2012年5月22日

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中国国際交流協会主催「理解と協力」対話活動

(開会式における基調報告)

江田 五月

 議長、国際交流協会と各国の指導者の皆さん。本日は、中国側の卓越した指導力により、このような素晴らしい国際フォーラムが成功裏に開催され、発言の機会までいただき心から感謝いたします。

 まず、私自身の簡単な自己紹介をいたします。私は、1941年の本日、つまり太平洋戦争勃発の直前に生まれました。今日が71歳の誕生日です。私の父は戦前、戦争に反対して2年8ヶ月獄中生活を送りました。出所後、日本ではどのような目に会うか分からず、中国に渡って河北省の石家荘で水利工事に従事しました。これなら戦後も中国人民の役に立つからです。やがて戦争が終わり、父は母と私と生まれたばかりの弟と、そして大勢の日本人とを連れて、着のみ着のままで日本に引き揚げました。私自身は幼すぎてほとんど記憶に残っていませんが、中国の皆さんに大変にお世話になったと思います。

 その父が政治闘争の中で無念の死を遂げ、今日が35年目の命日となります。私がその後を引き受けて日本の民主主義と政権交代政治の実現を目指し、やっと2009年9月に民主党政権ができました。その2年前から3年間、私は民主党が多数派となった参議院で議長を務めました。昨年は法務大臣と環境大臣も務め、東日本大震災では閣僚の一人として悪戦苦闘しました。その際の国際社会からのご支援に、ここで改めて心からの感謝を申し上げます。昨秋からは、現在政権を担っている民主党の最高顧問を務めています。

 日中両国は一衣帯水の隣国関係で、課題もたくさんありますが、戦略的互恵関係を築くことが何よりも大切です。特に今年は、日中国交正常化40周年で、昨年末に両国首脳で今年を「日中国民交流友好年」と定め、多彩な活動を展開しているところです。しかし本日のテーマは、このような二国間関係を超えた世界的規模の、特に中国を取り巻く世界やアジア太平洋地域の平和構築と安定した経済、社会、文化の関係構築だと思います。そこで、この視点からの私の若干の問題提起を試みてみます。

 長い人類の歴史を辿れば、中国は古代の四大文明のひとつを担った時代以来一貫して、世界の進歩と発展の中心のひとつとして大きな役割を果たしてきました。表音文字の壮大な漢字の体系や印刷術、孔子をはじめとする中国哲学などは、今もなお人類の文明の根幹を形成しています。確かに近代から現代史の中で、西欧列強の膨張と征服の濁流が世界を覆い、中国が大変な辛酸をなめた時期がありました。日本もこれに荷担したことについては、日本政府として公式に反省と謝罪の態度を明確にしております。その後、中国は社会主義革命により新しいスタートを切り、改革・解放の旗を高く掲げて今やGDPでは日本を抜いて世界有数の経済大国になっています。中国が国際社会の課題解決のために果たすべき役割は、極めて大きくなっているのです。

 その一方で世界の現状を見れば、輸送技術や情報通信技術といった交流手段の進歩がグローバル化を促し、北京オリンピックの「同じ世界、同じ夢((One World, One Dream)」を世界中の人々が実感するに至っています。その結果、我々の生活は格段に便利になりましたが、相互依存関係が広範囲かつ複雑に広がった結果、多様な摩擦も生まれています。

 このような情勢の中、従来の二国間関係や国連を中心とした国際協調の枠組みに加え、目的に応じた新たな多国間協調が活発化し、例えばアジアでは、東南アジア諸国連合、ASEAN地域フォーラム、アジア太平洋経済協力、東アジア首脳会議、日中韓サミットなど、重層的な枠組みが形成されてきました。このような動きは、まさに本フォーラムのテーマである「理解と協力」を促進するためです。

 この方向は、今後も決して後退させてはならず私たちは皆、確信を持ってこの前進のために努力すべきです。いかなる懸案や摩擦があろうとも、これを武力で解決しようとする動きを前もって摘み取り、戦火が勃発することを決して許してはなりません。平和で安定的なアジア大洋州地域と平和な世界があってこそ、私たちが繁栄を享受することが可能となるのです。争いの中に利益を見出す国はないというのが私の揺るぎない確信です。

 同時に私は今、21世紀の世界を主導する理念は、自然環境と人類との共存関係の構築だと思っています。自然の猛威を征服した上に人類の大いなる繁栄を打ち立てる時代はそろそろ終わり、自然との根源的な共存の中に人類の進歩と発展を図ることが大切になってきたと思っています。私たち日本人は皆、実は深刻な反省に直面しています。言うまでもなく、昨年の大震災が提起した課題です。大地震と巨大津波の被害も甚大でしたが、原子力発電所事故はその質において、もっと深刻です。津波からは私たちは逃げるほかに術はないのですが、原発事故からは逃る術がないのです。

 誤解があってはいけないので付け加えておきますが、日本は今、原発サイトの近辺以外の地域は安全で、国民も普段どおりの生活を送っているので、国際社会の皆さんもどうぞ安心して日本に来て下さい。原発事故が私たちに問うている課題は、人類が生み出す科学技術が自然を際限なく克服できるという考え方を改め、自然との調和をどう図るかということも科学技術の重要な達成目標に据えるべきだということです。この方向性につき、国際的共通理解と協力を築き上げることも、国際的フォーラムの重要課題となると思います。

 中国は今、世界中のいかなる片隅にも、活動を拡げつつあります。その中国が、中国のためだけに存在感を示すのでなく、新しい世界のあり方をみんなで一緒になって探っていくことに指導性を発揮すれば、中国は世界中から尊敬を集めることになるでしょう。中国の仲間の皆さんのご努力をいただいて、本フォーラムを通じて、世界各国の皆さまの知見を拝聴し、突っ込んだ意見交換を行い、少しでも国際社会における「理解と協力」が促進されるようなフォーラムにしたいと思います。

 ご静聴ありがとうございました。


2012年5月22日

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