2015年7月3日

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平成27年7月3日 参議院本会議

「農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案」
に対する代表質問

民主党・新緑風会 徳永エリ


民主党・新緑風会の徳永エリです。
私は、会派を代表致しまして、只今議題となりました、農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案について、林農林水産大臣にご質問させて頂きます。
1 全中の監査指導権をなくすことで、なぜ単位農協の活動が活性化され、農業者の所得向上につながるのか。  
   北海道のおいしいお米「ゆめぴりか」「ななつぼし」は、TVコマーシャルでも有名になりましたが、20年程前までは「北海道の米は美味しくない」と言われ、道産米の道内食率も30%台でした。ところが、今は、稲作農家の皆さんの長年の苦労が実り、特A品種の北海道のブランド米は、全国的にも大変に人気があります。さらには、業務用米、酒米、餅米まで、何でも揃う、北海道は、味も、品質も収量も、日本一の米どころとなりました。

  しかし、これまでの北海道農業は、国策に翻弄され続けてきた歴史があります。1961年「農業基本法」が制定され、国は零細な農業の規模の拡大による、生産コストダウンを目指しました。都府県に先駆けて大規模化を進めた北海道は「基本法農政の優等生」と言われましたが、その一方で規模拡大に伴って54万人の農業人口が10年で33万人に減少、大量の離農が生まれ、町や村の人口減少にもつながりました。そして、1971年には、稲作、1979年に酪農の生産調整が始まると、大規模化した北海道農業は身動きができなくなり、今度は「劣等生」扱いをうけ、49%という厳しい減反率を国から押し付けられたのです。しかし、苦しい中で北海道の稲作農家はおいしいお米を作る事を諦めずに、国がやろうとしないので、農業協同組合が、組合員である農家から拠出金を集めて、道立農業試験場の品種改良のための研究費を支え続け、その結果「きらら397」が誕生し、次々と美味しい道産米の生産に成功していきました。さらに、民主党の農業者戸別所得補償制度により、生産コストと販売価格の差額、恒常的な赤字を補填する交付金が大規模層に手厚く交付され、農地の集積が進み、所得も増えた事により後継者や新規就農者も増えはじめ、緩やかな構造改革が進み、北海道の農業の現場では、着実に政策成果が上がっていました。

 しかし、安倍政権に交代以降、TPP交渉参加、農地中間管理機構による企業参入の加速化、農業者戸別所得補償制度の廃止、そして、昨年の史上最悪の米価の下落。北海道だけではなく、全国各地の稲作農家は、所得が大きく減少し、規模拡大に伴う投資による借金返済の見通しがつかず、将来を悲観して自死者も出ました。さらに、今度は、食用米は余っているからと、飼料用米、牛や豚の餌を作らせ、一方で、米国からTPPで食用米を大量に追加輸入しようとしている。そして、今回の法改正では、小規模、家族経営農家を守ってきた農家のセーフティーネットである農業協同組合、農業委員会、さらには、農地まで、財界、企業にコントロールさせる仕組みを作ろうとしています。農業農村に新自由主義を持ち込み、戦後の民主的改革を壊そうとしている安倍総理の描く「戦後レジームからの脱却農政」は、間違っています。「農業・農村の所得倍増」「息を呑むほど美しい田園風景を守る」と、どんなに耳当たりの良いスローガンが並んでも、農家の皆さんの心には何も響きません。安倍政権による企業参入を軸とした農政改革では、農業・農村の明るい未来が私には全く見えません。

 食管法時代の米行政に代表されるように、国や地方公共団体はこれまで、農協系統を生産調整政策の推進に使ってきた側面があり、行政の代行的業務を行わせてきました。米の集荷を一手に地域農協が引き受け、その頂点に立って監査や指導を行ってきたのがJA全中です。総理は全中の強力な指導・監査の下で、単位農協の自由な経営が制約されており、中央会制度をなくす事で、単位農協が経済活動を活発に行い、農業者の所得向上につながると説明しておられますが、これまでの国会審議の中で、JA全中によって、単位農協が自由な経営を阻害されてきたという具体的な事例が全く示されておりません。そもそも何の根拠もないのに、なぜ、法改正をしなければならないのか、全く理解できません。全中の監査指導権をなくすことで、なぜ単位農協の活動が活性化され、農業者の所得向上につながるのか、大臣の納得のいく説明を求めます。

2 一般社団法人となるJA全中は法改正後、どのような役割を担う事になるのか。またJA全中を、なぜ都道府県中央会と同じ農業協同組合連合会ではなく、一般社団法人に転換する必要があったのか。  
   今回の法改正で、全中を2019年9月末までに一般社団法人とし、全中監査や指導権限が廃止されます。さらには、組合に関する事項について、行政庁に意見を述べる「建議権」もなくなります。となると、一般社団法人となるJA全中は法改正後、どのような役割を担う事になるのでしょうか。またJA全中を、なぜ都道府県中央会と同じ農業協同組合連合会ではなく、一般社団法人に転換する必要があったのかについても、ご説明をお願いします。
3 なぜ、農業協同組合をその目的・理念が全く異なる株式会社にする道を開いたのか、その理由を問う。  
   農協は、「農業者のための協同組合」であると同時に、「地域のための協同組合」でもあります。厚生病院、A-COOP、ガソリンスタンド、高齢者福祉施設、葬祭場、人口の少ない地方の町では、採算の取れない事業を農協が引き受け、地域の生活インフラを支えています。准組合員になり利用している人もいますが、病院などは、一般の方々も利用しています。一定の員外利用割合の規制があり、規制に違反しないで利用するには、当面は、准組合員になってもらう事になると思いますが、一方で改正案は、准組合員の事業の利用状況を法施行後5年かけて調査・検討するとしています。その結果、組合員よりも准組合員の利用率が高いのだから、組合員でない人も広く利用できるようになどとして、政府は、改正案の規定にもあるように、農協の株式会社化を求めかねません。株式会社になれば、採算が取れない事業や支店はいずれ撤退・閉鎖となり、地域の生活インフラ、命綱が失われてしまいます。そもそも、なぜ、農業協同組合をその目的・理念が全く異なる株式会社にする道を開いたのか、その理由をお伺いします。
4 農業所得の増大を最大の目的と規定する事は、農協の地域社会への貢献という役割を薄めるとともに、いずれ准組合員制度を廃止するとの考えを示すものではないか。  
   さらに、改正案は、現行法第8条における組合の目的について「営利を目的として事業を行ってはならない」との文言を削除するとともに、改正案第7条第2項では、「組合は、農業所得の増大に最大限配慮」すべきとの規定を新たに設けています。この改正は、農協は農業者の職能組合に純化し、農業所得の増大に集中せよとの趣旨と思われます。しかし、農協が組織体として持続する上で、適切な利益を求める事は当然の責務であり、現行法の、農協は営利を目的とせずとの文言があっても、これまで何の支障もありませんでした。そして、農協は、正組合員と准組合員から構成されており、農業所得の増大を最大の目的とわざわざ規定する事は、農協の地域社会への貢献という役割を薄めるとともに、いずれ准組合員制度を廃止するとの考えを示すものではありませんか。
5 農業委員会の公選制を維持するべきではないか。  
   農業委員会について伺います。
 農業委員は、農地の権利移動についての許認可や、農地転用の業務を中心とした農地行政の執行という極めて重要な機能を担っている事から、公選制を維持してきました。法改正により公選制を廃止し、市町村長による選任制に変更するとしています。政府は、これまで農業委員の多くが無投票当選し、選挙が形骸化してきた事を理由としています。しかし、それは地域の農業者がこの人ならと信頼している事の結果であり、公選制をやめる理由になりません。選任制で、市町村長が適切な人物を選任する事はどのように保証されるのでしょう。さらに、改正案では地域に住んでいない人も委員になる事が出来ますが、地域との結びつきがない農業委員が地域からの信頼を得られるのでしょうか。農業者等からの推薦及び公募による候補者を求めるとしていますが、定数を超える推薦又は公募があった場合、最後は市町村長の裁量となります。市町村長の恣意的な選任が行われる可能性は排除できません。市町村長に何らかの圧力がかかる場合も考えられます。恣意的な選任が行われれば、農地を守るという農業委員会の使命を果たす事が出来なくなります。公選制を維持するべきだと考えますが、大臣のご見解を伺います。
6 なぜ、今まで農業委員1本でやってきた事を、農地利用最適化推進委員と2つに分けるのか。政府は推進委員に何を期待しているのか。農業委員と推進委員の関係や役割分担がどうなるのか、それぞれの人数はどう決めるのか。解り易く説明せよ。  
   改正案では、農業委員を半減し、新たに農地利用最適化推進委員を農業委員会が委嘱するとしています。推進委員は、現場の活動を担い、農業委員は合議体の決定行為を行うと説明されています。また、推進委員は、農地中間管理機構と連携して、農地集積業務を行う事が規定されていますが、農業委員にはそうした規定はありません。なぜ、今まで農業委員1本でやってきた事を、2つに分けるのか。政府は推進委員に何を期待しているのでしょうか、農業委員と推進委員の役割分担は明確になっているでしょうか。法改正により、現場がぎくしゃくとし混乱が生じる懸念があります。農業委員と推進委員の関係や役割分担がどうなるのか、それぞれの人数はどう決めるのか、解り易くご説明下さい。
7 政府のイメージする農地利用最適化推進委員はどんな人なのか、具体像を問う。  
   また、推進委員の委嘱に当たっては、農業委員会が農業者に対して、候補者の推薦を求める、また募集を行うと言う事ですが、具体的にどういう人について推薦を求め、募集するのか、経歴や経験など、選ぶ基準は定めるのか。女性の積極的な登用の仕組みは考えるのか、また、推進委員は、どこからの指示で、どういう方法で農地集積のための地域での交渉や調整を行うのかという事が非常に重要です。
  極端な話、バブル期の地上げ屋のような人や、ディベロッパーのような人が農村に入ってきては大変です。政府のイメージする農地利用最適化推進委員はどんな人なのか具体像をお伺いします。
8 利益確保を最優先する企業が農業に参入する事で、我が国の食料生産と農地を維持できると考えるのか。農業生産法人の要件緩和は「息を呑むような美しい田園風景」を壊してしまう事になるのではないか。  
   農業生産法人の要件の緩和についてお伺いします。
  今回の農地法改正により、農地を所有できる法人、「農業生産法人」を「農地所有適格法人」と改め、要件を緩和し、企業の農業参入を一気に進めようとしています。25%までに限定されていた一般企業の出資比率は50%未満まで緩和されます。このことによって、資本力のある企業が農地を大規模に買い集める可能性は否定できません。そうなると農地を奪われた農業者は、企業に雇われなければ農業を続けられないということになりかねません。我が国の農村から、農家、農民がいなくなり、農業者は企業の一労働者として、サラリーマンとして働く時代がやってくるのでしょうか。大臣は、利益確保を最優先する企業が農業に参入する事で、我が国の食料生産と農地を維持できるとお考えですか。企業は、農民と違って、儲からなければやめます。やめてしまえば農地は荒廃します。荒廃した農地は、簡単には元には戻りません。農業生産法人の要件緩和は「息を呑むような美しい田園風景」を壊してしまう事になるのではないですか。
 
  官邸主導の農業改革、そして、今回の法改正の狙いは明らかです。5年後、農協はどうなっているのか。農村コミュニティーはどうなってしまうのか。政府は、農協組織や農業委員会がこれまで果たしてきた役割を無視し、悪者に仕立てあげ、農民のこれまでの苦労や努力を踏みにじり、日米の財界の要求に応え、結論ありきで独善的に法改正を行おうとしています。農業・農村に競争と効率、利益再優先の経済至上主義を持ち込もうとしている、この法案が成立すれば、地方創生どころか、地方解体、農村崩壊に繋がります。我々民主党は、「地域」「農民」を守り、日本の食料安全保障を確立するために、必死で戦い抜く事をお約束し、私の質問を終わらせて頂きます。

2015年7月3日 2015年7月3日 農協法改正に対する代表質問 徳永エリ

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