1975/01/30-1

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75 衆議院・予算委員会


○荒舩委員長 これより会議を開きます。
 昭和五十年度一般会計予算、昭和五十年度特別会計予算、昭和五十年度政府関係機関予算、以上三案を一括して議題とし、これより質疑に入ります。
 質疑の通告があります。これを許します。江田三郎君。

○江田委員 昨年十二月四日に、いわゆる椎名裁定の中から三木自民党総裁が生まれたわけでありますが、総理は、去る二十二日の自民党の大会において、椎名さんの言葉、党を解党して第一歩から出直す覚悟で当たるということをあいさつの中に入れておられまして、私も非常に印象深く承りました。ただ、率直に申しまして、総理はなかなかあの言葉の重みを肩に背負っておられるようでありますが、総理の周辺、つまり自民党の党内においては、だんだんとあの言葉の持つ重みが失われつつあるんじゃないのか。だんだんとあなたがこうもやりたいということがいろいろ枠をはめられつつあるんではないか、そういう印象を受けるのであります。

 そこで、それはともかく、総理が多年国民に訴えてこられたことは、一つは話し合いによる協調、一つは清潔な政治、もう一つは社会的公正の実現ということだと受け取っております。この三つの柱そのものについては、私たちも何ら異存のないことでありまして、まことに結構だと思っております。ただ問題は、抽象的な言葉でなしに中身です。田中前総理は哲学なきブルドーザーという異名を受けましたが、ただ哲学だけで具体的な政策内容がないというのも、これも困りものでありまして、政治家は評論家ではないのですから、いまあなたは一国の総理大臣ですから。

 そこで、どうも総理の施政方針演説、その後の本会議の質疑応答を聞いておりますと、依然として抽象論の段階から抜け出しておられないような印象を受けるのであります。これは私だけでなしに、多くの国民がそういう印象を受けておられると思うのであります。それは非常に不幸なことであります。この際、与野党の話し合いの場であるこの国会、この予算委員会において、ひとつもう抽象論でなしに、具体的な質疑応答ができるようにやっていただきたいということをお願いして、社会党を代表して、私の質問に移るわけでありますが、第一のあなたの柱は、協調による話し合いであります。

 去年の暮れの臨時国会で、わが党の石橋書記長が、予算の修正にも触れてということを前提としてでありますが、与野党の話し合いということについて、あなたに質問しました。あなたは、野党の言うことも、国家、国民のためになることであれば、何でも採用します、こう答えられておるわけであります。その後党首会談を持たれた。あるいは野党の予算編成に当たっての要請にも耳を傾ける場をつくられました。それはそれで一歩前進と思うのでありますが、しかし、議会政治において真の話し合いというのは、この議会なんであります。ここが本番なんであります。ただ、事前にどういうことがあったとかなんとかということも、まあ悪口を言えば、話し合いの演出にすぎなかったじゃないかということも言えるわけで、国民が注目しておるこの国会の場でほんとうに話し合いをする気なのか。それならば、法案の修正だけでなしに、予算についても聞くべき点は聞いて修正に応ずるのか、この点をまず第一にお聞きしたいのです。

○三木内閣総理大臣 江田さんの言われるとおり、国会は法案ばかりでなしに予算案の審議もございますから、一般論として言えば、野党から修正案が出て、与党もこれに賛成すれば、予算の修正も可能であることはもう当然でございます。しかし、この予算案を提出して御審議を願うわけでありますから、その場合に、政府の立場としては、事前にいろいろお話も承って、できる限り、野党の諸君の予算編成に対する御要望も、取り入れるだけは取り入れたつもりでありますから、この冒頭でこの予算を私が修正いたしますというようなことは、これは私は、そんな気に入らぬ予算案をこの国会に提出したわけでございませんから、予算は修正の意思はございません。それだけやはりこの条件のもとでは精いっぱいよい予算を組んだという自信のもとに御審議を願うわけでありますから、さようにお答えをいたしますことが協調の精神に反しておるとは私は思わない。

 ただ、江田さん、どうでしょうかね。党首会談というものを、もう少し形式的なものでなしに、予算編成前にみっちり時間をかけて、そして現実を踏まえて、財源なども踏まえて話し合いができるような工夫はできないものであろうか、こういうふうに、私は、与野党間の話し合いというものを、何かこう一時間というような時間を限っての形式的なものでなしに、もう少し実のあるものにできないかという考え方はいま持っておるわけでございます。これは江田さんの方でもいろいろ御研究を願いたいのでございます。

○江田委員 これから審議に入るわけでありますから、審議に入る前から修正に応ずるということは言えぬじゃないか、それはそのとおりだと思うのです。

 私はかつて社会党の委員長代行をしておりまして、そのときは池田内閣でありますが、前年度の防衛費が二百億円繰り越しになっておりました。せめてこれを削って社会保障に増額することはできないか、そういう予算修正はできないかということを池田さんに申し入れましたが、何か話が大分進みかけておったわけであります。ところが途中で実現できなかった。私は、まあ二百億円でありますけれども、従来の、予算案を出した以上は一円といえどもこれを動かさぬぞというような硬直した姿勢でなしに、与野党の話し合いの中で、いいことはいいでそれが取り入れられる、こういう慣行がもしあのときにできておったら、日本の議会政治が不毛の平行線論議というようなそしりを免れたんじゃないのかと、非常に残念に思っておるわけであります。

 だから、いまの、党首会談でじっくり話し合う、これも結構なんですけれども、実際、三木さん、考えてごらんなさい。今度の予算編成でも調整費が五百億。ところが、実際には官房調整費というのですか、二千億もあって、あなたも知らなかった。それは新聞に書いているのだから、あなたは本当は知っていたかもしれませんよ。そういう状況の中で、話し合いといったって限界があるわけなんで、野党というものは情報はきわめて乏しいのですから、やはりこういう国会の中で、国民の前でいろいろ論議をして、いまから修正すると予約せいとは言いませんけれども、それで聞くべき点があれば、お聞きになったらどうでしょう。議会の子である三木さんとしては、そのくらいなゆとりを持っておられなければ――あなたがかつて中央公論に書いておられました。政治家は官僚がつくった予算案を賛成する機械じゃないんだということを言っておられましたが、それはそれでいいでしょう。

○三木内閣総理大臣 これは国権の最高機関であり、ここで法律案も予算案も決めるわけでありますから、野党の諸君の言うとおりになるわけではございません。与党も全部賛成をするということであるならば、いかなる修正も可能であることは、原則論としては当然のことでございます。

○江田委員 初めからかた苦しいことは申しませんから、そのくらいのゆとりのあるところでいいでしょう。

 そこで第二の柱は、言うまでもなくクリーン三木、清潔な政治ですね。この清潔な政治ということに入る前提として、問題になりました前総理田中さんの金脈問題について、どういうような処理をされようとしておるのか。三木さんは金権政治に抗議の意思を込めて辞表をたたきつけられました。しかし、辞表を出したからといって、それでいいということではないのであります。あなたは田中総理のときの副総理として重い責任を持っておられたわけです。

 それからもう一つは、国民が一体あの問題をどう受け取っておるかということなんで、これは田中個人の問題というだけでなしに、実は現代の政治の体質あるいは自民党の体質にかかわる問題というように受け取っておるのでありますから、この際、これをどういうように処理されるのか、いまどこまでいっているのか、これははっきりしていただきたいと思うのです。特に、ことしになりましても、たとえば、電電公社の新しい庁舎の建設の敷地が、田中さんの関係しておられた会社がからんでおるとか、いろいろな新しいこともマスコミに出ておりますから、やはり国民は、もう年を越えたから忘れておるということじゃないのですから、クリーン三木の大前提として、過去のことですけれども、これは明確にしていただきたい。

○三木内閣総理大臣 田中さん自身としても、これは大変なことでございます。総理を辞職されたようなことですから。政治家の名誉のためにも、御自身が国民に対して釈明をする責任を持っておると思います。田中さん自身がしばしば申しておるように、これは非常に多岐にわたっておりまして、私も江田さん、よくわからないのです、田中さんの事業、どういうふうにやられたかが。一番御存じになっておるのは田中さん自身ですから、これはやはり政治家として、国民の前にこういうことであったということを明らかにされる責任があります。それを自分はやる、できるだけ早く国民に対して全貌を明らかにして国民の理解を求めたいと言っておりますから、私は、一日も早く田中さん自身が、国民の前に、いろいろ疑惑を受けておる点に対して、これを自己の立場を明白にされることを強く希望しておるわけです。これは田中さん自身のためにも、日本の政治のためにも必要である。

 また、政府の方としては、国税庁初め政府機関で調査検討を進めておるわけでございます。まだいまそれを発表する段階ではございませんが、法律に照らして、これは田中さんだからといって特別な扱いができるわけではない。厳正な処置をとります。また、国会などに対して、いろんな資料の提出の要求がございますならば、重大な国益に反しない限りはできるだけ協力を申し上げたいというのが政府の態度であります。

 いわゆる田中金脈問題と言われるものに対する私の考え方は、さような点でございます。

○江田委員 ただ、自分は辞表を出したのだから知らぬよということじゃないということですね。あなたが副総理として、一緒に責任を分かち合ってこられた田中さんのことなのだから、あなたがこれをいいかげんにされると、三木も一つ穴のムジナかということを国民は考えてくるわけであります。

 あなた自身の問題についても、昨年の国会において、いわゆる三木派の政治献金の問題がありました。あるいはまた、あなたのグループの兵たん部を担当しておられる河本さんが通産大臣になられたのはいいのかどうかという問題もありました。まあ、どうせこういう問題は、後から同僚の議員が質問すると思いますから、私は余り触れませんが、とにかく、田中さんのことは田中さんのことだ、わしは構っちゃおれない、かかわりはありませんよということでないことだけは、十分頭に置いていただきたいのであります。

 そこで、田中金脈問題でなしに、今度はあなたの方ですけれども、あなたは、企業から政治献金は受けない、こう言っておられたわけで、ここに中央公論の昨年の九月号、あなたが辞表をたたきつけられた、まだ生きのいいときに書かれた論文がこれにありますが、近ごろちょっとさめている。「保守政治改革の原点」というものをあなたここに出されておるのです。その中で、党近代化のためにやらなければならぬ三つの問題として、第一は自民党の総裁選挙のあり方。第二は政治献金について、企業は政治献金を行わず個人献金とし、かつ献金に限度を設ける、こういうことを言っておられるわけですね。ところがちょっと変わりましたね。今度の国会の答弁でも変わっておりますが、そのそもそものターニングポイントは、あの一月四日ですか、経済四団体のパーティーへおいでになって、そのときに、企業献金は必ずしも悪くないと言うだけでなくて、自民党は百億の借金を持っているという苦衷を訴えておられた。あそこから変わりましたね。どういうわけで変わったのか。

 さらに、私は非常におもしろいと思ったのは、あの四団体パーティーのあなたの発言の後を受けて、東京瓦斯の安西会長が、東京瓦斯がとめておる政治献金を再開するということを言われました。安西さんとあなたとの関係は、なかなかごじっこんであります。ところが、安西さんがそう言った後、消費者団体などから東京瓦斯に対する抗議の電話が集中して、そして東京瓦斯の社長は、企業献金を再開する意思はないということを談話として出さざるを得なくなった。私はこのことも、企業の諸君も、あるいは政党のわれわれも、大きな教訓としておかなければならぬと思うのです。安易に企業献金ができると思ったら大間違いであって、恐らくそれは、国民のごうごうたる非難の中に立ち往生しなければならぬことになってくるんじゃないのか。

 私は、総理が、企業献金必ずしも悪ならずというように、少なくともこの中央公論で当初言明しておられたところと、大きく変わってこられたのはどういうわけなのか。また、その延長線に、いまちょっと一つの例として東京瓦斯のことを申しましたが、簡単に企業献金ができると思ったら大変なやけどをするのじゃないかということを申し上げながら、御意見を聞いてみたいと思う。

○三木内閣総理大臣 私はやはり、政治献金というものは――政治献金といいますか、政党の活動には金がかかる。これは相当莫大な金がかかることは、政治活動をすれば当然でありますが、まあ、その金をやはり党費と個人献金で賄うことが理想的だという原則は、いまも私は変わっていない。そして企業献金が悪いから、企業献金というものから個人献金にかわれという考えではないのです。

 企業献金がなぜ私が悪いと思わないかというのは、やはり企業も大きな社会的存在でありますから、その企業がある節度を持って、そしてまた裏に対して疑惑を持たれるようなことのない、そういう公明正大な資金を、自由社会を守り、あるいはまた民主政治の健全な発展のために政党を応援するということは悪だということは考えないのですよ。それは、いろいろな方面で、企業だって社会的にいろいろな寄付もしておりますし、社会的な貢献もしておるわけで、それが悪だという観念ではないのですが、どうも自民党がいままで安易に企業の献金というものに依存し過ぎてきた。甘えてはいけないのだ、企業の献金というものに安易におんぶしないで、もう少しみずから政党の活動資金というものを苦労して集めるという努力をしなければならぬのだということです。悪いからというのでなくして、自民党がもう少し慎み深い態度をとって、そして安易に企業献金に頼らないで、みずから資金のために苦労すべきである、こういうことで言っておるので、悪いということではないのです。しかし原則としては、個人献金あるいは党費、こういうことで賄うことにすれば、国民からややもすれば疑惑の目で見られることは政治の信用を害しますから、したがって、そういうことが理想である、こういう原則的な考え方は、私は変わってはいないわけでございます。

 また、東京瓦斯の話は、私も何かこう話し合っているという、非常に迷惑しておる話でしかないわけでございます。それは誤解のないように。関係のないことでございます。

○江田委員 何も、東京瓦斯とあなたとしめし合わしている、そういうことを言っておるのじゃないのでありまして、公益企業というものが安易に企業献金の再開など言ったら、それがどういう大衆の反撃を受けるかという一つの教訓として、あなた方も考えていかなければならぬのじゃないのか。それはさらには、企業の政治献金全体にも多かれ少なかれ関係のあることだということなんであります。

 そこで、あなたはいま、企業献金というものは悪とは考えない。だけど、この雑誌にあなたが書いておられるのは、やはり企業から献金を受ければ、どうしても企業のごきげんを損ねないようなことを考えざるを得ないということを言っておられて、いま私が読み上げたあなたの文章によると、企業献金はやめて、そして個人献金に限るということをわざわざ言っておられる。だから、どうも方向転換じゃないですか、こう言っておるわけで、いまの話を聞きましても、これは明らかに方向転換ですね。ここに書いてあることとは違っておるわけでありますが、私は、まあ方向転換がどうとかこうとかということよりも、もっと前向きに話を進めなければなりません。

 この政治資金規正法について、どういう内容をお考えになっていますか。どうもあなたの言うことを聞いていると、政党は金がかかる、苦労しなければならぬということですけれども、この間の大会で、あなたのところの自民党は党費を幾らにお決めになったのです。日本の政党の中で、党員の払う党費が一番安いのは、あなたのところじゃありませんか。政権をとっているあなた方が、そういうあなた方が、政治資金規正法を何とかしようじゃありませんかなんて他党に呼びかけるのは、その資格があるのかどうかということを私は疑問にせざるを得ないのであります。あの第五次の選挙制度審議会の答申が出たときに、小骨一本抜かずと言われたのは、それはあなたじゃなくて佐藤さんですけれども、少なくともあの線で貫こうとされるのか、もっといいものにしようとされるのか。まさかあれより後戻りをされるということじゃないと思いますが、それはどうでしょうか。

○三木内閣総理大臣 私は、自民党の総裁にならない前から、政治資金規正法、また粛正選挙に関する選挙法の改正、総裁選挙の規程もそうですか、三つの試案を私自身がまとめて、それは公表はしなかったわけですけれども、新聞などにも、どういうところから取材したのか出ておるのですが、やはりそういうところから、理想はそうだけれども、ある一定の経過期間を置いて、そこへ行くまでは、いますぐ個人献金と党費ということになりますと、急激な変化において事実上混乱も起こるから、経過期間が要るということは、私はずっと主張をしてきておるわけです。原則としてはそうだけれども、そこへ行くまでの経過期間が要るということで、江田さん、私自身は後退したとは思っていないのですよ。ある経過期間を置くということは終始言っているわけで、また、いま御指摘になった佐藤さんの時代ですか、第五次の選挙制度審議会の答申ですね、これは私は重要な参考にしておるのです、私自身が試案をつくる場合においても。政治資金というものは、世間の批判もあのときよりもまだ強くなっておる。だから、できる限り前向きな、あれを参考にしながらも、前向きな処理をしたいと思っておりますが、その柱の一つは、やはり政治資金には節度を設けなければいかぬ。多ければ多いにこしたことはないということでは、天井がないわけです。節度を設ける。そしてその資金が、使う方も集める方も、できるだけ公明正大にそれが処理されなければならぬ、こういうことでございます。柱は二つであります。

○江田委員 今度の国会が始まって、私もそうですけれども、言論界もあるいは一般国民も、あなたに飽き足らぬのは、どうも抽象的な言葉でいつも終わってしまうことなんです。そこなんですよ。節度というのは具体的にはどういうことを言うのか。この問題は、あなたが、話し合いの政治、清潔な政治、社会的公正を実現する政治、三つの柱として長年唱えてこられたことなんでしょう。あなたとしては、抽象論でなしに、具体案まで考えられたことなんでしょう。そうして、先ほど私申しましたが、あの椎名裁定の中には、党を解党して第一歩から出直す厳しい反省と強い指導力が必要だ、こう言っておるわけでしょう。あなたはこの言葉を二十二日の党大会でも述べられたのでしょう。なおいまの段階において、もたもたしたことしか言えないのか。こういうことにこそあなたがどんなに強い指導力を発揮されたところで、いやしくも三木総理を誕生させた自民党からは文句は出る筋合いのものではないし、また、国民はそれを待っているのじゃありませんか。まだ、いまの段階で、節度が要るとかなんとか、どうでもとれるような、ちょっと三木さん、そういうのはだめですよ。もうちょっとはっきりしなさいよ。

○三木内閣総理大臣 節度ということは限度ということです。ある限度が要る。その限度を幾らにするかということを言えとおっしゃるのかもしれませんが、これはやはり自民党としても、いま調査会ができて検討をしておるわけでございますから、これは法案として出すというわけですから、それまでの間、限度を幾らにするということを私がここで言うことは適当でない。自民党にせっかく、やっぱり政党という中で調査会ができて、そういうことも大きな問題の中心点でしょうから、それは検討を加えておる。できるだけその限度というものは国民の常識に合致するような限度にしたいとは思っておりますが、金額をここで申し上げることは適当でないと思う。

○江田委員 少なくとも、第五次選挙制度審議会の答申、これは重要な参考にするとおっしゃいましたが、まさかそれより後戻りをするということはないでしょう。これだけあなたの政治信条として訴えてこられた課題なんですから。さらに、金のかからないように公職選挙法を改正する、これも何とかしなければ、ここを変えなければ、いまのようにポスターと印刷物だけでとんでもない金がかかるような、こんなことをほうっておいてどうにもなることじゃないわけで、これもこの国会で、少なくとも国会解散前に処理しておかなければならぬ課題だと思いますが、どうもあなたの自民党は、そういう二つの課題と、いわゆる定数是正、それから参議院の全国区の問題は、組でなければ通さぬというのですか、どうですか。

○三木内閣総理大臣 選挙に対して、私はこういう考え方を持っておるわけです。いまの選挙は、江田さんがお考えになっていても、どうも、どこの国の選挙を見ても、もっと冷静に選挙が行われておる。まあ、立て看板からビラのはんらん、こういうのはもう少しつつましい選挙をするべきだと私は思います。そういう点で、選挙のあり方に対してもいろんな規制を加える必要があるし、また、私は一番気にかかるのは、選挙に金がかかる、これは与党ばかりでもないと思う。野党の諸君は野党の諸君として、いろいろ御苦心があると思います。そういう点で、もう少し公営が拡大できる面も私はあると思う。公営の拡大できる面は公営を拡大して、そして選挙費用を少なくて済むようにせなければならぬ。その決められた法定費用というものは守られるような法定費用にしなければ……。いまの法定費用というものは、何か事実問題として守られていない面が多いわけでしょう。やはり立法機関として、選挙法という、そういうふうな重要な法律が守られていないということでは、これは立法府の権威を害しますから、どうしても守れるような法定費用、しかもそれを小さく抑えていく。そしてまた一方においては、腐敗選挙と目されるようなことはできるだけ厳重な取り締まりをすると同時に、いわゆる費用がもう少しかからないで選挙が行われるような工夫をするような、一つの選挙の粛正に関する選挙法の改正というものは、この国会にぜひとも提出をしたいと考えておる次第でございます。

○江田委員 金のかからぬ選挙法に改正をしなければならぬということは、もうあなたが詳しくおっしゃらぬでも皆知っていることなんです。ただ、その法律をやるかどうか。それも具体的にこことこことこことを変えるというならいいけれども、いまのような答弁なら時間がかかるだけですから、もっと能率を上げてください。

 私がお聞きしたのは、政治資金規正法の問題と公職選挙法の改正の問題は当然しなければならぬが、あなた方は、これを定数是正と参議院全国区の改正と組でなければ通さないという態度をとられるのかどうか。それとも、他の問題について意見が分かれる、しかし意見の一致した問題もあるというなら、与野党の意見の一致したところから次々とこれを実現していくという態度をとられるのか、どちらかということを聞いておるわけでありまして、あなたは肝心のことには答えぬで、とんでもないことばかり言っておる。

○三木内閣総理大臣 内容についてもいろいろ、どういうことをやるかという御質問があったので触れたわけですが、これはやはりそんな、大きないろんな問題を含んで、選挙法の改正もある、政治資金規正法、定数是正、これを皆一斉に込みでなければ通さぬという、そんなばかなことはありません。

○江田委員 いや、そこをはっきり答えてもらえばいいのですよ。
 そこで、いわゆるクリーン三木というのは、あなたにとって光栄というべきではないかと思いますが、世間は、あなたがただ金に汚れない政治という意味でクリーン三木だけでなしに、日本の環境浄化、日本の美しい自然を清潔に守る人として、いままで大いに期待を寄せてきたわけでありまして、もういまの日本の国土がどんなに汚染されているかということは、私がいまさら申すまでもないわけであります。あなたが田中内閣で、副総理でありながら環境庁長官に就任されました。これは、副総理という人が環境庁長官になられるということは、この問題がいかに重要な問題かということを国民の前にクローズアップをしたことであり、私は、それだけでもあなたは大変なことをされたと思うのです。そしてまた、いろいろやられました。そしてあなたはあのときに、環境問題は政治の原点である、こうおっしゃった。なかなか重みのある言葉です。自然環境が汚れれば、人間の体も人間の心も傷つけられてしまいますよ、そういう意味で政治の原点だ、こうおっしゃったことはなかなか深い哲学だと私は思います。

 ところで、皮肉なことに、あなたが総理になられた直後、水島の今度の三菱石油の事故が起きて、一万キロリッターと推定される石油が、岡山からあなたの郷里の徳島まで汚してしまった。前例のない大汚染を起こしたわけなんです。瀬戸内海については、三木さん、あなたは環境庁長官のときに、お互いにこの世界に誇る公園を汚れから取り返そうじゃないかというので、瀬戸内海環境保全臨時措置法を議員立法でやりました。あなたが長官のときです。そして一年余りたちました。くにへ帰ってみると、漁師の諸君が、ガザミが帰ってきましたと言って喜んでおった。それが今度の事故で、もとのもくあみどころじゃないですね。海の底へ沈んだC重油のボールや粒子というものを、これを清掃するのに一体何年かかるのか、見当もつかないということになってきたわけでありますが、あなたはこのことに対してどういう御感想をお持ちですか。あなたが環境庁長官としてやられたことに、何か抜けた点があったとはお感じになりませんか。これはあなたのホームグラウンドの環境問題ですから、お答え願います。

○三木内閣総理大臣 三菱石油のタンクの事件は、これはいま御指摘のようにたいへんな被害を与えたばかりでなしに、これは相当長期にわたって被害を与えるわけです。これの応急対策に対しては、政府は最善を尽くしておるわけでございますし、また、油の除去あるいは被害者の救済ということにも、会社側との間にできるだけのあっせんをしてやっておることは御承知のとおりであります。

 私は、やはりああいう事故が起こって考えることは、一つの工場設置の場合のアセスメントといいますか、石油のタンクならタンクの場合、その設置する場合の事前調査というものを、その間の環境に与える影響であるとか地盤の関係であるとか、いろいろな点で、その事前のアセスメントというものをこれからは非常に厳重にやらないと、この点でやはりああいう事故というものが起こりやすい原因も一つあるという感じがしたわけでございます。そういう点で、単に企業側が十分な注意を払わなければならぬということは言うまでもありませんが、政府の側としても、いろいろな工場の設置あるいはそれの場合におけるアセスメントというものはきわめて厳重にやらなければ、瀬戸内海のようなああいう狭い地域で、水島のようなああいうコンビナートがあるわけですから、他の地域よりも非常に注意深く、一つの何か工場を設置するなら設置する、タンクを設置するなら設置する、そういう場合に対する事前のアセスメントの必要というものを非常に痛感しております。

○江田委員 そういう程度の認識では済まぬのじゃないかという気がするんですね。一方に瀬戸内海、そうして、時を同じくしてマラッカ海峡の祥和丸の事故、内外にわたって、日本が石油公害の大きな事故を起こしておるわけであります。これは、ただアセスメントというようなそんなことだけでなしに、実はいまの法律にも大きな欠陥がありはしないかということがあの中から出てくるわけであります。消防法にしてもあるいはその他の法律にしても。

 私はそのことを漸次お聞きしたいと思いますが、その前にまず確かめておきたいのは、今度の被害の原因者は三菱石油ですから、したがって、損害については三菱石油に全面的に責任がある。いわゆるPPPの原則からしてそうだということは、この間、本会議で、あなたの成田委員長の質問に対する答弁でもありましたから間違いないと思いますが、もう一ぺん念を押しておきます。

 さらに、直接の漁業被害が目下百五十億円、それに間接の被害が次々に出ておるわけでありますが、あの海の底に沈んだC重油のボールや粒子というものは、これはだれが一体責任をもってこの清掃に当たるのか。そのときの費用というものはどうなるのか。先般、新聞で見ますと、海上保安庁は、あの油の流出処理に当たって出動した時間外手当、あるいは資材等の支出、あるいはまた海上保安庁の船舶の汚染に対する損害補償などを三菱に求めるということが報道されておりましたが、一体今後何年かかるかわからないこのC重油の清掃についても、最終的に三菱に責任がある、海上保安庁のいまの行き方からすれば当然そうなりますが、そう考えていいわけですか。

○三木内閣総理大臣 原因者負担の原則は貫かなければならぬというのが考え方でございます。

○江田委員 それは非常にはっきりした答弁で、けっこうでございます。なかなかこれは、五年かかるか十年かかるかわかりません。

 そこで、あれだけの事故が起きて、刑事責任というものはないとお考えになりますか。どうでしょう。

○三木内閣総理大臣 刑事責任についても、いま検討中でございます。結論は出ておりません。

○江田委員 新聞の報道によるというと、岡山県警は、今度の問題は、タンクに冷却水を二万トンも注いだ、そのことが港へ水と油と一緒に流し込んで、ついにあの海に行ってしまった、この点について、岡山県海面漁業調整規則の違反だということで取り上げようとしている、こういうことが報道されておりましたが、私はそれだけではなしに、あなたよく御存じの公害法、あの公害法というのはこれに適用されないのでしょうか。あるいは、いろいろな法律がありますね、消防法もあれば、水質汚濁防止法、海洋汚染防止法、自然環境保全法、瀬戸内海環境保全臨時措置法、ずいぶんたくさんの法律があって、直接の漁業被害が百五十億円、間接のものを加えると幾らになるかわからない、清掃に十年もかかる今後の海の汚れ、金に計算できません。そういうことをした者が刑事罰の適用にならないとしたら、不思議だとあなたはお考えになりませんか。

○福田(一)国務大臣 刑事罰の問題でございますので、国家公安委員長の立場からお答えをいたしたいと思うのでございますが、ただいま御指摘になりましたようないろいろの法律に関係があるかどうかという問題は、これは十分に検討をするというか、調査をいたさなければなりません。

 特に私が考えておりますことは、今日のような新しい産業等が起きてきたような場合に、それに対処していく法律制度というものは、なかなかそう一朝一夕に簡単にはできるものじゃありません。しかし、何かその法律適用の場合には、私は、どちらにするかということになれば、こういう場合にはやはり一罰百戒というような処置をとって、今後こういうような事件が起きないような措置をとるべきではないか。いまあなたがおっしゃった法律のどれが適用されるかわかりません。しかし、同時にまた、法律を全然離れてやるというわけにはいかないのでございますから、私たちとしては、警察といたしましては、現場の調査の場合、あるいはまた参考人あるいは関係者からの事情聴取の場合には、必ず警察を立ち会わせておりまして、そうして、そういうような刑事問題にしなければならないかどうかということは、しさいにわたって研究もし、努力もさせておるつもりでございます。したがって、この結果は、消防庁において事故調査委員会というのがいまございまして調査をいたしておりますから、警察自体ですぐに結論を出すというわけにはいきませんけれども、この調査委員会の調査の経過並びに結果を待って、そして時宜に応じて事を処理してまいりたい、かように考えております。

○江田委員 一罰百戒、まさにそのことが大事なんでありまして、私がここで水島事故を言っているのは、ただ水島の事故があったからというだけではないのであって、たとえばタンクの不等沈下というものが、調べてみたら日本国じゅうだったということなんでしょう。地震でもあったらどういうことになるのか。どこだってめちゃくちゃになりますよ。あるいはいまのタンカーというものは安全なのか。ああいうシンガポールのタンカー事故についても、太平洋海運の社長は、海運に事故はつきものだということを記者会見で言われた。現地住民の感情をまるで逆なでするようなことを言われる。あるいはあの堺のタンクでその後油が流出しまして、それなんかも一カ月にもう三回目の事故だ。それも消防署には通報していなかったというようなことがあったりして、とにかく一リットルでもたくさんの油を一円でも安く入れなければならぬ、扱わなければならぬということの要請の前に、安全も何もめちゃくちゃになってしまっておるわけなんだから、こういうことについては厳正な態度をとってもらわなければ、どんなにアセスメント、アセスメントと言ってみたところで、それだけで片づく問題ではないということなんです。たとえば今度のあの水島事故でも、最初に会社は消防署へどういう通報をいたしましたか。二百トンの油が流れたという通報でしょう。それが後の処理を根本的に誤ってしまっているわけなんです。

 そこで、あなたの答弁、一罰百戒、けっこうですが、三木さん、ちょっと、素人として素人らしくしますが、例の公害罪ですね、あれは人の健康を害した者は公害罪が適用になる。ところが、油が流れて、苦労して手がけた養殖のハマチが死んでしまう。そこで、総動員でこの吹き寄せた油を取らなければならぬ。なかなか、政府も自治省も地方自治体も有効な手をやってくれないから、昭和五十年の、高度成長のこの国で、ひしゃくを持って、総動員してくみ取ったわけです。そうして、坂出あたりにおいても、漁師の諸君が集団的にのどと目をやられたわけでしょう。岡山では、あの作業へ出てかぜをこじらせて死んだ人もあります。これは人の健康に明らかに影響があるのじゃありませんか。こういうことを人の健康に影響がないとお考えですか。人の健康に影響があれば公害罪が適用できると思うのですが、これは素人流に。私は、いまあなたが答弁されたからといって、法律的にその責任を最終まで追及しょうというのじゃない。少なくとも政治家の心構えとしてどうだという観点から聞いておきたい。

○三木内閣総理大臣 立法府において、法律事項でありますから、素人の考えといっても、公害罪というものがこういう場合に適用されるかどうかということは、法律論としてお答えをすることが適当である。政府委員の方からお答えをいたします。――法務大臣から答えさせます。

○江田委員 三木さん、政治にも、官僚制度を離れたアマチュアリズムというものが必要なんですよ。いまそれが必要になっているんですよ。私はそういう意味から聞いているのであって、あなたに法律の解釈と、それをとことんまで追及しようというのではないです。まあ、答えにくかったら答えぬでもいいですよ。

○三木内閣総理大臣 しかし、法律論は、話し合いといっても、公害罪が適用になるかどうかという法律論を、話し合いということで、私の常識で申し上げることは適当でない。これは、立法府でありますから、法務大臣からお答えいたします。

○稻葉国務大臣 ただいま、公害罪が適用になるかどうかの点も含めまして、現地の海上保安庁と警察が、その原因、結果の因果関係を調査中でございまして、それに基づいて捜査権の発動をするわけでございます。その結果、公害罪になるという判定ができれば、もちろんそれはもうあたりまえのことです。

○江田委員 法務大臣も、ときどき野人ぶりを発揮されることがあるのですが、今回非常に処女のごとくで、見直しました。

 こういう問題は、実は三木さん、これは大変な手抜かりをやっているのですよ。たとえばタンクというものは、どこが監督権限を持っておるのですか。これはどうでしょう。あのタンクを消防庁が監督するといったって、消防庁が何をやっているかと言えば、タンクができ上がったときに水を入れて、水が漏れたか漏れぬかという検査をしているだけでしょう。そんなことで任務が全うされているわけじゃないのですが、あのタンクというものはどこの監督権限下にあるのか。

 それからタンクから油が流れた。私はいろいろ調べてみたけれども、そういう事故を想定した訓練も演習も、企業でも消防庁でもただの一回もないわけですね。それは、どこにこの責任があるのかはっきりしないから、そういうことになるのじゃないですか。その点はどういうようにお考えになりますか。あの複雑な高度の技術を要するタンクを科学的に検討するというような能力が消防庁にあるのですか。どこがやったらいいのか。

○三木内閣総理大臣 私も一々細かいことをよく知らぬことはお許しを願いたいのですが、それは、タンクは通産省、消防庁というものが、これも常識的な判断、これは私の考えですが、当然に責任を持つべき、その監督の衝に当たるべきものだと思います。

○江田委員 通産省にも責任があると言うのなら、通産省はこの国会に、石油コンビナート災害の未然防止のために高圧ガス取締法の改正案を出されるということを聞いております。ところがこの中身は、タンクの爆発事故だけでしょう。タンクは爆発もするのです。これも恐ろしい。しかも油が流れて瀬戸内海を汚してしまった。日本じゅうのタンクが不等沈下で同じようなことを起こすかもわからぬということがあるのに、それについては、今度通産省が出そうというこの法律には何ら対象にされておらないのですが、通産省にも責任があるとすれば、通産省はその点をどうするのか。あるいはあのタンクの設計基準については通産省が責任を持つのか。持つのならば、岩盤の上にあるタンクのアメリカと、埋め立てのヘドロの上につくった日本のこのタンクの基準と同じでいいのかどうか、その点をお聞きしたい。

○河本国務大臣 重油タンクは消防庁がその保安を監督しております。ガスタンクのほうは通産省が監督をいたしております。

○江田委員 だからだめなんです。わけがわからぬのですよ。タンクの中で、C重油のようなタンクもありますよ。LPGのタンクもありますよ。いろいろなタンクが入りまじっているのでしょう。ここのタンクは消防庁で、こっちは通産省で、その隣はどこがやる、こんなことで一体国民は安心しておれるのかどうかということなんであって、私たちは、いまのこの行政が、高度成長の中で状況はどんどん変わってきた、それに対する対応というのは全然できていないのじゃないかということを言うわけなんです。とにかく、ああいう事故が起きても、役に立つオイルフェンス一つないじゃありませんか。オイルフェンスを持つということは義務づけておるのですか、義務づけていないのですか。水島の企業、タンクを持った企業六十社の中で、オイルフェンスを持っているものは三十しかありはしません。そのオイルフェンスも何の役にも立たなかったじゃありませんか。しかもあそこには、油の回収船というのは一そうもないじゃありませんか。それが通産省なのか、消防庁なのか、海上保安庁なのか、わけがわからぬものだから、どこも人ごとみたいに考えておるわけなんです。

 消防庁にちょっと聞いてみたいのですけれども、仮に海上で油がこぼれて火事になったときには、その海に接岸する工場というのは見物しておったらいいのかどうか。見物しておったのじゃいけない、何かやらなければいけないというのなら、どういう法律的根拠で、その出動を求めることができるか。

○福田(一)国務大臣 ただいまの御質問は、私、ごもっともな御質問だと思っております。それはどういうことかと言いますと、新しいことをやっていきます場合、人間の知恵というものはそこまで行き届かない場合があり得る。私はそういう意味では、確かに消防庁等においても、そこまでの注意、あるいはそこまでの法制等をつくっておらなかったということについては事実でございますから、今後これを踏まえて、また将来新しい問題が出てきたときには極力注意をして、そうして法案の作成その他をやるべきである、かように考えております。

○江田委員 私が申すまでもなく、このところ毎日、新聞へ出てくるのは、タンクの不等沈下の問題なんですよ。日本国じゅう皆ですね。おそらく日本じゅうが不安にさらされていると思うのですよ。何センチ沈下したからどうといったって、これは専門家じゃないのですから、だれもわかりはしないで、不等沈下、不等沈下ということが出てくれば、みんなびくびくしているわけなのであって、それについて現行の法律が欠陥があるなら――明らかにあるのですから、これはこの国会でも、きちんとやっていただきたいと思う。

 さらに、ただタンクの問題だけじゃないのですよ。タンカーの問題がそうなんです。たとえば三菱石油のあの六号桟橋というのは二十万トンが着くのですよ。だけれども、これは当初三万トンの着岸の設計になっているわけです。そこへ二十万トンが着くのですよ。この桟橋というのはどこの監督下にあるのか。タンカーはどんどん大きくなったけれども、設備は一向に改善はされなかったわけなんです。しかもあの二十万トンが入ってくるのですよ。水島へ入る前には、三十度でカーブを切らなければならない。二十万トンの船というのはエンジンをとめても四千メーター走るのでしょう。六百メーターは視界ゼロでしょう。そういう中で水先案内人なしで入っているのです。水先案内人は港の中に入ってからあるだけなんです。きのうの国会で、運輸大臣が水先案内人の増強をすると言うけれども、実は水先案内人の団体というものはどういう構成になっているのか。本当に新鋭な人をどんどんふやすことができるようになっているのか。大きな欠陥があるわけです。そうして三木さん、あの二十万トンのタンカーというのは喫水が二十一メーターです。水島は水深十六メーターです。途中でどこかで油を一部空っぽにしなければ入らない。そのときに、余裕水深は二メーターというのが常識なんです。いま一メーター二十で入ってますよ。

 これは水島のことだけ言っているんじゃないんですよ。多かれ少なかれ、日本の石油基地というものはみんなそんなものだということを私は言っておるわけなんであって、そこで、瀬戸内海の汚染防止の措置法のときにも、あそこに大型タンカーを入れていいのかどうかということを問題にしましたけれども、残念ながら、私たちの主張は通らなかったが、ここに全面的にひとつ再検討しなければならぬようになっているんじゃないのか。特に、先ほどちょっと触れましたけれども、海の中で流れた石油が火事を起こしても、接岸地にある企業というものは、見ておればいいのかどうなのか、それは現在の法律上どうなっているか、その点はどうでしょう。

○福田(一)国務大臣 率直にお答えいたしますが、その場合に責任をもってそれをやれということを、私はいまのところ言えないと思います。協力義務という、お互いにまあひとつ助け合おうじゃないかということでやってもらうことはできるが、それはないと思います。
 要するに、あなたのおっしゃっておられることは、いまの制度が、新しい産業あるいはその他のことについて十分な先見性がない、またそれに対する法制がないじゃないかということなんですから、私はそういう意味では、あなたの御質問を肯定せざるを得ないと思うのです。それで、その肯定の上に立って、そして新しく今度りっぱな法制をつくる、こういうことにいたしたい。(「政府の怠慢じゃないですか」と呼ぶ者あり)私はそれを怠慢とは――怠慢と言われれば怠慢かもしれません。しかし、それだけの先見性を持つ人が、もしあなた方のうちにその先見性があったら、なぜもっと早くわれわれに教えていただかなかったのか。(発言する者多し)

○荒舩委員長 ただいまの福田国家公安委員長の発言中、ちょっと腑に落ちない点もありますので、ひとつ補足の説明を願います。ちょっと江田さん待ってください。

○江田委員 参議院でも、国民を尊敬しないなんていうことを言われて、あなたそういう癖があるんだから、取り消してもらったところで、また同じことなんです。参議院で取り消して、また衆議院でやっているんだから、そんなむだな取り消しならしないほうがいい。取り消すなら信念を持ってやりなさい。

○福田(一)国務大臣 まことにそういう意味でおしかりを受けて申しわけありませんが、私は、それは私たちが確かに怠っておるというか、そこまでの先見性がなかったことは申しわけないと言って、おわびを申し上げた答弁をいたしておるわけなんです。それを申し上げたわけでございますから、その点はひとつ御了承を願いたいと思います。

○江田委員 二度あることは三度あるというて、またそのうちやるでしょう。そのときには大変なことでしょう。

 そこで、大型タンカーの問題だけじゃないんですよ。これはどこのことか知りませんけれども、たとえば二百トンの小型タンカーというのは何人乗っているんです。船長と機関長だけでしょう。夫婦で乗っているんですよ。それが鹿児島から東京まで、休みもなしに駆けつけるわけなんです。しかも、ガソリンスタンドだって危険物取り扱いの資格が必要ですね。ところが、あの小型タンカーに乗っている人には、そういう資格は何も必要ないんです。きのうまで漁船へ乗っておった夫婦が、きょう二百トンの小型タンカーに乗っても構わない。しかもそれは重油のようなものだけじゃありません。たとえば、LPGにしても、塩ビのモノマーにしても、ああいう危険きわまりないものを積んで走っているんです。それ、ごらんなさい、ことしになっても、瀬戸内海だけでも何件相次いで起きているんですか。愛媛の沖で起きたり、ついこの間も香川の沖で起きたり、しょっちゅうやっているじゃありませんか。そういうことについて、石油というものに対する取り組み方というのがなしに、ただ高度成長だけで一円でも安く、一ポンドでもたくさんということだけを追っかけたんじゃないのか。それがいま集中的に問題が出ているんじゃないのか。しかも今後、石油備蓄を九十日、そのために備蓄会社をつくるというようなことまで言われておるのでありますが、いままでの姿勢で、そんなことができるわけがないじゃありませんか。

 そこで、ただ消防法とか個々の法律だけじゃないんですよ。いろいろな法律を大改正しなかったならば、とても国民は安心しちゃおれないということなんであって、これについて総理の考え方を聞かせていただきたい。総理、断っておきますけれども、見直すではいけませんよ。これから見直してというんじゃだめですよ。

○三木内閣総理大臣 事故の頻発に対して、私も憂慮しておるわけです。事故防止のために、関係法律の改正ということを目標にして検討を加えます。

○江田委員 これはいろいろまだ問題があるんです。
 時間の制約がありますから、私はここだけにとどまっておるわけにいきませんから、次に進むのでありますが、考えてみると、日本経済の高度成長というのは、公害とかその他の外部不経済というものを考えないで、ただひたすらに進んできたというところに、いま諸矛盾が爆発しているんじゃないかと思うのであります。やはり日本の海は世界の海につながっているわけなんで、日本の大気は世界の大気につながっているわけで、あなたの今度言われた世界船ですよ、世界船の運命共同体なんです。その中で資源のない日本がきらわれ者になったらどうにもならぬということなんで、私は、日本こそ公害の問題については最も先進的な方策をとらなければならないと思うんです。

 そこで、いま問題になっている例の自動車の五十一年規制の問題なんです。どうも三木さんが長官時代に取り組んでおられた姿勢から非常に後退を示しているんじゃないのか。私は、あるいは技術的に不可能だというのならば、あの中公審の議論の詳細を国民の前に公表していただきたいと思うのです。そうでなければ、あなたが技術的に不可能だと言っても、中堅メーカーの中にちゃんとそれに適合するものをつくっているんですから、どうも合点がいかないわけなんで、まずそのことができるかどうかを聞いていきたい。

○小沢国務大臣 御承知のとおり、中央公害対策審議会で、国民的な立場で熱心に御討議をいただいたわけでございます。昨年の十二月二十七日にその答申をいただいたわけでございますが、公害対策審議会ではいろいろ御検討になりまして、現在の技術開発の状況から見て、理想値の〇・二五を達成するということは当面なかなか困難であるから、したがって、五十三年までの暫定値として、御承知のような〇・六と〇・八五の暫定値を決定いたしまして、その審議会の総会のときに、主婦の代表、あるいはまた労働組合の代表等の方方から、そういうような技術開発をいつまでも待っておらないで、やはり厳しい規制をやって、その目標を示してそこへ追い込んでいくのが人の健康を守る上で大切じゃないか、という議論もございましたが、いろいろ御検討の上で、御承知のとおり、そういうような意見もあったが、現状からやむを得ないという答申になった次第でございます。

○江田委員 答申の経過のことを聞いているのじゃないので、審議会の討論の詳細を国民に発表できるかできぬかということを聞いておるわけなんで、経過がどうなっているということはいいですよ。われわれが見ていると、どうも三木さんは、審議会で民主的に決定されるのだと言うけれども、審議会に出てくるメンバーが問題なんですよ。しかもその技術陣においては、大企業から出てきている関係のある技術者が、やはり技術的には何かほかの技術者よりも専門家めいた発言をして、それに押されているのじゃないかという気がするわけなんで、あの議事経過、議事内容というものを国民の前にはっきりすることができるかどうかということなんです。

 もう一つは、これに絡んで課税問題が出ているわけでありますが、物品税で二五%、取得税で二%、低公害車の方を減税するということが言われておりますけれども、これで一体低公害車を普及することができると考えておるのかどうか。特に問題は、保有税の問題ではありませんか。どうしても低公害車の方がガソリンの消費量が多いのだから、保有税が同じだということになれば、これはなかなか低公害車を進んで使おうというようなことにはなってこないと思うので、私は三木さん、これは逆じゃないかと言いたいのですよ。この差をつけなければなりませんよ。差をつけなければならぬけれども、その差というものは、低公害車を低くでなしに、普通のいままでの公害車に高い課税をするということでなければいけないのじゃないのか。

 いま人類はマイカー文明から足を洗わなければならない時代が来たのじゃないのか。これこそ見直さなければならないのじゃないのか。だから、どうやってこのマイカーというものを抑えて、公共輸送というものに重点を置きかえるかということを考えなければならぬのであって、低公害車の減税じゃなしに、普通のものを高くしてもっと抑えるということが必要なのじゃないのか。

 そこで、宮澤外務大臣の弟さんが、広島県知事ですか、税金を高くするのだと、この間自治省に相談をしに来たら、自治省の方でいい顔をしなかったということが言われているのだけれども、私はこういう問題は、もっと地方の自主性というものを尊重しなければいかぬというのです。地方自治体というものをもっと尊重しなければならぬ。たとえば北海道における自動車の役割りと東京における自動車の役割りというものは違うのだ。日本海の方と山陽側とは違うのです。

 そこで、どうやって地域環境をよくしていくか、いずれにしろ、住民の総意が高まってこなければ解決つかぬ問題なのであって、それを一律に中央で決めちまって、身動きができないようにするのは間違いじゃないのか。そもそも根本の発想が、低くでなしに高くしていく、マイカーを減らす、公共輸送を充実する、そこへいかなければならぬと思うのですが、その点はどうでしょう。

○小沢国務大臣 先ほどちょっと答弁が足りませんでしたが、審議会の内容を公表するかということは、私どもは、自動車の窒素酸化物排出制限のための技術的な評価というものを、公害審議会の経過も全部書きまして、発表をすでにいたしておりますから、どうぞいつでもお届けいたします。また必要あればそれを公表します。

 それから、ただいまの税の問題でございますが、先生おっしゃるような方向については、五十一年度の税制までに、いま政府内で検討いたしまして、十分そういうような方向で、われわれもやはり考えていかなければならぬと考えておるわけでございます。

 当面の税制をごらんになりまして、いろいろ御批判ございましたが、あれは、五十年に、一年先に出た場合にいかにメリットを与えるかということだけの税制を取り上げたわけでございまして、いまおっしゃいましたようなことにりきましては、私どももその必要性を感じまして、現在、政府部内で各省寄り寄り、自動車排ガスの対策閣僚協のもとで検討いたしておるわけでございます。

○江田委員 三木さん、予算修正をやってもいいというのが一つもう出ましたよ。五十一年からは、いま私が言ったようなことにやってもいいと。五十一年でやってもよければ、ことしやってもいいのですから、まあそういう問題をこれから次々出します。

 そこで原子力の問題ですね。原子力発電所の事故というものが相次いで起きて、電力の労働組合では、いまの段階で就業することは、組合員である従業員の健康に責任が持てないから拒否するということを言っておるわけなんであって、これは従来の姿勢を抜本的に変えなければならぬということは言うまでもないことなんです。

 そこで政府は、この予算で原子力安全局を設けるというのでありますが、私はアメリカの原子力委員会と日本の原子力委員会をひとつ比べてみていただきたいと思うのです。アメリカの原子力委員会は日本とは違っている。日本の原子力委員会は基本設計だけにタッチするのでしょう。しかしあとの詳細設計は運輸省なりあるいは通産省がやる。そこに断絶があるわけですよ。そこに無責任が生まれるわけなんです。アメリカの原子力委員会では、基本設計から最終設計まで委員会がずっと責任を負うのですから、責任が一貫するわけですよ。それだけではなくて、原子力委員会が被告になって、そうして住民が原告になって、ある意味の原子力裁判というものが行われて、そこで、原告である住民が被告である原子力委員会を相手に、安全性の問題その他をとことん論議をして、そこから、実施すべきか否か、実施するとすればどうするかということが進められておるわけなんです。しかもそのアメリカの原子力委員会は、ことしからまた改革されて、一層厳しいものになってくるわけなんでありますが、日本の場合、原子力安全局をつくったって、一体まず第一にどこから技術者を集めるのですか。またどういう運用をするのでありますか。そういうことを聞いてみたいのです。

○佐々木国務大臣 お答え申し上げます。
 技術者を――その前に、運用をどうするかという問題でございましたので、運用の面から申し上げたいのですが、今度つくります安全局は、主として安全そのものの研究体制、あるいは充実をどうするかという問題あるいはただいまもお話しございました設計の審査、あるいはできたものの検査等の体制をどうするか、充実をどうするかといったような問題、あるいは国民の理解を得るためにどうしたらよろしいか、そういう問題が特に主になると存じます。

 そこで、アメリカのAECは、お話しのように、ことしの一月十九日でございますか、やめまして、お話のような安全サイドの規制委員会に衣がえいたしました。非常な充実をいたして、ただいま発足しております。その所要人員等も、日本とはとても比較にならぬほど膨大な検査員でやっておりますることは、御指摘のとおりでございまして、私どもも、できますれば、発電の規模等は違いますけれども、安全の保障に対する必要性というものは、アメリカには劣らぬほどもちろん必要でございますので、逐次これを充実してまいりたいと思います。

 そこで、御質問にありました検査員をどうするかという問題でございますけれども、これに関しましては、ただいままで原子力局あるいは通産省等で培いました審査官に加えまして、今度の安全局ができますについて、原子力研究所とかあるいは民間等からも、できますれば採用し、その充実を図っていきたいというふうに実は考えております。

○江田委員 アメリカと比べて雲泥の差があるんだということは、もうお認めになっておるわけなんで、私は、原子力の問題にしても、あるいはクリーンエンジンの開発の問題でも、政府の持っている技術陣というのがあまりにも弱過ぎるということを痛感しているわけなんです。

 そこで、三木さん、お尋ねしますが、大体、科学技術振興の予算というものは、諸外国に比べて、日本の場合には国の負担が低いですね。あなたもおっしゃるように、われわれに何があるのか、資源はないのだ、人間がおるだけだ、頭脳があるだけなんだ、すぐれた頭脳があるだけなんだ。そういう点からいけば、何としてもわれわれは科学技術陣というものを強力にしていかなければならぬのであって、しかもその際、幸いなことに、われわれは軍事科学に力を注ぐ必要はないのです。つまらぬ宇宙開発なんかと取り組んではいないのであって、われわれがいま何をしなければならぬのかと言えば、やはり安全の問題であり、環境の保全の問題であり、そういうことについて、もっと思い切った技術陣を養成できるような措置をとっていかなければならぬのじゃないか。少なくとも、クリーンエンジンの開発ぐらいは国の手でできるぐらいなことがあって、初めてわれわれが世界の舞台へ出て、日本民族の誇りというものを持つことができるんじゃないでしょうか。そういうことについて思い切った改革をなさる用意はあるのかないのか。

 それから、ついでに科学技術庁長官に、あの「むつ」という船の母港は今度どこになるのですか、そのことをちょっと答えておいてください。

○三木内閣総理大臣 いまの江田さんのお話、私も全く同感であります。日本はやはり技術、頭脳というものを中心にして、これからの発展を図っていくべきでありますから、科学技術というものにもっと力を入れるべきです。ことしも二五・四%ですか、三千二百三十一億円だったと思いますが、しかしこれはやはり私は少ないと思う。今後この問題は、もっとやはり基礎的な研究から政府がもう少し――民間ばかりでなくして、基礎研究というのはやはり政府が相当力を入れなければできませんから、この点は将来、いま言われるように、もう少し政府が科学技術振興に対しては本腰を入れてやるようにいたさなければならぬ。これは将来の課題としてぜひ取り組みたいと思っております。

○佐々木国務大臣 お答え申し上げます。
 原子力船「むつ」の第二定係港、第二の母港でございますが、これを先般、去年の十月に地元と妥結した際の申し合わせでは、ことしの四月中旬までに母港をきめまして、さらに二年半後にはその母港にいまの「むつ」が移転するという申し合わせになっておりまして、ただいま第二母港の選定に取りかかっておりまして、科学技術庁と運輸省、それから原子力船事業団から、それぞれ選手を出しましてチームをつくりまして、専門に選考中でございます。できるだけ四月中旬までにはきめたいと思っております。

○江田委員 いろいろありますが、時間の制約がありますから、次へ進みたいと思うのですが、三木さん、あなたの三本目の柱は社会的公正ですね。社会的公正ということに関して現在何が一番問題かと言えば、何といってもインフレをどうやって抑えるか。大きな者がいよいよ大きくなり弱い者がいよいよ苦しむ、この社会的不公正をどう是正するかということが第一の課題であるということは、申すまでもありません。しかし、われわれが注意しなければならぬことは、現在不況が非常な速度で進行しているということであって、三月末の失業者は百万人に達するのではないかと言われております。また健全な企業が倒産の危機に追い詰められております。私はきのうも、ある業者に会ったら、先生、何とかしてくれなければ、もう仕事がないんだから、こういう悲鳴を聞かされました。このインフレの犠牲者が低所得層です。同時に、インフレを克服するための不況の犠牲者も低所得層なんであって、捨てておいていいことじゃないわけなんです。しかもそれが非常に深刻になってきたということ。

 三木さんの施政方針演説を聞いていますと、この不況ということに対して、ただの一言も触れていなかったのでありますが、これについて、やはりタイミングを失しない対策をとらなかったならば、手おくれになったならば、後どんなことをしても追いつかぬというような事態の発生も憂慮されるわけで、われわれは、インフレ抑制を第一の課題にして追及しなければならぬけれども、同時に起こるこの問題についてどういう考え方があるのか、お聞きしたい。

○三木内閣総理大臣 インフレの進行中、中小企業などに対して強いしわ寄せが行く可能性を持っておりますから、政府の方としても、中小企業対策には特に力を入れている。昨年の年末にも、七千億円の特別の融資枠を設けまして、必要があればこれは増額をしようということで、今年度の御審議を願っておる予算においても、中小企業には特に力を入れ、ことに零細企業などに対しては、その中においても特に配慮を加えた予算であることは、おわかりのとおりでございますが、これは、いろいろな場合に対してきめ細かく、中小企業が不当な圧迫を受けないように、通産省においても、特に不況の進行下における中小企業の動向には、中小企業庁を中心にして、注意をいたしておる次第でございます。

○江田委員 これはあなた、いまの不況というものの性格を十分に御承知ないんじゃありませんか。ただ中小企業に対する融資をどうこうするというような段階を、すでに通り越しているんじゃないかということなんである。しかも、私たち非常に戸惑いをせざるを得ないのは、あなたは、インフレ抑制一本やりで景気政策を変えることはないと言うが、片一方で通産大臣は、国会の外や内で、景気政策を変えるんだというようなことも言われる。一体どっちがどっちなのかということなんであって、勘ぐりようによっては、春闘対策というものが頭の中にあって、そのために、本当のことを国民に教えないで、何か春闘を切り抜けるためだけに、三木さんは言っているんじゃないだろうか。そこに勘ぐりもあるし、勘ぐりより何より、戸惑いを感じるわけなんです。

 あなたが、現在の不況というものが中小企業の金融ぐらいで片づくような認識なら、それで一貫してもらいたい。通産大臣もそういう発言に歩調を合わせてもらいたい。そうでないというならば、国会ではこちらを言い、外ではこちらを言うというような態度はやめてもらって、この際どうするかということを国民の前に正しい情報を与えてもらいたい。そうでなければ、私は、下手をすると、もたもたしている間に、取り返しのつかない不況に落ち込むのじゃないかということを心配するわけなんです。その点をもっとはっきり答えてもらいたい。

○三木内閣総理大臣 どうでしょうかな。やはり江田さんお考えになっても、政府の総需要抑制の政策をいま転換することが適当だとお考えなのでしょうか。やはりインフレをどうしても抑制するということが一番大きな課題であって、そういうことを考えれば――なかなか不況という問題も深刻であることは十分承知しておるわけです。倒産の件数もふえておりますし。しかし、いまこの場合に、政府が大きく経済政策を転換するということが、その与える影響ということを考えたら、いましばらくごしんぼうを願って、インフレというものを抑制して、そして日本の経済というものを正常な形に持っていくという政策が誤っておるとは私は思わない。したがって、その間に、政府はいま言ったようなきめ細かい政策をとって、できるだけそういう犠牲を少なくしようという政府の態度が一致をしておることは明らかでございまして、通産大臣は違った考えを持っているというわけではないわけでございます。

○江田委員 どうも経済の問題になると、途端にあなたは歯切れが悪くなってしまいまして、非常に残念に思うのですが、これこそがいまの最大の課題じゃないかということなんです。

 そこで、考えてもらわなければならぬことは、たとえば円の切り上げの問題のときでも、切り上げは不況になるからといって、ちゅうちょ逡巡してタイミングを誤った。あるいはその後の景気政策についても、もう引き締めをしなければならぬときに、なお膨大な予算を組んで景気刺激をやって、政府の政策切りかえのタイミングを誤ったために、たいへんな傷を背負ったということなんですよ。だから今回の場合でも、私はただ勘だけで物を言われちゃ困ると思う。いましばらくしんぼうしろというのならば、どういう指標が出たならばそのときに景気転換をするのか、あるいはどういう措置をとったら、たとえば公共事業の繰り延べ分を解除したならば物価にどういう影響が出るのか、そういうことをやはり明確にしてもらわなければならぬと思うのです。それに基づいて、もっと経済政策に科学性がなければいけないのであって、どうもその点がばらばらで、勘だけに頼った政策展開になっていくのじゃないか。そうして、初期ならば軽い手当てで済むものが、後になってみれば、とんでもない取り返しのつかぬような状況を生むのじゃないかということを心配するわけであります。

 はっきり聞きますけれども、それじゃどういう指標が出たならば景気転換をするのか、それまでは何もしないのか、百万人失業者が出てもほうっておくのか、ただ中小企業の融資だけやればそれで片づくと思っているのか、もう一遍改めてお尋ねいたします。

○福田(赳)国務大臣 江田さんのお話、私も御心配の点は同じ気持ちで心配しているのです。しかし私は、いま一番大事な問題は、何にしても物価を安定させることです。その物価安定というものがもう一息という段階に来ておりますので、この物価安定作戦、この軌道を乱してはならぬ、こういうふうに考えているのです。ただ、お話のような物価安定作戦の与える摩擦現象、こういうものはつぶさにいま検討しております。通産大臣なんかは非常に精力的に各業界、団体等とも話し合いをしておる。そういうことから、いろいろ財界の動き等も私どもはつかもうとしておるのです。それからまた、いろいろ指標が出てきます。いま一番大きな指標は、何といっても鉱工業生産率ですが、これは一年間でかなり落ちております。それから労働関係の諸指標、いろいろなものがあります。そういうものを総合いたしまして、これは、特殊の業界につきましてはどういう状態になっておるか、あるいは中小企業はどういう状態になっておるか、それらに応じまして、インフレ掃討作戦といいますか、その作戦の与える摩擦現象、これに対しましては機敏に対処していくという考えでありまして、これは目をさらのようにして、じっと経済の動きを見ておるわけでありまして、決して等閑視しておるわけではございませんです。

○江田委員 目をさらのようにして見ているのは、あなたじゃないですよ。国民が見ているんですよ。国民が毎日毎日心配なんですよ。しかも通産大臣のごときは、公共事業の繰り延べ分を解除するかのごとき発言をされるが、片方で総理、あなたはそれを抑えるようなことを言われて、どっちが本当なのか国民が目をさらのようにして見ているんですよ。

 そこで、私が先ほども言ったように、こういう問題は、ただ勘だけで処理されては困るのです。やはり科学性のある政策でなければならぬわけなんで、いまあなたもいろいろな指標を取り上げられましたが、それならば、いまのインフレ抑制一本で進んでいるこの三木さんの内閣の政策を変えるときがあるとすれば、どういう指標が出たら変えるのか、そのことをはっきりさしてもらわなければ、まあ任しておけ、こっちはじっと見ておるのだ、それほどこれまでの自民党の経済政策が国民に信用があるとは言えないのです。あなた方がやってこられた――もっとも三木内閣はわずかですけれども、田中内閣がやってきた経済政策に対して、国民は腹から不満を持っておるんですよ。それを、任しておけ、おれの方もじっと見ておるのだ、それでがまんができるわけはないのでありまして、そういう点について、これはいま直ちに答弁というわけにはまいらぬと思いますが、政府として、不統一な発言がないように、国民がどれを注目したらいいのかということをはっきり見解を統一して、後刻発表してもらいたい。しかも、それはタイミングを逸してはならぬのです。いまが一番大事なときなんだから。そのことを三木さん、要請しておきます。

 それからもう一つは、どうも……(発言する者あり)そんな言うことじゃないって――あなた方も選挙区へ帰ってごらんなさい。いまの不況に対して……(発言する者あり)まあ不規則発言だから。

 そこで、もう一つは、私が見ているというと、あなた方は春闘というものを余り考え過ぎているんじゃないか、春闘というもの、これをいかに乗り切るかということに焦点を置いた発言が多過ぎるんじゃないかという気がするわけなんです。あなたは、所得政策はとらぬ、こういうことを言っておられるわけですが、それはそうでしょう。だけれども、政府の経済見通しでは五十年度雇用者所得の伸びを一七・一ということを出しておられるわけで、やはりいろいろな角度から、所得政策じゃないけれども、それに近いものはやっておられるわけなんです。

 そこで、賃金について考えてもらわなければならぬのは、これは少し長い目で賃金というものは見なければならぬということなんです。余り短期の見方だけすると、賃金対策を誤るのじゃないかということであって、もっと長い目で実質賃金がどういうことになるかということの見方が大事になってくるわけであります。

 そこで、現在の日本の条件の中においては、たとえば社会保障、そういうものがヨーロッパに比べて非常に貧困だから、どうしても働く者は賃金だけを頼っていかなければならぬわけですよ。その賃金の内容がどうなっているのか。去年三二・九という史上最高のベースアップがありました。だけれども、それは九月までにはもうどこかへ消し飛んでしまったわけでしょう。物価に追い越されたわけです。それから後は赤字でしょう。しかもその赤字の内容というものは、ただ賃金のべースがどうということじゃないんですよ。時間外はどうなりました。ほとんど時間外はなくなってしまったわけですよ。家族がパートに出たり、あるいは内職しているのはどうなったのか。ほとんどこれもなくなってしまっているわけですよ。だから、実質賃金というのは非常に低いことになってきているわけなんであって、きょうも私は、新聞を見ると、デパートの売り場ががらがらだという写真が出ておりました。買うに買えないのじゃありませんか。需要が冷え込んでしまっているんじゃありませんか。その中で、さらに賃金を一方的に無理をして抑えるということをやって、勤労者の生活も立っていかぬというだけでなしに、日本経済全体をどこへ持っていくかという角度から見ても、これは一方的に一五%だ何だというようなことが押しつけられて解決つくものじゃないと思うのです。

 私たちは、いまの経済の状況については、ただ賃金だけ一方的に抑えるということだけで解決づくものではなく、ただ一方的なインフレの抑制だけで解決づくものではなく、不況の問題もある、いろいろな問題がある。あるいは消費者の需要をどうやって伸ばしていくかという問題もあり、もっと総合的な角度で取り組まなかったならば、進路を誤ることになるんじゃないかと思います。そういうことについてお考えを聞きたい。

○三木内閣総理大臣 いま江田さんのおっしゃられるように、幾ら名目賃金が上がっても、実質賃金というものが実際において上がらなければ、労働者の生活の安定にならぬわけでございます。実質賃金を上げるためには、インフレを抑制するということが労働者のためにも必要なことであります。そういう点でわれわれは、いわゆる生活安定の前提というものは、異常な物価騰貴にあらわれておるインフレを抑制するよりほかない。この政策をとることが労働者の利益にも合致するということであって、春闘のためにこれをやっておるわけではない。国民の一般が望んでおる、物価を鎮静さしてもらいたいという国民の願望にこたえて、政府は総需要抑制政策をとっておるわけでございます。

 したがって、春闘の賃上げというものに対して、いかなる水準で妥結をするかということは、せっかく物価が鎮静の方向に向かっておるときに、これが経済に与える影響ということは軽視することはできないわけであります。そういうことで、政府は、賃金の決定というものは自主的にきめられるべきもので、何もこれに干渉する考えはないわけですが、願わくは、労使ともに節度のある賃金の妥結をしてもらいたいという希望を述べておるだけでありまして、春闘のために物価を抑えようという、そういうものではありません。国民全体の生活を安定さそうということが目的であるわけでございます。

○荒舩委員長 午後零時二十五分より再開することとし、この際、暫時休憩いたします。
    午前十一時五十七分休憩


1975/01/30

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