2005年5月16日

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EU会議での憲法についての江田発言(原稿)

民主党 江田五月

私はこの際、日本における憲法をめぐる動きにつき、ご報告しておきます。すでに同僚議員から、ご報告がありましたので、重複しないように、民主党の側から見た意見のみを申し上げます。

衆参両院の憲法調査会が、5年間の審議を経て、今年4月に報告書を出しました。私は、参議院のメンバーとして、終始、この審議に加わりました。同時に、民主党内にも憲法調査会を設け、これにも私は、終始、役員として関わりました。

日本国憲法制定以前の私たちの憲法は、「大日本帝国憲法」といいます。その下で、立憲政治体制を動かしてきましたが、「統帥権の独立」といって、軍が天皇に直属し、民主的コントロールの及ばないところに置かれていました。日本の軍国主義は、この制度によって膨張し、戦争に突き進んだのです。そして敗戦を迎えました。連合軍の占領の下で、その指導に従い、日本は、戦後改革を行いました。その成果の一つが、現在の「日本国憲法」です。従って、この憲法は占領時代に出来たものですが、国際社会の大きな流れから脇道にそれてしまった日本が、再び、国際社会の自由と民主主義の流れに戻るために獲得したものです。押しつけられたのだから捨て去るべきだという見方は、断じて私たちのとるべき態度ではありません。

そこで、衆参の憲法調査会の報告書では、そのことを明確にしました。参議院では、全党一致で、次の3点を確認しました。第1は、国民主権・基本的人権の尊重・平和主義の三大原則は、わが国に定着しており、これを今後とも維持すべきであること、第2は、現行憲法は基本的に優れた憲法であり、戦後日本の平和と安定、経済発展に大きく寄与してきたこと、第3は、国民主権の原則を今後も堅持し、さらに発展させていくべきであることです。

私たちは今、この憲法を改正する議論を始めています。しかし、この憲法の評価は以上のようなものですから、私たちが憲法を変えて、戦争や独裁の道を歩もうとしているようなことは、決してありません。国際的にも国内でも、そのような誤解が生まれないよう、細心の注意をはらいます。

なぜ憲法改正の議論を始めたのでしょうか。それは、憲法の掲げる価値がすばらしいものであっても、憲法の条文自体は歴史の所産であって、1947年に文章化されたとおりの条文では、規範としての機能を失ってきているからです。憲法9条は、戦争の放棄と戦力の不保持を宣言しています。同時に前文では、国際協調主義を掲げています。憲法制定当時の日本の力量や国際社会での日本の立場からすれば、それだけの規定で十分でした。しかし今、日本の力量も立場も大きく変化しました。私たちは自衛隊を保持し、この能力を一定の制約のもので、国際社会の共通の努力の中で活用しています。細かな点を除けば、このことは日本国民の憲法感覚によって支持されています。条文との食い違いを、「憲法の変遷」という理屈で説明しているのですが、こじつけの印象を拭えません。そこで、戦後の国際社会の共通認識であった3原則、つまり戦争の違法化、集団安全保障原則、つなぎの措置としての自衛権という点を、国民が再確認し、それを厳格に守るべき規範として文章化することが必要です。

戦後改革が不十分だった点もあります。統帥権独立はなくなりましたが官僚優位は残り、内閣制度に対する国会の優位が形だけになっているなど、国民主権が徹底していないところがあります。人権保障のカタログは、当時としては最先端でしたが、今では環境権や子どもの権利など、足りないものも目立ち、人権侵害に対する救済制度も、裁判所以外には用意されていません。これらの点も現代化する必要があります。

何より重要なことは、日本人が有史以来一度も、本格的な市民革命を経験していないことです。明治維新は武士勢力間の権力移動ですし、戦後改革は敗戦の成果でした。国民が主権者という意識を持って、自らの手で憲法を制定した経験がないということが、日本の民主主義の弱さの原因です。そこでこの際、国民総参加により、自らの手で憲法を作ろうというわけです。その枠組みは、すでに述べたとおり、現行憲法の原則に対する肯定的評価で示されていますから、この作業は国際社会の理解を得られると確信しています。

国会の発議した憲法改正案は、国民投票により過半数の承諾を得なければなりません。ここが問題です。投票率が50%を切るようなことでは、国民が自らの手で憲法を作ったとは言えません。そうなった途端に、日本の民主主義は死滅するでしょう。そうならないように、国民が目を輝かせ心を躍らせて、国民投票に駆けつけるような状況をどう作るかが、これからの政治家の英知だと思います。この課題は、与野党対決の的ではありません。与野党の共同作業です。焦らず、しかし怠けず、着実に前進するつもりです。

有難うございました。


2005年5月16日

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