1958/03/04

戻る会議録目次


28 参議院・農林水産委員会

農業協同組合整備特別措置法について


○委員長(重政庸徳君) 農業協同組合整備特別措置法の一部を改正する法律案(閣法第六四号、内閣提出)を議題にいたします。

 この法律案は、去る二月二十八日、衆議院本会議において全会一致をもって可決され、即日当院に送付、委員会に付託されました。この法律案については、去る二月二十七日の委員会において提案理由の説明を聞いておりますが、本日は、まずこの法律案の内容、その他参考事項について、農林当局から補足説明を求めます。

○政府委員(渡部伍良君) ただいま議題になりました農業協同組合整備特別措置法でありますが、これはその法律の第二条におきまして、不良農業協同組合の整備をいたすため、昭和三十三年三月三十一日までに都道府県知事の指定する日現在により、貸借対照表を作成し、それに基いて整備計画を立てる、こういうことになっておるのであります。そのために、この法律制定当時に、昭和三十年三月現在で調査いたしまして、その当時一万二千九百八十三の総合農業協同組合のうち、約三千三百の不良組合がありました。その中で、約一割はもう解散を前提にいたしております。約二割は自力更生ができる。残りの七割につきまして、この法律の定めるところによりまして、第三条によりまして、五カ年後の事業年度の終了する日までに、固定した債務の全部の整理、欠損金の全部の補てん、こういうことを内容として整備計画を立てまして、それに対しまして、政府が第十条によりまして一定の補助を与える、すなわち補助は整備計画に基きまして債務の整理なり、欠損金の補てんをするに際して、信用農業協同組合連合会が金を貸しておる場合、その貸し金のすなわち組合から言えば、借入金の利子を減免することが一つ。

 それからもう一つは、整備組合に対しまして、府県から駐在指導員を派遣いたしまして、その都道府県農業協同組合中央会から駐在指導員を派遣することに対しまして、都道府県で補助をする、それに対して国が県の補助にまた補助するわけであります。こういうことです。

ものにからみましてうまくいかなかった。しかし、現在の状況から申し上げますと、交通機関なり通信機関なり道路網の整備等が発達している状況からいいますと、現在の規模では経済単位に達しないというものが非常に多いのでありますから、そういうものは、地勢、道路、通信機関、そういうものの状況を見て、さらに一段と合併を進めていきたい、こういうふうに考えております。

 それから、この整備対象組合の負債の状況を見てみますと、大体一組合当り平均五百六十万円見当になっております。で、この整備計画の対象には百五十万円以上の欠損金があるものを対象にしておるのであります。多い組合では、鹿児島県のある組合が最高でありまして、四千万円というような組合も出ております。三十三年度の予定になるところにも、相当高額の欠損のある組合も出ております。大体多いところは五百万円から八百万円の欠損がある組合が多いようであります。このために、政府の出しました補助金は三十一年度で四千三百万円、三十二年度で一億六千万円、三十三年度の予算は一億四千五百万円、こういうふうに予定いたしております。

 以上、整備特別措置法の従来の経過と今後の予定を申し上げたのであります。

○委員長(重政庸徳君) ただいまからこの法律案の審査を行います。
 まず、質疑に入ります。御質疑の向きは、順次御質疑を願います。

○江田三郎君 整備促進というものがよくわからぬのです。何を一体整備するのか。局長の説明を聞いておると、ただ負債の話やそれから統合というようなことばかりが言われておるのだが、農業協同組合というものは、統合したり、負債ができなくなるようにしさえすれば、それで目的を達しているのかどうかということを、私よくわからぬからお聞きするわけです。なるほど統合はいいと思うんです。しかし、統合をして大きくなった農業協同組合というものは、どういう事業をやっていくのか。まあ普通に見ておるというと、統合して大きくはなりますけれども、結局やっている事業というものは、信用面なりあるいは流通面の仕事が強力になるというだけで、だんだんと大きくなるにつれて、零細農民というものは置き忘れられていっているのじゃないか、そういう点について、農林省の指導方針はどうなっておるのか。あるいは、黒字を出しさえすりゃいいということなら、たとえば農協の預貯金にしたところで、何も系統なんかを利用しなくたって、高いところへ預けたらいいわけです。現に、そういうような系統金融の吸収率というものは、だいぶ落ちているように思うんですが、僕は、この整備統合ということが、あなた方の考えておられるのは、ただもう赤字を解消するということ、それから、何でもいいから組合を大きくする、それだけが目的でやっておられるのか、どこに根本的な目標があるのか、農業協同組合の指導方針というものが、いささかわけがわからないようになっているのじゃないかと思うので、その点を一つ局長の考え方を聞きたい。

○政府委員(渡部伍良君) 協同組合は、もう先生の方がよく御存じで、「農民の協同組織の発達を促進し、以て農業生産力の増進と農民の経済的社会的地位の向上を図り、」、こういうのが法律の目的であります。しかし、その十条で、「組合員の事業又は生活に必要な資金の貸付」「定期積金の受入」「物資の供給」、「共同利用施設」、「土地の造成、改良若しくは管理」、「物資の運搬、加工、貯蔵又は販売」、「農村工業」、「共済」、「医療」等々、経済活動をすることが中心になっておるわけであります。その前提といたしましては、結局、組合員の利益の向上ということが主になっておるのでありますが、その利益の向上をするためには、組合の活動それ自身が円滑にいくということが必要であります。従って、組合員の経営単位がそろっておれば、これは組合の経営が非常に楽じゃないかと思います。組合員の経営単位が非常に零細なものが多いということになれば、組合の経営がむずかしくなります。そこで、一つは、現在の農業協同組合それ自身がそういった零細農を包含するのにどういうふうにしたらいいか、現在零細農を包含するような工夫ができておるかどうかということが問題になっております。これは非常にむずかしい問題でありまして、私の方で提案しておりますのは、部落組合の組織によって団体加入するという方法が一つ提示されております。しかし、これもなかなか理屈はいいのでありますが、実効はなかなか上っておりません。そこで、もう一つの方法は、結局、組合員数が少なければ、同じ事務所の費用にしても、職員の費用にしても、配給肥料一かます当りなり、あるいは販売する米一俵当りの手数料の額も割高になるから、それを割安くするために、経済単位を考えまして、運搬なり地勢の関係を考えましてできるだけ経済単位を拡大したらいいじゃないか、こういう一つの要求があります。それも、しかし、今までのところは実現しておりません。さらに、協同組合が組合員の農業経営の指導をやって、農家の力をつける、そうすればいい施設を作ることができる、あるいはいい人を雇うことができる、こういうふうな関係で、回り回って全体の水準が上っていく、従って、協同組合が農業生産あるいは農業経営の指導にもっと積極的に乗り出さなければならない、こういう意見が出ております。さらに、それを相当やっております。しかし、これも卵と鶏のような関係で、協同組合の基礎確実なところはどんどんそういう事業も進歩しております。しかし、協同組合の基礎が確立していないところは、なかなかいい技術者を雇うことはできないということで、これもうまくいっておりません。そこで、ただいま申し上げたような各部面について効果的な運営をし、効果的な施設をするということが前提になるのでありますが、この法律で、今出しております法律でねらっておりますのは、ほんの一部面、協同組合のほんの一部面を直していこうということだけをねらっておるのでありまして、それはこの法律に書いてありますように、欠損金をまずなくすることがいい、欠掛金をなくするには、組合の経営をよくすることと、組合が外からの負担、すなわちここで考えられておりますのは、欠損すなわちそれは借金の形で残っておりますから、借金の負担をなくしていこう。それからもう一点は、ここにありますように、組合の管理、先ほど申し上げましたように組合に対するもの、組合の事業経営の管理の仕方、そういうものをよくするために、中央会から経営指導員を出して、それに対して補助する。こういうような、一面においては、組合が欠損による――欠損ということは借金、その利子負担を軽減すると同時に、協同組合法に基いてやらなければならない事業を一つ一つ片づけていく指導をやる駐在員を派遣するための補助、この両面でねらっておるのであります。しかし、この法律だけで協同組合がよくなるということではないのでありまして、この前の再建整備法とか、いろいろな法律もありますし、それからまた事業につきましては、農協がやる共同施設に対する公庫の低利資金の貸付なり、あるいは農家それ自体のためには、農業生産全般で農家の地位を上げて、両々相待っていく、こういうのでありまして、あくまでこの法律は協同組合のある一部面だけをよくしよう、ある一部面だけをねらった法律になっておるのであります。

○江田三郎君 ただ、整備促進なり、この特例措置法が昭和二十五、六年のあの農協の行き詰まりの跡始末をすることに必要だということは、これは私どもも否定しないのであります。しかし、もうそろそろもう少し根本的なことをお考えになったらどうか、まあ局長の今のお話を聞いても、こういう問題もある、こういう問題もあるけれども、どれもうまくいっていない、うまくいかそうというだけの熱意がないのじゃないか、あるいはうかつにこう飛び込んだら、八幡のやぶ知らずみたいになってしまうので入れぬということかもしれないけれども、われわれ最近のあなた方の指導方針を見ていると、農業協同組合というものがどういう役割を果さなければならぬかというその根本が忘れられて、ただ今あるところの負債をどうするか、とにかく赤字にならなければいいということばかりに持っていかれているんじゃないかという気がしてかなわぬわけです。だから、私さっきもちょっと言いましたように、ただ赤字をなくしさえすればいいというなら、たとえば系統資金だって、高い銀行なんぞに預けさしたらどうですか。その方がきっぱりするじゃありませんか。しかし、そうではいかぬのだというなら、その系統資金なんぞの使い方をもっと考えたらどうですか。そういう点についてどうも、まあ渡部さん御苦労されていることは知っているけれども、しかし渡部さんだけでなしに、私は農協の関係者全員が、この辺で一つ根本的な反省をしてもらわぬと、たとえば米の統制だってこれはいつまで続くかわかりませんよ。米の統制が一つはずれたときのことを考えたときに、一体今の農協はどうなるのです。整備促進も何もあったものじゃないと思うんですよ。ばらばらになるんじゃないですか、あれは。そういう点がほんとうに農民の気持にぴったり、特に零細農あたりに対しての共感を呼ぶものなくして、ただ赤字をなくすればいいとか、役員や職員の給与さえ払えればいいとか、そういう方向にだんだんこり固まってきていやしないか。こり固まるというよりも、そこへ萎縮してきているのじゃないか。そういうことを僕は心配するのであって、少し何かもっと――あれもやりたいがむずかしい、これもやりたいがむずかしいじゃなしに、何かもっと根本的な大きな計画はないのですか。

○政府委員(渡部伍良君) お話は全くごもっともなんであります。ただ、われわれが今非常に困難を感じておりますのは、協同組合法の精神からいって、何といいますか、上からの押し付けというものが極端に排除されておりまして、自主的な組織であり、自発的な団体である、こういうことが非常に強く出ているわけであります。従って、これは占領軍のときにできた法律でありまして、アメリカの説明するところによりますと、政府は指導するのでなくして、情報を提供するのだ、あくまでも組織者みずからがその事業を刷新していくのだ、こういう説明を下しているのであります。これは農務省の協同組合の担当官にさんざんやられているわけなんであります。しからば現在そういうふうな状況になっているか。そのままアメリカの状況をこの法律に移されて、日本の実情に合うかどうか、こういう問題があるわけです。これは昔からの伝統がありまして、そう簡単に百八十度転換できないのでありますが、御承知のように農地改革の結果、農家がバランスがとれてきた。しかし組合の経営は、役員が組合員でなければならない。職員に十分な俸給を払えないということになりますと、結局これは、私のところへ来て熱心な組合長さんのおっしゃることは、協同組合を本気にやつていちゃ家の田畑が荒れてしまう。両方は成り立たない。あとに留守番のむすこがしっかりしているとか、あるいはおやじがしっかりしておって見守っていてくれればいいけれども、そうでなければ、組合の仕事もやりたい、家の仕事も忘れてはならないということになれば、持たない、こういう苦衷を訴えているのであります。私は、このことは非常にもっともじゃないかと思うのです。現在の農業経営の状況からいえば、そういう余裕のある農家だけが組合の理事者になれるというわけにはいかないと思います。従って、そういうところに一つの問題があると思いますが、それにしましても、御指摘のように協同組合の形式が、先ほど私が説明いたしましたような自主的、民主的団体であるけれども、実際は、戦争中、戦後の物資統制のワクをはめられたまま改組されている。従って切符によっていろいろ仕事をしておったことになれて、それからさらにまた農産物、すなわち扱う商品、米麦等は今に至るまで統制が残っているし、肥料についても統制の継続は相当強く残っている。従って、それだけで成り立つ組合は比較的問題がないけれども、米麦のウエートが少い組合では、新しい工夫、新しい努力が必要であるけれども、それに対して十分の組織なり、あるいは十分の資力が伴わない、従って、この運営が非常にむずかしい、こういうふうに考えるのであります。これは結局、協同組合の内部の問題と、それからそれに対する国家の施策の問題、両々相待っていかなきゃ解決できない問題だと思います。その問題点は先生の御指摘の通り、われわれも痛感しておるのでありますが、今までの現状ではそういう実態を、組合関係の人、政府、両方がよく認識して解決していかなきゃならない問題じゃないかと思います。さらにもう一点は、中央会が組合の経営指導を看板に掲げて――昭和二十九年に法律を改正して入れたわけでありますが現在の中央会の組織からいいますと、中央会に各連合会なりあるいは単位組合が経費を負担しておる、従って、連合会なり組合の気に入らぬことはいかにいいことでも受け入れられない、すなわち中央会がいまだ弱体であるということも、御指摘のような組合の方向転換といいますか、刷新強化といいますか、非常におくれておるゆえんであります。こういうふうに感じておるのであります。

○江田三郎君 それから占領中にアメリカが作った法律だとか何だとかいうことは、これはもう理由にならぬわけです。しかし、あくまでも農民の自主的な組織だというても、現にそれが政府の方で決して自主的にまかしているのではなしに、いろいろの手を加えて、あるいはこういう法律だけでなしに、財務処理の基準令なるものを作られたり、あるいは団体再編成で中央会を作ったり、いろいろやつておられるわけです。だから、そんなに政府がやりたくても自主的組織だからそうはいかぬのだというのは、僕は逃げ口上だと思うのですよ。特に中央会にやらすのだというような構想を持ってやられても、今のお話のように中央会がまだ強くならぬのじゃなしに、逆に中央会というものはだんだん弱化するのじゃないですか。だんだんと中央会が宙に浮いてきておる。そこに私どもは、ただ協同組合というものがほんとうの農民の協同組合でなくて、だんだんと役職員の協同組合になりつつありゃしないか。たとえばこの物品の取扱い手数料を見ても、私どもは単協に比べて全購なり全販なんかの手数料の取り方が大き過ぎると思うのです。だから一番恵まれておるのは、全購連であったり、あるいは全販連であったり、中央の経済事業をやる団体で、下になるほどだめになってくる。中央会なんというものはだんだんなり手がなくなってくる。そういうことになってこういう法律を作って何だか格好は整ってできたけれども、実は精神の抜けた抜けがらだけが出てきておるのじゃないか。もしあなたがさっきおっしゃったように、もっと部落に根を置いたところの小組合というか、生産協同組合というようなものに力を入れるのだというなら入れるで、そういうことをもっとはっきり施策に出し、法案を作り、予算の裏づけもする、そういうことを一つ一つてきぱきやってもらいたいと思うのですよ。私はこういうことは今までのいきさつがあるから、整促にしたところで、跡始末をつけなければならぬから、この法律が不必要だとか、悪いと言うんじゃないんです。しかし、あなた方がやっておるのを見ると、こんな方向ばかりいって、ほかの根本問題について少しなおざりにすぎはしないか。もちろん一生懸命やっているんだと言うことでしょうけれども、その一生懸命の上にも、渡部流をもう少し有効適切に出してもらわぬと、少しこのごろ渡部さんもかすんできておるんじゃないか。まあそのくらいにしておきますよ。


1958/03/04

戻る会議録目次