1958/02/11

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28 参議院・農林水産委員会


○江田三郎君 農林大臣に初めてなんですが、今まで就任されてから、いろいろの委員会で御見解を述べておられると思いますが、私初めてなものですから、ちょっと今までおっしゃっておられたことに重なるような点があるかもしれませんが、昨年農林省の方で白書をお出しになり、これはわれわれ非常に興味を持って拝見したわけです。それから、それに基いて基本政策を発表なさった。そこで、その白書なりあるいは基本政策で出されておる点、われわれも同感する点がありますし、また同感しない点もありますけれども、それがどのように予算化されるかということで、注目をしておったわけでありまして、この間、農林大臣の基本的な見解を伺ったわけですが、どうも今まで農林白書なり、それからそれに基く基本政策からいきますと、ここへ出されたところの、この間説明されました基本政策というものが、少しピントがはずれているのじゃないかという印象を受けるわけです。そこで、まあ順序を追ってお尋ねしたいと思うのです。

 まず最初にお伺いしたいのは、あなたの説明の中で、一番の基本として農林水産業については「その生産性を向上し、他産業と均衡のとれた所得を確保することに努める」、これが一番の柱になってくると思うのです。この点は、他産業との均衡のとれた所得ということを打ち出されたことは、非常に注目すべきことだと思うのですが、ただそういう言葉だけでは困るわけでして、その内容がどのように具体的に喪づけをされているかということだと思うのです。そこで、私のまず第一にお伺いしたいのは、政府の方で五カ年計画をこの前発表されたわけです。あの五カ年計画の数字でいきますというと、三十一年から三十七年の間の鉱工業生産水準が、年の成長率が八・二それに対して農林水産が二・五、こうなっておって、農林水産業の生産性を向上して他産業との均衡のとれた所得を確保すると言っておられますけれども、あの長期計画でいきますというと、まず第一に生産水準において八・二と二・五というような非常な開きが出てくるわけです。そこで、そういう聞きが出てもかまわぬのだ、あるいは今後鉱工業の面においての雇用がふえて、農林水産業の方に従事している者がそちらに変っていくのだ、そういうまた説明でもあるのならわかりますけれども、どうもあれを見てもそういうようには思えないのでして、特に国民の個人消費が五・五の上昇率を示すことになっておりますが、一体これは農林水産の生産水準が二・五上って国民の一人当りの消費水準が平均して五・五上るというのと、どういう関連が出てくるわけですか。結局、これはあなたの方は、他産業との所得の均衡をとるのだということを言われておりますけれども、これはこれ、あれはあれであって、ただこれは言葉だけだ、こういうことになりますか。その点からお伺いしたい。

○国務大臣(赤城宗徳君) 他産業との生活水準がだんだん較差を持ってきておる現状でありますので、この均衡をはかっていくということでありますが、鉱工業の実態と農林水産の実態とは、私から申し上げるまでもなく、違っておりますので、これを一緒に同じ率にするということは、これは非常にむずかしい問題だと考えております。そこで、その成長率等につきましても、国民経済の成長率は六・五%、こういうふうに出ておりますが、この数字だけで、じゃ農林水産業もそれと同じように六・五%かと、こう見るわけにもいきませんので、実は農林水産業の成長率は三%だと、成長率で見ますれば低い見方をしております。それから鉱工業との関係でもそういうような関係になっております。これは鉱工業との均衡をとりたいという計画のもとに、またそういう政策を進めたいとは考えておりますが、この実態が御承知の農業生産でありますから、これを同じにするということは、実際問題として参らない、こう考えております。でありますので、均衡はとっていく方向には持っていくといたしましても、これを一致させるというわけには参りませんで、鉱工業の生産の拡大に伴って、農林水産業の生産あるいは生活水準等も向上させていきたい、そういうことで、経済五カ年計画とは別に、また農林水産業の五カ年計画というものを作りまして、その計画の線に沿うて予算措置その他政策も進めていくのが現状でございまして、お話の通り、その差を少くするということには、今出ておりません。

○江田三郎君 農林白書の中で、日本農業の問題点として、たしか五つの問題があげられておりましたけれども、あの中で一番大きい問題は、農業の所得水準が非常におくれておるということ、それだからして、あなたのこの間御説明になった基本政策でも、「他産業と均衡のとれた所得」ということを第一に置かれたのだろうと思うのです。そこで、そういうことを農林白書でうたい、また二、三日前の予算に関連しての説明でもうたっておられる以上は、もう少しはっきりわれわれをうなずかせるものがなければ、羊頭狗肉だと言われても仕方がないと思うのです。もちろん鉱工業と農林水産業とが、同じテンポで生産水準が上昇するものでないということは、これは常識だろうと思います。だからして、やはり産業構造の中において、第一次産業、第二次産業、第三次産業の就業構造がどうなるか、どういうのが進歩的な経済かということは、もう今までも言い古されたことでありますから、私はそんなことを言っているのじゃありませんが、しかし、このように、はっきりと鉱工業生産水準が八・二になるのに、農林生産水準は二・五の成長率しか示さぬということになるならば、それをどこかで補うものが出てこなければならないと思うのです。生産水準ではこういうことだけれども、しかし就業構造においてこういうふうに変ってくるのだ、あるいは国家支出においてこういうふうに変ってくるのだ、何か農民の消費水準が上るような手が打たれてこなければ、ここであなたがおっしゃられるようなことは、全く空文になってしまうのじゃないですか。その点はどうなんですか。もしあなたが、これとは別に農林水産業の方の長期計画をお持ちになっておるというその農林水産業の長期計画が、ここに総合的に示されておるところの成長率二・五というのよりさらに高いものをお持ちになっておるのならばよろしい、それならば私も話はわかると思いますが、一体どういうことなんです。

○国務大臣(赤城宗徳君) 就業構造とか何か方策を考えて、予算あるいは政策を打ち出しておるのか、こういうことでありますが、御承知の通り、農業の政策問題は長期にわたりがちであります。わたるような情勢であります。そうでありまするから、私どもといたしましても、長期計画のもとにおいて、たとえば、この間申し上げました土地の生産性といいますか、農業基盤の拡大強化というように、基盤を確立していくという点等につきましても、私どもの五カ年計画あるいは長期経済計画の線に沿うて、本年度の予算もそれだけの裏づけをしてきておる、こういうことであります。あるいはまた畑作の振興等により、あるいは畜産等とも結びつけて、これも農家所得の一つの基準とはなりますが、そういう点につきましても、たとえば牛乳の生産量をどれくらい見るかというような基準に従って、牛をどれくらいふやしていくか、それにつきましても、牛乳の生産量につきましては、やはりそれに対する消費の拡大というようなことを考えて、予算を提出いたしておるわけであります。あるいはその他生活水準の向上という点につきましても、技術加工面につきまして、それぞれの予算を上げているということも、総合的に今申し上げましたような計画に沿うて予算の裏づけをしているわけであります。今お話がありましたように、予算の裏づけでもあれば、まだ話はわかるということでありますが、予算といたしましては、この間申し上げましたように、相当程度の予算をことしは御審議を願って、その内容等につきましても、こういう計画の線に沿うて考えて、予算の裏づけをしているようなわけであります。

○江田三郎君 それじゃ一つも答えにならぬと思うのです。あなた方の政府で発表された長期計画に基いても、年成長率は二・五にしか見ていないわけなんです。農林省の方で、特に農林水産業の面において長期計画を立てられたと言われても、やはりこの企画庁で総合的にまとめられたこの数字のこの計画の一環で、それを上回ったものを、別にお持ちになっているのじゃないと思います。こういう計画の一環としてあなた方が組まれた予算というものは、今ここへ出されたものと私は違うと思うのです。その前に、あなた方はこういうような計画に基いて、農林省としての予算要求をなさったはずです。しかし、それと現実にこの政府提案としてここへ出たものとは、相当違ってくるわけなんです。しかも、かりにこの二・五の成長率として見たところで、今、日本農業の一番の問題点であるところの所得の低さという問題は、いよいよ較差を大きくしていくだけなんです。だから、さらに二・五が成長できるということだけじゃなしに、それをさらに補う何かがなかったならば、鉱工業なり農業なりあるいは一次産業、二次産業、三次産業という均衡は、いよいよもって農林白書で憂慮しているような方向へ進むだけなんでしょう。今のあなたのお答えじゃ答えになりませんよ。それをどうお考えになっているかということなんです。

○国務大臣(赤城宗徳君) もちろん五カ年経済計画の線に沿うて、私どもも農林省五カ年計画とかもっと長期の計画を立てているわけでございます。その成長率が違うじゃないかという御指摘かと思うのでありますが、その成長率に沿うように五カ年なら五カ年を、われわれは年次に分けまして、その年次に従ったような予算を実は出しているのでありますから、別にそれに沿わないということはないと私は考えております。

○江田三郎君 もしそういうふうにおっしゃるなら、この今出されたところの予算で、成長率二・五の方向へはっきりいき得るかどうかという具体的な裏づけができますか。私が言っているのは、かりに二・五できるとしたところで、この総合的な長期計画を照らし合せてみると、鉱工業の方が生産水準は八・二の成長率になっているのだ、あるいは国民の消費水準の一人当り平均は五・五伸びることになっているのだ、かりに二・五できるとしたところで、アンバランスはますますひどくなるじゃないか。しかもその二・五の計画というのは、実はあなた方くずしているじゃないかというのですけれども、あなた方の方で二・五でいくのだということならば――もっとも初年度をゼロにすればいくかもしれません。しかし、少くとも常識的に考えて、二・五の方向にいき得るのだというならば、私はこの予算に基いて、そういう具体的なものを出していただきたいと思う。自信があるなら出していただきたいと思います。

○国務大臣(赤城宗徳君) 成長率に従って年次計画を立て、それに従って予算を出しているというふうに先ほど申し上げたのでありますが、しからば予算のどこに二・五という成長率が出るかというこういうことでありますが、その二・五の農林水産業の総合的な成長率のもとに、たとえば土地の生産基盤を五カ年なら五カ年間にどれくらいにしておったらばそれにいくか、あるいはまたそのほかの生産面についてはどれくらいにいくか、こういうふうにこまかく分けて、その結果が成長率が二・五なら二・五、こういうふうにしてやるわけであります。

 なお、こまかいことで、もし私の話が不徹底で意味がわからぬということでありますならば、経済計画の方を担当しておりました官房長からよろしければ答弁さしたいと思います。

○江田三郎君 これはまあ予算委員会でないからいいのですけれども、予算委員会で今あなたのような答弁をしよったら、また政府は黒星ということになりますよ。てんでこの計画、大臣わかっていないじゃないですか。私は何べんも繰り返しておるように、この政府案の通り農林水産の生産水準が二・五上ったとしても、鉱工業とのアンバランスはますますひどくなっていくのじゃないか。そこで、それをそういう生産水準のアンバランスを何か補正する要素があるのか、たとえば就業構造が変ってくるのだ、あるいは国家支出というものが、財政支出というものが全然変ってくるのだ、だからしてこういう成長率の隔たりはあるけれども、ほかのことで埋め合していくというならわかりますけれども、そういう説明は一つもないのですよ。そうすると、農林白書の中での一番の問題点であるところの日本農業の所得の低さという問題は、解決つく方向じゃなしに、逆の方向へいっているのじゃないですか。これは何も事務当局の答えを待たぬでも、これこそ私は大臣の基本的な問題として、大臣が把握されておられなきゃならぬ問題だと思うのです。

○国務大臣(赤城宗徳君) 農林白書に他産業との所得水準に非常に差が出てきておる、こういうことを指摘しておることは事実でありますが、そうしてまた、それをなくするようにしたいという政策を考えておることもその通りであります。しかし、農林直書は現実を分析したものでありまして、その較差そのものを直ちに直せるというわけにはいきませんので、較差そのものはあると思います。それを全部補う何かほかの要素を持っておるか持っていないかということでありますが、それを全部補う要素というものは持っておりませんので、国民経済の成長率とか、他産業との生活水準、あるいは消費水準の向上と同時に、農林水産業としての生活水準とか、あるいは消費水準を上げていく、こういう目標のもとに政策といたしましても、予算としてもこれを提出しておる、こういう実態といいますか、事実であります。

○江田三郎君 農林白書は問題点を指摘しただけだ、これは無責任な答えだと思うので、問題点を指摘しただけでそれは終るのじゃないと思うのです。いやしくも農林省が問題点を指摘した以上は、その問題点解決に向って進まなければならぬというのは、これは常識でしょう。現にあなた方はあのあとで、農林基本政策というのでしたか、名前は私忘れましたけれども、相当こまかい内容のものを発表なさっておるじゃありませんか。そうすると、まず第一にこの農林白書を一ぺん出して、そうして、何か農民に大きな期待を持たしておいてそうしてその次の基本政策では、それをちょっとぼやかしてここへ持ってきて、しかしまだ失望し切るまでに至らぬようにしておいて、今度になってくると、またそれとは離れたものになってきているじゃないですか。これは私は事務当局の問題じゃないと思うのです。農政を担当されるあなたの基本的な問題であると思うのです。なんぼあなたが説明されたところで、この生産水準にこんな大きな開きがきて、二・五の生産水準で、そうして国民の消費水準が五・五上る、この問題点からいえば、これを他産業に追いつかさなければならぬのに、いよいよ離されるようなこういう数字を、一方において総合計画としてお出しになっておいて、説明のしょうがないじゃありませんか。

○国務大臣(赤城宗徳君) 経済計画によりますと、お話のように国民経済の成長卒は鉱工業においては八・二、農林水産業においては二・五、こういうことになっております。私どもの初年度におきましては、農林水産業の成長率を三%と、こう見ておるのでありますが、また別の方の一人当りの所得水準という計画におきましては、五カ年間に農業の方においては一二五、工業の方においては一二三、こういうふうに計画を見て、それに沿うて予算も出しておると、こういうことになっております。

○江田三郎君これ、やはり大臣ちょっと無理ですわ。だから、まあ予算委員会じゃないのですから、何も大臣いじめてどうしようというのじゃありませんから、私事務当局でよろしいから、この次にもう一ぺん質問しますから、事務当局にちゃんとした用意を持ってきてもらいたいと思う。大臣の不得手な問題を大臣とやったってしょうがないのです。事務当局の方の責任者に質問しましょう。だからきょうはちょっとやめておきます。どうせ各般にわたるのですし、私は、ここから出発しないと次の質問が出ないから、この次にやります。

○政府委員(齋藤誠君) 今、江田委員から御質問のありました点につきまして大臣から全体の考え方を申し上げられたんですが、それになお補足して事実の推移だけにつきまして御説明申し上げておきたいと思います。御指摘のように長期経済計画におきましては、農林業と他産業部門との発展、生産性の向上、並びに所得につきまして、可及的に均衡をはかるという考慮のもとに計画を立てた次第でありますが、御指摘のありましたように、農業と鉱工業とにおきましては、おのずから業種の性格上成長率に差があることは当然でございます。従いまして、鉱工業におきましては八・二、農業につきましては基準年次に対しては年成長・率三%、三十一年度の実績に対しては二・五%、こういう成長率を一応出して、三十七年度における一応経済における目標といたしておるのでございます。この数字自身につきましては、従来の日本における農業の成長率から見まして、過去における成長率から見まして、また海外における農業の成長率から見ましても、相当大きな成長率であるわけであります。農業だけで見ますと三・三%でございますけれども、これ自身が相当大きな成長率になっております。しかし、鉱工業におきましてはその差が出てきておりますけれども、問題になっております所得の均衡を考えます場合におきましては、当然就業者一人当りの所得について、どういうような推移になるかという点が問題になると思いますが、この点につきましては、一応経済計画におきまして農業における就業人口が、五年後におきましては八十五万に減るという計画――基準年次に対して八十五万に減るという見通しを立っておりますので、その面におきましては、一人当り所得につきましては、さきに大臣からお話がありましたように、鉱工業が一二三%の伸びに対して、農業の方は一二五%ということになっておるわけであります。従って、その面におきましては、若干ではありますけれども、現在の所得較差について改善の目標を立てたということがいえるわけであります。ただ、経済計画の性格でございますけれども、今回の長期経済計画におきましては、年次別計画ということよりも五カ年間の三十七年度における日本の歩むべき望ましい姿を描いて、その姿に達成する一つの目標を産業別に掲げて、この目標に照らして、各年度の経済情勢等をにらみ合せながら、毎年度それを一つの基準として計画を立てる、こういうことになっておりまして、従来の経済計画の当初から五カ年計画の年次別計画を立てるという形のものに、今回はなっていないのでございます。従いまして、経済計画におきましては、今申しましたそれぞれの部門における目標を達成するために、基本的な方向をいかにすべきであるか。あるいはその目標を達成するための基本的な施策はいかにあるべきであるかという対策を掲げておるにすぎないのであります。農業の方についていいますれば、その目標を達成するために、資本装備の高度化をはかって、大いに土地の、農地の開発、改良をし、あるいは機械、家畜の導入をはかるとか、あるいは技術指導の体制を整えるとか、あるいは流通の改善をはかるべきだ、こういう対策を掲げておるわけでございます。従って、その対策の方向に沿って、農林省の三十三年度予算につきましても考慮いたしていこう、こういうのが五カ年計画と予算の一般的関係と、われわれは了承いたします。

○江田三郎君 時間がありますか。

○国務大臣(赤城宗徳君) 私はちょっと失礼さしていただきます。

○委員長(重政庸徳君) 速記をとめて。
   〔速記中止〕
○委員長(重政庸徳君) 速記をつけて。
 この件については、本日はこの程度にいたします。
 本日は、これをもって散会いたします。


1958/02/11

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