2001/10/02

戻るホーム目次


小泉総理の所信表明演説に対する代表質問

民主党・新緑風会 角田 義一

 私は、民主党・新緑風会を代表し、小泉総理の所信表明演説に対し、総理及び関係大臣に質問を行います。

第一部:テロ、世界同時不況。21世紀初頭の危機を乗り切れ。

(米国同時多発テロ)

 質問に先立ちまして、去る九月十一日にニューヨーク、ワシントン及びピッツバーグでテロリストが起こした悲惨きわまりない同時多発テロにより犠牲になられた方々に深い哀悼の意を表します。未曾有の大惨事となったことに対し、深い悲しみと憤りを禁じ得ません。被害に遭われた方々及び御家族を初め関係者の方々、さらに米国民に対し、心からお見舞いを申し上げます。

 テロリズムは、人道と正義に反する卑劣きわまりないものであり、どんな理由をもってしても正当化できません。許しがたい行為であります。私たちは、世界が一致して暴力に屈することなく、テロに対して毅然として立ち向かうべきだと考えております。

 小泉総理は、先月二十五日、ホワイトハウスで米国のブッシュ大統領と会談を行いました。両首脳は、米同時多発テロ事件について、テロを根絶し、破壊する目標のため両国が連帯して取り組み、テロ組織の資金源を断ち切ることに全力を挙げることで一致しました。これを受けて小泉総理は、米軍などの軍事行動への自衛隊の後方支援を可能にする新規法案の早期成立に努力する考えを表明されたと聞いております。

 これにより、日本が米国と共同してテロと闘うこと、後方支援法を制定することは、アメリカとの公約となりました。このことは、我が国の将来にとって重大な意味を負うものとして、私は深刻、真剣に受けとめております。

 特にこの際強調されるべきことは、テロとの闘いは、あくまでも法と正義の名のもとに行うべきであって、報復であってはならないということであります。報復は報復を招くだけであります。私は、ブッシュ大統領がアメリカの行動をクルセード、すなわち十字軍の聖戦であると発言し、これに対して聖職者会合の側が、アメリカが攻撃すればジハード、聖戦を発動すると決定していることに世界を未曾有の混乱に陥れかねない危険を感じるのであります。こうした、まさに文明の衝突ともいうべき事態は絶対に避けなくてはなりません。その危険は全くないと断言できるのか、総理の御認識を伺います。

 現在、アメリカはもちろん世界各国に、そしてまた我が国内にも、今回のテロに対してアメリカが軍事行動をとるのは当然であるといった風潮が横溢していますが、テロの首謀者、その組織、その支援国を攻撃することは、慎重な上にも慎重でなければなりません。我が国がとるべき対応も、またしかりであります。なぜなら、軍事行動の結果の責任をとらされるのは、アメリカ一国だけではなく世界のすべての国であり、アメリカ支援を決定した日本政府はもとより、日本国民であるからであります。

 小泉総理、総理が真摯に平和国家日本の役割、対米同盟国日本の役割を考えるなら、こうした基本姿勢をしっかりと踏まえて我が国の認識をブッシュ大統領に直言すべきでありました。ところが、さきの訪米では、単に軍事行動の支援表明に終わってしまったのではないかと危惧いたします。大統領との会談内容を国民に丁寧に説明する責務があなたにあると思います。

 御承知のとおり、国連憲章を具体化したものとして、一九七〇年に国連総会で決議され、国連加盟国が従うべき行動基準ともいうべき友好関係原則宣言は、国は、武力の行使を伴う復仇を慎む義務を有するとしております。いわゆる俗に言うあだ討ちを明確に禁止しています。

 今回の国際テロは、伝統的な意味での戦争ではありません。かといって、私人による犯罪行為とみなすには軽過ぎます。極めて政治性の高い、高度に組織的、集団的な無差別暴力行為であって、その意味で人道に対する罪を構成する行為であると私どもは考えます。

 我々は、現在まで、このような行為に対する確立された対抗措置を形成し得ないままで来ましたけれども、少なくとも今我々がとるべき対抗措置は、一国の単独行動によってではなく、国際社会の協調行動、すなわち国連を中心とした集団安全保障の枠組みを基礎にした対抗措置であるべきであります。したがって、国連中心主義を標榜する我が国としては、アメリカの意向はどうであれ、国連に働きかけて、九月十二日の安保理決議一三六八をさらに具体化する決議を行うよう外交努力を展開すべきであります。しかし、その形跡は全く見られません。

 特に、国際社会の協調行動をとる上で中国の存在は大きいものがあります。しかし、靖国・教科書問題で対中国関係は冷え切っています。今回の事態に対応するについて、中国政府やあるいは韓国政府と対話を持ったことがあるんですか。もし対話が持てないのであれば、事態をここまでこじらせてしまい、それを放置してきた総理、外務大臣の責任は極めて重いと言わざるを得ません。

 もし国際的な協調枠組みを軽視して、日本の自衛隊が、後方支援とはいえ、遠く海外に派遣されるさまを中国や韓国の民衆はどのような眼で見るのか、そこまで総理、外務大臣はきちっとお考えになって対処しているのか、お伺いを申し上げます。

 この際、私は次のことを明確にしていただきたい。
 今般、政府が基本姿勢を固めるに当たって国会を軽視していることは、極めて遺憾であります。総理が七項目の当面の措置を記者発表した九月十九日には、本院の予算委員会が開催されております。この委員会では、総理が数時間後に記者発表することになった七項目の内容には一切触れておりません。そして、今日なお七項目について御説明がありません。国会軽視も甚だしいものであり、民主主義の手続を踏みにじるものではありませんか。反省を求めるとともに、その経緯を説明願いたい。

 テロとはいっても、今回の事件は、被害の規模からして、従来の域をはるかに超えるものであります。一番の当事者である米国が「戦争」と称し、自衛権行使の正当性を主張しています。

 憲法で集団的自衛権の行使を認めていない日本は、米国の自衛のための戦争に直接的に加わることはできません。政府はどのような根拠に基づいて自衛隊派遣を正当化されようとするのか、その基本的な原理と法的根拠について、総理から納得のいく説明をいただきたい。

 さらに、新法はいざ知らず、自衛隊護衛艦のインド洋への先行派遣の動きが伝えられるなど、勇み足と思われる面もあります。護衛艦のインド洋派遣は、防衛庁設置法、「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究」に基づくものだと伺っております。自衛隊の後方支援を認める新法が成立をすれば、インド洋でそのまま、米軍への燃料などの輸送、補給、米軍との情報交換を行う予定だとも言われております。

 そもそも、護衛艦等の先行派遣は、現行法が定める調査、研究という名目で説明がつく事態ですか。先日、横須賀を母港とする米空母キティーホークを自衛隊の護衛艦が近海まで護衛したときにもこの規定が使われたと言われております。その根拠をはっきりと国民に示していただきたい。総理から説明を求めます。

 民主党は、二年前の一九九九年、安全保障政策において、いち早く、テロリズムやゲリラ的活動などの新たな脅威に、日本が原則として単独でも対処できる体制を早急に整備することを提言しています。

 我が国は、テロ資金供与防止条約、爆弾テロ防止条約もいまだ批准せず、来年の通常国会にテロ防止関連法案を提出するという悠長な話が聞こえてきますが、海外での行動ばかりに目が行き、国内のテロ対策は後手後手になっている印象が否めません。テロ・ゲリラ対策強化に向けた法制見直しを含め、政府はどのように取り組むのでしょうか。総理の見解をお尋ねいたしたい。

 歴史的に見れば、日本はいわゆる十字軍に参加しておりませんし、西欧文明とは別の日本文明ともいうべき独自の発展形態をとってきた日本に対し、イスラム諸国及びイスラム教を信ずる人々は特に日本に対し特別な友好的な心情を持っていると言われております。したがって、イスラム世界との共生という点で日本は重要な役割を担えるのではないでしょうか。今回のテロ事件をキリスト教対イスラム教という対決にしてはなりません。まずはこの危機を乗り切ることに協力し、世界平和への歩みを進めなければならないと思います。

 特に、中東和平に対しては、欧米諸国を含めた歴史的、宗教的、民族的な要因が複雑に絡んでいることから、日本政府としても、この地域の安定を図るため、交渉当事者の和平実現のための努力をさらに強力に支援すべきであると考えます。つい先日までは和平合意が目前に来ていた現実を思い起こし、イスラエル、パレスチナ両交渉当事者に対して和平実現のための冷静な話し合いを進める環境をつくるべきであります。そのために日本政府はどのような貢献をするのか、総理の御見解を求めます。

 同時テロの画面を見たパレスチナの子供たちが喜んでいる映像がテレビに映し出されました。本来悲しむべきことを喜んでいるというのは、いかに子供たちの心が傷ついているか、私は何ともやりきれない悲しい気持ちになりました。子供たちを何がここまで追い込んだのか、そのことを今深く理解する感性が我々に求められています。

 テロが発生する土壌は、人間の尊厳を認めない圧制と、人間としての誇りをも奪い去るような恐るべき貧困がその基底にあるのではないでしょうか。日本はそのことに深い思いをいたし、そこからの解放のためにどう努力していくのかが今問われています。総理の御見解を伺います。

(不良債権問題と中小企業対策)

 米国テロの影響は経済分野にも及んでいます。米国景気が調整局面を迎えていたところに、今回のテロで世界各国の株式市況は大幅に下落し、消費マインドも急速に冷え込み始めました。今や世界同時不況ということがささやかれています。一刻も早く経済の再生を実現しなければなりませんが、そのためには、第一に不良債権問題の処理、第二にデフレ対策に取り組まなければならないと思います。

 総理は、就任以来、不良債権の早期処理を公約に掲げ、骨太の方針や改革工程表においても最重要課題と位置づけています。

 今、一番問題なのは、不良債権の実態が正しく公表されていないどころか、それを金融機関が隠ぺいしていることであります。要注意債権はまだ破綻の懸念のない債権と言われますが、大企業を中心に、本来であれば破綻懸念先あるいは実質破綻先に分類されるべき企業が意図的に要注意債権に混入されているという指摘が聞かれます。金融機関は、これらの企業を破綻懸念先以下に分類すると、貸倒引当金を積み増さなくてはならないことから、追い貸しを行ったり、甘目の財務評価を行って引当金積み増しを回避しているとのことであります。総理はその実態をどう認識しておられるのか。

 先日、民事再生法の適用申請に至ったマイカルも、その貸出債権は要注意債権に分類されておりました。不良債権の早期処理を本当に公約だと言うのなら、金融機関に徹底的に真実を公表するよう求めるべきではないでしょうか。この点について、総理の明快な答弁を求めます。

 また、自己資本比率維持のために、金融機関は中小企業に対する貸し渋り、貸しはがしを行っているという指摘が全国で聞かれます。貸しはがしのためには、中小企業債権の分類を要注意先から破綻懸念先に格下げをして、分類ランクが低下したので、もうおたくには融資ができないと言って一方的に貸し出しを回収するケースもあると聞いています。

 地方銀行や信用金庫、信用組合は地域経済と一体不可分の関係にあります。もしこれらの金融機関が金融監督庁の指導を忠実に実施すれば、中小企業はばたばたと倒れ、地域経済は壊滅するでしょう。ある中小企業主は、銀行の貸しはがしのために、みずからの命を絶ち、死亡保険金によって債権整理に充てたいと悲痛な叫びを上げています。総理の叫ぶ痛みを伴う構造改革とは、中小企業主とその従業員にこれほど過酷な運命を強要するものなのですか。中小企業金融の実態に対する総理の認識と具体的な対策をはっきりと承りたい。

 金融機関が預金保険機構、整理回収機構に不良債権を売却する際に、実態よりも高い価格で売却し、これらの機関に損失が出た場合には税金で穴埋めすることを想定しているようであります。総理、不良債権問題の処理方針についてはもう一度自分の目で確かめて、預金保険機構やRCCに不良債権を簿価で買い取らせるようなことは絶対しない、このことをあなた自身の口から明らかにしていただきたいと思うのであります。

(デフレ対策と景気対策、証券税制改革と補正予算)

 もう一つの大きな経済の課題はデフレ対策であります。まず、デフレ対策はインフレにすればいいといったような短絡的なことでないことをはっきりと申し上げておきます。

 第一に、需要を喚起するための税制改革が不可欠であります。民主党は、住宅・耐久消費財取得、教育費等のローンに係る利子を所得控除する制度の導入、さらには住宅譲渡損失繰越控除制度の適用要件の緩和などを提言しています。

 証券税制改革について巷間さまざまな議論が行われておりますが、政官業癒着と利権の温床になっている税制を牛耳っている自民党税調に対して、総理が戦いを挑めるのか、そして勝てるのかということを国民はかたずをのんで見ておるのであります。総理、私は初めてあなたを激励する。自民党税調に戦いを挑み、まず証券税制改革をあなたが思うように断行してみたらどうですか。自民党税調は総理大臣よりは偉くないということを国民の前に示してください。さもなくば、あなたの実行力を多くの人が疑うこととなるでしょう。

 需要対策の第二として、補正予算が懸案であることも言うまでもありません。しかし、従来型の公共事業中心にしないこと、三十兆円の国債発行限度を守ること、この二つのポイントが守られないようでは補正予算を編成してもあなたの改革路線はまやかしだったことが露呈します。
 総理、デフレ対策、ひいては景気対策として、ただいま申し上げた三つの点について明確な答弁を願いたい。

(雇用対策)

 次に、雇用対策についてお伺いします。
 政府は九八年度以降、雇用対策を次々と打ち出してきましたが、完全失業率は本年八月も五・〇%です。雇用状況は一向に改善しておらず、国民の目には失業率をこれ以上上げないためとりあえず何かをするといったつけ焼き刃的政策と映っております。

 総理、米国テロ事件後、世界同時不況という言葉も飛び交い、ますます不安が広がりつつあります。政府のたび重なる雇用対策にもかかわらず、なぜ雇用失業情勢が悪化の一途をたどっているのか、今後どのような姿勢で雇用対策に取り組んでいかれるおつもりか、まずお伺いします。

 次に、政府が昨今出された総合雇用対策も含め、短期的な緊急雇用対策についてお伺いいたします。

 まず第一に、特に失業期間が長期に及ぶ方々に対して、きちんとしたセーフティーネット策を提示し、マンツーマンで再就職に結びつける施策を集中的に行う必要があります。

 現在、失業期間が一年以上に及ぶ方々は失業者全体の四人に一人、二年以上に及ぶ方は八人に一人となっており、その多くは再就職が難しい中高年で、家族を抱え経済的にも精神的にも苦しい状況に追い込まれていると予想されます。

 そこで、雇用保険財政安定化のために二兆円規模の基金を創設するとともに、雇用保険とは別枠で、三年程度の時限立法である職業能力開発支援制度を設置することを私ども民主党は提案しています。これは、雇用保険が終了してもなお就業の見通しの立たない失業者や自営業廃業者に対して、最長二年間までの職業訓練制度の受給を可能とし、この職業訓練を受けることを条件に一カ月十万円程度の生活支援を支給するという内容であります。

 第二に、公的部門での雇用創出についてお尋ねします。
 公的部門での雇用増は、緊急的な失業者の再就職へのつなぎ対策としてとらえるべきでありますけれども、その後の民間活力導入につながるような形で積極的に進めるべきであります。少子高齢化、地域の安全確保、環境保全など公的サービスのニーズの高まっている先導的な分野に限定して進めるべきであると考えますが、総理の答弁を求めます。

 総理がこの国会を雇用対策国会とお呼びになるのであれば、これまでの対策が十分な効果を上げていないことを認識し反省した上で、雇用のミスマッチ解消を初めとする新たな施策に邁進すべきであります。雇用にかかわるセーフティーネットがしっかりと整っていることを国民にはっきりと提示しなければ、日本経済の再生もあり得ません。これまでと違って雇用不安のない社会をつくる、これこそが構造改革の大前提であることを総理に明言していただきたい。

 これらの問題に取り組むに当たっては、何としても政治に対する信頼が確立されておらなければなりません。

第二部:自民党政権が創り出してきた政治不信を取り除け。

(高祖問題・天下り禁止)

 高祖問題について次に申し上げたい。
 先月二十五日、高祖議員が辞職しましたが、遅きに失しました。高祖氏がやめれば済む話ではありません。政官業の癒着の根は深いものと言わざるを得ません。

 総理は、自民党が変わるという幻想を国民に与え、「聖域なき構造改革」への痛みに耐えるよう訴えられましたが、あなたが指揮した選挙で政官癒着の典型的な選挙違反が行われたんじゃありませんか。直前までみずからが長を務めていた公務組織を選挙のために利用して、逮捕者を出している事態を生じさせたことは許せません。

 私が、今回の事件を通じて憂慮の念をますます深くしているのは、時の与党が幹部公務員を使ってみずからの党の候補者を当選させようとすることがもたらすであろう恐ろしい結果であります。それは、現職幹部公務員の政治的中立性の喪失、すなわち与党化であります。

 高祖問題の真相解明と監督責任を果たす考えがあるのかどうか、明確に御答弁願いたい。

 私たちは高祖氏の証人喚問を求めています。あなたの言う「聖域なき構造改革」が本物であることを証明するためにも、自民党総裁として、与党もこれに応じるべきとの見解をこの場で示していただきたい。また、政府・与党が取り組んでいる公務員制度改革案には政治的中立性を強化する提言が欠けていると考えますが、総理はこうした批判にどうこたえるのか、答弁をいただきたい。

 政官業の癒着を示す最も象徴的な問題が天下りであります。
 現在、公務員が退職後二年以内に営利企業に天下りすることは原則として禁止されています。しかし、特殊法人や認可法人、公益法人に天下りすることは認められていることから、一たん特殊法人等に天下りした高級官僚が、複数の特殊法人や営利企業を転々と渡り歩き、高額の役員報酬や退職金を受け取る、いわゆる渡り鳥が後を絶ちません。

 民主党は、営利企業だけではなくて特殊法人等への天下りも五年間禁止することを柱とする天下り禁止法案を策定、野党三党共同で百五十一通常国会に提案しています。

 私は、この天下り法案に、当然、政府・与党も賛成していただけると確信いたします。構造改革の痛みを庶民には味わってもらうけれども、高級官僚は別とは言わせません。小泉総理は五月の本会議で、「内容が共鳴できれば、与野党の区別なく、野党も与党の法案に賛成していただきたいし、与党も野党の法案がよければ賛成する、」と答弁されております。当然、この天下り法案に賛成していただけるものと私は確信をいたしますが、総理の見解をいただきたい。

(狂牛病問題)

 次に、狂牛病問題についてお尋ねします。
 狂牛病問題が今、日本の食卓を揺るがしております。

 現在、EUでは、感染源とされる肉骨粉をすべての家畜に与えることを禁止し、また食肉に対する事前の検査対象を拡充し、感染可能性が高い特定危険部位は検査結果に関係なく除去することを義務づけています。この取り組みは、新たな感染と食品への混入を防ぐものであります。さらに、牛肉の需給バランスが崩れていることから、政府による食肉の買い上げと処分を実施し、肉牛農家の経営安定化策も行っています。

 それに比べて、今回の我が国政府の対応のお粗末ぶりにはあきれるばかりであります。行政が事実を隠ぺいし、ほおかむりしてきたことは、厳しく糾弾されねばなりません。肉骨粉を与えることがいかに危険かについて、畜産農家に正確な情報を流すこともなく、イギリスからの輸入を禁止すればそれでよしとした政府のずさんな対応は問題であります。また、肉骨粉の牛への使用を控えるよう行政指導という中途半端な措置をとって、実際には数千頭の牛が肉骨粉を食べていたことを放置していたことは、言語道断と言わざるを得ません。

 とりわけ、農水省のいいかげんな対応には言葉がありません。くだんの乳牛は、当初、狂牛病の検査に頭部だけを回し、それ以外は既に焼却処分されたと農水省は説明していたではありませんか。しかし、現実には、茨城県の飼料工場に運搬され、他の牛と一緒に肉骨粉がつくられていたのであります。疑惑の出た乳牛をどう処分するかで、農水省と厚生労働省の間にあつれきがあったと聞いていますが、両省での総合調整がうまくいかなかったことは、内閣の重大な責任であります。国民にうその情報を流すとは何事ですか。この責任をどうとりますか。

 武部農水大臣、よくあなたはその席に座っておられますね。これは内閣全体の問題でしょう。また、総理を初めとする内閣のこの点についての責任を、明確なる答弁を私は求めたい。

 政府は、早急に感染源を解明するとともに、消費者、生活者の立場に立って感染拡大の防止に全力を挙げるべきであります。安全な食を提供してこそ畜産業も発展することを忘れてはなりません。

 政府は、この期に及んで、国内産の肉骨粉の製造や出荷を一時停止するとともに、海外産も含めて在庫をすべて焼却し、費用を国が負担する方針を明らかにしました。また、輸入についても一時的に全面禁止することとしたようであります。食の安全を第一に考えれば当然の措置と思われますが、政治的決断が遅きに失したのではありませんか。

 今後、風評被害についてどのような対策をとるのか、消費者の不安を取り除くためにいかなる取り組みを行うのか、さらに、畜産農家をどう支援するのか。その具体策について、総理及び農水大臣にお伺いいたします。

(外務省不祥事)

 次に、外務省不祥事についてお尋ねします。
 テロ事件の対応を見ても、今日、日本の外交は機能不全に陥っていると言わざるを得ません。外務大臣の機密費問題を解明し改革をなそうとする意欲は多といたします。しかしながら、あなたは外務省職員の人心をしっかりと掌握していますか。部下を心服させていますか。正すべきは正すが、やはり大臣としてその全人格をかけ人心を掌握し、部下を心服させるのがまず第一ではありませんか。部下をしかりつけるだけでは人はついてまいりません。人がついてこなければ外務省は機能せず、著しく国益を損じます。今日の外務省の実態を大臣としてどう考えておられるのか、その存念を承りたい。

 先月二十七日、会計検査院は在外公館での外交機密費の実態などを明らかにしました。同時に、総理と外務大臣に、機密費の管理状況を十分把握できる体制や監査体制の整備などを求めた処置要求を提出いたしました。総理への処置要求は一九五四年以来実に四十七年ぶりであり、重大な事態と言えます。

 さきの通常国会において、機密費削減のために民主党が提出した予算修正案や機密費流用防止法案を与党はことごとく葬り去りました。民主党の真摯な提言をつぶしておいて、政府・与党に本気で外務省を刷新しようとする気はあるのですか。総理の答弁を求めるものであります。

第三部:国民の不安を解消し、明るい未来を切り開こう。

(医療制度改革)

 今日、国民は多くの不安に悩まされております。未来への安心を確立するために医療制度の改革は急がなければなりません。

 政府は、一九九七年に患者負担増だけを求める健康保険法改正を行って健保財政の危機を乗り切るかわりに、二〇〇〇年までには医療制度の抜本改革を行うと約束しました。当時の厚生大臣は、ほかでもありません、小泉総理、あなたであります。

 しかし、これまでに医療制度の抜本改革は行われたでしょうか。今日までその道筋さえ見えず、公約は破られたと言わざるを得ません。構造改革の実現を力強く主張し、有言実行を旨とする小泉総理にして、なぜ医療の改革が進まないのでしょうか。私は、その最大の原因は医師会と自民党の癒着による改革つぶしにあると考えますが、総理はいかなる見解をお持ちですか。

 その制度改革について、先日、厚生労働省が試案を発表しました。一方で、官邸サイドは、経済財政諮問会議や総合規制改革会議が市場原理による改革の方向を出しています。担当の坂口大臣は、そうした考え方のみならず、厚生労働省案に対しても批判的なようにも見受けられます。これから年末にかけさまざまな関係団体が意見表明し、まさに百家争鳴の議論になると予想されます。小泉総理、あなたはこの医療制度改革について、どのような理念を持って今後の医療制度をどのように改革していこうとするお考えなのか、まず見解を伺いまして、あわせて坂口大臣にも答弁を求めます。

 この際、市場原理による改革について伺います。それはアメリカ型の医療システムを想定していると思われますが、混合診療の導入など、国民皆保険制度を放棄するおつもりなのでしょうか。また、医療に効率化と患者サービス向上のための競争は必要ですが、市場原理だけでよいとお考えか、お答えください。

 医療が私物化されたり営利目的で行われたりする現実がありますけれども、株式会社を参入させる前に、現在の医療法人制度の見直しや個人病院のあり方など、医療の公共性を高める改革をすべきではないでしょうか。総理及び坂口大臣の答弁を求めます。

 次に、厚生労働省案について伺います。
 試案では、患者本人の三割自己負担や老人医療を七十五歳以上にし、七十歳から七十四歳までの老人自己負担を二割にするなどの内容が述べられていますが、これではまさに保険財政の危機を乗り切るために自己負担をふやすという九七年改正の手法と全く同じではありませんか。結局、構造的な問題解決を先送りし、増加する医療費は患者負担引き上げによって賄おうとするもので、これでは国民に痛みばかりを押しつける改革になりませんか。総理の見解を求めます。

 また、老人医療制度を七十五歳以上とする点については、国民皆保険制度をとる国において年齢によって保険制度を区切っている国はございません。私はエージフリーを目指す今の時代に逆行する政策だと思いますけれども、総理の御所見を伺いたい。

 厚生労働省によれば、我が国の自己負担比率は既に欧州諸国の二倍程度あり、相当高い水準にあります。また、自己負担比率の引き上げによって医療費の適正化に成功した国はないという教訓もあります。確かに、負担と給付のバランスは必要ですし、国民に対して価値あるサービスには相応の対価を支払ってもらうことの理解を求めることも大事でしょう。しかし、それは真に価値ある医療サービスが提供されてこそ納得できるものではありませんか。その意味では、良質かつ適切な医療、医師と患者が信頼し合える医療提供体制をつくり上げていくことが何よりも大事であります。

 その際、情報公開や情報提供が大切なポイントであり、民主党は、医療にかかわる情報公開を内容とする、いわゆる患者の権利法を今国会に提出しました。医師と患者が情報を共有し、患者の理解と選択に基づいた良質かつ適切な医療を促進すること、そしてまた医療の透明性を高め、国民の医療への信頼を向上させ、患者の権利擁護に資することを目的としている法律であります。この患者の権利法案の成立こそ国民の立場からの医療制度改革の第一歩と考えますが、総理、この私どもが提出した法案に御賛成をいただけると思いますが、いかがでございますか。明確な答弁を求めます。

(最後に)

 最後に、私は申し上げたい。
 今次同時多発テロに直面し、我々は重大な運命の岐路に立っていると言っても決して過言ではないと思います。我々国会議員の任務は、言うまでもなく、まず国民一人一人の命を守り、その生活基盤を確保することにあります。あなたは憲法前文を引用されましたけれども、憲法前文には、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」とあります。

 テロに対する闘いは、ここで言う戦争とは違います。しかし、国際社会の一員としてこれを撲滅するには、国民一人一人にもそれなりの覚悟が求められると私は思います。そして、その覚悟を求める以上、総理の全人格をかけたリーダーシップの発揮が何よりも求められると思います。

 しかし、その総理は、「聖域なき構造改革」を叫び、国民に痛みに耐えるだけのことを訴えているにすぎないのではないでしょうか。強い者が生き残ればいい、弱い者は切り捨てる、そういう社会を目指しておられるようにも思われます。これでは国民の未来に対する安心を国民は得ることはできません。

 国民一人一人にとっては、未来への安心が保障されてこそ初めて元気が出るんです。そして、みずからを犠牲にしても、憲法前文が求めている、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めるために奮闘する高い志を持つことができると私は確信をしております。そのような政治を今実現し、実行することが我々に今一番求められていることを訴え、私の質問を終わります。

■小泉首相の答弁

 角田議員にお答えいたします。
 全般の演説を伺いまして、最後に憲法の前文で締めくくられた点は、私と若干、引用部分は違いますが、共通面のあるところもうかがわれると思います。要は、この新しい事態に対して、国際社会の一員として日本がいかに国際協調のもとに責任ある主体的な行動をとるか、これが求められるという、そういう認識においてはかなり共通の面があるのではないかと感じました。

 今回、テロに関して、文明の衝突ともいうべき事態の危険がないと言うことができるかとのお尋ねがありました。

 私は、ブッシュ大統領に対しましても、今回のテロとの対決は、テロリズム、テロリストとの対決であり、決してアラブとの対決でもない、イスラムとの対決でもないということを直接の会談でも申し上げ、ブッシュ大統領も全くそのとおりだと。これはテロとの闘いであって、そういうイスラム社会、アラブ社会とも共通してこのテロに立ち向かっていかなきゃならないという認識を述べられております。

 こういう観点から、これは、単に米国に対する攻撃のみならず、平和と自由と民主主義を共通価値観とするすべての国がこのテロに対して協力して闘っていかなきゃならない問題だと認識しております。

 ブッシュ大統領との会談の内容についてのお尋ねでございますが、単に軍事行動の支援表明に終わったのではないかとの御指摘でございますが、よく見ていただきたいと思います。見たいところだけ見ないで、見たくないところは見ないという、そういう観点はまことに残念であります。

 私は、七項目の措置につき説明しまして、日本としては、持てる力を発揮して、このテロとの対決に毅然として努めたい。外交努力、経済努力、難民支援、医療協力、広範な持てる力をすべて発揮して、国際社会と一致協力して国際社会の一員としての責任を果たす。当然その中には、我が国としての自衛隊の活動範囲も出てくると思います。

 テロリズム防止等に向けた国連を中心とした外交的働きかけについてのお尋ねであります。

 政府としては、御指摘の安保理決議も踏まえ、テロリズムの防止等に向けた国際社会の取り組みに積極的に協力していくとの考えのもと、国連等の国際場裏で適切な取り組みがなされるよう関係国と協議してきております。

 また、本件事件に関する政府の支援策については、中国と韓国に対し、両国国内の反応にも留意しつつ、これまで適切に説明してきております。

 七項目の措置の発表経緯についてでありますが、七項目の措置は、予算委員会終了後に開催された関係閣僚会議において取りまとめた内容を直ちに私みずから発表したところでありまして、まだまとまっていないところを予算委員会で発表するのはかえって国会軽視ではございませんか。終わってから発表したものであって、国会軽視の御指摘は当たらないと考えております。

 自衛隊派遣の基本的な原理と法的根拠について御質問がありました。
 我が国は、テロ攻撃に対応する諸外国の活動に対する自衛隊による支援のあり方については、今後いろいろ予想し得る事態を考えつつ、憲法の範囲内でできる限りの支援、協力は何かという観点からその内容を早急に検討し、法律案の作成に取り組んでまいります。

 自衛隊護衛艦のインド洋への先行派遣の根拠についてお尋ねがございました。
 御指摘の自衛隊艦艇の活動の法的根拠は、「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと。」を規定した防衛庁設置法第五条第十八号であり、今後の自衛隊の活動を迅速に、かつ適切に行うための情報収集を目的とするものであります。

 国内のテロ対策についてお尋ねがありました。
 今回のテロ発生後、関係省庁において、重要施設に対する警戒警備やハイジャック防止対策の強化はもとより、出入国管理の徹底、テロ関係者に対する資産凍結等の措置を機敏に講じております。また、テロの脅威に対して、米軍施設・区域等を自衛隊が警護することができるようにするための法案作成を検討しているところであります。

 今後とも、国民の安全を確保するため、必要な法制の見直しを含め、あらゆる角度からテロ対策の充実強化に努めてまいります。

 中東和平への取り組みについてですが、中東和平については、今後とも暴力の停止と交渉再開に向けた政治的働きかけや経済支援等の取り組みを継続していきたいと考えます。

 テロが発生する土壌ともなり得る圧制及び貧困に対する我が国の取り組みについてですが、我が国は、国連等の国際的フォーラムを通じて圧制に反対する姿勢を明確にしてきているとともに、経済協力等の手段を用いて貧困の削減に取り組んできており、今後とも引き続きこのような取り組みを継続していく考えであります。

 金融機関の資産査定と不良債権の早期処理に関するお尋ねがありました。
 不良債権処理については、各般の施策を果断に実施することにより、遅くとも集中調整期間が終了する三年後には不良債権問題を正常化することを目指し、全力を尽くしてまいります。このため、今般の改革先行プログラムにおいては、借り手企業の信用力が市場で急速に低下している事例をも踏まえ、市場の評価に著しい変化が生じている債務者に着目した検査を導入するとともに、市場の評価に適時に対応した引き当てを確保させることとしております。

 なお、金融機関に対しては、銀行法、金融再生法等に基づき、適切な情報開示を行うよう検査・監督を通じて促してきており、引き続き厳正な対応を求めてまいります。

 中小企業金融の実態に対する認識と具体的な対策についてですが、中小企業をめぐる金融情勢は、中小企業庁の調査によると、平成十年十月以降、基本的には改善してきたものの、年明け以降厳しくなっていると認識しております。よって、今般の改革先行プログラムにおいて、民間及び政府系の金融機関に対し、中小企業を含む健全な取引先に対する資金供給の一層の円滑化に努めることを要請することとしており、既に関係省庁から具体的な要請を行っているところであります。また、セーフティーネット保証・貸付制度の充実を図ってまいります。

 預金保険機構、整理回収機構による不良債権の買い取り価格についてのお尋ねですが、今般の改革先行プログラムにおいて、不良債権問題の早期解決のため、預金保険機構、RCCは、不良債権の買い取りについて、価格決定方式を弾力化の上、十五年度末までに集中的に実施することとしたところであります。弾力化の具体的内容については、金融庁に与党と連携しつつ検討を進めるよう指示したところでありますが、不良債権を簿価で買い取ることについては問題があり、買い取り価格はあくまでも時価を基本にすべきものと考えます。

 証券税制改革を初めとした税制についてのお尋ねでありますが、金融・証券市場を通じて資源が効率的に成長分野に流れることが必要であり、国民一般が安心して証券市場に参加できるよう、透明性、公平性の高い証券市場を構築する必要があると考えております。貯蓄優遇から投資優遇への金融のあり方の切りかえとの観点を踏まえ、市場の信頼向上のためのインフラ整備などを進めるとともに、証券市場の構造改革に資する税制改正法案を今国会に提出したいと思います。

 補正予算についてですが、補正予算を要する施策については、従来型の公共投資等による需要追加策は厳に排し、雇用、中小企業に係るセーフティーネットの充実策等に重点を置くこととします。補正予算の財源については、安易な国債によるべきではありません。税収が五十兆円程度にとどまる中では、十四年度予算と同様、国債発行額を三十兆円以下とする方針で取り組んでまいります。

 失業情勢の悪化の要因や雇用対策に取り組む姿勢についてですが、最近の景気の悪化や雇用のミスマッチの増加などにより、雇用失業情勢は完全失業率が五%となるなど厳しい状況にあると認識しております。

 こうした状況のもと、国民の雇用不安に対する処方せんを明確に示し、改革の痛みを和らげることは政治の責任であり、このため、先般、新たな雇用の創出、ミスマッチの解消、訓練延長給付制度の拡充等のセーフティーネット整備を柱とする総合的な施策パッケージを取りまとめたところであります。このうち、直ちに取り組むべきものについては、補正予算を活用しつつ集中的に実施するなど、雇用対策に万全を期してまいります。また、法律上の措置を要するものに関しては、早急に法案を取りまとめ、本国会に提出します。

 公的雇用の創出及び雇用のセーフティーネットの整備についてのお尋ねでありますが、補助教員、警察支援要員、森林作業員等の公的部門の雇用の創出や規制緩和等による新たな雇用の創出、民間活力を活用した雇用のミスマッチの解消、効果的な訓練を実施できるよう訓練延長給付制度の拡充等のセーフティーネットの整備を柱とする総合的な施策パッケージを取りまとめました。このうち、直ちに取り組むべきものについては、補正予算を活用しつつ集中的に実施する等、雇用対策に万全を期し、雇用不安の解消に努めてまいります。

 高祖氏の辞任に関連したお尋ねですが、さきの参議院選挙に際し、現職の国家公務員が公選法違反の容疑で逮捕されるという事態に至ったことはまことに遺憾であります。本件については、現在、なお捜査が継続中であると承知しており、捜査による全容解明を待って、行為者への行政処分とあわせ適切に対処すべきものと考えています。

 高祖氏の証人喚問については、議院の運営に関することであり、国会において御判断いただくべきものと考えます。

 公務員制度における政治的中立の取り扱いについてでありますが、公務員制度改革におきましては、中立公正で国民から信頼される、質の高い効率的な行政の実現を目標に掲げ、検討を進めているところであります。

 なお、公務員の政治的中立性に関しては、中央、地方を問わず、なぜ公務員が政治的活動を制限されるか、よくお考えいただきまして、公務員としての職務に邁進して、国民から行政が疑われることのないように、与野党ともに取り組んでいくべき問題だと思います。

 天下り禁止法案についてお尋ねがありました。
 特殊法人等が公務員の再就職の安易な受け皿とされているなどの指摘があり、行政改革の一環である公務員制度改革において、その見直しを指示しているところであります。

 今後、各特殊法人が安易な公務員の天下り先とならないように、厳しい特殊法人の見直し、役割のなくなったものについては廃止、あるいは民間でできるものは民営という観点から、この問題、単に特殊法人改革のみならず、公務員の天下り問題についても関連している問題でありますので、国民の理解が得られるよう適切な対応が必要だと思います。

 狂牛病問題に対する内閣の責任についてのお尋ねでありますが、狂牛病に関しては、事態が発生して以来、農林水産省と厚生労働省の間や県の農林部局と衛生部局の間など、関係者間の連絡が不十分で対応に混乱が見られたことなど、国民の行政に対する不信を招いたことは遺憾であります。このため、農林水産大臣及び厚生労働大臣に対して、縦割り行政の弊に陥らず、関係者間の意思疎通をよくして、両省一体となり国民の立場に立ってしっかり対応するよう指示したところであります。

 狂牛病問題の取り組みの具体策についてですが、狂牛病に関しては、国民の不安を与えることのないよう、狂牛病が疑われる牛の肉等が食用にも飼料用にも出回ることがない体制を整備するとともに、十月四日から主な感染源とされる肉骨粉の輸入と国内での製造、出荷を一時停止し、感染経路を遮断することとしております。

 また、狂牛病の検査体制の整備、牛肉や牛乳の安全性等を説明したパンフレットの配布や関係者に対する説明会の開催など、徹底した情報提供を通じて、政府全体として風評の鎮静化に全力を尽くしているところであります。さらに、国民生活及び我が国畜産に及ぼす影響を緩和するため、牛の処分に伴う生産者への支援、関係事業者への緊急融資、正しい知識の普及等を内容とする当面の緊急対策を公表したところであり、その円滑な実施に努める所存であります。

 外務省の刷新についてでありますが、最近の外務省員による一連の不祥事は、外務省に対する国民の信頼を失墜させるものであり、極めて遺憾であります。このような不祥事を繰り返さないためにも、省員が一丸となって外務省を改革して自浄能力を示し、一日も早く外務省に対する国民の信頼を回復すべく、全力で努力していくことが重要であると考えます。

 医師会との関係により医療制度改革が進んでいないのではないかとのお尋ねがございました。
 医療制度改革に当たっては、医療団体や保険者団体、また国民各般の関係者の御意見を伺うことが必要であります。しかしながら、これまでもこうした意見だけにとらわれることなく、政府・与党として議論を尽くし取り組んできたところでありますが、まだまだ不十分であります。

 今回の改革に当たっても、特定の団体の意見にとらわれず、診療側も含め関係者にひとしく痛みを分かち合っていただき、国民的な合意のもとにその実現を図っていきたいと考えます。

 医療制度改革の理念等についてのお尋ねでございますが、厳しい医療保険財政のもと、医療制度改革は待ったなしとなっております。今後の社会保障を考えるに当たっては、給付は厚く負担は軽くというわけには必ずしもいかないと考えておりまして、自律自助の精神を基本に給付と負担の改革を行い、国民に信頼される持続可能で安定的、効率的な制度に再構築しなければならないと思っております。

 今後、厚生労働省の改革試案を踏まえ、国民的な合意が得られるよう議論を尽くし、年末までに政府としての成案を得た上で、次期通常国会に所要の法律案を提出すべく全力を尽くしてまいります。

 国民皆保険体制と医療制度改革についてのお尋ねでありますが、すべての国民に医療を保障する国民皆保険制度は、我が国の医療制度の根幹をなすものであり、今後とも堅持していくことが必要であると考えております。

 こうした国民皆保険制度のもとで、国民にとって必要な医療については医療保険で給付していくという基本に立ちつつ、保険診療と自由診療の併用など、医療サービスの多様化に対応していくことも必要であると考えております。

 医療における市場原理についてのお尋ねがありました。
 医療サービスは、人の生命、健康に直接かかわるサービスであるとともに、専門性が極めて高いといった特性があり、他のサービスと同様の市場原理が働きにくい分野でありますが、一方で、非効率であるとかむだがあるといった指摘が多々あることも事実であります。そうした指摘に対応し、国民の期待にこたえるためにも、医療サービスの特性を十分に踏まえつつ、サービスの質を落とさずに効率化を図っていくことが重要であると考えています。

 医療の公共性を高める改革についてのお尋ねがありました。
 医療サービスには、高い公共性、倫理性が求められることはもちろんでありますが、効率的、合理的な医療機関経営が必要であることは言うまでもありません。このため、医療機関の経営形態についても十分に議論していくことが必要であると考えます。

 厚生労働省試案における患者負担についてのお尋ねでありますが、医療保険財政が極めて厳しい状況にある中で、持続可能で安定的、効率的な医療制度を構築していくためには、老人医療費の伸びの抑制などを含め、医療制度全体について構造的な改革を進めるとともに、診療側を含め関係者にひとしく痛みを分かち合っていただきながら、給付と負担の均衡を図っていくことが必要と考えております。

 今後、厚生労働省の改革試案を踏まえ、年末に向け、国民的な合意が得られる成案の取りまとめに全力を尽くします。

 老人医療制度の対象年齢についてのお尋ねがありました。
 我が国の老人医療制度は、医療の必要性の高い高齢者に適切な医療サービスを提供し、老人医療費を国民皆で公平に分担するために創設されたものであります。しかし、制度創設以降の高齢者の心身や経済状況の変化、今後の高齢化の一層の進展等を考慮すると、老人医療の対象となる高齢者の範囲や一部負担のあり方についても再検討することが必要であり、今後、厚生労働省試案を踏まえ、政府・与党内で検討を進めてまいります。

 患者の権利法についてのお尋ねでありますが、医療は、医師と患者の信頼を基本とすべきものでありますが、法律で一律に患者の権利と医師等の義務を定めることが適当であるのか、責任回避のための形式的、画一的な説明や同意の確認に陥るおそれがないかといった問題点があり、このような点について慎重に検討する必要があると考えております。

 政府としては、診療内容や医療機関を患者みずからが選ぶことができるよう、患者に対する情報提供を推進し、患者の立場を尊重するとともに、医師と患者の信頼関係に基づく医療を提供していくことが重要であると考えており、今回の医療制度改革においてもこのための環境整備を積極的に進めることが必要と考えております。

 残余の質問については、関係大臣に答弁させます。

■田中外務大臣の答弁

 テロリズム防止に向けた国連を中心とした外交努力についてのお尋ねがございました。
 政府といたしましては、御指摘の安全保障理事会決議を踏まえまして、テロリズムの防止等に向けた国際社会の取り組みに積極的に協力していくということが基本姿勢でございます。国連等の場におきまして適切な取り組みがなされるように関係国と協議を続けてきております。

 また、本件事件の対応につきましては、国際的な協調を図りながら取り進めていくことが重要でありまして、日本の措置に関しまして、お尋ねの中国あるいは韓国に対しましても、両国国内の反応に十二分に留意しつつ、説明をし、意見の交換を続けてきております。

 次に、外務省職員の人心掌握についてのお尋ねがございました。
 まず、現在の外務省改革について簡単に御報告をさせていただきます。

 外務省は、約百年を超える歴史の中でもって、外部の目にさらされるということが少なく、会計あるいは人事の面でゆがみが生じてきておりました。そして、先般の松尾元要人外国訪問支援室長による公金詐欺事件以来、これまでに約五十名近い逮捕者、処分者を出す残念な結果となりました。

 また今般、機密費、報償費でございますけれども、会計検査院から九月二十七日に、報償費に関しての会計手続に不適切な面があったという御指摘を受けました。これは極めて異例な出来事でございます。こうした指摘に基づきまして、内閣官房と外務省との事務の分担の明確化を図ること、報償費を適切に執行する体制を整備すること、確認、内部監査の制度の構築等について具体的に取り組んできております。

 省全体として見ますと、在外公館におきましても、そして省内におきましても、一生懸命に汗を流してまじめに働いてやる気のある職員がたくさんおります。そして、納税者たる国民の皆様の信頼をかち取るために、公平、公正そして透明性を旨として外務省改革を進めてまいりたく存じます。

 省内の一部には改革に反対する一部勢力もございますけれども、私は断じてこうした勢力にはおもねることはいたしません。新しい、開かれた外務省を構築するために最善の努力をいたしておりますので、どうぞ御理解を賜りたく存じます。

■武部農林水産大臣の答弁

 角田議員の御質問にお答えいたします。
 狂牛病問題への対応について、行政上極めて大きな不手際がありましたことはまことに申しわけなく、責任を痛感しております。今後、深い反省の上に立って厳正に対応してまいる所存であります。

 十月四日から、主な感染源とされております肉骨粉の輸入と国内の製造、出荷を一時全面的に停止いたしました。これは、完全にBSEの感染を遮断する体制を確立しようとするものでございます。

 肉骨粉を豚や鶏用の飼料に使用することは、WHOやOIEの見解からいたしまして科学的には問題はないものとされております。しかし、牛への誤用や流用を防止するためにも、また肉骨粉を使用することに対する消費者の皆さん方の不安を解消する、取り除くということから今回の措置を決定した次第であります。

 ただ、実施に向けて屠畜場からの排出物の適正処理、実需者、畜産農家でありますとかペット飼養者等への影響、あるいは国際防疫上のルール、SPS協定というものがございますが、これらとの関係等々、多方面にわたる問題を検証、整理しなければなりません。そういうような背景もありまして、昨日の最終決定となった次第であります。

 現在、屠畜場からBSEが疑われる牛の肉等が食用にも飼料用にも出回ることのない検査体制を確立しましたので、このことを国民の皆様に徹底すべく、パンフレットを一千万部作成いたしまして、牛肉、牛乳、乳製品は一〇〇%安全ですというようなことを小売店等で幅広くPRしているところでございます。

 また、九月十二日から三十日までの間、全戸十三万六千戸、全頭四百五十九万三千頭の牛の一斉検査を実施し終了した次第であります。これらの内容も正確に公表いたしております。さらに、厚生労働省との共催による多数の関係者約四百名への説明会を行うと同時に、さまざまな意見をお聞かせいただき、極力丁寧に対応させていただいております。

 今後、あらゆる媒体を活用いたしまして、全省挙げて消費者の不安を解消し、風評被害の鎮静化に努めてまいる所存であります。さらには、情報の迅速なかつ正確な公開に努めてまいる所存であります。

 また、畜産農家等への深刻な影響も出ております。これらに対しては、出荷の繰り延べに対する助成や肉牛農家への緊急融資を既に決定、公表いたしております。その円滑な実施に努めていくこととしておりますが、今後さらにさまざまな課題が出てくると、かように考えております。これらの課題を各般にわたり検討中でありますので、今後なすべき課題に対し万全を期してまいる次第でありますので、今後ともの御鞭撻をお願いしたいと思います。
 以上です。

■坂口厚生労働大臣の答弁

 角田議員からの御質問にお答えをさせていただきたいと存じます。
 最初、医療制度改革についてでございますが、高齢化社会の中で疾病構造の変化がございますし、また健康に対する国民の意識も変化をしてまいりました。さらにまた、診療報酬等、その周辺の事務等につきますIT化も進んでまいりました。そして、御承知のとおり、医療保険制度も厳しくなってきた事実もございます。

 このような状況の中で、平成十四年度には思い切った医療制度改革を行う必要があると考えております。将来にわたり、先ほど総理からもお答えがございましたが、持続可能な少子高齢社会に対応した医療制度を確立しなければならないと考えております。

 先般、こうした視点を踏まえまして、厚生労働省としての医療制度改革試案を取りまとめたところでございます。

 医療保険制度の改革、統合化のみならず保健医療システムや診療報酬体系、あるいはまた医療制度を構成するすべてのシステムの大きな転換を求めております。

 その中には、EBM、いわゆる根拠に基づく医療、こうしたもののガイドラインを作成をし、情報の開示でありますとか患者の選択の拡大など、あるべき医療の将来像も提起をいたしまして、老人医療費の伸び率管理制度の導入なども掲げるなど、従来にない提案を盛り込んだところでございます。

 また、保険財政の安定を図りますために、給付と負担の両面にわたります見直しが避けられないとも考えているところでございます。

 今後、政府・与党内、そしてまた各般の御議論をいただきまして、年末までに政府としての成案を得て、次期通常国会に所要の法律案を提出したいと考えているところでございます。

 もう一つ、市場原理についての御質問がございました。
 すべての国民に医療を保障する国民皆保険制度は、我が国の医療制度の根幹をなすものでございまして、今までと同様、今後とも堅持をしなければならないと考えております。

 なお、いわゆる混合診療を導入することについての御質問があったわけでございますが、現状では、不当な患者負担の増大を招く危険性が高いことから、慎重に対応すべきものと考えております。医療技術の高度化などへの対応につきまして、特定療養費制度の拡大により患者サービスの向上を図っていきたいと考えております。

 また、医療におきましても競争が必要であるという考え方、それは私たちもそのとおりというふうに思っているわけでございますが、市場原理に偏ることなく、適切な情報提供に基づく患者の選択を通じまして医療機関相互の競争が大きくなり、そして医療の質の向上と効率化を図ることが重要であると思っているところでございます。

 さらに、医業経営につきましては、医療の公共性に留意しつつ、医療法人制度の見直しを含め、その近代化、効率化を図るべく具体的な検討を進めていきたいと考えているところでございますので、御指導、御鞭撻、よろしくお願い申し上げたいと存じます。


2001/10/02

戻るホーム目次