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少年法改正・与党案について

与党の少年法改正案が国会に提出されています。
(1)処罰できる年齢の引下げ(16才から14才へ)、
(2)家庭裁判所の決定に対して、検察官に抗告受理申立権を与える、
(3)ある種の事件について、検察官に家庭裁判所の審判に立会する権利を認める、
(4)ある種の事件について、家庭裁判所は「原則として検察庁に逆送する」(つまり、原則として刑事裁判にする)ことにする、
などです。

私は「少年事件をやることもときたまある」程度のふつうの弁護士で、日弁連子どもの権利委員会のピューリタニズムにはヘキエキしている方ですが、その私が見ても、この改正案については、「この馬鹿どもが」と罵りたくなります。(3)と(4)が特に馬鹿です。なかんづく(4)は救いようがありません。

馬鹿その1。未成年者の「無罪」や「冤罪」がとても多いということを、まるで知っていません。大人と比べて、ケタはずれに多いのです。未成年者は刑事さんから一喝されると、大人ほどの抵抗力がありませんし、そもそも少年係の検察官が猛烈に多忙なので、警察の仕事をチェックしきれないのです。

馬鹿その2。家庭裁判所での審理のやり方や、その実情を、何も知っていません。家裁では弁護士が付添人につくとは限りません。裁判官は予め、警察や検察庁で作られた調書(とにもかくにもちゃんと自白してある)を全部読んで、往々にして固定観念を持ってしまいます。しかも、家裁の裁判官の力量には問題があります。能力が高くないとみなされた裁判官が、(しかもたいていは定年近くなって)家裁に配属される傾向があるからです。現状のままで改正が実行されると、無実の少年は立つ瀬がなくなります。

馬鹿その3。検察官が立会うのならば、せめてその事件については刑事事件と同じようにやってほしいものです。弁護士を必ずつけて、最初から調書を全部裁判官に読ませるようなことはさせずに、です。冤罪を大量生産するまいと思えばそれしかないでしょう。しかし、改正案でも、家裁には8週間しか時間が与えられていません。その短い間に、無罪を争っている事件で、刑事裁判と同じように証拠調べをやるとすれば、猛烈な集中審理が必要になります。家裁も検察庁も弁護士も、たまったものではありません。特に今の家裁や検察庁には、そんな芸当をする余裕はありません。

馬鹿その4。検察官の仕事が無茶苦茶に増えます。実際のところ、いま少年係の検察官は、毎日毎日送られてくる膨大な数の少年事件を、警察丸写しの調書を作って家庭裁判所に送り込むだけで手いっぱいです。改正案を実行しようとするだけで、少年係検事は一週間に10日くらい働かなければならないでしょう。刑事裁判的手続きをやれば、それでもまだ足りますまい。過労死する検察官でも出たら、誰が責任をとるのでしょうか?

馬鹿その5。要するに、この改正少年法を実行しようとすれば、「無実の罪」を大量生産することを覚悟するか、そうでなければ家裁と検察庁の人員を大増員しなければダメです。(最高裁や法務省はおいそれとは認めないでしょうが、それはただツッパッているだけです。)そんな予算を、大蔵省はくれるのでしょうか?

馬鹿のきわめつけ。この改正案でいくと、人を死なせた未成年者は原則として(少年院ではなくて)刑務所に放り込む、ということになります。この発想は、少年院の現場(つまり法務省の最前線)からも評判が悪いと聞いています。あたりまえです。「人を死なせた未成年者」を十把ひとからげに刑務所に入れていたら、それ以上悪くならなくてすむ少年まで悪くなってしまいます。この改正案が多数の力で(民主的に!)、そのまんま国会を通過してしまった場合、日本の社会全体が、次第にニューヨークのダウンタウンか、質のよくない劇画の世界みたいになってしまうのじゃないでしょうか。こんな無分別な政策は真っ平御免こうむりたい。

少年法の改正がどうしても避けられないものならば、
1.まずもってどうにかして(4)だけは外して、
2.検察官立会事件について刑事事件に準じた手続にして、
3.検察庁と家庭裁判所の少年係に、現在の(最低でも)3倍の予算と人員をつけてからにしてほしいものです。

現場も知らずに調子をこくしか能のない馬鹿たちに、日本の社会を台無しにされたくありません。

(2000/10/09)


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