2014年1月30日

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1月29日 総理施政方針演説に対する代表質問 民主党・新緑風会 神本美恵子


平成26年1月29日
総理施政方針演説に対する代表質問
民主党・新緑風会 神本美恵子
民主党・新緑風会の神本美恵子です。会派を代表しまして、安倍総理の施政方針演説に対する質問をいたします。
1.東日本大震災と福島原発事故
  ○被災地の現状認識と具体策 <安倍総理>
  東日本大震災と原発事故からまもなく3年。原発事故により避難生活を余儀なくされ避難生活の中で、配偶者が認知症を発症されたある女性の叫びです。
「3回目の避難先は仮設住宅。小さな部屋が二つずつ並ぶまるで鶏小屋のようなところでの生活。夫の入院、その看病で私自身も倒れそうである。故郷の家は廊下も部屋も山羊のフンだらけ。もし帰れても住むことはできない。国も県も町でさえもこの苦しみを分かっているのだろうか。仮設では主人を死なせたくない。私も絶対死にたくない!」
安倍総理の施政方針演説での「2020年、新たな東北の姿を」、「やれば、できる。」という掛け声が空疎に聞こえます。今も、苦しい生活を強いられ、未来に希望を持つことができない被災地の方々のこうした声を総理は本当にお聞きになったことがあるのでしょうか。
被災地における重要な産業である農業や漁業、観光業は本格的な復興どころか、未だ復旧の緒に就いた段階です。とりわけ福島を始め原発事故の影響を受けている地域の現状は深刻です。住まいの整備のみならず復興が着実に進んでいない分野について、安倍総理はどのような現状認識と具体策をお持ちかお示しください。
2.特定秘密保護法
  ○特定秘密保護法による生活への脅威 <安倍総理>
次に特定秘密保護法による生活への脅威についてお尋ねします。
特定秘密保護法について、強行採決後の12月9日の記者会見で安倍総理は通常の生活が脅かされるようなことは断じてあり得ないとおっしゃっています。しかし、それは法律が一人歩きする危険、特に治安・秘密に関する法律が一人歩きした戦前の教訓への無知をさらけだしています。
戦前、治安維持法に違反したとして逮捕されたのは7万件、しかし、裁判になったものは、そのうちの1割でしかありませんでした。「しょっ引くぞ」という威嚇効果が十二分に発揮されていた訳です。
安倍総理、戦前に吉田茂元総理が逮捕されたことをご存知でしょうか?
1945年4月15日、吉田茂さんは他の二人と共に特高によって逮捕されました。特高によれば吉田一派は反戦分子であり、その後二段階で近衛文麿元総理ら7人を検挙する計画でした。
その罪状は
1. 軍事上の造言蜚語罪(陸軍刑法第99条違反)
2. 軍機保護法違反罪
でした。
つまり、特定秘密保護法案に類似した軍機保護法違反で総理経験者も検挙するという計画を特高が持っていたのです。
いま幸いにして私たちは特高も憲兵もない社会にいます。しかし特定秘密保護法を手にした公安警察などがテロ容疑名目でどのような動きをするか、国民の不安や疑念はこうした歴史の教訓を踏まえたものなのです。安倍総理はいかがお考えか、ご認識をお聞かせください。
3.靖国神社参拝と日本の安全保障
  次に靖国神社参拝についてお尋ねします。
総理、昨年末あなたは唐突に靖国神社参拝を行い、2014年、新しい一年に向け、中国・韓国との関係改善の歩みを始めるべきときに、その機会を自ら潰したのです。
世界が驚き、批判の声をあげました。それは実に広範な世界の主要な国々からのものでした。中国や韓国、北朝鮮からの批判は予想されたでしょうが、ロシア、台湾、シンガポール、ドイツ、EU、そしてアメリカです。
台湾外交部は「日本政府や政治家は史実を直視し、歴史の教訓を学ぶべきだ。近隣国の国民感情を傷つけるような振る舞いをすべきではない」、アメリカの在日大使館と国務省は「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに米国政府は失望している」との談話を発表しました。

○靖国神社参拝と憲法 <安倍総理>
  靖国神社参拝に関して、まずお聞きしたいのは憲法との問題です。日本国憲法第20条および第89条はいわゆる政教分離の原則を謳い、政治と宗教との関係を規定しています。今回、総理は「内閣総理大臣 安倍晋三」と札をかけた花を参拝前に奉納され、その後、昇殿参拝されました。こうした行為は憲法に照らし、政教分離の原則に違反する可能性があります。この点、いかがお考えか、安倍総理からお聞かせください。

○中国・韓国との首脳会談実現へ向けての計画 <安倍総理>
  私は昨年末、民主党の「未来に向けて戦後補償を考える議員連盟」の一員として韓国を訪問し、歴史認識などについて韓国の議員の方たちと意見交換を行い、日常の対話の重要性について再認識をしました。
安倍総理は中国・韓国首脳に「対話のドアはつねに開いている」と語っておられます。では、そのためにどのように具体的な行動をとるのでしょうか。1月23日付「朝日新聞」のインタビューでケネディ駐日米大使が言及したように歴史問題に向き合うしか、近隣諸国との和解はないと私は考えていますが、今回の靖国神社参拝を踏まえて、首脳会談実現に向けた具体的な計画を安倍総理からお示し願いたいと思います。
  私たちが心して思い起こさなければならないのは、1940年に開催が決定していた東京オリンピックが、日中戦争の激化で開催返上に追い込まれた歴史です。こうしたことが繰り返されないように平和と国際協調の大切さをしっかりと確認しあわなければなりません。

○「従軍慰安婦」問題への国際社会からの批判 <安倍総理>
次に「従軍慰安婦」問題についてお尋ねします。
籾井NHK会長の発言は無知をさらけ出すもので、国家が主導した「戦時性奴隷制度」は類似のものがあったとされているドイツ以外には、確認されているのは日本だけです。何の根拠もない持論を公の電波で展開し、再び、被害者を傷つけたことは、本当に許せません。籾井会長は即刻辞任すべきです。籾井会長の発言に関する安倍総理のご見解を伺います。
韓国を訪問した際、「女性家族部」の長官とお会いしました。長官は、韓国の元従軍慰安婦の方々、平均年齢が88歳となる51名のお一人お一人と会って、お話をされたそうです。そして、「従軍慰安婦」の問題は、過去の問題ではなく現在の問題であり、謝罪を求めるのは過去の過ちを二度と繰り返さないために必要なことだと述べられました。この問題に国際社会からも多くの懸念が発せられています。

国連社会権規約委員会(経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会)と国連拷問禁止委員会は、昨年、「慰安婦」問題について日本に相次いで勧告を行っていますが、内閣はこれらに対して法的拘束力がないので従う義務はないとしています。それが、国連人権理事国としてとるべき態度でしょうか。安倍総理のご見解をお聞かせください。

○安保理決議1325と国内行動計画 <安倍総理>
政府は、現在、女性・平和・安全保障に関する国連安保理決議1325の国内行動計画の策定に努力を重ねられていると承知しております。この安保理決議1325の精神に基づき、「従軍慰安婦」問題の解決にむけた具体的な行動の計画を、安倍総理からお示しいただきたいと思います。必ず、韓国政府との対話の糸口がここにあると確信しております。

○解釈変更による憲法改正 <安倍総理><太田国交大臣>
次に憲法改正についてお尋ねします。
安倍総理は今国会を、経済の「好循環実現国会」と銘打たれていますが、施政方針演説をお聞きすると、昨年秋の臨時国会で明らかになった特定秘密保護法成立を強引に押し切った手法を今後とも安倍内閣の常套手段として、これまで培ってきた国の基本路線を変更しようとしているのではないかと危惧されます。
例えば、「安倍カラー」の政策を最も象徴している憲法改正に向けて、「必ずや、前に進んで行くことができると信じております」と発言されていますが、集団的自衛権の行使容認に向けた解釈変更によって憲法改正へ進む目論見が読み取れます。つまり、これは憲法改正について国民の支持を得ることが難しいので、憲法解釈によって実質、憲法改正に踏み込む姿勢を明らかにしているのではないでしょうか。この点、安倍総理の率直なご見解をお示しください。昨年7月に麻生財務大臣が「ワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた。あの手口を学んだらどうか」と発言されていますが、それと同じ手法と理解してよろしいでしょうか。安倍総理、お答えください。また、解釈改憲や憲法改正に前のめりになっている安倍総理及び政府の方針について太田国交大臣の所感もお聞かせください。

4. 中東・アフリカ外交
  ○中東・アフリカの人々の貧困と人権 <安倍総理>
次に総理が精力的に行ったという中東・アフリカ外交についてお尋ねいたします。総理は、オマーン・コートジボワール・モザンビーク・エチオピアの4カ国を訪問され、最終日に「一人、ひとりを強くする日本のアフリカ外交」というスピーチをされました。
私は、「一人、ひとりを強くする」ために、まず、必要なことは、その人が生きるための基本的な衣食住が満たされ、基本的な人権が守られているのかを知ることから始まるのではないかと思いますが、訪問されたアフリカ3カ国を見ると、1日1.25ドル以下で暮らしている人の割合である貧困率は、コートジボワールは約25%、エチオピアは約30%、モザンビークは実に約60%です。
総理が訪問された国々あるいは、アフリカの人びとの暮らしについて総理がどのような認識をお持ちなのかお伺いいたします。
今回アフリカで行われている政府と企業とが一体となった開発は目新しいものではなく、現地では「中国の二番煎じ」と呼ばれ、かつての日本の東南アジア進出を想起させるものです。私には、日本も、また、金儲けを追求する企業のための「フロンティア」としてアフリカを見ているのではないかと思えるのです。

○モザンビークの「プロサバンナ事業」におけるアグリビジネスとの利益相反 <安倍総理>
モザンビークには、様々な天然資源が豊富にあり、すでに日本企業も進出しています。今回、日本はモザンビークの北部にある「ナカラ回廊」と呼ばれる幹線道路網を含む総合開発のために700億円の政府開発援助の供与を新たに約束しました。
しかし、この地域では2009年に決定した、この「ナカラ回廊」の走るモザンビーク北部3州、日本の耕地面積の3倍にあたる1400万ヘクタールの農業地域を対象地域にした「日本・ブラジル・モザンビーク三角協力によるアフリカ熱帯サバンナ農業開発プロジェクト」(プロサバンナ事業)と呼ばれる農業開発プロジェクトが進んでいます。そこには、400万人以上の住民がいて、そのほとんどが小規模農民です。
昨年、TICAD5の直前の5月にモザンビークの広範なる農民・市民社会組織23団体から、9月には日本の市民社会36団体から、事業の民主的手続きや法の遵守に疑問を呈する「緊急停止」の要請が出されています。総理はこの度の訪問で、モザンビークの大統領にこうした懸念の声をどのようにお伝えになったのか、お伺いします。
さらに現在、プロサバンナ事業のブラジル側コンサル機関(FGVエフ・ジェー・ベーというそうです)が、開発プロジェクトが進んでいる同じ地域を対象に30万へクタールの土地への200億円規模の投資を世界中から集めています。住民のための政府開発援助事業を請け負いながら、同じ地域で投資集めをするという利益相反状態にあります。プロサバンナ事業は、日本・ブラジル・モザンビーク政府による三角協力によるものですから、日本政府がこの状況を放置すべきではないと考えます。住民の利益を無視し、世界の巨大アグリビジネスの便宜を図るようなODAのあり方は間違っていると言えるのではないでしょうか。
沢山の企業を引き連れ、大規模開発に巨額の借款による援助を表明した今回の総理のアフリカ訪問で、地道な援助を続けることで培われてきたアフリカの人々との信頼関係は失われていないのでしょうか。新たな開発によって、腐敗と人権侵害が拡大するのであればそれは積極的であれなんであれ、「平和主義」の実現のためではなく 、総理のひとりよがりにしかすぎないのです。安倍総理のお考えをお聞かせください。

5.持続可能な経済成長
  ○人口減少と持続可能な経済成長 <安倍総理>
次に人口減少問題についてお尋ねします。
総理は「経済対策により持続可能な経済成長を確保してまいります」と明言しています。しかし、現在わが国のおかれている状況、急激な人口減少を迎えることを考えた場合、「持続可能な成長」は幻想ではないのか、疑問を持たざるを得ません。
人口減少は当然のことながら6歳から14歳までの就学人口、そして15歳から64歳までの生産年齢人口の減少を伴っています。
就学人口の減少が激しい地域では、学校の統廃合がすすめられ、そのため地域社会の「中心」としての小学校の消滅が現実化しています。小学校は、子どもを通じ住民同士が身近に顔をあわせ語り合うことができ、あらゆる地域活動などを行う際に使われる拠点です。それだけに、学校の統廃合等により「学校が消滅」すれば地域のコミュニティもなくなり、その地域はますます人口減少につながっていきます。
2013年3月時点の住民基本台帳によると、生産年齢人口は初めて8000万人台を割り込み、全体の62%まで縮小したと報道されています。生産年齢人口の減少は日本経済の潜在成長率を押し下げる要因となります。また、これらの世代は働き、税金を納めていますので、この世代の減少は経済的にも大きな影響を与えます。
一方、65歳以上の人口は増え続けており、高齢者を支える働き手の数は、2010年段階では「2.8人」で1人を支え、2060年は「1.3人」で1人を支えるようになり、年金問題など社会保障の在り方にも大きな影響を与えます。
このように人口減少の問題は、日本の方向を考える上であらゆる分野に影響を及ぼす重要な大きな問題として横たわっているのですが、残念ながら施政方針演説からはそうしたことが聞き取れませんでした。これからの日本は、経済の好循環により「バラ色」と聞こえましたが、本当にそうでしょうか。人口減少問題について安倍総理のご見解をお聞かせください。
6.文教関係
  ○過度の競争と公教育の充実 <安倍総理>
次に教育についてお尋ねします。
安倍総理が掲げる教育再生とはいかなるものでしょうか。
民主党は、経済格差や貧困の連鎖を防ぎ、教育格差を生まないためにチルドレン・ファースト、社会全体で子育て・教育を支える政策をすすめてきました。しかし、安倍政権になってからの施策は、希望するすべての子どもたちに後期中等教育の機会と学習権を保障するための「高校授業料実質無償化制度」への所得制限の導入、少人数学級により一人ひとりの子どもたちに行き届いたきめ細かな教育を実現するための「35人以下学級の計画的段階的実施」の中断、そして2014年度予算での教職員定数の縮減などです。実に、この定数縮減は1958年の義務標準法制定以来、初めてのことです。
  これらの施策を後退させ、教育条件・環境整備のための予算を減らすことが、安倍総理の言う「教育再生」なのでしょうか。
  総理は施政方針演説で「国際的な学力調査で日本の学力が過去最高とな」ったのは、「全国学力テストを受けた世代」で、公教育の再生の成果だと述べています。あまりにも表層的、短絡的な評価ではありませんか。学力とは何か。1996年、ユネスコは学習の4本柱、「知ることを学ぶ」「為すことを学ぶ」「共に生きることを学ぶ」「人として生きることを学ぶ」を提起しました。
  今年度から悉皆調査に戻され、学校毎の結果公表も可能とされようとしている全国学力テストで測られる学力とは「知ること」つまり知識習得の部分だけではないでしょうか。
  言うまでもなく、教育の目的は教育基本法第1条「人格の完成をめざ」すものです。人格の完成をめざす教育は、地域に暮らす、さまざまな人々との現実生活に根ざして、異文化や価値の多様性、人権・平和・民主主義を尊重し、「次世代の共同体を担う成熟した市民」を育てることと考えます。「共に生きる」「人として生きる」ことを学ぶことこそが、今日、ますます重要になっていると考えます。
  過度の競争が子どもに重い負担を強いて、いじめ、精神障害、不登校、自死などを助長している可能性があり、見直すべきとの勧告が、国連子どもの権利委員会から繰り返し日本政府に対して表明されていることを総理はご存知でしょうか。一面的な学力測定で、過度の競争や序列化を招く、悉皆調査による全国学力テストは廃止すべきと考えますが、安倍総理のご見解をお聞かせください。
  また「教育再生」を最重要課題に掲げるのであれば、すべての子どもが、家庭の経済状況にかかわらず、最良の教育を受けることができるよう、国の責任で、十分な教育予算を確保し、公教育の充実に努めるべきであると考えますが、安倍総理のご見解をお聞かせください。

○教科書検定基準の見直しと道徳の教科化 <安倍総理>
安倍内閣は教育再生の、もう一つの側面として、教科書検定基準の見直し、道徳の教科化を進めようとしています。これは戦前の国家に奉仕する人間育成のための「国定教科書」や「修身科」の復活につながるのではないかと危惧していますが、安倍総理のご認識を伺います。

○教育委員会制度 <安倍総理>
昨年の12月、中央教育審議会は、「今後の地方教育行政の在り方について」の答申を行い、教育委員会制度について首長と教育長の権限を強化するとしています。
そもそも教育委員会制度は、政治的党派性や政治イデオロギーから教育が中立的に運営されるよう、首長から独立した「合議制の執行機関」に位置付けられ、政治的中立を確保しつつ公正な教育行政を行うことが要請されています。
1976(昭和51)の最高裁判決にもあるように教育には政治的影響が深く入り込む危険があることから、教育行政の中立性を制度的に担保することが求められ、今日65年有余を経ています。教育基本法第16条においても、教育は「不当な支配に服することなく」と、その中立性が制度的に強く要請されているところです。
さらに公正さと政治的中立性を確保するため、地方自治法で規定される「行政委員会」に位置づけられているのです。そして教育委員は、教育行政に公正な民意を反映することをふまえ、地域の教育をめぐって大所高所から意見をたたかわせるために、地域の各界各層から選ばれた多様な人材によって構成され、地域の教育政策の基本方針を決定する仕組みになっています。
教育委員会は首長、教育長の権限強化でなく、政治的中立を担保し、「合議制の執行機関」としての機能強化を図るべきであると考えます。
安倍総理が施政方針で述べている教育委員会の制度の改革は、どういう方向で改革するのでしょうか。安倍総理のご見解をお伺いしたいと思います。

○教育政策と地域 <安倍総理>
施政方針では「若者を伸ばす教育再生」と称し、英語教育の強化などをはじめ、子どもたちへの学力向上が提起されていますが、教育の向上には本人の努力は勿論、学校、家庭・保護者、地域との連携が欠かせません。特に「いじめ」などの問題の解決や子どもたちの安全を確保するには、地域などとの連携・協力が必要になっています。
  今のような少子化の時代、子どもたちに特に必要なことは、人とのコミュニケーション能力、共に生きる力を育て伸ばしていくことです。そのためには、地域の人とのつながりを深めながら、子どもたちが地域に愛着を持てるような活動や体験を意図的に仕組んでいくことが必要です。
人間形成に欠かせない学校教育は、今日公教育制度として機能しながら、地域との密接なつながりにより、充実した教育活動が可能になっています。その中で、地域住民の方々が有する経験や知恵は、学校教育推進にとって有力な力となり、それが、「自分たちの学校」「この町の学校」という愛着を生み、長期にわたって学校を支える強力な力となるものと考えられます。
施政方針はこうした視点を欠落して「教育の再生」を提起していると指摘せざるを得ません。安倍総理のご見解をお聞かせください。
今、政府は、「国家戦略特区」における規制緩和の一つに、公立学校運営の民間委託を認める「公設民営学校の設置」を検討することを正式に決定しています。これは、教育を民間にとってのビジネス・チャンスとして、積極的に「教育の私事化」を押し進めようとしているものです。こうした動きはますます子どもたちと地域を、学校と地域を遠ざけることにならないか、憂えているのは私だけでしょうか。安倍総理のご見解をお聞かせください。

7.雇用関係
  ○規制緩和による労働者の犠牲 <安倍総理>
次に雇用分野について質問します。
安倍総理の雇用制度改革は、「新たな成長分野での雇用機会の拡大を図る中で、成熟分野から成長分野への失業なき労働移動を進めるため、雇用政策の基本を行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型へと大胆に転換する」(日本再興戦略)としています。就労者の約9割が雇用者である雇用社会・日本において、「新たな成長分野での雇用機会の拡大」に先行して雇用労働分野の規制緩和を進め、労働者に犠牲を強いて「世界で一番ビジネスがしやすい国」にすることが、幸せな国民、労働者のくらしにつながるのか大変、疑問です。雇用の規制緩和がもたらす労働者の犠牲について安倍総理のご見解をお示しください。

○雇用環境の悪化 <安倍総理>
ILOのガイ・ライダー事務局長は「雇用の規制緩和を成長をもたらす魔法のような解決策としてとらえるのは間違っている。雇用の規制緩和や流動化が成長につながったケースもない」と述べています。雇用労働分野の規制緩和が経済成長をもたらすのか、私には疑問です。
それどころか、労働者を痛めつければ、消費が縮小することは明らかであり、デフレ解消と矛盾する政策ではないでしょうか。いわゆる「ブラック企業」問題、長時間労働など労働者の雇用環境は悪化しており、特に過重労働、低賃金、不安定雇用の結果生じている過労死、自死は大きな社会問題であり、社会の損失ではないかと思いますが、総理はいかがお考えですか。

   
  質問を終えるにあたって、ノンフィクション作家の保阪正康さんが、色紙に揮毫する言葉を安倍総理にお伝えしたいと思います。
それは「前事(ぜんじ)不忘(ふぼう) 後事之師(こうじのし)」という言葉です。これは日中国交正常化交渉時、当時の周恩来首相が挨拶の中で使われた言葉でもあります。読んで字の如く「前のことを忘れず、後の戒めとする」という意味ですが、私は、「二度と危うい歴史を歩んではならない。そのためにも歴史を直視し、戦禍の記憶を記録に残し、次代を担う世代に議論を通じて伝えていく必要がある」という思いが込められた言葉だと思います。どうか総理には、この「前事不忘 後事之師」を受け止めていただきたい、それをお願いして私の質問を終ります。

2014年1月30日 1月29日 総理施政方針演説に対する代表質問 民主党・新緑風会 神本美恵子

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