2005年4月1日

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人権擁護法案への民主党の態度
人権委員会の独立性確保 報道統制の排除こそ重要

江田五月・人権救済法PT座長


民主党は、差別や虐待、公権力の乱用などの人権侵害を救済する、政府から独立した国内機関の設立に向け取り組んできました。

パリ原則に基づいた党の人権侵害救済法案

1993年の国連総会で採択され、日本も合意した「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」は、人権団体、弁護士、医師、ジャーナリストなどで構成する人権救機関を政府から独立してつくるよう定めています。しかし、日本には、政府から独立して人権侵害を救済する機関がなく、1998年には、国連国際人権(自由権)規約委員会から、警察や入管職員による虐待の調査、救済のため、法務省から独立した機関を設置するよう勧告されました。

こうした勧告を重く受け止め、民主党は、1999年5月にとりまとめた「行政改革に対する基本方針」の中で、パリ原則に則り、内閣府の外局に「人権擁護委員会」を創設することを提言しました。

そして、2002年3月には、「人権侵害による被害の救済及び予防等に関する法律案(人権侵害救済法)大綱」をとりまとめました。人権侵害救済法大綱は、法律の目的として、人権侵害による被害の救済及び予防並びに人権教育・啓発の措置を掲げ、人権侵害救済機関の制度設計として、(1)中央人権委員会を法務省ではなく、内閣府の外局に設置すること、(2)地方人権委員会を各都道府県に設置すること、(3)過剰取材等の人権侵害行為については、特別救済の対象とせず、報道機関等に自主的な解決に向けた取り組みを行うことを努力義務として課すこと、(4)人権擁護委員の専門性を高めるため、報酬の支払いを可能とし、研修を実施すること、(5)中央人権委員会に内閣総理大臣を経由して国会への意見の提出権限を認めること等を盛り込んでいます。

中央人権委員会は委員長及び委員6人の合計7人で構成し、地方人権委員会は委員長及び委員4人とします。それぞれの委員会について、ジェンダーバランスへの配慮を規定するとともに、委員長及び委員にはNGOの関係者や人権侵害の被害を受けた経験のある者を入れるように努めなければならないこととしています。

報道の自由侵害のおそれがあり、前回提出の政府法案は廃案に

政府も、人権擁護推進審議会の答申を受けて、2002年の154回通常国会に「人権擁護法案」を提出しましたが、その内容には二つの大きな問題がありました。

一点目は、人権委員会が法務省の外局に設置されて独立性が確保されないことです。人権委員会を刑務所や入管施設を管轄する法務省のもとに設置すれば、名古屋刑務所事件などにみられる刑務所内での虐待・人権侵害が握りつぶされるおそれがあります。政府案は、国連の勧告を満たしておらず、国連人権高等弁務官等からも法案に対する懸念が示されました。

二点目は、報道機関による人権侵害行為を特別救済の対象としており、報道の自由が犯されかねないことです。報道には、憲法第21条によって表現の自由、出版の自由が保障されており、これは民主主義には不可欠のものです。政府案では、報道も人権委員会が強制力のある調査、調停、仲裁、勧告、公表、訴訟援助などの強力な手段で関与できる特別救済の対象となり、報道統制につながるとの批判を免れません。

それに対し、民主党案は、強制力を伴う特別救済の対象からはずし、報道の自由を保障することにしています。しかし、松本サリン事件の河野義行さんの被害のように、報道機関による著しい人権侵害の事例もあり、何らかの救済制度は必要です。そこで民主党案は、報道機関も任意の手続きである一般救済の下に置き、さらに前述した努力義務を規定しています。

こうした制度設計により、報道機関の自由闊達な活動についても、被害者が一般救済を求めることを可能とし、且つ、報道機関がその役割を自覚し、人権保障と民主主義の発展に大きな役割を果たすことが期待されます。

政府案は参議院先議で審議されましたが、こうした問題があるため、民主党をはじめ、人権団体、報道機関などが強く反対しました。政府与党もあえて強力に審議の進行を求めず、継続扱いを繰返した挙句、2003年10月の衆議院の解散を受けて廃案となりました。

人権侵害救済機関早期設置へ与党と真剣に協議

政府与党が、今年の通常国会に人権擁護法案を再提出する動きが見られたことを受け、民主党は今年2月に「人権侵害救済法に関するプロジェクトチーム(座長:江田五月、事務局長:堀込征夫)」を改めて設置しました。パリ原則が採択されてから、既に10年以上経過しており、独立性と実効性のある人権侵害救済機関をできるだけ早く設立することが求められています。

3月22日現在、政府法案はまだ国会に提出されておらず、政府提出の法案詳細がわかりません。民主党は、人権侵害救済制度のあるべき姿を人権侵害救済法大綱で提示しており、特に人権委員会の独立性の確保、報道の自由を脅かす報道統制の排除が重要です。政府案が提出されれば、早期設置の必要性を踏まえ、与党と真剣に協議をして、民主党案が最大限実現されるように、しっかりと取り組んでいきます。

(プレス民主 2005年4月1日号掲載)


2005年4月1日

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