民主党 参議院議員 江田五月著 国会議員わかる政治への提言 ホーム目次
第1章 国会議員の実像

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政治家の所得の不思議

 毎年五月に公表される長者番付を見れば、国会議員の所得にもピンからキリまであることがわかる。

 政治家の個人所得とは、歳費プラス国会以外からの収入なのだから、実業家であったり、不動産を手放したりして、国会以外で所得を得れば当然、番付の順位は上がる。

 一方、歳費と期末手当以外に一銭の収入もないと申告する人が昭和五十六年度発表に八十二人いた。この方々は一年間、講演料も原稿料も受け取らなかったのだろうかと、国民は眉に唾をつけたくなる。

 「歳費以下」と申告する不思議な人もいて、「出席日数が不足だったのでしょうか……」と国民をまどわす。昭和五十六年発表分にもこのような議員が四人もいた。

 資料が古くて恐縮だが、これは長者番付の公示基準が五十九年より「所得1,000万円以上」から「納税額1,000万円以上」に「改悪」されたため、実態が闇の中に消えてしまったからだ。

 ところで現在では、政治資金と、個人の納税額と、選挙時における選挙資金のみ公開すればよいことになっている。しかし、その中間に、どこに位置するかわからない膨大な不透明部分がある。

 私の場合でも、四十三歳の一人の弁護士とすれば考えられないほどの大金とかかわっている。個人的な気持でいえば、自分の目の前を大金が通りすぎただけ。札束を手にすることさえなく、実感はゼロ。所得申告のうえでは、政治資金収入はそのまま所得になるのではなく、収入から政治活動のための支出を差し引いた残りがあれば、これを所得として申告するという扱いになっており、この方が実感には合致するのだが、問題は、その政治資金収支がまさに限りなく不透明になっているところにある。いかに右から左に通りすぎていった金であったとしても、家の前を現金輪送車が走りぬけていったのとはわけが違う。それによって有形無形の恩恵を受けているのであり、しかもその金は国民の税金であったり政治献金であったりする。通過しただけの金だから国民に知らせる義務はないという言い分は通用しない。

 アメリカでは、ウォーターゲート事件の後に政府倫理法が制定された。大統領夫人へのインタビューをあっせんしたお礼に、上坂冬子さんから現金1,000ドルを受け取ったホワイトハウスのアレン補佐官は、その申告をしなかったというだけで辞任に追い込まれたのだ。

 一方わが国では、五億円の授受が法廷で裁かれ、実刑の一審判決がでたにもかかわらず、国会では田中元首相の政治責任を追及することもできない。あれだけ長期間にわたって国会の議論になりながら、いまだに「政治倫理法」の一つもできていない。自浄作用を忘れた国会の現状に歯ぎしりしつつも、自分も含めた野党の力不足を国民に詫びたい気持でいる。


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