密接性によって後天的に導かれるものです。その性質は根本から異なります。後者も時間がたてば合憲と思われるようになる、と主張するのは、知的退廃にほかなりません。

 総理、あなたに政治家として本当に責任を果たすつもりがあるなら、集団的自衛権の行使を可能にする憲法改正を正々堂々と掲げ、国民の信を問えばよい。それが王道です。それなら、憲法も立憲主義も傷つくことはありません。
ところが総理は、憲法解釈の変更という、いわば「抜け道」を選び、国会での数に頼るという覇道をまい進しています。抜け道と覇道の行き着くところ、憲法の法的安定性は大きく損なわれます。

 安倍政権には「国民に誠実に説明しなければならない」という気持ちが希薄です。国会で何時間審議しても、政府が沈黙している部分にこの法案の危険が潜んでいる。この事実を私は強く危惧します。

 例えば、対ISIL作戦への自衛隊派遣です。総理は「後方支援をすることは全く考えていない」と言いますが、中谷防衛大臣は、今回の法律案によって、要件を満たせば理論上、対ISIL作戦への後方支援が可能になる、と答弁しました。つまり、法案成立後、安倍総理の気が変われば、自衛隊をISILとの戦いに派遣することもありえるということです。しかし、政府は法案への反対が増えることを恐れ、都合の悪いことには触れようとしません。本法案の成立によって対ISIL作戦での後方支援が法律上可能になるか否か、改めて総理の見解を伺います。

 総理はパネルまで使って、邦人輸送中の米艦を守らなければならない、だから存立危機事態、すなわち集団的自衛権の行使が必要だと力説します。6月26日の衆議院特別委員会で岡田代表の質問に答えた総理は、存立危機事態となるのは米艦艇が武力攻撃を受けた場合だと説明しました。しかし、7月10日の質疑では、米艦艇への攻撃の「明白な危険」の段階で存立危機事態になると答弁しています。米艦への攻撃が実際にあった段階なのか、「明白な危険」の段階なのか、どの時点で存立危機事態と認定できるのかという基本的事項に関してすら、この一貫性のない答弁です。政府が制度を恣意的に運用するリスクについて、懸念せざるをえません。
法案では、存立危機事態において我が国が武力を行使できるのは「存立危機武力攻撃」の排除に必要な範囲に限られます。邦人輸送中の米輸送艦の防護の例について、いつ、どのような状況において存立危機事態となるのか、その場合の存立危機武力攻撃とは何なのか、明確に説明してください。

 存立危機事態は従来の武力攻撃事態等と重なる場合が多い、という政府の説明に従えば、 存立危機事態なるものが真に必要になるのは、従来の武力攻撃事態等とは重ならない、従来の武力攻撃事態等では対応できない事態ということになります。それは一体、いかなる場合なのか、どのような地域におけるものなのか。類型的に明らかにしていただきたい。

 参議院質疑の初日にあたり、昭和29年、本院で「自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議」が採択されている事実を強調しておきます。
安倍政権においても、新三要件に該当する場合であっても、原則として、他国の領域で武力の行使を行う、いわゆる海外派兵は行わないとしています。その一方で総理は、ホルムズ海峡における機雷掃海は唯一の例外であると答弁しています。
「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」があるにもかかわらず、外国の領域で我が国が武力行使する事例は、政府の考えとして、ホルムズ海峡における機雷掃海以外は本当にないのか。
ホルムズ海峡で機雷掃海をしたくても上空を敵戦闘機に制せられていて掃海活動ができない時はどうするのか。
そもそも、イランの核問題に前進が見られた今日の状況を踏まえれば、ホルムズ海峡の事例は立法事実たりえないのではないか。
以上三点について、見解を明確にお述べ下さい。

 存立危機事態は、日本の施政下にある領域における武力攻撃への共同対処を定めた日米安保条約第五条の適用範囲ではありません。したがって、存立危機事態では、米国からの要請によって日本自身が武力行使するにも関わらず、在日米軍基地から米軍が戦闘作戦行動を行うことは「岸‐ハーター交換公文」に基づく事前協議の対象となります。これは極めてチグハグな状況です。総理はこの点についてどう考え、どう対応するつもりでしょうか。

 安倍総理、あなたは未来永劫、総理大臣の職にあるわけではありません。しかし、自衛隊という組織は、これからも自衛隊であり続けます。自衛隊が実力を行使したという事実は、自衛隊が組織として存続する間、消えることはありません。「法的安定性」が重要なのはこのためです。
  総理は閣議決定と強行採決により、憲法九条の重要な解釈を変更しようとしています。しかし、将来別の内閣があなたの解釈変更を否定したら、また法律を改正すれば済む、という問題ではありません。憲法違反の行為を行っていたことになる自衛隊、そして自衛隊員の心情を総理はどのように考えるのか、お聞かせください。

 対案について発言がありました。
元々この法案は憲法違反であります。国民が求めているのは対案ではなく廃案であります。
10本の法案を一本にまとめて、さあ、対案を出せなどと言う毛針の戦略には与しません。

 4月28日、我々は「安全保障法制に関する民主党の考え方」を党議決定しました。その大原則は、憲法の平和主義を貫き、専守防衛に徹することであります。

一つは、 近くは現実的に――。
離島など我が国の領土が武装漁民に占拠されるといった、いわゆる「グレーゾーン事態」への切れ目ない対応を可能とするため、「領域警備法」を制定します。
国民の命と平和な暮らしを守るために必要なのは、専守防衛の理念に基づく個別的自衛権であり、安倍政権が進める集団的自衛権の行使が必要とは考えません。わが国の個別的自衛権に関する考え方は、従来から「座して死を待て」というものでありません。相手方の武力攻撃の「着手」の評価を再検討することにより、朝鮮半島を含めた「近くの有事」には個別的自衛権で確実に対応します。
周辺事態についても、協力内容を一部充実させます。

二つは、 遠くは抑制的に――。
周辺事態は、あくまで日本周辺の事態に限定します。
中東やインド洋、世界の果てまで自衛隊が米軍についていくことはしません。
三つは、 人道支援は積極的に――。
  PKO法を改正し、国際貢献できる分野を拡充します。
  PKO以外の国際貢献については、特措法で対応します。

 日本の強さは、精強な自衛隊員の努力やたゆまぬ外交によってのみ、実現するのではありません。 国家統治の柱である憲法の下、立憲主義と平和主義がしっかり機能してこそ、国民は団結し、諸外国も日本に信頼を寄せるのです。

 アメリカ合衆国建国の父の一人であり、米海軍の創設者でもあるジョン・アダムズは「憲法は、それが理解され、承認され、愛される場合には、規範であり、柱であり、絆である。しかし、このような理知と愛情がなければ、それは空にあげられた凧か気球も同然であろう」と述べております。
このまま参議院で政府の安全保障関連法案が通れば、憲法は理知と愛情を失います。憲法を凧にしてはなりません。

 安倍総理、歴史に素直に立ち向かいましょう。『きけ わだつみのこえ』はもう二度と編纂させない、と誓うべきです。

 参議院が最後の砦です。我々は、良心を賭け廃案を目指して戦います。
ご列席の議員諸氏に申し上げます。党派にかかわらず、参議院の良識を見せていただくよう強くお願いし、私の質問を終わります。

以上


2015年7月28日 7月27日 参議院本会議代表質問(安保法制) 参議院議員 北澤俊美

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