2011年2月22日

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衆議院法務委員会 江田法務大臣所信表明


一 はじめに

 この度、法務大臣に就任した江田五月です。どうぞよろしくお願いします。

 「法の支配」が行き渡り、誰もが個人として尊重される社会の確立は、国民が安心して生活するため、そして菅内閣が目指す「元気な日本の復活」のためのもっとも基礎的な土台と言うべきものです。法秩序の維持と国民の権利擁護を主たる任務とする法務行政は、そのような社会の実現のために、中心的な役割を担っています。

 私は、この重責を果たすため、法務行政の諸課題に正面から取り組みます。そして、優先度を意識しつつ、スピード感を持って政策判断を行います。もちろん、拙速に過ぎたり、独断で進めていくつもりはありません。国民の皆さまからの様々なご意見、国会等でのご議論、関係各方面のご見解などを虚心坦懐にお聞きします。そして、省内での検討、政務三役の協議などを経た上で、法務大臣として、責任を持って政策判断を行ってまいります。

 亡き父から受け継いだ私の座右の銘は、「もともと地上に道はない。みんなが歩けば道になる。」という言葉です。つまり、道は一人で作るものではありません。歩むべき方向について、みんなで話し合い、支え合いながら道を探り、その実現に向かってみんなで歩むことによって道ができるのです。委員の皆さま方には、委員会審議などを通じて、忌憚のないご意見を賜りたいと思います。
 
二 検察の再生

 所信の一端として、まず、検察について申し上げます。先般の大阪地検特捜部における一連の事態により、検察に対する国民の信頼は失墜したと言わざるを得ません。刑事司法の要と言うべき検察が、その使命を的確に果たすためには、国民からの信頼が不可欠であり、誠に深刻な状況です。

 この問題については、私の下に設置している「検察の在り方検討会議」において、幅広い観点から抜本的な議論・検討を進めていただいております。そして、本年度内を目処として、検察の在り方に関する有効な改革策等についてのご提言をいただくこととしており、これを踏まえた上で、検察の信頼回復のため、真に国民の皆さまに納得していただけるような改革策を講じ、検察の再生に取り組んでまいります。    

三 被疑者取調べの可視化と人権救済のための体制整備等

 さて、多岐に渡る法務行政の中で、特に私が精力的に取り組みたいことは、まず検察の信頼回復のためにも避けられない被疑者取調べの可視化、さらに長年の懸案であった新たな人権救済機関の設置といわゆる個人通報制度の導入のための体制整備です。

(被疑者取調べの可視化)
 録音・録画による被疑者取調べの可視化については、政務三役を中心とする省内の勉強会を設けて、着実に実現に向けた取組を進めています。現在は、昨年六月に取りまとめた中間報告を踏まえ、国内外の幅広い調査を実施するとともに、これに並行して、可視化の具体的な在り方についての検討を精力的に進めるなど取組をスピードアップさせているところです。今後、国家公安委員会との協議なども行いながら、本年六月以降のできる限り早い時期に、勉強会としての取りまとめを行うこととしています。

(人権救済のための体制整備等)
 政府からの独立性を有する新たな人権救済機関については、現在、その創設に向け、具体的な制度の在り方について検討を行っており、これを着実に前進させてまいります。それとともに、現在行っている人権侵犯事件の調査・救済活動を適正に実施し、また効果的な人権啓発活動も行ってまいります。

 人権諸条約に基づく個人通報制度を導入することは、国際社会に向かって国を開くという点でも意義のあることです。今後、その導入を見据え、通報事案への具体的対応の在り方や体制整備等について、関係府省とともに検討を進めてまいります。法相就任時の総理指示のひとつであるハーグ条約加入の是非の検討も、着実に進めます。

四 暮らしの安全・安心の確保

 国民一人ひとりが自信を持って生活し、元気な日本を取り戻していくためには、その前提として、国民が犯罪に遭うリスクをできる限り小さくし、暮らしの安全・安心を確保することが必要です。

(再犯防止対策の推進)
 犯罪対策の中で、刑務所から出所した者などの再犯を防止することは非常に重要な課題です。そこで、政府の「新成長戦略」にも掲げる「刑務所出所者等に対する社会復帰支援事業」を更に推進してまいります。

 具体的には、まず、刑務所等での改善指導や職業訓練等、保護観察中のプログラム等を一層効果的なものとするなど、処遇や教育を充実させてまいります。また、そのための体制整備として、刑務所等の施設整備、保護司の方々に対する支援の拡充を進め、刑の一部の執行猶予制度の導入などを内容とする法整備についても検討してまいります。

 社会復帰支援の中で特に重要なのは、刑務所出所者等の「居場所と出番」、つまり就労先や帰住先などの生活基盤を確保して社会の絆を強くすることです。犯罪対策閣僚会議の下に設置された「再犯防止対策ワーキングチーム」により、関係府省との協力関係を密にするとともに、社会全体で一人ひとりを支えるという「新しい公共」の観点から、民間や地域社会との連携を強化していきます。

(サイバー犯罪等に関する法整備)
 いわゆるサイバー犯罪はすでに社会問題となっており、また暴力団等による悪質・巧妙な強制執行妨害事犯も予断を許さない状況です。そこで、これらの犯罪に適切に対処するとともに、既に国会承認されたサイバー犯罪に関する条約を締結するために必要な法整備として、「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案(仮称)」を今国会に提出する予定です。

(テロ行為等に関する情報収集)
 国際テロについては、調査を一層充実することにより、その防止に努めます。北朝鮮関係については、日本人拉致問題等の重大な問題の解決にも資するよう、関連情報の収集・分析等を積極的に行ってまいります。また、オウム真理教については、団体規制法に基づく観察処分を適正かつ厳格に実施することにより、公共の安全の確保に努めます。

五 司法制度改革の推進

 国民主権の理念に従い、国民にとって、より身近でより利用しやすい司法を目指した司法制度改革は、各制度の実施段階に入っています。今後は、その運用状況を見定めながら、さらに制度の成熟に向け努力してまいります。

(法曹養成制度の検討)
 新たに導入した法曹養成制度については、各方面から、様々な問題点が指摘されており、広く制度の在り方全体について検討を開始する必要があります。そこで現在、文部科学省を始めとする関係府省とともに、そのためのフォーラムを設置する準備を進めています。

 なお、司法の中核を担う裁判所の体制の充実強化を図るため、判事の増員を内容とした「裁判所職員定員法の一部を改正する法律案」を今国会に提出しています。

(裁判員制度の円滑な運用)
 裁判員制度については、裁判員の方々の誠実な取組により、国民の間に定着しつつあります。引き続きこの制度が、国民のご理解を得ながら円滑に実施されるよう、関係機関とともに尽力してまいります。また、裁判員制度等を通じて、法や司法に対する国民の理解が深まっており、今後は、未来を担う子どもたちへの法教育についても積極的に推進してまいります。

(日本司法支援センターの充実)
 日本司法支援センター、愛称「法テラス」は、国民に対する法的支援の中心的機関として、次第に社会に根付きつつあります。とりわけ、民事法律扶助業務は、厳しい経済・雇用情勢の中で、社会のセーフティネットとしての重要性を増していますし、国選弁護等関連業務は、刑事手続の適正を担保するため、的確な対応が必要とされています。そのため、法テラスの業務体制の一層の拡充に努めてまいります。

六 民事基本法等の整備

 民事基本法は、国民生活の法的基盤であり最も身近な法律と言っても過言ではありません。そのため、安定性も重視しながら、社会情勢や国民の意識の変化等に対応し、必要な見直しも行わなければなりません。

(民事基本法の整備)
 このところ、親などによる児童虐待が多発し、深刻な社会問題となっています。そこで、その防止等を図り、児童の権利利益を擁護する観点から、親権の停止制度を新設することなどを内容とする「民法等の一部を改正する法律案」を今国会に提出する予定です。

 また、非訟事件と家事事件の手続を、国民にとって利用しやすく、現代社会に適合したものにするなどの法整備を行うため、「非訟事件手続法案(仮称)」、「家事事件手続法案(仮称)」とそれらの整備法についても、今国会に提出する予定です。

 さらに、参議院において継続審議中の「民事訴訟法及び民事保全法の一部を改正する法律案」につきましても、速やかに成立させていただきますようお願いいたします。

 現在、法制審議会においては、民法の債権関係及び会社法制について、それぞれ見直しに向けた審議が行われています。今後、それらの審議結果を踏まえて、必要な法整備等を行ってまいります。

(登記・地図整備等の促進)
 登記事務に関しては、国民の皆さまの利便性を高めるため、登記のオンライン申請システムの使い勝手を向上させます。また、全国の登記所備付地図の整備にも、積極的に取り組んでまいります。 

七 国際的な人材交流の促進

 平成二十二年にわが国を訪れた外国人の数は過去最高となりました。人材交流の促進と円滑化は、菅内閣が進める「平成の開国」の柱の一つであり、日本が国際社会で役割を果していくために不可欠の課題です。

(適正な出入国管理)
 このような観点から、これまでも「新成長戦略」に則り、観光立国の推進の観点から、円滑な出入国管理を進めてまいりましたし、国際医療交流の観点から、わが国に長期間滞在して医療を受ける外国人の在留資格を明確化するなどの措置を講じてきました。今後とも、より一層円滑な出入国管理を実現していくとともに、優秀な海外人材を日本に招き入れるため、出入国管理上の優遇措置を講じる「ポイント制」導入の準備などを進めてまいります。

 他方、バイオメトリクスを活用した厳正な入国審査の実施を続け、違法行為をもくろむ外国人の入国を水際で確実に阻止し、退去強制事由に該当する者についても一層の減少に努めてまいります。

 難民認定申請については、申請者の置かれた立場等に十分に配慮した対応を行いつつ、一層の処理期間の短縮に努め、難民調査官の育成や国際情勢等に関する情報収集を強化します。また、第三国定住のパイロットケースとしての難民受入れも、今後とも円滑な実施に努めてまいります。

(国際協力の推進)
 国際貢献に関しては、現在、国際連合と協力し、わが国と関係の深いアジアの国々等の刑事司法実務家を対象とする国際研修等を行い、また、それらの国々の基本法令の起草や法律家の人材育成等を柱とする法制度整備の支援も行っています。これらの交流は、各国における法の支配の実現に貢献するものであり、わが国の法制度や社会を深く理解した人材も育っているので、引き続きこうした取組を促進してまいります。
             
八 結び

 以上、所信の一端を述べさせていただきました。国民の皆さまが安心してこの国に暮らす幸せを実感していただけるよう、今後とも法務大臣として、小川副大臣、黒岩大臣政務官とともに全力を尽くします。

 委員長をはじめ委員の皆さま方には、いつも法務行政の運営に格別のご尽力を賜っています。今後とも、より一層のご理解とご協力をいただきますよう、よろしくお願いいたします。


2011年2月22日

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