2008年2月11日

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 共同通信社週刊会員情報誌 「Kyodo Weekly」インタビュー「奇策の先例残したくない」首相問責効果は政治状況に左右

揮発油税などの暫定税率問題で、与党が1月、5月末まで暫定税率を延長する「つなぎ法案」を衆院へ提出したことに野党が猛反発。衆参両院議長のあっせんで法案は取り下げられ、ガソリン国会の混乱は表向き沈静化したが、焦げ臭さは依然漂ったままだ。江田五月参院議長にあっせん取りまとめの背景やねじれ国会の行方、参院改革などについて聞いた。

衆院議長とともに2時間調整

〈自民、公明両党は、3月末で期限切れとなる揮発油税などの上乗せ暫定税率を2カ月間延長するつなぎ法案の1月中の衆院通過を画策。野党は「邪道」(小沢一郎民主党代表)と批判し、物理的抵抗も辞さない構えを見せた。だが与野党は、2008年度の予算案と暫定税率を盛り込んだ税制改正法案について「年度内に一定の結論を得るものとする」との議長あっせんを受け入れた〉

 ― 結局、与党のつなぎ法案は日の目を見ませんでした。
 
「3月末で暫定税率が切れることは随分前から分かっていたわけで、取りあえず2カ月間延ばすことでねじれによるリスクを回避しようとしたのは、やはり奇策と言うべきしょう。参院でどんな議論があろうとも、与党は憲法59条の“60日ルール”を適用して参院で法案を否決したとみなし、衆院で再議決しようとの考えだったようですから、参院をこれほどばかにした話はない。衆院での審議も実質1時間ほどで、異常でした」

 「ねじれ国会下では、与野党が衆参両院で合意できる内容でなければ、議長のあっせんは実りません。河野洋平衆院議長には、奇手妙手に過ぎるやり方はいけないという気持ちがあったし、私も今回のようなつなぎ法案を先例として残したくないとの思いが強くありました」

 ― 河野衆院議長とはどのような協議をされたのでしょうか。衆参両院議長あっせんの全文
 
「与党は当初、税制改正法案について3月末までの年度内採決の担保がないと駄目だと主張し、野党は結論を得る努力をすると言っていて、努力目標か、もうちょっと保証するかの話し合いでした。つなぎ法案を採決するはずだった衆院本会議の開会予定の午後1時すぎに、河野さんがやって来て『年度内に一定の結論を得るものとする』との文言で最後の努力をしたいと、意見を求められた」

 「参院第一党の民主党にしてみれば譲歩させられたという思いを持つでしょうから、多分一番苦労するであろう鳩山由紀夫幹事長が納得できるかどうかを河野さんにしっかり確認してほしい、と。ぼくも直前まで参院民主党の会派に所属していたわけですから、努力しようということで、一緒に2時間近く調整をやりました」

 ― 暫定税率延長を阻止し政府、与党を衆院解散・総選挙へ追い込む民主党の戦略は崩れたかのように映ります。
 
「つなぎ法案があのまま衆院で可決されていたら、民主党は衆参両院で一斉に審議を拒否していたでしょう。つなぎ法案は衆院再議決で成立し、予算案も衆院で可決されて自然成立。つなぎ法案の期限が切れるまでには税制改正法案も再可決され、暫定税率維持に終わってしまう」

 「そういう転機か、その過程で世論が沸騰して解散まで行くか。逆に世論に見放されるか。それよりも法案を取り下げさせ、聞き応えのある政策論議で国民に政権担当能力を示そうと民主党役員の皆さんが判断された。私もよかったと思っています」

 ― あっせんにある「一定の結論」とは採決のことですか。
 
「それぞれの会派にそれぞれ理解してもらうことになりますが、常識的に考えれば、最後の結果が生じるということでしょう」

ねじれは国民生活にプラス

〈先の臨時国会では、延長と再延長を含む会期中に政府が新たに提出した10法案はすべて成立した。一方、民主党が第一党となっている参院で「法案の嵐」作戦を掲げ、年金保険料流用禁止法案や農業者戸別所得補償法案、子ども手当法案などを提出した。だが、成立まではこぎ着けなかった〉

 ― マスコミはねじれ国会には消極的評価ですが。
 
「ねじれはエネルギーが生じるからいいことだと言っているんです。参院で野党が多数を占めるようになったからこそ、被災者生活再建支援法の改正では野党の主張が取り入れられ成案を得たし、政治とカネの問題でも政治資金規正法が改正され、薬害肝炎被害者救済特別措置法も成立しました。国民生活に直接影響することに関しては、むしろ良い成果が出てきている」

「問題の本質的解決にはねじれではなく、政権交代のうねりが起きないと駄目だ。民主、自民両党が政権交代を重ねることで、政治がきれいになり、問題が解決する」と江田参院議長
「問題の本質的解決にはねじれではなく、政権交代のうねりが起きないと駄目だ。民主、自民両党が政権交代を重ねることで、政治がきれいになり、問題が解決する」と江田参院議長

 「民主主義には5原則が必要です。まず対等な立場で議論できるように情報公開、国政調査権などで与野党が情報を共有すること。次に、裏で与野党が手を結ぶことなく表で議論する。第3に言いっ放しや聞きっ放しでなく、議論を相互に浸透させる。4番目は多数決の原理、最後が少数意見の尊重です。これらがきっちり守られれば議論は生き生きとしてくる」

 ― これからもさまざまな想定外の事が起きそうです。
 
「そうですね。例えば、先の臨時国会で成立した新テロ対策特別措置法(対テロ新法)の審議の際、衆院から参院へ送付されて60日となるぎりぎりのタイミングで参院が継続審議を議決したら衆院は再議決できないのか。あるいは、ただちに衆院は引き取って3分の2で再議決できるのかなど、ねじれ状態下でいろいろな疑問が出てきても、衆参両院でこれを調整して解決するシステムはどこにもないんです。両院議長が話し合って合意を探るしかないかもしれない」

 ― 衆院での再議決に対する見解を聞かせてください。
 
「対テロ新法の採決では、衆院は可決しましたが、参院は否決し、そして衆院が再可決しました。ねじれているから国政がまひしていると言われていますが、そうではありません。これが現在の衆参両院の姿であり、ルールに従えば必ず結果は出る。再議決で直近の民意である参院の結論をくつがえされることになりますから、残念ではありますが、憲法の規定である以上、受け止めざるを得ません」国会の行方

 ― 参院での首相の問責決議案は、即、衆院解散の引き金になるとの考えですか。
 
「単なる参院の意思表明にすぎないとの意見がある一方、院として首相の責任を問うものだから、可決されれば参院へ一歩も踏み入れさせないという意見もあります。議院内閣制は衆参両院からなる国会によっている以上、参院といえども決議は重いものです。憲法上は衆院解散とか内閣総辞職にはつながりませんが、政治状況や世論動向などの中で、おのずと効果が決まってくる。むやみに振りかざしても何にもならないともいえます」

同意人事の新会議に注目

〈参院野党は昨年11月、衆参両院の同意を必要とする人事案件について、56年ぶりに不同意とした。政府は、国会同意人事に関し与党のみに事前に説明していたが、与野党は同意人事に関する新たな議会ルールをつくり「議院運営委員会両院合同代表者会議」で与野党が衆参同時に政府側から人事案件について提示を受けることとなった。人事案件をめぐって行政との緊張感も生まれている〉

 ― 法案と違い人事は両院が同意しないと発令できません。
 
「議院運営委員会両院合同代表者会議は両院対話の“小さな芽”と思っています。両院からそれぞれ人を出して運営する、その方法は注目すべきでしょう。憲法審査会にも両院合同審査会という制度がありますが、まだ審査会そのものがスタートしていません。両院が共同で何かをやろうというときのいい例になるのではないですか」

 ― 衆参両院の意見調整機関である「両院協議会」の改革案をお持ちとか。
 
「現在のように、ある法案を可決した院は可決した会派から10人を、否決した院は否決した会派から10人を出しているのでは、合意は得られませんし、傍聴も許されていないという問題もある。参院議長として正式な提案は行っていませんが、両院協議会を国民の見えるところで正々堂々と議論をした方が、さまざまな反響があって、むしろ合意ができやすくなるのではないかと考えています」

 ― 参院の選挙制度改革についての考えは。
 
「参院がスタートした時から全国を対象にした選挙区と都道府県ごとの選挙区でやってきました。最高裁の判例では、一票の価値の平等は憲法上の要請ですが、都道府県で選ぶのはそうではないとしており、何か結論を得ようとするなら、都道府県ごとの選挙区のままで何増何減という話ではなく、抜本的な改革をしなければいけません」

【略歴】
江田 五月氏(えだ・さつき)東大卒。科学技術庁長官、参院民主党・新緑風会議員会長。66歳。岡山選挙区、衆院当選4回、参院当選3回(無所属)

(編集部 松浦 義章)
共同通信社週刊会員情報誌「Kyodo Weekly」 2008年2月11日号掲載】
2008年1月30日取材


2008年2月11日

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