2011年11月28日

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参議院憲法審査会発言(原稿)


第1.私と憲法、参議院と民主党の各憲法調査会について

 憲法審査会の始動に当たり、関谷先生には参議院憲法調査会の最終段階の会長等としてご足労いただき、感謝に堪えません。また自由討議の最初に私に発言の機会を与えていただき、心からお礼を申し上げます。

 私は調査会の立ち上がりのときの民主党・新緑風会所属の幹事で、運営検討委員会の委員でした。最初に村上正邦会長が召集された幹事懇談会は冒頭から激突し流会となり、その後に私外二名の幹事で村上会長にお会いした際には怒号が飛び交うのみという大荒れの幕開けとなりました。しかし以後は、極めて良識的で建設的な議論が進められてきたと思います。

 私は調査会で9回発言しており、さらに本院の海外派遣団の団長として訪米して憲法事情を調査し、その報告書も提出しています。最初の発言は、2000年2月16日です。私は、ほぼ同時期に開始した民主党の憲法調査会の事務局長として、党の憲法論議に関わってきたので、その立場を踏まえて民主党の憲法に関する基本姿勢を紹介しました。21世紀を目前にした時期で、時代の変化を踏まえ新世紀の日本の国のかたちを大いに議論し、私たちが目指すものと現に私たちが手にしている日本国憲法と照らし合わせて、守るべきは守り変えるべきは変えるという姿勢で、大いに憲法を論じようという「論憲」の姿勢で、さらに民主党はその後、「創憲」も打ち出しました。党の調査会では、総論、統治、人権、分権、そして国際・安保と五つの作業部会を作り、私は、人権部会の座長も務めました。環境権、人格権、知る権利など、あるいは安全への権利、発展への権利、自己実現への権利、人間の安全保障といった新しい人権などの意欲的な提言をまとめて、中間報告憲法提言を取りまとめたのです。

 この過程で私たちは、現在の憲法の平和主義、民主主義、基本的人権という三つの基本的原則は、これからもこの国の形の原則であり続けるべきもので、変えてはならないものだと確認しました。

 現憲法は、戦後の占領下で制定されたもので、制定過程に占領権力の介入があったことは否定できません。しかし、この歴史的事実は大日本帝国憲法を基本法とする当時のわが国のかたちが引き起こしたもので、制定過程はこの歴史全体の中で観察しなければなりません。占領権力が世界の憲法史の流れに沿って行動し、その時代における国際社会とわが国との意思の合致が現憲法となったという側面もあるわけです。現憲法は、形式的には帝国議会の審議などの手続きを経て成立し、その後半世紀以上にわたってこの国のかたちを規定する基本法として受け入れられ、機能してきました。制定当時の国の意思決定の有効性については、さまざまな説があります。しかし今述べたような現憲法の有効性に照らせば、やはり当時すでに未成熟であっても憲法制定権力が存在していて、これが現憲法を成立させたのだと考えられます。

 本院の憲法調査会の最終報告は、これからの私たちの議論の出発点としなければなりません。

第2.私と憲法、憲法世代として論憲から創憲へ

 私自身が生まれたのは、1941(昭和16)年5月、つまり戦前です。戦後、教科書が墨で塗り潰された翌年の昭和23年の小学校入学ですから、現憲法とほぼ同時代を生きてきました。いわば純粋の戦後憲法世代といえると思います。そこで私たちの世代には、現憲法が自分たちの血であり肉であるという感覚があり、憲法改正と聞くと本能的に身構えてしまう部分があると思います。しかし私は、憲法も決して不磨の大典ではなく、現憲法も当然これが制定された時代の制約を受けており、その後の時代の変化によってより成熟していくべきものだと思っています。例えば平和主義でいえば、現憲法は前文で国際協調主義を、さらに第9条第1項で戦争の放棄を掲げ、さらにその具体的な行動規範として同条第2項に戦力の放棄を規定しました。時代の制約を考えれば、ここに自衛力や国際貢献の規定がないことはよく理解できますが、その制約が大きな変化を遂げた現在、制定当時の基本的原理が現在取るべき具体的行動規範の姿が、当時のものと変わってくるのは当然です。

 私は今、私たちの世代こそが、制定当時の状況が私たちに課している心の制約を取り払って、現憲法をいわば棚卸をして論憲から創憲へと向かっていいんだよと、戒めを解いて次の世代の皆さんが憲法問題と真正面から向き合って自由な議論ができるようにする責務を負っているのだと思っています。

第3.憲法改正の条件

 憲法改正自体は当面する緊急の課題ではありませんが、非現実的な目標だというわけでもありません。そこでこの際、憲法改正の条件をいくつか考えてみます。まず憲法第96条に規定する要件と現在の政治状況を考えれば、会派の垣根を越えて議論を進め、穏健で良識的な合意を形成する努力を積み重ねなければなりません。特に良識の府といわれる参議院は、これをしっかりと自覚すべきです。また、国会法第102条の8の合同審査会の活用も必要です。いわゆる投票年齢や投票率の要否の問題もありますが、時間の関係上省略します(*)

 世界中には多くの憲法があり、これらは概ね、民主主義や人権の確立といった流れに沿った世界史の中で生成発展し、今や地球憲法とでもいうべき憲法規範が世界に姿を現しつつあるといえます。先に述べたように、現憲法の成立にも、当時の世界史の状況が大きく関わっており、そのことを私たちはしっかりと自覚しておくべきだと思います。そして私たちが憲法改正に取り組む場合には、その内容が地球憲法にしっかりと適合しこれを前進させるものである必要があり、諸外国に歓迎されるものであることが大切だと思います。

*(省略部分)投票率については、私は国民が期待に胸を膨らませて憲法改正投票に向かうようにすることこそが、この時代の私たち政治家の務めだと思っています。つまり未成熟であった憲法制定権力を育て上げてしっかりとした憲法改正権力の行使を実現することが、今の時代の政治家の務めだということです。投票ボイコットによって憲法改正阻止を狙うようなことを誘発しかねない装置をつくることは慎重であるべきだと思います。


2011年11月28日

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