2001年2月27日 戻るホーム民主党文書目次

21世紀の教育のあり方について(中間報告)

民主党 教育基本問題特別調査会

(はじめに)

日本は今、経済、雇用、教育、コミュニティー、情報、子育てなど多くの分野で、社会の急激な変容と緩やかな崩壊に直面しています。政治には何よりもまず、この変容に応えていく使命があります。社会の基盤を再構築し、不安のない未来へと繋いでいかなければなりません。

教育も例外ではありません。いじめ、不登校、中途退学、学力低下そして学級崩壊という現象が進行し、青少年の凶悪犯罪も大きな社会問題となっています。今、教育改革が急務です。

 このような中、昨年、総理の私的諮問機関として教育改革国民会議が発足し、12月に最終報告が打ち出されました。その中で、「新しい時代にふさわしい教育基本法を」という一つの項目を立て、「教育基本法の見直しに取り組む」必要性を説いていますが、極めて曖昧な表現で説得力がありません。

 これに対して私たち民主党では、昨年より教育基本問題調査会を設置し、民主党の教育ビジョンや教育基本法のあり方について議論を重ねてきました。

 もちろん民主党は、一部の保守勢力が志向する「国家至上主義的」「全体主義的」改悪に反対です。民主党はあくまでも、時代の変化に逆行するのではなく、明日の日本の教育理念を作り上げたいと考えます。社会の荒廃の一部である教育の荒廃は、教育基本法の改正で解決するものではありません。
この視点に立ち、ここに、民主党の21世紀の教育のあり方について提案します。


(教育のあり方について)

 民主党が目指す社会は、個人の自立と確かなモラルに支えられた共同社会という基盤の上で、国民一人ひとりの自由な創造性が発揮される社会の実現です。それは、世界の国々や人々から信頼され、世界と共に行動する日本となることでもあります。

私たちは、日本という国に誇りを持ち、国民と国民のエネルギーを何よりも信頼しています。学校教育においても、子どもや教師と共に保護者、地域の主体的な参画が改革の鍵を握っていると考えます。そのために教育の多様性を確保し、保護者や地域のやる気を形にします。地方分権を徹底し、各地域、学校が特色を活かして教育を行えるようにします。その中で、各ライフステージに必要な教育を実現します。

人にはそのライフステージごとに相応しい教育や学習が必要です。乳幼児期においては家庭教育の充実、初等教育では基礎・基本の習得、中等教育は教養と社会性の充実、高等教育では科学技術の振興や時代の進歩を先取りする創造力の充実が求められています。

また、すべての世代において21世紀に相応しいグローバルな感覚が育つように、文化を尊重し、人権、環境、国際感覚、思いやりの心などを培うことも必要です。
民主党は、人間の尊厳が確立されたモラルのある共同社会が実現するように人権を尊重した教育を目指します。生涯学習を振興し、個々人の充実した人生が可能になるだけでなく、地域などの教育力を高めます。また家庭の教育力を強化するために環境を整備します。

この21世紀型の教育を実現するには、社会全体にわたる幅広い視点が必要です。教育を日本社会、国際社会の観点から位置付ける、新しい時代に相応しい総合的教育法体系が必要です。

民主党は以下の7つの視点にたって包括的に、教育改革を推進します。


1.教育の多様性と地方分権の徹底

 戦後の日本の教育は文部省主導の下、全国画一的に実施され、個性や特徴のないものになってしまいました。

 もちろん「読み、書き、そろばん」といわれたような基礎・基本の充実は一層強化すべきです。あわせて、今必要とされているのは、教育の多様性です。一人ひとりの子どもが大切にされていると実感できる柔軟な教育のシステムです。

 教育における多様性を確保するには、まず教育の地方分権を進め、各地域の実情に応じて、各々の判断で教育が行えるようにすることが必要です。

 国の役割は、必要不可欠なナショナルスタンダードを定めることとし、その他の権限は最終的に地方自治体が行使すべきです。

教育行政の主体的担い手は地方自治体であり、教育委員会は地域に根ざした民主的な教育行政を実現すべきです。教職員の資質の向上をはかりつつ、公立学校は地域住民参加型の下に運営されることを明確にします。

また私学は、教育の多様性の観点からも、今後益々重要な役割を担うものであり、その主体性、自立性を尊重すべきです。


2.人権尊重社会の実現

 民主党は、21世紀を、人間の尊厳が確立される人権の世紀にしたいと願っています。人権の抑圧や侵害を引き起こす様々な偏見、差別意識を排除し、多様な文化や価値観が共存する社会を作ります。憲法に規定される国民の権利と義務を正しく理解し、各々の人権を尊重しあう「人権文化」を培うべきです。

特に他人の権利を尊重するためには、自らの義務を果たす必要があるとの意識を涵養することが大切です。

そのため、家庭、学校、地域社会、職場などあらゆる場面で人権に対する理解を深め、人種、信条、性別、障害、社会的身分又は門地などによる全ての差別の撤廃に向けて努力をします。

「All for one,one for all.(一人は万人のためにあり、万人は一人のためにある。)」

すなわち人権を守るためには、コミュニティー、国家、国際社会の構成員としての自覚と責任をはぐくむ教育が必要です。


3.生涯学習の理念・体制の確立

科学技術の進歩や情報化社会の進展に伴う社会・経済の急速な変化の中にあって、人々は多様な学習活動の機会を求めています。

人生の各ライフステージで、いつでも、どこでも多様な学習要求に応えられる生涯学習の機会が提供されてこそ、より充実した人生を送ることができ、社会の発展につながっていきます。

学校教育、社会教育、家庭教育の各活動の相互の提携、協力を強化し、かつ、これらの諸情報を広く提供することなど生涯学習の体制を構築します。


4.家庭教育の重視

 家庭はもっとも大切な教育の場です。家族は社会の基本的構成単位であり、家庭は自他の関係を学ぶ最初の学舎です。親または保護者は、子どもの成長段階に応じた躾を行ない、社会の構成員として健全な成長をとげるよう適切な教育を行なう必要があります。

 家族、家庭に恵まれない子どもたちに対しては、それに代わる場が保障されなければなりません。

 家族形態の多様化やライフスタイルの変化等により、個々の家庭だけで家庭教育を担うのは難しい事実があります。そこで、学校、地域等との連携を強め、家庭教育の支援を積極的に行えるよう重点的に環境を整備します。  
 

5. 文化の尊重とアイデンティティの確立

教育には、子どもの内在能力の開発と文化・伝統を継承するという二つの使命があります。世界のいずれの国の教育においても正しい歴史認識を身につけ、自国の文化・伝統を継承し、発展させることは、その国のアイデンティティとして重視しています。

自国の文化に対して誇りを持ち、正しい郷土愛や愛国心を持つことが、他国の文化に対する理解を深め、ひいては世界の平和に貢献できる日本人を育てることになります。

日本は、閉鎖的な島国意識から脱皮し、世界に開かれた海洋国家として、国際社会の平和に積極的に貢献すべきです。その目指すべき国家の姿を教育においても共有していく必要があります。

 
6. 環境教育の重要性

 21世紀という新しい時代にも、地球市民社会の繁栄と発展を継続するには、地球環境の保全がその大前提です。しかし、人類は、大量生産・消費型の社会構造から抜け出すことが出来ず、地球環境は悪化の一途をたどっているといっても過言ではありません。

 日本は気候・風土の面から豊かな自然に恵まれてきました。だからこそ、自然環境保護を大切にし、地球環境の保全に積極的に貢献すべきです。

環境問題を克服するには、様々な政策が求められますが、その基本は環境教育を充実する以外にありません。環境問題に常に関心を持ち、環境保全を実践する人材を育成することが何よりも重要です。


7. 科学の発展と高等教育

資源の少ないわが国は技術力の面で他国をリードし戦後の経済成長を実現しました。しかし今日では、特にライフサイエンス等において欧米の水準から遅れているのが現状です。このような状況を転換し科学技術立国にふさわしい体制を整えるため、研究者や技術者の養成、地域・研究機関における科学技術振興、産学官の連携強化などの総合的な施策を推進します。

21世紀の日本を発展させ、さらには世界に貢献できる高度な専門能力、創造力を持つ人材を育成し、それと同時に学びたい人すべてに、また地域に開かれた学問の府として、個々人の知的欲求に応えるとともに社会に貢献していく多様で柔軟な高等教育を実現します。
 

(教育基本法の一層の具現化、発展を目指して)

教育基本法は、日本国憲法の理念の下に長く戦後日本の根本法規として、教育における尊重すべき普遍的な理念が規定され、これまで大きな役割を果たしてきました。民主党は、現代においてもこの教育基本法の理念を評価し、さらなる具現化、発展を目指します。

また、教育基本法の理念が現実に生かされず、教育の荒廃を招いた原因について精査していきます。

以上

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