2003/01/31

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第156回国会における小泉内閣総理大臣施政方針演説


(はじめに)
 天皇陛下におかれましては御病気御療養中であります。陛下の1日も早い御快癒を、国民と共に心からお祈り申し上げます。

 内閣総理大臣として、今私に与えられた職責は、我が国の経済と社会の再生です。小泉内閣として、聖域なき構造改革を推進するとの考えの下、今後の国政に当たる基本方針を申し述べ、国民の皆様の御理解と御協力を得たいと思います。

 日本経済は、世界的規模での社会経済変動の中、単なる景気循環ではなく、複合的な構造要因による停滞に直面しています。不良債権や財政赤字など「負の遺産」を抱え、戦後経験したことのないデフレ状態が継続し、経済活動と国民生活に大きな影響を与えています。大胆な構造改革を進め、21世紀にふさわしい仕組みを作ることによってこそ、こうした状況を抜け出し、日本の再生と発展が可能となります。我が国の経済・社会に残る非効率な部分を取り除き、技術革新や新事業への積極的な挑戦を生む基盤を築く。そして国民が安んじて将来を設計できる環境を整備する。これら多方面にわたる課題に一つ一つ着実に取り組んでいます。改革なくして成長なし、との路線を推進してまいります。

 改革は途半ばにあり、成果が明確に現れるまでには、いまだしばらく時間が必要です。我が国には、高い技術力、豊富な個人資産、社会の安定など経済発展を支える大きな基盤が存在します。厳しい環境の中でも、多くの人々や企業そして地域が前向きに挑戦を続けています。改革を進め、こうした力を1日も早く顕在化させることにより、我が国の発展につなげてまいります。

 今国会には、動き出した改革路線を更に確固たる軌道に乗せるための関連法案を提出いたします。

(経済再生に向けた取組)
 日本経済を再生するため、あらゆる政策手段を動員する必要があり、歳出、税制、金融、規制の4つの改革を加速させます。政府は日本銀行と一体となって、デフレ克服に取り組みます。

 平成15年度予算は、42兆円の税収に対して36兆円に上る多額の国債発行に依存せざるを得ない状況の中、歳出の構造改革を進め、一般歳出を実質的に平成14年度の水準以下に抑制しました。その中で、セーフティネットの充実に配慮し、民間活力を引き出し雇用の創出につながる分野や、科学技術など将来の発展の基盤となる分野に大胆に重点配分しました。また、道路特定財源や義務教育費国庫負担金の見直しなどを進めました。

 平成15年度予算の早期成立に努め、平成14年度補正予算と併せ、切れ目なく現下の情勢に対応してまいります。

 2010年代初頭には、過去の借金の元利払い以外の歳出は新たな借金に頼らない財政構造を目指します。

 税制改革については、「あるべき税制」の構築に向け、昨年1月より議論を重ね、多岐にわたる改正を一体として行うこととしました。特に、1400兆円の個人金融資産を流動化する具体策として、相続と贈与を通じた新たな制度の下で贈与時の非課税枠を設け、住宅取得に充てる贈与については3500万円まで非課税措置を講じます。この措置は、本年1月1日に遡って適用することとしています。また、土地の有効利用を促進するため、土地流通税を大幅に軽減します。平成15年度は、実質1兆8000億円の減税を先行させ、多年度で税収をバランスさせます。

 不良債権問題に全力で取り組み、平成16年度に終結させます。「金融再生プログラム」を着実に実施し、強固な金融システムを構築してまいります。金融危機は起こさせません。

 産業再生機構を設立するとともに、産業再生法を抜本的に改正し、民間の叡智と活力を最大限にいかしながら、産業再編や事業の早期再生に向けた取組を強化します。

 離職者に対する早期再就職の支援を充実し、雇用保険制度を見直すとともに、地域の創意工夫による雇用創出策を拡充するなどセーフティネットを強化します。求人と求職を的確に結び付け、労働者が多様な働き方を選択できるよう、制度を見直します。

 中小企業の金融対策に万全を期します。技術力のある中小企業による創業や新事業への挑戦に対して、資金確保、技術開発、人材育成等、支援策を強化します。

 「貯蓄から投資へ」の流れを加速するため、金融・証券税制を大幅に軽減・簡素化します。身近な金融機関などで証券を購入できるようにし、監査を充実・強化することにより、個人投資家にとって参加しやすく、信頼できる証券市場とする改革を進めます。

 公正取引委員会の体制を拡充するとともに4月から内閣府の外局とし、公正かつ自由な経済社会の鍵となる競争政策を強化します。

 全国どこでも司法を身近に利用できる社会を実現するため、総合的かつ集中的に司法制度改革を進めます。第1審が2年以内に終わることを目指して裁判を迅速化するための法案など、改革関連法案を提出します。

(「官から民へ」「国から地方へ」)
 私は、行財政改革で最も重要な課題は、郵貯、年金を財源とする財政投融資を通じて特殊法人が事業を行う公的部門の改革であると主張してまいりました。これらの制度については、民業を圧迫し、また楽観的な需要予測で国民負担を将来に先送りするなど、弊害が明らかになってきています。民間でできることは民間に委ねることが基本です。この方針の下、郵政事業、財政投融資、特殊法人の改革を一体のものとしてとらえ、簡素で効率的な質の高い政府に向け改革を進めます。

 4月から日本郵政公社が発足します。民間的な経営を取り入れ、質の高いサービスが提供されるものと考えます。民間の郵便事業参入も始まります。郵政事業は実質的な民営化の第一歩を踏み出しました。国民的議論を踏まえ、更に改革を進めてまいります。

 財政投融資については、郵貯、年金の預託の義務を既に廃止し、自ら財源を調達することとなりました。その規模も圧縮し、平成15年度当初計画の規模は、ピーク時である平成8年度のおよそ4割減としました。

 163の特殊法人等のうち、石油公団の廃止など、118法人について既に改革に着手しました。事業を徹底して見直した上で、廃止、民営化、又は独立行政法人化し、透明性を高め、評価を厳正に行うことにより、新たな時代にふさわしい組織へと転換してまいります。住宅金融公庫を廃止することとし、新規貸出しを段階的に縮小するとの方針を示した結果、利用しやすい民間の住宅ローンが相次いで提供されています。

 道路関係四公団の民営化については、民営化推進委員会の意見を基本的に尊重するとの方針の下、建設コストを引き下げ、新会社の造る道路と税金で造る道路を区分するなど、改革の具体化を図ってまいります。

 政府系金融機関は、当分の間その活用を図り、中小企業等に対する円滑な金融を確保します。国として必要な機能を厳選し、民間金融機能の正常化の状況を見ながら、大胆に統合集約化を進めてまいります。

 このような公的部門の改革は、財政構造、経済構造、金融システムの改革につながり、将来大きな果実を生むものと考えています。

 公務員が国民全体の奉仕者として、志をもって行政に専念できる環境を整備するため、公務員制度改革の具体化を進めます。幹部職員の退職年齢の引上げに政府一体となって取り組み、いわゆる「天下り」の弊害を是正します。国家公務員の退職手当について、民間企業の状況を踏まえ支給水準を引き下げます。

 国と地方の関係については、平成15年度予算において、改革の芽を出しました。「地方にできることは地方に委ねる」との原則に基づき、国庫補助負担金、交付税、税源移譲を含む税源配分について三位一体の改革案を、6月を目途に取りまとめます。

 市町村合併を更に推進してまいります。

(政治への信頼)
 政治に対する国民の信頼は改革の原点です。あっせん収賄罪に問われた現職国会議員の有罪判決や、公職選挙法違反に問われた献金事件といった、一連の政治資金をめぐる問題を重く受け止めています。先の通常国会で改正あっせん利得処罰法や官製談合防止法が成立したところであり、法を遵守することはもとより、国民の信頼を裏切ることのないよう、政治家一人ひとりが常に襟を正さなければなりません。公務員の政治的中立の確保についても、厳しい姿勢で臨んでまいります。

(潜在力をいかした挑戦)
 小柴さん、田中さんのノーベル賞受賞は、日本人を勇気づける素晴らしいことでした。昨年、日本人の業績が世界で高く評価されたのは、ノーベル賞だけではありません。カーボン・ナノチューブを発見した飯島澄男さん、青色発光ダイオードを初めて実用化した中村修二さんは、ノーベル賞の登竜門とも言われる米国のベンジャミン・フランクリン・メダルを受賞しました。中西香爾さんは、生物活性物質の研究で、アラブのノーベル賞と言われるキングファイサル国際賞の栄誉に輝きました。建築家の安藤忠雄さんは、米国建築家協会の最高賞である金メダルを授与されました。

 科学や技術の分野だけではありません。輸入が急増する厳しい経営環境の中、タオル産地今治市の企業3社は、商品企画力を高く評価され、米国の国際展示会でグランプリの栄誉を得ました。アニメ映画「千と千尋の神隠し」は、芸術性が世界で高く評価され、ベルリン国際映画祭の最優秀作品賞や、ニュー・ヨーク映画批評家協会のアニメ部門最優秀作品賞を受賞しています。今井千恵さんと谷口郁子さんの2人の日本人女性が、世界女性起業家賞に輝きました。日本は高く評価されています。

 科学技術、バイオテクノロジー、知的財産、IT、都市再生、構造改革特区など日本再生の鍵を握る分野について、政府を挙げて取り組み、政策の方向を示してきました。様々な分野での挑戦をしっかりと後押ししてまいります。

(科学技術と環境)
 「科学技術創造立国」の実現に向け、平成15年度の一般歳出を厳しく抑制する中で、対前年度比3.9%増の科学技術振興予算を措置し、遺伝子レベルで個人個人にあった予防や治療を可能にする研究開発などを、重点的に支援してまいります。また、1兆2000億円に上る研究開発・投資減税を行います。

 新たな技術への支援は、新たな産業の振興につながります。バイオベンチャー企業は急増しており、昨年までに300社を超えました。イネゲノムの解読は、昨年12月、日本の主導により終了しました。官民挙げてバイオテクノロジーの発展に取り組んでまいります。

 特許審査の迅速化、特許をめぐる裁判制度の改革、模倣品・海賊版対策の強化を行い、知的財産立国を目指します。

 地球温暖化への対応には一刻の猶予も許されません。国、地方公共団体、事業者、国民それぞれが、「脱温暖化社会」への構造改革に取り組む必要があります。「環境と経済の両立」が鍵です。科学技術の活用を進め、世界の先端を行く環境産業を振興します。

 二酸化炭素を吸収する多様で健全な森林の育成を進めます。「緑の雇用」を推進し、雇用創出と森林整備の担い手の確保を図ります。

 京都議定書の早期発効とすべての国が参加する共通ルールの構築に最大限努力します。

 平成15年度中には、一般公用車のうち7割を低公害車とし、平成16年度までにはすべてを低公害車にします。また、昨年、世界で初めて市販された燃料電池車を公用車として導入しました。規制を総点検し、燃料電池車の普及拡大を後押しします。平成17年から、ディーゼル自動車について、世界一厳しい排出ガス規制を実施します。同時に、次世代の低公害車や燃料などの開発と普及を支援します。

 ゴミゼロ社会の実現に、就任以来取り組んでまいりました。食品、建設、自動車など各種のリサイクルの仕組みは既に整備しました。今後は、循環型社会形成への道筋を示すとともに、ゴミの不法投棄の一掃に向けて制度を整備します。年間350万台が廃棄されているパソコン処理の仕組みを合理化するなど、廃棄物の処理やリサイクルを一層促進します。身近な取組として、中央省庁の食堂で生ゴミのリサイクルを進めています。トウモロコシから作る食器など環境にやさしいバイオマス製品を、政府を始め公的機関で導入し、国民の身近な生活へと広げてまいります。

(日本の魅力再生)
 我が国には、歴史に根ざした文化や伝統、優れた人材や企業が各地にあります。地域が持つ潜在力や魅力を引き出し、日本を再構築します。

 14の都市再生プロジェクトを推進するとともに、44の都市再生緊急整備地域において、優良な民間都市開発を支援します。大都市だけではありません。北海道の稚内では、ロシア・サハリン州との交流を軸にした国際観光・交流都市づくり、沖縄の石垣では港を中心にしたまちづくりが進んでいます。四国の松山では、小説「坂の上の雲」がまちづくりのテーマです。地域の知恵と個性をいかした取組を支援してまいります。

 各地域で多様な形のタウンミーティングを開催し、国民との活発な対話を継続します。

 4月には構造改革特区第1号が誕生します。地域や民間から600を超える第2次提案がありました。制度を一層充実し、教育分野への株式会社参入を含め、これまで規制されていた市場への民間参入の実現を図ります。特区をてこに全国規模での規制改革を進めます。

 観光の振興に政府を挙げて取り組みます。現在日本からの海外旅行者が年間約1600万人を超えているのに対し、日本を訪れる外国人旅行者は約500万人にとどまっています。2010年にこれを倍増させることを目標とします。

 海外から日本への直接投資は、新しい技術や革新的な経営をもたらし、雇用機会の増大にもつながります。脅威として受け止めるのではなく、日本を外国企業にとって魅力ある進出先とするための施策を講じ、5年後には日本への投資残高の倍増を目指します。

(人の育成)
 英国の作家スマイルズの著書「自助論」は、明治の多くの青年たちの心をとらえたと言われます。自ら志を立て、懸命に学問を修め、勤勉努力した若者たちが主役となって近代国家日本の基礎が築かれました。新しい時代を切り拓くのは、いつの時代でも、自助自律の精神の下、他者への思いやりと高い志を持つ青年たちです。人こそ改革の原動力です。

 アフリカのマラウイで数学や物理の教育を行う青年や、メキシコ南部の村で保健指導に従事する女性など、日本とは文化も価値観も異なる厳しい環境で、現在も約2400名の青年海外協力隊員が開発途上国の国づくりのために活躍しています。

 勇気を持って新しい時代に立ち向かう力を培うため、画一と受け身から自立と創造へと、教育の在り方を大きく転換してまいります。教育基本法の見直しについては、国民的な議論を踏まえ、しっかりと取り組んでまいります。確かな学力と豊かな心の育成を目指した初等中等教育の改革、「知」の世紀を担うにふさわしい大学改革を進めてまいります。

 「必ず邑(むら)に不学の戸なく、家に不学の人なからしめんことを期す。」明治5年の太政官布告は、すべての国民に教育の機会を保証すると宣言しました。現在、意欲があれば自らの意志と責任で誰でも教育を受けることができます。一方、不登校児童の増加など新しい状況が生じています。時代にふさわしい多様な教育機会の整備に努めてまいります。明日を担う人材が勉学の機会を失うことがないよう、奨学金制度の充実に努めます。世界に開かれた最高水準の教育研究を行う科学技術大学院大学の設立構想を、沖縄で推進します。

(暮らしの構造改革)
 昭和30年代には洗濯機、冷蔵庫、白黒テレビ、40年代にはカー、クーラー、カラーテレビが新しい生活を象徴する「三種の神器」と言われました。「欲しいものが無い」と言われる現在でも、カメラ付携帯電話や薄型テレビ、食器洗い機など、新しい時代をとらえた商品の売れ行きは伸びています。自由な時間を自分を磨くためやボランティア活動に使う人は、着実に増えています。暮らしの質を高めたいという国民の意欲は今でも健在です。

 暮らしの構造改革を進め、国民が安心して将来を設計することのできる社会を構築してまいります。

 新たな職業分野への進出など女性の挑戦を支援し、先進諸国に遜色のない男女共同参画社会の形成を進めます。

 子育てと仕事の両立を支援するため、平成16年度までに更に10万人の受入児童の増加を目指し、「待機児童ゼロ作戦」を引き続き推進します。小学生のための放課後児童クラブや、子育て中の親が集まって相談や情報交換ができる場を整備します。少子化の流れを変えるため、家庭・地域・企業が一体となって子育てを支援するための法案を提出します。

 年金制度については、平成16年度に行う改革の検討に向けて、昨年、方向性と論点を取りまとめました。医療制度については、国民皆保険を守り、将来にわたり良質で効率的な医療を国民が享受できるよう、先般、大幅な改革を行いました。持続可能な社会保障制度を構築するため、給付と負担の在り方について正面から取り上げ、国民的な開かれた議論の下に、改革を継続してまいります。

 我が国の高速インターネットの利用料金は、3年間で月額8000円から2500円に下がり、今や世界で最も低い水準にあります。高速インターネットや、携帯電話の普及により、様々な情報提供や、遠隔医療・教育など暮らしに密着したサービスが現れ、IT革命は国民生活に着実に浸透しつつあります。利用者の視点を重視した新IT戦略を策定し、2005年に世界最先端のIT国家を実現します。行政手続を1つの窓口で済ませることができる、身近で便利な電子政府・電子自治体や、家庭のIT基盤となる放送のデジタル化を推進します。

 IT社会の基盤となる法制として、個人情報保護関連法案を修正の上、再提出し、成立を期します。

 原子力発電の安全確保に全力を挙げて取り組み、信頼回復に努めます。また、エネルギー安定供給の確保に的確に対応してまいります。

 食品安全基本法を制定するとともに、安全性を科学的に評価する食品安全委員会を新設するなど、緊急事態に対処する体制を整備し、食の安全確保に万全を期してまいります。

 農業・農村の改革を加速するため、米政策の改革と農業経営の規模拡大や法人化を推進し、「意欲と能力のある経営体」を集中的に後押しします。自然に恵まれた農山漁村と都市との交流を進めます。

 凶悪な事件が多発し、国民の多くが治安の悪化に不安を抱いている状況を改善し、「世界一安全な国」の復活を目指します。不法滞在の外国人による組織的犯罪やハイテク犯罪などへの対策を強化します。大規模地震等への消防・防災対策を強力に推進するとともに、被災者への支援や災害復旧・復興対策に万全を期します。

 昨年の交通事故による死者数は、過去最悪だった昭和45年の約1万7000人から半減しました。今後10年間で交通事故死者を更に半減させ、道路交通に関して世界で一番安全な国とすることを目指します。

 弱い立場にある人権侵害の被害者を実効的に救済する、新たな人権救済制度を整備します。

 建築物や交通機関のみならず、制度や意識も含めて社会のバリアフリー化を促進し、年齢や障害の有無にかかわらず国民が安心して生活できる社会を築いてまいります。

(危機管理と国際社会安定の実現に向けた取組)
 国際社会の一員として、テロの防止・根絶に引き続き取り組みます。武装不審船、大規模テロを含む国家の緊急事態への対処態勢を充実し、継続審査となっている有事関連法案の今国会における成立を期します。安全保障・危機管理に必要な情報収集能力を強化するため、我が国初となる情報収集衛星の今年度末打ち上げに向け、最終の準備を進めます。

 国際平和への決意を具体的な行動に移すため、和平交渉の促進、難民支援や対人地雷除去、インフラの復旧・整備、教育支援など「平和の定着と国づくり」に積極的に取り組みます。昨年1月に東京で開催したアフガニスタン復興支援国際会議は、国際社会でも高い評価を得ました。今後も、スリ・ランカや、インドネシアのアチェなど、様々な地域で平和な国づくりに貢献してまいります。

(外交)
 我が国の平和と安全、そして繁栄を確保するため、各国首脳との信頼関係を築き、国際社会が直面する課題に主体的に取り組んでまいります。我が国の文化と伝統を積極的に紹介し、文化や智の交流を進め、深い相互理解と幅広い協力関係を構築します。

 北朝鮮については、日朝平壌宣言を踏まえ、国交正常化に取り組んでまいります。我が国は、米韓両国と緊密に連携し、また、中国、ロシアや国際機関とも協力しつつ、北朝鮮に対して、核兵器不拡散条約の遵守を求めるとともに、核兵器開発の放棄を強く求めてまいります。拉致被害者並びに御家族の立場を踏まえ、拉致問題の全面解決に最大限努力します。国際社会の責任ある一員となることが北朝鮮の利益に最もかなう選択であることを、粘り強く説得していく考えです。

 私は、先般、日露関係に新たな息吹を吹き込みたいとの思いでロシアを訪問しました。日露行動計画に合意し、プーチン大統領との信頼関係を深めることができました。我が国固有の領土である四島の帰属問題の解決による平和条約の締結を目指し、民主主義と市場経済という2つの基本的な価値を共有する国として、政治、経済、文化など幅広い分野で、関係の発展に取り組みます。

 イラクの大量破壊兵器をめぐる問題は国際社会全体への脅威です。イラクが査察に全面的かつ積極的に協力し、大量破壊兵器の廃棄を始め関連する国連安全保障理事会の決議を履行することが重要であり、我が国として主体的な外交努力を継続してまいります。

 本年は、ペリー提督率いる米国の黒船艦隊が浦賀に来航してから150年目に当たります。同盟国である米国との関係は、今後も我が国の平和と繁栄の基礎であり、日米安保体制の信頼性の向上に努めるとともに、政治・経済を始め多岐にわたる分野において緊密な連携や対話を続け、強固な日米関係を構築してまいります。また、普天間飛行場の移設・返還を含め、沖縄に関する特別行動委員会最終報告の実施に取り組み、沖縄県民の負担軽減に努力するとともに、地域の特性をいかし、沖縄の経済的自立を支援します。

 ワールドカップ・サッカー大会の共催成功で、より緊密な隣国となった韓国との未来志向の友好協力関係を一層発展させていくため、2月に発足する盧武鉉(ノムヒョン)新政権と密接に協力してまいります。

 本年は、日中平和友好条約締結25周年に当たります。両国国民の理解と信頼を基礎に、アジア地域ひいては世界の平和・安定と繁栄の実現のため、中国との幅広い分野における協力関係を一層推進します。

 日本とASEAN関係の新時代に向けた昨年1月の我が国の提案は、着実に具体化されてきました。交流年の事業も既に開始されています。年末に予定されている、我が国で初の日本ASEAN特別首脳会議などを通じ、協力関係を発展させてまいります。

 国際社会での影響力を一層増しつつある欧州とは、広範な分野にわたって、より緊密な関係を築きます。

 貿易自由化を進め、途上国を含めたすべての国が利益を得られる多角的貿易体制を強化するため、WTO新ラウンド交渉を推進します。

 メキシコや、ASEAN、韓国との経済連携に積極的に取り組みます。

 3月に関西で開催される世界水フォーラム、6月のエヴィアン・サミット、9月末に東京で開催予定の第3回アフリカ開発会議へと続く一連の国際会議を通じ、持続可能な開発、途上国の貧困問題・感染症対策など重要課題の解決に主体的な役割を果たしてまいります。

 ODAについては、効率化、透明性の向上に努めるとともに、アジアの安定と成長、紛争後の平和の定着、環境を始めとする人間の安全保障分野に重点化するなど、戦略的に活用します。

 科学的観点に立った水産資源の持続的利用を基本に、水産外交を展開いたします。

(むすび)
 私が初めて当選してから、30年が経ちました。初当選直後に第4次中東戦争が勃発し、我が国は、1年間で物価が20%以上も上昇する狂乱物価の時代を迎えました。インフレの抑制が最大の政治課題でした。

 2度の石油ショック、そして円高ショックと、我が国はこの30年間、幾たびか、経済と国民生活の根幹を揺るがす危機に見舞われました。しかし、国を挙げて省エネ化を進めるとともに、企業においては、徹底した省力化投資と製品の高付加価値化による国際競争力の強化に取り組み、危機をバネにして、より強靱な経済社会を作り上げてきました。

 我が国は、構造的な停滞の中で、戦後初めて、デフレという状況に直面しています。今こそ、幾多の危機を克服してきた経験と、これを支えた日本の力を思い起こす時です。

 大事なことは失敗しないことではなく、失敗を次の成功にいかすことです。人生で大切なことは、挫折してもくじけず、また立ち上がることだと思います。

 明治維新の激動期も敗戦後の混乱期も、先人たちは、難局に敢然と立ち向かって今日の日本を築き上げてきました。悲観論から新しい挑戦は生まれません。厳しい経済状況下にあるとはいえ、今、私たちには、当時よりはるかに豊かな蓄積と、そこから生まれる大きな可能性があります。

 歴史に学び、勇気と希望を持って、新しい日本を作り上げようではありませんか。

 国民並びに議員各位の御理解と御協力を心からお願い申し上げます。


2003/01/31

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