1993 シリウス 2

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政治改革と政界再編    菅 直人


1.政党は公共財

 今進んでいる政治改革議論において、個人の政治家よりも「政党」の役割を重視する方向が打ち出されている。

 それでは「政党」というのはいったい何なのか、どうあるべきなのか。

 今でも政治、特に国政を考えるとき、自民党や社会党という存在を抜きにしては語れない。また、一般の国民が国政に関与しようとするとき、集会、デモ、投稿といった方法を除けば、選挙を通して政党を選ぶ以外には道は見あたらない。

 つまり、「政党」は本来は政治信条を共通にする「党員」の集団として考えられてきたが、今日の議会制民主主義社会では「政党」は国民が国政へ参加するための重要な社会的システムであり、裁判制度などと同様、社会の「公共財」と位置づけるべきと考える。

2.機能不全の社会党

勝てない挑戦者

 政党の中で自民党は、国民の国政への参加システムとして、産業界や農業団体に偏ったきらいはあるが、相当の機能を果たし、それによって長期政権を維持してきた。もっとも他方で、自民党はそのスタートの時から巨額の金を浪費する金権システムであり、今回の金丸巨額不正蓄財・脱税事件に対する国民の強い批判により機能不全に陥っている。

 これに対して社会党はどうであろうか。社会党は本来は勤労者、市民に重心をおいた国民政党であるはずだが、実際に、そうした広範な人々の国政への参加システムとして機能してきたといえるであろうか。

 たしかに八九年の消費税・リクルート選挙のように、国民は自民党政権の政策に「ノー」という意思表示をするときに野党第一党社会党を支持した。つまり、社会党は国民の自民党への批判を表明するための機能は果たしてきた。

 しかし、広範な勤労国民が求めている要求を政策化し、政権をとって実現するという、積極的な国民の国政参加のシステムとしてはまったく機能してこなかった。ボクシングでいえば、絶対に勝てない挑戦者が挑戦権だけ握りつづけているようなもので、チャンピオンの座、つまり自民党の政権の座は、社会党が挑戦者である限り安泰なのである。こうした永久挑戦者の社会党の存在が、日本の議会制民主主義全体を機能不全に陥らせていることに多くの国民が気がつき、自民党に劣らない不信の眼を社会党に向けているのである。

脱皮を阻む構造的原因

 なぜ社会党が政権をねらえるような政党に脱皮できないのか。その原因として基本政策の転換の遅れを指摘する声が強い。

 しかし、私は基本政策の転換ができないのは「結果」であり、社会党が政権政党に脱皮できない原因は、その「構造」にあると考える。つまり多数の支持有権者よりも、少数の党員活動家の意見が優先される「前衛党」的党組織と、野党第一党への安住に最適な中選挙区制度にその構造的原因がある。

 つまり「新宣言」など、社会党の基本方針は大会で決定されるが、大会を構成する代議員の大半は、十数万人の党員の中から選ばれ、その多くは熱心な活動家で、社会党を「抵抗の党」と考えている人が多い。そのために、社会党候補に投票した800万人から2000万人の「政権を担当できる党」になってほしいという平均的な意見は、党の方針に十分反映されて こなかった。

 この点、自民党では選挙で選ばれた議員中心の党組織になっており、議員を通じて支持する有権者の意見が反映される仕組みになっている。

 もう一つの構造的原因は、野党第一党に安住する上で最も有利な中選挙区制である。

 つまり、政権与党の自民党には、常に少なくとも20〜30%の批判はある。この自民党への批判票を一番受け止めやすいのが野党第一党という「位置」である。そこで社会党は20%前後の支持を得るためには、自前の政策を提示して批判を受けるより、自民党の政策を個々に厳しく批判しているほうが有利となる。

 そして中選挙区制では20%前後の支持があれば各選挙区で一名の当選はほぽ確実で、衆議院は130選挙区あるから社会党は130人前後の議席は容易に確保でき、過半数にはほど遠いが、野党第一党の座はいつも安泰なのである。

3.シリウスと政界再編のシナリオ

中選挙区制の廃止

 政権交代を実現するには、このような社会党の万年野党体質を変える必要がある。そのため、九三年宣言で基本政策を変えるなど、党内論争により社会党の自己変革を実現したいとする考えがシリウス内を含め社会党改革派議員の多くの考えである。

 私はそうした努力は多とする。しかし、九三年宣言はこれまで何度となく繰り返された玉虫的決着で、結局、社会党の抵抗党的体質は変わらないと思う。つまり、国会議員のグループが大胆な自己変革を望んでも、代議員の多くは先に述べた抵抗派党員活動家であるため大会で阻止されるからである。そこで、社会党の構造を変えるには中選挙区制を廃止し、定数の過半数を超える候補者を出さざるを得なくする制度に変えることが、残された唯一の道と考えられる。

 すでに、社会党を抵抗党の形のまま残したいと考える人たちは「中選挙区制」維持の画策をはじめている。

 つまり、国民が望んでいるのは「政治と金」の問題の解決で、選挙制度の改革ではないという論理だ。しかし、もうこの論理だけで国民を納得させることはできない。社会党の万年野党第一党を固定化し、また世襲議員ばかりの自民党という政治の硬直化を打破するため、今こそ中選挙区制度を廃止することが必須の改革の道である。

選挙制度のゆくえ・連携の可能性

 今の国会には、自民党からは単純小選挙区制が提案され、社・公両党からは共同で小選挙区比例代表併用制が提案されている。いずれも中選挙区を廃止するという点では共通している。しかし、両案の考え方にはそうとう差があり、特に自民案の単純小選挙区制では今のような野党の分立状態で選挙をやれば自民党が圧倒的に有利で、野党は社会党が全議席の一割程度で公明党以下はほぽ全滅という結果となることが確実である。これを野党に同意しろというのは無理である。

 これに対して「併用制」は自民党にとって過半数はむずかしくとも、比較多数が維持でき、民間臨調の提案する“連用制”では各党とも現状程度の議席獲得が可能とされ、併用制か連用制で与野党合意が実現する可能性は十分にある。

 もし、こうした合意ができず、結果的に「中選挙区制」が維持されることになれば、政治改革のサボタージュに対し、自民党からは羽田グループをはじめ、多数の脱党者が出ることはほぽ確実である。また同時に、社会党においても中選挙区制維持の「守旧派」と廃止のシリウスを含む「改革派」との間で亀裂が広がり、分裂の可能性も十分に出てくる。

 そして次の総選挙は、「旧自民党」と「旧社会党」と「新党グループ」の三グループの間で争われることになると考える。この新党グループがどういう構成になるかは極めて流動的であるが、脱党した羽田グループが公明党と連携し、さらに日本新党とも何らかの連携に進む可能性が高い。また、シリウス自体がどう行動するのかが問われることになる。

 こうした構造の選挙になれば、改革のサボタージュに怒る国民は自民党、社会党といった既域政党から離れ、「新党グループ」に大きな支持が集まるものと思われる。

解党的改革

 それては今国会で社公案、臨調案などを軸に与野党合意が成立し、選挙制度を含む政治改革が断行された時はどうなるか。この時にも羽田グループが自民党を離脱するかどうかは不明である。しかし、社公案の併用制にしろ臨調案の連用制にしろ、新制度では小選挙区が200〜300あるのでここから野党の再編がはじまると思う。つまり、野党第一党の社会党といえども200〜300の小選挙区全部に単独で候補者を立てることはそうとう困難であり、他のグループとの連携を考えることとなる。

 しかし、社会党が他のグループとの連携を考えるなら、(1)党名の変更、(2)基本政策の変更、(3)有権者の声を反映する党構造への改革、といった解党的改革が必要となる。

 こうした大胆な脱皮を実現しなければ、社会党は選挙で惨敗する可能性が大きい。

シリウス

 こうした政界再編の動きにシリウスはどう対応するのか。私は従来「保守政党」対「社民政党」といったイギリスやドイツ型の二大 政党構造をめざしてきた。しかし日本の社会党は、ヨーロッパ型の社会民主主義への転換があまりにも遅れ、冷戦構造が崩壊した今日「社民結集」はすでに目標とするに値しなくなっていると考える。

 そこで今日では、私はアメリカなどを参考にした保守政党対リベラル政党といった二大政党構造が望ましいと考えるに至った。

 シリウスは、万年野党に安住せず政権交代可能な政界再編を推し進めるため、再編の渦中に身を投じる覚悟が必要である。

 また、シリウスは自ら議会制民主主義の新しい政党のモデルとなる「組織運動論」を構築する必要がある。前衛政党的な組織でなく、国民の政治参加システムとしての政党組織はどうあるべきか。議員と有権者と政党の関係はどうあるべきか。

 政党は公認を決定するが、議員は有権者によって選ばれる。そこで議員集団は国民に対して責任を持ち、政策を提示し実現のため行動する。このため、与党はキャビネットを、野党はシャドーキャビネットを組織する。そして各政党は、国民に開かれた形で公認候補を決定するシステムが必要である。特に今回の政治改革では、小選挙区制でも比例制でも政党の公認が決定的意味を持ち、しかも政党への公的助成が含まれており、一層の透明性や公正さが求められる。シリウスは、そうした新しい市民型・政策型政党のモデルとなるような形態を模索し、実践しなくてはならない。

ラストチャンス

 私は政治改革の社公案の共同提案に社民連を代表して加わり、連日政治改革特別委員会での質疑に参加している。

 今国会で選挙制度を含む政治改革が実現するかどうかは、戦後の政権交代のない「半分の民主主義」を「全部の民主主義」に変えるラストチャンスであり、これを逃せば政党政治全体が不信任されることになりかねない。

 党利党略を離れた政治改革の推進のため全力をつくしたいと考えている。


菅 直人(かん・なおと)
衆議院議員、東京7区、社民連、政審会長。1946年、山口県に生まれる。東京工業大学卒。弁理士。さまざまな市民運動をへて、77年、社会市民連合結成に参加。78年、田英夫氏らと社会民主連合を結成、副代表となる。80年、衆参ダブル選挙で、ニューファミリーの旗手として劇的な当選を飾った。売上税、土地問題、政治改革、高齢化、国際化、情報化社会問題など活動分野は広い。著書に「国会論争『土地政策』」がある。(厚生、土地持)


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