2003年9月25日 >>PDFファイル 戻る民主党文書目次

国民と共に行動する「新しい政府」の確立に向けて
−政権準備委員会報告−


目 次

はじめに −政府が変わらなければ、政治も政策も変わらない−
1.民主党は、政府の質を改革する
2.強力なトップ・マネジメント力の確立のために
3.首相主導の新しい政府を樹立するために −政治主導実現のための行動プラン−
  (1)第一ステージ(選挙勝利後5日間)
  (2)第二ステージ(政権獲得後30日間)
  (3)第三ステージ(「100日改革プラン」の設定と展開)
  (4)第四ステージ(「300日改革プラン」の設定と展開)
4.結び:新政権による改革の計画的断行


はじめに
−政府が変わらなければ、政治も政策も変わらない−

わが国は、長引く経済の低迷と失業・倒産の増大、相変わらずの金融不安、巨額の財政赤字と崩壊寸前の社会保障制度による将来不安、犯罪の増加や教育の荒廃など社会的モラルの低下などに直面し、国の行方に暗雲がただよっている。国民は、先行きの不透明なこの日本社会に強い不安を抱き、その閉塞感を突破するために、政治のあり方に大きな変化を求めている。

しかし、小泉内閣の派手なパフォーマンスの陰で、改革は次々と先送りされてきた。どのように優れた政策が用意されたとしても、それを実行する強い意志と内閣を統合する強力な仕組みがなければ、改革はいつまで経っても実行できない。ましてや、政官業癒着の政治構造を基盤とする旧い自民党型政治に対して、政治の根本的な改革を期待することは、木に登って魚を求めるようなものである。

いま必要なことは、政治を変える実行力である。そのためには「改革プラン」とともに、それを形に変えるパワーと仕組みを備えた「新しい政府」の確立が欠かせない。

民主党は、政権交代を掲げる政党として、結党直後から「新しい政府」のあり方について検討を重ねてきた。1998年に第一次政権運営委員会の報告を、2002年には第二次政権運営委員会中間報告をとりまとめて、国民にその基本方向を提案してきた(各報告別添)。来るべき総選挙においては、改革政策とともに、その政策を実施する「新しい政府」のあり方を示したマニフェスト(国民との政権公約)を掲げて、政権交代の実現に向けて準備を進めていく。

(93-94年以降の「失われた10年」を振り返って)
1993-94年の非自民の細川内閣・羽田内閣以降、自民党を中心とした連立政権時代に入る。この間、多くの政党が離合集散を繰り返し、自民党中心の連立政権は選挙を経ずに数の論理で政権維持を図り、経済における「失われた10年」とともに、政治における「失われた10年」を作り出した。弱体化する日本の状況に対して、何らの方向性も示せず、有効な政策を実行できない政治の姿に、国民は大きく失望し、期待する意欲さえなくし、無関心層やただ観客として眺める人々が増えてしまった。「劇場政治」を演じる小泉内閣の誕生は、一瞬観客の喝采は浴びたものの、「かけ声」だけで実行が伴わないことが明らかになるにつれて、「どうせ誰がやっても変わらない」というような、政治に対する投げやりな諦観にすら変わりつつある。

こうした事態に陥った責任の第一は、「有言不実行」で政治の信頼を損ね、「無党派層は寝ていてくれたほうがいい」との有権者をないがしろにしてきた旧い自民党的政治にある。とりわけ「公約破り」の小泉不実行内閣の責任はきわめて大きい。

しかし、この状況を許し、「政治の空白」を続けてしまった責任から野党も逃れることはできない。選挙制度改革による小選挙区制の導入で、政権交代可能な二大政党を中心とした政治の舞台が整ったにもかかわらず、過去二回の総選挙ではその可能性を存分に生かし切れなかった。この選挙制度のもとでの「責任ある野党」とは、現政権の過ちや失政において国民が必要とする時に、政権交代を実現し、新たな与党として、それまでの過ちや失政を正し、新たな政策を実施できる党である。

この間の野党としての真摯な反省と責任ある野党としての新たな自覚に立ち、われわれはいま、新しい日本の創造に向けて、必ずや政権交代を実現する固い決意でいる。国民にとって信頼される政権の選択肢となるために、結党から5年間、党内論議をしっかりと築いてきた。そしていよいよ、改革勢力の結集に向けて、自由党との合併でその一歩を歩みだした。民主党は今こそ、「新しい政府」を実現するチャンスを生かす時を迎えている。

(政府が変わらなければ、政治も政策も変わらない)
何故、これまでの自民党中心の政権では、改革は実現できないか。権力の二重構造に大きな原因がある。

第一に、政府与党の二元体制である。政府の方針と与党の方針の相違をかくのごとく容認する政府は世界中見渡しても類をみない。ましてやその対立を収拾するどころか、むしろ煽り立て、政治ショーにする現状は国民を愚弄するものといわざるを得ない。

第二に、首相と各大臣の二重構造である。道路公団問題を例にとっても、首相の民営化の方針と全く異なる方針を打ち出す担当大臣の姿勢を首相自らがとがめる様子もない。建前としての内閣の連帯性とはうらはらに各大臣は首相や同僚閣僚との一体性などよりも一部官僚機構の利害を明らかに優先させている。

第三に、政と官の倒錯、官僚主導の政策運営である。あいかわらず官僚機構は、ここの官僚の資質や思いとはうらはらに、組織体としては、政治の意思、あるいは国民の意思とかけはなれた行政を行う結果となっている。残念ながら現状では、政策立案や予算策定を霞が関、とりわけ行政各部すなわち各省庁のみに依存する「官僚主導の政府運営」が続いている。政治は官僚の御輿と化し、首相の言葉は踊っても官僚は全く動かず、政は官へのコントロールを失っている。このことの責任は官僚よりも政治に存する。

以上の三つの権力の二重構造が、政策決定の責任の所在をことごとくあいまいなものとするとともに、族議員と天下り官僚の暗躍を許す「政官業癒着の構造」が放置されつづけている。

これらの「悪弊の三点セット」の上に乗っている今の小泉内閣が、「改革のかけ声」だけで、「改革の実行力」をともなわないのも当然である。そもそも、与党自体を束ねることもできない首相に、改革のリーダーシップを発揮することを望むことはできない。

一方、民主党も新しい姿に生まれ変わることなくして、国民の期待と信頼にこたえる政権を樹立することはできない。戦後、総選挙で政権交代を実現した例が稀であったことから、野党は恒常的な批判勢力との見方が一般的に強いことは事実である。しかし、小選挙区制の導入で、二大政党の間での総選挙による政権交代は現実味を持ってきた。今こそ、民主党が、さらに強く統合された意思をもった政党の姿を示さねば、従来の自民党政権との区別はつけられない。

民主党が軸となる新しい政府は、「与党と内閣の意思決定の一元化」をはかり、国民が選出した「政治主導の政府運営」を確立することを目指している。議院内閣制のわが国の政治機構においては、最大与党の党首である首相は、与党を束ねていることは大前提である。同時に、内閣の長として政府を完全に掌握してこそ、与党と内閣による統一した意思決定が可能となり、大胆な改革にもチャレンジできる。

そのためには、首相による「資質ある閣僚の選考とその補佐機能の強化・充実」が不可欠である。

首相は、自らのマニフェスト(政権公約)実現に最適な閣僚を選考・指名すると共に、官邸に人材を集めて、首相のリーダーシップ発揮のための補佐機能を強化・充実する。 日本の政治の質を変えるためには、各省の縦割り行政に依存するのではなく、官邸を中心とする内閣が主体的に官僚組織を総合的・横断的に指導する体制を確保し、明治以来この国の縦割り官僚主義の原因となってきた行政各部中心主義を根絶し、今こそ政府の担い手を抜本的に変えなければならないのだ。

このことは、政治家の質の向上抜きには実現しない。現在の官僚制度には多くの問題があるが、われわれは過剰な官僚バッシングではなく、むしろその原因を作り上げてきた政治の体質を変えなければならないと考える。内閣や政党内部における実力本位での人材登用、政治家の資質向上のための人材発掘や選挙制度のあり方、研修制度のあり方などを根本的に見直すことはまさに政治の責任である。

(いま、国民と共に行動する「新しい政府」を実現する)
民主党がめざす「新しい政府」は、首相のリーダーシップによる実行力ある政府であるが、当然のことながら、官邸中心の密室政治を志向するものではない。新たな官邸を中心とした政府は、国民と共に行動する政府である。

多様化した現代社会の問題は、国の様々な主体がそれぞれの特性を発揮し、互いに連携していかなくては解決できない。「新しい政府」は、幅広い国民、民間企業、NPOの政治や行政への不満や要望、期待をダイレクトに吸い上げ、各省庁の枠組みにとらわれず、官邸・内閣主導で迅速大胆に行政の悪弊を排除し、国民本位の行政を実現すべく機敏に行動するものでなくてはならない。

われわれがめざす政府と政党は、従来型の官僚内閣とその上に乗った自民党型利権政党とは異なり、(1)個人や企業、NPOなど法人の活動を支えるサポーターとしての役割と、(2)国民と共に考え、国民と共に行動する、国民にとってのよきパートナーとしての役割の、いわば二重の使命を果たすものでなければならない。一人ひとりの市民・国民の力を高めるための支援を精力的に行うとともに、そうした市民・国民が繰り広げる様々な活動や活力と手を組み、多くの難題にチャレンジしていくべきなのだ。

われわれが取り組むべき課題は市民・国民のエンパワーメント(自立力の向上)であり、また、政府と政党自体がその推進力の源を市民・国民との協働に求め、国民によってパワーを与えられた政府・政党でなければならない。

その意味で、「新しい政府」は、何よりもまず、「国民の声」を徹底して聴くことから始める政権でなくてはならない。旧い政府によってなされた政策の見直しに際しても、国民の声を広く受け止め、それを評価の基準として大胆に改革していく必要がある。

(「新しい政府」のためのマニフェストを提起する)
政府のあり方を根本的に改革する「政権運営のためのマニフェスト」は、迅速な判断力と強力な実行力に裏付けられた「新しい政府」のための指針を提示するものである。「旧い政府」のままでは、新しい政策は展開できない。マニフェストにおいては、われわれがいかにして「新しい政府」を作り出すかの具体的アクションプランが提示されなければならない。


1.民主党は、政府の質を改革する

では、われわれが目指す「新しい政府」とはいかなるものであろうか。

1993年の細川政権は、総選挙における民意の反映として、自民党が下野し非自民連立政権による政権交代を一端は実現し、現在の選挙制度改革までを達成した。しかし、短命で終わったために「政と官」の関係や、「官邸と霞が関」の関係、「政府と与党」との関係、「政治と業界と族議員」の関係など、戦後の日本政治を一貫して支えてきた旧来型政府の構造にはほとんど手をつけられなかった。民主党が目指す政権交代は、戦後の政権交代の中で初めて政府の基本構造の転換を目指すものである。

民主党は、98年の政権運営委員会中間報告で、「政権運営に関する基本的考え方」を提示している。それは、政治と官僚の癒着構造に支えられた政府のあり方を転換し、首相のリーダーシップによる政治主導の政府運営を実現するというものであり、その提案内容は、概要、以下のものである。

(1) 霞が関中心の「官僚主導型政府運営」から官邸・内閣中心の「政治主導型政府運営」へ転換する。
まず何よりも、国民が選出した政権与党の政治家による政治主導を支えるための官邸・内閣機能の強化が必要である。トップ・マネジメントに脆弱性を抱えた経営が成功することはあり得ない。官邸・内閣が霞が関(=官庁)のみに依存するこれまでの政府運営を大きく転換し、官邸に結集した政権チーム(=閣僚からなる政治チームとしての内閣)が、総合的に「霞が関」を指揮・指導する仕組みを確立する。
  
(2) 首相主導の下で、内閣と与党との意思決定を一元化し、政府=与党責任を明確にする。
これまでの政権に見られた与党と内閣の二元構造による意思決定の分散は、政府の効率を悪くするだけでなく、無責任な経営の要因ともなっている。これを排し、内閣の下に意思決定の一元化をはかる。一元化と責任の明確化はコインの裏表である。

(3) 官邸に首相主導のコア・チームを確立し、政府の戦略的トップ・マネジメントを可能にする。
政府のトップ・マネジメントには、首相と志を同じくする強力なコア・チームが必要である。官邸に主要閣僚の常駐体制を確立するなどして、強固な政治的意思統一をはかる。また、「霞が関」の人材のみに依存することなく、広く民間の専門的な知恵と人材を生かす仕組みを工夫する。

(4) 各省大臣官房に大臣のトップマネジメントを確立するための政策審議チームを創設する。
真の政治主導の実現のためには首相のみのトップマネジメントでは不十分であり、首相と志を同じくする各閣僚の政策的指導力を強化する必要がある。このため各省の大臣官房(実際は首相官邸周辺に配置)に、年次にとらわれない改革派官僚や民間人起用による大臣直属の政策立案チームを設置し、各省の原局の利益にとらわれず、大臣の政治的アジェンダ設定を補佐させることとする。

(5) 官邸・内閣発信の「基本方針」や「政策アジェンダ」及び「改革プラン」によって主導される行政の姿を確立する。
新首相は、内閣に基本方針を提示して政府運営の根本を定め、全行政組織がその指針の下で機能するよう徹底する。また、「マニフェスト(政権公約)」を軸に重点政策課題を絞り込み、その実現のために首相主導の強力なトップ・マネジメント力を行使する。

(6) 以上により、首相のリーダーシップに基づいて、縦割りの官僚機構や旧来のしがらみにとらわれず、長くとも半年、一年という単位で「目に見える」大胆かつ迅速な改革を断行する体制を構築する。

重要なことは、単に政権の座を求めることではなく、改革政策を実施していくために、上記のような「政府の構造改革」を実現することにある。

なお、官邸・内閣主導の政策運営を実現するためには、まず政治家自身がその政策的資質の向上につとめなければならないことは論を俟たない。官僚同様、政治家の登用に当たっても、旧来型順送り人事ではなく内閣或いは政党における適材適所の人事配置、選挙制度の見直しも含めた有為な人材の発掘、登用、研修制度の見直しを図ることが重要である。


2.強力なトップ・マネジメント力の確立のために

以上のように政府の質を変えていくためには、まずわが国の内閣制度における首相の地位を再検証し、トップ・マネジメントの力を十分発揮できるように態勢を整えることが不可欠である。

他国の議院内閣制で政治主導が実現されている例をみると、様々な議院内閣制がある中で、イギリスからドイツに至る「宰相システム(premiership system)」が参考になる。例えば、イギリスの首相は、他の閣僚たちの上に立つ「第一人者」であり、この仕組みでは、閣議は首相の権限を制約するのではなく、首相の主導の下での意思決定、内閣運営が行われることが大前提である。

われわれは、イギリスやドイツの「宰相システム」型議院内閣制をわが国の政治に開花させるべきだと考える。日本でも、首相のみが国会で選出され、政府を委任される仕組みだ。その正統性の根拠は、総選挙における国民が政権与党を選択し、政権を信託することにある。われわれは、日本においても、イギリス型の「宰相システム」の確立は十分可能であると考える。

首相は、内閣の首長(第一人者)として、自ら政府を運営し、「部下」としての大臣を自由に指名し、また自由に罷免する。彼に問われる最大の資質は、政府を運営し、強い力でリードするに相応しいスタッフを確保するという、優れた「チーム編成能力」である。そして、この自ら編成したチームのリーダーとして、イニシアティブを発揮し行動することが重要である。われわれは決定力と指導力のあるリーダーなしに、行動力と変革力をもった政府を手に入れることはできない。

政権交代の実現後、首相主導型の政府・政権運営をしていくためにも、野党の時点からその組織的基盤として、首相予定者による強固なチームの編成を提案する。このチームは、以下の任務に対応する。

(1) 政務的補佐機能の強化
党首(首相候補者)の行動計画に政治的判断を加えつつ、戦略的に進行管理を行う。

(2) 「政策の優先順位」づけなど戦略的な政治判断をサポート
幅広い政策のうち、何を、いかなるタイミングで優先し打ち出すかは、党首の判断問題である。党首がより的確かつ迅速な判断を行えるようサポートする。

(3) メディア政治時代への能動的対応
政党の最大の広告塔である党首がメディアを通じて、国民に好感される良質なイメージとともに、政策、説明責任でしっかりとしたコミュニケーションを図ることが極めて重要であり、メディア戦略とその展開が不可欠である。

(4) 「無党派」時代に対応する政党マーケッティング能力の確保
わが国の政治状況において、いわゆる「無党派」層の増加に対応する必要がある。揺れ動く有権者市場に対応するマーケット・リサーチ能力(すなわち国民の政治へのウォンツとニーズを把握する能力)を政党は十分に備えるべきである。

(5) 党首の意思決定と行動力を支える幅広い人材の調達
今日の複雑かつ専門家した社会にあっては、党首(首相候補者)の下に幅広い人材のネットワークが必要。すぐれた官僚経験者や経営者などの確保に取り組むべきである。

(6) 党首(首相候補者)の的確な政治判断と危機管理を確立するための情報活動
党首(首相候補者)に不可欠なことは、自らの判断材料となる有効度の高い情報の収集力の確保がある。情報収集体制を持つとともに、十分な危機管理能力を確立する必要がある。

以上、われわれの提案は、政権を目指す野党の時代から、これらの機能をチームとして、首相候補者たる党首の下に設定し、常に政権戦略を練り続けておかなければならないとの考えに立つものである。


3.首相主導の新しい政府を樹立するために
  −政治主導実現のための行動プラン−

(1)第一ステージ(選挙勝利後5日間)

われわれは、総選挙での勝利後ただちに「新たな政府」の体制づくりに着手する。

「政権移行チーム」の発足である。

この「政権移行チーム」は、首相予定者の下に、官房長官(党政策調査会長)、首席補佐官、官房副長官(3)、内閣補佐官(5)の任務に就くとされる政治家チームを置くととともに、同じく、無任所国務大臣(党幹事長)及びその下で国会対策、政務総括を行う政治家チームを配置し、それら両者を首相が統括する、事実上の官邸チームである。

政権発足後は、官房長官は政策企画・広報・行政統括グループの最高責任者とし、副長官には、「政策統括担当」「戦略広報担当」「霞が関・行政統括担当」の任務分担が適切に割り当てられることになる。同時に、政務、国会対策の最高責任者である党幹事長が無任所国務大臣として入閣し、そのもとに政務、国会対策を担当する副大臣が配置されることとなる。政策と政務を含めた最高レベルでの調整では、利益相反等の調整を安易に首相決裁としないためにも、無任所国務大臣に一義的統括権能を持たせることが適切である。 

重要な点は、「制度」の整備もさることながら、首相もしくは官邸が主導する「能力」あるいは「実力」によってはじめて政府の機能的運営が可能になるという点である。 事実上の内閣・官邸チームとなる「政権移行チーム」は総選挙勝利後、直ちに召集され、下記の事項に着手することとする。

(1) 主要閣僚の決定
党代表(首相予定者)はまず組閣に先んじて主要閣僚を指名する。同時に、政権移行チーム内及び主要閣僚との間で内閣運営の基本方針についても協議しておくこととする(後掲する閣議運営等)。また、閣僚の行動指針についても明確に提示し、与党と内閣の意思決定の一元化に資するとともに、効率的な政府運営の確立をめざす。

(2) 政治による官僚の指導体制(事務次官会議の廃止と副大臣会議の設置)
主要閣僚の官邸常駐体制を原則とし、内閣と行政との関係を明確にする。基本政策の企画立案は官邸・内閣を中心とした永田町(官僚・民間人スタッフを含む)で行い、霞が関は当該基本政策に則った政策の細部の設計と助言、分権後に中央に残された行政の執行に特化するという方針を決定する。

この考えに基づき、官邸主導を支える政治・外部任用の枠を拡大・活用し、政治による行政の指揮・指導体制を確かなものとする。そのための環境整備と政府運営のための基本指針策定準備に取りかかる。

先に述べた首相主導の内閣・閣議運営を事実上制約している存在として、事務次官会議を頂点とした官僚機構内部の意思決定手続きがある。政策の実務や技術的側面における事務的調整が必要であることはいうまでもないが、閣議案件の事前審査機関としての事務次官会議は原則として廃止することを決定する。

必要な各府省間調整は、副大臣会議がその機能を迅速かつ大胆なものに強化してこれを行う。ただし、あくまで政府の意思決定は、下記の閣議及び内閣協議会で行うことを原則とし、副大臣会議はそれを補完するものとして位置づける。

(3) 閣議のあり方の見直しと内閣協議会(インナー・キャビネット)の活用
首相主導の内閣運営を実現する。このため、現状の閣議の形骸化を廃することが必要である。政策の決定がコンセンサスに基づくことが望ましいことはいうまでもないが、事実上各省の拒否権行使の根拠となっている「閣議」の全会一致慣行や官僚による閣議案件の事前審査制についてはこれを廃止し、内閣の首長たる首相の「統括」の下での協議機関とする。また、関係閣僚による内閣協議会(関係閣僚会議=インナー・キャビネット)を積極的に活用し、柔軟で迅速な意思決定を行う。

(4) 内閣としての基本政策の確認
政権移行チーム及び主要閣僚間で、内閣としての政策理念、マニフェスト(政権公約)に基づく基本政策などを確認する。

(2)第二ステージ(政権獲得後30日間)

「政権移行チーム」での準備をふまえて、総選挙での勝利により政権を実質的に獲得してから、30日間で、新たな政府の政権運営の基本的な骨格形成を完了させる。

霞が関が中心の「官僚内閣」から、首相と閣僚が中心の「宰相内閣」への転換に向けて、官邸・内閣チームは、政権発足直後に電光石火のごとく行動しなければならない。

この時期に行うべき行動は以下のとおりである。

(1) 政権運営の基本構想の発表準備
首相を中心に政権移行チームメンバー、主要閣僚予定者によって、マニフェストや確認されてきた基本政策などをもとに、政権運営の基本構想を所信表明演説などの形で、国民により的確に伝えられる形で発表できるよう準備を行う。

(2) 予算編成方針案の策定
同じく首相を中心に政権移行チームメンバー、主要閣僚予定者によって予算編成方針案を策定する。

(3) 閣僚予定者の指名
(1)、(2)への賛同と協力を条件に首相が閣僚予定者を指名する。

(4) 副大臣予定者の指名
同じく首相が副大臣以下のスタッフを指名する。

(5) 100日改革プラン、300日改革プラン原案の策定

(6) 初閣議
首相の「内閣運営に関する基本方針」を提示するとともに、従来の官僚主導でなく官邸・内閣主導で「所信表明演説案」や「予算編成方針案」を作成する。また、政権発足後直ちに「100日改革プラン」及び「300日改革プラン」を取りまとめて国民に提示するための準備を開始する。

第一ステージで決定した事務次官会議の廃止と副大臣会議の発足を初閣議にあわせて実施する。

(7) 霞が関の再編成
各省庁の次官(一部局長)クラスには一旦辞表の提出を求め、新政権の政策運営方針及び主要政策内容に真に賛同する人材を登用する(再任を含む)。

その際、霞が関の年功序列人事を見直し、新官邸(各省大臣官房を含む)における政策スタッフを中心に幅広く民間人や改革派官僚などを年齢性別などにとらわれずに積極的に登用する。

(8) 内閣官房報償費の改革:厳正な政策的活用
旧来型政治の象徴であり、一連の不正流用の温床となってきた内閣官房報償費については、国の安全や外交等本来の国家機密に係る経費を峻別し、厳格な流用制限を課す。その上で、霞が関に依存しない政策的情報収集や外部専門家を活用した内閣における政策立案に活用することとする。なお、原則として、厳正な公開基準を設けた上、一定期間後、公表するものとする。


(なお、第2ステージ=30日間との考え方は、30日間の法定期間ぎりぎりまで準備をした上で特別国会を開会するとの考え方によるものであるが、前政権に30日の猶予を与えることにより首班指名その他の面でリスクがあると判断される場合には、比較的短期間(例えば1週間程度)で特別国会を開会し、首班指名及び数名の主要閣僚による併任暫定内閣の立ち上げを行い、その後十分な準備期間(一月近く)をかけて本格政権を編成するとのオプションも存する。)


(3)第三ステージ(「100日改革プラン」の設定と展開)

新政府は、政権発足後、国民との契約である政策マニフェストを基本に、直ちに「100日改革プラン」を国民に提示する。その内容には、現行法制度下で行いうる最大限の改革課題が盛り込まれる。

特に政官業癒着体質の下で惰性で行われてきた旧来型・利権温存型事務事業はこの段階で徹底して厳しく見直されなければならない

また、とりわけ「政と官の関係」について、基本指針を明示し、改革に着手する。

このため、

(1) 旧政権の無駄を糾す(「お化け退治」計画(=100の改革プラン)の策定)
首相の強いリーダーシップにより、旧政権下の無駄を正すために、各省ごとに5項目程度(全省庁で約100項目)のいわゆる「お化け退治」重点改革リストを絞り、首相と各大臣・副大臣のイニシアティブにより期限付きで退治計画を決定する。

(2) 「行政評価会議」の設立
―目安箱の設置と、国民参加による「お化け退治」―
首相の直属の下に、民間人又は政治家をヘッドとする強力な「行政評価会議」を設置し、短期集中で従来の行政を再点検する。


事務局スタッフは、既得権益に染まらず激務をこなせる30台半ばまでの若手を中心とした改革派官僚、民間経済人、女性や市民代表の混成チームとして、100日間かけて、聖域なくあらゆる既存政府施策の必要性、内容の適否、改善可能性についてゼロベースで検証を行い、国民の視点から見て無駄な政策、非効率な事業はすべて改める。同時に旧い政府の下での「政と官の関係」についても見直しの対象とする。

その際には、できる限り幅広い一般国民にアンケートや意見募集を行うほか(目安箱の設置)、関係各省庁からも公開でヒアリングを行い、国民の声を最大限反映させ、改革課題を再整理することとする。

などの思い切った政策見直しを100日間に集中して行うことが有効である。

このほか、「政と官の関係」に関して、
(3) 主要閣僚(副大臣・政務官及び各省中核政策スタッフ)の「官邸」常駐化
物理的執務場所もさることながら各閣僚が各省庁に先んじて首相以下のチームとしての内閣に連帯意識をもつことがきわめて重要。

各省庁は大臣・副大臣・政務官が中心にチームとなってマネジメントする。
(当面、新旧官邸、内閣府本府及び官邸周辺民間事務所を活用)

(4) ポリティカル・アポインティーの拡充のための、国会法第39条改正(国会議員の兼職制限の緩和)と国家公務員法第2条改正(特別職の拡大)の検討

(5) 政府による「予算編成方針」の明確な提示と、予算編成手続の改革(従来の各省庁の要求積み上げ方式の廃止、総理及び主要閣僚による大胆な予算シェアの変更)、新たな行財政管理(ニューパブリックマネジメント)的手法の行財政全般への全面的導入の検討開始。


の検討を開始する。

(4)第四ステージ(「300日改革プラン」の設定と展開)

政権スタート後における上記の「100の改革プラン」や「行政評価会議」の結果を受けて、国民生活に密着した重点政策課題や政府が優先的に取るべき政治課題についてとりまとめた「300日改革プラン」を国民に提示する。それらすべての改革政策は、期限と優先順位を明確にしたものであり、新政権と国民との新たな「契約」となるとともに、政府と国民ともに解決すべき「共通課題」という意味を持つ。

この段階では、マニフェストに明示された主要な内政・外交課題への当面の取り組みが主要な内容を占めることになるが、抜本的な政策制度の改革を行うにあたっては、以下に述べる「政と官の関係」の正常化(政治による官僚の活用)と縦割りの弊害除去が必要不可欠である。

(1) 財政制度改革を可能とする官邸・内閣機能強化
何よりもまず、予算編成、歳入構造改革を財務省をはじめとする霞が関にゆだねるのではなく、完全に官邸・内閣主導のものへと変換することが基本である。

結果的に族議員の跋扈を許す官僚主導の予算編成や税制改正と決別し、政治主導の予算編成・税制抜本改革へと切り替えるとともに、よりスピーディな改革が可能な進行管理の仕組みも合わせて整備する必要がある。

このため、
(a)内閣財政局を設置し、各省庁の省益を超えた大胆な予算配分の変更と思い切った税制改革を推進することにくわえ、

(b)公会計制度を改革し、隠れ借金を暴き、国家財政の費用対効果を明らかにすることにより財政の健全化を推進する。

以上の改革を実現するためにも、

(2) 政治の優位を確保し、各省庁の「縦割り根性」を根絶するための制度改革の検討
すなわち、

(a)天下り禁止とポリティカル・アポインティー(政治任用)のためのルールの作成と公務員制度抜本改正案の策定
事務官僚は行政の執行に特化させ、政策の企画立案は政治家及び政治的任用を受けた政策スタッフがこれを行うこととする。事務官僚と政策スタッフは異なる公務員規律に服するものとする。

例えば、事務官僚の天下り禁止、幹部公務員の特別職化(内部登用の場合一旦退職扱い)、外部任用幹部公務員の任用前の職歴審査と退職後の地位利用の厳罰化を含めた抜本的な公務員制度改革の検討。

(b)政治任用人材の処遇サイクルの保障となる政府系研究機関
 (例えば「国立政策研究所」) や民間・政党政策シンクタンク設立支援


(c)内閣法、国家行政組織関連法の見直しと「政府構成法」への転換、各府省設置法の廃止
各省の縦割り一家意識の根拠となり、行政組織の硬直化の原因となっている行政組織法定主義を見直すこととする。

(d)内閣法第3条(分担管理原則)の見直し検討
憲法72条で、内閣総理大臣だけに行政各部への指揮監督権が与えられている以上、指揮監督に関しては、各国務大臣は、首相から権限委任される形でしか、それを行使できないことを明確化する


(e)内閣法6条の改正と総理への直接指揮監督権の付与の検討
総理による縦割り行政組織や政官業癒着排除の指導力強化を、早急に検討する。

さらに、
(3) 従来の政策の失敗の見直し、「お化け退治」のパワー強化、あるいは行政の価値観を供給者中心主義から生活者中心へと転換するため、
(a)国会における行政評価院の設置と霞が関からの定員大幅移譲
(b)総務省行政評価局の内閣府への移管と職員の外部(民間)任用化

行政評価局には専門分野毎の民間専門家に加え、個別行政分野に特化しない、生活者や女性の視点から行政の問題点を分析・評価できる外部人材を登用することが適切である。

を早急に実現するほか、

(4) 不徹底であった特殊法人改革を全面的に再度徹底する(例外なく、廃止、民営化、又は独立行政法人化)
すべての独立行政法人と公社公団は非公務員組織とすることは当然である。

なお、諸改革を大胆かつ迅速に断行するためには、政権が一体となって困難な課題に取り組み、一部の野党や旧来型の官僚・業界などの抵抗勢力による工作によって分断されないことが肝要である。

真の政治優位の一体となった政権運営を確保するためには、日常の執務・情報共有・意見交換等の面で内閣の緊密な連絡連携体制の整備が重要である。

政治的意思決定の場として、新旧首相官邸、内閣府本府まで含めた広義の「官邸」の施設・機能の更なる拡充も軽視し得ない課題のひとつである。


4.結び:新政権による改革の計画的断行

民主党を主軸とする新しい政権の誕生は、日本の統治構造を質的に転換する大事業の実施を意味する。

われわれがめざす統治構造は、
(1) 道州制の導入や税財源の地方移譲を行い、民間や地域、或いは市民セクターに任せるべきことは思い切ってそれらに任せ、量的には小さな中央政府を目指す とともに

(2) 政権中枢の権力の二重構造を廃し、国家がなすべき課題については、より迅速で大胆、かつ、責任の所在を明らかにした政策判断を行いうる、強靭な内閣体制 の構築なのである。

以上述べてきた「政権樹立と新政府展開における4つのステージ」は、本年11月にわれわれが政権を獲得することを念頭に、
(1) 年内の政権本格始動、
(2) 本年度内における明確な政治刷新(利権構造解体計画)、
(3) そして来年一杯かけての本格的な改革プログラムの実施(日本再生計画)
までを視野においた、われわれの改革断行のロードマップである。


あらゆる抵抗を押し切り、本計画を着実に進めることで、民主党は、新政権を樹立し、わが国を強く甦らせ、再生する政策を確実に実行していく。

他方、それを実現していくために強力な推進力となるのは、何よりも国民世論の熱い支持であり、それとともに、結束力の高い官邸・内閣チームの組織と運営である。

そのためには、単に官僚を悪者とし、官僚バッシングを行うのではなく、民主党を含めた政党や政治家自身が国民からの政策運営面で信頼を得るために、その資質の向上、人材登用、意思決定のあり方、選挙制度などの各面でさらなる努力を行わなければならない。

われわれは、政治家がその資質を高め、個別利益誘導でも、選挙目当ての人気取りでもなく、高い理想のもと国益本位の政治を行ってはじめて、本来は国を憂い公の利益の実現のために奉職したはずの官僚を真の国益に回帰させることも可能になり、政府が一丸となって国民本位の政治と行政を行えるものと信じる。

本報告は、その実現のための問題提起にほかならない。代表はじめ関係各位が、この方向に沿って、直ちに、迅速なリーダーシップを発揮されることを強く期待する。

以上、報告する。

政権準備委員会委員長
仙谷 由人

【民主党政権準備委員会】

委員長
事務局長
委  員
 仙谷 由人
 松井 孝治
 荒井 聰
 玄葉光一郎
 浅尾慶一郎
 中川 正春
 古川 元久
 枝野 幸男
 鈴木 寛
 樽床 伸二
 阿久津幸彦
 山花 郁夫
 福山 哲郎
 中山 義活

2003年9月25日 戻る民主党文書目次