1987年 

戻る目次前へ次へ


売上税粉砕  序盤における国会闘争
国会対策委員長 楢 崎 弥之助

 いま、第一〇八回国会は一月二十六日再開以来、遠くは三十五年の安保国会、近くは五十一年のロッキード国会を思わせる久しぶりの緊迫した空気に包まれています。

 一月二十六日、総理は施政方針演説のなかで昭和二十五年のシャープ勧告以来三十七年ぶりの税制大改悪である売上税について、単に税制改革を推進するという文字だけで、売上税の「ウ」の字にも触れませんでした。

 「国会や自民党の反対するような大型間接税の導入は絶対にしない」と昨年の衆・参同時選挙で公約して三〇〇議席を獲得した中曽根内閣にしてみれば、その舌の根もかわかぬ間の売上税という名の“大型間接税導入”では、公約違反の大合唱のさなか、さすがに売上税に触れるのが照れくさかったのかどうかは分かりませんが、これでは各党党首の“代表質問は行えぬ”という道理ある野党の主張に屈して、四日間を空転した挙句、やっと本会議で補足の形で税制改革とは売上税導入のことだと訂正しました。

 しかも土井社会党委員長の質問に対する答弁のなかで、何を血迷ったのか「十一兆四〇〇〇億円の減税−」というとんでもない間違いの数字をあげ、今度はその答弁訂正の形で、「一兆四〇〇〇億円は十一兆四〇〇〇億円の間違いだった」とダブルミスの答弁を繰り返したのでした。まさに 「殿!ご狂乱」の想いであります。

 今度は慣例にしたがって、代表質問後「62年度予算案の主旨説明をさせてくれ」という。ところが、重要な歳入予算の売上税に関する七法案が一本もまだ国会に提出されていません。レストランで食事をしようとしてメニューを注文したら、ウェイトレスから「まだ印刷されていません」と言われたようなもので、複雑な仕組みの売上税の内容が全然分からずに予算委員会の質問に入ってくれと言われても、質問のしようがないのです。

 ところが三〇〇議席におごる自民党はついに二月四日午後五時すぎ、憲政史上例のない主旨説明の単独審議を一党だけで強行したのであります。

 問題は単に売上税の内容にとどまらず、議会制民主主義の破壊に発展していくかもしれません。当然われわれは砂田予算委員長の責任問題と、二月四日の主旨説明の白紙還元を要求することになりました。

 いまや社会、公明、民社、社民連の共闘は一糸も乱れず、売上税粉砕の強固なトリデを築き、野党の存在を誇示しつつ、国民怨嗟の的である売上税を粉砕するまで、息の長い闘いを院内外呼応して展開してゆく決意であります。

(1987年2月18日)


年収六百万円以下なら実質増税
政策委員長  菅 直人

 第一〇八国会は「売上税」の導入をめぐって、予想通りの激しい与野党の攻防が行われています。そこで「弱い者いじめ」「金持ち優遇税制」と言われるこの“税改悪”の正体と、わが党の売上税粉砕のための取り組み方を菅政策委員長に語ってもらいました。

―― まず最初に、売上税が導入されれば日本の経済にどのような悪影響をもたらすのでしょうか?

 現在、日本は円高不況ですね。
 もし、この超大型間接税が導入されれば消費の抑制につながり、一層の不況が起こるでしょう。

 分かり易く説明しますと、商品は、メーカー→問屋→小売店と流通しますが、この各段階に課税されるのが売上税です。しかし、商品の返品等が起こった時など税務所との間の手続きが煩雑になり、メーカーから直で小売店へ品物が動いたり、中小の小売業者等は記帳や税額票等の納税事務をこなしきれずに、取り引きの過程から排除されてしまう恐れがあります。

 つまりデパートが一カ月一億円売り上げると、その五%の五〇〇万円が税金となる。この時に仕入れ業者が八〇〇〇万円で納入し、その五%の四〇〇万円を税金で払えば、デパートは 500万円−400万円=100万円を払えばすむ事になりますね。よって大手の業者は納税事務をこなせない弱小業者とは取り引きを行わなくなる訳です。

 これによる業界内の淘汰と合理化が起こり、雇用不安と失業問題が発生するでしょう。

―― 私たち個人の生活はどうなるのでしょうか?

 自民党案は、(1)売上税とマル優廃止によって、(2)所得税、法人税の減税を行うというものです。つまり増減税同額だから、所得税の減税分は(1)から法人税分を引いただけのものになる。当然トータルすれば増税の効果が大きくなります。

 政府は法人税の減税も株主や消費者を通じて還元されると言いますが、日本の場合、個人株主は三割程度で、あとは企業同士が株を持ち合っています。現在の厳しい経営環境を考えれば、個人に減税分が還元されるのは望み薄でしょう。

―― 年収六〇〇万円以下の人達にとっては結局、増税となるでしょうか?

 所得税減税より、マル優廃止と売上税の負担の方が多くなりますね。年収八〇〇万円くらいの人々でやっと所得税減税の恩恵を受けるのではないですか。

―― 売上税に対する国会内での取り組み方は?

 社、公、民との野党四党で「売上税等粉砕闘争協議会」を設置し、一糸乱れぬ結束で頑張って行きたいと思っています。

 また党内部にも「売上税等粉砕闘争本部」(本部長=江田五月、副本部長=阿部昭吾、菅直人、事務局良=楢崎弥之助、事務局次長=石井紘基)を設けています。

 また社民連としての税制改革案は以下の通りです。

(1)基本的考え方
 我々社民連は、税制改革における最大の眼目は「不公平税制の是正」であると考える。特に近年、所得税における“自然増税”のため、給与所得者の負担は過大になっており、この是正が急務である。

 また、今日の貧富の差はフローでは比較的縮まったと言われるが、ストックにおいては大きな差がある。キャピタルゲインや土地に対する課税についても、ストックの差を縮める方向での是正が必要である。

 さらに我々社民連は、地方自治の推進のため地方財源の拡大につながる税制改革が必要と考えている。

 このためにとるべき方向は、シャープ税制の総合課税の原則に戻るべきであり、売上税の導入は全く方向を誤っていると言わざるをえない。

(2)具体的税制改革案
(1)所得税・住民税の減税
 課税最低限の引上げと累進税率の緩和により中堅所得層を中心に大幅な減税を行う。

(2)自営業者との公平化のため、給与所得者について「2分2乗課税」を導入する。

(3)総収入申告制を導入する。

(4)マル優制度は限度管理の徹底を図りつつ存続させる。

(5)有価証券等のキャピタルゲイン課税を強化する。

(6)土地については、公共投資によるキャピタルゲインを公に還元し、同時に宅地供給が図られるよう、三大都市圏の農地の宅地並課税の実施、キャピタルゲインヘの課税強化を行う。

(3)減税の財源

 自民党は所得減税の財源として売上税とマル優廃止による増税を当てるしかないと主張しています。しかし我々は、減税財源は売上税を導入しなくても次の方法により十分まかない得ると考えます。

(1)財政支出の内、農業関連の補助金や肥大化した防衛費の削減など行政改革による支出削滅。

(2)総収入申告制などによる公平な所得把握による増収。

(3)キャピタルゲイン増税の強化。

(4)マル優の限度管理の徹底による増収。

(5)医師優遇税など不公平税制の是正。


戻る目次前へ次へ