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弁護士と広告2

 前回、「2000年春から弁護士の広告が自由化される」と言いましたが、訂正しなくちゃならなくなりました。10月からです。3月の日弁連(日本弁護士連合会)理事会で可決されたんですが、10月1日から施行ということになりまして。3月制定、10月施行!まるで法律ですね。弁護士会は、以前はやれギルドだの徒弟制度だのと陰口を言われたものですが、いまやその域を脱して、官僚組織に似たものになりつつあるのかもしれません。

 それはそれとして。前回「戦前には弁護士が新聞広告出してた」と言いましたが、この際、昔の広告のケッサクなのをご紹介しましょう。以下の傑作の数々をものしたのは、山崎今朝弥というセンセイで、長野県出身、明治の末から戦後しばらくのころまで弁護士をやってた、まさしく奇人です。

 まず明治40年、開業早々、


公事(クジ)訴訟は弁護士の喰物(クイモノ)
東京米国大使館前 
弁護士・米博士 山崎今朝弥
電話赤局八○○番
弁護士頼むな公事(クジ)するな


注)「公事(クジ)」とは裁判のこと。
  「赤局八○○番」というのはホントの番号か、それとも「真っ赤な嘘」
  「嘘八百」のシャレか?よくわかりません。

 当時のフツーの弁護士さんたちはいたく立腹。「一体公事訴訟が弁護士の喰物という『喰物』とは何の意か?」という質問状がきました。今朝弥センセイ返信にいわく、
「さて御照会に相成り候『喰物』とは、口扁に食という字にて甘く参れば飯が食え、不味く参れば飯が食え申さず、此処が千番に一番の兼合いに御座候。」
すんでに懲戒処分を受けかかりましたが、きわどく立ち消え。
その後センセイは甲府市に移転。そのときの広告に、


売出しに付き 弁護士大安売      
甲府法務局長・平民法律所長 山崎今朝弥
甲府遊廓大門前旧化物屋敷       


このときは山梨の弁護士会だけではなくて大家さんからもクレームがつきました。そりゃまあ、自分の貸家を化物屋敷よばわりされて怒らない家主はおらんでしょうからね。で、センセイの出した取消広告にいわく、


旧化物屋敷の儀は今後家賃に障るとて大家大目玉に付全部取消


このときの懲戒処分騒ぎも立ち消え。急先鋒だった某弁護士は、
『マー君は少し○○○だという事だから許して置く事にした、また取消広告でも出されては大変だからナー』と言ったそうです。

ところで、

・この今朝弥センセイというのは、ごらんのとおり、めったにおらんような超人物でありますし(「大人物」かどうかは色々意見がありましょうが、フツーじゃないことだけは確かだと思いませんか?)、

・現代においては、せち辛くなっているというか、倫理センスが研ぎ澄まされてきているというか、こんな広告を出したが最後、チョーカイ処分を受けることは火を見るよりも明らかなので、10月以後にこのての広告がばんばん出てくるとは、くれぐれもご期待なさいませんように。嗚呼。

(注1.以上の広告等は山崎今朝弥著、森長英三郎編、岩波文庫「地震・憲兵・火事・巡査」より。なにとぞ著作権の問題なぞの発生しませんよう。)

(注2.広告のレイアウトその他は、紙幅およびタテのものをヨコにした関係上、原物と若干異なります。)

(注3.文中の伏せ字は、原典ではしっかり活字になっております。)

(2000/05/25)


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