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日弁連の冒険・「法曹一元」について

11月1日、日本弁護士連合会の総会が行われて、延々8時間のロングランの末に、司法改革についての執行部提案が、7千何票対3千何票の多数で可決されました。執行部提案にこれだけの反対票が出るというのは、日弁連では実に異例のことで、たぶん史上はじめてのことでしょう。この結果日弁連は、「司法試験の合格者を年3千人(現在は年1千人)に増やす」という、政府の司法制度改革審議会の方針を一応受け入れたことになりました。

 こういうことになった経過や内幕が実にギルド的で、見る立場や角度によってはとても面白いのですが、それを一般向けに解説するにはページが足りませんし、弁護士会的に少々こわいので、やめておきます。そのかわりに今回は、ちょっとわかりにくい話題なのですが、「法曹一元」について。

 「法曹一元」というのは、裁判官・検察官には弁護士経験者が(だけが)なるという制度で、アメリカやイギリスはこれです。日本のいわゆる「キャリア・システム」とは正反対の制度で、これが弁護士会50年来の悲願なのです。

日弁連執行部は、司法試験合格者の急増と法科大学院(いわゆるロースクール)制度とで、法曹一元の実現に向けて前進する、と考えているようです。

この評価は、私にはとても不思議で、危険なもののように思えます。 司法試験の合格者が増えても、裁判官・検察官の人数が増えるとは限りません。仮に増やすとしても、新規採用を増やせばすむことで、キャリア・システムをやめる理由にはなりません。司法試験合格者が増えれば、新規採用も増やしやすいので、かえって都合がよいくらいでしょう。

法科大学院というのは、大学法学部の卒業生をさらに2年間みっちり教育して、原則としてその卒業生だけが司法試験を受験できるようにしよう、そして7割がたは司法試験に合格するようにしよう、というのです。日弁連はどうも、法科大学院での実務教育は弁護士会の協力なしではできない、弁護士が法科大学院での教育にタッチすることによって裁判所・検察庁への弁護士会の影響を強められる、と考えているように見えます。

そううまくいくものでしょうか? 法科大学院の講師は、たいへんな激務になるはずで、弁護士業の片手間ではとてもできません。司法試験7割合格で年間3千人なら、2学年分8千人の大学院生の面倒を見なければなりません。1クラス20人とすれば講師は延べ400人、しかも弁護士なら誰でも良いというものではありません。大学の講師の給与は高いものではありませんし、弁護士だけに高額の報酬を払うことを大学や文部省が認めてくれるとは思えません。これだけの人数の適任の弁護士を、それも社会奉仕的に、現実に確保できるものでしょうか?

実際問題としては、講師は大学内部でまかなわれるか、もしどうしても実務者が必要なものならば、裁判所や検察庁の方が条件的にはるかに有利でしょう。今はそれだけの人数の余裕はなくても、中長期的には判事検事の新規採用を増やせば、あとは「出向」で簡単に対処できるからです。

逆に、司法試験の合格者を3倍にするとなれば、その全員の修習費用の面倒をみることに、大蔵省が黙っているでしょうか。裁判官・検察官だけを国費で養成するから弁護士志望者は別途弁護士会で面倒をみろ、ということにでもなったら、法曹一元どころの話ではありません。

総じてこのたび、日弁連はお役所のしたたかさを安く見積もりすぎているように見えます。国家権力を相手に、危険な火遊びを始めようとしているように見えます。その結果が(弁護士はともかく)国民にとってよいものになるのならよいのですが。

ニジェールに若い女がいたよ
虎に乗ってほほえんでいたよ
女と虎が出かけて帰ってくると
女は虎の腹のなかでさ
ほほえみは虎の顔の上にあったよ

(注 詩はM.I.ディモント著 藤本和子訳 朝日選書 「ユダヤ人 神と歴史のはざまで」より引用)

(2000/11/09)


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