1977年4月24日 社会市民連合結成に向けて

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公開討論会――連合の課題と展望

社会市民連合 江田三郎
労働問題研究会 田中尚輝
参加民主主義をめざす市民の会 菅直人
アドパイザー 篠原一・青木茂
(司会)片岡勝

T 公開討論会開催の経緯

片岡 「参加民主主義をめざす市民の会」の私が司会進行役を務めさせていただきます。
 本日のスケジュールは、一時間半ほど、社会市民連合と私どもとアドバイザーの篠原一東大教授と青木茂サラリーマン同盟代表でパネルディスカッション、そのあと一時間ほど会場のみなさんと議論する、という形です。

「参加民主圭一耗をめざす市民の会」の紹介
 最初に、私どものグループの自己紹介から。
 私ども、一九七一年に土地問題で「より良い住まいを求める市民の会」をつくって、市街地農地の宅地なみ課税推進について精力的な運動を行い、このときの運動が現在まで含めて私たちのグループの一つの特色になっています。都留重人さん、青島幸男さん、市川房枝さん、青木茂さんなどを招いてのシンポジウムをやったり、大学祭での資金かせぎを自分たちでやり、そしてシンポジウム等で政策を勉強するというパターンを続けています。

 その後、安全な石けん共同購入や現地の産地直売などをしたりする中で、どうしても政治にかかわっていかなければ問題が解決しないということで、三年前の参議院選挙に市川房枝さんをかついで、資金集めをしながらの選挙をやりました。

 また、機関紙を出して活動の報告をしたり、連続市民セミナーで勉強会を続けたり、全国の市民運動グループともネットワークを広げながら、前回の統一地方選で“市民運動の流れを議会へ”というスローガンで市議選・区議選を闘いました。

 去年、ロッキード事件がおきた際、全国的に立ち上がろうと呼びかける中で、参加を保障するための分権化とか土地問題の政策を問うて菅直人君を候補者にして衆議院選を闘い、次点におわりましたが七万一三六八票をとりました。

 現在、政策立案能力を高めるための勉強会やコンサート、田無の市長選で高橋候補を応援したりの活動をしています。

公開討論会開催の経緯
 最近、去年結成の新自由クラブや今回旗上げされた社会市民連合が「参加」とか「無党派の市民」とか「分権」とか言われていますが、私どもも前から参加・分権化を主張してきました。それが選挙の公約的な口先だけなのかどうかということで、直接的に対話してみようというのが今回の申入れの主旨です。

 今回の公開討論会は、そろそろ市民も責任主体として政策および政治のあり方について建設的な議論をしたいと考えてのことです。


形成過程の社会市民連合
江田
 最近、ジンマシンで悩んでいるのですが、ジンマシンというのは肉体が若いことの証明だそうで(笑)、大いにがんばりたいと思っています。今回の公開討論はむしろ私どものほうからお願いしたいと思っていたくらいで感謝しています。

 社会市民連合は、カッチリした組織ではなく、いうなれば星雲状態です。自由な社会主義を追求してきた人、市民の自主性にもとづく運動を進めていかれる人、そういう人々がタテの関係でなしに、各々が対等であり平等であるというヨコの関係で、新しい政治集団をつくっていこうじゃないかということで、目下できつつある状況であります。

 昨日、社会市民連合の政策大綱を発表しましたが、あくまでもたたき台です。また、今日のこの公開討論会も、できあがりつつある私たちのグループのめざすものをより深め、高めていく機会にさせていただければと思います。


批判の側からつくる側へ
岩根 
私も社会市民連合の一員ですが、むしろ私は、昭和四十年につくった生活クラブという組織で十二年間活動してきたなかで感じた問題を話したいと思います。

 社会市民連合でなら、私たちがやってきたことが生かせるのではないか。もっと極端にいいますと、自分たちの組織が許容できる政治集団をつくらなければいけないんじゃないか、批判の側にまわるだけではなくて、つくる側にまわらなければいけないんだと。そういうふうに考えて選択した社会市民連合の立場で、活発な議論に参加したいと思います。


市民と労働組合
田中
 私はまだ社会党に籍がある者ですが、今日出席させていただいたのは、一つは、社会市民連合の発展が現在の日本の政治状況において非常に重要な役割を果たすのではないか、ということです。とくに労働組合運動との関係では、直接的には総評と社会党のブロックの癒着状況の破壊、それと同盟と民社党との関係の破壊につながっていくのではないか、自立した労働組合と自立した政党の協力関係ができていいのではないか、と私は常々考えています。

 本日は、アクティブな市民のみなさんと労働組合について考えてみたいということで参加させていただきました。


五五年体制に対する衝撃
篠原
 私は現在、私の言葉でいえば一九五五年体制の崩壊というものをトータルに痛感しているところなので、今日の公開討論会、政党に準ずる準政党的なものと市民団体が話合いをやる意義は大きいと思い、出てまいりました。

 今日の主役、社会市民連合への注文ですが、ここで話が出て「結構だ」となったら、絶対それを守っていただきたい。「本当にやるのか」ということについて、あとまでみていきます。高齢者である江田さんと若い層が討論するのは、非常におもしろいとりあわせだと思います。


双方からの魅力
青木
 私も出て来いと言われて来たのですが、ちょっと公開討論会の域を出て、何か見合いのような感じがしてとまどっています。(笑)

 社会市民連合と参加民主主義をめざす市民の会とはお互いに魅力を感じるところがあるのではないか。しかし、うわべの魅力だけで結びついた関係は、既成政党のいわゆる札勘定の離合集散になってしまう。

 市民というのは、現在の自民党を中心としてあるマネタリー・アニマルと、社会党の一部と共産党にあるイデオロギー・アニマルに対して非常に激しい拒絶反応を持っている。しかし、いま市民は市民なりの政治見解を固めつつある。今日の会は、うわべの魅力だけで言い合うのではなく、中身の魅力について双方が確認しあってほしいと思います。


II 社会市民連合と労働組合

片岡 今日の論点は四つで、第一点は、市民型政治グループのあり方と第二社会党的労働組合政党化への懸念。第二点は、労働組合政党が十分に取り組めていない政策への取り組み。第三点は、社会主義という言葉の持つ心心情的論理と政治論理の区別と、本家争いの不毛性について。第四点は、政党間の連合。

 これらのテーマについて、まず、第一番目の質問は、労働組合依存型の政党から脱することができるかどうかということについてです。


労働組合の利益代表としての社会党
 私は、社会党の一番のポイントは総評・労働組合との関係じゃないかと思います。ある見方でいえば、一九六〇年までに得た社会党の歴史的な遺産と、利益団体としての労働組合の総評が重なったものがいまの社会党ではないか。利益団体としての労働組合に操作されて社会党があったのではないか。

 だから、市民連動のなかでいろんなテーマを持っていても、社会党はそれにとりくめない。スローガンとしてはとりくむけど、実態としては、労働組合のことさえやっていれば次回も安泰だという意識と体質があるので、言葉としてはやっても実態としては動かない。この点について、社会市民連合でほどのように考えていかれるのか、お聞きしたい。

江田 これが決定的だというわけではないのですが、私たちがめざす第一のテーマは個人の自主性を尊重するという点で、だから民主集中性をふり回す社会主義協会を批判しているわけです。

労組の社会党支持の限界
 私たちは、新しい社会を築くためには労働者を大事に考えていきたい。労働者というのは、職場では労働者ですが、家へ帰れば市民なのです。その面においては、家へ帰った労働者の自主的な活動を高めていき、それが地域の他の階層の人人と手をくんで、参加の民主主義に発展していく、そういう方向が大事だと思っております。

 今回の私どもの行動について、総評には反発がありますが、全民懇は支持し理解することを決めてくれております。労働組合には、いままでのやり方ではなく、先ほど申しあげたような協力体制をつくっていければと思っております。


労資関係に市民的民主主義があるのか
田中
 現実の労働組合と政党との関係でいえば、社会党は組織労働者の代表の議員が衆参わせて約七割ぐらい。あとの三割でようやく市民層の意見を代表できるという構図になっている。問題は、どういう形で労組との癒着を破壊することができるかというのが今日の討議の一つの柱だと思います。

 僕は市民と労働者の対立ではなくて、労資関係のなかに市民的民主義がないのが一番大きな問題だという気がしているんです。日本は企業別本工型労働組合ですから、組合幹部が企業の利益を一定程度代表するし、組合員もそれを受け入れない限り、自らの雇用と労働条件を守れないというふうに考える。だから、労働者と市民の関係は、連帯的な連合的な発展が課題だと思います。

 いったん労働組合と政党の間を切らないと、お互いに自立しないのではないでしょうか。

 私なんかの感覚では政党支持の自由は当然であたりまえのことなんですけどね。

労働者は革新の中心か
 江田さんの話を聞いていると、労働運動がすべての革新の中心であるという感覚がまだ残っていると思います。ところが、健康保険や年金の問題を例にとると、官公労や大企業労組に属している人とそうでない人との間に大きな格差がある。そのこと一つをとっても、労働者の政党か生活者の政党かというのが、非常に重要な分れ目になってくると思うのですが。

江田 私の言葉足らずだったかもしれますんが、私は労働者というより、働く者を中心にする政党でなければならないと思うのです。そして社会市民連合としては、将来、社会よりも市民に重点がおかれるべきだと思う。いうならば人間の顔をした新しい社会主義、これを構築していく。したがって、今後は労働者が経営に参加するという側面だけでなしに、地域住民が公害なり価格なりその他の問題についても発言できるような足場を築いていく、そういう中で市民と労働者が提携できると考えています。


市民の自発性と労働組合
片岡
 政党支持の自由は、ぜひやってほしいですね。一つ聞きたいのは、労働組合からの組織の協力を今後どのようにやっていくのか、第二点は市民層よ結集せよ、と上から呼びかけて、うまくいくと思っていらっしゃるのか。

政党支持の自由についての考え方
江田
 これだけ価値観が多様化している世の中で、一つの政党支持をおしつけるのは、もはや限界に来ている。ただ、政党支持の自由は、労働組合も政党も市民団体も個人も、すべて横の関係だという前提がなければ成り立たないと思う。

 それから、市民パワーの結集は自主的に盛り上がるものではあるが、では何もないなかで盛り上がって大きなパワーになるかといえば、これも疑問です。だからわれわれは議論の叩き台を提供したわけです。東京と京都でその集約した意見が違っても構わない。それをどう調整するかは、その次に来る課題でしょう。

 とにかく、労働者一人一人の自由なる意志にもとづく政党支持でなければ、本物じゃない。

片岡 具体的に聞きますと、選挙についても労働組合から専従の応援や資金援助を受けないで、ボランティアの市民だけでやるということですか。

江田 一つのパターンを決めて、賛否ということではなく、例えば全電通の社会党支持委員会のように組合員が納得して参加して金とエネルギーを使うというのは結構なことだと思いますね。


III 市民型政治グループのあり方

院内政党と院外政党
 市民型の政党とはどういう型であるか、考えてみたいと思うのです。

 市民運動を中心とした地域政党を院外政党とすると、そこで予備選挙方式で議員を選出して院内政党へ入ると議員という形になる。そのとき、いまのように労働組合が候補者を選んでそこが請け負うという形ではなくて、地域政党と院内の政策スタッフおよび議員というものとを分けて考えるのはどうかと思うのですが。


問われている政党の組織構造
岩根
 いまの話は、イギリス労働党の組織論に似ているような気がします。
 社会市民連合の組織を考えると、縦ではなく横の関係ですね。独立した団体であること、中央の社会市民連合と都道府県段階の社会市民連合、あるいは行政区での社会市民連合がまったく独立した存在であることが、一つ大きなことなんじゃないかと思います。基本的には、個人があって個人の集合体としての組織があるんであって、組織の方針に基づいて個人が動くんではない。

 いずれにせよ、中央にすべて権限、権力を集中してしまう、ゆだねてしまう形をどうこわすかという点が中心課題にならなければいけないと思います。

社会市民連合の組織論
 組織のなかの政党で一番問題になる意志決定については、徹底した討論の上に最終的には個人の決定にゆだねるというルールの確立が必要であろうと思います。また、組織のあり方については、絶対統制ということをさける。それから組織関与についても、契約的な組織関与をすべきだろうと考えます。出た議員と選んだ地区選出母体との緊張関係を絶えず意識していないと、必ずまがった方向に行く。その関係を保証する機構をつくっていくことが、むずかしいけど大切です。


政治献金について
 企業献金は明らかに政治活動で民主主義の原理に違反している。なぜなら、企業献金は法人の利害という立場で判断している、と思うからです。労働組合の献金も、より根源的にいえば、やはり自由参加の組合の組織で決定されていくべきものであると思いますが、その点については……。


企業献金は受けない
江田
 新聞にどのような報道がされたか知りませんが、原則として企業の献金は受けません。

片岡 週刊誌でイーデス・ハンソンさんとの対談のなかで、十万か二十万ぐらいならと発言されていますが。

江田 実際に、私の知らない弁護士さんから、支持するということで二十万円送ってきたことがあったわけです。だからというわけではありませんが、“焚くほどに風が持てくる落葉かな”というところで、あくまでもボランタリーの落葉を集めてやっていきます。

 わかりました。個人であれば上限はあまり気にする必要がないと思います。

IV 都市政策へのアプローチ

片岡 第二点の都市政策について問題にしていきたいと思います。

 いままでの社会党で取り組めなかった問題、広くいえば都市政策、具体的にいえば公害・有害食品・住宅・生活環境の問題、もう一つ制度でいえば地方分権化の問題にどう取り組んでいくか。印象だけでいわせていただければ、気魄がやや感じられない。具体的なお考えを聞かせて下さい。


現場からの政策形成を
岩根
 いまいわれた通り、社会主義政党といわれた部分にも、保守の側にも都市政策というものがほとんどないに等しいと思います。だから、いま市民社会のなかで活動している者にとって大事なのは、市民レベルでどういう政策立案のグループ化が可能なのかという点です。

 でも、私たちの政策にいま何があるのかといわれると、理念と政策の提起しかない。個々の政策については、社会市民連合には何もない。むしろ、はずしてあると考えていただいて結構です。これからどういうふうに市民の意見を汲み上げていく組織をつくるかにかかっていると思います。

 ただ、具体的に着手すべき問題はいくつもある。東京都の住宅問題、中央に集中する職場と交通体系。エネルギー問題などもそうですが、この辺は混乱が生じても止めようという点をまず出してみて、それがどうぶつかり合うか、試行錯誤しながら政策形成をすべきだと思います。


地方分権と情報公開
江田
 いま提起された都市問題についていえば、新しい文明、新しい人間社会の生活様式はどうあるべきかということからはじめなければならない。

 その中で必要なのは、地方分権をキチンとする。地方分権は、同時に官僚や企業が持っている情報をどのように崩壊さすかが問題になる。そうした地方分権のもとで、討論をまきおこして一つのコンセンサスを生み出していく役割が、社会市民連合であると思います。いまは、細かいことは決まっていませんが、広い参加のなかでコンセンサスを生む努力を続けていく以外ないですね。


都市型政党としての社会市民連合
篠原
 いままで都市政策は非常に軽視されてきた結果、新自由クラブという都市の保守党が出てきて、都市の革新政党として社会市民連合が出てきたといえる。聞きたいのは、ほんのデッサンでも都市政策があるのか、またエネルギーの問題については……。

エネルギー成長率ゼロをめざして
江田
 都市政策については、項目は立てています。今煮つめているところで、連休明けには数本、個々の項目を発表する予定です。

 原子力問題については、原子力の持つ危険性の面と経済的に引き合わなくなりつつある面から、クリーンエネルギーの開発に重点を置かなくてはならない。

 それにしても、大きなエネルギーの開発には限界があるので、八十年代の中頃にはエネルギーの成長率ゼロという想定で、産業政策その他の政策を立てていかねばと思っています。

V ディスカッション

片岡 一、二点目で時間がきてしまいました。あとは時間があったら議論させていただくとして、会場の方々、ご質問をどうぞ。


公共企業体のストライキについて
質問
 これは、参加民主主義をめざす市民の会と社会市民連合に答えていただきたいのですが、労働者と生活者の利益が対立する場合、例えば公共企業体のストライキのような場合、どうするかということ。しかも公共企業体労働組合にはスト権は認められてない。新しい日本の会でも公共企業体のストライキ権を認めようということがありましたが、労働組合が政府と直接に交渉するようなイギリス型になるのがいいのかどうかについてもお聞きします。

田中 基本的にストライキそのものを否定しているところに問題があるという考え方です。国鉄の例をとっても、国鉄当局の側には営業責任がなく、労働組合の側もストライキ権がない。両者が無責任にならざるをえない構造になっているのが問題です。

 個人的見解ですが、田中さんの意見とほぼ同じです。国鉄の場合、経営者側も当事者能力をもつべきだし、労働者の側にも権利を守るスト権を認めていいと思います。

江田 例えば西ドイツの場合には、共同決定法によって企業の意志決定に働く者が参加できている、というのがイギリスとの違いですね。私たちはもっと効率的な労働組合運動をつくっていかなければならないと思います。国鉄の例も、当事者能力のない経営者が形だけで交渉の場に出てくる仕組みを変えなくては、問題は片づかないですね。

岩根 ちょっと誤解があると思うので付け加えますが、世界でストライキの数が最も多い国はアメリカとカナダとオーストラリアで、イギリスの数は低いです。ですから、イギリス経済の崩壊がそこに原因しているとはいえないんじゃないか。


大衆運動の矛盾と市民運動の政治的責任
質問
 利益の追求組織である市民運動と労働組合のぶつかりあいをどう調整されるのか。社会主義をどのように認識されているのか伺いたい。

 市民政治勢力を積み上げていくと同時に、社会市民連合などと公開の場で討論して協力できるものは協力するという形をとっていきたい。

江田 最初から結論を出すのではなく、合意するまでのプロセスを大切にして、より高いものにコンセンサスを進めていきたい。


社会主義の心情的把握は無意味
 次に、社会主義についてどう考えるかですが、私は社会主義という言葉の内容には余りこだわりを持ちません。江田さんが社会主義を捨てる気はないといわれたことに、賛成も反対もないが、心情の部分としての社会主義と内容部分とを、ある程度分けて考えられたほうがいいのではないか。江田さんの世代とわれわれの世代とでは、社会主義という言葉の感覚が違うのかもしれませんが。

江田 確かに戦前から社会主義と取り組んで苦しい中をやってきた私の年代には、心情的部分は相当ある。しかし、私が社会主義といっているのは、風化した一つの固定像を抱いての話じゃなく、現実の矛盾を一つ一つ叩き直す終着駅のない運動が社会主義運動だ、という考え方です。

青木 江田さんと菅さんの中間の世代である私は、二十世紀後半のテーマは社会主義か資本主義ではなくて、企業価値か生活価値かにしぼられてきていると思います。


半数以上は市民から
質問
 参院選の立候補者選びについて。何人立候補するのか。どんな人か。

岩根 いま正式には一人です。

江田 市民の方には半数は出ていただきたいと思ってますが、組織としては暫定的です。社会市民連合の正式な準備委員というのも、まだ決めていないのですから。


生活点の闘いの必要性
質問
 主婦です。いまは生産点の闘いで経済問題の保障要求だけでは、労働者の権利が守れないのではないか。国政に対して地方分権の問題をどのように考えているか伺いたい。

江田 地方分権については、賛成というより、そこに重点をおいている。私たちの組織もそうしたい。税金も、地方が使って残りを中央へまわすというふうにしていきたい。


社会市民連合を支える理念と市民
質問
 市民というのをどのようにとらえているのか、もう一つはっきりしない。各地域のグループの独自性や独立性がいわれているが、幅広い範囲での強い連帯感がないとやっていけないと思う。最後に従来の社会党のように色あせないためにはどうしたらいいか、策を練っていただきたい。


ワイワイ、ガヤガヤが大きな力に
江田
 のびのびした自由な社会主義、私個人でいえば構造改革論以外に、人間の顔をした社会主義をめざしたい。小型社会党になってはいけない。市民のワイワイ、ガヤガヤの自由なエネルギーに依拠しなければならないと思ってます。また、将来、連合のときに何がものをいうかといえば、政策だと思う。だから、常にわれわれは政策を提起していきたい。


政党間共闘と連合
 いま、市民は市民型の政党なり市民的勢力を作りだす責任があるんじゃないか。市民というのは、職業によって拘束されない発想を持ちうる主体だろうと思います。

 ですから、同じ連合でも、社会市民連合の連合と政界における既成政党の連合とは違うと思います。ところが最近の報道によれば、何か連合のための主体を作るんだと。これでは順序が逆のような気がするんですが。

江田 私はあなたがおっしゃることと同じことをいっている。いまの政治状況の中で、無党派層が増えているということは、既成政党が落第点をもらった結果なんです。私は、民社党の西村さんが「社公民」と最初にいわれた時から、既成政党の算術的合計だけではだめだといった。私は一度も「連合のための社会市民連合」とはいってないのだが、江田三郎は社公民だ、江公民だと書かれてしまう。あなたがいわれるとおりです。


市民イデオロギーと組織は両立するか
質問
 市民のイデオロギーと非常に閉鎖的な団体である組織がはたして両立するかどうか疑問なのですが……。

質問 革新か保守かという一つの判断が、安保条約是か否かというところにあったと思うのですが、社会市民連合の基本となる座標軸はどこにおくのか、明確にされたい。

構造改革論はどこへいったか
質問
 江田さんがやってこられた構造改革論についてお聞きしたい。

組織について
江田
 組織については民主集中制ではなく、下から閉鎖的にならないように出発していきたい。また、将来の運動の座標軸については、青木さんのいわれる企業価値から生活価値へ、というように絶えず重要な課題に大胆に取り組んでいきたい。構造改革論については、非常に適応性の広い考え方だと思うので、そのときの具体的状況に応じて実現方向で進めていきたい。


市民派の座横軸
 都市政策とか住宅政策に取り組める政治勢力をつくっていきたい。反体制か体制とかいう議論の形にもっていきたくない。社会党も自民党もダメといっているだけでなく、市民がつくっていく時期が来ていると思う。

第二のイベント
篠原
 私は今、戦後の変動と同じくらいに変動している時だと思う。私が連合というのをいい出したのは一昨年頃だが、予想したより流れは三倍くらい早い。それで、うっかりしていると自分の考え方がどこに位置しているのかわからなくなる。政治知識を持っている人は、ますますそうだと思うんです。

 江田さんは、最初は新しい日本を考える会の中から政治勢力をつくるということであったと思う。ところが組織をつくってみると、前に社会党にいたような古い人が集まって来て、中心になって夢をもう一度と。いい意味でのエネルギーはあるが、江田さんが当初意図したポジションからずれたと思う。中央委員会の半分を市民にする、というような組織のポジションにもう一回移動する必要があるのですが、運動というのは弾みがつくと台風のように広がって論理を越えてしまう。口でいくらいっても、その市民が置き忘れられるというところがある。

 そういう意味でこの公開討論会は、社会市民連合にとって非常に大きなイベントであったと思う。少なくともそう理解していただかないと、流れに取り残されて、また既成の古い政党になってしまう。

 片一方の市民の会の方は、今までは世論党だった。しかし菅さんは選挙に出た。やっぱりポジションが移ったんだと理解しました。これからは自分の維持していく政治の動きの中で、どういうポジションを占めているかを予知しないと、あらゆる運動が失敗し、見通しがつかなくなると思う。

スターリン体制をはばむもの
 いま市民が必要になっているのは、政治の世界で玄人と素人の差が広がりすぎたからだと思います。もっと原理的にいうと、例えば私が学者であると同時に地域市民であるように、市民として人格がオーバーラップしている。端的にいうと、そういう形の市民社会ができなければ社会主義社会は絶対ありえない。スターリン体制は、こういう市民社会がなかったからできた。

 次に政策の問題については、地方分権の問題が出ましたが、今は転換期なのですから、賛成・反対といっているだけでなく、例えば地方財政法や地方自治法など、大切な政策を持ってもらいたい。政権をとったら、ハイと出せるように・あるいはとらなくとも突きつけられるように、政策を「案」として用意しておかなければだめだ。そうしないと改革もできないということを、市民の会の方もお考えいただきたい。


政策にビジョンを
青木
 テーマがいろいろ出ましたが、三つ選ぶと、一つめは労働組合との関係。日本の労働組合は利益集団、機能集団が必ず運命共同体になっていて、参加者の全生活を束縛してしまう。それを打破し、参加者個人のもつ自由をどう取り戻すかに市民運動の原点があるんだということですね。だから労働組合が、その原点を承認し応援してくれるなら、提携したいと思う。

 第二に、都市政策等についていえば、基本的なビジョンが出ずに個別政策の羅列では、パワーは出て来ない。住宅政策についても、二・二法則というのがありますね。年収の二倍で家が建つ、月収の二割で家賃が払えるという状態にするための具体策を出すのが、政策の課題だと思う。

 討論会の感想としては、社会市民連合は市民というものをどうとらえ、どのようにアプローチするかという本質論が出なかった。庶民が肌でわかる言葉で語られなかったところを、今後練っていただきたい。

 最後に、一カ月後の江田さんの選挙ですが、何を具体的に国民に訴えるのか、訴えるものが開かれたエネルギーだけでいいのかということです。

片岡 少し予定の時間を超えてしまいましたが、どうも長い間ありがとうございました。

(1977年4月24日 於・保谷市立東伏見小学校)


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